目次
SETD5遺伝子のハプロ不全によって引き起こされる知的発達障害23型(MRD23)は、3p25.3という染色体領域に位置するSETD5遺伝子の片方が機能しなくなることで発症する、極めて稀なエピジェネティック疾患です。世界での報告症例はおよそ100例程度ながら、全エクソーム解析の普及によって真の有病率はもっと高いと推定されています。知的障害・自閉スペクトラム症・特異的顔貌・先天性心疾患を主な特徴とし、ほぼ全例(98%以上)が両親から受け継がずに子ども本人で初めて生じる新生突然変異(de novo変異)によって発症します。本記事では、臨床遺伝専門医の視点から、分子病態から診断・出生前診断・遺伝カウンセリング・最新治療展望まで包括的に解説します。
Q. 知的発達障害23型(MRD23)とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. 3番染色体短腕(3p25.3)に位置するSETD5遺伝子の片方のコピーが機能しなくなる「ハプロ不全」によって発症する、極めて稀な常染色体顕性(優性)遺伝の神経発達障害です。知的障害(94%)・発達遅滞(88%)・特異的顔貌・先天性心疾患・自閉スペクトラム症(29%)などを主徴とし、98%以上が両親から受け継がない新生突然変異によって生じます。根本的治療は未確立ですが、早期の多職種支援と定期的な合併症管理が予後に大きく関わります。
- ➤原因 → SETD5遺伝子のハプロ不全(ヘテロ接合性機能喪失型変異)・ほぼ全例がde novo変異
- ➤主な症状 → 知的障害94%・発達遅滞88%・言語遅滞77%・特異的顔貌・先天性心疾患39%
- ➤分子メカニズム → クロマチン修飾酵素(エピジェネティックライター)の機能破綻
- ➤診断 → 全エクソーム解析(WES)または全ゲノム解析(WGS)が必須
- ➤出生前診断 → NIPTの単一遺伝子スクリーニング(インペリアルプラン)が選択肢
1. MRD23とは何か——疾患の概要と歴史
常染色体顕性(優性)知的発達障害23型(Intellectual Developmental Disorder, Autosomal Dominant 23:MRD23)は、3番染色体短腕(3p25.3)に位置するSETD5遺伝子のヘテロ接合性機能喪失型変異を原因とする稀な神経発達障害です。国際疾患データベース(OMIM)においては疾患ID「615761」として登録され、学術文献では「SETD5関連症候群(SETD5-related syndrome)」とも称されます。
本疾患の分子遺伝学的基盤が初めて解明されたのは2014年のことです。それ以前から「3p25.3微小欠失症候群」という染色体異常症として臨床的に知られていましたが、次世代シーケンサー(NGS)技術の発展による大規模な全エクソーム解析により、染色体の大きな欠失だけでなくSETD5の点変異(ナンセンス変異・フレームシフト変異・スプライシング異常)単独でも同等の臨床像が引き起こされることが立証されました。この発見は、広範な欠失領域の中から「真に症状を牽引する責任遺伝子」を特定した重要なマイルストーンです。
💡 用語解説:ヘテロ接合性機能喪失型変異(ハプロ不全)
私たちの遺伝子は、父母から1本ずつ計2コピー受け継ぎます。「ヘテロ接合性機能喪失型変異」とは、そのうち片方のコピーが変異によって機能しなくなる状態です。残った1コピーだけでは正常な機能を維持するタンパク質を十分に作れない場合、これを「ハプロ不全(Haploinsufficiency)」と呼びます。MRD23はまさにこのメカニズムで発症します。くわしくはハプロ不全の解説ページもご覧ください。
今日までに医学文献に詳細な表現型が報告された症例数は世界でおよそ100例程度と超希少疾患の範疇に属しますが、中等度から重度の知的障害を有する原因不明患者コホートの網羅的解析では約0.7%の症例においてSETD5遺伝子の病的な機能変化が同定されたという報告もあり、実際の有病率は現在認識されているより高い可能性が示唆されています。[1]
2. 分子メカニズム——エピジェネティクスの破綻がなぜ神経発達障害を招くのか
🔍 関連記事:エピジェネティクスとは/エピゲノムとは/クロマチノパシーとは
SETD5タンパク質の生化学的機能
SETD5遺伝子は第3染色体短腕3p25.3に位置し(ゲノム座標:約9,397,615〜9,479,240塩基対)、クロマチン修飾および転写制御に中心的な役割を果たすタンパク質をコードしています。このタンパク質は「ヒストンリジンメチルトランスフェラーゼ」ファミリーに属し、進化的に高度に保存されたSETドメインおよび植物ホメオドメイン(PHD)を有しています。[2]
