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マイクロアレイとXHMM解析の違いとは?CNV(コピー数変異)検出の原理・精度・使い分けを遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

染色体の一部が増えたり減ったりするコピー数変異(CNV)を調べる方法として、染色体マイクロアレイ(CMA)XHMM解析という2つの技術があります。片方はDNAを直接ガラス板の上で反応させる「物理的な検査」、もう片方は次世代シーケンサーのデータをコンピューターで解析する「計算による検査」です。この記事では、両者の仕組み・得意分野・精度の違いを、一般の方にもわかりやすく臨床遺伝専門医が解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 CNV検出・CMA・XHMM・WES
臨床遺伝専門医監修

Q. マイクロアレイとXHMM解析は何が違うのですか?まず結論だけ知りたいです

A. マイクロアレイ(CMA)は、患者さんのDNAをガラス板上のプローブと反応させて蛍光の強さでコピー数を測る「物理的な検査」で、ゲノム全体を見渡せる第一選択の検査です。一方XHMM解析は、全エクソーム検査(WES)で得られたデータをコンピューターで統計処理し、遺伝子の読み取り深さからコピー数変異を推定する「計算による検査」です。CMAはゲノム全体を広く見るのが得意で、XHMMは遺伝子内の非常に小さな変異を捉えるのが得意という、補い合う関係にあります。

  • CMAの正体 → 蛍光標識したDNAを競合的にハイブリダイズさせ、シグナル強度比でコピー数を判定
  • XHMMの正体 → WESのリードデプスをPCAで正規化し、隠れマルコフモデルでCNVを推定
  • 解像度の違い → CMAは100〜500kb帯が主力、XHMMは20kb未満の微小変異も捕捉可能
  • 感度と特異度 → XHMMは偽陽性を抑える一方で全体感度は控えめ、CMAは高感度
  • 臨床での位置づけ → CMAが第一選択、CMA陰性例へのWES+XHMMは補完的な追加解析

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1. マイクロアレイとXHMM解析:そもそも何が違うのか

私たちのゲノム(遺伝情報の全体)には、ある領域がまるごと欠けてしまう「欠失」や、逆に余分に増えてしまう「重複」といった構造的な変化が起こることがあります。これらをまとめてコピー数変異(CNV:Copy Number Variation)と呼びます。CNVは、知的障害・自閉スペクトラム症・先天性の形態異常・てんかんなど、幅広い疾患の原因になり得るため、遺伝医療の現場ではその同定が欠かせない作業となっています。

このCNVを検出する方法として、性質のまったく異なる2つの技術がよく比較されます。1つは染色体マイクロアレイ(CMA)という、DNAをガラス基板の上で化学反応させて測る「物理的な検査」です。もう1つがXHMM解析という、全エクソーム検査(WES)で得られた膨大なデータを、統計モデルを用いてコンピューターで解析する「計算による検査」です。両者は目的こそ同じ「CNVを見つける」ですが、その原理・得意分野・限界がまったく異なります。

💡 用語解説:CNV(コピー数変異)とは

ヒトの細胞は通常、父親由来と母親由来で同じ遺伝子を2つずつ(コピー数2)持っています。CNVとは、この本来2つあるはずの領域が、1つに減ったり(欠失)、3つ以上に増えたり(重複)する変化を指します。数塩基だけが変わる一塩基バリアント(SNV)とは異なり、CNVは数千〜数百万塩基という大きな単位で起こる「量の変化」であり、より広い意味では構造変異(SV)の一種として位置づけられます。

歴史をさかのぼると、染色体を光学顕微鏡で観察するGバンド分染法(核型分析)が長く用いられてきました。しかし顕微鏡では、数百万塩基より小さな変化は見えません。そこで登場したのがCMAで、顕微鏡では捉えられない微細な欠失・重複を、ゲノム全体にわたって網羅的に検出できるようになりました。現在、CMAは原因不明の発達遅滞・知的障害・自閉スペクトラム症などに対する第一選択(ゴールドスタンダード)の検査として国際的に位置づけられています [1]

一方、近年爆発的に普及した次世代シークエンサー(NGS)によるWESは、もともと一塩基レベルの小さな変異を見つけるための技術でした。ところが研究者たちは、WESで蓄積されるデータをうまく統計処理すれば、そこからCNVも「副次的に」抽出できることに気づきました。その代表的な計算手法が、今回の主役の1つXHMM(eXome-Hidden Markov Model)です [2]

