目次
- 1 いただいたご質問:SLEでプレドニゾロンを飲んでいて、妊娠しても大丈夫ですか?
- 2 結論:プレドニン(プレドニゾロン)は妊娠中・妊活中も飲めることが多い薬です
- 3 プレドニゾロンは赤ちゃんにどのくらい届く?胎盤のはたらき
- 4 ステロイドの胎児への影響:口唇口蓋裂の研究はどうなっている?
- 5 量と時期の考え方:「少ない量で病気を落ち着かせる」が目標
- 6 妊活中(妊娠前)に主治医と確認しておきたいこと
- 7 SLEの妊娠で大切なこと:病気が落ち着いていれば多くの方が出産している
- 8 授乳中のプレドニゾロンと、塗り薬・吸入のステロイド
- 9 臨床遺伝専門医の考え方:赤ちゃんの心配を3つに分ける
- 10 よくある質問(FAQ)
- 11 まとめ
- 12 参考文献
- 13 関連記事
プレドニン(一般名プレドニゾロン)は、妊娠中・妊活中でも主治医の判断で飲み続けることが多いステロイドの飲み薬です。胎盤には、プレドニゾロンを働かない形に変える酵素があり、赤ちゃんに届く量が少なくなる仕組みがあります。口唇口蓋裂がわずかに増えるかどうかは研究によって結果が分かれていて、デンマークの約83万人の研究では、飲み薬・吸入・塗り薬などを合わせた解析で明確な増加は認められませんでした。いちばん大切なのは、自己判断で薬をやめないことです。この記事は、全身性エリテマトーデス(SLE)でプレドニゾロンを飲みながら妊娠を考えている方からのご質問に、臨床遺伝専門医の院長が答えたものです。妊娠中の赤ちゃんの染色体を調べる東京のNIPT(新型出生前診断)についても、最後にまとめています。
⏱️ 30秒でわかる要約
💊 Q. プレドニンは妊娠中も飲めますか?
主治医が必要と判断すれば、妊娠中も続けることが多い薬です。添付文書は「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与」としていて、使うかどうかは病気の状態と量で決まります。
👶 Q. ステロイドの飲み薬で赤ちゃんに奇形が起こりますか?
2000年のメタ解析では口唇口蓋裂がやや増えるという結果でしたが、デンマークの約83万人の研究では、飲み薬・吸入・塗り薬などを合わせた解析で明確な増加は認められませんでした。米国の出生統計では、口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)は約1,000人に1人、口蓋裂のみは約1,687人に1人と報告されています。
📏 Q. 量は関係ありますか?
関係します。欧州リウマチ学会の推奨では、プレドニゾン換算で1日10〜20mg以上の使用は、観察研究で早産の増加と関連していました。できるだけ少ない量で病気を落ち着かせることが目標になります。
🚫 Q. 妊娠がわかったら薬をやめたほうがいいですか?
自己判断でやめないでください。SLEの再燃は流産や早産、妊娠高血圧腎症と強く関係します。薬の調整は主治医(膠原病内科)と産科で決めます。
- ➤胎盤のはたらき → プレドニゾロンは胎盤の酵素で働かない形に変えられる
- ➤口唇口蓋裂 → 研究で結果が分かれる。大規模研究では、はっきりした増加なし
- ➤量と時期 → 1日10〜20mg以上の使用と早産の増加の関連(欧州リウマチ学会)
- ➤SLEの妊娠 → 病気が落ち着いた時期の妊娠と、主治医と産科の連携が大切
- ➤授乳・塗り薬 → 授乳は主治医と相談、塗り薬・吸入は飲み薬と分けて考える

いただいたご質問:SLEでプレドニゾロンを飲んでいて、妊娠しても大丈夫ですか?