💡 用語解説:ヒストンメチルトランスフェラーゼとエピジェネティック制御
DNAは、細胞核の中でヒストンというタンパク質に巻きついて「クロマチン」という構造を作っています。ヒストンに「メチル基」という化学修飾を付け加える酵素が「ヒストンメチルトランスフェラーゼ」です。この修飾によって遺伝子のスイッチがON/OFFになります——これが「エピジェネティクス」の仕組みです。SETD5はこのメチル化修飾を行う「エピジェネティックライター(書き手)」として、神経発達に必要な無数の遺伝子の転写を制御しています。
SETD5の生理学的意義は単純なヒストン修飾にとどまりません。細胞核内においてRNAポリメラーゼIIの転写伸長反応を制御するPAF1複合体や、ヒストン脱アセチル化酵素であるHDAC3複合体など巨大な多タンパク質複合体と相互作用し、クロマチン・リモデリングのハブとして機能します。DNAの転写活性状態を空間的かつ時間的に厳密に制御する「エピジェネティックな書き手(Epigenetic writer)」として働いているのです。[3]
ハプロ不全が引き起こすエピジェネティックの破綻
MRD23の主な発症メカニズムは「ハプロ不全」です。多くの場合、遺伝子内に未成熟終止コドンを生じる変異(ナンセンス変異やフレームシフト変異)が起こり、その異常なmRNAはナンセンス変異依存ミスマッチ修復機構(Nonsense-mediated mRNA decay:NMD)によって細胞内で速やかに分解されます。これにより、細胞内の正常なSETD5タンパク質の産生量が通常の半分に減少し、神経発達に必要な生理学的閾値を下回ることで多彩な疾患表現型が引き起こされます。[3]
💡 用語解説:NMD(ナンセンス変異依存ミスマッチ修復機構)
細胞が「異常なmRNA」を見分けて分解する品質管理システムです。ナンセンス変異やフレームシフト変異によって途中に終止コドンが現れたmRNAは、NMDによって速やかに分解されます。その結果、MRD23のような「ハプロ不全型変異」では「異常タンパク質が作られない」状態になり、タンパク質の量だけが半減します。くわしくは点突然変異の解説ページもご参照ください。
SETD5がハプロ不全に陥ると、精緻なエピジェネティック制御のネットワークが根本から破綻します。クロマチンの構造が不適切に変化し、神経発生に必要な広範な遺伝子群の転写異常(転写の忠実性の喪失)が引き起こされます。これにより、大脳皮質のニューロン間の正常な配線が妨げられ、シナプス機能が著しく低下することがMRD23の中核的な神経症状の発症メカニズムです。[4]
アストロサイトを介した非細胞自律的な神経炎症メカニズム
最新の神経生物学的研究(2026年bioRxivプレプリント)により、SETD5の機能喪失が引き起こす影響はニューロン内部にとどまらないことが明らかになりつつあります。SETD5が欠損したアストロサイト(星状膠細胞)は、細胞外の活性酸素種(ROS)・グルタミン酸・インターロイキン-6(IL-6)・インターロイキン-8(IL-8)といった炎症性サイトカインを異常に高レベルで放出することが確認されています。[5]
このような過剰な炎症性シグナルは、周囲の「本来は健康なニューロン」に対しても非細胞自律的(non-cell autonomous)な有害作用を及ぼし、神経回路の機能を二次的に低下させます。自閉スペクトラム症(ASD)患者の死後脳組織において活性化アストロサイトと炎症性サイトカインの上昇が検出されることと符合するように、MRD23の神経症状の進行や重症度は、胎生期の配線異常だけでなく出生後も持続するグリア細胞由来の神経炎症によって強く修飾されている可能性があります。この知見は、将来的に抗炎症療法や抗酸化療法がMRD23の認知・行動症状の緩和に寄与する可能性を示す重要なパラダイムシフトです。[5]
SETD5の「シーソー効果」——神経発達と発がんをつなぐ二面性
SETD5遺伝子が見せる最も注目すべき性質の一つが「双方向性の病態メカニズム(シーソー効果)」です。MRD23はSETD5の機能喪失(ハプロ不全・発現低下)によって引き起こされます。しかし驚くべきことに、生後の体細胞においてSETD5の過剰発現が生じると、乳がん・非小細胞肺がん(NSCLC)・食道扁平上皮がん・脱分化型脂肪肉腫(DDLPS)などの広範な悪性腫瘍の進行・悪性化と強力に相関することが複数の独立した研究で証明されています。[6][7]
図:SETD5は発現量が正常範囲を外れると、低下ではMRD23(神経発達障害)、過剰では悪性腫瘍という双方向の病態を引き起こす。
