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抗がん剤治療後の子作りはいつから?夫(男性)の精子への影響と待つ期間、子どもに奇形(先天異常)は増えるのかを臨床遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

夫(男性)が抗がん剤治療を受けたあとの子作りは、「最後の投与から、薬が体から消える期間に約3か月を足した期間」がひとつの目安で、実際に待つ期間は使った薬によって変わります。精子は2か月あまりかけてつくられるため、治療中に影響を受けた精子が入れ替わるまで時間が必要だからです。また、治療後に授かった子どもで先天異常(奇形)が増えるという結果は、大規模な研究では示されていません。この記事では、患者さんからいただいたご質問にお答えする形で、精子への影響、待つ期間の考え方、生まれてくる子どもへの影響を、がん薬物療法専門医でもある臨床遺伝専門医の立場から解説します。

⏱️ 30秒でわかる要約

💊 Q. 抗がん剤治療後の子作りはいつから?

使った薬によって違います。DNAを傷つける性質のある薬では、最後の投与から「血中半減期の5倍+3か月」の避妊が国の目安です(2023年の厚生労働省ガイダンス)。実際の期間は夫の主治医に確認してください。

🧬 Q. 抗がん剤で子どもができなくなる?

治療によっては、精液に精子がいない状態(無精子症)が長く続くことがあります。治療を始める前の精子凍結保存が、思春期以降の男性で確立された方法です。

👶 Q. 奇形児(先天異常)は増える?

スウェーデンの約200万人の研究では、抗がん剤治療の後に授かった子と治療前に授かった子で、先天異常の割合に差は見られませんでした。がんの既往がある父親の子ども全体では、わずかに高いという報告もあります。

🤰 Q. 妊娠したら何をすればいい?

夫の治療歴を産科の医師に伝えてください。父親の治療歴だけでNIPTが必要になるわけではありませんが、不安があれば遺伝カウンセリングで整理できます。当院のNIPTは妊娠9週から(6〜8週は臨床研究)受けられます。

妊娠したあとに受けられる検査の範囲と、東京・北青山の当院での受け方は、東京のNIPT(新型出生前診断)のページにまとめています。

この記事でわかること
📖 読了時間:約10分
💊 抗がん剤・精子・子作り・先天異常
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤いつから → 最後の投与から「半減期の5倍+3か月」が国の目安(DNAを傷つける薬の場合)。薬ごとに違う
  • ➤精子への影響 → 精子のDNAの傷は治療後3〜6か月に目立ち、12〜24か月で落ち着いたという研究がある
  • ➤子どもへの影響 → 治療後に授かった子で先天異常が増えるという結果は、大規模研究では出ていない
  • ➤できること → 治療前の精子凍結、治療中の避妊、治療後の主治医への確認と遺伝カウンセリング

抗がん剤治療後の子作りはいつから?夫(男性)の精子への影響と待つ期間、子どもに奇形(先天異常)は増えるのかを臨床遺伝専門医が解説

💬 いただいたご質問

「夫が以前、抗がん剤治療を受けていました。治療は終わっていますが、子作りはいつから始めてよいのでしょうか。妊娠しても赤ちゃんに影響はないのでしょうか。」

このようなご質問を受けることがよくあります。がんの治療を乗り越えたご夫婦にとって、これから授かる子どもへの影響は、とても気になることだと思います。以下、ご質問に順番にお答えします。

1. 抗がん剤治療後の子作りはいつから?

抗がん剤治療後に子作りを始める時期は、使った薬の性質と、薬が体から消えるまでの時間で決まります。「治療が終わって何か月たてば誰でも大丈夫」という一律の期間はありません。

国の目安は「半減期の5倍+3か月」(DNAを傷つける薬の場合)

厚生労働省は2023年2月、「医薬品の投与に関連する避妊の必要性等に関するガイダンス」を出しました。これは、薬を使う人の次の世代への影響をできるだけ小さくするために、添付文書に避妊の期間をどう書くかを決めたものです[1]。

このガイダンスでは、DNAを傷つける性質(遺伝毒性)のある薬を使った男性は、最後の投与から「血中半減期の5倍」に「3か月」を加えた期間、避妊することが目安とされています。半減期の5倍は、薬が血液の中からほぼ消えるまでの期間です。3か月は、精子がつくられる期間と、つくられた精子が射精されずに体の中にとどまっている期間を含めたものと説明されています。半減期が2日未満の薬では、5倍の期間を考えずに3か月としてよいとされています[1]。