「洋美先生に聞いてみよう」は、当院に寄せられたご質問に、院長があとから答えを書き起こしているシリーズです。今回は、全身性エリテマトーデス(SLE)でステロイドの飲み薬を続けている方からのご相談です。
💬 いただいたご質問(要約)
「SLEの診断を受けて3年になります。いまはプレドニゾロン7mg/日で病状は安定していて、妊娠を希望しています。でも、ステロイドを飲み続けながら妊娠して、赤ちゃんに影響しないかとても不安です。妊娠をあきらめるべきでしょうか?」
- 29歳、妊娠したことはない
- SLEの診断から3年、いまは病気が落ち着いている(寛解)
- プレドニゾロン7mg/日で維持している
- 腎臓(ループス腎炎)や神経の症状はない
- 抗リン脂質抗体症候群の合併はない
SLEは、免疫の仕組みが自分の体を攻撃してしまう自己免疫疾患の1つで、皮膚・関節・腎臓・血液などいろいろな臓器に炎症が起こります。日本では指定難病(告示番号49)で、難病情報センターによると患者さんは全国で約6〜10万人と考えられています[1]。20〜40歳の女性に多く発症するため、妊娠・出産と治療をどう両立するかは、多くの患者さんにとって大きなテーマです。
結論:プレドニン(プレドニゾロン)は妊娠中・妊活中も飲めることが多い薬です
ご相談の方の状況(病気が落ち着いている、プレドニゾロン1日7mg、腎臓や神経の病変なし、抗リン脂質抗体症候群なし)であれば、妊娠をあきらめる必要はないと考えます。そのうえで、妊娠の時期と薬の調整は、膠原病内科の主治医と分娩する施設の産科医とで計画して決めていきます。
「プレドニン」は商品名で、成分の名前(一般名)は「プレドニゾロン」です。検索では「プレドニン 妊娠中」「プレドニゾロン 妊婦」のように両方の名前が使われますが、同じ成分の話です。海外の論文やガイドラインでは、体の中でプレドニゾロンに変わる「プレドニゾン」という薬で量が書かれていることが多く、量はほぼ同じとして読み替えます。
添付文書にはどう書かれている?(2026年10月時点)
日本の添付文書(プレドニン錠5mg、2026年3月改訂)では、妊婦について「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」と書かれています。理由として、動物試験(ラット、マウス、ウサギ、ハムスター)で催奇形作用が報告されていること、新生児に副腎不全が起こることがあることが挙げられています[2]。
この書き方は「妊婦には使えない」という意味ではありません。病気をおさえる必要があるときには使う、という意味です。SLEでは、薬をやめて病気が悪くなることのほうが、母体にも赤ちゃんにも大きな影響を与えることがわかっています(後半のSLEの妊娠の章で、数字で説明します)。動物試験の結果は、人で同じことが同じ頻度で起こるという意味ではないため、人での研究を次の章で見ていきます。
プレドニゾロンは赤ちゃんにどのくらい届く?胎盤のはたらき
プレドニゾロンは、胎盤にある「11β-HSD2(11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素2型)」という酵素で、働かない形に変えられます。そのため、お母さんが飲んだ量がそのまま赤ちゃんに届くわけではありません。
胎盤の「11β-HSD2」とは
胎盤は、お母さんと赤ちゃんの間で酸素や栄養を受け渡すだけでなく、お母さんの体の中のホルモンから赤ちゃんを守る役目も持っています。お母さんの体内のステロイドホルモン(コルチゾール)は、ストレスなどで量が増えます。胎盤の11β-HSD2は、このコルチゾールを働かない形(コルチゾン)に変えて、赤ちゃんが必要以上にさらされないようにしています。
薬として使う合成ステロイドも、この酵素の影響を受けます。人の胎盤の組織を使った研究では、11β-HSD2がプレドニゾロンを代謝することが確かめられています。同じ研究で、ぜんそくの吸入薬に使われるブデソニドとフルチカゾンは代謝されないことも示されています[3]。つまり、ステロイドの種類によって胎盤での扱われ方が違います。
