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私たちの体をつくる約2万個の遺伝子は、細胞ごとに「いつ・どれを・どれだけ読み取るか」がきちんと調節されています。その読み取りのオン・オフを、DNAそのものの文字を書き換えずに調整するしくみがエピジェネティクスです。BRD4(ビーアールディーフォー)は、そのエピジェネティクスの世界でアセチル化されたクロマチンを読み取り、転写を調節する中心的なタンパク質です。BRD4遺伝子はこのタンパク質をコードしており、正常な発生や遺伝子発現の維持に重要である一方、がん・細胞老化・遺伝性疾患・創薬標的という複数の領域に関わります。
この記事では、BRD4の基本的な働き、転写・スーパーエンハンサー・相分離との関係、がんや細胞老化、BRD4関連遺伝性疾患、そしてBET阻害薬を含む創薬研究までを整理します。
- ➤ BRD4がどんな遺伝子で、転写制御の中心因子としてどう働くのか
- ➤ 長い型BRD4-Lと2つの短い型BRD4-S(a)・BRD4-S(b)という3アイソフォームと、その違い
- ➤ スーパーエンハンサーと「液滴(相分離)」という新しい考え方
- ➤ NUTカルチノーマ・白血病・細胞老化など、BRD4が関わる病気
- ➤ BET阻害薬ペラブレシブと、骨髄線維症での第3相試験の成果
🧬Q. BRD4とはどんな遺伝子ですか?
DNAに巻きついたヒストンという「糸巻き」につけられたアセチル化という目印を読み取り、その場所の遺伝子を強く働かせるエピジェネティクスの「読み手」です。細胞の個性を保ち、増殖に必要な遺伝子のスイッチを入れる中心的な役割をもっています。
🩺Q. なぜ病気と関係するのですか?
BRD4がMYCなどの強力ながん遺伝子を過剰に働かせ続けると、がんの増殖を後押しします。また細胞の老化やウイルス感染にも関わります。BRD4は後天的ながんの制御因子として重要なだけでなく、生殖細胞系列の病的バリアントは常染色体顕性のBRD4関連発達障害(Cornelia de Lange症候群6を含む)の原因にもなります。
🌸Q. 治療に使えるのですか?
BRD4の働きをブロックするBET阻害薬の開発が進んでいます。なかでもペラブレシブは、骨髄線維症という血液の病気を対象とした第3相試験で、脾臓の縮小に有意な上乗せ効果を示しました。研究段階のものも多く、適応は慎重に見きわめられています。
BRD4とは——アセチル化を読み取る「エピジェネティクスの司令塔」
ヒストンの「目印」を読む読み手(リーダー)
BRD4は正式には「ブロモドメイン含有タンパク質4(Bromodomain-containing protein 4)」といい、19番染色体の短い腕(19p13.12)に位置する遺伝子です。私たちのDNAは、ヒストンという糸巻きのようなタンパク質に巻きついて収納されています。このヒストンには、細胞の状況に応じてさまざまな化学的な「目印(修飾)」がつけられます。なかでもアセチル化という目印は、「この場所の遺伝子を活発に読み取ってよい」という合図として働きます。
BRD4は、このアセチル化された目印を認識する代表的なクロマチンリーダーです。分子の先端にある「ブロモドメイン」という2つのポケットが、アセチル化したヒストンにぴたりとはまり込むことで、BRD4はその遺伝子の近くに集まります。そして、後ほどくわしくお話しするように、遺伝子の読み取り(転写)を強力に後押しします。アセチル化クロマチンの認識と転写制御を結びつけることから、BRD4は単なる「読み手」にとどまらない転写制御因子として位置づけられています[1]。
エピジェネティクスの世界では、ヒストンの目印をつける酵素を「書き手(ライター)」、外す酵素を「消し手(イレイサー)」、目印を認識して働く因子を「読み手(リーダー)」と呼びます。BRD4は代表的な読み手(リーダー)です。BRD4はBRD2・BRD3・BRDTと同じ「BETファミリー」に属し、これらは共通して2つのブロモドメインをもっています。
細胞分裂のあいだも染色体に「しおり」を挟む
BRD4は、細胞分裂の最中(分裂期)にも一部の染色体領域に残ることが知られています。この性質から、BRD4が分裂後の遺伝子再活性化を助ける「ミトティック・ブックマーク(しおり)」として働くというモデルが提唱されてきました。しかし2019年のゲノムワイド解析では、分裂期にBRD4を染色体から一時的に外しても分裂後の転写再活性化が大きく損なわれず、BRD4そのものより分裂期にも保持されるヒストンアセチル化が主要な「しおり」である可能性が示されました[17]。したがって、BRD4の分裂期染色体結合は確立した現象ですが、その機能的なブックマーク作用は細胞種や遺伝子座によって異なる可能性があります。
