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FISH法(蛍光in situハイブリダイゼーション)とは?原理・プローブの種類と染色体検査(核型検査)との違いを遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

📚 入門シリーズ

この記事は「遺伝病を理解するためのヒトゲノム入門編」の1本です。全記事の一覧と学ぶ順番はヒトゲノム入門編・索引ページからご覧いただけます。

FISH法(蛍光in situハイブリダイゼーション)は、蛍光の目印をつけた「プローブ」を目的の染色体や遺伝子の場所に結合させ、蛍光顕微鏡でその領域が「何個あるか」「どこにあるか」を1細胞ずつ見る検査です。狙った異常を数時間〜数日という速さで確認できる一方、狙っていない場所の異常は見えないという性質があります。この記事では、FISH法の原理・プローブの種類・検査の流れから、羊水検査で核型検査(染色体検査)とどちらを選ぶべきかまで、出生前診断・臨床遺伝の視点で遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 細胞遺伝学・染色体分析法
臨床遺伝専門医監修

Q. FISH法とはどんな検査ですか?まず結論だけ知りたいです

A. FISH法は、蛍光をつけた目印(プローブ)を目的の染色体・遺伝子領域に結合させ、蛍光顕微鏡で「その領域が何個あるか・どこにあるか」を1細胞単位で観察する検査です。培養せずに数時間〜数日で結果が出る「速くて狙い撃ちに強い」検査ですが、プローブが結合する場所しか見えないため、全染色体をまとめて調べることはできません。そのため羊水検査では、急ぐ事情がない限り核型検査(染色体検査)を基本とし、13・18・21トリソミーなどを急ぐ場合にFISHを補助的に併用するのが一般的です。

  • 原理 → 相補的な塩基配列どうしが結合する性質を利用し、蛍光プローブで狙った領域を「光らせて」見る
  • プローブの種類 → セントロメア・ローカス特異的・break-apart・dual-fusion など目的別に使い分ける
  • 核型検査との違い → 高リスク妊娠9033例の研究で、FISH単独では約0.3%(約300人に1人)の不均衡型異常を見逃すと報告
  • 限界 → 「探したものしか見えない」ため、発達遅滞など幅広い鑑別が必要な場面では第一選択にならない
  • 出生前の注意 → FISH単独で不可逆的な意思決定をしないことが国際的な原則

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1. FISH法(蛍光in situハイブリダイゼーション)とは

FISH法は、英語のFluorescence In Situ Hybridization(フルオレッセンス・イン・サイチュー・ハイブリダイゼーション)の頭文字をとった略称です。日本語では「蛍光in situハイブリダイゼーション法」と呼びます。ひとことで言えば、目印をつけた「プローブ」という道具を、目的の染色体や遺伝子の場所にくっつけて、蛍光顕微鏡で光として見る検査です。細胞の形をこわさずに、その細胞の「元の位置(in situ)」で、特定の塩基配列があるかどうか、あるとすれば何個あるのかを直接見ることができます[1]

💡 用語解説:in situ(イン・サイチュー)とは

「in situ」はラテン語で「その場所で/元の位置で」という意味です。試験管の中でDNAをすりつぶして調べるのではなく、細胞の形や核の中の位置関係を保ったまま観察するのがFISH法の大きな特徴です。だからこそ、どの染色体のどこに異常があるのか、その細胞が全体の何割を占めるのか(モザイクの割合)といった「空間の情報」を失わずに評価できます。

FISH法の歴史は1980年代半ばにさかのぼります。蛍光で標識した核酸プローブを使って染色体を解析する手法が確立され[2]、その後、プローブ設計の工夫・直接標識・多色化・デジタル画像化といった技術の進歩によって、研究室の技術から日常の臨床検査へと広がってきました。現在では、羊水を用いた出生前の迅速な異数性診断から、白血病などの血液腫瘍の遺伝子再構成の確認、乳がんのHER2遺伝子増幅の判定まで、幅広い場面で使われています[1]

