目次
中心体(ちゅうしんたい、centrosome)は、動物細胞の核のそばにある小さな細胞小器官で、微小管という細い管をつくり出す起点として働きます。細胞分裂のときには細胞の両極に分かれて紡錘体の極となり、染色体を2つの娘細胞へ正しく分ける土台になります。一方で、中心体は教科書の中だけの存在ではありません。中心体をつくるタンパク質の遺伝子が変化すると、小頭症や原発性小人症、繊毛病などの遺伝性疾患が起こることがあり、受精や卵子の染色体分配とも深く関わっています。この記事では、中心体と中心小体の構造の違い、働き、植物細胞にない理由、星状体との違いから、遺伝医学とのつながりまでを、臨床遺伝専門医が解説します。
Q. 中心体とは何ですか?まず結論だけ知りたいです
A. 中心体とは、動物細胞で微小管を形成する主要な拠点(微小管形成中心、MTOC)となる、膜をもたない細胞小器官です。中心にある2個の中心小体(中心子・中心粒)と、それを取り囲む中心小体周辺物質(PCM)からできています。ふだんは細胞骨格の微小管を組織し、細胞分裂のときには紡錘体の極となって染色体の分配を支え、分裂を終えた細胞では繊毛の根元(基底小体)にもなります。多くの植物細胞(被子植物など)は中心体をもちません。
- ➤正体 → 中心小体2個+中心小体周辺物質(PCM)からなる、膜のない細胞小器官
- ➤働き → 微小管の起点。分裂期には紡錘体の極、休止期には繊毛の基底小体
- ➤中心小体との違い → 中心小体は中心体の「部品」。中心体=中心小体+周辺物質
- ➤植物との違い → 陸上植物の体細胞は中心体をもたず、別のしくみで紡錘体をつくる
- ➤医学との接点 → 小頭症・原発性小人症・繊毛病の原因遺伝子、受精卵の中心体の由来、卵子の染色体分配

🧬 中心体の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 読み方・英語 | ちゅうしんたい/centrosome(セントロソーム) |
| 分類 | 膜をもたない細胞小器官。動物細胞の主要な微小管形成中心(MTOC) |
| 構成 | 互いに直交する2個の中心小体(centriole)+中心小体周辺物質(pericentriolar material:PCM) |
| 中心小体の大きさ | 脊椎動物で直径約250nm・長さ約500nm。長さは細胞の種類により150〜500nmの幅がある[1] |
| 数 | 分裂していない細胞では1個(中心小体2個)。分裂前に複製され、分裂期には2個(中心小体は計4個) |
| もたない生物・細胞 | 陸上植物の体細胞、菌類(別の構造を使う)、原核生物。ヒトの卵子も中心小体をもたない |
| 関わる病気 | 原発性小頭症(MCPH)、小頭性骨異形成性原発性小人症II型(MOPD II)、繊毛病、がんの中心体数の異常 |
※本記事は細胞生物学の用語解説です。特定の検査を勧めるものではありません。
1. 中心体とは?
中心体とは、動物細胞の中で微小管を組み立てる「司令塔」にあたる細胞小器官です。微小管は、細胞の形を保つ骨組み(細胞骨格)や、物を運ぶレール、細胞分裂で染色体を引っぱる紡錘糸の材料になる管状の構造です。中心体はこの微小管が伸び始める起点として働くため、微小管形成中心(microtubule organizing center:MTOC)と呼ばれます。詳しい微小管のしくみは微小管の解説をご覧ください。
読み方・英語・名前の由来
中心体は「ちゅうしんたい」と読み、英語ではcentrosome(セントロソーム)です。この名前は、ドイツの生物学者テオドール・ボヴェリ(Theodor Boveri)が、ウニや回虫の受精卵の分裂を顕微鏡で観察する中で導入しました。導入年は1887年とする資料と1888年とする資料があります。ボヴェリは鉄ヘマトキシリン染色で染めた標本を使い、細胞分裂の中心にある小さな点状の構造として中心体を記録しました[2]。「分裂の中心にある小体」という観察が、そのまま名前になっています。
どこに、いくつあるのか・大きさは