2. 染色体マイクロアレイ(CMA)の原理:蛍光の色でコピー数を読む

CMAは「アレイCGH(比較ゲノムハイブリダイゼーション)」や「SNPアレイ」という技術を基盤としています。基本原理は、2種類のDNAを蛍光で色分けし、その光の強さを比べるというものです。もう少し具体的に見てみましょう。

まず、患者さんから採取したDNA(テストサンプル)と、コピー数が正常とわかっている健常者のDNA(リファレンスサンプル)を用意し、それぞれ異なる色の蛍光色素で標識します。たとえば患者DNAを緑、リファレンスDNAを赤に染めるといった具合です。これらを断片化して、無数のDNAプローブ(相補的な短い一本鎖DNA)が固定されたガラス板の上に同時に流し込みます。すると、患者DNAとリファレンスDNAは、同じプローブの取り合い(競合)をしながら結合(ハイブリダイズ)していきます。

💡 用語解説:ハイブリダイゼーションとプローブ

DNAは2本の鎖が互いに相補的な塩基対(AとT、GとC)を作ってくっつく性質を持ちます。この「相補的な鎖どうしが結合する現象」をハイブリダイゼーションと呼びます。プローブとは、ガラス板にあらかじめ固定された「釣り針」の役割をする短い一本鎖DNAで、特定の配列を持つ相手だけを捕まえます。CMAはこの仕組みを利用して、ゲノム上の膨大な位置のコピー数を一度に測定します。

反応と洗浄が終わると、専用のスキャナーで各プローブ位置の蛍光シグナルの強度比を測定します。ここが判定のポイントです。もしその領域のコピー数が正常なら、緑と赤が同じ量だけ結合し、混ざり合って黄色に見えます。リファレンス(赤)が優位で赤く光れば、患者側でその領域が減っている=欠失を意味します。逆に患者(緑)が優位で緑に光れば、その領域が増えている=重複と判定されます [1]。色の傾きが、そのままコピー数の増減を教えてくれるわけです。

SNPアレイの登場で「コピー数中立の異常」も見える

初期のCMAはコピー数の増減しか見られませんでしたが、その後SNPアレイという技術が組み込まれ、大きく進化しました。SNPアレイは、コピー数だけでなく、対立遺伝子(アレル)の構成情報も同時に読み取れます。これにより、コピー数自体は正常(2つ)であっても、両方の染色体が同じ親から来てしまう片親性ダイソミー(UPD)や、血縁関係に由来するホモ接合領域(ROH)、ヘテロ接合性の消失(LOH)といった、コピー数の増減を伴わない重要な異常も検出できるようになりました [3]

💡 用語解説:ACMGによるCNVの5段階分類

検出されたCNVが本当に病気の原因なのかを判断するため、米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)は病的意義に基づく5段階の分類を定めています。これはバリアント分類の枠組みと共通した考え方です。

  • Pathogenic(P):病的意義あり
  • Likely Pathogenic(LP):病的の可能性が高い
  • VUS:意義不明なバリアント
  • Likely Benign(LB):良性の可能性が高い
  • Benign(B):良性

CMAの品質は、隣り合うプローブ間のシグナルのばらつき(DLR spread)などの統計指標で厳密に管理されます。一般的には、この値が0.20未満であれば高品質とされる目安があります [4]。検出されたCNVは、正常者のデータベースや臨床データベースと照合して解釈されます。腫瘍分野でも、複雑なゲノム異常であるクロモスリプシス(染色体粉砕)の同定などに、CMAは重要な役割を果たしています。

CMAの限界:プローブがない場所は見えない

万能に見えるCMAにも、原理上の限界があります。第一に、CMAはあらかじめガラス板に設計・配置されたプローブに完全に依存するため、プローブが置かれていない領域の変化は見逃します。第二に、プローブは数十〜数百塩基の長さを持つため、1塩基だけが変わる点突然変異(SNV)や、ごく小さな挿入・欠失(Indel)は事実上検出できません。第三に、DNAの総量が変わらない均衡型転座や逆位は、理論上シグナルの増減が起こらないため検出できません [1]。これらの限界を補う存在として、WESとその計算解析が注目されることになります。

