目次
ヒトの体をつくる細胞の中には、大きさも形もそっくりな染色体が2本ずつ対になって収められています。この対をなす1組が相同染色体(そうどうせんしょくたい、homologous chromosomes)です。片方は母親から、もう片方は父親から受け継いだもので、同じ遺伝子が同じ順序で並んでいます。相同染色体は、生物の教科書に必ず登場する基礎用語であると同時に、減数分裂での対合や組換え、そして染色体の分離の異常が引き起こすトリソミーや流産にまで直接つながる、臨床的にも重要な概念です。この記事では、相同染色体とは何かという定義から、二価染色体・対立遺伝子・姉妹染色分体といった紛らわしい用語との違い、減数分裂での役割、そして遺伝医療との接点までを整理します。
Q. 相同染色体とは何ですか?まず結論だけ知りたいです
A. 相同染色体とは、父親と母親からそれぞれ受け継いだ、大きさ・形・セントロメアの位置が等しく、同じ遺伝子が同じ順序(同じ遺伝子座)に並んだ、対をなす2本の染色体のことです。ヒトの体細胞では46本の染色体が23組に整理されます。22対の常染色体は相同染色体で、女性のXXも相同です。一方、男性のXYは擬似常染色体領域(PAR)を除いて相同ではありません。よく似ていますが、同じ遺伝子でも型(対立遺伝子)が父母で異なることがあるため、まったく同一ではありません。減数分裂のときには対合して組換えを起こし、遺伝的多様性と正しい分配を担います。
- ➤定義 → 父由来と母由来で対をなす、同形同大・同一遺伝子座の2本の染色体
- ➤数え方 → ヒトの体細胞は46本(常染色体22対+性染色体1組)。男性XYはPARを除いて相同ではない
- ➤似た用語との違い → 二価染色体・対立遺伝子・染色体・姉妹染色分体は別物
- ➤はたらき → 減数第一分裂前期に対合し、組換えで多様性と正確な分配を生む
- ➤臨床とのつながり → 分離の異常(染色体不分離)はトリソミーや流産の主な要因の一つ
🧬 相同染色体の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 読み方・英語 | そうどうせんしょくたい/homologous chromosomes(ホモログ、homolog とも) |
| 定義 | 父由来・母由来で対をなす、大きさ・形・セントロメア位置・バンドパターンが等しく、同じ遺伝子が同じ遺伝子座に同じ順序で並ぶ2本の染色体[1] |
| ヒトでの数 | 46本=常染色体22対+性染色体1組。女性XXは相同、男性XYはPARを除いて非相同[1][2] |
| 性染色体の扱い | 女性のXXは相同。男性のXYは擬似常染色体領域(PAR)を除いて相同ではない[2] |
| 主なはたらき | 減数分裂での対合・組換え・正確な分配。遺伝的多様性の源になる[4] |
| 混同しやすい語 | 二価染色体/対立遺伝子/染色体/姉妹染色分体(本文で区別を解説) |
※本記事は一般の方と遺伝診療に関わる方の両方に向けた用語解説です。特定の検査を勧めるものではありません。数値を伴う個別のリスク(不分離やトリソミーの頻度など)は、関連する専門ページで扱います。

相同染色体は、父由来と母由来で対応する遺伝子座を持つ染色体です。減数分裂では対合して二価染色体を形成し、組換えと分離を行います。対立遺伝子や姉妹染色分体との違いもあわせて整理しています。
1. 相同染色体とは ─ 対をなす2本の染色体
相同染色体とは、父親と母親からそれぞれ1本ずつ受け継いだ、大きさ・形・セントロメア(染色体のくびれ)の位置・染色パターンが等しく、同じ遺伝子が同じ順序で並んだ、対をなす2本の染色体のことです[1]。ヒトのように父母から染色体を2セット受け継ぐ生物を二倍体(2n)といい、二倍体の細胞では、それぞれの染色体が「母由来」と「父由来」のペアで存在します。このペアの片割れどうしが、互いに相同(あいおなじ)である、というのが名前の由来です。
ここで大切なのは、相同染色体は「よく似ているが、同一ではない」という点です。相同染色体は同じ遺伝子座(同じ遺伝子が載る場所)に同じ種類の遺伝子を持っていますが、その遺伝子の型(対立遺伝子)は父由来と母由来で違うことがあるからです[1]。たとえば、ある遺伝子について母から受け継いだ型と父から受け継いだ型が異なれば、その人はその遺伝子について「ヘテロ(異なる2型を持つ)」ということになります。この父母の型の混ざり合いが、私たち一人ひとりの個性や、遺伝のしかたの土台になっています。