帝王切開のときに測った研究では、赤ちゃんの血液のプレドニゾロンの濃さは、お母さんの血液の約8〜10分の1でした[4]。お母さんが飲んだ量がそのまま赤ちゃんに届くわけではない、というのはこの結果にもとづいています。
赤ちゃんの肺を育てるために使うステロイドとの違い
早産になりそうなときに、赤ちゃんの肺の成熟を早める目的でお母さんにステロイドの注射をすることがあります。このとき使われるのはベタメタゾンなどで、プレドニゾロンではありません。ベタメタゾンを注射した妊婦さんの研究では、注射の1時間後に、臍帯血(へその緒の血液)でもベタメタゾンが測られています[5]。
この違いは、胎盤での分解されやすさの差から来ています。人の胎盤の組織を使った研究では、2時間のうちに働かない形に変えられた割合は、コルチゾールが約67%、プレドニゾロンが約51%だったのに対し、ベタメタゾンは約7.1%、デキサメタゾンは約1.8%にとどまりました[6]。フッ素を含むベタメタゾン・デキサメタゾンは胎盤の11β-HSD2でほとんど不活化されずに赤ちゃんに届くため、赤ちゃんの肺の成熟を早める目的にはベタメタゾンが使われます。
ここから言えるのは、「ステロイド」とひとまとめにせず、どの成分を・何の目的で使っているのかを分けて考える必要がある、ということです。お母さんの病気の治療が目的のときには胎盤で分解されやすいプレドニゾロン、赤ちゃんの肺に届けることが目的のときには胎盤を通り抜けやすいベタメタゾン、というように使い分けられています。
💡 用語解説:副腎不全(新生児)
副腎は、腎臓の上にある小さな臓器で、ステロイドホルモンを作っています。外からステロイドが入ると、体は自分で作る量を減らします。添付文書には、お母さんがステロイドを使っていた場合に、生まれた赤ちゃんの副腎の働きが弱くなる(副腎不全)ことがあると書かれています[2]。妊娠中にステロイドを使っていたことは、分娩する施設と小児科に必ず伝えてください。
ステロイドの胎児への影響:口唇口蓋裂の研究はどうなっている?
ステロイドの飲み薬と赤ちゃんの生まれつきの病気の関係で、いちばん調べられてきたのは口唇口蓋裂です。結果は研究によって分かれていて、「少し増える」とした研究もあれば、大規模な研究(飲み薬・吸入・塗り薬などを合わせた解析)では「明確な増加は認められない」という結果になっています。
薬が赤ちゃんの体のつくりに影響することを「催奇形性」、そのような作用を持つ薬や物質を催奇形因子(テラトゲン)といいます。ステロイドが催奇形因子かどうかを判断するには、動物の結果ではなく、人で妊娠初期に使った人と使わなかった人を比べた研究が必要です。
2000年のメタ解析:口唇口蓋裂は「やや増える」
カナダのトロントのグループが2000年に発表した研究では、妊娠中にプレドニゾンを使った妊婦さん184人と使わなかった妊婦さん188人を追いかけ、大きな生まれつきの病気の頻度に統計的な差はありませんでした。一方、同じ論文で過去の研究を集めて分析した(メタ解析)ところ、症例対照研究(口唇口蓋裂の赤ちゃんとそうでない赤ちゃんで、お母さんの薬の使用を比べる方法)をまとめた結果では、口唇口蓋裂のオッズ比が3.35(95%信頼区間1.97〜5.69)でした[7]。
オッズ比3.35は、口唇口蓋裂のオッズ(起こる見込みの比)が比べた群の3.35倍だったことを示します。口唇口蓋裂のように発生頻度が低い病気では、オッズ比はリスク比に近い値になることがありますが、この数字だけから一人ひとりの妊婦さんの赤ちゃんが口唇口蓋裂になる確率を計算することはできません。もともとの頻度が低い病気なので、絶対的な増え方も小さくなります。また、症例対照研究は、口唇口蓋裂のお子さんを持つお母さんのほうが妊娠中の薬をよく覚えている(思い出しの偏り)など、結果が大きく出やすい弱点があります。