中心体は、分裂していない細胞(間期の細胞)では核のすぐそばに1個あります。光学顕微鏡では小さな点にしか見えませんが、電子顕微鏡で見ると、2本の円筒(中心小体)が直角に組み合わさった構造であることがわかります。中心小体1本の大きさは、脊椎動物で直径約250nm(0.25μm)、長さ約500nm(0.5μm)ほどで、タンパク質でできた構造としては細胞内で最大級です[1]。細胞分裂の前には複製されて2個になり、分裂のときに1個ずつ娘細胞へ受け渡されます。
膜をもたない細胞小器官
核やミトコンドリア、ゴルジ体などの細胞小器官は膜で包まれていますが、中心体は膜をもたず、タンパク質の集合体だけでできています。また、ミトコンドリアのように独自のDNAをもつこともありません。高校生物のテストで「中心体は何重膜か」と問われた場合は、「膜をもたない」が正解です。
2. 中心小体(中心子・中心粒)とは?構造・働きと中心体との違い
中心小体は中心体の中核となる円筒状の部品で、中心体は「中心小体2個+周囲の中心小体周辺物質」をまとめて呼ぶ名前です。つまり両者は同じものではなく、中心小体は中心体の構成要素です。ここでは中心小体そのものの構造と働きを整理します。

中心体は、互いにほぼ直交して配置される母中心小体と娘中心小体、およびその周囲の中心小体周辺物質(PCM)から構成されます。PCMに存在するγチューブリン環状複合体(γ-TuRC)は微小管形成の核として働き、そこから微小管が細胞質へ伸長します。中心小体の壁は9組の三連微小管を基本構造とし、成熟した母中心小体には遠位付属構造が形成されます。
中心小体とは:読み方・英語・別名
中心小体は「ちゅうしんしょうたい」と読み、英語ではcentriole(セントリオール)です。同じものが中心子(ちゅうしんし)、中心粒(ちゅうしんりゅう)とも呼ばれ、教科書や辞書によって呼び方が異なりますが、指している構造は同じです。
中心小体の構造:9組の三連微小管と母・娘中心小体
中心小体の壁は、3本の微小管が連なった「三連微小管」が9組、円周上に並んだ構造でできています(9回対称、合計27本の微小管)。内側の根元には車輪のような「カートホイール」構造があり、9回対称の配置を決める土台になっています[1]。中心体の中の2本の中心小体は、根元同士がリンカータンパク質でつながり、互いに直角(L字形)に配置されています。
2本の中心小体は同じではありません。完全に成熟しているのは1本だけで、この古い方を母中心小体(mother centriole)、新しい方を娘中心小体(daughter centriole)と呼びます。母中心小体だけが、先端側に遠位付属構造・亜遠位付属構造という突起をもち、これが微小管の係留や、後で述べる繊毛の形成に使われます[3]。
中心小体と微小管の関係
中心小体と微小管の関係は、「材料」と「起点」の2つの面から理解すると整理できます。第一に、中心小体そのものが微小管でできている(材料としての関係)。第二に、中心小体は周囲に中心小体周辺物質を集める足場となり、そこから細胞質へ向けて新しい微小管が伸びる起点になります(機能としての関係)。
厳密にいうと、微小管の重合を開始させる「核」の役割を担うのは、中心小体の周囲にあるγ-チューブリン環状複合体(γ-TuRC)です。中心小体は、この複合体を含む周辺物質を集めて中心体を組み立てる土台として働きます。微小管の材料であるチューブリンについてはチューブリンで詳しく解説しています。
中心小体の働き:何を形成するのか
中心小体が形成・構成する主なものは次の3つです。
① 中心体:周辺物質を集めて中心体をつくり、細胞の微小管ネットワークの中心になります。
② 紡錘体の極:分裂期には、複製された2つの中心体が両極に分かれ、紡錘体の極(紡錘体極)になります。
③ 繊毛・鞭毛の基底小体:分裂を休んでいる細胞では、母中心小体が細胞膜の近くへ移動して基底小体(basal body)となり、繊毛や鞭毛の軸を伸ばします。多くの細胞種で、中心体の中心小体は基底小体へと転換できます[1]。
中心小体を包む中心小体周辺物質(PCM)
中心小体の周囲を取り巻く、不定形で密度の高いタンパク質の層を中心小体周辺物質(pericentriolar material:PCM)といいます。PCMには、微小管の重合核となるγ-チューブリン環状複合体や、それを係留するペリセントリン(pericentrin)、CDK5RAP2などのタンパク質が含まれます。中心体が微小管形成中心として働く実体は、このPCMにあります。分裂期が近づくとPCMが大きく増え、中心体から伸びる微小管の数が一気に増加します(中心体の成熟)[3]。後で述べるように、ペリセントリンやCDK5RAP2の遺伝子の変化は、ヒトの疾患の原因にもなります。