薬の性質によって、待つ期間の目安が違う

待つ期間の目安は、薬がDNAを傷つけるのか、染色体の数の変化だけを起こすのか、胎児に影響するのかによって3つに分かれます。ガイダンスの男性の区分をまとめると、次のとおりです[1]。

💊 男性が薬を使ったあとの避妊期間の目安(厚生労働省ガイダンス・2023年)

薬の性質 男性の避妊期間の目安(最後の投与から) 補足
DNAを傷つける性質がある(遺伝毒性あり) 血中半減期の5倍+3か月 半減期が2日未満なら3か月としてよい。避妊はバリア法(精液と腟の接触を避ける方法)で行う
染色体の数の変化だけを起こす 血中半減期の5倍 精液に移った薬による胎児への影響を避けるための期間
DNAは傷つけないが、胎児への影響がある 精液に移るおそれがあれば血中半減期の5倍 精液に移るおそれがなければ避妊は不要

※どの区分に当たるか、具体的に何か月かは薬ごとに異なり、添付文書に書かれます。複数の薬を使った場合は、主治医にまとめて確認してください。

つまり、ご質問への答えは、「夫の主治医に、使った薬の名前と最後の投与日を伝えて、添付文書の避妊期間を確認してから」になります。がん薬物療法専門医として付け加えると、抗がん剤は1種類だけでなく複数を組み合わせることが多く、手術や放射線治療と組み合わせることもあります。治療の記録(治療の名前・薬の名前・回数・最後の投与日)を手元にまとめておくと、主治医とも産科とも話が早くなります。

この表は、医薬品の性質に応じた避妊期間の目安です。避妊期間が終了したことは、精子の数や質、DNAの状態が回復したことや、妊娠の安全性が保証されたことを意味しません。実際に妊娠を試みる時期は、使用薬剤の添付文書、治療内容、精巣機能の回復状況などを踏まえて主治医と相談する必要があります。精子の数や質の回復については、次の章で説明します。

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2. 抗がん剤が男性の精子に与える影響

抗がん剤は、分裂が盛んな細胞ほど強く影響します。精子のもとになる細胞は分裂が盛んなため、抗がん剤の影響を受けやすい細胞です。国立がん研究センターの解説でも、細胞障害性抗がん薬によって精液の中に精子がいない状態(無精子症)になることがある、とされています[2]。

精子が減る・いなくなる(無精子症)

影響の大きさは薬によって大きく違います。国立がん研究センターは、アルキル化剤や白金製剤を使った場合は、精子のもとになる細胞が極度に減るため、精子をつくる働きの回復が難しくなると説明しています[2]。アルキル化剤は、DNAに「アルキル化」という化学的な変化を起こして細胞の分裂を止める薬です。

抗がん剤のあとに起こる無精子症は、精子の通り道がふさがっているのではなく、精巣で精子がつくられないタイプです。このタイプの原因や検査については、非閉塞性無精子症(NOA)のページで詳しく解説しています。

無精子症になりやすい治療・なりにくい治療

治療によって、無精子症が長く続く危険の高さが「高リスク」「中間リスク」「低リスク」に分けられています。京都大学医学部附属病院のがん・生殖医療ネットワーク(KOFNet)が示している男性向けの分類(米国の報告をもとに一部改変)から、主なものを抜き出すと次のとおりです[3]。

🧬 治療ごとの無精子症のリスク(主なもの)

リスク 起こりうること 主な治療の例
高リスク 無精子症が長く続く、または戻らないことが多い シクロホスファミド総量7.5g/m²/プロカルバジンを含む治療(MOPP 3サイクル超、BEACOPP 6サイクル超)/アルキル化剤と全身放射線照射や精巣への放射線照射の組み合わせ
中間リスク 無精子症が長く続くことがある 精巣腫瘍に対するシスプラチンを含む治療(BEP療法2〜4サイクル、シスプラチン総量400mg/m²超、カルボプラチン総量2g/m²超)
低リスク 一時的に精子をつくる働きが落ちる ABVD療法、CHOP療法、COP療法などの一部の化学療法/アントラサイクリン系とシタラビン。なお、CHOP療法・COP療法にはアルキル化剤のシクロホスファミドが含まれ、累積投与量などによって性腺毒性のリスクは変わる
不明 データが足りない ベバシズマブ、セツキシマブ、エルロチニブ、イマチニブなどの分子標的薬

