目次
📍 クイックナビゲーション
マイトファジーとは、傷ついて働かなくなったミトコンドリアを、細胞が選択的に分解・処分する「品質管理システム」です。細胞の発電所であるミトコンドリアは、エネルギーを生み出す過程でどうしても自分自身を傷つけてしまいます。その壊れた発電所を素早く片づける仕組みがマイトファジーで、この働きが衰えると老化・パーキンソン病・糖尿病・がんなど、多くの加齢関連疾患の引き金になります。臨床遺伝の現場でも、若年性パーキンソン病やミトコンドリア病の原因遺伝子の多くがこのマイトファジーに関わっており、遺伝子診断や遺伝カウンセリングと深くつながるテーマです。
Q. マイトファジーとは何ですか?まず結論だけ知りたいです
A. 細胞が、壊れたミトコンドリアだけを狙って包み込み、分解・リサイクルする仕組みです。大きな「自食作用(オートファジー)」の中でも、ミトコンドリア専用の選別ルートにあたります。健康な発電所のプールを保つことで、老化や神経変性・糖尿病・がんから細胞を守る防波堤として働いています。
- ➤定義 → 損傷ミトコンドリアを選択的に分解する品質管理システム(オートファジーの一種)
- ➤2つの経路 → PINK1/Parkin経路と、受容体依存性経路(NIX・FUNDC1など)
- ➤母系遺伝の正体 → なぜミトコンドリアは母親からのみ伝わるのか
- ➤病気との関わり → パーキンソン病・2型糖尿病・がん・神経変性
- ➤最新の活性化法 → ウロリチンA・NMNのヒト臨床エビデンス(研究段階)
1. マイトファジーとは:細胞の「発電所リコール制度」
私たちの体を構成する一つひとつの細胞の中には、ミトコンドリアという小さな器官がたくさん詰まっています。ミトコンドリアは酸素を使ってエネルギー(ATP)を生み出す細胞の発電所です。ところがこの発電は、副産物として活性酸素種(ROS)という「火花」を絶えず出すため、ミトコンドリア自身が少しずつ傷んでいきます。傷んだ発電所を放置すると、エネルギー不足や有害物質の漏れを起こし、細胞全体を危険にさらします。
そこで働くのが、壊れたミトコンドリアだけを見つけて包み込み、分解・リサイクルする仕組み——マイトファジーです。いわば、不良品の発電所だけを選んでリコール(回収・処分)する制度のようなもの。この言葉は1998年に初めて学術的に使われ、2005年ごろに、細胞質をまとめて分解する一般的なオートファジーとは区別される「オルガネラ特異的な選択的オートファジー」として明確に定義されました[2]。
💡 用語解説:オートファジー(自食作用)
細胞が、自分の中の古くなったタンパク質や器官を分解し、その材料を再利用する仕組みの総称です。ギリシャ語で「自分を食べる」という意味。2016年に大隅良典博士がノーベル賞を受賞したことで広く知られるようになりました。マイトファジーは、この大きな枠組みの中の「ミトコンドリア専用の片づけルート」にあたります。くわしくはオートファジーの解説ページもご覧ください。
💡 用語解説:活性酸素種(ROS)と膜電位
活性酸素種(ROS)は、エネルギー産生の過程で生まれる反応性の高い酸素で、適量なら情報伝達に役立ちますが、過剰になると細胞やDNAを傷つけます。膜電位とは、健康なミトコンドリアが内側と外側で保っている電気的な「張り」のこと。発電所が壊れるとこの張りが失われ(脱分極)、これが「私は壊れています」という目印になります。マイトファジーは、この膜電位の低下を手がかりに不良ミトコンドリアを見分けています。
マイトファジーは単なるゴミ処理ではありません。胚の発生・細胞の分化・免疫の調整・母系遺伝の保証など、生命のあらゆる場面で能動的な役割を果たしています。そして近年、その機能低下が「老化の顕著な特徴(ハルマーク)」そのものであることがわかってきました[1]。下の図は、損傷ミトコンドリアが分解されるまでの流れと、それがもたらす全身への恩恵をまとめたものです。
マイトファジーの流れと全身への恩恵
2. マイトファジーを動かす分子メカニズム
マイトファジーは、いくつもの経路がオーケストラのように協調して進みます。大きく分けると、タンパク質に「目印」を付けて進めるユビキチン依存性経路と、ミトコンドリアの外膜にある受容体が直接片づけを呼び込む受容体依存性経路の2つがあります[2]。
PINK1/Parkin経路:最もよく研究された「2人組」