1,928人のNSCLC患者のデータベース解析では、SETD5の高発現は全生存期間(OS)の明らかな短縮(予後不良)と強力に関連していることが確認されています(p < 0.001)。また脱分化型脂肪肉腫(DDLPS)では、過剰なSETD5がNCoR-HDAC3複合体の分解を促進し、エンハンサーの過剰アセチル化を通じて腫瘍の攻撃性を高めることが明らかになっています。[6][7]
3. 臨床症状と表現型のスペクトラム
MRD23の臨床的表現型は不完全浸透(reduced penetrance)と多様な表現度(variable expressivity)を示すことが特徴です。同一家系内で同じ変異を共有している場合でも症状の種類や重症度にばらつきが見られます。以下の表は既報文献(総数35例のメタアナリシス)に基づく主要な臨床所見と出現頻度です。[8]
表:過去の文献(n=35)の統合データに基づくMRD23患者の主要臨床所見。出典 [8]
神経発達・認知・行動面の障害
神経系の機能不全は、MRD23においてほぼすべての症例で例外なく認められる最も一貫した所見です。90%以上の患者が境界域(IQ 70〜80程度)から重度に及ぶ知的障害および全体的発達遅滞を有します。認知能力のプロファイルは不均一であることが多く、特定の分野(例:視覚的記憶)に相対的な強みを持つ一方で、他の分野に著しい遅れを示すというアンバランスさが指摘されています。[9]
言語発達の遅れは極めて顕著で(77%)、一部の患者は成長しても発語が数語にとどまる、あるいは全く発語を持たない(nonverbal)状態になる場合があります。また約30%の患者が自閉スペクトラム症(ASD)の診断基準を満たし、注意欠如・多動症(ADHD)の特徴(不注意・多動・衝動性)が多くの児童期患者で報告されています。全体としては、多くの子どもが「陽気で社交的な気質」を持つと家族から評価されることが多いのですが、フラストレーションが蓄積した際に激しい癇癪や自傷行為を伴うケースもあるため、包括的な行動的介入が必要となります。[9]
神経生理学的異常としてはてんかん発作が約9〜20%で報告されており(コホートによって数値が異なります)、適切な抗てんかん薬の導入が必要となる場合があります。[9]
特異的顔貌(Dysmorphism)
特異的な顔面形態は、本疾患の臨床診断において極めて重要な手掛かりとなります。近年ではDeepGestalt技術(Face2Geneプラットフォーム)などのAIを用いた顔貌解析により、MRD23特有のゲシュタルト(全体像)が客観的に確立されています。主な特徴として、鼻根部が低く平坦である一方、鼻尖が丸く大きく(Bulbous tip)、鼻孔が前を向いている(アップノーズ)形態、太く濃い眉毛が中央で繋がる「眉毛癒合(Synophrys)」(50%以上)、長く平坦な人中、薄い上唇、三角形の顔立ちなどが挙げられます。[10]
重要なのは、かつては小頭症が特徴とされていましたが、コホートの拡大に伴い頭部サイズが平均的な症例や短頭症を伴う症例など多様性があることがわかってきました。口腔内の異常(巨大歯・歯列の乱れ・口蓋裂または粘膜下口蓋裂)も見られ、後述する摂食障害や言語障害に悪影響を及ぼしていると考えられます。[8]
多臓器合併症の具体像
MRD23は脳や顔面にとどまらず、多臓器の形態形成異常を伴う真の症候群(syndrome)です。
❤️ 先天性心疾患
- 約30〜39%で発症
- 心房中隔欠損症(ASD)・心室中隔欠損症(VSD)
- 僧帽弁狭窄など
- 生後早期の外科的介入が必要な場合も
🦴 骨格・成長
- 脊柱側弯症・後弯症(約40%)
- 低身長(約25〜34%)
- 軸後性多指症(25%)
- 脚長差(14%)
🍼 消化器・泌尿生殖器
- 哺乳困難・摂食障害(59%)
- 胃食道逆流症(GERD)
- 停留精巣・尿道下裂(男児の約15〜24%)
- 慢性的な便秘
👁️ 視覚・聴覚
- 視覚異常(斜視・眼振・遠視・近視)約50%
- 眼瞼下垂(Ptosis)
- 難聴(主に伝音性難聴)約16〜30%
- 中耳炎の反復
4. 鑑別診断——クロマチノパシーとの表現型オーバーラップ
MRD23の臨床的特徴は、他のクロマチン制御因子の変異を原因とする疾患群、総称して「クロマチノパシー(Chromatinopathy)」と著しい表現型の重複(フェノタイプ・オーバーラップ)を示します。身体所見や問診のみによる臨床的鑑別診断は極めて困難です。[4]
💡 用語解説:クロマチノパシーとは
クロマチンの状態を調節する遺伝子(エピジェネティック制御因子)の変異によって生じる先天性発達障害の総称です。「エピジェネティックライター」「リーダー」「リモデラー」など異なる種類の遺伝子の機能不全であっても、それらが制御の標的とする下流の神経発生遺伝子群のネットワークが共通しているため、結果として非常に類似した最終表現型(特異的顔貌・知的障害)へと収束します。
