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5p欠失症候群(ネコなき症候群)を現役医師が詳しく解説
染色体の先天性疾患というとダウン症候群(21トリソミー)を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、発症する確率は低くても他にも多くの先天性疾患があります。5p欠失症候群(猫なき症候群)もその中の一つです。ダウン症候群とは異なるこの疾患についてご存じない方もいると思いますので詳しくご案内します。
5p欠失症候群(猫なき症候群)とは
ネコなき症候群(Cri-du-chat syndrome クリ・ドゥ・シャ症候群)は5番染色体の異常による先天疾患です。患者によってさまざまな症状がみられますが、乳児期にミュウのように猫のように泣くことがその大きな特徴です。精神発達障害や筋緊張の低下などの症状があり、疑われた人には問診や遺伝子検査が行われます。発生確率は15000~50000人に1人といわれています。
ネコなき症候群症例の約80%は5番染色体短腕の父方のde novo部分欠失に起因します。つまり、欠失した染色体は80%で父方由来(参考文献)でパパには異常がありませんが、精子ができるときにde novoと呼ばれる新生突然変異を起こしたものです。残りの症例は、5pを含む親の染色体転座に原因があります。猫のような甲高い泣き声の重要な領域は5p15.3で、この症候群のその他の臨床的特徴は5p15.2内の小さな領域に原因があります。
クリ・デュ・チャット症候群または猫泣き症候群の患者は、生後早期にミュウのような泣き声を発し、すぐに治まります。低出生体重、成長不全、低緊張、精神運動遅延、知的障害、小頭症、多毛症、丸顔、口蓋裂が傾斜している、鼻梁が広い、耳介低位、耳介奇形などが認められます。5番染色体短腕に欠失のある患者さんでは、欠失の大きさに応じて臨床的特徴および精神運動遅滞の重症度が進行することがわかっています (参考文献) 。年齢が進むにつれて、臨床症状は顕著でなくなり、診断がより難しくなります。
5p欠失症候群(猫なき症候群)がいつわかるのか
以前は、欠損の状態によって症状が異なるためいつ頃判明するのかはっきりとしていませんでした。しかしながら、新型出生前診断(NIPT)が2013年に導入されてからは、出産前に5p欠失症候群(猫なき症候群)かどうかわかるようになっています。
新型出生前診断(NIPT)が受けられるのは妊娠9週目(ミネルバクリニック)からです。遅くても10週目には受検可能ですので妊娠初期の段階で判明されます。ただし、精度は検査会社によって変わってくるため事前に遺伝カウンセリングで専門知識を持つ医師からしっかりと説明を受けた方がいいでしょう。
5p欠失症候群(猫なき症候群)の原因
5番目の染色体の短腕末端の欠損が原因です。「5番目の染色体の短腕の欠損」という意味で5p-と表記されます。
遺伝性ではなく突然変異による疾患です。親(通常は父親由来)の配偶子(卵子や精子といった生殖にかかわる細胞のこと)が形成されている途中に染色体が切断されてしまうことで染色体に異常が生じてしまいます。
欠損の大きさには個人差があり、欠損が大きいほど重度の知的障害や発達の遅れが生じる傾向にあります。
5p欠失症候群(猫なき症候群)の予後・寿命
7割の患者が生後1か月以内に死亡し、生存した残り3割のうち9割も生後1年以内に死亡します。どれぐらい長く生きられるかは、染色体欠損の大きさや場所が影響しており、特に難治性てんかんや心疾患の合併症がみられるかどうかによって予後が左右されます。中には18歳、21歳まで生きる方もいます。
5p欠失症候群(猫なき症候群)の特徴
人によってさまざまな症状がみられますが、もっとも特徴的なものは新生児期の泣き声です。猫の鳴き声のような甲高い声で泣きます。(しかしこの特徴はこの症候群の他のいくつかの神経障害でも報告されています)