健康なミトコンドリアでは、PINK1というタンパク質は内部に運び込まれてすぐに分解されるため、表面にはたまりません。ところがミトコンドリアが傷んで膜電位が落ちると、この分解が止まり、PINK1が外膜の表面にどんどん蓄積します。蓄積したPINK1は、表面のユビキチンやParkin(細胞質にいる酵素)の特定の場所をリン酸化して活性化させます。活性化したParkinは、外膜のタンパク質に次々とユビキチンを付け足し、「私を食べて(eat-me)」シグナルを作り上げます。このシグナルをp62・OPTN・NDP52といったアダプターが認識し、オートファゴソーム側のLC3とつなぎとめることで、傷んだミトコンドリアが確実に隔離・分解されます[2]。
💡 用語解説:ユビキチン化とは
ユビキチンは、細胞の中で「目印」として使われる小さなタンパク質です。これを標的に貼り付ける作業をユビキチン化といいます。荷物に宅配の伝票を貼るイメージで、ユビキチンがたくさん付いたミトコンドリアは「処分行き」と認識されます。Parkinのように、この目印を貼る酵素をE3ユビキチンリガーゼと呼びます。
受容体依存性経路:酸素が足りないときの切り替えスイッチ
外膜にもともと備わっている特定のタンパク質(受容体)が、目印を介さずに直接片づけを呼び込む経路もあります。代表格はNIX(BNIP3L)・BNIP3・FUNDC1・BCL2L13です。たとえば細胞が低酸素状態に置かれると、これらの受容体が活性化してミトコンドリアの総量をあえて減らし、酸素を使う代謝から酸素のいらない代謝へと切り替えます。これにより、限られた酸素環境でも過剰なROSの発生を防ぎ、細胞が生き延びられるようにしています[2]。
司令塔としての転写・代謝センサー
片づけを効率よく行うには、分解工場であるリソソームを増やし、関連遺伝子の働きを底上げする必要があります。この大号令をかけるのが転写因子TFEBです。さらに、細胞のエネルギー残量を監視するAMPKはマイトファジーの開始を促し、その抑制役であるmTORC1にブレーキをかけます。NAD⁺の量に応じて働くサーチュイン(SIRT1・SIRT3)も、抗酸化と片づけを後押しします。軽いストレスがかえって細胞の防御力を高める「ミトコンドリア・ホルミシス」という適応の仕組みも、ここに関わっています[1]。後ほど紹介するウロリチンAやNMNは、まさにこのAMPK・サーチュイン・mTORC1のスイッチに働きかける物質です。
近年は、神経細胞が傷んだミトコンドリアを細胞の外へ放出し、隣のグリア細胞に分解してもらう「トランスセルラー・マイトファジー(細胞間移行マイトファジー)」も発見されました。エネルギー需要が高く自前の処理能力に限界がある神経細胞が、品質管理を周囲の支援細胞に外注する画期的な仕組みとして注目されています[1]。
| 経路 | 主な分子 | 引き金 | 役割の特徴 |
|---|---|---|---|
| ユビキチン依存性 | PINK1, Parkin, p62, OPTN, NDP52 | 膜電位の低下、重度のROS蓄積 | 突発的な損傷ミトコンドリアの強力な排除。神経細胞の保護で特に重要。 |
| 受容体依存性 | NIX(BNIP3L), BNIP3, FUNDC1, BCL2L13 | 低酸素、分化シグナル、代謝の切り替え | 環境変化への適応。赤血球成熟などプログラムされた発達でのミトコンドリア量調節。 |
| 転写・代謝制御 | TFEB, AMPK, SIRT1/3, mTORC1(抑制) | エネルギー枯渇、NAD⁺上昇、リソソームからのカルシウム放出 | 分解工場の拡張と代謝の再プログラミング。 |
| トランスセルラー | (細胞外放出と隣接細胞による取り込み) | 神経軸索など局所のエネルギー枯渇 | 神経細胞からグリア細胞への品質管理の外注。組織全体の調和を維持。 |
3. なぜミトコンドリアは母親からのみ伝わるのか
マイトファジーが遺伝のしくみに直結する、最も鮮やかな例がミトコンドリアの母系遺伝です。ミトコンドリアは独自のDNA(mtDNA)を持っていますが、これはほぼすべての真核生物で母親からのみ子へ伝わります。受精のとき、精子は運動のために最大100個もの機能的なミトコンドリアを卵子に持ち込みますが、これら父親由来のミトコンドリアは、受精後ごく早い段階で完全に消し去られます。
かつては「卵子の膨大な母系ミトコンドリアに薄められて消える」と考えられていました。しかし線虫やマウスの研究により、父系ミトコンドリアは受精後すぐに発動する強力なマイトファジーによって、能動的かつ選択的に破壊されていることが証明されました[6]。マウスでは、この排除に2つのE3ユビキチンリガーゼ(PARKINとMUL1)が、一方が欠けても他方が補う形で働いていることが同定されています[5]。