特に注目すべきは、Clark-Baraitser症候群のDNAメチル化プロファイル(エピシグネチャー)がMRD23のプロファイルと最も高い類似性(約8%の重複)を示すことです。これは、表面的な症状だけでなく、エピジェネティクスという分子レベルの足跡(シグネチャー)までもが複数の疾患間で重なり合っていることを示しています。したがって、これらの疾患群を正確に鑑別し確定診断を下すためには、マイクロアレイ染色体検査(CMA)で微小欠失を除外した上で、全エクソーム解析(WES)または全ゲノム解析(WGS)の実施が現代の診療ガイドラインにおいて必須のアプローチとなっています。[4]
5. 診断・遺伝子検査——出生前と出生後を分けて考える
出生後の診断フロー
出生後にMRD23が疑われる場合(特異的顔貌+発達遅滞の組み合わせが臨床的手掛かり)、以下の検査ステップが推奨されます。
- ➤Gバンド法による染色体検査:大きな染色体異常の除外に有用ですが、SETD5の点変異は検出できません
- ➤マイクロアレイ染色体検査(CMA):3p25.3領域の微小欠失(3p25.3微小欠失症候群)を検出可能。点変異は検出不可
- ➤全エクソーム解析(WES)または知的障害遺伝子パネル検査:現代の診療ガイドラインにおける確定診断の第一選択。SETD5の点変異・フレームシフト変異・スプライシング異常まで網羅的に検出可能
ミネルバクリニックでは、SETD5遺伝子を含む発達障害・学習障害・知的障害遺伝子パネル検査および自閉症遺伝子パネル検査を提供しています。また自閉症と知的障害の両方が気になる場合は「発達障害・自閉症・知的障害フルセット」もご相談ください。
ミネルバのNIPTによる出生前スクリーニング
出生前の段階においては、インペリアルプラン(NIPT)が選択肢となります。このプランは154遺伝子218疾患の単一遺伝子疾患スクリーニングをカバーし、SETD5遺伝子の病的変異(de novo変異)も検出対象に含まれます(陽性的中率>99.9%)。
⚠️ 重要:NIPTの結果は「スクリーニング」
NIPTは母体血液中の遊離胎児DNA(cfDNA)を解析するスクリーニング検査です。NIPTで陽性となった場合は、確定診断のために侵襲的検査(羊水検査または絨毛検査+標的遺伝子解析)が必要です。出生前における確定診断は羊水検査・絨毛検査によります。詳しくは羊水検査・絨毛検査のページをご参照ください。
ただし、SETD5の点変異やフレームシフト変異を母体血から確実に診断することは、現在の技術水準では困難な側面があります。超音波検査で胎児異常(先天性心疾患・後頸部浮腫など)が強く疑われる場合には、侵襲的検査(絨毛検査または羊水穿刺)を用いた全エクソーム解析の実施が確定診断のために最も確実なアプローチです。[11]
6. 遺伝カウンセリング——再発リスクと家族への心理的サポート
遺伝様式と再発リスクの評価
MRD23は「常染色体顕性(優性)遺伝様式」をとる疾患ですが、実際に診断される小児患者におけるSETD5変異のほぼすべて(98%以上)は新生突然変異(de novo変異)です。[9]
💡 ご両親へ——「なぜうちの子に?」という自責の念について
新生突然変異は、妊娠中の食事・服薬・ストレス・ご両親の過去の行動といった環境要因によって引き起こされたものではありません。精子や卵子が作られる過程、あるいは受精卵が分裂する過程でまれに起こる「生物学的な細胞分裂の過程で誰にでも起こり得る偶発的な出来事」です。決してご両親のせいではありません。
両親の末梢血DNAを解析し、当該SETD5変異が存在しないことが確認された場合、次の子どもが同じ疾患に罹患する確率は一般的には低くなります。しかし、親の生殖細胞(精子や卵子)の一部にのみ変異が存在し、血液検査では検出できない「生殖細胞系列モザイク(Germline mosaicism)」の可能性を完全に排除することはできないため、経験的な次子再発リスクは約1〜2%と見積もって説明されます。[9]
家族性発症例と不完全浸透の実例
ごく稀ではありますが、SETD5変異が親から子へ受け継がれる家族性発症の事例も報告されています。あるポーランドの研究報告では、重度の知的障害と特異的顔貌を有する二人の兄弟が同一のSETD5病的変異を有していることが判明しました。この変異は父親から遺伝したものでしたが、父親自身は境界域から軽度の知的障害を有するのみで社会生活を営むことができていました。[12]
この事例は、MRD23が同一家系内でさえ著しい表現度の多様性(不完全浸透)を示すことを証明しており、親が軽症であっても、子において重篤な表現型が現れるリスクがあることを遺伝カウンセリングにおいて十分に考慮する必要があります。
