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ジョーダン症候群(Houge-Janssens症候群1型)は、PPP2R5Dという1つの遺伝子の小さな変化によって起こる、とてもまれな神経発達症です。乳児期からの著しい筋緊張低下・発達の遅れ・言語の遅れ・大頭症を中心に、てんかんや自閉スペクトラム症を伴うこともあります。原因の大部分は親から受け継いだものではなく、赤ちゃんで初めて生じた新生突然変異(de novo変異)です。この記事では、病気の正体である分子のしくみから、診断の進め方、そしてmTOR阻害薬やアレル特異的ASOといった最先端の治療研究までを、臨床遺伝専門医がやさしく解説します。
Q. ジョーダン症候群(Houge-Janssens症候群1型)とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. PPP2R5D遺伝子の変化によって、細胞のブレーキ役である酵素「PP2A」のはたらきが乱れ、脳をはじめ全身で細胞のシグナルが過剰に働いてしまう神経発達症です。中核症状は発達の遅れ・言語の遅れ・大頭症・筋緊張低下で、てんかんや自閉スペクトラム症、まれに早発性のパーキンソン症状を伴うこともあります。診断は遺伝子検査で確定します。根本的な治療薬はまだありませんが、mTOR阻害薬やアレル特異的ASOといった次世代治療の研究が世界で急速に進んでいます。
- ➤病気の正体 → PPP2R5D遺伝子の変化でPP2Aという酵素の調節がうまくいかなくなる神経発達症
- ➤中核症状 → 発達遅滞・言語の遅れ・大頭症・筋緊張低下。てんかん・自閉スペクトラム症を伴うことも
- ➤分子メカニズム → 「電荷反転」型のミスセンス変異が正常タンパク質の邪魔をする優性阻害効果とmTOR経路の暴走
- ➤診断 → 遺伝子パネル検査や全エクソーム検査で確定。出生前と出生後で方法が異なります
- ➤最新治療 → 対症療法に加え、mTOR阻害薬(ラパマイシン)やアレル特異的ASOの研究が進行中
1. ジョーダン症候群(Houge-Janssens症候群1型)とは
ジョーダン症候群は、正式にはHouge-Janssens症候群1型(HJS1、OMIM 616355)と呼ばれる、第6番染色体(6p21.1)にあるPPP2R5D遺伝子の変化を原因とする神経発達症です。日本では常染色体顕性(優性)知的発達障害35型(MRD35)とも呼ばれ、海外の患者支援団体や論文では「PPP2R5D関連神経発達障害(PPP2R5D-NDD)」という呼び名も広く使われています[3][4]。
この病気が明確な「ひとつの病気」として報告されたのは2015年のことです[3]。原因不明の重い発達の遅れと大頭症をもつお子さんたちを、全エクソーム検査(WES)という網羅的な遺伝子解析にかけたところ、PPP2R5D遺伝子に新たな変化が次々と見つかり、新しい病気の概念が確立されました。「ジョーダン症候群」という別名は、ごく初期に診断されたJordan Langさんのお名前に由来します。ご家族が設立した非営利財団「Jordan’s Guardian Angels」が、世界中の患者ネットワークづくりと基礎研究への資金提供を支えています[5]。
💡 用語解説:神経発達症(しんけいはったつしょう)とは
脳が育っていく過程に生まれつきの違いがあり、運動・ことば・知能・社会性などの発達に影響が出る状態の総称です。知的障害・自閉スペクトラム症・てんかんなどが重なって現れることも多く、ジョーダン症候群もそのひとつに位置づけられます。「育て方」や「妊娠中の過ごし方」が原因ではなく、細胞の設計図である遺伝子の変化が背景にあります。
頻度の面では、Orphanetで100万人に1人未満(<1/1,000,000)の超希少疾患に分類されています(ORPHA:457279、ICD-10: Q87.8)[1]。ただし症状がほかの病気と重なりやすいことや、遺伝子検査へのアクセスに地域差があることから、実際の患者数はこれを大きく上回ると考えられています。患者支援団体の報告では、世界30か国以上で少なくとも170例以上の確定診断例が確認されている一方、25万人以上が未診断のまま取り残されていると推計されています(この数字は患者会による推計値です)[5]。WESが診断の第一選択になりつつある今、今後さらに多くの方が見つかると考えられています。