相同染色体が「対」で存在するのは、私たちが二倍体だからです。体をつくる細胞(体細胞)は父母から2セットの染色体を受け継いだ二倍体(2n)ですが、精子や卵子といった配偶子は、各対から1本ずつを受け取った一倍体(n)です[1]。つまり配偶子には相同染色体の「片割れ」だけが入っており、受精によって父由来の1セットと母由来の1セットが合わさると、ふたたび対がそろって二倍体に戻ります。相同染色体という考え方は、この「2セットを1セットずつ受け継ぐ」という生殖の仕組みと切り離せません。だからこそ、相同染色体は減数分裂という配偶子づくりの場面で決定的な役割を果たします。
相同染色体は同じ遺伝子座に同じ遺伝子を持つが、型(対立遺伝子)は父母で異なることがある(座①ではA対a、座②では同じB)。中央の破線は「同じ場所(遺伝子座)」を表す。
読み方・英語・別名
相同染色体は「そうどうせんしょくたい」と読み、英語では homologous chromosomes、略してホモログ(homolog)とも呼ばれます。「相同」とは生物学で「起源や構造が対応している」という意味で使われる言葉で、相同染色体のほかにも、相同組換えや相同性検索など、遺伝学のさまざまな場面で登場します。この記事では、染色体どうしが対応関係にある、という意味で「相同」を用います。
💡 用語解説:遺伝子座と対立遺伝子
遺伝子座(locus)とは、ある遺伝子が染色体上のどこに載っているかという「住所」のことです。相同染色体では、この住所が両者でそろっています。同じ住所に載る遺伝子の「型のバリエーション」が対立遺伝子(アレル)です。つまり相同染色体は「同じ住所の並んだ2本」、対立遺伝子は「その住所に住む遺伝子の型」と考えると整理しやすくなります。
2. ヒトの相同染色体は何対あるのか
ヒトの体細胞には46本の染色体があり、通常は23組に整理されます[1]。このうち22対の常染色体は、母由来の1本と父由来の1本からなる相同染色体です。女性では2本のX染色体も相同ですが、男性のX染色体とY染色体は擬似常染色体領域(PAR)を除いて相同ではありません[2]。したがって、ヒトの染色体を一律に「23対の相同染色体」と表現するのは厳密には正確ではありません。
この23対のうち、22対は男女に共通する常染色体で、大きさの順におおまかに1番から22番までの番号がつけられています。残りの1対が、性別に関わる常染色体とは区別される性染色体で、女性はX染色体を2本(XX)、男性はX染色体とY染色体を1本ずつ(XY)持っています[1]。
では、なぜ同じ遺伝情報がわざわざ2本ずつあるのでしょうか。相同染色体が対で存在することには、大きく2つの意味があります。二倍体では、多くの常染色体遺伝子について父由来・母由来の2コピーを持つため、片方のアレルに機能低下があっても表現型への影響が限定される場合があります。ただし、遺伝形式や遺伝子の量感受性によっては1コピーの変化でも影響が生じるため、単純な「予備」とみなすことはできません。さらに、減数分裂では相同染色体が対合・組換え・分離することで、遺伝的多様性と正確な染色体分配に関わります。
📊 ヒトの染色体と相同染色体の数え方
| 区分 | 本数・対 | 相同性 |
|---|---|---|
| 常染色体 | 22対(44本)/1〜22番 | 各対とも相同 |
| 性染色体(女性) | 1対(XX) | XとXは相同 |
| 性染色体(男性) | 1対(XY) | PARを除き非相同 |
| 合計 | 46本(常染色体22対+性染色体1組) | — |
※常染色体は22対の相同染色体です。女性のXXも相同ですが、男性のXYはPARを除いて相同ではないため、「ヒトには23対の相同染色体がある」と一律に表現するのは厳密には不正確です。
男性のXとYは「相同染色体」といえるのか
よくある疑問が、「性別を決めるXとYも相同染色体なのか」というものです。答えは「厳密には相同ではない」です。X染色体とY染色体は大きさも載っている遺伝子も大きく異なり、配列を共有しているのは両端にある擬似常染色体領域(PAR:pseudoautosomal region)という短い区間だけです[2]。女性の2本のXが全長にわたって対合できるのに対し、男性ではX–Yの対合と組換えはこのPARに限られます[2]。