※KOFNet「男性の皆様へ」の表(Lee SJ, J Clin Oncol 2006/Levine J, J Clin Oncol 2010 より一部改変)から主なものを抜き出したものです。放射線治療の線量など、表の全体は出典をご覧ください。

分子標的薬など新しい薬については、国立がん研究センターも「生殖機能や胎児への影響については、まだ十分なデータがありません」としています[2]。新しい薬を使った場合ほど、主治医に個別に確かめることが大切です。

精子が入れ替わるまでの周期は2か月あまり

精子は、精巣の中でもとになる細胞から2か月あまりかけてつくられます。体の中の精子に目印をつけて測った研究では、目印のついた精子が精液に現れるまでの平均は64日(42〜76日)でした[4]。

このため、治療中に影響を受けた精子が新しい精子に入れ替わるには、治療が終わってから少なくとも2〜3か月はかかります。ガイダンスの「3か月」は、この精子ができる期間と、射精されるまで体の中にとどまる期間を考えた数字です[1]。精子ができる流れは精子形成のページ、減数分裂で精子と卵子ができるしくみは配偶子形成と受精のページで解説しています。

精子のDNAの傷は、治療後3〜6か月に目立ち、12〜24か月で落ち着いた

精子の数が戻ることと、精子のDNAが元の状態に戻ることは、同じではありません。イタリアの研究グループは、精巣腫瘍の患者さんの精子について、DNAが切れている精子の割合(DNA断片化指数:DFI)を、治療前から治療後24か月まで調べました[5]。

📊 精巣腫瘍の治療前後の精子DNA断片化指数(DFI・患者全体の平均)

時期 DFIの平均 読み取れること
治療前 18.0% 治療前の値
治療後3か月 27.7% もっとも悪い
治療後6か月 23.2% まだ高い
治療後12か月 14.0% 大きく改善
治療後24か月 14.4% 改善したまま

※Paoli D, et al. Andrology 2015 の抄録の値。抗がん剤治療を受けた人では、12か月・24か月の値は治療前より下がっていました。放射線治療を受けた人では下がり方がゆるやかで、12か月・24か月で治療前と同じ程度に戻っていました。

この研究では、治療後の精子DNA断片化の程度は、治療の種類と強さ、がんの進み具合によって違い、年齢や組織型とは関係がなかったと報告されています[5]。ただし、精巣腫瘍の患者さんを対象とした研究であり、ほかのがんや薬剤にそのまま当てはめることはできません。この研究集団では治療後3〜6か月にDNA断片化指数が高く、その後改善する傾向がみられましたが、すべての患者さんで同じ経過をたどるわけではありません。また、DNA断片化指数だけで、生まれてくる子どもの先天異常や遺伝学的リスクを判断することはできません。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「3か月待てば大丈夫」は、半分だけ正しい】

「先生、夫の治療が終わったので3ヶ月後から妊活を始めようと思っています」——外来でよくいただく言葉です。3か月という数字は、精子が入れ替わる周期から考えると、まちがいではありません。ただ、それは半減期の短い薬の場合の最低限の目安で、半減期の長い薬なら、その5倍の期間を足す必要があります。

さらに、上の研究のように、精子のDNAの傷が目立つのは治療後3〜6か月です。私は、がん薬物療法専門医として、また臨床遺伝専門医として、「何の薬を、どのくらい使ったか」を確かめずに3か月という数字だけで決めないでほしいと考えています。まずは夫の主治医に治療の中身を確かめ、そのうえで、ご夫婦の年齢も含めて時期を決めていくのがよいと思います。

3. 治療後に生まれた子どもの奇形(先天異常)は増える?

