目次
CLIFAHDD症候群は、神経細胞のナトリウム漏洩チャネルであるNALCNの機能獲得型変異により、生まれつきの関節拘縮・特徴的顔貌・筋緊張低下・発達遅滞をきたす常染色体顕性(優性)遺伝の希少疾患です。世界で報告例は約40例とごく稀で、ほぼ全例が両親には存在しない新生突然変異(de novo変異)として発症します。同じNALCN遺伝子の機能喪失型変異が原因のIHPRF1とは「コインの裏表」の関係にあり、原因・症状・診断・治療の最新エビデンスを臨床遺伝専門医が解説します。
Q. CLIFAHDD症候群とはどのような病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. NALCN遺伝子の機能獲得型変異により、生まれつき四肢・顔面の関節拘縮、特徴的な顔貌、全身の筋緊張低下、発達遅滞をきたす常染色体顕性(優性)遺伝の希少疾患です。世界で報告例わずか約40例と極めて稀で、ほぼ全例が両親には存在しない新生突然変異(de novo)として発症します。同じNALCN遺伝子の機能喪失型変異が原因のIHPRF1とは別の疾患で、治療は対症療法が中心ですが、中枢性無呼吸にピリドスチグミンが奏効した症例も報告されています。
- ➤原因遺伝子 → 13番染色体長腕(13q33.1)に位置するNALCN遺伝子の機能獲得型ミスセンス変異
- ➤分子病態 → S5/S6ポア領域の変異により脱分極ブロックが起こり、神経細胞の興奮性が異常化
- ➤主な症状 → 末梢関節拘縮77%、内反足54%、特徴的顔貌70〜80%、発達遅滞ほぼ全例
- ➤遺伝形式 → 常染色体顕性(優性)。ほぼ全例が新生突然変異(de novo)として発症
- ➤出生前診断 → NALCNを含むNIPT・絨毛検査・羊水検査による分子診断が可能
1. CLIFAHDD症候群とは:14例の初期報告から始まった希少疾患の歴史
CLIFAHDDは「Congenital Contractures of the Limbs Involving the Face, And Hypotonia and Developmental Delay」の頭字語で、日本語に直訳すれば「先天性四肢顔面拘縮・筋緊張低下・発達遅滞症候群」となります。OMIM登録番号は#616266。原因遺伝子は13番染色体長腕(13q33.1)に位置するNALCN遺伝子であり、その機能獲得型変異(Gain-of-Function変異)によって発症する常染色体顕性(優性)遺伝疾患です。
本疾患が初めて医学雑誌に登場したのは比較的最近のことで、2015年にワシントン大学のChongらが『American Journal of Human Genetics』に発表した9家系14名の症例報告にさかのぼります。彼らは「典型的な遠位型関節拘縮症(distal arthrogryposis)にもシンドロミックな関節拘縮症にも分類できない」乳児たちのエクソーム解析を実施し、全員にNALCN遺伝子のミスセンス変異を同定しました。さらに重要だったのは、ほぼ全例が両親には存在しない新生突然変異(de novo変異)であり、なおかつ変異の位置がNALCN蛋白のS5・S6膜貫通領域(チャネルの孔部分)に強く集中していたという点です。
この発見以降、世界各国から症例報告が相次ぎましたが、現在までに確実に同定されている症例は世界全体で約40例にとどまる超希少疾患です。日本人症例の正確な集計はまだなされていませんが、特定の人種・民族に偏った発症は知られていません。なお、当初は「乳児期から見つかる重症疾患」と捉えられていましたが、近年では成人期に小脳性運動失調や若年性パーキンソニズムなどで初めて指摘された軽症例も報告されており、表現型のスペクトラムは想定以上に幅広いことがわかってきました。
💡 用語解説:ミスセンス変異(missense mutation)