BRD4はほぼすべての細胞で働いている、いわば「なくてはならない」タンパク質です。核の中でDNAとともに存在し、遺伝子の読み取りを正しく進めるための土台を提供しています。これほど基本的で重要な役割を担っているからこそ、BRD4のはたらきが乱れたり過剰になったりすると、細胞の増殖の制御が崩れ、さまざまな病気につながっていきます。つまりBRD4は「本来は善玉だが、状況によって暴走しうる」タイプの遺伝子であり、この記事の後半で見ていくがんや老化との関わりも、この基本的な役割の延長線上にあります[1]。
BRD4の構造——1つの「長い型」と2つの「短い型」
BRD4は、一つの遺伝子から少しずつ違う形のタンパク質を作り分けています。これを選択的スプライシングといい、3種類のアイソフォームが知られています。ひとつは長い型「BRD4-L(約200 kDa)」、短い型は「BRD4-S(a)(一般にBRD4-Sと略記)」と「BRD4-S(b)」の2種類です[1][3]。BRD4-S(b)は多くの細胞で発現量が低く、研究の多くは主要なBRD4-LとBRD4-S(a)を比較しています[18]。3型はいずれもN末端側に共通して2つのブロモドメイン(BD1・BD2)と、ET(エクストラターミナル)ドメインをもっています。
3つのアイソフォームの大きな違いは、うしろ側(C末端)の構造です。長い型BRD4-Lだけが、長大なC末端領域(CTD)をもっています。この領域こそが、次章で説明する「転写のアクセルを踏む」ための重要な部品です。一方、短い型BRD4-S(a)とBRD4-S(b)はこの長いC末端領域を欠き、それぞれ異なるC末端配列をもつため、結合相手や働き方も異なります[1]。
図1:主要なBRD4-L(長い型)とBRD4-S(a)(短い型)の違い
🟦 BRD4-L(長い型・約200 kDa)
- 長いC末端(CTD)をもつ
- C末端領域を介して転写伸長因子と相互作用する
- 乳がんでは転移を抑える働きの報告も
🟪 BRD4-S(a)(主要な短い型・約120 kDa)
- BRD4-Lに特有の長いC末端領域を欠く
- 長いC末端領域を欠き、結合相手や機能が異なる
- 一部のがんで転移や治療抵抗性を後押し
※3アイソフォームのうち、主に研究されているBRD4-LとBRD4-S(a)が、がんの中で逆の役割を果たすことがあります。
興味深いことに、主要な2つの型であるBRD4-LとBRD4-S(a)は、がんの中で正反対の役割を果たすことがあります。たとえばトリプルネガティブ乳がんのモデルでは、長い型BRD4-Lが腫瘍の増殖や転移をむしろ抑える方向に働く一方、短い型BRD4-S(a)は転移する力を高める方向に働くと報告されています[18]。同じ遺伝子でも「どの型が優勢か」によって細胞の運命が変わりうる——ここにBRD4の複雑さと、創薬上のむずかしさがあります。
転写のしくみ——止まった読み取りを「発進」させる
信号待ちしているRNAポリメラーゼII
遺伝子をRNAに写し取る(転写する)のは、RNAポリメラーゼIIという酵素です。この酵素は、遺伝子の入り口で写し始めたあと、すぐ少し先で一時停止することが知られています。これを「プロモーター近位ポーズ(信号待ち)」と呼びます。ここで一度止まることで、細胞は「本当に今この遺伝子を全部読み取るか」を素早く判断できる、待機の状態をつくっているのです。
この信号待ちを解除して発進させる鍵が、P-TEFbという転写伸長因子複合体です。P-TEFbはCDK9というサイクリン依存性キナーゼを含む複合体で、止まっているRNAポリメラーゼIIにリン酸をつけて、本格的な読み取り(生産的伸長)へと切り替えます。BRD4はP-TEFbと機能的に協調し、プロモーター近傍で停止したRNAポリメラーゼIIを生産的伸長へ移行させる過程に関与します。古典的には、BRD4のC末端領域がP-TEFbを結合・動員するモデルが広く提唱されてきました。一方、近年の急速分解実験などからは、BRD4が遺伝子座へのP-TEFb動員そのものに必須ではなく、P-TEFbとは別の経路も含めて転写伸長を制御する可能性が示されています[4]。
図2:BRD4が転写を「発進」させる流れ
アクセルのP-TEFbは、ふだんは金庫に眠っている