FISH法は、臨床細胞遺伝学という分野の「染色体分析法」の一つに位置づけられます。染色体を丸ごと染めて見るG分染法や、より細かく見る高精度染色体解析が「全体を広く見る」検査だとすれば、FISH法は「あらかじめ狙いを定めた場所を、高い解像度で確認する」検査だとイメージするとわかりやすいでしょう。実務上の解像度はおおよそ100〜200キロ塩基対(kb)程度で、これは高分解能のG分染法よりも細かい一方、ゲノム全体をくまなく探すような使い方はできません[1]

2. FISH法の原理:なぜ光るのか、その仕組み

FISH法の原理は、実はとてもシンプルです。DNAは、A・T・G・Cという4種類の塩基が並んだ二本の鎖が、決まった組み合わせ(AとT、GとC)で向かい合ってはしごのようにつながっています。この「相補的な配列どうしはぴったり結合する」という性質をハイブリダイゼーション(アニーリング)と呼びます。FISH法は、この結合の力を利用しています。目的の配列と相補的になるように設計した一本鎖のDNA(=プローブ)に蛍光物質をつけておき、患者さんの細胞の中の目的配列とハイブリダイズさせると、その場所だけが蛍光顕微鏡で光って見える、という仕組みです[1]

💡 用語解説:プローブ(probe)とは

プローブとは、もともと「探るための針・探針」という意味の言葉で、FISH法では目的の遺伝子と相補的な塩基配列を持つ、目印つきの合成DNAを指します。この目印(蛍光色素)が光ることで、目的の領域が細胞の中のどこに、いくつあるかがわかります。プローブについてより詳しくはハイブリダイゼーションの解説ページもご参照ください。

プローブに蛍光をつける方法には、大きく2通りあります。プローブを作るときに蛍光色素のついたヌクレオチドを直接取り込ませる「直接標識」と、ビオチンやジゴキシゲニンといった目印(ハプテン)を組み込んでおき、あとから蛍光をつけた抗体などで検出する「間接標識」です。臨床検査では作業がシンプルで再現性の高い直接標識が一般的ですが、シグナルを増強したい条件では間接標識が有利になることもあります[1]

FISH法の3つの基本ステップ
① 変性
熱や薬品で二本鎖DNAを一本鎖にほどき、プローブが結合できる状態にする
② ハイブリダイゼーション
37℃前後で数時間〜一晩、プローブを目的配列に結合させる
③ 洗浄・検出
余分なプローブを洗い流し、DAPIで核を染めて蛍光顕微鏡で観察する

変性でほどく → プローブを結合させる → 余分を洗って光を見る、という流れがFISH法の共通の骨格です。

結合の「特異性」と「効率」のバランスをとる鍵が、ストリンジェンシー(洗浄の厳しさ)です。ハイブリダイゼーションのバッファーにはしばしばホルムアミドが加えられ、これはDNAが二本鎖にもどる温度(融解温度)を下げて、より低い温度でも狙った配列だけに正確に結合させる働きをします。さらにデキストラン硫酸は反応を促進し、競合DNAなどは非特異的な結合を抑えます。洗浄を厳しくしすぎると本来のシグナルまで消えてしまい、ゆるすぎると余計な場所まで光ってしまうため、条件はプローブごと・試料ごとに検証しておく必要があります[3]

in situハイブリダイゼーションの模式図

in situハイブリダイゼーションの模式図。プローブが目的の塩基配列と相補的に結合し、蛍光として可視化されます。

3. プローブの種類と使い分け

FISH法の成否は、「どのプローブを選ぶか」でほぼ決まると言われます。何を確認したいのかによって、使うプローブの種類が変わるからです。臨床で使われる主なプローブは、次のように整理できます[1]

プローブの種類 主な用途 強みと弱み
セントロメアプローブ 13・18・21・X・Yなどの数(異数性)の確認、モザイク率の評価 間期核でも判定しやすく迅速。構造の細かい異常には弱い。
ローカス特異的プローブ 22q11.2欠失やウィリアムズ症候群など、既知の欠失・重複の確認 狙った病変を高い特異性で確認。プローブ外の異常は見逃す。
break-apart(分離)プローブ ALK・EWSR1・MYCなど、遺伝子が「切れている」再構成の検出 相手の遺伝子が不明でも切断を捉えられる。相手までは特定しにくい。
dual-fusion(融合)プローブ BCR::ABL1、PML::RARAなど、既知の融合遺伝子の同定 典型的な融合の確認に強い。非典型・複雑例では解釈が難しい。
サブテロメアプローブ 染色体の末端で起こる目立たない再構成の可視化 末端の微細な異常に有用。ゲノム全体の探索には不向き。
染色体ペイント(全長) 派生染色体・複雑な再構成の由来の同定、M-FISH/SKY 染色体の由来を色分けできる。欠失・重複の細かい境界は詰めにくい。