ミスセンス変異とは、DNAの塩基配列のうち1文字だけが変わることで、その設計図がコードするアミノ酸が別の種類に置き換わるタイプの変異です。タンパク質の立体構造や働きが変わってしまうため、機能を失う(LOF)場合もあれば、逆に異常に強くなる(GOF)場合もあります。CLIFAHDDではNALCNのミスセンス変異のほとんどが機能獲得型(GOF)として働く点が、同じNALCN遺伝子の機能喪失型変異で起こるIHPRF1との決定的な違いになります。
💡 用語解説:新生突然変異(de novo変異)
両親の精子・卵子の形成段階、もしくは受精直後に新しく生じた変異のことを新生突然変異(de novo変異)と呼びます。両親の遺伝子には同じ変異が存在しないため、家族歴はなく、両親の保因者検査では発見できません。CLIFAHDDは現在までに報告された全症例が新生突然変異として発症しており、両親から子へ受け継がれた遺伝例はほぼ確認されていません。新生突然変異の起こる確率は600人に1人とされ、若い母親であってもダウン症候群のリスクと比べて格段に高いことが知られています。
これまでCLIFAHDDで報告されている変異は、ヌクレオチドレベルでは多様(c.1514A>T、c.1807G>C、c.3553G>Aなど)ですが、アミノ酸座標に変換するとそのほとんどがNALCN蛋白のS5またはS6膜貫通領域内に集まります。この事実こそが、後述する「機能獲得型変異の分子的根拠」を理解する出発点となります。
2. NALCN遺伝子と分子病態:なぜ「ナトリウム漏洩チャネル」の異常が拘縮を起こすのか
🔍 関連記事:NALCN遺伝子の詳細解説/機能獲得型変異とは/機能喪失型変異とは
NALCN(Na+ Leak Channel, Non-selective)は、その名の通り「ナトリウムが漏れるチャネル」です。一般的なナトリウムチャネル(Nav)が膜電位の脱分極によって瞬間的に開閉するのとは対照的に、NALCNは膜電位に依存せず、常時わずかに開いた状態を保ち、細胞外から細胞内へ持続的にナトリウムイオンを流入させます。この「漏洩電流」は神経細胞の静止膜電位を適切なレベルに保つうえで決定的に重要であり、NALCNが破壊された細胞では膜電位がおよそ10〜20mV過分極することが報告されています。
NALCN遺伝子は44エクソンからなり、コードされる蛋白は4つの相同ドメイン(DI〜DIV)と各ドメイン6本の膜貫通セグメント(S1〜S6)からなる、合計24本の膜貫通領域を持つ大型蛋白です。電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)や電位依存性カルシウムチャネル(Cav)と全体構造を共有しており、機能的にも進化的にも近縁です。S1〜S4は電位センサー、S5・S6がチャネルの孔(ポア)を形作ります。NALCNは単独では機能せず、UNC79・UNC80・FAM155Aといった補助蛋白と複合体(NALCNチャネロソーム)を形成し、M3ムスカリン受容体やニューロテンシン受容体、サブスタンスP受容体などの神経ペプチド受容体からの調節を受けて細胞の興奮性を制御します。
図:NALCN蛋白は4つの相同ドメイン(DI〜DIV)と各6膜貫通セグメントから構成される。橙色がS5・S6のポア領域。CLIFAHDDのGOF変異(赤丸)はこのポア領域に集中する一方、IHPRF1のLOF変異は蛋白全長に分散する。両疾患の本質的な違いはここにある。
「脱分極ブロック」という逆説的な分子病態
直感的には「ナトリウム漏洩が増えれば神経細胞は興奮しやすくなる」と考えがちですが、CLIFAHDDで起こっている現象はその逆です。S5/S6ポア領域の機能獲得型変異によってナトリウム流入が過剰になると、神経細胞の静止膜電位が常時高めに保たれ、いざ刺激が来てもナトリウムチャネル(Nav)がすでに不活性化状態に入っているため、結果として活動電位が起こせない「脱分極ブロック(depolarization block)」という現象が生じます。