2. 原因遺伝子PPP2R5DとPP2A:細胞の「ブレーキ」のしくみ
🔍 関連記事:PPP2R5D遺伝子の解説ページ/ミスセンス変異とは
PPP2R5D遺伝子は、「PP2A」という巨大な酵素(タンパク質脱リン酸化酵素2A)の部品のひとつ、「B56δ(デルタ)」というサブユニットの設計図です[6]。少し難しい言葉が続くので、まずは細胞の中でPP2Aが何をしているのかを整理してみましょう。
💡 用語解説:リン酸化と脱リン酸化(細胞のオン・オフ)
細胞の中では、タンパク質に小さな「リン酸」という札を付けたり外したりすることで、さまざまな機能のスイッチをオン・オフしています。札を付けるのがキナーゼ(アクセル役)、外すのがホスファターゼ(ブレーキ役)です。PP2Aはこのブレーキ役の代表選手で、細胞の増殖・分化・神経の伝達など、無数のスイッチを「オフ」に戻す重要な働きをしています。
PP2Aは1つのタンパク質ではなく、3つの部品が組み合わさった複合体(ホロ酵素)として働きます。土台になる「Aサブユニット(足場)」、実際にブレーキ反応を行う「Cサブユニット(触媒)」、そして「どこで・いつ・どのタンパク質のブレーキを踏むか」を決める道案内役の「Bサブユニット(調節)」です。PPP2R5DがつくるB56δは、この道案内役のひとつ。602個のアミノ酸からなり、特に脳の発生と神経細胞の機能維持にとって、他では代替できない決定的な役割を担っています[6]。
これまでにPPP2R5D遺伝子上で、少なくとも13か所のアミノ酸に影響する20以上の病的なミスセンス変異が報告されています[7]。なかでも特徴的なのは、その多くが「電荷反転変異」であることです。マイナスの電気を帯びた酸性アミノ酸(グルタミン酸Eやアスパラギン酸D)が、プラスの電気を帯びた塩基性アミノ酸(リジンKやアルギニンR)に置き換わるタイプで、p.Glu198Lys(E198K)・p.Glu200Lys(E200K)・p.Glu420Lys(E420K)などが代表例です。E198K(cDNA上はc.592G>A)は全報告例の約40%を占める最も多い変異です[7]。
3. なぜ発症するのか:優性阻害効果とmTOR経路の暴走
🔍 関連記事:ドミナントネガティブ(優性阻害)とは/機能獲得型変異とは/ハプロ不全との違い
ジョーダン症候群が起こる分子のしくみは、「遺伝子が単に働かなくなる」のとは少し違います。変異したB56δタンパク質が細胞の中に存在すること自体が、正常なPP2Aの組み立てや働きを積極的に邪魔してしまう——これをドミナントネガティブ効果(優性阻害)と呼びます。一部の変異では、異常な相手のブレーキを踏んでしまう「機能獲得(ゲイン・オブ・ファンクション)」的な側面も加わると考えられています[3][7]。
💡 用語解説:ドミナントネガティブとハプロ不全の違い
同じ常染色体顕性(優性)遺伝でも、病気の起こり方には2つのタイプがあります。
ハプロ不全:2本ある遺伝子の片方が働かず、残り半分のタンパク質量では足りない「量の不足(機能喪失)」タイプ。
ドミナントネガティブ:できあがった異常タンパク質が、正常なタンパク質の足を引っ張る「邪魔(機能の妨害)」タイプ。ジョーダン症候群はこちらに近く、だからこそ後述する「変異した側だけを黙らせる」治療戦略が理にかなっています。
では、ブレーキ役のPP2Aが乱れると何が起こるのでしょうか。正常な状態では、PP2Aは細胞の成長・増殖・生存を司るPI3K/AKT/mTOR経路を適切に抑え、リボソームタンパク質S6(RPS6)のリン酸化を正常レベルに保っています。ところがPPP2R5Dに変異があると、ブレーキが効かなくなり、AKTの過剰活性化 → mTORC1の暴走 → RPS6の過剰リン酸化という連鎖が起こり、神経細胞が異常に増えたり大きくなったりします。最新のプロテオミクス解析では、E198KとE420Kの細胞株を使って、この異常がはっきりと実証されています[7]。