父親の抗がん剤治療そのものが、子どもの先天異常をはっきり増やすという結果は、大規模な研究では示されていません。ただし、がんにかかったことのある父親の子ども全体では、先天異常の割合がわずかに高いという報告があります。2つの大きな研究を紹介します。

がんの既往がある父親の子ども:3.7%と3.2%(デンマーク・スウェーデン)

デンマークとスウェーデンの全国登録を使った研究では、約178万人(1,777,765人)の単胎の赤ちゃんのうち、父親にがんの既往がある8,670人を調べました。大きな先天異常があった割合は、父親にがんの既往がある子どもで3.7%、そうでない子どもで3.2%で、リスク比は1.17(95%信頼区間1.05〜1.31)でした[6]。

著者らは、この差を「統計的には意味があるが、わずかな増加」としています。この研究には治療の記録がなく、がんの種類で治療を推しはかった分析では、抗がん剤を使うことの多い血液のがんでは差がはっきりせず(リスク比1.19、95%信頼区間0.90〜1.57)、精巣腫瘍でも差はありませんでした(0.98、0.78〜1.22)。一方、手術だけで治療されることの多い皮膚がんで高めでした(1.36)。著者らは、治療よりも病気そのものが関係している可能性を指摘しています[6]。診断から2年以内に生まれた子どもと2年より後に生まれた子どもの間でも、統計的な差は見られませんでした[6]。

抗がん剤治療の後に授かった子と前に授かった子:差なし(スウェーデン)

スウェーデンで1994〜2014年に生まれた単胎の子ども2,027,997人を調べた研究では、精巣腫瘍(精巣の胚細胞腫瘍)の父親の子ども4,207人について、治療の種類と、授かったのが治療の前か後かを分けて調べました[7]。

👶 精巣腫瘍の父親の子どもの先天異常(スウェーデン・約200万人)

比べたもの 先天異常の割合 オッズ比(95%信頼区間)
精巣腫瘍の父親の子ども と それ以外の子ども 4.4% と 3.5% 1.28(1.19〜1.38)
抗がん剤治療の後に授かった子 と 前に授かった子 4.1% と 4.6% 0.82(0.54〜1.25)=統計学的に有意な差は認められなかった

※Al-Jebari Y, et al. PLoS Med 2019 の抄録の値。凍結精子や提供精子の使用の情報はなく、抗がん剤の強さ別の分析は人数が少ないという限界があります。

著者らは、精巣腫瘍そのものはわずかに先天異常の増加と関係していたが、放射線治療や抗がん剤治療を受けた父親の子どもで、それ以上の増加は見られなかったとまとめています[7]。

研究からわかること・わからないこと

2つの研究からいえるのは、「治療を受けた父親から生まれた子どもで、先天異常が大きく増えるわけではない」ということです。一方で、どちらの研究も、どの薬を何回使ったか、治療が終わってから何か月で妊娠したかまでは十分に分けられていません。「どんな薬でも、終わった直後でも大丈夫」という意味ではないので、第1章の待つ期間は守ってください。

なお、先天異常は、父親にがんの既往がなくても、生まれてくる赤ちゃんの一定の割合に見られるものです。先天異常の原因や種類は先天異常とは、どのくらいの割合で起こるかは赤ちゃんの先天異常の割合のページで解説しています。

4. 治療前・治療中・治療後にできること

抗がん剤治療と子作りを両立させるためにできることは、治療前の精子凍結、治療中の避妊、治療後の主治医への確認の3つです。

治療前:精子凍結保存

国立がん研究センターは、精子凍結保存を「思春期以降では確立された妊孕性温存の方法」とし、できるだけがんの治療を始める前に精子を採取して凍結する、と説明しています。ただし、凍結精子があることは、パートナーの妊娠や出産を約束するものではありません[2]。子どもをつくる力(妊孕性)を残す方法は、治療が始まる前にしか選べないものが多いので、これから治療を受ける方は、主治医に早めに相談してください。

治療中:必ず避妊する

治療中は、使用薬剤の遺伝毒性や生殖発生毒性などに応じて、適切な避妊が必要です[2]。男性が使用する薬剤では、精子形成過程への影響と、精液を介してパートナーが薬剤に曝露する可能性を区別して考えます。ガイダンスでは、遺伝毒性を有する薬剤などについて、精液と腟の接触を避けるバリア法が求められる場合があります[1]。必要な避妊方法と期間は、薬剤ごとの添付文書と主治医の指示に従ってください。