とはいえ、このわずかなPARは「あってもなくてもよい飾り」ではありません。男性の減数分裂では、PAR1での交叉(乗換え)がXとYを正しく分けるために必須で、ここがうまくいかないと精子形成に支障が出ることが知られています[2]。したがって、男性のXYを「相同染色体」と単純に呼ぶのは正確ではありませんが、「まったく無関係な2本」でもなく、PARで部分的に対合・組換えする特殊なペア、と理解するのが正確です。
1番から番号がつくのに、なぜ21番が最も小さいのか
常染色体は「大きい順に番号をつける」という原則で1〜22番が振られています。ところが実際には、21番染色体がヒトで最も小さい常染色体で、22番より小さいことがわかっています[3]。これは、番号づけが行われた当時の見積もりと、その後のDNA配列の解読でわかった実際の大きさとがずれていたためです。ヒト染色体21番の全塩基配列が2000年に解読された際にも、21番がヒト最小の常染色体であることが確認されており、載っている遺伝子の数も22番のおよそ半分にとどまります[3]。番号順と実際の大きさが一致しない、という点は、相同染色体を並べた核型を読むときの豆知識として覚えておくとよいでしょう。
ちなみに、細胞の全染色体を大きさ順に並べ、相同染色体どうしをペアにして表示したものを核型(かくがた、karyotype)といいます。健康診断や出生前の検査で「46,XX」「46,XY」といった表記を目にすることがありますが、これは「染色体が全部で46本あり、性染色体がXXまたはXYである」ことを表しています。核型では、相同染色体が同じ番号の位置に隣り合って並ぶため、どの対に何本あるか(過不足がないか)をひと目で確認できます。相同染色体という概念は、こうした染色体検査の読み方の前提にもなっているのです。
3. 混同しやすい用語との違い
相同染色体は、生物の授業で最も混同されやすい用語の一つです。特に「二価染色体」「対立遺伝子」「染色体」「姉妹染色分体」との違いは、検索でもよく問われます。まず全体を表で整理し、そのあと一つずつ結論から説明します。
🔍 相同染色体と紛らわしい用語の違い
| 用語 | 意味 | 相同染色体との関係 |
|---|---|---|
| 相同染色体 | 父母由来で対をなす、非同一の2本 | —(本記事の主役) |
| 二価染色体 | 減数分裂で相同染色体が対合して密着した構造(四分子) | 相同染色体が対合した状態 |
| 対立遺伝子 | 同じ遺伝子座に載る遺伝子の「型」 | 相同染色体という入れ物の中身 |
| 染色体 | DNAとタンパク質でできた1本の構造体 | 相同染色体は染色体どうしの対応関係を指す語 |
| 姉妹染色分体 | 複製でできた同一コピー2本(セントロメアで結合) | 同一コピー。相同染色体は非同一 |
※スマートフォンでは表を横スクロールできます。
相同染色体と二価染色体の違い
結論:相同染色体は父母由来の「1対」を指す言葉で、その1対が減数分裂で対合して密着した状態が「二価染色体」です。相同染色体という2本が、対合という行為を経てつくる構造が二価染色体(bivalent)である、という関係になります[4]。二価染色体はDNA複製後に形成されるため、内部には各相同染色体の姉妹染色分体2本ずつ、合わせて4本の染色分体が含まれ、「四分子(テトラッド)」とも呼ばれます。つまり二価染色体は「相同染色体の別名」ではなく、「相同染色体が対合したときにだけ現れる、時期限定の姿」です。組換えが起こると、相同染色体どうしがX字型に交差したキアズマという接点ができ、これが二価染色体を物理的につなぎとめます[4]。「相同染色体」という言葉が2本の関係を静的に表すのに対し、「二価染色体」は対合・交叉という動きの中で生まれる状態を表す、という違いを押さえておくとよいでしょう。
相同染色体と対立遺伝子の違い