💡 用語解説:break-apart と dual-fusion のちがい

break-apart(ブレークアパート)は、1つの遺伝子の両端を別々の色で光らせておき、その遺伝子が「切れて(転座して)」2色が離れたら異常と判定します。相手がわからなくても「切れている」ことを捉えられます。一方dual-fusion(デュアルフュージョン)は、2つの遺伝子をそれぞれ別の色で光らせ、両者が「くっついて(融合して)」色が重なったら異常と判定します。慢性骨髄性白血病のBCR::ABL1のように、決まった相手との融合を確認するのに向いています。

22q11.2欠失症候群のFISH法

22q11.2欠失症候群のローカス特異的FISH。緑は22q13.33のARSA領域、赤は22q11.2に対するプローブです。左は赤・緑が2つずつで正常、右は赤が1つ足りず22q11.2欠失症候群と診断されます。

このように、22q11.2欠失症候群のような微小欠失症候群では、原因となる領域を狙ったローカス特異的プローブで、赤いシグナルが1つ足りない(=片方の染色体でその領域が欠けている)ことを確認できます。ただし注意したいのは、プローブが病因となる領域そのものを含んでいなければ、典型的な症状があっても結果は正常になり得るという点です。この性質は、後の「限界」の項で詳しく説明します。

4. FISH法の検査の流れと、試料ごとの違い

FISH法の実技は、①試料の受領と前処理 ②標本作製 ③変性 ④ハイブリダイゼーション ⑤洗浄 ⑥対比染色(DAPI)⑦観察・判定、という共通の骨格を持ちます。しかし、成功率をもっとも左右するのは、じつは共通の工程よりも「試料別の前処理」です。末梢血・骨髄・羊水・組織切片では、固定や消化の最適な条件がそれぞれ異なるためです。ACMGやCLSIといった検査の標準化文書も、試料ごとに固定・消化・核の選択・対照の置き方を分けて考えることを一貫して求めています[3]

💡 用語解説:間期核FISHと中期FISH

細胞が分裂していない状態の核を間期核(かんきかく)、分裂中で染色体が凝集して見える状態を中期(ちゅうき)と呼びます。培養せずにそのまま核を作って調べるのが「間期核FISH」で、速いのが利点です。一方、培養して分裂像を得てから調べるのが「中期FISH」で、染色体の形まで見られます。羊水では、迅速性を優先して未培養細胞での間期核FISHが用いられることが多くなります。

試料 典型的な用途 実務上の注意
末梢血 体質的な異数性の確認、血液腫瘍の間期核FISH、移植後のX/Y確認 白血球数が少ないと感度が落ちる。構成的検査では複数培養が推奨される。
骨髄 造血器腫瘍の再構成・欠失・増幅の検出、治療層別化 最初の吸引分が望ましい。大量に吸うと末梢血で薄まる。
羊水 13/18/21・X/Yの迅速な異数性診断、22q11.2などの標的診断 結果は24〜48時間程度で返せることが多いが、あくまで補助法。母体細胞混入に注意。
組織切片(FFPE) HER2増幅、MYC・ALK・EWSR1などの腫瘍FISH 切片は4〜6µm程度が推奨。薄すぎると核が切れて偽の欠失に見えることがある。

判定の段階では、「何個光ったか」を数えるだけでは不十分です。核の切断や重なり、シグナルの分裂や接近、背景の光、腫瘍細胞と正常細胞の混在などがあるため、正常な対照からあらかじめカットオフ(判定の基準値)を設定し、そのうえで陽性率を判断します[6]。数える細胞数の目安も、目的によって決められています。たとえば体質的な微小欠失を中期FISHで見るときは10分裂像、間期核FISHでは50核以上を、しばしば2名で分担して読影します。モザイクが疑われる場合は100〜500核まで数を増やし、HER2の判定では少なくとも20細胞を数えることが求められます[5][14]