3. XHMM解析の原理:シーケンスの「読み取り深さ」から計算する

XHMMを理解する鍵は「リードデプス(読み取り深さ)」という考え方です。WESでは、遺伝子のタンパク質を作る領域(エクソン)を何度も繰り返し読み取ります。ある領域が2コピー正常にあれば標準的な回数だけ読まれ、もし欠失していれば読まれる回数が減り、重複していれば増えるはずです。つまり、「その領域が何回読まれたか」をコピー数の代用指標として使うのがリードデプス法の基本です。

💡 用語解説:リードデプス(Read Depth)

次世代シーケンサーは、DNAを細かく断片化してから何度も重ねて読み取ります。ゲノム上のある地点が「延べ何本の断片で読まれたか」を示すのがリードデプス(カバレッジ)です。同じ本を何人もで手分けして書き写すとき、書き写した人数が多いページほど内容が確実になるのと似ています。理屈のうえでは、コピー数が多い領域ほど断片が多く集まり、リードデプスも高くなります。

ところが現実には、リードデプスと本当のコピー数は単純な比例関係にはなりません。WESにはCNV検出を邪魔する厄介なクセがいくつもあるからです。まず、WESはエクソンだけを飛び飛びに読むため、連続したゲノムのシグナルが得られず、変異の正確な境界がわかりにくいという問題があります。さらに、領域ごとのGC含量(塩基の偏り)の違いや、DNA抽出からシーケンスまでの実験工程の差(バッチ効果)が、生物学的な差とは無関係なノイズを大量に生み出します [2]。これらを補正せずに単純にリードデプスを比べても、膨大な偽陽性が出てしまうのです。

この深刻なノイズ問題を、高度な統計処理で克服したのがXHMMです。XHMMは、マサチューセッツ総合病院とブロード研究所の研究者らによって2012年に開発された、オープンソースの統計解析ツールです [2]。その画期的な点は、「主成分分析(PCA)」でノイズを取り除き、「隠れマルコフモデル(HMM)」でコピー数を推定するという二段構えの設計にあります。

第1段階:PCAでノイズをふるい落とす

XHMMは、1人の患者さんのデータだけを見るのではなく、多数のサンプル集団(コホート)全体を並べて解析します。まず、すべてのエクソン領域を行、すべてのサンプルを列とした巨大な「リードデプス行列」を作ります。この行列に対して主成分分析(PCA)を実行します。

ここでXHMMは、ある重要な仮定を置きます。それは「多くのサンプルに共通して現れる大きな変動パターンは、本物の稀なCNVではなく、GC含量やバッチ効果などの技術的ノイズである」という仮定です。PCAはデータの変動を大きい順に分解してくれるので、上位の主成分(=共通して現れる大きな変動)を意図的に取り除くことで、ノイズをふるい落とします。ノイズを除いたうえでデータを再構築し、各領域が標準からどれだけ外れているかを示すZスコアを計算します。Zスコアが大きくプラスに振れれば重複、大きくマイナスに振れれば欠失のシグナルとなります [5]

XHMM解析の2段階の流れ

① WESデータ抽出

各エクソンの読み取り深さ(リードデプス)を集計し、サンプル×領域の巨大な行列を作成

② PCAでノイズ除去

共通して現れる大きな変動を技術的ノイズとみなして除去し、Zスコアを算出

③ HMMで状態推定

DIP(正常)・DEL(欠失)・DUP(重複)の3状態から最も確からしい並びを推定

CMAのように物理的に光を測るのではなく、シーケンスデータを統計モデルで処理してコピー数を推定するのがXHMMの特徴です。

💡 用語解説:主成分分析(PCA)とZスコア

主成分分析(PCA)とは、たくさんの情報が混ざり合ったデータから「一番大きく変動している方向」を順に見つけ出し、データを整理する統計手法です。XHMMではこれを使って、多数のサンプルに共通するノイズ成分を特定して取り除きます。Zスコアは「平均からどれだけ離れているか」を標準化した値で、0なら平均どおり、大きなマイナスなら欠失、大きなプラスなら重複のサインになります。

第2段階:隠れマルコフモデル(HMM)でコピー数を確定する

ノイズを除いたZスコアの列から、最終的なコピー数の状態を推定するために使われるのが隠れマルコフモデル(HMM)です。HMMは、観測できる値(ここではエクソンごとのZスコア)の背後に、直接は見えない「隠れた状態」があると考える確率モデルです。XHMMの隠れ状態は、DIP(正常な2コピー)・DEL(欠失)・DUP(重複)の3つに設定されています [5]

