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NIPD(非侵襲的出生前診断:non-invasive prenatal diagnosis)とは、妊婦さんの血液に含まれる胎盤由来のDNAを調べて、赤ちゃんが特定の単一遺伝子疾患を受け継いでいるかどうかを判定する方法です。ダウン症候群などの染色体の数を調べるNIPTが「量を数える」検査であるのに対し、NIPDは遺伝子の塩基配列の変化(バリアント)を見つける検査で、使う技術も、結果の意味も異なります。父親から受け継ぐ変化は比較的見つけやすい一方、母親から受け継ぐ変化はお母さん自身のDNAに埋もれてしまうため、特別な工夫が必要です。このページでは、NIPDの仕組みを遺伝形式ごとに整理し、対象となる病気、精度と限界、確定検査が必要になる場面までを臨床遺伝専門医の視点で解説します。NIPT教科書シリーズ第8章「単一遺伝子疾患とNIPT」です。
Q. 母体血で単一遺伝子疾患はわかりますか?
A. わかる場合があります。父親由来または新生突然変異による変化は、母体血の中に「あるかないか」を調べることで比較的容易に検出できます。母親由来の変化は、ハプロタイプや変異の量のわずかな差を数える方法で調べます。英国では、家族の原因がわかっている一部の病気でNIPDが公的医療の検査として提供されています。ただし、すべての病気・すべての家族に使えるわけではなく、条件によっては羊水検査などの確定検査が必要です。
- ➤NIPTとの違い → 染色体の「数」ではなく、遺伝子の「塩基の変化」を調べる
- ➤見つけやすい変化 → 父親由来・新生突然変異(お母さんのDNAにはない変化)
- ➤難しい変化 → 母親由来の変化、リピートの伸長、近い親族間の夫婦
- ➤確定検査 → 家族の原因がわかったうえでの診断型と、多くの遺伝子を広く調べるスクリーニング型で扱いが異なる
⏱️ 30秒でわかる要約
🧬 Q. NIPDとNIPTは何が違うの?
NIPTは染色体の数を、NIPDは遺伝子の塩基の変化を調べます。NIPDは家族の原因がわかっている病気を対象にすることが多い検査です。
👨 Q. どんな変化が見つけやすいの?
お母さんのDNAにはない、父親由来や新生突然変異の変化です。母親由来の変化は量の差を数える特別な方法が必要です。
✅ Q. 確定検査は必要?
多くの遺伝子を広く調べるスクリーニング型で陽性なら、羊水検査などで確認が必要です。診断型でも条件によって確定検査が必要になります。

1. NIPDとは:染色体のNIPTとの違い
NIPDは、母体血中の胎盤由来DNAから、赤ちゃんが特定の遺伝子の変化を受け継いでいるかどうかを判定する方法で、主に家族の中で原因となる変化がすでにわかっている妊娠を対象にします。同じ母体血を使う検査でも、21トリソミーなどを調べるNIPTとは、調べる対象も、測り方も、結果の重みも違います。
「数を数える」NIPTと「塩基を読む」NIPD
染色体のNIPTは、21番染色体などに由来するDNA断片が全体の中で何%を占めるかを数え、わずかな増減から染色体の数の変化を推定します。その仕組みは第3章cffDNAを用いたNIPTのバイオインフォマティクスとテクノロジーで解説しました。一方、単一遺伝子疾患は、1つの遺伝子の中の1文字の置き換えや小さな欠失などで起こります。NIPDは、その「特定の1か所」に病気の原因となる変化があるかどうかを、胎盤由来のDNAで確かめる検査です。
📊 染色体のNIPTと単一遺伝子のNIPDの違い
| 項目 | 染色体のNIPT | 単一遺伝子のNIPD |
|---|---|---|
| 調べるもの | 染色体の数(21・18・13トリソミーなど) | 特定の遺伝子の塩基の変化 |
| 測り方 | 染色体ごとのDNA断片の量を数える | 変化そのもの、または変化の量の差を検出する |
| 主な対象 | すべての妊婦(スクリーニング) | 家族の原因がわかっている妊娠(診断)/広く調べるスクリーニング型もある |