PP2Aは「A・C・B56δ」の3部品からなるブレーキ酵素。B56δ(PPP2R5D)の電荷反転変異が正常なPP2Aを妨害し、mTOR経路が暴走することで、脳の過剰な成長(大頭症)や神経症状につながります。
興味深いことに、変異の場所によってmTORC1にたどり着く道筋に違いがあります。E420Kは「AKTに依存する古典的なルート」で、最も頻度の高いE198Kは「AKTに依存しない別ルート」でmTORC1を活性化することが示唆されています[7]。入口は違っても、最終的にRPS6が過剰にリン酸化されるという出口は共通です。この「共通の出口」をふさぐという発想が、後述の治療戦略のカギになります。大頭症(巨脳症)という代表的な特徴は、まさにこのmTORC1の暴走による神経前駆細胞の過増殖で説明されます[2]。
4. 症状と特徴:個人差がとても大きい病気
ジョーダン症候群の症状は中枢神経系を中心に全身に及び、その重さには大きな個人差(表現型多様性)があります。同じ変異をもっていても、症状の強さは人によって幅があります[2]。まずは、これまで報告された患者さんのデータから見えてきた症状の出やすさを、グラフでご覧ください。
PPP2R5D関連神経発達障害の主な症状と発現頻度
各症状は個人差が大きく、すべての患者さんに現れるわけではありません(GeneReviews等の疫学データに基づく推定値)
発達・ことば・運動
最も普遍的で中核的な特徴は、全般的な発達の遅れ(GDD)と知的障害(ID)です[2]。報告されているすべての患者さんで、乳幼児期の発達の節目に何らかの遅れがみられます。ひとり歩きの獲得は1歳半から9歳までと非常に幅広く、10歳を超えても歩行が難しい重いケースもあります。歩けるようになっても、足を広げたふらつき歩き(失調性歩行)や、関節のやわらかさによる疲れやすさを伴うことが多くあります。
言語の遅れも顕著で、まったく発語のない方から、短い文を話せる方まで幅広いスペクトラムがあります。ここで大切なのは、自分から話す力(表出言語)が重く障害されていても、相手の言葉を理解する力(受容言語)は比較的保たれているお子さんが多いことです[2]。これはコミュニケーション支援を考えるうえで、とても重要な手がかりになります。
からだの特徴:大頭症と筋緊張低下
診断のきっかけになりやすいのが、大頭症と筋緊張低下です。大頭症は報告例の約66%にみられ、頭囲が同年代平均より2〜3.8標準偏差以上大きいことが確認されています[2]。重要なのは、この頭囲拡大の主な原因は水頭症のような頭蓋内圧上昇ではなく、脳そのものが大きい「巨脳症」であること。そのため、原則として外科的なシャント手術の対象にはなりません[2]。
乳児期の全身性の筋緊張低下(いわゆるフロッピーインファント)はきわめて多くみられ、首すわりやお座りの遅れの直接の原因となります。関節の過可動性を伴うことも多く、成長後に側弯症や漏斗胸といった整形外科的な問題につながることがあります。顔つきには軽い特徴(眼間開離、眼瞼裂斜下、眼瞼下垂、広い額、開いた口元など)がみられますが、いずれも個性の範囲ととらえられるほど軽いことも多く、成長とともに目立たなくなることもあります[1]。
てんかん・睡眠・自閉スペクトラム症、そして早発性パーキンソニズム
てんかん発作は約46%に合併し、発作の型は多彩で、平均発症年齢は2.3歳とされています。多くは標準的な抗てんかん薬でコントロールできますが、一部は難治性てんかんに移行することがあり、小児神経の専門医による継続的な管理が大切です[2]。睡眠障害も高頻度(入眠困難が約92%)で、ご本人だけでなくご家族の生活の質に大きく影響します。自閉スペクトラム症は明確な診断基準を満たす方が約16%、境界域がさらに約16%と評価されています[2]。
特に注目すべき合併症として、早発性パーキンソニズムがあります。通常は中高年で発症するパーキンソン病が、特定のPPP2R5D変異をもつ方では20〜40代という若さで現れることが報告されています[2]。重要なのは、これに対して標準治療薬のレボドパ(L-dopa)がよく効く(レボドパ反応性)例が複数報告されていることで、成人期への移行を見すえた長期のサーベイランスが意味を持ちます。このほか、視覚異常(斜視・近視・大脳性視覚障害)、消化器症状、内分泌・生殖器の所見などが報告されています[2]。