中心体と中心小体の違い(比較表)
| 比較項目 | 中心体(centrosome) | 中心小体(centriole) |
|---|---|---|
| 関係 | 中心小体2個+PCMをまとめた全体 | 中心体の中核となる部品 |
| 形 | 不定形のタンパク質の塊(光学顕微鏡では点状) | 直径約250nmの円筒(9組の三連微小管) |
| 数(間期の細胞) | 1個 | 2個(母と娘) |
| 主な役割 | 微小管形成中心として微小管を伸ばす | PCMを集める足場、複製の鋳型、基底小体への転換 |
| 別名 | セントロソーム | 中心子、中心粒、セントリオール |
「中心体と中心小体は同じですか?」という疑問には、同じではなく、全体と部品の関係と答えるのが正確です。
3. 中心体の働き・役割
中心体の働きは、「微小管の起点」として細胞内の微小管の配置を決めることです。その働き方は、細胞の状態によって大きく3つに分けられます。
微小管の起点:細胞骨格と細胞内輸送を組織する
分裂していない細胞では、中心体から放射状に微小管が伸び、細胞骨格の一部として細胞の形を支えます。微小管は、モータータンパク質が物質や細胞小器官を運ぶレールにもなるため、中心体は細胞内の「交通網のハブ」ともいえます。中心体の位置は細胞の向き(極性)や細胞の移動の方向にも関わります。
細胞分裂:紡錘糸の起点となり染色体を分ける
細胞分裂が始まると、複製された2つの中心体が細胞の両極へ移動し、それぞれから微小管が伸びて紡錘体(紡錘糸の集まり)ができます。紡錘糸の一部は染色体の動原体に結合し、複製された染色体(姉妹染色分体)を両極へ引き分けます。高校生物で「中心体は紡錘糸の起点」と習うのは、この働きのことです。
ただし、「中心体がなければ細胞は分裂できない」わけではありません。染色体の周囲から微小管が集まる経路など、中心体に頼らずに紡錘体をつくるしくみも存在します。植物細胞やヒトの卵子は、実際に中心体なしで紡錘体をつくっています(4章・7章)。中心体は、動物の体細胞で紡錘体を効率よく正確につくるための装置と理解するのが正確です。
繊毛・鞭毛の根元(精子のしっぽ)をつくる
分裂をやめた細胞では、母中心小体が細胞膜の直下へ移動して基底小体となり、そこから一次繊毛が伸びます。一次繊毛は、細胞の外の信号を受け取るアンテナのような働きをしています。気管の上皮にある運動性の繊毛や、精子のしっぽ(鞭毛)も、中心小体に由来する基底小体から伸びています。細胞が再び分裂を始めるときには、繊毛は分解され、基底小体は中心体に戻ります。
4. 動物細胞と植物細胞の違い:中心体をもつ生物・もたない生物
中心体は動物細胞にはあり、陸上植物の体細胞にはありません。ただし「植物にはまったくない」わけではなく、運動する精子をつくる一部の植物では、精子ができる過程に限って中心小体が現れます。
中心体をもつ生物・もたない生物
高校生物で「イチョウやソテツは中心体をもつ」と習うのは、これらの植物が例外的に鞭毛で泳ぐ精子をつくるためです。陸上植物の栄養細胞には中心小体がなく、運動性の精子をもつ植物では、精子をつくる最後の段階の分裂の前後に、中心小体が新たにつくられることが知られています[4]。つまり、植物にとって中心小体は「鞭毛をつくるための道具」であり、鞭毛で泳ぐ精子を必要としなくなった種子植物では、その道具ごと失われたと考えられています。
植物は中心体なしでどうやって分裂するのか
中心体をもたない高等植物の細胞でも、微小管の重合核となるγ-チューブリンは細胞内に豊富に存在し、決まった一点ではなく、分散した多くの場所から微小管がつくられます[5]。細胞分裂では、まず前期に核膜の表面から微小管が形成され、それが両極方向へまとまって前期紡錘体となり、核膜が消えた後に動原体に結合した微小管の束が集まって、極をもつ紡錘体ができあがります[6]。核の両極側に微小管が集まる部分は極帽(polar cap)と呼ばれ、多くの細胞で紡錘体の極の目印になります。