| 必要な準備 | 妊婦さんの採血のみ | 両親の検体、場合によっては上のお子さんの検体と事前の解析 |
| 陽性のとき | 羊水検査などの確定検査が必要 | 方法と条件によって異なる(本文6章) |
母体血の中の胎盤由来DNA
妊婦さんの血液には、胎盤の栄養膜細胞から出たDNAが流れています。2022年の総説は、このDNAが妊娠4週から検出でき、赤ちゃんのゲノム全体を代表していると述べています[1]。ただし、血液中のDNAの大部分はお母さん自身のものです。胎盤由来のDNAは全体のごく一部にすぎないため、お母さんも持っている変化なのか、赤ちゃんだけが持っている変化なのかを見分けることが、NIPDの最大の課題になります。セルフリーDNAの基本はセルフリーDNA(cfDNA)とはで解説しています。
2. なぜ父由来の変化は見つけやすく、母由来は難しいのか
父親から受け継いだ変化や、受精の前後に新しく生じた変化(新生突然変異)は、お母さんの血液には本来存在しないため、「あるかないか」を調べるだけで判定できます。2022年の総説も、父由来と新生突然変異の検出は比較的容易で、臨床で使える方法がいくつも開発されている一方、母由来の変化は母体のDNAが背景に多いため難しいと整理しています[1]。
① 父由来・新生突然変異
お母さんのDNAにはない変化。母体血に見つかれば赤ちゃんが受け継いでいる、なければ受け継いでいない。
② 母由来
お母さんのDNAにも同じ変化がある。赤ちゃんが受け継いだかどうかは、変化の量のわずかな偏りで判断する。
たとえば、お母さんがある変化を1つ(ヘテロ接合で)持っていると、お母さんのDNAだけで変化型と正常型が1対1になります。赤ちゃんが変化型を受け継げば、胎盤由来のDNAの分だけ変化型がわずかに多くなり、受け継いでいなければわずかに少なくなります。胎盤由来のDNAが1割前後であれば、その偏りは数%にすぎません。この小さな差を正確に数えるのが、後で説明する相対的ハプロタイプ量や相対的変異量の方法です。
計算例:偏りはどれくらいの大きさか
両親がともに同じ変化を1つずつ持つ常染色体潜性の病気で、血液中のDNAのうち胎盤由来が10%の場合を考えます。お母さん由来の90%は変化型と正常型が半分ずつなので、変化型は45%分です。胎盤由来の10%は、赤ちゃんが変化を2つ持てば10%すべて、1つなら5%、持たなければ0%が変化型になります。合計すると、変化型の割合は次のようになります。
🧮 母体血中の変化型の割合(計算例)
| 赤ちゃんの状態 | 胎盤由来DNAが10%のとき | 胎盤由来DNAが5%のとき |
|---|---|---|
| 変化を2つ持つ(罹患) | 55% | 52.5% |
| 変化を1つ持つ(保因者) | 50% | 50% |
| 変化を持たない | 45% | 47.5% |
※お母さんの体内で変化型と正常型が1対1であると仮定した計算例です。
胎盤由来のDNAが5%なら、罹患と保因者の差はわずか2.5ポイントです。この差を偶然の揺れと区別するには、多数の分子を正確に数える必要があり、胎盤由来DNAの割合も同時に測っておかなければ、偏りの意味を判断できません。量を数える方法で胎盤由来DNAの割合に基準が設けられているのは、このためです。
3. 遺伝形式ごとのNIPDの方法
NIPDでどの方法を使うかは、病気の遺伝形式と、両親のどちらがどの変化を持っているかで決まります。遺伝形式そのものは遺伝形式とはで解説しています。
常染色体顕性(優性):父由来・新生突然変異の検出
父親が常染色体顕性の病気の原因となる変化を持っている場合や、両親は持っていないのに赤ちゃんに新しく生じる変化を調べる場合は、①の型にあたります。代表例が、FGFR3遺伝子の変化で起こる軟骨無形成症や致死性骨異形成症です。これらの多くは両親に変化がない新生突然変異で、超音波で骨の短さなどが見つかったときに、母体血で原因の変化を確かめる使い方がされます。新生突然変異そのものについてはDe Novo変異(新生突然変異)とはをご覧ください。