デンマークの約83万人の研究:はっきりした増加はなし
2011年に発表されたデンマークの全国データの研究では、1996年から2008年までに生まれた832,636人を調べ、生後1年までに見つかった口唇口蓋裂は1,232人(約1.48人/1,000人)でした。妊娠初期のステロイド使用について、飲み薬・吸入・塗り薬などの使い方をすべて合わせた解析では、口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)の有病オッズ比は1.05(95%信頼区間0.80〜1.38)、口蓋裂のみでは1.23(0.83〜1.82)で、明確な増加は認められませんでした[8]。ただし、この結果をプレドニゾロンの飲み薬だけの安全性の証明とみなすことはできません。
ただし、この研究でも、妊娠初期にステロイドの飲み薬を使って口唇口蓋裂になった赤ちゃんはいなかったため、飲み薬だけに限った危険度は計算できていません。著者は、飲み薬について中等度以上の危険を否定することはできないと書いています[8]。研究の数字は「ゼロ」を証明するものではなく、「大きく増えるという証拠はない」と読むのが正確です。
📊 ステロイドと口唇口蓋裂の主な研究
| 研究 | 対象 | 結果 |
|---|---|---|
| Park-Wyllie ら(2000) | 前向きコホート(プレドニゾン184人・対照188人)+過去の研究のメタ解析 | コホートでは大きな先天異常に差なし。症例対照研究のまとめでは口唇口蓋裂のオッズ比3.35 |
| Hviid ら(2011) | デンマークの出生832,636人 | 妊娠初期のステロイド使用で口唇裂のオッズ比1.05、口蓋裂のみ1.23(どちらもはっきりした増加なし) |
※出典:Park-Wyllie 2000[7]、Hviid 2011[8]。オッズ比は1より大きいほど関連が強いことを表します。
口唇口蓋裂はもともとどのくらい生まれる?
薬の影響を考えるときは、もともとの頻度と比べることが欠かせません。米国の2010〜2014年の全国推計では、口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)は出生1万人あたり10.00人(約1,000人に1人)、口蓋裂のみは1万人あたり5.93人(約1,687人に1人)でした[9]。デンマークの研究でも、約1.48人/1,000人でした[8]。
つまり、仮に「少し増える」側の結果が正しかったとしても、ステロイドを飲んでいた妊婦さんから生まれる赤ちゃんの大多数は、口唇口蓋裂を持たずに生まれます。英国の催奇形情報サービス(UKTIS)も、妊娠初期のステロイド使用と口唇口蓋裂の関係は一部の研究でだけ見られたもので、使用した妊婦さんの赤ちゃんの大多数はこの病気を持たずに生まれると説明しています[10]。
口唇口蓋裂は、口唇裂・口蓋裂として、生まれたあとの手術と言葉・食べ方のケアで治療していく病気です。妊娠中の超音波検査で口唇裂が見つかることもありますが、口蓋裂だけのときは見つけにくいことがあります。いつ・どのように見つかるかは、口蓋裂はいつわかる?妊娠週数別の診断時期とエコー検査の限界で詳しく解説しています。
🩺 院長コラム【「影響がある・ない」の二択で考えない】
薬と赤ちゃんの関係を調べた研究は、「何倍になるか」という比で書かれることが多く、それだけを見ると大きな危険に見えることがあります。私は、比だけでなく、もともとの頻度と、病気をおさえないときの危険を必ず同じ物差しに並べて考えることが大切だと考えています。
SLEの妊婦さんにとっては、プレドニゾロンをやめて病気が悪くなる危険のほうが、口唇口蓋裂が増えるかもしれない危険よりずっと大きいことがほとんどです。だからこそ、自己判断で薬を減らしたりやめたりせず、主治医と量を相談することが大切だと考えています。
量と時期の考え方:「少ない量で病気を落ち着かせる」が目標