動物細胞と植物細胞の分裂の違いは中心体の有無だけではなく、細胞質分裂の方法(動物はくびれ、植物は細胞板)にもあります。「なぜ植物は中心体を失ったのか」については、陸上化と精子の運び方の変化が関係すると考えられていますが、完全には解明されていません。
5. 星状体とは?中心体・紡錘体(紡錘糸)との違い
星状体(せいじょうたい、aster)とは、細胞分裂や受精のときに、中心体を中心として放射状に伸びる微小管の集まりのことです。顕微鏡で見ると、中心体を核として星の光のように微小管が広がって見えることから、この名前がつきました。
星状体の定義と役割
星状体は、中心体(起点)とそこから伸びる放射状の微小管をまとめて呼ぶ言葉で、とくに紡錘体の外側(細胞の表面側)に向かって伸びる微小管を星状体微小管(astral microtubule)といいます。星状体微小管は細胞の表層と相互作用し、紡錘体を細胞のどの位置・どの向きに置くかを決める役割を担います。つまり星状体は「分裂面をどこにするか」の決定に関わります。紡錘体の構造と力学の詳細は紡錘体(有糸分裂紡錘体)で解説しています。
なお、医学では同じ「星状体」という言葉が、病理学の星状小体(asteroid body:サルコイドーシスの巨細胞内にみられる星形の封入体など)や、眼科の星状硝子体症を指す場合もあります。これらは細胞分裂の星状体とはまったく別のものです。
中心体・星状体・紡錘体(紡錘糸)の違い
| 用語 | 正体 | 役割 |
|---|---|---|
| 中心体 | 中心小体2個+PCMからなる細胞小器官 | 微小管が伸びる起点 |
| 星状体 | 中心体から放射状に伸びる微小管の集まり | 紡錘体の位置と向きを決める |
| 紡錘体 | 両極の間に張られた微小管の束(紡錘糸)の全体 | 染色体を両極へ引き分ける |
| 紡錘糸 | 紡錘体を構成する個々の微小管の束(高校生物の用語) | 動原体に結合して染色体を引く |
まとめると、中心体は「起点」、星状体は「起点から放射状に広がる微小管」、紡錘体は「両極の間に張られた微小管の装置」です。3つは同時に存在し、分裂期の細胞では「中心体を囲む星状体が両極にあり、その間を紡錘体がつなぐ」という配置になります。植物細胞は中心体をもたないため、星状体も見られません。
6. 細胞周期の中での中心体の複製と分裂期の動き
中心体は、染色体と同じように1回の細胞周期で1回だけ複製され、分裂のときに2つの娘細胞へ1個ずつ分配されます。既存の中心小体1本につき、新しい中心小体は1本だけつくられます。この「1回だけ・1本だけ」という厳密な数の制御が、正しい2極の紡錘体をつくる前提になっています[7]。細胞周期全体の流れは細胞周期で解説しています。
1細胞周期に1回だけ複製される
複製はG1期からS期にかけて始まり、既存の中心小体(母)の側面から、直角の向きに新しい中心小体(娘)ができます。新しい中心小体はG2期にかけて伸び、M期に入ると、それまで2つの中心小体組をつないでいたリンカーが外れて、2つの中心体が分離します。この複製の開始を中心的に制御しているのが、PLK4(Polo-like kinase 4)というリン酸化酵素です[7][8]。
「S期頃に複製されて計4つになる」と説明されることがありますが、4つになるのは中心小体であり、中心体としては2個です。この区別は、中心体と中心小体を混同しないために重要です。複製の回数が狂って中心体が3個以上になると、多極紡錘体ができて染色体の分配が乱れる原因になります(8章)[7]。
顕微鏡で見る分裂期の中心体

上の図は、イモリ(newt)の肺の細胞の有糸分裂(M期)を、免疫蛍光法で染め分けて観察したものです。青が染色体、淡い緑が微小管と中心体を示します。各時期の中心体と染色体の動きは次のとおりです。
前期:間期には顕微鏡で見えなかった染色体が凝縮し始めて見えるようになり、複製された2つの中心体が細胞の両側へ離れていきます。それぞれの中心体からは微小管が放射状に伸び、星状体が発達します。
前中期:核膜が崩壊し、中心体から伸びた紡錘糸が染色体の動原体を捕らえ始めます。
中期:染色体が細胞を二分する平面(赤道面)に整列します。両極の中心体を頂点とする紡錘体が完成しています。
後期:姉妹染色分体が分離(segregate)し、紡錘糸に引かれて細胞の反対側の極へ移動します。