5. 似ている病気との見分け方とPP2Aの「仲間の病気」
「大頭症」「重い発達の遅れ」「自閉症特性」「筋緊張低下」という組み合わせは、ほかの大頭症・過成長関連の症候群とも大きく重なります。代表的なものに、ソトス症候群(NSD1遺伝子)、カウデン症候群(PTEN)、Smith-Kingsmore症候群(MTOR)、16p11.2微小欠失症候群などがあります[3]。見分けの一つの手がかりは「過成長(高身長など)」の有無です。ソトス症候群では高身長などの過成長が目立ちますが、ジョーダン症候群では過成長を伴わないことが多く、過成長のない大頭症ではPPP2R5Dをより強く考える必要があります[3]。
さらに、PP2Aという同じ酵素の別の部品の遺伝子に変化が起きると、よく似た「仲間の病気」が生じます。これらはHouge-Janssens症候群のサブタイプとして整理されています。
6. 診断の進め方:出生前と出生後で分けて理解する
🔍 関連記事:発達障害・知的障害の遺伝子パネル検査/羊水検査・絨毛検査の料金
ジョーダン症候群は、見た目や神経学的な所見だけで確定することはできません。最終的な診断は分子遺伝学的検査による変異の同定に頼ります。ここで大切なのは、検査を「出生後」と「出生前」に分けて理解することです。
👶 出生後の確定診断
遺伝子パネル検査:発達遅滞・大頭症・自閉症・てんかんに関わる遺伝子をまとめて調べます。発達障害・知的障害の遺伝子パネル(500以上の遺伝子)が第一選択になりやすい検査です。
全エクソーム検査(WES):症状から絞り込めない場合やパネルで原因不明だった場合に実施します。
ジョーダン症候群の病的変異は、これまで報告されているものすべてが点突然変異(ミスセンス変異)などの微細な配列変化です。数百万塩基にわたる大きな欠失や重複は報告されていません[2]。そのためマイクロアレイ染色体検査やGバンド法では見つけられず、塩基配列を読む「シークエンス解析」が必要になります。逆に言えば、シークエンス解析であれば高い確率で診断にたどり着けます[2]。
7. 最新の治療:対症療法から分子標的治療へ
現時点では、PPP2R5Dの変異そのものを根本的に治す承認薬はありません。そのため、生活の質(QOL)を最大化し合併症を防ぐ、多職種による包括的な対症療法がケアの基本です。理学療法(PT)・作業療法(OT)・言語聴覚療法(ST)による早期からの発達支援、てんかんの薬物管理、発語が難しい場合の拡大代替コミュニケーション(AAC)の導入、側弯症や眼科・歯科の管理、そして成人期に向けたパーキンソニズムのリスク管理など、生涯にわたるサーベイランスが大切になります[5]。
mTOR阻害薬(ラパマイシン)への期待
病気の根本原因が「PP2Aの機能不全に伴うmTOR経路の暴走」だと特定されたことで、既存薬を転用するプレシジョン・メディシン(個別化医療)の可能性が開けてきました。結節性硬化症など、ほかのmTOR経路異常の難治性てんかん・巨脳疾患では、mTOR阻害薬「ラパマイシン(シロリムス)」が発作の抑制などに効果を示しています。前臨床研究では、ラパマイシンやRPS6キナーゼ阻害薬の投与が、E198K・E420Kによって引き起こされたRPS6の異常な過剰リン酸化を強力に抑え、mTORC1の過剰活性を正常化できることが実証されました[7]。入口(上流)の異なる変異でも、共通の出口であるmTOR経路を抑えることで効果が得られる可能性を示す、重要な一歩です。
アレル特異的アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)療法
💡 用語解説:アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)とは
遺伝子からタンパク質がつくられる途中の「メッセージ(mRNA)」に貼りついて、特定の遺伝子の働きを狙って抑える短い核酸の薬です。とくに今回のように、変異したタンパク質が正常なタンパク質の邪魔をする優性阻害タイプの病気では、「変異した側のメッセージだけを黙らせる」アレル特異的なアプローチが理にかなっています。詳しくはセンス鎖・アンチセンス鎖の解説もご覧ください。