FISH法の観察例

FISH法では、蛍光色素と顕微鏡のフィルターの組み合わせがシグナルの見やすさに直結します。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「何個光ったか」の先にある職人技】

FISH法は一見「光った点を数えるだけ」に見えますが、実際の読影は繊細な判断の連続です。核が薄く切れて赤いシグナルが1つに見えても、それが本当の欠失なのか、単に切片で核が切れただけなのかを見分ける必要があります。だからこそ、正常な人の細胞でどの範囲までが「正常のばらつき」なのかをあらかじめ確かめ、判定の基準値を試料ごとに決めておくことが欠かせません。

近年は画像解析ソフトや深層学習による自動判定も進んでいますが、これは「人の代わり」ではなく、判断がぶれやすい工程を標準化する支えだと私は考えています。最終的な解釈には、いまも熟練した目が必要です。

5. 羊水検査でFISH法と染色体検査(核型検査)、どちらがよいの?

羊水検査を受けるとき、多くの方が疑問に思うのが「FISH法と核型検査(染色体検査)は、どちらを選べばよいのか」という点です。結論を先にお伝えすると、NIPTで異常が出ている項目をFISH法でピンポイントに確認する場合を除けば、基本的には核型検査をおすすめします。理由をこれから丁寧に説明します。

💡 用語解説:核型検査(カリオタイプ)とは

核型検査は、細胞を培養して分裂させ、染色体を染め分けて1番から順に並べ、46本すべての染色体の数と形をまとめて見る検査です。全体を広く見られるのが最大の強みです。詳しくは核型(カリオタイプ)の解説ページもご覧ください。

FISH法も核型検査も、13・18・21トリソミーのような数の異常(トリソミー)については、どちらも確定診断的で高精度です。培養が不要で結果も早く費用対効果も高いため、羊水をFISH法だけで調べたい、という考えは自然に思えます。しかし、単独のFISH法では見逃してしまう、臨床的に重要な胎児が一定数いるという事実があります。

この点を検証した研究があります。高リスク妊娠9033例の羊水を対象に、13・18・21・X・Y染色体について核型検査とFISH法の結果を比較したところ、96.1%は正常、3.9%に染色体異常が見つかりました。このうち構造異常は68例あり、40例(0.4%)は臨床的な意義がはっきりしない均衡型の相互転座、28例(0.3%)は臨床的に問題となり得る不均衡型の再構成でした[7]。つまり、羊水検査をFISH法だけで実施すると、約0.3%(およそ300人に1人)の臨床的に重要な不均衡型染色体異常を見逃すことになります。

💡 用語解説:均衡型と不均衡型の転座

均衡型の転座は、染色体の一部が入れ替わっても遺伝子の総量は変わらないため、多くの場合は症状が出ません。一方不均衡型では、遺伝子の量が多すぎたり少なすぎたりするため、その量や働きによって症状が出ることがあります。詳しくは不均衡型染色体転座均衡型染色体転座の解説をご覧ください。

なぜFISH法単独ではこうした異常を見逃すのでしょうか。理由は、FISH法のプローブが数千〜数百万塩基対という限られた大きさで、染色体全体をカバーできないからです。FISH法は「その場所にプローブの相補配列がある」ことまでしか証明できません。したがって、FISH法で正常でも、その他の部位に異常がないと言えるわけでは全くないのです。手技に関連した流産のリスクが0.2%程度なら許容できると考える方でも、異常のあるお子さんが生まれるリスクが0.3%(約300人に1人)となると、ご両親にとっては許容しがたい数字になり得ます[7]

こうした理由から、わが国の産婦人科では、通常の羊水検査は急ぐ事情がない限り核型検査のみを行い、13・18・21トリソミーに限って急ぎたい事情があるときにマルチカラーFISH法を追加する、という使い方が一般的です。FISH法は「早いが狭い」検査、核型検査は「時間はかかるが広い」検査——この性格の違いを理解しておくことが、検査を選ぶうえでの出発点になります。羊水検査・絨毛検査そのものの流れや費用については、羊水検査・絨毛検査のページもあわせてご参照ください。