結論:相同染色体は「染色体(入れ物)」、対立遺伝子は「その同じ遺伝子座に載る遺伝子の型(中身)」です。相同染色体の同じ住所(遺伝子座)に、父由来と母由来で異なる型の遺伝子が載っていることがあり、その型の一つひとつが対立遺伝子です[1]。両方とも同じ型なら「ホモ(ホモ接合)」、異なる型なら「ヘテロ(ヘテロ接合)」といいます。相同染色体が2本そろっているからこそ、この「2つの型の組み合わせ」が生まれ、どちらの型が表に出るか(顕性か潜性か)という遺伝のしかたが決まります。たとえば潜性(劣性)遺伝の病気は、原因となる型が相同染色体の両方(2本)にそろって初めて発症するのが典型で、これは相同染色体が対で存在することを前提にした考え方です。対立遺伝子(アレル)の詳しい解説はこちらもあわせてご覧ください。
相同染色体と染色体・姉妹染色分体の違い
結論:染色体は1本の構造体そのものを指し、相同染色体はその染色体どうしが「対応する2本である」という関係を指します。そして最も間違えやすいのが姉妹染色分体との違いです。姉妹染色分体は、1本の染色体がDNA複製でコピーされてできた「同一の2本」で、セントロメアで結合しています。一方、相同染色体は父由来と母由来という別々の親から来た「非同一の2本」です[1]。「複製由来で同一」なら姉妹染色分体、「父母由来で非同一」なら相同染色体、と覚えると混同しにくくなります。
💡 用語解説:同一か、非同一か
姉妹染色分体は同じ1本を写し取ったコピーなので、原則として遺伝情報は同一です(減数分裂での乗換えのあとは一部が入れ替わります)。相同染色体は別々の親に由来するため、同じ遺伝子座でも型が違うことがあり、はじめから同一ではありません。この「同一か非同一か」が、両者を分ける決定的な違いです。
4. 相同染色体のはたらき ─ 対合と組換え
相同染色体の最も重要なはたらきは、減数分裂(精子や卵子をつくる特別な細胞分裂)で対合し、組換えを起こし、正確に分配されることです。この一連の流れが、遺伝的多様性を生み出すと同時に、染色体が過不足なく次の世代へ受け渡されることを保証しています[4]。まず全体の流れを図で見てみましょう。
相同染色体はいつ対合するのか
結論:相同染色体が対合するのは、減数第一分裂の前期です。減数分裂では、DNAが複製されたあと、父由来と母由来の相同染色体どうしが互いを認識して近づき、全長にわたって密着します。これを対合(シナプシス)といい、対合した相同染色体が二価染色体をつくります[4]。対合した相同染色体の間には、シナプトネマ複合体と呼ばれる減数分裂特有の構造が形成され、両者をはしごのように連結します。対合そのものの詳しい仕組みは「相同染色体対合」の解説もご覧ください。
対合で見過ごされがちなのが、「多数の染色体の中から、正しい相手だけを見つけて組む」という難題です。ヒトの細胞には23対の相同染色体が入り混じっていますが、減数分裂では、たとえば1番染色体は1番染色体どうしで、3番とは組まない、というように、相同な相手だけが正確に対合しなければなりません[4]。この相手探しには、DNAの配列が似ている部分どうしを照合する仕組みが関わっており、対合が完成するとシナプトネマ複合体が全長にわたって形成されて、両者ががっちり連結されます。相同性の認識と対合が正確であることは、そのあとの組換えと分離が正しく進むための前提になります。
相同染色体はなぜ対合するのか
結論:正確に分配するためと、組換えによって遺伝的多様性を生むためです。対合した相同染色体の間では、DNAの一部を切ってつなぎ替える組換え(乗換え、crossing over)が起こります[4]。この組換えによって、父由来と母由来の遺伝情報が一部入れ替わり、親とは異なる組み合わせの染色体ができます。多くの生物では、各相同染色体の対に少なくとも1つの交叉が起こることが、減数第一分裂で相同染色体が正しく2つの細胞に振り分けられるための、いわば「留め具」として必要とされています[4]。つまり、組換えは多様性を生むだけでなく、正確な分配のための物理的な仕組みでもあるのです。
この「相同染色体が減数第一分裂で1本ずつに分かれる」という現象は、遺伝学の基礎であるメンデルの法則ともつながっています。対になっていた2つの遺伝子(対立遺伝子)が、配偶子をつくるときに別々に分かれて入る——これが分離の法則ですが、その物理的な正体こそ、相同染色体が分かれて別々の配偶子へ入ることにほかなりません[4]。相同染色体どうしが同じ遺伝子を同じ順序で持っているからこそ、対立遺伝子はきれいに1つずつ配偶子へ受け渡されます。相同染色体は、遺伝の法則が成り立つための「入れ物」そのものなのです。