💡 用語解説:母系遺伝とヘテロプラスミー
母系遺伝とは、遺伝情報が母親からのみ子へ伝わる遺伝の形式です。mtDNAはこの典型例で、ミトコンドリア病の一部はこの形式で受け継がれます。ヘテロプラスミーとは、1つの細胞の中に正常なmtDNAと変異したmtDNAが混在している状態のこと。変異したmtDNAの割合が組織ごとに違うため、同じ家系でも症状の重さが大きく異なることがあります。この複雑さこそ、ミトコンドリア病の遺伝相談がとても繊細になる理由です。
なぜここまで精巧に父系ミトコンドリアを排除するのか。有力な仮説は、母系と父系の異なるmtDNAが混在すると、ミトコンドリア同士の不適合や競合が起き、分裂を繰り返す初期胚に致命的になりうるから、というものです。実際、マイトファジー機構を壊した線虫では父系ミトコンドリアが残留し、多くが初期段階で死に至ることが報告されています[6]。マイトファジーは、世代を超えた遺伝情報の「純度」を守る門番でもあるのです。
4. 発生・分化・免疫における役割
マイトファジーは、細胞が特定の役割を持つ細胞へと変身する「分化」の場面でも欠かせません。細胞が変身するとき、エネルギーの作り方そのものが大きく切り替わるため、不要になったミトコンドリアを刈り込む大改修が必要になるからです[2]。
- ➤赤血球の成熟:酸素運搬に特化するため、赤血球は核を含むすべての器官を捨てます。このときNIX依存性のマイトファジーが働き、これが欠けると重度の貧血が起こります。
- ➤網膜神経節細胞の分化:代謝を解糖系へ切り替える際にNIX依存性マイトファジーが必要で、欠損すると神経細胞の分化が不完全になります。
- ➤骨格筋の形成:逆に酸化的リン酸化へ切り替わるため、増えるROSで傷んだミトコンドリアを除く品質管理が不可欠です。
- ➤脂肪細胞の運命:Parkin依存性マイトファジーが、エネルギーを燃やすベージュ脂肪から貯蔵する白色脂肪への移行を制御します。
免疫の面では、マイトファジーは過剰な炎症を抑える強力なブレーキとして働きます。傷んだミトコンドリアからは、過剰なROSや、本来は細胞質にないはずのmtDNAが漏れ出します。これらは危険信号としてNLRP3インフラマソームを過剰に活性化させ、IL-1βなどの炎症性物質の放出や炎症性細胞死(パイロトーシス)を引き起こします。マイトファジーは、その火種である損傷ミトコンドリアを早めに消去することで、不要な炎症を未然に防いでいます[3]。
💡 用語解説:NLRP3インフラマソーム
細胞の中にある「炎症の火災報知器」のような装置です。危険信号を感知すると作動し、炎症性物質を大量に放出して体を守ろうとします。ただし過剰に作動すると、かえって組織を傷つけます。実際、PINK1やParkinを欠損したマウスは重症の敗血症に弱く、サイトカインの暴走で命を落としやすくなりますが、NLRP3を同時に取り除くとこの致死性が和らぐことが示されています。マイトファジーが炎症の暴走を抑える要であることの強い証拠です。
5. 老化と神経変性疾患:パーキンソン病・ALS・アルツハイマー病
加齢とともにマイトファジーの能力は少しずつ衰えます。すると機能の落ちたミトコンドリアが細胞内にたまり、エネルギー不足・ROSの過剰・細胞死の異常が進みます。これが神経変性疾患をはじめとする加齢関連疾患の根本要因の一つです[4]。とりわけ神経細胞は、一度成熟すると分裂しないため不良品を「薄めて捨てる」ことができず、膨大なエネルギーを使うため、品質管理への依存度が極めて高いのです。
パーキンソン病は、マイトファジーとの関係が最も明確に示された疾患です。家族性パーキンソン病の原因遺伝子として同定されたPINK1(PARK6)とParkin/PRKN(PARK2)の変異は、まさにユビキチン依存性マイトファジーの破綻を意味します。この経路が働かないと、酸化ストレスを放つ損傷ミトコンドリアが脳の黒質のドーパミン神経にたまり、神経細胞の脱落を招きます[4]。
💡 用語解説:常染色体劣性(潜性)遺伝