常染色体潜性(劣性):父の変化を「除外」する
常染色体潜性の病気で、両親がそれぞれ違う変化を持っている場合(赤ちゃんが両方を受け継ぐと複合ヘテロ接合になる)、最も簡単な方法は父の変化の除外です。母がA/a′、父がA/a″という組み合わせで、赤ちゃんがa′/a″になったときだけ発症するなら、母体血に父の変化a″が見つからなければ、赤ちゃんは少なくとも発症の組み合わせにはなりません。この場合、赤ちゃんは母の変化を受け継いだ保因者である可能性は残りますが、病気にはなりません。
反対に、父の変化a″が見つかった場合は、母の変化a′を受け継いだかどうかを母体血だけで判断するのは難しいため、羊水検査などの侵襲的な検査か、次に述べる量を数える方法が必要になります。英国の公的医療(NHS)の検査一覧では、この「父の変化の除外検査」が、両親が違う変化を持つ潜性の病気や、父が顕性の変化を持つ(またはモザイクとして持つ)家族に提供されています[2]。常染色体潜性遺伝の仕組みは常染色体潜性遺伝で解説しています。
相対的ハプロタイプ量(RHDO)
相対的ハプロタイプ量解析(relative haplotype dosage analysis:RHDO)は、病気の原因となる変化の周りにある何千ものSNP(一塩基多型)を使い、変化と一緒に受け継がれる染色体の区間(ハプロタイプ)単位で量の偏りを数える方法です[1]。1か所の変化だけを数えるより情報が多いため、母由来の変化でも判定できます。
ただし、どのSNPが病気の変化と同じ染色体に乗っているか(相)を決めるために、両親の検体に加えて、上のお子さんなど家族の検体が必要です[1]。英国NHSの嚢胞性線維症のNIPDでは、両親がそれぞれ確定した変化を持ち、両親と、罹患した、または罹患していない保因者でない子ども(あるいは以前の妊娠)のDNAがあることが条件で、超音波で確認した妊娠8週以降に検査し、血縁関係のある夫婦は対象外、多胎では検査できないことがあるとされています[3]。2022年の総説では、RHDOは嚢胞性線維症、脊髄性筋萎縮症、先天性副腎過形成、X連鎖のデュシェンヌ型などの筋ジストロフィーで臨床に使われていると整理されています[1]。ハプロタイプの考え方はハプロタイプで、SNPで母体と胎児を見分ける考え方はSNPベースのNIPTで解説しています。
相対的変異量(RMD)とデジタルPCR
相対的変異量(relative mutation dosage:RMD)は、病気の原因となる変化そのものの量を数え、変化型と正常型の比が1対1からどちらに偏るかで判定する方法です。理論上は母体血だけで潜性やX連鎖の病気を判定でき、家族の検体を必要としない点が利点です。一方、保因者のお母さんの体内で変化型と正常型が正確に1対1であることを前提にしており、大きな構造の変化や繰り返し配列の中の変化には使えません[1]。
この量の差を数える道具として使われるのが、ドロップレット・デジタルPCR(ddPCR)です。DNAを1万個を超える微小な水滴に分けて1分子ずつ増やし、変化型と正常型の分子の数を直接数えます[1]。ただし、研究によっては誤判定や判定不能が報告されており、59人を対象にした研究では誤判定が5件(偽陽性1件・偽陰性4件)、判定不能が2件ありました[1]。原理はデジタルPCR(dPCR)・ddPCRとはで、低い割合の変化を濃縮して見つける工夫はCOLD-PCRで解説しています。
分子に目印(固有の分子バーコード)を付けて環状にし、1分子ずつ増やして読み直すcSMARTという方法もあります。2022年の総説では、GJB2やSLC26A4による非症候群性難聴、βサラセミア、メチルマロン酸血症、フェニルケトン尿症で臨床的な有用性が示されたと整理されています[1]。
X連鎖の病気:性別判定とハプロタイプ