新生児期にみられる他の症状としては、低出生体重・小頭症・窒息・筋緊張低下・呼吸障害があります。これらは、その後数年間の成長と発達の障害となります。呼吸器感染症や消化器感染症のリスクも高いという報告もなされています。
また、その他には、低出生体重(2,500g未満)、頭が小さい、筋緊張の低下などの特徴も認められ、筋緊張低下、精神運動発達の遅れの所見を伴います。思春期から成人期に入ると小頭が顕著になり、面長の顔や大きな口などが目立つようになり、筋緊張亢進(体のこわばり)へと変化していくのが特徴です。
5p欠失症候群(猫なき症候群)の特徴の顔面の特徴
猫なき症候群の子どもは特徴的な顔つきをしています。具体的には小顔、丸顔、耳の位置が低い、顎が小さいというのが特徴です。他にも目立った特性として以下の項目が挙げられます。
- ・離眼症
- ・大きな鼻梁
- ・下がった口角
- ・短い人中
- ・白髪
- ・異常な横屈曲
- ・口蓋が高い
- ・かみ合わせの悪さ
- ・歯のエナメル質の形成不全
- ・慢性歯周炎
5p欠失症候群(猫なき症候群)の行動の特徴
猫なき症候群の子どもには、いくつかの目立った行動が見られます。それは多動症、自傷行為、反復運動をしたりすることです。性格は優しくて、こだわりを持っている子が多いのが特徴です。
よく現われる合併症
身体面のことでどうしても知っておきたいのは合併症の有無です。やはり他の先天性疾患と同様に合併症を患う可能性があります。
主な症状としては、先天性心疾患・心臓病と腎臓病です。他にも音に対して過敏になったり、皮膚血管腫になったりします。
5p欠失症候群(猫なき症候群)の診断方法
小頭症・低出生体重・筋緊張低下症・猫のような泣き声などの症状から判断します。しかし原因となる染色体の欠損範囲の大きさによって症状がさまざまであるため、診断が困難な場合があります。
5p欠失症候群(猫なき症候群)の検査・治療
疑いがあるときは染色体異常を調べるための検査は必須です。他にも個人に応じて異なった症状が出現するので症状に合わせた検査を行います。たとえば、心疾患に対しては心エコーや心電図、胸部エックス線撮影などが検討されます。
合併症に応じた対症的な治療が中心となります。
例えば新生児期のときには呼吸がしにくいという症状や、ミルクや母乳がの飲めないという哺乳障害に対して治療が行われます。それ以降は、成長が遅れる「成長障害」に対する治療が中心となります。
また、てんかんが発症すれば薬物治療を施したり、心臓に奇形があれば手術を行ったりします。
5p欠失症候群(猫なき症候群)は遺伝するのか?
ほとんどの症例で遺伝はみられません。先にも述べた通り、原因となる欠失は生殖細胞(卵または精子)の形成中、または初期の胎児発生中にランダムに起こることが最も多く、新生突然変異によるものです。
しかし約10%の患者は、罹患していない親から染色体異常を受け継ぎます。このような場合、親は均衡型転座と呼ばれる染色体の再構成があり、遺伝物質が得られたり失われたりすることはないので猫なき症候群の症状は表れません。均衡型転座は通常、健康上の問題を引き起こすことはありませんが、次の世代に受け継がれていくうちに、不均衡になることがあります。不均衡な転座を受け継いだ子供たちは、余分な、あるいは欠落した遺伝物質を持つ染色体再構成を持ち、5p欠失症候群(猫なき症候群)の症状が表れます。
まとめ
ここまで5p欠失症候群(猫なき症候群)について解説をしました。染色体の先天性疾患はダウン症候群筆頭に何かしら合併症を持って生まれてくる可能性が高いのが特徴です。5p欠失症候群(猫なき症候群)も同じです。もしご自分の子どもが5p欠失症候群(猫なき症候群)だとわかったら小児科医と相談をしてさまざまな側面を考慮したうえでのサポート体制を敷く体制を作るのが重要になります。
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この記事の著者:仲田洋美(医師)