これは局所麻酔薬や特定の抗不整脈薬が、神経・心筋細胞を持続的に脱分極させて興奮を止める仕組みと本質的に同じ原理です。CLIFAHDDで観察される筋緊張低下・自発運動の減少・中枢性無呼吸などは、この脱分極ブロックが脳幹呼吸中枢(後台形核:RTN)や脊髄前角細胞、骨格筋を制御する運動ニューロンで起きている結果と理解できます。胎児期の運動低下によって関節周囲組織のリモデリングが進まず、結果として末梢関節拘縮や内反足が形成される、というのが現在最も支持されている病態モデルです。
💡 用語解説:脱分極ブロック(depolarization block)
神経細胞や筋細胞は、刺激を受けると膜電位が急激に上昇(脱分極)して活動電位を生み、シグナルを伝えます。しかし、何らかの理由で膜電位が常時高めの状態(つまり脱分極したまま)に保たれると、活動電位を出すために必要なナトリウムチャネルが「不活性化状態」になってしまい、いざ刺激が来ても活動電位が起こせなくなります。これが脱分極ブロックです。「興奮しすぎて、かえって動けなくなる」という逆説的な現象であり、CLIFAHDDの筋緊張低下や中枢性無呼吸の本質はここにあります。
CLIFAHDD(GOF)とIHPRF1(LOF):同じ遺伝子で起こる「コインの裏表」
同じNALCN遺伝子の変異でも、変異の性質が「機能獲得型」か「機能喪失型」かで全く異なる疾患を起こすことが、CLIFAHDDの理解で最も重要なポイントです。IHPRF1(乳児期発症筋緊張低下・精神運動発達遅滞・特徴的顔貌1型;OMIM #615419)は、NALCNの機能喪失型変異(ナンセンス変異・フレームシフト変異・欠失など)が両方のアレルに生じることで発症する、常染色体潜性(劣性)遺伝の疾患です。両親はそれぞれ片方のアレルにのみ変異を持つ「ヘテロ接合体(保因者)」のため発症しません。
IHPRF1ではNALCNの機能が失われ、神経細胞のナトリウム漏洩がほぼ消失します。膜電位は過分極側にシフトし、神経興奮性は全般的に低下します。臨床的にはCLIFAHDDと共通する筋緊張低下・発達遅滞を呈する一方、末梢関節拘縮はCLIFAHDDほど顕著ではないという決定的な違いがあります。これは関節拘縮の主因が「胎児期の局所的な運動低下」よりも「特定の神経回路における脱分極ブロック」にあることを示唆しています。
なお同じ「IHPRF」という名前を持ちながら、IHPRF2(OMIM #616801)はNALCNではなくUNC80遺伝子の両アレル機能喪失型変異が原因です。UNC80はNALCNと複合体を形成する補助蛋白であり、機能的にはNALCNチャネロソームを破壊する点でIHPRF1と類似した表現型を示しますが、原因遺伝子は別物です。
3. 臨床症状の全体像:四肢の拘縮から特徴的な顔貌まで
CLIFAHDDの症状は出生直後から認められるものが多く、産科医・新生児科医・整形外科医による初診時に異常が指摘されるのが典型的な経過です。臨床所見は大きく「骨格・関節所見」「顔貌所見」「神経・発達所見」「呼吸・その他」の4領域に分類できます。
🦴 骨格・関節所見
- 遠位関節の拘縮(手指・手関節・足関節)
- 母指の屈曲・内転(adducted thumb)
- 尺側偏位(約77%)
- 内反足・clubfoot(約54%)
- カンプトダクチリ(屈指症)
- 大関節(肩・肘・膝・股)の拘縮例も
👤 顔貌・頭部所見
- 広い額・高い前頭
- 眼瞼裂の狭小化
- 中顔面の低形成
- 両眼開離(hypertelorism)
- 耳介低位・後方回転
- 口角下垂・小顎症
🧠 神経・発達所見
- 全身性の筋緊張低下(hypotonia)
- 運動・言語発達の遅滞
- 軽度〜重度の知的障害
- てんかん(約30〜40%)
- 脳萎縮・髄鞘形成遅延(60〜80%)