6. FISH法でわかること・わからないこと

FISH法の臨床応用は、大きく「体質的(生まれつきの)異常」と「腫瘍性の異常」に分かれます。体質的な異常では、出生前の迅速な異数性診断、ターナー症候群やクラインフェルター症候群などの性染色体異常、22q11.2欠失のような微小欠失・微小重複、染色体末端の再配列、リング染色体やマーカー染色体の同定に使われます。腫瘍では、再発性の転座や遺伝子再構成、欠失、増幅、移植後のキメラ評価などが代表的です。FISH法は「何を探すかが分かっている」場面でもっとも威力を発揮します[1]

一方で、FISH法には明確な限界があります。最大の弱点は「探したものしか見えない」ことです。したがって、発達の遅れや先天奇形など、幅広い可能性を鑑別する必要がある場面では、最初からFISH法を第一選択にすると見逃しが増えてしまいます。また、たとえ微小欠失であっても、プローブが病因となる遺伝子そのものを含んでいなければ、典型的な症候群でも結果は正常になり得ます。出生前FISHでは、母体細胞の混入、モザイク、パネル外の異常、構造異常の見逃しといった問題にも注意が必要です[1]

出生前の迅速FISHの性能は、対象が13・18・21・X・Yのような高頻度の異数性に限られる場合には高い、という報告もあります。ただしこれは、あくまで限られたパネル・特定の集団での成績であり、FISH法一般の「万能な性能値」ではありません。臨床的に重要なのは、FISH法の性能がプローブ・試料・核の選び方・判定基準に依存する、という点です。だからこそ、報告では「何を見たか」だけでなく、「何を見ていないか」を明示することが求められます[3]

7. 染色体マイクロアレイ・SNPアレイ・NGSとの比較

現代の臨床遺伝学では、FISH法は単独ですべてを解決する技術ではありません。発達遅滞や先天奇形などの原因探索では、染色体マイクロアレイ(CMA)が第一選択とされています[9]。CMAはゲノム全体のコピー数の増減を高い解像度で検出できるためです。ただしCMAは、遺伝子量の変わらない均衡型の再配列や三倍体は検出できません。実際、出生前診断でCMAと核型検査を比較した大規模研究でも、CMAは核型で見つかる異数性や不均衡型の再配列をすべて検出した一方で、均衡型転座と三倍体は同定できなかったことが示されています[8]

検査法 得意なこと 苦手なこと
FISH法 狙った領域の細胞単位の可視化、間期核解析、モザイク率、既知の転座・増幅の確認 ゲノム全体の探索、未知の病変探索、狙っていない領域の発見
染色体マイクロアレイ(CMA) 全ゲノムのコピー数異常を高解像度で検出。発達遅滞・先天奇形では第一選択 均衡型の再配列、細胞内の空間情報、低レベルのモザイク
SNPアレイ コピー数に加え、片親性ダイソミー(UPD)やコピー数中立のLOHの検出 均衡型の再配列、再構成の視覚的な確認
NGS(次世代シークエンス) 塩基レベル〜ゲノムワイドな構造変異の統合的解析、再解析が可能 解析の複雑さ、反復領域や複雑な構造変異、単一細胞・形態の文脈

この比較からわかるのは、「FISHか、アレイか、NGSか」を二者択一で考えるのは誤りだということです。原因の探索にはCMAや全ゲノムシーケンス、狙った確認にはFISH、全体像の把握には核型——というように、相補的に組み合わせるのが、現在の国際的なガイドラインの考え方に近いといえます[10]。CMAの結果の読み方についてはCMA検査結果の見方、コピー数の増減そのものについてはCNV(コピー数バリアント)の解説もご覧ください。

8. マルチカラーFISHと最新の技術動向

FISH法は、複数のプローブを異なる色で標識して組み合わせることで、一度に複数の染色体領域を見分けることもできます。これをマルチカラーFISH法と呼びます。高価ではありますが、染色体異常を効率よく探索する方法として有用です。代表的なものに、24色でヒトの全染色体を色分けするマルチプレックスFISH(M-FISH)やスペクトルカリオタイピング(SKY)があり、複雑な再構成や由来のわからない派生染色体の解読に大きな前進をもたらしました[12][13]。ただし、これらの手法は塩基レベルの解像度を持たないため、同じ色の中で起こる小さな再構成や微小欠失には弱いことも知られています。