終期:分かれた染色分体が両極に集まり、その周囲に新しい核膜が形成されます。その後の細胞質分裂で、各娘細胞は中心体を1個ずつ受け継ぎます。
7. 中心体と受精・卵子:遺伝医学との接点
ヒトの受精卵では、精子から持ち込まれた中心小体をもとに中心体が形成されます。ヒトの卵子は中心小体をもたないためです。そして卵子自身は、中心体なしで減数分裂の紡錘体をつくっています。この2つの事実は、受精や卵子の染色体分配を理解するうえで重要です。受精全体の流れは配偶子形成と受精をご覧ください。
受精卵の中心体は精子に由来する(精子星状体)
ヒトの卵子は中心小体をもたず、受精卵では父親由来の前核(精子の核)のまわりに微小管の星状体がみられることから、ヒトの胚の中心小体は父親から受け継がれると考えられています。この、精子の中心小体から伸びる星状体を精子星状体(sperm aster)と呼びます[9]。
精子の中心小体は、頭部と鞭毛のつなぎ目(頸部)にあります。従来、精子が受精卵に持ち込む中心小体は典型的な円筒形の近位中心小体1本だけと考えられてきました。しかし2018年の研究で、鞭毛の根元にある遠位中心小体が、形を大きく変えた「非典型的な中心小体」として残っており、受精卵の2本目の中心小体として機能することが示されました[9]。なお、マウスなど一部の哺乳類では受精卵の中心体の成り立ちがヒトと異なるため、この知見は「ヒトでは」と限定して理解する必要があります。
卵子は中心体なしで減数分裂する(ヒト卵子で染色体分配エラーが多い一因)
100個を超える生きたヒト卵子の減数分裂を観察した研究では、ヒトの卵子は中心体や他の微小管形成中心に頼らず、染色体とRanという低分子量GTPアーゼの働きによって、約16時間かけて紡錘体を組み立てることが示されました。この長い組み立て期間には紡錘体が不安定になりやすく、動原体と微小管の異常な結合が生じやすいため、染色体の分配エラーが起こりやすいと報告されています[10]。これは、ヒト卵子で異数性(染色体数の異常)が多い理由の一つとして説明されています。減数分裂の基本もあわせてご覧ください。
⚠️ 注意:「中心体がないこと」と「母体年齢による増加」は別の話
中心体に頼らない紡錘体形成は、年齢に関係なくヒト卵子に共通する性質です。そのため、「年齢とともに卵子の中心体が失われるから染色体異常が増える」という理解は誤りです。母体年齢とともに異数性が増える現象(母体年齢効果)については、姉妹動原体が早く離れてしまう変化や、相同染色体の対(二価染色体)が早期にほどけてしまう変化など、別のしくみが提唱されています[11]。加齢との関係は卵子で染色体異常が起こる仕組みで詳しく解説しています。
🩺 院長コラム【父から受け継ぐのはDNAだけではない】
遺伝の話をするとき、私たちは父親と母親からそれぞれ半分ずつ受け継ぐ「DNA(染色体)」に注目しがちです。けれども受精という出来事を細胞のレベルで見ると、父親の精子は、遺伝情報だけでなく、受精卵が最初の分裂を行うための装置である中心小体も持ち込んでいます。一方、ミトコンドリアDNAは母親から受け継がれます。受精卵は、父と母がそれぞれ異なる部品を持ち寄って完成する細胞だといえます。
遺伝医学では、「何が、どちらの親から、どのように受け継がれるのか」を一つずつ区別して考えることが、検査結果や遺伝形式を正しく解釈する土台になります。中心体の由来は、その考え方を細胞の構造から教えてくれる例です。
8. 中心体の異常と病気
中心体をつくるタンパク質の遺伝子に変化があると、脳の発達や体の成長、繊毛の働きに異常が生じることがあります。また、がん細胞では中心体の数の異常がしばしばみられます。ここでは代表的な4つを取り上げます。
小頭症(常染色体潜性原発性小頭症:MCPH)
常染色体潜性原発性小頭症(autosomal recessive primary microcephaly:MCPH)は、生まれつき頭囲と脳が小さい一方で、脳の層構造は比較的保たれる疾患です。原因遺伝子の多くが、中心体に局在するタンパク質をコードしています。2005年には、中心体タンパク質をコードするCDK5RAP2とCENPJの変異が小頭症を起こすことが報告され、中心体を介したしくみが脳の大きさを決めることが示されました[12]。2018年の総説ではMCPHの遺伝子座は18(MCPH1〜18)とされていましたが[13]、その後も新たな原因遺伝子の報告が続いています[14]。