- 発作性ジスキネジアの報告例も
💨 呼吸・その他
- 中枢性無呼吸(後台形核の機能異常)
- 哺乳障害・嚥下障害
- 胃食道逆流症
- 慢性便秘
- 成長障害・低体重
- 関節過伸展(一部の症例)
主要症状の頻度:報告されている発現率
これまでに報告された約40症例の系統的レビュー(Bauerら2018、Aokiら、Frontiers in Pediatrics論文など)に基づくと、CLIFAHDDの主要症状の発現率は以下のように整理できます。文献によって幅がありますが、おおむね次のような分布です。
CLIFAHDDの主要症状の発現率(文献からの集計値)
※ 報告例約40例の集計値。文献によって幅があるため範囲で記載。
注目される成人発症型・軽症型の症例
古典的なCLIFAHDDは「生まれた直後から多発拘縮を伴う重症型」というイメージが強いのですが、近年の報告ではこの理解を覆す症例が登場しています。
2024年に報告された33歳のイタリア人女性は、幼少期の言語発達遅延と軽度知的障害があっただけで成人まで明確な診断がつかず、成人期になってから歩行・バランス障害を伴う小脳性運動失調を呈し、最終的にWES(全エクソーム解析)でNALCN遺伝子のc.1514A>T;p.Lys505Metという新規ミスセンス変異が見つかりました。この変異もS5/S6ポア領域内のものでした。
また18歳の韓国人男性では、11歳ごろから若年性パーキンソニズムとして発症し、p.Ala1185Thr(c.3553G>A)の変異が同定されました。CLIFAHDDの表現型は当初想定された以上にスペクトラムが広く、変異の場所・性質によって重症度や発症時期が大きく変わることが明らかになりつつあります。
4. 鑑別診断:IHPRF1・IHPRF2・遠位型関節拘縮症との違い
🔍 関連記事:IHPRF1疾患詳細/遺伝形式の基本/ヘテロ接合体とは
CLIFAHDDの鑑別診断で最も重要なのは、同じNALCN遺伝子の機能喪失型変異で起こるIHPRF1と、補助蛋白UNC80の機能喪失型変異で起こるIHPRF2との区別です。さらに、遠位型関節拘縮症(distal arthrogryposis:DA)の多様なサブタイプも臨床所見が重なるため、変異特異的な分子診断が決定的に重要となります。
表からわかるように、CLIFAHDDを他の遠位型関節拘縮症と区別する最大の手がかりは「関節拘縮+筋緊張低下+発達遅滞の三つ揃い」です。DA1AやDA2Aでは関節拘縮があっても発達遅滞や全身性の筋緊張低下を伴いません。一方、CLIFAHDDをIHPRF1から区別する最大の手がかりは「末梢関節拘縮の有無と程度」です。さらに遺伝形式と変異の性質が両者で正反対であるため、分子診断による確定が不可欠となります。
5. 診断:出生前と出生後を分けて理解する
CLIFAHDDの診断は「出生前」と「出生後」では目的・手法・意義が大きく異なります。「診断=出生前」と捉えがちですが、明確に分けて理解することが重要です。なお、本疾患は不完全浸透や成人発症の軽症例も報告されており、出生前に確定診断がついたからといって予後を確定的に判断できるわけではない点に注意が必要です。
🤰 出生前の検査
超音波(胎児エコー)所見:四肢の運動低下、関節屈曲位、内反足、羊水過多、顔貌の異常など。ただし非特異的
非侵襲的スクリーニング:NIPTのうち単一遺伝子をカバーするインペリアルプラン(154遺伝子218疾患)にNALCNが含まれます
確定診断:絨毛検査・羊水検査+ターゲット遺伝子解析。Gバンド法染色体検査ではCLIFAHDDは検出できません
👶 出生後の検査
関節拘縮症パネル:NALCNを含む100以上の遺伝子を一度に解析するNGS遺伝子パネル
網羅的解析:全エクソーム検査(WES)またはクリニカルエクソーム検査。パネル陰性時のセーフティネット
発達遅滞主体の場合:発達障害・学習障害・知的障害遺伝子検査