じつは細胞内のP-TEFbの多くは、いつでも使える状態ではありません。大部分は7SK snRNPと呼ばれる大きな複合体の中に閉じ込められ、いわば「金庫の中で眠っている」状態にあります。細胞刺激に応じて7SK snRNPから活性型P-TEFbが放出され、SECなどの転写伸長因子と協調して利用されます。BRD4もP-TEFbと相互作用しますが、その役割は単純な「運搬役」だけでは説明できず、BRD4独自の転写伸長制御も存在すると考えられています[4]。
BRD4は「読む」だけでなく「書く」こともできる
長らくBRD4は目印を読むだけの「読み手」と考えられてきました。ところが2016年の研究では、BRD4自身にヒストンアセチル基転移酵素(HAT)活性があることが報告されました[5]。しかもBRD4は、ヒストンH3のDNAとの接触面に位置する「H3K122」をアセチル化することが示されています。この場所に目印がつくと、糸巻き(ヌクレオソーム)がゆるんでヒストンが外れ、DNAがほどけて、大きな転写装置が入り込みやすくなります[5]。BRD4は他人任せにせず、自分でクロマチンをほどいて転写を進められる——まさに司令塔らしい多才さです。
スーパーエンハンサーと「液滴」——遺伝子を強く働かせる新発想
細胞の個性を決めるマスター遺伝子や、MYCのような強力な発がん遺伝子は、ふつうより広く活発な特別な調節領域スーパーエンハンサーによってコントロールされています。これは、通常のエンハンサーが密集して連なったような領域で、マスター転写因子・メディエーター複合体、そしてBRD4がぎっしり集まり、強力な転写を引き起こします[6]。
水と油のように分かれてできる「転写の液滴」
近年、BRD4がスーパーエンハンサーでどう働くかを説明する画期的な考え方として「液–液相分離(LLPS)」が注目されています。BRD4やメディエーターのMED1には、決まった形をもたない柔らかい部分(天然変性領域、IDR)が豊富にあります。核の中でこれらが弱く多点で引き合うことで、まるでスープに浮かぶ油滴のように、周囲から仕切られた小さな液の粒(転写凝縮体)ができます[6]。
この液滴の中には、RNAポリメラーゼIIなどの転写の道具が高密度に集められます。道具を一か所に濃縮することで、スーパーエンハンサーは通常をはるかに超える転写のパワーを発揮できます。BRD4は、この液滴づくりの中心メンバーの一人です。
さらに興味深いことに、スーパーエンハンサーのDNAはグアニン四重鎖(G4)という特殊な立体構造をとりやすいことが知られています。in vitroの研究では、このG4構造がBRD4のブロモドメインに弱く直接結合し、BRD4の相分離を促進することが報告されています[7]。加えて、BRD4がつくる液滴は、内部に取り込んだDNAを活性酸素の攻撃から物理的に守り、DNAの切れやすさを抑えるという報告もあります[8]。液滴は、転写の道具を集めるだけでなく、遺伝情報そのものを守るシェルターの役割も担っている可能性があるのです。
BRD4が止まると、DNAの「衝突事故」が起きる
BRD4がRNAポリメラーゼIIをスムーズに進ませていることは、細胞がDNAを複製するS期にとって重要な意味をもちます。BRD4の働きが失われると、ポリメラーゼが途中で止まってしまい、写し取ったばかりのRNAが鋳型DNAと再びくっついてRループという異常な構造をつくります[9]。ここに後ろからDNA複製のフォークが進んでくると、転写と複製の「正面衝突」(転写・複製コンフリクト)が起き、DNAが二本鎖で切れる重い損傷につながります。これは、次章で述べるBET阻害薬ががん細胞を追い詰める一つの経路でもあります[9]。
がん・老化との関わり——アクセルが暴走するとき
NUTカルチノーマ——染色体の「つなぎ間違い」が原因
BRD4異常が発がんドライバーとして直接関与する代表例の一つが、NUTカルチノーマ(NUT正中線癌)です。NUTカルチノーマは、NUTM1遺伝子の再構成を特徴とする、進行の速いまれながんです。代表的な融合相手が19番染色体のBRD4で、BRD4-NUTM1融合が多くを占めますが、BRD3、NSD3など別の融合相手も知られています[10]。
この融合でできる「BRD4-NUT」というタンパク質は、BRD4の先端部分とNUTの配列を併せもち、ヒストンに目印をつける酵素p300を強力に呼び込みます。その結果、アセチル化が異常に広がった巨大な領域(メガドメイン)ができ、細胞が成熟(分化)するのを妨げながら、ひたすら増殖を続けてしまいます[10]。染色体の異常が発がんに直結することを示す、教科書的にも重要ながんです。
