5p-症候群(Cri-du-chat症候群)

この記事の著者 仲田洋美(総合内科専門医、がん薬物療法専門医、臨床遺伝専門医

 

1.猫なき症候群とは

Cri-du-chat症候群クリ・ドゥ・チャット 猫なき声症候群は、5p-(5pマイナス)症候群としても知られており、5番染色体短腕(5p—通常は父親由来)末端部の欠失のため,猫なき症候群の乳児は、猫の鳴き声のような甲高い鳴き声を発することが多くなっています。猫なき症候群では子猫の鳴き声によく似た高音のニャーニャーという泣き声を特徴とし,この猫なき症候群に特徴的な鳴き声は一般的に出生直後から聞かれ,数週間継続して消失します.猫なき症候群と呼ばれるのはこのためです.猫なき症候群に罹患した新生児には,筋緊張低下がみられ,出生体重が低く,小頭症,両眼が離れた円形の顔貌,眼瞼裂斜下(内眼角贅皮を伴う場合もある),斜視,および広い鼻底が認められます.猫なき症候群では耳介の位置が低く,形状も異常であり,しばしば外耳道の狭小化と副耳もみられます。猫なき症候群ではまた、しばしば合指症,眼間開離,および心奇形も発生いたします.猫なき症候群ではさらに精神的および身体的発達は著明に遅滞します.猫なき症候群の患児の多くが成人期まで生存しますが,有意な障害がみられます.猫なき症候群の頻度は15,000~50,000出生に1人で,精神発達の遅れを示す患者350人に1人の割合とされています.
猫なき症候群の特徴的な泣き声の責任部位(染色体のこの場所に変異があれば病気になるという責任がある場所を責任部位と言います)は5p15.3(5pは5番染色体の短腕という意味)です.
猫なき症候群の特徴的な症状の責任座は5p15.2であり、この領域を含まない第5染色体の欠失を持つ人は猫なき症候群の典型的な表現型(症状)を示さず、正常ですらあります。したがって、猫なき症候群の臨床症状は重要な領域が欠失しているかどうかに依存します。

2.猫なき症候群の原因

猫なき症候群は染色体5pの部分的または完全に失われることによって引き起こされます。猫なき症候群のほとんどの染色体の欠失は新生突然変異で発生します.染色体の欠失自体は、生殖細胞の形成中にランダムなイベントとして発生します.猫なき症候群の約80%から90%は父方が起源であり、配偶子形成中の染色体切断から生じる可能性があります。猫なき症候群の残りの10%から15%は、親に不均衡転座がある場合です.
さらに、猫なき症候群の症例の80%から90%は5番染色体の末端欠失に起因し、3%から5%は中間欠失によるものです。猫なき症候群ではモザイク、逆位、およびリング染色体はあまり一般的ではないメカニズムです。
猫なき症候群は、第5染色体の短腕(p)の末端が欠失することで起こります。この染色体の変化は5p-と記載します。欠失の大きさは個人差があり、研究では、欠失が大きいほど、欠失が小さい場合よりも重度の知的障害や発達の遅れが生じる傾向があることが示唆されています。

猫なき症候群の徴候や症状は、おそらく5番染色体の短腕にある複数の遺伝子の欠失に関係していると考えられます。研究者らは、特定の遺伝子であるCTNND2の欠失が、この状態の一部の人の重度の知的障害と関連していると考えています。この領域の他の遺伝子の喪失が、猫なき症候群の特徴的な特徴にどのように寄与しているのかはまだ明確になっていません。

3.猫なき症候群の症状

猫なき症候群の新生児期の最も特徴的な所見は,通常,生後数か月以内に消える高音の単調な泣き声です.猫なき症候群の名前の由来となった特徴的な泣き声はこの症候群だけに限定されず,他のいくつかの神経障害でも報告されています.猫なき症候群の新生児はまた,低出生体重および小頭症,ならびに窒息,筋緊張低下,および吸引障害を示します.これらは,最初の数年間の成長と発達の障害につながります.猫なき症候群では再燃する呼吸器感染症および消化器感染症が報告されています.

猫なき症候群の一般的な特性

(a)頭蓋顔面奇形:
小頭症
丸顔
ハイパーテロリズム
著名な上耳帯
大きな鼻梁
口角が下がった
短い人中
時期尚早の白髪
異常な横屈曲しわ

新生児期の筋緊張低下は緊張亢進にかわっていきます
著名な小頭症
歯科不正咬合

(b)猫なき症候群に存在する可能性のあるその他の異常:

音に対する過敏症
先天性心疾患を含む心臓障害
皮膚血管腫
腎臓病

(c)猫なき症候群の顔面異常:

口蓋が高い
下顎の微小後退症
エナメル質の形成不全
慢性歯周炎

(d)猫なき症候群の発達および行動の症状:

多動
自傷行為
反復運動
優しい性格
オブジェクトへのこだわり
話す内容の理解は,表現やコミュニケーションの能力よりも優れています

4.猫なき症候群の診断

猫なき症候群の診断は臨床所見に基づいて行います.小頭症,低出生体重,筋緊張低下症,猫のような泣き声などの特定の猫なき症候群に特徴的な所見があると疑います.猫なき症候群では患者が表現型(症状)の変動につながる細胞遺伝学的変動(欠損している場所と大きさ)を示すため,診断が困難な場合があります.猫なき症候群の診断は臨床的特徴,重症度,予後は,欠失のサイズおよび位置によって決定することができます

猫なき症候群の臨床的疑いがある場合,猫なき症候群の診断を確認できる検査の1つは染色体核型分析です.ただし,正常な核型が存在する場合に猫なき症候群の臨床的疑いが高い場合は,FISH(蛍光in-situハイブリダイゼーション),CGH(比較ゲノムハイブリダイゼーション),または定量的PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)などのさらに特定のテストを行います.