なぜCLIFAHDDはNIPT・絨毛検査・羊水検査と相性が良いのか
CLIFAHDDは前述のとおり、ほぼ全例が新生突然変異(de novo)として発症します。これは「両親に変異がない」「家族歴がない」「保因者検査では予測不可能」を意味します。父親由来の精子の突然変異により赤ちゃんに新たに生じる遺伝性疾患全体のリスクは600人に1人と推定されており、母親の年齢に関係なく一定のリスクが存在します。これは若い女性の場合、ダウン症候群のリスクよりも格段に高い数字です。
ミネルバクリニックのインペリアルプランは、全常染色体トリソミー+92微小欠失症候群+154遺伝子218疾患+500万塩基解像度の構造異常をカバーするNIPTで、NALCNを含むため、CLIFAHDDが出生前にスクリーニングできる数少ない検査メニューの一つです。NIPT陽性の場合は絨毛検査・羊水検査+ターゲット遺伝子解析で確定診断を行います。当院ではNIPT受検者全員に互助会(8,000円)が適用され、陽性時の確定検査費用が全額補助されます。
なお、CLIFAHDDのように不完全浸透や表現型の幅広さがある疾患では、出生前診断で陽性となっても具体的な重症度は予測できません。「診断=行動方針が決まる」とは限らず、出生前に知ること自体の心理的・倫理的負担も含めて、検査前に遺伝カウンセリングを受けることが推奨されます。
6. 治療と管理:対症療法とピリドスチグミン奏効例
CLIFAHDDに対する根本治療は現時点で存在しません。NALCN遺伝子そのものを修復する遺伝子治療や、特異的にチャネル機能を正常化する小分子薬の開発は研究段階にとどまります。臨床の現場では、症状ごとに専門医による多職種連携のもとで対症療法を行うのが基本方針です。
中枢性無呼吸へのピリドスチグミン:ポーランドの注目症例
2022年にポーランドの研究グループ(Frontiers in Pediatrics誌)が報告した症例は、CLIFAHDDの管理において重要な視点を提供しています。生後すぐから繰り返す中枢性無呼吸発作と低酸素状態のため蘇生処置を要した男児は、当初先天性筋無力症候群(CMS)が疑われ、その治療としてピリドスチグミン(メスチノン)が経験的に投与されました。
驚いたことに、治療開始後しばらくして無呼吸発作の頻度と重症度が劇的に改善し、軽度ながら精神運動発達の前進も確認されました。その後の遺伝子検査で、男児はNALCNのc.1807G>C;p.Glu603Glnという機能獲得型ミスセンス変異を持つCLIFAHDDと診断されました。CMSの可能性は最終的に除外されています。
なぜCMSの治療薬であるピリドスチグミンがCLIFAHDDの中枢性無呼吸に効いたのかは完全には解明されていませんが、後台形核(RTN)に存在するNALCNが呼吸中枢のリズム生成に関与していることが知られており、神経筋接合部の促進を介した間接的な呼吸ドライブの増強、あるいはチャネル機能への直接的なモジュレーション効果などが推測されています。これはあくまで「一症例での試行的な使用」であり、CLIFAHDD患者全員に効くわけではない点に留意が必要ですが、対症療法の選択肢を広げる重要な観察と評価されています。
領域別の管理戦略
いずれも対症療法であり、根本治療には至りません。しかし早期診断と早期介入によって、関節拘縮の進行や呼吸障害による合併症は大きく軽減できることが知られています。とりわけ生後早期の理学療法は関節可動域の維持に決定的に重要であり、診断後できるだけ早く専門施設での療育計画を立てることが推奨されます。
7. 遺伝カウンセリング:「ほぼ全例de novo」が意味すること
CLIFAHDDは常染色体顕性(優性)遺伝の疾患ですが、ほぼ全例が新生突然変異(de novo)として発症するため、「両親に変異がない」=「両親は健康な保因者ですらない」という点が遺伝カウンセリングで最も重要なポイントになります。「我が家には病気の遺伝はない」「家系図に同じ病気の人はいない」というご家族のセルフチェックでは、この疾患の発症リスクを予測することはまったくできません。