13/21トリソミーのマルチカラーFISH法

マルチカラーFISH法の例。複数のプローブを異なる蛍光色で識別し、複数の染色体部位を同時に評価できます。

このほか、伸展したDNAファイバー上でプローブの物理的な順序や距離を高解像度に評価できるファイバーFISHは、難解な構造異常の細部を詰める場面で今も役立ちます。また、自動化とデジタル解析は実装にもっとも近い動向で、あらかじめ候補となる核を抽出し、投影画像やz-stackを使ってシグナルの位置を定量する仕組みが広がっています。近年は深層学習による自動判定の研究も進んでいますが、これらは「AIがFISHを置き換える」というより、人の判断がぶれやすい工程を標準化する支援技術と考えるのが適切です[1]。研究段階では、マイクロ流体デバイスを使ってHER2評価を10〜15分程度まで短縮する試みなども報告されており、将来の検査時間短縮につながる可能性があります。

💡 用語解説:ISCN(国際命名規約)とは

FISHや核型の結果は、国際的に統一された表記法ISCN(An International System for Human Cytogenomic Nomenclature)にもとづいて記載されます。2024年には改訂点が整理されており、臨床の報告書では現行のISCNに準拠した表記が望まれます[15]。共通のルールで書くことで、施設をまたいでも結果が正確に伝わります。

9. 出生前FISHの倫理と遺伝カウンセリング

出生前FISHについて、もっとも大切なメッセージは、FISH単独で不可逆的な意思決定をしてはならないという点です。これは古くからの原則ですが、いまも変わらず妥当です。理由はこれまで説明してきたとおりで、FISHは狙いを限った検査であり、たとえ13・18・21・X・Yの迅速な結果が正常でも、狙っていない構造異常、細かなコピー数の変化、複雑なモザイク、母体細胞の混入、胎盤に限られたモザイクなどの可能性が残るからです。出生前の説明では、FISHが「早いが狭い」検査であることを、あらかじめはっきり伝えておくべきです[3]

モザイクの解釈にも配慮が必要です。モザイクは、間期核で多数の細胞を見られるFISHが割合の推定に役立つ一方、組織による違いや培養によるかたより、胎盤と胎児の不一致がつねに介在します。したがって、報告では単純な百分率だけでなく、どの組織の、どの細胞群を、どのプローブで測った値かを明示する必要があります。出生前では、超音波・核型・CMA・必要なら追跡検査を統合して説明すべきであり、単独のFISH陽性率をそのまま予後に直結させるのは危険です。

また、より広いゲノム全体の検査(CMAやNGS)に切り替えると、今度は意図しない二次的な所見が見つかるという別の説明責任が生じます。標的を限ったFISHは、情報量が少ないぶん「説明しやすい」という倫理的な利点も持っています。どの検査を選ぶにしても、こうした性質を理解したうえで、遺伝カウンセリングを通じて十分に情報を共有することが大切です。ミネルバクリニックでは、こうした検査結果の意味づけと意思決定の支援を、臨床遺伝専門医が担っています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「速さ」の裏側にある「狭さ」を伝える】

出生前の検査で「早く結果が知りたい」というお気持ちは、痛いほどよくわかります。FISH法は数時間から数日で答えが出るため、その願いに応えられる貴重な検査です。けれども私は、結果をお伝えする前に必ず、「これは狙った場所だけを見た検査で、それ以外の場所については何も言えないのですよ」とお話しするようにしています。

検査は、数字や陰性・陽性だけで完結するものではありません。その結果をどう受け止め、どう次の一歩を選ぶか——そこに寄り添うのが遺伝カウンセリングの役割だと考えています。速さと狭さ、その両方を正直にお伝えすることが、後悔の少ない選択につながると信じています。

よくある質問(FAQ)

Q1. FISH法と核型検査(染色体検査)は何が違うのですか?

核型検査は46本すべての染色体の数と形をまとめて広く見る検査で、FISH法はあらかじめ狙いを定めた特定の領域を高い解像度で確認する検査です。トリソミーなどの数の異常はどちらも高精度ですが、FISH法はプローブが結合する場所しか見えないため、狙っていない構造異常は見逃します。羊水検査では、急ぐ事情がない限り核型検査を基本とし、必要に応じてFISH法を補助的に併用するのが一般的です。

Q2. FISH法の結果はどのくらいで出ますか?