代表的な原因遺伝子の一つがASPM遺伝子で、その変異による疾患は常染色体劣性原発性小頭症5と呼ばれます。脳の神経前駆細胞は、分裂を繰り返して神経細胞の数を増やしますが、中心体の働きが損なわれると、この分裂の進み方や細胞の運命決定が乱れ、神経細胞の数が減ると考えられています。原因遺伝子は多数あるため、遺伝学的検査では小頭症NGS遺伝子パネル検査のように複数の遺伝子をまとめて調べる方法がとられます。
原発性小人症(PCNT遺伝子とMOPD II)
中心小体周辺物質の主要タンパク質であるペリセントリンをコードするPCNT遺伝子(ペリセントリン)が両方のアレルで機能を失うと、小頭性骨異形成性原発性小人症II型(microcephalic osteodysplastic primordial dwarfism type II:MOPD II)が起こります。PCNT遺伝子は21番染色体の21q22.3に位置し、常染色体潜性の形式で遺伝します。報告では、成人の平均身長は約100cm、脳の大きさは生後3か月の乳児程度でありながら、知能はほぼ正常に近いとされています。PCNTが欠けると紡錘体が乱れ、染色体の分配を誤ることが示されています[15]。
なお、PCNT変異は当初セッケル症候群の原因としても報告されましたが[16]、その後の検討で、PCNT変異をもつ例はMOPD IIの範囲に含まれると整理されています。「PCNT=セッケル症候群の原因遺伝子」と単純に理解しないことが大切です。原発性小人症の全体像は原発性小人症で解説しています。
繊毛病(シリオパチー)
繊毛は中心小体に由来する基底小体から伸びるため、中心小体や繊毛の形成・輸送に関わる遺伝子の異常は、繊毛の機能不全による疾患群を起こします。これをシリオパチー(繊毛病)と呼びます。2017年の総説では、報告された繊毛病は35疾患、確立した関連遺伝子は187、候補遺伝子は241とされ、いずれも増え続けていると述べられています[17]。繊毛はほぼ全身の細胞にあるため、腎臓・網膜・脳・骨格など多くの臓器に症状が及びうるのが特徴です。
がんと中心体の数の異常
中心体の数が過剰になる状態(中心体増幅)は、ヒトの腫瘍でよくみられる特徴です。ただし、それががんの原因なのか結果なのかは長く不明でした。2017年のマウスの研究では、他の遺伝子異常を加えずに中心体の数だけを慢性的に増やすと、それだけで異数性と複数の臓器での自然発生腫瘍が生じることが示されました[18]。中心体が過剰な細胞は分裂のたびに染色体の分配を誤りやすく、染色体不安定性(CIN)につながります。なお、これはマウスで因果関係が示された知見であり、ヒトのがんでは主に関連(相関)として観察されている段階です。
9. 混同しやすい用語:中心体と似た名前・似た構造
中心体は、名前が似た用語や、構造が似た細胞小器官と混同されやすい用語です。とくに試験では、似た名前の構造の働きを入れ替えた選択肢がよく出題されます。
| 用語 | 中心体との関係・違い |
|---|---|
| 中心小体(中心子・中心粒) | 中心体の部品。中心体=中心小体2個+PCM |
| 基底小体 | 繊毛・鞭毛の根元。中心小体と同じ構造で、細胞内で互いに転換できる |
| セントロメア | 染色体のくびれた部分(DNAの領域)。名前が似ているが中心体とは別物。紡錘糸はセントロメア上の動原体に結合する |
| 動原体(キネトコア) | セントロメア上にできるタンパク質の構造。中心体から伸びた紡錘糸が結合する相手 |
| 核小体 | 核の中にあり、リボソームRNAをつくる場所。細胞質にある中心体とは場所も働きも異なる |
| 細胞骨格 | 微小管・アクチン線維・中間径フィラメントの総称。中心体は、このうち微小管の起点となる |
| 繊毛の「9+2構造」 | 運動性の繊毛の軸(軸糸)は、周辺の9組の二連微小管+中央の2本。中心小体の「9組の三連微小管(9×3)」とは異なる |
⚠️ 試験で出やすい誤りの選択肢
「中心小体はリソソームを形成する」→誤り。リソソームはゴルジ体から形成されます。
「中心小体は転写を開始する」→誤り。転写は核の中でRNAポリメラーゼが行います。