💡 補足:遺伝的多様性は組換えだけではない
子の遺伝的多様性は、組換えに加えて、23対の相同染色体がそれぞれ独立に父由来・母由来のどちらかへ振り分けられる「独立の分配」によっても生まれます。この2つが組み合わさることで、同じ両親からでも遺伝的に異なる多数の配偶子(精子・卵子)ができます。相同染色体の存在は、こうした多様性の前提になっています。減数分裂の全体像はこちらで図解しています。
体細胞分裂では対合しない
相同染色体の対合は、あくまで減数分裂に特有の現象です。体をつくる通常の細胞分裂(体細胞分裂/有糸分裂)では、複製された染色体は姉妹染色分体として並び、相同染色体どうしが対合したり組換えたりすることは基本的にありません。体細胞分裂で分かれるのは姉妹染色分体、減数第一分裂で分かれるのは相同染色体、という違いは、両者を理解するうえでの重要なポイントです[4]。
🩺 院長コラム【「同じに見える2本」を分けて考える大切さ】
遺伝医学では、「よく似た2本の染色体」をどう区別して考えるかが、基本でありながら意外につまずきやすいところだと考えています。相同染色体(父母由来で非同一)と姉妹染色分体(複製由来で同一)を混同すると、なぜ子に父母の特徴が混ざるのか、なぜ染色体が過不足なく受け継がれるのか、という理解が曖昧になってしまいます。
相同染色体という基礎を丁寧に押さえておくことは、後の章で触れる染色体不分離やトリソミーのような臨床的なテーマを読み解くうえでの土台になります。基礎用語は地味に見えますが、そこを正確に理解しておくことこそが、検査結果の意味を正しく受け止める力につながると考えています。
5. 相同染色体の分離と臨床的意義
結論:相同染色体(や姉妹染色分体)の分離がうまくいかないと、配偶子の染色体数に過不足が生じ、トリソミーや流産の主な要因の一つになります。減数第一分裂では相同染色体が2つの細胞に分かれ、第二分裂では姉妹染色分体が分かれます。このどちらかの分離が正しく起こらないことを染色体不分離といいます[5]。
染色体不分離が起こると、ある染色体を2本持つ配偶子や、逆に1本も持たない配偶子ができます。これが受精すると、その染色体が3本になるトリソミー(例:21トリソミー=ダウン症)や、1本しかないモノソミーといった異数性が生じます[5]。異数性は、ヒトの流産や先天的な状態の主な要因の一つとして知られており、その多くは卵子側の減数分裂で起こる不分離に由来し、母体の加齢と関連することが報告されています[5]。
ここで、相同染色体を理解しておくと、不分離が「どの段階で起こるか」も整理できます。減数第一分裂での不分離は、相同染色体が分かれ損なうことを指し、減数第二分裂での不分離は、姉妹染色分体が分かれ損なうことを指します[5]。どちらの段階で起こったかによって、生じる異数性の性質が変わってくることが知られており、これは「相同染色体の分離(第一分裂)」と「姉妹染色分体の分離(第二分裂)」という2段階の違いを理解していないと区別できません。相同染色体という基礎概念が、染色体の数の異常を読み解くうえでいかに土台になっているかがわかります。
⚠️ 数字の扱いについての注意
不分離やトリソミー、流産の具体的な頻度や確率は、対象とする集団・年齢・調べ方によって幅があり、集団のデータから個人のリスクをそのまま推定することはできません。この記事では相同染色体という用語の理解を目的としているため、個別の数値は扱いません。数値を含む詳しい解説は、染色体の数的異常(異数性)の解説や染色体不分離の解説をご覧ください。
このように、相同染色体は「教科書の中の用語」にとどまらず、なぜ染色体の数の異常が起こるのか、なぜ生殖に加齢の影響が出るのか、といった臨床的な問いに直結しています。相同染色体が正しく対合し、組換えを起こし、きちんと分離するという一連の流れは、次の世代へ遺伝情報を過不足なく受け渡すための、精巧で欠かせない仕組みなのです[4]。
🧬 遺伝子や染色体に関わる検査には、目的や対象となる遺伝学的変化によってさまざまな種類があります。ミネルバクリニックで提供している検査については、遺伝子検査の案内をご覧ください。
まとめ