FISH法は細胞を培養する必要がないため、結果は数時間から、遅くても1週間以内に得られることが多い検査です。羊水を用いた13・18・21・X/Yの迅速な異数性診断では、24〜48時間程度で結果を返せることが多くなります。ただし、これは狙った項目についての結果であり、全染色体を評価する核型検査には培養期間が必要です。

Q3. FISH法が正常なら、赤ちゃんの染色体は問題ないと考えてよいですか?

いいえ、そう考えることはできません。FISH法は「プローブが結合した場所」しか評価できないため、正常という結果は「調べた領域に狙った異常がなかった」ことを意味するにすぎません。高リスク妊娠9033例の研究では、FISH単独では約0.3%(約300人に1人)の臨床的に重要な不均衡型異常を見逃すと報告されています。全体を評価するには核型検査やCMAが必要です。

Q4. FISH法でモザイクはわかりますか?

間期核FISHは多数の細胞を1つずつ見られるため、モザイクの割合を推定するのに役立ちます。ただし、培養せずに行う間期FISHでは、トリソミーがあるかどうかはわかっても、モザイク・トリソミーや転座型トリソミーの区別は難しいことに注意が必要です。また、組織による違いや胎盤と胎児の不一致もあるため、結果はどの細胞群を測ったかとあわせて解釈する必要があります。

Q5. FISH法とG分染法(染色体検査)はどう使い分けますか?

G分染法は全ゲノムを一度に見渡せる方法で、染色体全体の大きな異常を把握するのに向いています。FISH法はG分染法より高い解像度と特異性で解析できますが、全ゲノムを対象にはできず、狙いを定めた特定の疾患を診断・除外するために使う限定的な方法です。両者は「全体を広く見るG分染法」と「狙って深く見るFISH法」として相補的に使い分けます。

Q6. 発達の遅れの原因を調べるとき、FISH法が第一選択になりますか?

いいえ。発達遅滞や先天奇形のように幅広い可能性を鑑別する必要がある場面では、ゲノム全体をくまなく調べられる染色体マイクロアレイ(CMA)が第一選択とされています。FISH法は「探したものしか見えない」ため、最初から第一選択にすると見逃しが増えます。特定の症候群が強く疑われる場合の確認や、家系内での追跡には、FISH法が有用です。

Q7. NIPTで陽性だった場合、FISH法で確定できますか?

NIPTはあくまでスクリーニング(ふるい分け)検査であり、確定診断には羊水検査や絨毛検査が必要です。NIPTで異常が示された項目については、その領域を狙ったFISH法でピンポイントに確認することができます。一方、NIPTの結果とは関係なく全体を評価したい場合は、核型検査やCMAが選択肢となります。どの検査が適切かは、臨床遺伝専門医にご相談ください。

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臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にどうぞ。

参考文献

  • [1] Cui C, et al. Fluorescence In situ Hybridization: Cell-Based Genetic Diagnostic and Research Applications. Frontiers in Cell and Developmental Biology. 2016. [Frontiers]
  • [2] Pinkel D, et al. Cytogenetic analysis using quantitative, high-sensitivity, fluorescence hybridization. PNAS. 1986. [PubMed 3458254]
  • [3] Section E9 of the American College of Medical Genetics technical standards and guidelines: Fluorescence in situ hybridization. Genetics in Medicine. [Genetics in Medicine]
  • [4] Preclinical validation of fluorescence in situ hybridization assays for clinical practice. Genetics in Medicine. [PubMed 16418595]
  • [5] Guidance for fluorescence in situ hybridization testing in hematologic disorders. Journal of Molecular Diagnostics. [PubMed 17384204]
  • [6] Statistical treatment of fluorescence in situ hybridization validation data to generate normal reference ranges using Excel functions. Journal of Molecular Diagnostics. [PubMed 19525336]
  • [7] FISH is not Suitable as a Standalone Test for Detecting Fetal Chromosomal Abnormalities. Journal of Fetal Medicine. 2015. [Springer]
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  • [15] ISCN 2024: Summary of Revisions and New Terminology. Cytogenetic and Genome Research. [Karger]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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