7. 出生前診断の最前線——胎児心エコーとWESの融合
胎児期におけるMRD23の診断機会は、ルーチンの産科超音波検査による偶発的な胎児形態異常の発見から始まることが多いです。2025年の最新文献によれば、胎児心エコー検査において一次孔心房中隔欠損(ostium primum ASD)や心室中隔欠損(VSD)といった重篤な先天性心疾患がスクリーニングで検出されたことを契機に、詳細な遺伝学的精査が開始された症例が記載されています。[11]
このケースでは、絨毛検査(CVS)によって採取された胎児検体を用いた全エクソーム解析(WES)を実施した結果、SETD5の新規フレームシフト変異(c.3601_3605del, p.Trp1201GlufsTer2)が同定され、両親の解析によりde novo変異であることが確定されました。
また妊娠第1三半期(妊娠初期)の超音波検査で観察される後頸部浮腫(NTの肥厚)や隔壁性嚢胞状ヒグローマも、MRD23のような単一遺伝子疾患の重要なサインとなり得ます。すでにMRD23の罹患児を持つ家族が次子を希望する場合、体外受精(IVF)を併用した着床前ゲノム診断(PGT-M)という選択肢を提供することも可能です。
重要:「特定の検査を受けるべき」「妊娠を継続すべき・中断すべき」といった判断は医師が指示するものではありません。医師は客観的な情報を提供し、最終的な意思決定はご家族に委ねます。これが遺伝カウンセリングにおける中立・非指示的なスタンスの基本です。
8. 長期的な臨床マネジメントと予後
現時点において、SETD5遺伝子の病的変異を根本から修復するような遺伝子治療や根本的治療薬は確立されていません。したがって、臨床的マネジメントの主体は、各器官の症状に応じた多職種連携(Multidisciplinary team approach)による包括的な対症療法および支持療法となります。[1]
生命予後(Life Expectancy)
MRD23患者の寿命については、重篤な心臓の構造的欠陥や生命を脅かす重度の内臓合併症がない限り、一般に成人期まで達し通常の平均余命を全うすることが可能であると考えられています。認知機能の障害が比較的軽度な患者は、適切な特別支援教育と継続的な学習により成人後も地域社会で良好な生活適応を示すことができます。一方、言語コミュニケーション能力が著しく限られている重度の知的障害患者や激しい行動障害を伴う症例においては、家族のサポートに加え生涯にわたるデイケアサービスや施設における社会福祉的な生活支援が不可欠となります。[1]
9. 動物モデルが示す将来の治療展望
MRD23に対する疾患修飾療法の開発に向けた基礎研究は、マウスおよびゼブラフィッシュを用いて急速に進展しています。Setd5ヘテロ接合体マウス(Setd5+/-)は野生型と比較して生存確率が有意に低下し、大脳皮質におけるニューロン間の低結合(cortical hypoconnectivity)や学習・記憶障害・適応行動の欠如など、ヒトのMRD23患者に極めて類似したASD様の神経行動学的表現型が再現されています。[3]
より画期的な進展として、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて作製されたsetd5変異ゼブラフィッシュが社会的刺激に対する無関心(社会的相互作用の欠如)といった明確なASD様行動を示す一方、この重篤な社会性障害の表現型が既存の非定型抗精神病薬であるリスペリドン(Risperidone)の投与によって部分的にレスキュー(回復)されたことが報告されています。これは、胎生期の遺伝子変異によって神経回路のハードウェア的な配線異常が残存していたとしても、出生後に薬理学的な介入を行うことでシナプスでの神経伝達(ソフトウェア)を修飾し、行動プロファイルを改善できる余地が十分に残されていることを強力に示唆しています。
さらに前述したアストロサイト由来の過剰なROS・IL-6/IL-8分泌を起点とする神経炎症のメカニズムは、既存の抗炎症薬や特定のサイトカイン阻害薬を用いた新規の神経保護アプローチが、MRD23患者の認知機能低下を防ぎ神経発達を促進するための有望な治療標的になり得ることを示唆しています。[5]
よくある質問(FAQ)
🏥 MRD23・SETD5遺伝子診断のご相談
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遺伝子検査・遺伝カウンセリングは
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参考文献