プレドニゾロンの影響は、量が多いほど大きくなります。妊娠中は、病気をおさえられる範囲でできるだけ少ない量にすることが目標です。
量:1日10〜20mg以上の使用と早産の関連
欧州リウマチ学会(EULAR)が2017年に出した、SLE・抗リン脂質抗体症候群の女性の妊娠についての推奨では、ステロイドの飲み薬は、管理された研究ではないものの、利益と危険のバランスは許容できるとされています。一方で、プレドニゾン換算で1日10〜20mg以上を維持量として使うことは、観察研究で早産と関連していて、オッズ比は3.5と報告されています[11]。観察研究なので、量の多い方ほどもともとの病気の勢いも強いという影響を切り分けきれず、ステロイドの量だけが早産の原因とは言い切れません。2024年に改訂されたEULARの推奨では、妊娠中のプレドニゾロンは、できれば1日5mg以下の維持量まで減らし、やめられる場合はやめることが目標とされ、それより多い量は母体と赤ちゃんの合併症の危険と比べて決めるとされています[12]。
ご相談の方の量(1日7mg)は、早産との関連が報告された1日10〜20mgより少ない量です。1日5mg以下まで減らせるかどうかは、病気の状態を見ながら主治医が判断します。また、妊娠中に病気が悪くなれば、量を増やす必要が出ることもあります。量を増やすかどうかは、病気の勢いと赤ちゃんへの影響を比べて、主治医が判断します。
時期:妊娠初期と、妊娠の終わりごろ
赤ちゃんの顔や心臓などの体のつくりができるのは妊娠初期です。口唇口蓋裂との関係が調べられてきたのも、妊娠初期に使った場合です[7][8]。妊娠に気づく前から飲んでいる方がほとんどなので、「妊娠初期に飲んでしまった」と心配して急にやめるのではなく、妊娠がわかった時点で主治医に連絡することが大切です。
妊娠の終わりごろまで使っていた場合は、先に説明したように、生まれた赤ちゃんの副腎の働きが弱くなることがあります[2]。また、長くステロイドを使っているお母さんは、分娩のときの体への負担に備えて、ステロイドの量を一時的に調整することがあります。これも分娩する施設と主治医で事前に打ち合わせておく点です。
妊活中(妊娠前)に主治医と確認しておきたいこと
SLEの方の妊娠は、「病気が落ち着いている時期に、計画して妊娠すること」がいちばん大切です。EULARの推奨では、妊娠中にSLEが活動していると、妊娠高血圧腎症・子癇のオッズ比12.7、緊急帝王切開19.0、早い時期の流産3.0、早産5.5と、さまざまな危険が高くなることがまとめられています[11]。
📝 妊娠前に主治医と確認しておきたいこと
| 確認すること | 理由 |
|---|---|
| 病気が落ち着いているか | 活動しているSLEは、妊娠高血圧腎症・流産・早産と強く関係する[11] |
| ヒドロキシクロロキンを続けるか | EULARは妊娠前から妊娠中を通して使うことを推奨。やめると妊娠中の再燃が増える[11] |
| 妊娠前にやめる必要がある薬はないか | ミコフェノール酸モフェチルは催奇形性があり、妊娠前に中止することが重要[1] |
| 抗リン脂質抗体 | 抗体が陽性かどうかと、抗リン脂質抗体症候群(血栓症や妊娠合併症を伴う状態)の診断があるかを分けて確認する。陽性などで妊娠高血圧腎症の危険が高い場合は低用量アスピリン(妊娠前か妊娠16週までに開始)、抗リン脂質抗体症候群ではヘパリンとの併用がすすめられる。使うかどうかと開始時期は主治医と産科で判断する[11] |
| 抗SS-A(Ro)抗体 | 赤ちゃんの先天性心ブロックと関係する。前のお子さんに起きていなければ、危険は0.7〜2%と低い[11] |
妊娠高血圧腎症(子癇前症)は、妊娠中に血圧が上がり、腎臓などの臓器に負担がかかる病気です。SLEや抗リン脂質抗体を持つ方は起こりやすいため、早めの予防が大切になります。詳しくは妊娠高血圧症候群とはをご覧ください。