X連鎖潜性の病気では、男の子だけが発症するのが基本です。そのため、まず母体血でY染色体由来の配列を調べて赤ちゃんの性別を判定し、男の子の場合に詳しい検査へ進む、という段階的な使い方が古くから行われてきました。さらに、ハプロタイプを使えば、お母さんが持つ変化を男の子が受け継いだかどうかを母体血で判定することもでき、デュシェンヌ型などの筋ジストロフィーでは臨床で使われています[1]。X連鎖遺伝の考え方はX連鎖遺伝とはで、関連する病気はデュシェンヌ/ベッカー型筋ジストロフィーや血友病で解説しています。
先天性副腎過形成では、女の子の赤ちゃんで外性器の男性化が起こりうるため、妊娠早期の性別判定が治療の判断材料として使われてきました。性別判定で男の子とわかれば、女の子に対する治療を考える必要がなくなるからです。
リピート病:今も難しい領域
同じ塩基配列の繰り返しが伸びることで起こるリピート病(トリプレットリピート病など)は、NIPDで調べるのが今も難しい領域です。理由は3つあります。1つめは、DNAを増やす過程(PCR)そのものが繰り返しの数を変えてしまうことがあり、伸びて見えるのが本物か増やしたときの誤差かを区別しにくいことです。2つめは、お母さん由来の同じ遺伝子の繰り返しと見分ける必要があり、近くに見分けに使えるSNPがないと判定できないことです。3つめは、血液中のDNAが短く断片化しているため、非常に長く伸びた繰り返しは1本の断片に収まらず、検出できない可能性があることです。ハンチントン病のような病気では、現時点では羊水検査や絨毛検査による診断が基本になります。2022年の総説は、長い断片を読める技術が、こうした繰り返し配列の検出を改善する可能性に触れています[1]。
4. 多くの遺伝子を広く調べるスクリーニング型
家族の原因がわかっていない妊娠でも、新生突然変異で起こることの多い顕性の病気の遺伝子をまとめて母体血で調べる、スクリーニング型の検査も開発されています。2019年に報告された研究では、顕性の単一遺伝子疾患によく関わる30遺伝子をターゲットシークエンスで調べる検査が422件の妊娠で行われ、20件の真陽性が見つかりました。転帰がわかった例の追跡では、真陽性20件、真陰性127件で、偽陽性・偽陰性はありませんでした[4]。
スクリーニング型が顕性の病気を中心にしているのは、父由来や新生突然変異の変化であれば、お母さんのDNAに埋もれずに「あるかないか」で判定できるからです。母由来の変化や、両親が保因者である潜性の病気は、この方式では基本的に対象になりません。父親の年齢が上がると精子に生じる新生突然変異が増えることが知られており、こうした検査はその点からも注目されています。父親の年齢との関係はNIPTと単一遺伝子疾患|父親の年齢リスク(デノボ変異)とはで詳しく扱っています。ミネルバクリニックでは、56遺伝子のde novo変異を調べるNIPTや、NIPTダイヤモンドプランで、単一遺伝子疾患を対象にした検査を行っています。
ただし、スクリーニング型は家族の原因を前提にした診断型とは性格が異なります。2022年の総説は、商業的な検査が低リスクの妊娠に提供される場合、検出率・特異度・陽性的中率を示す十分なデータが得られるまでは、陽性の結果は侵襲的検査で確認する必要があると述べています[1]。また、調べる遺伝子に含まれない病気や、遺伝子の中でも調べていない種類の変化は、陰性でも否定できません。骨系統疾患での使い方と限界は骨系統疾患はNIPTで調べられる?で解説しています。
5. NIPDの精度と限界
NIPDは、条件が整えば侵襲的検査に近い判定ができる一方、検体・妊娠の状態・家族構成によって使えない場合があります。主な条件と限界を表にまとめます。
⚠️ NIPDを使うときの主な条件と限界
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 胎盤由来DNAの割合 | 量を数える方法では一定以上の割合が必要で、研究では4%超、商業的な検査では4.5%以上や5%以上などの基準が使われている |
| 妊娠週数 | 英国の嚢胞性線維症のNIPDは、超音波で確認した妊娠8週以降 |
| 家族の検体 | RHDOは両親に加えて上のお子さんなどの検体が必要 |
| 血縁関係のある夫婦 | 両親が同じハプロタイプを共有するため、RHDOが難しい |