- [1] Health conditions caused by changes in the SETD5 gene. Centre for Genetics Education, 2026. [Centre for Genetics Education]
- [2] SETD5 – Wikipedia. SETD5 gene structure and biochemical function. [Wikipedia SETD5]
- [3] Nakagawa T, Hattori S, Hosoi T, Nakayama K. Neurobehavioral characteristics of mice with SETD5 mutations as models of IDD23 and KBG syndromes. Front Genet. 2023;13:1022339. [Frontiers in Genetics]
- [4] Intellectual Developmental Disorder, Autosomal Dominant 23 (MRD23). Rare Disease Data Center (RDDC). [RDDC]
- [5] SETD5 dysfunction in human astrocytes drives IL-6-mediated neuronal impairments via the JAK/STAT signaling pathway. bioRxiv. 2026. [bioRxiv 2026]
- [6] SET domain containing protein 5 (SETD5) enhances tumor cell invasion and is associated with a poor prognosis in non-small cell lung cancer patients. PMC. [PMC6659235]
- [7] High Immunohistochemical Expression of SETD5 as a Candidate Pathological Factor for Dedifferentiation and Prognosis in Liposarcoma. PMC. [PMC12835964]
- [8] SETD5 Gene Haploinsufficiency in Three Patients With Suspected Intellectual Disability Syndrome. PMC. [PMC7393934]
- [9] SETD5. Simons Searchlight. [Simons Searchlight]
- [10] Pascolini G, et al. DeepGestalt analysis of the SETD5-associated intellectual disability syndrome. J Transl Genet Genomics. 2020;4:17. [JTGG 2020]
- [11] SETD5 – DISEASES – JensenLab. (Prenatal diagnosis case data). [JensenLab DISEASES]
- [12] Powis Z, et al. Expansion and further delineation of the SETD5 phenotype leading to global developmental delay, variable dysmorphic features, and reduced penetrance. Clin Genet. [Clin Genet PDF]
- [13] De Falco A, et al. Neurological and psychiatric phenotype of a multicenter cohort of patients with SETD5-related neurodevelopmental disorder. Eur J Paediatr Neurol. 2025;54. [PubMed 39603091]
- [14] Rezazadeh S, Ji H, Giulivi C. Chromatin modifiers in neurodevelopment. Front Mol Neurosci. 2025;18:1551107. [Frontiers in Mol Neurosci 2025]
- [15] SETD5 Syndrome – DoveMed. [DoveMed]