ご相談の方は、抗リン脂質抗体症候群の合併がなく、腎臓の病変もありません。この2つは、EULARの推奨でも妊娠の経過に影響する大きな因子として挙げられているもので[11]、どちらもないことは妊娠を考えるうえで有利な条件です。
SLEの妊娠で大切なこと:病気が落ち着いていれば多くの方が出産している
病気が落ち着いた状態で妊娠したSLEの方では、多くの方が大きな問題なく出産しています。米国を中心とした前向き研究(PROMISSE研究)では、妊娠前から病気が重くないSLEの方385人を対象にしました。
PROMISSE研究でわかったこと
この研究では、胎児の死亡・新生児の死亡・早産・小さく生まれることなどをまとめた「妊娠の悪い結果(複合評価項目)」が19.0%に見られました。含まれる項目は、胎児の死亡4%、新生児の死亡1%、胎盤の働きの低下や高血圧・妊娠高血圧腎症による36週前の早産9%、在胎週数に比べて小さく生まれた赤ちゃん(SGA)10%です。1つの妊娠で複数の項目が重なることがあるため、これらの割合を単純に足すことはできません。妊娠中期・後期に重い再燃が起きたのは、それぞれ2.5%と3.0%でした[13]。
悪い結果を予測する因子は、ループスアンチコアグラント陽性(オッズ比8.32)、降圧薬を使っていること(7.05)、医師による病気の勢いの評価が高いこと(4.02)、血小板が少ないことでした。最初の時点でこれらの因子がなかった方では、悪い結果は7.8%にとどまりました[13]。
この研究は、病気が重くないSLEの方を対象にしたもので、腎臓の病気が強い方や病気が活動している方は含まれていません。それでも、「SLEだから妊娠をあきらめる」のではなく、「自分にどの危険因子があるか」を主治医と確かめることが大切だとわかります。
⚠️ 妊娠がわかっても、自己判断で薬をやめないでください
英国の催奇形情報サービス(UKTIS)も、妊娠中の女性は医師に相談せずに薬を変えたりやめたりしないよう呼びかけています[10]。長く飲んでいるステロイドを急にやめると、病気の再燃だけでなく、体のステロイドが足りなくなる状態を起こすことがあります。妊娠がわかったら、まず主治医に連絡してください。
授乳中のプレドニゾロンと、塗り薬・吸入のステロイド
授乳:主治医と相談して決める
プレドニゾロンは母乳中に移ることがありますが、欧州リウマチ学会(EULAR)の2024年改訂の推奨では、授乳と両立できる薬に分類され、授乳中も続けるとされています[12]。一方、日本の添付文書(2026年3月改訂)では、授乳婦について「治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること」とされていて、使う量や期間も含めて、実際の対応は主治医と相談して決めます[2]。
出産後は、ホルモンの変化や睡眠不足で体の負担が大きい時期です。出産後に病気が悪くなることもあるため、授乳を理由に自己判断で薬をやめるのではなく、授乳と治療の両方を続けられる方法を主治医と相談してください。
塗り薬・吸入・点鼻のステロイドは飲み薬と分けて考える
「ステロイド 妊娠中」で調べると、塗り薬や点鼻薬の情報もたくさん出てきます。飲み薬と塗り薬・吸入薬では、体に入る量がまったく違うため、同じように考える必要はありません。
デンマークの約83万人の研究では、吸入のステロイドと口唇口蓋裂の間に関連は見られませんでした。皮膚の塗り薬では口唇裂のオッズ比が1.45とわずかに高く出ましたが、著者は、多くの比較を行ったために偶然出た結果である可能性が高いと考察しています[8]。また、ぜんそくの妊婦さんの研究では、吸入ステロイドの使用と赤ちゃんの大きさや胎盤の重さとの間に関連は見られませんでした[3]。
臨床遺伝専門医の考え方:赤ちゃんの心配を3つに分ける
「赤ちゃんに何か起きないか」という心配は、①薬の影響、②お母さんの病気の影響、③薬や病気とは関係なく起こる生まれつきの病気、の3つに分けて考えると整理しやすくなります。それぞれ、確かめる方法も相談先も違います。