PINK1やPRKN(PARK2)の変異による若年性パーキンソン病は、多くが常染色体劣性(潜性)遺伝の形式をとります。これは、性染色体以外の染色体にある遺伝子について、父母両方から受け継いだ2本ともに変異がある場合に発症する形式です。片方だけの変異なら通常は発症しません(保因者)。両親がともに保因者の場合、子に発症する確率は理論上25%です。なお「優性/劣性」は、現在「顕性/潜性」という新しい用語に置き換えが進んでいます。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)でも、マイトファジーの欠陥が深く関わります。ALS患者で見つかったOPTN遺伝子のE478G変異は、ユビキチン鎖への結合能を失わせてLC3のリクルートを妨げます。OPTNをリン酸化して働きを高めるTBK1の変異を持つ患者もおり、上流から下流までの連携の破綻が運動神経の死に直結します[3]。
アルツハイマー病では、アミロイドβやリン酸化タウがミトコンドリア機能を直接妨げ、同時に加齢によるマイトファジーの低下が異常タンパク質の蓄積をさらに促すという悪循環が生まれます[4]。DNA修復異常による早老症でもマイトファジーの欠乏が観察されており、ミトコンドリアの品質管理が寿命の決定に密接に関わることが示されています。
6. 代謝性疾患と2型糖尿病:膵β細胞の危機
マイトファジーの異常は、肥満・インスリン抵抗性・脂肪肝・2型糖尿病など、幅広い代謝の病気と関わります。なかでも脆弱なのが、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞です。β細胞は血糖を感知してインスリンを出すために、ミトコンドリアでのエネルギー産生に強く依存しているからです[7]。
慢性的な高血糖と脂肪過剰(糖毒性・脂質毒性)は、β細胞のミトコンドリアに持続的なストレスを与え、大量のROSを発生させます。糖尿病モデルや患者の組織では、ミトコンドリアの分裂を促すDRP1が増え、融合を促すMFN2やOPA1が減ることで、ミトコンドリアが過度に断片化して機能不全に陥ることが確認されています[7]。
この過酷な状況で、マイトファジーはβ細胞の最後の防御ラインになります。司令塔TFEBをβ細胞だけで欠損させたマウスは、通常食では問題なくても、高脂肪食を与えると適応的なマイトファジーを起こせず、損傷ミトコンドリアが蓄積してインスリン分泌が著しく低下し、糖尿病が急速に悪化しました。逆に、糖尿病感受性遺伝子CLEC16Aを強めるとマイトファジーが活性化し、β細胞の細胞死が大きく抑えられます[7]。マイトファジーの薬理学的な強化が、糖尿病の進行を食い止める治療標的になりうることを示す重要な知見です。
7. がんとマイトファジーの「二面性」
がんにおけるマイトファジーは、状況によって正反対の顔を見せる「諸刃の剣(Double-edged sword)」です。これががん治療を複雑にしています[8]。
💡 用語解説:二面性(諸刃の剣)とは
同じしくみが、状況次第で「良い方向」にも「悪い方向」にも働くことを指します。マイトファジーは、がんになる前の段階では発がんを防ぐ味方ですが、すでにできたがんにとっては生き延びる手段になってしまう——この二面性のため、単純に「増やせばよい」「止めればよい」とは言えないのです。
① 発がんの初期:腫瘍を抑える味方。健全なマイトファジーはROSを出す損傷ミトコンドリアを除き、DNAへのダメージを防いでゲノムの安定を保ちます。実際、多くのがんでParkin(PARK2)遺伝子の欠失や変異が見つかり、その機能喪失が発がんを後押しします。マイトファジーが正常に働けば、乳がんの転移カスケードに対する自然なブレーキにもなります[8]。
② 進行がん・治療中:腫瘍を助ける裏切り者。腫瘍が巨大化して低酸素や栄養飢餓にさらされると、がん細胞はマイトファジーを生き延びるための防御戦略として悪用します。さらに、放射線や抗がん剤でミトコンドリアを傷つけて細胞死を狙っても、マイトファジーが先回りして損傷ミトコンドリアごと分解してしまい、治療抵抗性の原因になります[8]。
| 進行段階 | 役割 | 臨床的な意味 |
|---|---|---|
| 初期の発がん | 腫瘍抑制的 | ゲノム不安定性の防止。発がん自体を抑える。 |
| 転移段階 | 転移抑制的 | 正常に働けば転移への自然なブレーキになる。 |
| 微小環境ストレス下 | 腫瘍促進的 | 低酸素・栄養枯渇の中で細胞死を回避し生存。 |
| 化学・放射線療法時 | 治療抵抗性 | 損傷ミトコンドリアを先回りで分解し、薬剤耐性を獲得。 |