「中心小体はATPを合成する」→誤り。ATPを合成するのはミトコンドリアです。
中心小体(中心体)の正しい働きは、微小管形成の起点となり、細胞分裂で紡錘体の形成に関わること、および繊毛・鞭毛の基底小体になることです。
まとめ
中心体は、中心小体2個と中心小体周辺物質からなる、膜をもたない細胞小器官です。動物細胞で微小管の起点として働き、分裂期には紡錘体の極、分裂を休む細胞では繊毛の基底小体になります。中心小体は中心体の部品であり、星状体は中心体から放射状に伸びる微小管の集まりです。陸上植物の体細胞は中心体をもたず、分散した場所から微小管をつくって分裂します。
遺伝医学の視点では、中心体は「細胞の部品」にとどまりません。ヒトの受精卵の中心小体は精子に由来し、ヒトの卵子は中心体なしで減数分裂を行います。そして中心体をつくるタンパク質の遺伝子の変化は、原発性小頭症やMOPD II、繊毛病といった遺伝性疾患の原因になります。構造と働きを正しく理解しておくことは、こうした疾患や染色体の分配の仕組みを理解する土台になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 中心体に膜はありますか?
ありません。中心体は膜をもたない細胞小器官で、中心小体2個と、それを取り囲むタンパク質の層(中心小体周辺物質)だけでできています。核やミトコンドリア、ゴルジ体のように膜で包まれた細胞小器官とは異なります。
Q2. 中心体にDNAはありますか?
ありません。中心体は独自のDNAをもたず、タンパク質でできた構造です。独自のDNAをもつ細胞小器官としてはミトコンドリアがあり、中心体とは異なります。中心体をつくるタンパク質の設計図は、核の中の遺伝子にあります。
Q3. 中心体はいつ複製されますか?
中心体の複製(中心小体の複製)は、G1期からS期にかけて始まり、G2期にかけて新しい中心小体が伸びます。1回の細胞周期で1回だけ、既存の中心小体1本につき1本だけつくられるように厳密に制御されています。M期には2つの中心体が細胞の両極へ分かれ、分裂後に1個ずつ娘細胞へ受け渡されます。
Q4. 中心体をもつ植物はありますか?
陸上植物の体細胞には中心体がありません。ただし、コケ植物、シダ植物、イチョウ、ソテツのように鞭毛で泳ぐ精子をつくる植物では、精子ができる過程に限って中心小体が新たにつくられます。被子植物や多くの裸子植物では、中心小体も鞭毛も失われています。
Q5. 看護師国家試験などで問われる中心小体の正しい働きは何ですか?
中心小体(中心体)の正しい働きは、微小管形成の起点となって細胞分裂のときに紡錘体の形成に関わること、そして繊毛や鞭毛の基底小体になることです。「リソソームを形成する」(正しくはゴルジ体)、「転写を開始する」(正しくは核内のRNAポリメラーゼ)、「ATPを合成する」(正しくはミトコンドリア)は、いずれも誤りです。
Q6. 中心体の異常は検査でわかりますか?
中心体そのものの形や数を調べる検査は、一般的な診療では行われません。ただし、中心体をつくるタンパク質の遺伝子の変化が原因となる疾患(原発性小頭症やMOPD IIなど)が疑われる場合には、原因遺伝子を調べる遺伝学的検査が行われることがあります。検査の必要性や結果の解釈は、臨床遺伝の専門家に相談してください。
🏥 ご相談について
中心体は細胞の基本的な構造であり、中心体そのものを調べる検査は当院では行っていません。中心体に関わる遺伝子が原因となる小頭症などの遺伝性疾患について、遺伝の観点から相談を希望される場合は、遺伝カウンセリングとはをご覧ください。
参考文献
- [1] Centriole structure. Phil Trans R Soc B. 2014. [DOI 10.1098/rstb.2013.0457]
- [2] Historical roots of centrosome research: discovery of Boveri’s microscope slides in Würzburg. Phil Trans R Soc B. 2014. [PubMed 25047623]
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