🧭 赤ちゃんの心配の分け方
| 心配の種類 | 例 | 確かめ方・相談先 |
|---|---|---|
| ①薬の影響 | 口唇口蓋裂、新生児の副腎の働き | 主治医と量の調整。妊娠中の超音波検査は産科で |
| ②お母さんの病気の影響 | 再燃、妊娠高血圧腎症、早産、先天性心ブロック | 主治医(膠原病内科)と産科の連携による妊娠中の管理 |
| ③薬や病気と関係なく起こるもの | ダウン症候群などの染色体の変化 | NIPT(新型出生前診断)・確定検査(絨毛検査・羊水検査)・遺伝カウンセリング |
③の生まれつきの病気は、お母さんがSLEかどうか、プレドニゾロンを飲んでいるかどうかとは関係なく、どの妊娠にも起こりえます。先天異常の原因と頻度は先天異常とは?原因・確率・種類にまとめています。ステロイドを飲んでいることで頭がいっぱいになっていると、この③が見落とされがちです。逆に、③の検査で異常がなかったとしても、①や②の心配が消えるわけではありません。NIPTでわかること・わからないことを知ったうえで、3つを別々に確かめていくのが確実な方法です。
当院でできること
当院は膠原病の治療は行っていないため、SLEの治療やプレドニゾロンの量の調整は、主治医(膠原病内科)と産科で進めてください。そのうえで、③については当院で検査と遺伝カウンセリングを受けられます。
当院のNIPT(新型出生前診断)は、通常は妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。受けられる時期の上限は設けていません。NIPTで陽性だった場合は、確定検査(絨毛検査・羊水検査)で確かめる必要があり、当院では確定検査まで院内で受けられます。他院でNIPT陽性だった方の確定検査もお引き受けしています。臨床遺伝専門医が常駐し、全室個室・90分の受診枠でほかの患者さんと顔を合わせずに受診できます。当院の遺伝子検査・NIPT・遺伝カウンセリングは自費診療です。
🩺 院長コラム【ご相談の方への答え】
病気が落ち着いていて、プレドニゾロンが1日7mg、腎臓や神経の病変も抗リン脂質抗体症候群もない、という今回の方の条件は、妊娠を考えるうえで良い条件がそろっていると考えます。妊娠をあきらめる理由は見当たりません。
大切なのは、主治医に妊娠の希望を伝え、病気が落ち着いている時期を選んで妊娠すること、妊娠したら主治医と産科の両方で見てもらうことです。そのうえで、薬とは別に、どの妊娠にも起こりうる染色体の変化が気になるときは、NIPTと遺伝カウンセリングを選ぶことができます。私は総合内科専門医として内科の病気と妊娠の関係を、臨床遺伝専門医として赤ちゃんの生まれつきの病気を、両方の目で見ることが大切だと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. プレドニン(プレドニゾロン)は妊娠中も飲み続けてよいですか?
主治医が必要と判断すれば、妊娠中も続けることが多い薬です。日本の添付文書では、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使うとされています。SLEでは病気の再燃が流産や早産、妊娠高血圧腎症と強く関係するため、自己判断でやめずに主治医と量を相談してください。
Q2. ステロイドの飲み薬で赤ちゃんに奇形が起こる確率は上がりますか?
研究で結果が分かれています。2000年のメタ解析では症例対照研究のまとめで口唇口蓋裂のオッズ比が3.35でしたが、デンマークの約83万人の研究では、飲み薬・吸入・塗り薬などを合わせた妊娠初期のステロイド使用で、口唇口蓋裂の明確な増加は認められませんでした。米国の出生統計では、口唇裂(口蓋裂を伴うものを含む)は約1,000人に1人、口蓋裂のみは約1,687人に1人と報告されていて、ステロイドを使った妊婦さんの赤ちゃんの大多数はこの病気を持たずに生まれます。
Q3. プレドニゾロンは赤ちゃんにどのくらい届きますか?