治療後:主治医への確認と、必要に応じた精液検査

治療が終わったら、夫の主治医に、使った薬の避妊期間を確かめます。精子が戻っているかどうかが気になるときは、泌尿器科(男性不妊の外来)や生殖医療の施設で精液検査を受けて確かめることができます。当院は不妊治療を行っていないため、精液検査や不妊治療は、それらの施設にご相談ください。

⚠️ 注意

「早く子どもがほしいから」と、治療の途中で薬をやめたり減らしたりしないでください。がんの治療の予定と子作りの時期は、主治医と相談して決めるものです。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【待機期間は「ただ待つ」時間ではありません】

「治療がやっと終わったのに、また待たなければいけないのか」と落胆される患者さんも少なくありません。その気持ちは痛いほどわかります。でも待機期間は、決して無意味な時間ではありません。

この期間を活用して、遺伝カウンセリングで妊娠のリスクと見通しを整理しておくこと、そして妊娠後の出生前診断(NIPTや羊水検査)について知識を深めておくこと——これらがいざ妊娠したときの安心につながります。当院では「待機期間の使い方」についても、一緒に考えるカウンセリングを提供しています。

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5. 妊娠したあとに考えたいこと:NIPTと遺伝カウンセリング

父親が抗がん剤治療を受けたことだけを理由に、妊娠中に特別な検査が必ず必要になるわけではありません。妊婦健診を受ける産科の医師には、夫の治療歴を伝えておいてください。

不安があるときは、遺伝カウンセリングで整理する

「研究ではわかっていても、うちの場合はどうなのか」という不安は、数字だけではなかなか消えないものです。遺伝カウンセリングでは、夫が使った薬と時期、ご夫婦の年齢や家族歴をふまえて、わかっていることとわかっていないことを整理し、妊娠中に受けられる検査を受けるかどうかを一緒に考えます。当院では臨床遺伝専門医の院長が遺伝カウンセリングを行っています(自費診療)。内容は遺伝カウンセリングのページをご覧ください。

NIPTで調べられること・調べられないこと

NIPT(新型出生前診断)は、妊婦さんの血液で赤ちゃんの染色体の変化などを調べる検査です。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。NIPTで陽性だった場合は、確定検査(絨毛検査・羊水検査)で確かめます。当院では確定検査まで院内で受けられます。2つの確定検査の違いは絨毛検査と羊水検査の違いで解説しています。

ただし、NIPTはすべての先天異常を調べられる検査ではありません。形の異常の多くは妊婦健診の超音波検査で見ていくものです。検査の範囲は出生前診断(NIPT)でわかること・わからないことにまとめています。当院で受けられるプランと料金は、NIPT(新型出生前診断)のページでご確認ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 抗がん剤治療後、子作りはいつから始められますか?

決まった一律の期間はなく、使った薬によって変わります。厚生労働省が2023年に示したガイダンスでは、DNAを傷つける性質(遺伝毒性)のある薬の場合、男性は最後の投与から「薬が体から消えるまでの期間(血中半減期の5倍)に3か月を加えた期間」の避妊が目安とされています。実際の期間は薬ごとの添付文書に書かれているので、夫の主治医に、使った薬と最後の投与日をもとに確認してください。

Q2. 抗がん剤治療を受けると、男性は子どもができなくなりますか?

必ずできなくなるわけではありませんが、治療によっては精液の中に精子がいない状態(無精子症)が長く続くことがあります。アルキル化剤や白金製剤を使った場合は、精子のもとになる細胞が大きく減り、回復が難しくなることがあるとされています。治療を始める前の精子凍結保存は、思春期以降の男性で確立された方法です。

Q3. 夫が抗がん剤治療を受けると、奇形児(先天異常)が生まれやすくなりますか?

父親の抗がん剤治療そのものが、子どもの先天異常をはっきり増やすという結果は、大規模な研究では示されていません。スウェーデンの約200万人の子どもを調べた研究では、精巣腫瘍の治療で抗がん剤を受けた父親の子どもで、治療後に授かった子と治療前に授かった子の間に、先天異常の割合の差は見られませんでした。ただし、がんにかかったことのある父親の子ども全体では、先天異常の割合がわずかに高いという報告もあります。

Q4. 抗がん剤治療中や待つ期間のあいだに、妻が妊娠したらどうすればよいですか?