本来は別々の場所にある2つの遺伝子が、染色体の切断とつなぎ直し(転座)によって1本につながり、新しい性質をもつタンパク質を作ってしまうものを融合遺伝子といいます。BRD4-NUTはその代表例で、こうした融合はしばしばがんの強力な原因(ドライバー)になります。NUTカルチノーマの診断では、NUTタンパク質を調べる免疫染色や遺伝子検査が手がかりになります。
白血病や固形がんで「がんのエンジン」を回し続ける
融合という特殊な形をとらなくても、BRD4は多くのがんで悪玉として働きます。急性骨髄性白血病(AML)や多発性骨髄腫、悪性リンパ腫では、BRD4がスーパーエンハンサーに集まり、MYCをはじめとするがん遺伝子(オンコジーン)の発現を維持し続けます[1]。BRD4はいわば「がんのエンジンを回し続けるアクセル」であり、これを止めるとエンジンが失速する——この発想が、BRD4を薬の標的として有望にしています。卵巣がんや頭頸部のがんなど固形がんでも、BRD4の増幅や過剰な働きが治療への抵抗性と関連することが報告されており、幅広いがん種で研究が進められています[1][2]。
ウイルスもBRD4を利用する
BRD4は、ウイルスの感染とも深く関わります。子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)は、細胞が分裂するときにBRD4を「足場」として利用し、自分のDNAを宿主の染色体につなぎとめます。これにより、ウイルスの遺伝情報が分裂後の細胞へ確実に受け継がれ、持続感染が成立すると考えられています[1]。BRD4がもつ「分裂をまたいで染色体に残る」性質が、ここでは逆にウイルスに利用されてしまうわけです。こうした知見は、BRD4がいかに細胞の中枢を握っているかを、別の角度から示しています。
前立腺がんとSPOP変異——薬が効きにくくなるしくみ
BRD4の量は、不要になれば分解されるしくみで厳しく管理されています。その分解の目印をつけるのが、SPOPというユビキチン化のアダプターです。ところが前立腺がんの一部ではSPOPに変異が生じ、BRD4を分解できなくなります。その結果、細胞内にBRD4がたまり、BET阻害薬が効きにくくなる(薬剤抵抗性)ことが報告されています[11]。同じBRD4を標的にする薬でも、腫瘍側の遺伝子状態によって感受性が変わりうることを示す研究例です。ただし、SPOP変異を用いてBET阻害薬を選択することが一般診療で確立しているわけではありません。
細胞老化とSASP——炎症のスイッチとしてのBRD4
近年、BRD4はがんだけでなく細胞老化の司令塔でもあることがわかってきました。細胞が強いストレスを受けて老化すると、まわりに炎症性の物質を大量に放出するようになります。これをSASP(細胞老化関連分泌表現型)と呼びます。研究によれば、老化の過程でBRD4はSASP遺伝子の近くに新しくできるスーパーエンハンサーに集められ、SASPの発現に必要不可欠であることが示されています[12]。
SASPには二つの顔があります。初期には、放出された物質が免疫細胞を呼び寄せ、がんになりかけた老化細胞を排除する「見張り役(免疫監視)」として働きます。しかし加齢とともに老化細胞がたまると、慢性的な炎症が動脈硬化・心不全・肺の線維化などさまざまな加齢関連の不調の土台になると考えられています[12]。このためBRD4阻害は、老化細胞の有害な分泌だけを抑える「セノモルフィック」という新しいアンチエイジング研究の対象としても期待されています。ただしこれらの多くは基礎・研究段階の知見です。
BET阻害薬——BRD4を標的にした治療の最前線
BRD4のブロモドメインをふさいで働きを止める薬が「BET阻害薬(BETi)」です。初期の化合物JQ1やI-BETは研究で強い抗腫瘍効果を示しましたが、BETファミリー全体を止めてしまうため副作用などの課題があり、そのまま臨床に使うにはハードルがありました[1]。現在は、薬としての性質を最適化した次世代のBET阻害薬が臨床試験へと進んでいます。
ペラブレシブと骨髄線維症の第3相試験
なかでも注目されているのが、経口のBET阻害薬ペラブレシブ(pelabresib/開発コードCPI-0610)です。対象となる骨髄線維症は、脾臓の腫れ、つらい全身症状、貧血、骨髄の線維化を特徴とする血液の病気です。JAK阻害薬ルキソリチニブは代表的な標準治療の一つですが、病気の根本進行を抑える力は限られ、時間とともに効果が弱まりやすいという課題がありました。
