15q12欠失症候群
この記事の著者 仲田洋美(総合内科専門医、がん薬物療法専門医、臨床遺伝専門医)
www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK1330/
1.概要
Prader-Willi症候群(PWS)は乳児期早期の重度の筋緊張低下と摂食障害,乳児期後期~小児期早期に始まる過食と進行性病的肥満症を特徴とし,運動発達や言語発達は遅滞します.認知障害は程度に差はあれ必発です.かんしゃく発作,頑固な性格,他人を操作しようとする行動,強迫的性格などの独特の行動特徴はよく認められる所見です.性別を問わず,性腺機能低下症は性器形成不全や思春期発育不全として認められ,不妊症がほとんどです.一般的に低身長で、特徴的顔貌,斜視,側彎をしばしば認めます.肥満の患者ではインスリン非依存性糖尿病がしばしば起こります.
2.診断・検査
正確でコンセンサスを得た臨床診断基準は確立されているのですが,現在では診断はDNAメチル化解析を用いて15番染色体にあるPrader-Willi責任領域(Willi critical region:PWCR)に異常な親特異的インプリティングの検出によって確定されます.DNAメチル化解析でPWCRが母親のみから受け継いだものか(すなわち父親由来の領域の欠失)を調べ,罹患者の99%以上を診断できます.DNAメチル化解析はすべてのPWS患者の確定診断に重要ですが,臨床所見が非典型的な患者や十分な臨床症状を呈していない乳幼児ではとりわけ重要となります.
細胞遺伝学的検査/FISH法
PWS患者の約70%は1本の15番染色体において,15q11.2-q13領域の欠失を認めます.この欠失は高精度染色体分染法やFISH法で検出することができます.
注:この典型的な欠失は,遠位切断点BP3から2つの近位切断点BP1とBP2のどちらかまでによって,二つの欠失サイズに分けられます.臨床で用いられるFISH法ではこの2つの欠失とも検出できるが,両者の鑑別はできません.欠失例の約8%ではこれ以外の非典型的欠失が見られます .
Angelman症候群とPrader-Willi症候群は似たような部位が欠失しているのですが,Prader-Willi症候群のほうが上流までの部位が欠けているので,欠失の大きさは小さくなっています.
患者の約1%には,15q11.2-q13領域の欠失を引き起こした染色体再構成が検出されます.
15q11.2-q13領域に切断点をもつ均衡型染色体転座は患者の1%未満である.これらは染色体検査およびFISH法で検出可能です.
分子遺伝学的検査
GeneReviewsは,分子遺伝学的検査について,その検査が米国CLIAの承認を受けた研究機関もしくは米国以外の臨床研究機関によってGeneTests Laboratory Directoryに掲載されている場合に限り,臨床的に実施可能であるとしています.
PWS患者の99%以上で,PWS責任領域(PWCR)内にある親由来特異的DNAメチル化インプリティング異常を認めます.
DNAメチル化解析
DNAメチル化解析はPWSの3つのメカニズム(父由来領域の欠失,15番染色体母型片親性ダイソミーとインプリティング異常)を同時に検出し,さらに欠失例においてアンジェルマン症候群(AS)との鑑別診断ができる唯一の検査方法です.遺伝カウンセリング目的以外の確定診断にはDNAメチル化解析は十分である.この解析では両親のDNAサンプルがなくても母由来と父由来のアレルを区別できます.現在最も広く応用されている解析方法はSNURF-SNRPN座位(通常SNRPN)の5’ CpGアイランドを標的とし,PWS症例の99%以上を正確に診断できます.
SNRPNのプロモーター,エクソン1とイントロン1の領域において,父由来アレルはメチル化されず発現するが,母由来アレルはメチル化され発現しない.健常者はメチル化と非メチル化のSNRPN遺伝子アレル両方を持つのに対し,PWS患者は母由来のメチル化されたアレルのみを持ちます.
DNAメチル化解析は診断の第一選択とされるべきだが,分子遺伝学的メカニズム(欠失,UPDあるいはID)を鑑別することができないため,PWSの診断はまずDNAメチル化解析で確定し,次のステップとして分子遺伝学的メカニズムを特定するようにします.発症メカニズムの特定は遺伝カウンセリングおよび遺伝型-表現型の相関に重要だからです.
3.症状
緊張低下を伴う新生児期の哺乳不良
哺乳不良の既往を伴う筋緊張低下
全般的な発達遅滞
中枢性肥満を伴う過食症
認知障害,通常軽度の知的障害
視床下部性の性腺機能低下
典型的な問題行動
4.治療法
乳児期には,十分な栄養を摂取するために特殊な乳首や経管栄養が必要です.
理学療法は筋力向上に役立ちます.
停留睾丸に対してはホルモン療法および外科的処置が考慮されます.
小児期には,体重増加を制限(BMI<30)しながら,毎日の食事量を身長,体重,BMIに基づく必要なエネルギー量以内に厳しく管理する必要があります.
成長ホルモン補充療法は身長を正常化し,除脂肪量(LBM)と可動性を増加させ,脂肪量を低下させることが可能です.
5.予後
良好です.