| 多胎妊娠 | 胎盤由来DNAが複数の胎児から来るため、検査できないことがある |
| 変化の種類 | 大きな構造の変化、繰り返し配列の中の変化、リピートの伸長は難しい |
| 事前の準備 | 英国では妊娠前に家族の検体で検査が可能かを確かめる準備の検査が前提 |
とくに重要なのは、NIPDは「妊娠してから急いで申し込む」検査ではなく、多くの場合、妊娠前から家族の検体を集めて、その家族でどの方法が使えるかを確かめておく必要があることです[2]。また、「変化が見つからなかった」という結果は、胎盤由来のDNAが十分に含まれていたことが確かめられて初めて意味を持ちます。胎盤由来のDNAがほとんど入っていない検体では、赤ちゃんが父の変化を受け継いでいても見つからないからです。そのため、父由来の変化の検査でも、胎盤由来DNAが存在することを別の目印で確認したうえで陰性と判断する必要があり、確認できなければ判定不能として扱われます。結果が判定不能だった場合に、採血をやり直すのか、侵襲的な検査に切り替えるのかを、検査の前に決めておくことも大切です。単一遺伝子疾患の出生前の選択肢全体は単一遺伝子疾患の出生前診断で解説しています。
6. 確定検査が必要になる場面
家族の原因がわかったうえで十分な準備をして行う診断型のNIPDは、英国では侵襲的検査の代わりとして提供されていますが、スクリーニング型の陽性や、判定できなかった場合、父由来変化の除外検査で父の変化が検出され、母由来変化の遺伝状況を別途確認する必要がある場合などには、羊水検査や絨毛検査による確定が必要です。
診断型とスクリーニング型の違い
英国NHSの検査一覧では、NIPDは「本来なら侵襲的検査が提供される病気」に限って、検査室と相談したうえで提供するとされています[2]。2022年の総説も、リスクが高いことがわかっている家族の単一遺伝子疾患のNIPDは、解析の中で母体のDNAを考慮しているため追加の検査を必要としないと述べています[1]。これに対して、家族の原因を前提にしないスクリーニング型の陽性は、確定検査で確かめるまで診断ではありません[1]。
日本で考えるときの注意
日本では、母体血による単一遺伝子疾患の診断が、英国のような公的な体制として整っているわけではありません。家族の原因となる変化がわかっている場合、出生前に確定的な判定をする方法としては、羊水検査・絨毛検査で赤ちゃん本人の細胞を調べることが基本になります。妊娠前の段階で選べる方法として、着床前に胚を調べる着床前遺伝学的検査(PGT-M)もあります。お父さん、お母さんがそれぞれ単一遺伝子疾患を持っている場合の考え方は、お父さんが単一遺伝子疾患をお持ちのご夫婦へと軟骨無形成症・クルーゾン病などのあるお母さんへで解説しています。
💡 用語解説:ハプロタイプ
同じ染色体の上で近くに並び、まとめて親から子へ受け継がれる遺伝子の変化やSNPの組み合わせのことです。病気の原因となる変化の周りのSNPの並びがわかっていれば、そのSNPの並びがどちらの親のどちらの染色体から来たかを数えることで、病気の変化を受け継いだかどうかを間接的に判定できます。
🩺 院長コラム【母体血でわかることと、わからないこと】
母体血で遺伝子の病気がわかるようになった、という話は大きな希望として語られます。けれども、その中身は「父由来の変化ならあるかないかで判定できる」「母由来の変化は家族の検体を集めて量の差を数える」というように、遺伝形式と家族の状況によって、できることが大きく変わります。同じ「遺伝子のNIPT」という言葉でも、家族の原因を確かめる診断型と、多くの遺伝子を広く調べるスクリーニング型では、結果の重みがまったく違います。
検査を選ぶ前に、ご家族の病気の遺伝形式と原因となる変化がわかっているか、その変化を母体血で調べる方法があるかを整理することが、結果を正しく使うための出発点になると考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. NIPDとNIPTの違いは何ですか?