あわてて結論を出さず、まず夫の主治医と、妊娠を診てもらう産科の医師に、薬の名前と最後の投与日、妊娠の時期を伝えてください。そのうえで、わかっていることとわかっていないことを、遺伝カウンセリングで整理することができます。

Q5. 治療前に凍結した精子を使えば安心ですか?

精子凍結保存は、抗がん剤の影響を受ける前の精子を残しておける方法です。ただし、凍結した精子があることは、パートナーの妊娠や出産を約束するものではありません。凍結精子を使うかどうか、使う時期は、生殖医療を行う施設と主治医に相談して決めます。

Q6. 妊娠したら、NIPTを受けたほうがよいですか?

父親が抗がん剤治療を受けたことだけを理由に、NIPTが必ず必要になるわけではありません。NIPTは、妊婦さんの血液で赤ちゃんの染色体の変化などを調べる検査で、受けるかどうかはご夫婦が決めることです。不安が強いときは、遺伝カウンセリングでNIPTで調べられることと調べられないことを確かめてから考えるとよいと思います。当院のNIPTは妊娠9週から受けられ、妊娠6〜8週は臨床研究として受けられます。

まとめ

夫(男性)が抗がん剤治療を受けたあとの子作りは、使った薬によって待つ期間が違います。DNAを傷つける性質のある薬では、最後の投与から「血中半減期の5倍+3か月」の避妊が国の目安です[1]。精子は2か月あまりかけてつくられ[4]、精巣腫瘍の研究では、精子のDNAの傷は治療後3〜6か月に目立ち、12〜24か月で改善していました[5]。

治療後に授かった子どもで先天異常が増えるという結果は、大規模な研究では示されていません[7]。夫の主治医に薬と最後の投与日を確かめ、待つ期間を守ったうえで子作りを始めることが、いちばん確かな方法です。不安が残るときは、遺伝カウンセリングでご相談ください。

🩺 夫の治療歴があっての妊娠、臨床遺伝専門医にご相談ください

ミネルバクリニック(東京・北青山)では、がん薬物療法専門医でもある臨床遺伝専門医の院長が、遺伝カウンセリングを行っています。妊娠したあとのNIPT(妊娠9週から、6〜8週は臨床研究)から確定検査(絨毛検査・羊水検査)まで、院内で受けられます。がんの治療そのものや不妊治療は行っていないため、治療の内容は主治医に、精液検査や不妊治療は生殖医療の施設にご相談ください。

参考文献

  • [1] 厚生労働省 医薬・生活衛生局 医薬品審査管理課長・医薬安全対策課長. 医薬品の投与に関連する避妊の必要性等に関するガイダンスについて(薬生薬審発0216第1号・薬生安発0216第1号). 2023年2月16日. [厚生労働省]
  • [2] 国立がん研究センター がん情報サービス. 妊孕性 男性患者とその関係者の方へ(2023年10月26日更新). [がん情報サービス]
  • [3] 京都大学医学部附属病院 KOFNet(京都・がんと生殖医療ネットワーク). 男性の皆様へ(表:性腺毒性リスク分類 Lee SJ, J Clin Oncol 2006/Levine J, J Clin Oncol 2010 より一部改変). [KOFNet]
  • [4] Misell LM, et al. A stable isotope-mass spectrometric method for measuring human spermatogenesis kinetics in vivo. J Urol. 2006;175(1):242-246. doi:10.1016/S0022-5347(05)00053-4 [DOI]
  • [5] Paoli D, Gallo M, Rizzo F, Spanò M, Leter G, Lombardo F, Lenzi A, Gandini L. Testicular cancer and sperm DNA damage: short- and long-term effects of antineoplastic treatment. Andrology. 2015;3(1):122-128. doi:10.1111/j.2047-2927.2014.00250.x [DOI]
  • [6] Ståhl O, Boyd HA, Giwercman A, et al. Risk of birth abnormalities in the offspring of men with a history of cancer: a cohort study using Danish and Swedish national registries. J Natl Cancer Inst. 2011;103(5):398-406. doi:10.1093/jnci/djq550 [PMC3046951]
  • [7] Al-Jebari Y, Glimelius I, Berglund Nord C, et al. Cancer therapy and risk of congenital malformations in children fathered by men treated for testicular germ-cell cancer: a nationwide register study. PLoS Med. 2019;16(6):e1002816. doi:10.1371/journal.pmed.1002816 [PLoS Medicine]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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