2025年に発表された画期的な研究では、E198K・E420K変異をもつ患者さん由来のiPS細胞を大脳皮質の神経細胞へ分化させた疾患モデルが作られました。このモデルでは神経突起の過剰な成長が確認されましたが、ASOを使って「E198K変異アレルだけ」を選択的にノックダウンしたところ、神経発達の異常が劇的に改善したのです[9]。原因となる異常タンパク質の産生そのものを抑え込む——優性阻害という性質を逆手に取った、論理的で有望な次世代戦略であることが示されました。なお、近年サルデーニャ島から、最も頻度の高いE198K変異(c.592G>A)をもつお子さんに多発性の血管腫が確認された例も報告され、血管新生への影響という新たな表現型の可能性も議論されています[8]。
ベルギーのルーヴェン・カトリック大学や米カリフォルニア大学デイビス校などの国際コンソーシアムが、脳オルガノイド(ミニブレイン)やマウスモデルなどを用いて病態解明と創薬を加速させています。これらの多くは、患者ご家族が設立した「Jordan’s Guardian Angels」の支援に支えられており、希少疾患でありながら研究インフラが充実していることが、治療開発への希望を高めています[5]。
8. 遺伝のしかたと再発リスク・遺伝カウンセリング
ジョーダン症候群は常染色体顕性(優性)遺伝の形をとりますが、これまで報告された患者さんの大多数は、両親から受け継いだのではなく、精子や卵子ができる過程、あるいは受精のごく初期に偶然生じた新生突然変異(de novo変異)によるものです[5]。
💡 用語解説:新生突然変異(de novo変異)と再発リスク
新生突然変異(de novo変異)とは、両親のどちらにも同じ変異がなく、お子さんで初めて生じた変異のことです。お子さんの変異がde novoと確認できた場合(両親の検査が陰性の場合)、次のお子さんが同じ病気になる確率は、一般集団とほぼ変わらないレベルまで下がります。
ただし、ごくまれに親の生殖細胞の一部だけに変異が混じる性腺モザイクの可能性は完全には否定できないため、臨床遺伝の現場では理論上の再発リスクを約1%と見積もってご説明します。
なお、ごくまれに不完全浸透により軽い症状のみをもつ親から遺伝した例も報告されているため、家族計画を考える際には、まずご両親の遺伝子検査が強く推奨されます[2]。再発リスクに強い不安を抱えるご夫婦には、妊娠時の選択肢として、羊水検査・絨毛検査による特定変異のターゲット検査や、体外受精の過程で受精卵を調べる着床前遺伝学的検査(PGT-M)といった高度な選択肢が技術的に提供可能です。
ただし、ジョーダン症候群のように症状の幅が広く、不完全浸透もありうる病気では、出生前に見つけることが常に利益になるとは限りません。臨床遺伝専門医はあくまで情報提供者であり、特定の検査を勧めたり、安心を保証したり、不安を煽ったりすることはしません。中立・非指示的な立場で正確な情報をお渡しし、最終的な決定はご家族に委ねる——これが遺伝カウンセリングの本来の役割です。なお、NIPTを受ける場合、当院では互助会(8,000円)により、陽性となった際の羊水検査の費用が全額補助されます。
9. よくある誤解
誤解①「親の遺伝・育て方のせい」
大多数は新生突然変異(de novo変異)で、ご両親の遺伝や妊娠中の過ごし方が原因ではありません。誰のせいでもなく、予測も予防もできなかった偶然の変化です。
誤解②「頭が大きい=水頭症で手術が必要」
大頭症の主な原因は水頭症ではなく脳そのものが大きい巨脳症です。そのため原則としてシャント手術の対象にはなりません。MRIでの評価が大切です。
誤解③「話さない=言葉を理解していない」
自分から話す力が弱くても、相手の言葉を理解する力は保たれているお子さんが多くいます。理解されている前提での声かけやAACの活用が支援の鍵です。
誤解④「もう治療法は何もない」
根本治療薬はまだありませんが、mTOR阻害薬やアレル特異的ASOの研究が世界で進んでいます。対症療法と発達支援も予後に大きく関わります。
10. 臨床遺伝専門医からのメッセージ