再発リスクと次子への影響
de novo変異が原因の疾患では、同じ両親から次の子に同じ変異が再発するリスクは一般集団のリスクとほぼ同等(極めて低い)とされます。ただし、ごく稀に生殖細胞モザイク(germline mosaicism)といって、両親のいずれかの精巣・卵巣の一部の細胞だけに変異が存在するケースがあり、その場合は次子への再発リスクが数%程度に上昇する可能性があります。生殖細胞モザイクの存在を完全に否定する検査は現時点ではないため、遺伝カウンセリングではこの不確実性を含めて丁寧に説明します。
一方、CLIFAHDDを発症した患者本人が将来子どもを持つ場合、変異が常染色体顕性(優性)のため理論上50%の確率で子どもに遺伝する計算になります。ただしCLIFAHDDの重症型では妊娠・出産まで至る症例は限られており、軽症型・成人発症型でこの可能性が現実的に議論されることになります。
遺伝カウンセリングで扱われる主な内容
- ➤遺伝形式の正確な説明:常染色体顕性(優性)だがde novoがほぼ全例という独特の状況
- ➤変異特異的な予後情報:同じCLIFAHDDでも変異の位置で重症度が異なる可能性
- ➤次子への対応:生殖細胞モザイクの可能性、出生前診断(NIPT・絨毛検査・羊水検査)の選択肢、PGT-Mの可能性
- ➤家族へのコミュニケーション支援:「親の責任ではない」「予防のしようがなかった」という事実を共有する
- ➤長期的ライフプラン:療育、教育、福祉制度、家族会へのつなぎ
遺伝カウンセリングは非指示的(non-directive)であることが原則で、医師は情報提供者として中立を保ち、最終的な意思決定はご家族に委ねます。CLIFAHDDのように予後の幅が広く、出生前に知ることが常に利益になるとは限らない疾患では、「検査を勧める/勧めない」のどちらの方向にも誘導しないという姿勢が特に重要です。
8. よくある誤解
誤解①「親の遺伝が原因に違いない」
CLIFAHDDは常染色体顕性(優性)遺伝の疾患ですが、現在までに報告された症例はほぼ全例が新生突然変異(de novo)です。両親に変異はなく、家族歴もありません。お子さんの発症は両親の責任ではなく、予防のしようがなかった偶発的な変異が原因です。
誤解②「IHPRF1とCLIFAHDDは同じ病気の重症度違い」
同じNALCN遺伝子が原因であっても、両者は分子病態も遺伝形式も別物です。CLIFAHDDは機能獲得型(GOF)・常染色体顕性。IHPRF1は機能喪失型(LOF)・常染色体潜性。臨床所見も「関節拘縮の有無」で大きく異なります。
誤解③「関節拘縮だけ手術で治せばよい」
CLIFAHDDの関節拘縮は中枢神経系のチャネル機能異常という根本病態から生じています。関節そのものだけを外科的に修正しても、筋緊張低下や神経学的症状は残存します。整形外科的アプローチに加え、神経・呼吸・発達面の多職種連携が不可欠です。
誤解④「出生前に診断できれば全てがわかる」
CLIFAHDDは不完全浸透と表現型の幅広さが知られている疾患で、同じ変異でも重症度や発症時期に大きな差があります。NALCN変異が同定されても、お子さんの将来の自立度や生命予後を確定的に予測することはできません。
9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ
よくある質問(FAQ)
🏥 NALCN関連疾患・遺伝子診断のご相談
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参考文献
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