したがって、がんでマイトファジーを標的にする場合、腫瘍のステージ・遺伝的背景・微小環境・併用治療を緻密に評価したうえで方向性を決める、高度な個別化医療(プレシジョン・メディシン)が求められます[8]。
8. マイトファジーを活性化する最新アプローチ
加齢や病気で衰えたマイトファジーを、薬理学的・栄養学的に立て直そうとする研究が、いま臨床の最前線で進んでいます[1]。ここで紹介するのは、いずれも研究段階の知見であり、特定の病気を治す確立した治療法ではありません。ご自身の判断でのサプリメント使用については、必ず医師にご相談ください。
ウロリチンA(Urolithin A)
ウロリチンA(UA)は、ザクロやベリー類、クルミなどに含まれるポリフェノール(エラジタンニン)が腸内細菌によって作り変えられて生まれる代謝産物(ポストバイオティクス)です。重要なのは、この変換を十分にできる人は全体の約4割にとどまり、しかも加齢とともに低下するとされる点で、だからこそ直接補給が注目されています。
💡 用語解説:ポストバイオティクスとは
腸内細菌が食べ物を分解する過程で生み出す「有益な代謝産物」のことです。菌そのもの(プロバイオティクス)や、菌のエサ(プレバイオティクス)とは区別されます。ウロリチンAは、同じものを食べても腸内細菌のタイプによって作れる量に大きな個人差が出るため、誰でも一定量を得られる直接補給が研究されています。
作用のしくみとして、UAはAMPKを活性化してmTORC1を抑え、PINK1を安定化し、サーチュインを介して抗酸化・抗炎症効果を発揮します。ヒトを対象としたランダム化比較試験(NCT03464500)では、運動不足の中年成人がUAを4ヶ月摂取したところ、運動や食事を変えなくても脚の筋力が約12%有意に向上し、炎症マーカー(CRP)や非効率な代謝の指標が低下しました[9]。免疫細胞の若返りを示唆する報告もあります。
NAD⁺前駆体(NMN・NR)
NAD⁺は、エネルギー産生とサーチュインの活性化に不可欠な補酵素ですが、加齢とともに細胞内で減少します。これを補うため、その前駆体であるNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)やNRを補給する研究が進んでいます。ワシントン大学が2021年に科学誌Scienceで発表した試験(NCT03151239)では、前糖尿病状態の閉経後女性がNMNを10週間摂取したところ、骨格筋のインスリン感受性が約25%向上しました[10]。
注意:この試験では体重・血圧・血中脂質・肝臓のインスリン感受性・握力などには改善が見られませんでした。また、両群の肝脂肪量にもともと差があり「ランダム化が不十分だった」という批判も科学誌に掲載されています。NMNはまだ評価の途上にあり、過度な期待は禁物です。
スペルミジン(Spermidine)
スペルミジンは小麦胚芽や大豆などに含まれるポリアミンで、AMPKやSIRT1を介して幅広いオートファジー全体を底上げします。ミトコンドリアの選択的分解に特化したUAとは対照的に、不要なタンパク質凝集体なども含めて広く片づける性質を持ちます。心血管保護や認知機能低下の緩和に期待が寄せられ、高齢者を対象とした長期試験(SmartAge試験など)が進行中です[11]。患者さんの主訴に応じて、これらを使い分け・組み合わせる戦略が今後の課題です。
| 物質 | 作用の主軸 | ヒトで確認された主な成果 | 現在の課題 |
|---|---|---|---|
| ウロリチンA | ミトコンドリア特異的な品質管理 | 筋力の向上(約12%)、炎症マーカーの低下 | 体内での生成能に大きな個人差(加齢で低下) |
| NMN・NR | エネルギー代謝の根本修復(NAD⁺回復) | 骨格筋インスリン感受性の向上(約25%) | 体重・血圧等への効果は未確認、最適用量も検証中 |
| スペルミジン | 幅広いバルクオートファジー | 高い安全性。心血管・認知は主に前臨床段階 | 長期的な有効性は大規模試験の結果待ち |
9. 遺伝診療とのつながり:診断・遺伝形式・カウンセリング
マイトファジーは基礎科学のテーマに見えて、実は遺伝診療と直接つながっています。整理すると、次の3つの接点があります。
- ➤遺伝子診断との接点:若年性パーキンソン病の原因遺伝子であるPINK1(PARK6)やPRKN/PARK2は、まさにマイトファジーの中心分子です。これらは出生後の遺伝学的検査(次世代シーケンス)で調べられます。当院でもパーキンソン病包括的遺伝子検査(NGSパネル)でこれらの遺伝子を解析しています。