相同染色体とは、父由来と母由来で対をなす、対応する遺伝子座を持つ2本の染色体のことです。ヒトでは22対の常染色体が相同で、女性のXXも相同です。一方、男性のXYはPARを除いて相同ではありません。相同染色体はよく似ていますが、対立遺伝子の違いを含むため同一ではありません[1]。二価染色体(対合した状態)、対立遺伝子(中身の型)、姉妹染色分体(複製由来の同一コピー)とは明確に区別されます。
減数分裂では、相同染色体が対合して二価染色体をつくり、組換えを経て正確に分離します。この流れが遺伝的多様性を生み、染色体を過不足なく次世代へ受け渡す土台になっています[4]。一方で、その分離がうまくいかない染色体不分離は、トリソミーや流産の主な要因の一つとして、臨床的にも重要な意味を持ちます[5]。基礎用語である相同染色体を正確に理解することは、遺伝や出生前の検査結果を読み解くうえでの確かな土台になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相同染色体とは何ですか?
相同染色体とは、父親と母親からそれぞれ受け継いだ、大きさ・形・セントロメアの位置が等しく、同じ遺伝子が同じ順序(同じ遺伝子座)に並んだ、対をなす2本の染色体のことです。よく似ていますが、同じ遺伝子でも型(対立遺伝子)が父母で異なることがあるため、まったく同一ではありません。減数分裂のときに対合して組換えを起こし、遺伝的多様性と正確な分配を担います。
Q2. 相同染色体は何対(何本)ありますか?
ヒトの体細胞には46本の染色体があり、常染色体は22対の相同染色体です。女性では2本のX染色体も相同です。一方、男性のX染色体とY染色体は擬似常染色体領域(PAR)を除いて相同ではありません。そのため、ヒトの染色体を一律に「23対の相同染色体」と表現するのは厳密には正確ではありません。
Q3. 相同染色体と二価染色体の違いは何ですか?
相同染色体は父母由来で対をなす「1対」を指す言葉で、二価染色体は、その1対が減数分裂で対合して密着した状態を指します。二価染色体はDNA複製後にできるため、内部には4本の染色分体が含まれ、四分子(テトラッド)とも呼ばれます。二価染色体は相同染色体の別名ではなく、減数分裂の前期にだけ現れる「対合した姿」です。
Q4. 相同染色体と姉妹染色分体はどう違いますか?
姉妹染色分体は、1本の染色体がDNA複製でコピーされてできた「同一の2本」で、セントロメアで結合しています。一方、相同染色体は父由来と母由来という別々の親から来た「非同一の2本」です。「複製由来で同一」なら姉妹染色分体、「父母由来で非同一」なら相同染色体、と整理すると混同しにくくなります。体細胞分裂で分かれるのは姉妹染色分体、減数第一分裂で分かれるのは相同染色体です。
Q5. 相同染色体はいつ・なぜ対合するのですか?
相同染色体が対合するのは、減数第一分裂の前期です。父由来と母由来の相同染色体が互いを認識して密着し、二価染色体をつくります。対合する理由は、大きく2つあります。1つは、対合と組換え(乗換え)によって父母の遺伝情報が入れ替わり、遺伝的多様性が生まれるためです。もう1つは、対合と交叉が、相同染色体を正しく2つの細胞に分けるための物理的な仕組みになっているためです。
参考文献
- [1] Genetics, Chromosomes. StatPearls, NCBI Bookshelf. [NBK557784]
- [2] Hinch AG, et al. Recombination in the Human Pseudoautosomal Region PAR1. PLoS Genet. 2014;10(7):e1004503. [PLoS Genetics]
- [3] Hattori M, et al. The DNA sequence of human chromosome 21. Nature. 2000;405(6784):311-319. [PubMed 10830953]
- [4] Zickler D, Kleckner N. Recombination, Pairing, and Synapsis of Homologs during Meiosis. Cold Spring Harb Perspect Biol. 2015;7(6):a016626. [PubMed 25986558]
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