FISHは,染色体の欠失によって引き起こされる遺伝性疾患の診断の改善につながり,表現型マップと個人の関連ゲノムの相関を猫なき症候群の診断に提供しました.CGHなどの新しい手法は,ゲノム全体と,遺伝子の変化を特定できる関連マーカーを含めることで,猫なき症候群の診断に新しい扉を開きました.

5.猫なき症候群の予後

猫なき症候群の死亡の75%は人生の生後1か月に発生し、約90%は生後1年で発生すると報告されています。猫なき症候群でみられる欠失のタイプ、サイズ、および場所が予後に大きく影響することに注意することが重要です。

猫なき症候群の病気の予後における最も重要な要因の1つは早期診断です。猫なき症候群の早期診断は、身体的および精神運動発達の結果を改善し、社会的適応を助けるために、早い段階で治療措置の実施を可能にします。
猫なき症候群では主に難治性てんかんの併存及び合併する心疾患により予後が左右されます。

6.猫なき症候群の治療

猫なき症候群では合併症に応じた対症的な治療が中心となります。
たとえば新生児期のときには主に呼吸ができにくいという症状、ミルクや母乳ががのめないという哺乳障害の治療、成長が遅れるという成長障害の管理が中心となります。
猫なき症候群ではてんかんも発症するため必要に応じて薬物療法をします。
猫なき症候群で心臓に奇形があると必要があれば手術や薬物投与を行います。

6.猫なき症候群の遺伝

猫なき症候群のほとんどの症例は遺伝しなません。欠失は、生殖細胞(卵または精子)の形成中または初期の胎児発生中にランダムに起こることが最も多く、申請突然変異です。罹患した人々は、通常、家族歴はありません。
猫なき症候群を持つ人々の約10%は、罹患していない親から染色体異常を受け継ぐ。このような場合、親は均衡型転座と呼ばれる染色体の再構成があり、遺伝物質が得られたり失われたりすることはありませんので症状はありません。均衡型転座は通常、健康上の問題を引き起こすことはありませんが、次の世代に受け継がれていくうちに、不均衡になることがあります。不均衡な転座を受け継いだ子供たちは、余分な、あるいは欠落した遺伝物質を持つ染色体再構成を持つことがあります。不均衡な転座を受け継いだ猫なき症候群の人は、第5染色体の短腕の遺伝物質が欠落しており、その結果、猫なき症候群に特徴的な知的障害や健康問題が生じます。

 

この記事の筆者

1995年医師免許取得。血液・呼吸器・感染症内科を経て、臓器別・疾患別の縦割りの医療の在り方に疑問を感じ、人を人として”全人的”に診療したいという思いを強くし、臓器を網羅した横断的専門医となり、2010年にがん薬物療法専門医取得(2019年現在全国1200人程度)。臓器を網羅すると遺伝性がんへの対策が必要と気づき、2011年に臨床遺伝専門医取得(2019年現在全国1000人程度)。遺伝相談はセンシティブな分野にもかかわらず、昼間の短い時間しか対応できない大病院のありかたに疑問を感じて、もっと必要な人がハードルを感じずに診療を受けられるようにしたいと2014年12月に開業。以来、全国から大学病院でも難しい内容の対応を求める人々を受け入れ、よろづお悩み相談所として多くの人々の様々な”家族(計画)の問題”を改善に導く。

著書に”女性のがんの本当の話”(ワニブックス)、”遺伝するがん・しないがん”(法研)がある。
少ない専門家で、正直で嘘のない言葉選びから週刊誌等の取材も多く、医療系の特集に時折コメントが掲載。(週刊現代、週刊ポスト、週刊新潮など)。
テレビ出演も時々あり、小林真央さんの病状を市川海老蔵さんが初めて記者会見した日、フジテレビの午後4時台のニュース番組に生出演して解説。その他TBS, AbemaTVなど出演。

一人一人の事情に合わせた個別対応をするべく、しっかり時間を取って本当のニーズは何かを聞き取りすることを大切にしている。短い時間でもお互いが出会ったことが相手の人生に大きな意味があるような医師患者関係の構築を理想として日々精進。

患者さんが抱えている問題を解決するにはどうしたらよいのかを考えて医師歴8年目に法学部に学士入学した程度に”凝り性”。女医が少なかった時代に3人の母親として難関専門医を3つ取得して社会進出を続けた経験から、女性のライフスタイルを医学以外の部分でも支援したいと願っている。
いろんな人生経験から心に響く言葉を投げかけるため、”会うと元気になる”ということで有名。飼いネコ3匹。

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