NIPTは母体血中のDNAの量を数えて染色体の数の変化を推定するスクリーニング検査です。NIPDは、家族の原因がわかっている単一遺伝子疾患について、母体血中の胎盤由来DNAで赤ちゃんがその変化を受け継いでいるかを判定する方法です。調べる対象も測り方も異なります。
Q2. ダウン症は単一遺伝子疾患ですか?
いいえ。ダウン症候群は21番染色体が1本多い染色体の数の変化によるもので、1つの遺伝子の変化で起こる単一遺伝子疾患とは異なります。そのため、調べる方法も染色体のNIPTと単一遺伝子のNIPDでは異なります。
Q3. 母親が持っている遺伝子の変化も母体血でわかりますか?
難しいですが、方法はあります。お母さん自身のDNAにも同じ変化があるため、赤ちゃんが受け継いだかどうかは変化の量のわずかな偏りで判断します。周りのSNPを使う相対的ハプロタイプ量(RHDO)や、変化そのものの量を数える相対的変異量(RMD)があり、RHDOは両親と上のお子さんなど家族の検体が必要です。
Q4. 単一遺伝子疾患のNIPTで陽性だったら確定検査は必要ですか?
多くの遺伝子を広く調べるスクリーニング型で陽性の場合は、羊水検査などで確認が必要です。家族の原因がわかったうえで十分な準備をして行う診断型は、英国では侵襲的検査の代わりとして提供されていますが、判定できない場合や、父由来変化の除外検査で父の変化が検出され、母由来変化の遺伝状況を別途確認する必要がある場合などには確定検査が必要になります。
Q5. どんな病気が母体血で調べにくいのですか?
リピートの伸長で起こる病気、大きな構造の変化、繰り返し配列の中の変化は調べにくい領域です。また、血縁関係のある夫婦や多胎妊娠では方法が使えないことがあります。ハンチントン病のようなリピート病では、羊水検査や絨毛検査による診断が基本になります。
まとめ:NIPDは遺伝形式と家族の状況で使い方が決まる
NIPDは、母体血中の胎盤由来DNAで単一遺伝子疾患の変化を調べる方法です。父由来や新生突然変異の変化は「あるかないか」で比較的容易に判定でき、母由来の変化は相対的ハプロタイプ量や相対的変異量で量のわずかな差を数えて判定します[1]。英国では、父の変化の除外や嚢胞性線維症のハプロタイプ検査などが公的医療の検査として提供されています[2][3]。
多くの遺伝子を広く調べるスクリーニング型も開発され、2019年の研究では30遺伝子のパネルで追跡できた例に偽陽性・偽陰性はありませんでした[4]。ただし、スクリーニング型の陽性は確定検査で確かめる必要があり、リピート病や血縁関係のある夫婦、多胎などでは使えないことがあります[1]。NIPT教科書シリーズはここで一区切りです。母体血の検査の基礎となるシークエンスの仕組みは第2章NIPTの原理を理解しようから読み直すことができます。
🧬 NIPT・出生前診断をご検討の方へ
ミネルバクリニックには臨床遺伝専門医が常駐しており、NIPTの検査前の説明から、結果に応じた確定検査の案内までを行っています。染色体のNIPTに加えて、単一遺伝子疾患を対象にしたNIPTについても、調べられる範囲と限界を医学的な根拠に基づいて説明します。
参考文献
- [1] Hanson B, Scotchman E, Chitty LS, Chandler NJ. Non-invasive prenatal diagnosis (NIPD): how analysis of cell-free DNA in maternal plasma has changed prenatal diagnosis for monogenic disorders. Clin Sci (Lond). 2022;136(22):1615-1629. [PubMed 36383187]
- [2] NHS North Thames Genomic Medicine Service. NIPD using paternal exclusion testing for very rare conditions where familial variant is known (Clinical indication R249). National Genomic Test Directory. [NHS]
- [3] NHS North Thames Genomic Medicine Service. NIPD for cystic fibrosis – haplotype testing (Clinical indication R304). National Genomic Test Directory. [NHS]
- [4] Zhang J, Li J, Saucier JB, et al. Non-invasive prenatal sequencing for multiple Mendelian monogenic disorders using circulating cell-free fetal DNA. Nat Med. 2019;25:439-447. [DOI]
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