💡 用語解説:隠れマルコフモデル(HMM)

HMMは、直接は見えない「隠れた状態」が次々と移り変わり、その各状態から観測できる値が生まれる、と考える確率モデルです。天気にたとえると、「晴れ・雨」という見えない状態が日ごとに移り変わり、そこから「傘を持つ人の数」という観測値が生まれるイメージです。XHMMでは、隣り合うエクソンが同じコピー数状態を保ちやすいという性質を、距離に応じた確率でモデル化し、Zスコアの並び全体から最も確からしいコピー数の並びを推定します。

XHMMは、新しいCNV領域が始まる事前確率を極めて低く設定することで、過剰な偽陽性を根本から抑え込んでいます。また、WESはエクソンが飛び飛びに散らばっているため、隣り合う領域の物理的な距離は一定ではありません。XHMMはこの非連続性を補正するため、距離が近い領域どうしほど同じ状態を保ちやすく、離れると正常状態に戻りやすい、という指数減衰の数理モデルを採用しています [6]。最終的にビタビアルゴリズムなどの計算手法で、最も尤もらしい状態の並び、すなわち「どこからどこまでが欠失または重複か」を推定し、各コールに品質スコア(Qスコア)を付与します。

XHMMには「仲間のサンプル」が必要

このPCAによるノイズ除去が機能するためには、変動を正しく推計するための十分なサンプル数が必要です。XHMMの設計上、少なくとも約50サンプル以上(理想的には高いカバレッジを持つサンプル群)からなるバッチデータが求められます [7]。これは体細胞変異解析で用いられる「正常サンプルのパネル(Panel of Normals)」の考え方に近く、技術的な条件が揃った正常サンプル群が土台となります。裏を返せば、単一の検体だけを扱う小規模な環境では、XHMMの強力なノイズ除去能力を十分に活かせないという制約があります。CMAが単一サンプルでも解析できるのとは、この点が大きく異なります。

4. 感度・特異度・解像度の比較:数字で見る両者の違い

ここまで見てきた原理の違いは、実際の検査性能にはっきりと表れます。両者の特性を一覧で整理してみましょう。

特徴 マイクロアレイ(CMA) WES+XHMM
対象領域 ゲノム全体(設計されたプローブ領域に基づく) エクソン領域(コーディング領域)に限定
主な解像度 100〜500kb帯が主力。ブレイクポイントの高精度マッピングが可能 主に3エクソン以上に依存。境界の特定は不正確
感度 高い(臨床診断のゴールドスタンダード) 比較条件により大きく変動。プローブ数・バッチ数に依存
特異度 高い 高い(品質スコアで偽陽性を抑制)
バッチ要件 なし(単一サンプルで解析可能) 必須(PCA正規化のため約50サンプル以上が必要)
SNV/Indelの検出 不可(点変異や小規模Indelは見逃す) 可能(WESで点変異・小規模Indelも同時検出)
主な限界 設計領域に依存。新規の点変異や小規模変異を検出できない 非コード領域が対象外。コモンCNVの検出が困難。多サンプルのバッチが必須

💡 用語解説:感度と特異度とは

感度とは「本当に異常がある人を、どれだけ見逃さず陽性と判定できるか」という能力です。感度が高いほど、見逃し(偽陰性)が少なくなります。一方特異度とは「異常がない人を、どれだけ正しく陰性と判定できるか」という能力で、特異度が高いほど、無駄な陽性(偽陽性)が少なくなります。検査ではこの2つがしばしばトレードオフの関係になり、片方を上げると片方が下がることがあります。

XHMMは「厳しく絞る」タイプ:数字の読み方に注意

独立した第三者による評価研究では、WESベースのツールの感度が具体的な数字で示されています。ここで注意したいのは、研究によって測定条件が違うため、感度の数字は大きく幅を持つという点です。ある3ツール比較研究では、CNVnatorという別のツールが感度87.7%と高く出た一方で、非常に多くの偽陽性を生む欠点がありました。これに対し、XHMMは偽陽性を厳しく抑え込む設計のため、全体の感度は22.2%と控えめに出ています [8]。同じ研究でCoNIFERは14.6%でした。