ジョーダン症候群は、症状の幅が広く、わからないことも多い病気です。けれども2015年に病気として確立されてからの10年で、原因のしくみが分子レベルで解き明かされ、mTOR阻害薬やアレル特異的ASOといった治療研究が、世界中の研究者と患者ご家族の力で前進してきました。最新の科学的根拠と、お一人おひとりの人生に寄り添う対話——その両方を通じて、ご家族が前向きに歩んでいくための道しるべをお示しすることが、遺伝医療に携わる者の使命だと考えています。気になる症状や検査について迷われたときは、臨床遺伝専門医にお気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
🏥 ジョーダン症候群・遺伝子診断のご相談
発達の遅れ・大頭症・遺伝子検査に関するご相談は
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参考文献
- [1] Houge-Janssens syndrome type 1. Orphanet (ORPHA:457279). [Orphanet]
- [2] PPP2R5D-Related Neurodevelopmental Disorder. GeneReviews®, NCBI Bookshelf (NBK536360). [GeneReviews]
- [3] Houge-Janssens Syndrome 1; HJS1. OMIM (#616355). Johns Hopkins University. [OMIM 616355]
- [4] Houge-Janssens syndrome 1 (Concept Id: C5779996). NCBI MedGen. [NCBI MedGen]
- [5] PPP2R5D-Related Neurodevelopmental Disorder – Clinical Fact Sheet. Jordan’s Guardian Angels. [Jordan’s Guardian Angels]
- [6] PPP2R5D-Related Intellectual Disability and Neurodevelopmental Delay: A Review of the Current Understanding of the Genetics and Biochemical Basis of the Disorder. Int J Mol Sci. 2020. [MDPI IJMS] / [PMC7072873]
- [7] Quantitative proteomics and phosphoproteomics of PPP2R5D variants reveal deregulation of RPS6 phosphorylation through converging signaling cascades. bioRxiv 2023.03.27.534397. [bioRxiv] / [PMC10081281]
- [8] PPP2R5D-Related Neurodevelopmental Disorder and Multiple Haemangiomas: A Novel Phenotypic Trait? Pediatric Reports. 2024. [PMC11677636]
- [9] Pathogenic PPP2R5D variants disrupt neuronal development and neurite outgrowth in patient-derived neurons that are reversed by allele-specific knockdown. HGG Advances. 2025. [PMC12148737]
- [10] Pathogenic de novo variants in PPP2R5C cause a neurodevelopmental disorder within the Houge-Janssens syndrome spectrum (HJS4; OMIM #621185). Am J Hum Genet. 2025. [PMC11947181]