- ➤ミトコンドリア病との接点:品質管理の破綻はミトコンドリア病とも関わります。ミトコンドリア病には、mtDNAの異常で起こるもの(母系遺伝)と、核DNA上の多数の関連遺伝子の異常で起こるものがあります。後者は核遺伝子ミトコンドリア病NGS遺伝子検査やミトコンドリア病遺伝子検査パネルで調べることができます(いずれも出生後の診断目的の検査です)。
- ➤遺伝カウンセリングとの接点:マイトファジーが保証する母系遺伝とヘテロプラスミーの考え方は、ミトコンドリア病の再発リスクや次世代への伝わり方を説明するうえで欠かせません。検査を受けるかどうか、結果をどう受け止めるかは、ご家族が主体的に決めることです。私たちは中立・非指示的な立場で情報を提供します。くわしくは遺伝カウンセリングとはをご覧ください。
なお、ここで触れた遺伝子検査はいずれも出生後(生まれた後)の診断を目的とした検査です。妊娠中・妊娠前の選択肢や再発リスクについては、検査単独ではなく、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングの中でご一緒に考えていくことをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
🏥 ミトコンドリア・遺伝性疾患のご相談
パーキンソン病やミトコンドリア病など、遺伝にかかわるご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にどうぞ。
関連記事
関連用語:細胞の運命と制御性細胞死
参考文献
- [1] Mitophagy in human health, ageing and disease. PMC. 2025. [PMC12159423]
- [2] Molecular mechanisms and physiological functions of mitophagy. PMC. [PMC7849173]
- [3] The Role of Mitophagy in Regulating Cell Death. PMC. [PMC8154277]
- [4] Mitophagy in neurodegeneration and aging. PMC. [PMC5565781]
- [5] Elimination of paternal mitochondria in mouse embryos through autophagic degradation dependent on PARKIN and MUL1. PMC. [PMC5127638]
- [6] Inheriting Maternal mtDNA. PMC. [PMC3518432]
- [7] Pancreatic β-cell mitophagy as an adaptive response to metabolic stress. PMC. 2023. [PMC10545665]
- [8] Mitophagy in carcinogenesis and cancer treatment. PMC. [PMC8777571]
- [9] Singh A, et al. Urolithin A improves muscle strength, exercise performance, and biomarkers of mitochondrial health in a randomized trial in middle-aged adults. Cell Rep Med. 2022 (NCT03464500). [PMC9133463]
- [10] Yoshino M, et al. Nicotinamide mononucleotide increases muscle insulin sensitivity in prediabetic women. Science. 2021;372(6547):1224-1229 (NCT03151239). [PMC8550608]
- [11] Distinct roles of urolithin A and spermidine in mitophagy and autophagy: implications for dietary supplementation. Nutr Res Rev. Cambridge Core. [Cambridge Core]