ただし、この「22.2%」という数字だけを見て「XHMMは性能が低い」と結論づけるのは早計です。XHMMの感度は変異に含まれるエクソン(プローブ)の数に強く相関しており、単一エクソンだけの変異には弱いものの、複数エクソンにまたがる変異には安定して信頼性の高いコールを提供します。実際、統合失調症トリオを用いたXHMMの初期評価では、マイクロアレイで見つかる「3エクソン以上に重なる稀少CNV」に対しては79%という高い感度を達成しています [2]。つまり、22.2%と79%という一見矛盾する数字は、測定対象(すべてのCNVか、3エクソン以上のCNVか)が違うために生じた差なのです。

解像度でカバーするサイズ帯の違い(イメージ)

CMAは中〜大サイズが主力、XHMMは遺伝子内の微小サイズが得意

CMA:主に100〜500kb帯を高精度に検出

XHMM:0〜20kbの微小な遺伝子内変異まで捕捉

← 小さいCNV(数kb)
大きいCNV(数百kb〜)→

CMAで見つかる病的CNVの多くは100〜500kb帯に分布する一方、XHMMなどWESベースのツールが検出する変異の多くは20kb未満の微小サイズ帯に属します。両者はカバーするサイズ帯が異なり、補い合う関係にあります。

この解像度の違いは臨床的に重要です。CMAで検出される病的CNVの多くは100〜500kbのサイズ帯に分布します。単一コピーの欠失に対して、CMAはディプロイド細胞株に対して感度0.99・特異度0.95という卓越した識別能力を示すという報告もあります [9]。一方でXHMMなどのWESベースツールが検出する変異の多くは、CMAの解像度を下回る0〜20kbという微小サイズ帯に属します [8]。これにより、単一遺伝子の一部だけを壊すような、ごく小さなエクソンレベルの欠失・重複を捉えることが可能になります。

5. 臨床での使い分け:競合ではなく「補完」の関係

ここまでの比較で見えてくるのは、CMAとXHMMは「どちらが優れているか」を競う関係ではなく、それぞれの弱点を補い合う「補完的な関係」にあるということです。臨床の現場では、両者は次のように役割分担されます。

CMA陰性例を救うXHMM:診断オデッセイの終焉

臨床遺伝の現場では、原因不明の発達遅滞や知的障害に対して、まずCMAが実施されます。しかしCMAで原因が見つからなかった場合、次の一手としてWESが行われることが多くあります。ここで、すでに取得済みのWESデータにXHMM解析を追加で適用すると、CMAでは見えなかった微小なCNVが新たに見つかることがあります。

実際、アレイCGHで原因を特定できなかった発達遅滞・知的障害の患者のWESデータに、後方視的にXHMM解析を適用した研究では、アレイでは検出できなかった30kb未満の病原性ゲノムインバランスを、追加で2.5%特定できたことが報告されています [10]。この追加で見つかった病的CNVには、TCF4遺伝子やSTXBP1遺伝子の微小なヘテロ接合性欠失、PPT1・CLCN2・PIGN遺伝子におけるホモ接合性欠失などが含まれていました。これらはすべて、症状との照合(リバースフェノタイピング)によって原因疾患として確定されています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「原因不明」で診断をあきらめないために】

遺伝性疾患の診断において、「診断オデッセイ」という言葉があります。原因がわからないまま、患者さんとご家族が病院を転々とし、長い年月をさまよう状態を指します。CMAで陰性だったとき、そこで検索を止めてしまうと、答えにたどり着けないケースがあります。

近年わかってきたのは、WESで取得したデータには、実はまだ活用しきれていない「読み取り深さ」の情報が眠っているということです。同じデータをXHMMのような手法でもう一度掘り起こすことで、これまで見えなかった小さな欠失や重複が浮かび上がることがあります。1つの検査結果を多角的に読み解く姿勢が、診断の可能性を広げてくれると私は考えています。

WESの「ワンストップ」の強み

WESの大きな魅力は、点変異(SNV)・小規模な挿入欠失(Indel)・そしてXHMMなどによるCNVの同定を、1回の検査でまとめて実施できる「ワンストップ性」にあります。とりわけ、原因遺伝子が非常に多岐にわたる疾患(先天性難聴や網膜色素変性症など)では、CMAとパネル検査を段階的に行うよりも、最初から両親を含めたトリオWESを実施し、まとめて解析するほうが、診断までの時間が短縮され費用対効果も高まるケースが増えています。