プレドニゾロンは、胎盤にある11β-HSD2という酵素で働かない形に変えられるため、お母さんが飲んだ量がそのまま赤ちゃんに届くわけではありません。一方、赤ちゃんの肺の成熟を早める目的で使うベタメタゾンは、臍帯血でも測られており、目的によってステロイドの種類が使い分けられています。
Q4. 妊活中にプレドニンを飲んでいても大丈夫ですか?
主治医の管理のもとで飲み続けながら妊娠を計画する方は多くいます。妊娠前には、病気が落ち着いているか、ヒドロキシクロロキンを続けるか、妊娠前にやめる必要がある薬(ミコフェノール酸モフェチルなど)はないか、抗リン脂質抗体や抗SS-A抗体の有無を主治医と確認しておくことが大切です。
Q5. プレドニンを飲みながら授乳できますか?
プレドニゾロンは母乳中に移ることがありますが、欧州リウマチ学会(EULAR)の2024年改訂の推奨では、プレドニゾロンは授乳と両立できる薬に分類され、授乳中も続けるとされています。日本の添付文書では、治療上の有益性と母乳栄養の有益性を考えて、授乳を続けるか中止するかを検討するとされています。出産後は病気が悪くなることもあるので、授乳を理由に自己判断で薬をやめず、主治医と相談してください。
Q6. ミネルバクリニックでSLEの治療やお薬の調整はできますか?
当院は膠原病(全身性エリテマトーデスなど)の治療を行っていません。お薬の量の調整や妊娠の時期の相談は、膠原病内科の主治医と産科で進めてください。妊娠中の赤ちゃんの染色体を調べるNIPT、確定検査(絨毛検査・羊水検査)、遺伝カウンセリングは当院で受けられます。
まとめ
プレドニン(プレドニゾロン)は、妊娠中・妊活中でも主治医の判断で続けることが多いステロイドの飲み薬です。胎盤の11β-HSD2で働かない形に変えられる仕組みがあり[3]、口唇口蓋裂との関係は研究で結果が分かれていて、大規模な研究(飲み薬・吸入・塗り薬などを合わせた解析)では明確な増加は認められていません[8]。1日10〜20mg以上の使用と早産の増加との関連が報告されているため[11]、できるだけ少ない量で病気を落ち着かせることが目標になります。
SLEの方の妊娠では、病気が落ち着いた時期を選び、主治医と産科が連携して妊娠を見ていくことが大切です。薬の影響、病気の影響、薬や病気と関係なく起こる生まれつきの病気を分けて考え、自己判断で薬をやめずに、それぞれの専門家に相談してください。
🔬 妊娠中の赤ちゃんの染色体が気になる方へ
SLEの治療やお薬の調整は主治医と産科で進め、薬とは関係なくどの妊娠にも起こりうる染色体の変化は、NIPTで調べることができます。当院のNIPTは妊娠9週から(6〜8週は臨床研究として)受けられ、陽性なら確定検査(絨毛検査・羊水検査)まで院内で受けられます。検査を受けるかどうかまだ決めていない方は、先に遺伝カウンセリングとはをご覧ください。
参考文献
- [1] 全身性エリテマトーデス(SLE)(指定難病49). 難病情報センター. [難病情報センター]
- [2] プレドニン錠5mg 電子添文(2026年3月改訂 第6版). 9.5 妊婦・9.6 授乳婦. 医薬品医療機器総合機構(PMDA). [PMDA]
- [3] Murphy VE, Fittock RJ, Zarzycki PK, et al. Metabolism of synthetic steroids by the human placenta. Placenta. 2007;28(1):39-46. [DOI]
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