JAK阻害薬の治療を受けたことがない患者さんを対象にした第3相試験「MANIFEST-2」では、「ペラブレシブ+ルキソリチニブ」と「プラセボ+ルキソリチニブ」が比較されました[13]。24週の時点で、脾臓の体積が35%以上縮小した患者さんの割合(SVR35)は、ペラブレシブ併用群で65.9%、プラセボ群で35.2%と、統計的に意味のある大きな差がつきました[14]。
図3:MANIFEST-2試験(24週)の主な結果
脾臓の縮小(SVR35)
ペラブレシブ併用:65.9%
プラセボ:35.2%
統計的に有意(p<0.001)
症状の改善(TSS50)
ペラブレシブ併用:52.3%
プラセボ:46.3%
有意差には達せず(p=0.216)
骨髄の線維化
併用群で1段階以上の改善がみられた患者が多く、貧血の指標にも改善の傾向
病態修飾の可能性を示唆
※主要評価項目である脾臓縮小は有意差を達成。症状スコアは改善傾向にとどまりました。
一方で、症状スコアの改善(TSS50)は52.3%対46.3%で、統計的に有意な差には達しませんでした[14]。それでも、脾臓の縮小に加え、骨髄の線維化や貧血の指標にも改善の傾向がみられ、JAK阻害薬単独では届きにくかった「病態そのものを改善する(病態修飾)」可能性が示唆されています[15]。BRD4のエピジェネティック制御を標的にすることが、難治性の血液疾患で新しい選択肢になりうることを示す、重要な成果です。
壊してしまう薬「PROTAC」という新しい発想
BRD4を狙う薬づくりは、「働きをふさぐ」阻害薬から、次の段階へと進みつつあります。その一つがPROTAC(タンパク質分解誘導薬)です。これはBRD4に結合し、細胞の分解システムへ強制的に送り込んでBRD4そのものを壊してしまうという発想の薬です。ほかにも、特定の型(発がんを後押しするBRD4-S(a))だけを狙う薬や、液滴の性質そのものに干渉する化合物など、多彩なアプローチが研究されています。こうしたエピジェネティクス治療は、病気の根本に迫る次世代医療として発展が期待されています。
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よくある質問(FAQ)
Q. BRD4は「遺伝する病気」の原因になりますか?
はい。BRD4の生殖細胞系列の病的バリアントは、常染色体顕性のBRD4関連発達障害の原因として確立しており、Cornelia de Lange症候群6(OMIM 620568)として整理される症例もあります。発達遅滞・知的障害、成長障害、特徴的顔貌、四肢や眼などの異常を伴うことがあります。一方、NUTカルチノーマなどでみられるBRD4-NUTM1融合は通常は腫瘍細胞に後天的に生じる体細胞変化であり、遺伝性疾患とは区別して考えます[16]。
Q. なぜBRD4は「エピジェネティクスの司令塔」と呼ばれるのですか?
アセチル化という目印を読み取るだけでなく、転写のアクセルであるP-TEFbと機能的に協調し、自身も目印をつける酵素として働き、さらにスーパーエンハンサーで転写の道具を集める液滴づくりの中心にもなります。読む・書く・集める、という多くの役割を一手に担うため、司令塔と表現されます。
Q. BRD4-NUTカルチノーマとはどんながんですか?
NUTM1遺伝子の再構成を特徴とする、進行の速いまれながんです。代表的にはBRD4-NUTM1融合がみられますが、融合相手はBRD4だけではありません。頭頸部や胸のあたりの正中に近い場所に生じやすいとされます。融合タンパク質が細胞の成熟を止めて増殖を後押しするのが特徴で、診断にはNUTタンパク質の免疫染色や遺伝子検査が用いられます。
Q. BET阻害薬はもう治療で使えるのですか?
多くのBET阻害薬は臨床開発段階です。ペラブレシブはMANIFEST-2第3相試験で脾臓縮小という主要評価項目を達成しましたが、2026年9月時点でも開発中で、日本でも承認薬ではありません。国・地域ごとの開発状況や適応は更新されるため、実際の使用可否は最新の承認情報を確認する必要があります。
Q. BRD4の長い型と短い型は、なぜ逆の働きをするのですか?
BRD4には長い型BRD4-Lと、短い型BRD4-S(a)・BRD4-S(b)の3アイソフォームがあります。BRD4-Lは転写伸長因子との相互作用に重要な長いC末端領域をもち、短い2型はこれを欠いて異なるC末端配列をもつため働き方が変わります。乳がんモデルでは、主要な短い型BRD4-S(a)が腫瘍促進的、BRD4-Lが腫瘍抑制的に働くという逆方向の作用が報告されています。
関連記事
参考文献
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