単一遺伝子内で「片方のアレルはSNV、もう片方のアレルはエクソン欠失」という組み合わせ(複合ヘテロ接合)で発症する常染色体潜性(劣性)疾患では、SNVはWESの通常解析で、エクソン欠失はXHMMで、というように同じデータから両方の変異を拾える点が決定的な利点となります。CMA単独ではエクソン欠失は捉えられても、点変異は捉えられないため、この組み合わせを1つの検査で完結できるのはWESならではの強みです。

XHMMの弱点:ありふれたCNV(コモンCNV)は苦手

一方で、XHMMには数理的な特性に由来する重要な弱点があります。それは、集団内で高頻度に見られる「ありふれたCNV(コモンCNV)」の検出が極めて困難だという点です。前述のとおり、XHMMは第1段階のPCAで「多くのサンプルに共通して現れる変動」をノイズとみなして取り除きます。ところが、もし解析集団の多くが持っている本物のコモンCNVがあると、そのシグナルもノイズと一緒に平滑化されて消えてしまうのです [11]

このため、XHMMは本質的に「稀少なCNV(Rare CNV)」の探索、すなわち個体特有のメンデル遺伝性疾患の原因究明に特化したツールだと言えます。集団全体の変異頻度を調べたり、大規模なゲノム構造をプロファイリングしたりする目的には、PCAの平滑化の影響を受けないCMAが圧倒的に優位です。目的によって適した道具が異なる、という好例です。

XHMM以外のWESベースCNV検出ツール

WESデータからCNVを検出するツールは、XHMMのほかにも複数あり、それぞれ補正のアプローチが異なります。たとえばCoNIFERはPCAではなく特異値分解(SVD)でノイズを補正し、ExomeDepthはベータ二項分布に基づく最適なリファレンスセットを構築します。ほかにもCANOESGATK-gCNVCNVkitClinCNVなどが存在します。近年は、XHMMの出力を他のツールと組み合わせる「アンサンブルアプローチ」により、単一ツールの感度・特異度のトレードオフを克服し、診断収量をさらに高める試みも進んでいます。

📌 なお、CMAとよく比較される他の手法として、CNV-seqとマイクロアレイの違いMLPAとマイクロアレイの違いもあります。目的に応じて最適な手法は変わります。

6. 日本での検査事情と遺伝カウンセリングの役割

日本では、染色体マイクロアレイ検査は先天性疾患を疑う一部の症例に対して保険診療の対象となっており、原因不明の発達遅滞や多発奇形などの診断に用いられています。一方、WESとその計算解析であるXHMMは、主に研究や自費診療、あるいは専門施設での網羅的解析の一環として実施されるのが現状です。海外の論文で紹介されるCPTコード(米国の保険請求コード)は日本の制度には当てはまらないため、費用や適応は国によって大きく異なる点に注意が必要です。

また、近年はエクソンという飛び飛びの領域を読むWESの限界を超えて、ゲノム全域を均一にカバーする全ゲノムシーケンス(WGS)への移行も進みつつあります。シーケンスコストの低下に伴い、リードデプス解析の精度は飛躍的に高まると期待されており、将来的にはCMAとNGSベースのCNV解析の統合がより完全なものになっていくと考えられます。研究段階の知見も多く、現時点ではどの手法が最善かは症例の文脈や利用できる環境によって変わります。

💡 用語解説:全ゲノムシーケンス(WGS)とWESの違い

WES(全エクソーム検査)は、ゲノム全体の約1〜2%を占めるタンパク質のコード領域(エクソン)だけを効率よく読み取る検査です。これに対しWGS(全ゲノムシーケンス)は、コード領域も非コード領域も含めたゲノム全体を切れ目なく読み取ります。WGSはエクソン間の連続的な情報が得られるため、CNVの境界をより正確に捉えられる利点がありますが、データ量とコストは大きくなります。

検査選択における遺伝カウンセリングの重要性

どの検査を選ぶかは、症状・年齢・家族歴・検査の目的によって大きく変わります。CMAが適している場面もあれば、最初からWESが望ましい場面もあります。こうした判断には、専門的な知識に基づく遺伝カウンセリングが欠かせません。ミネルバクリニックでは、臨床遺伝専門医が検査の意義・限界・結果の解釈について、患者さんやご家族と一緒に考える体制を整えています。

とりわけ、CMAやWESでは意義不明のバリアント(VUS)が見つかることがあり、その解釈には慎重さが求められます。また、検査によっては、調べていた病気とは別の「予期しない所見(二次的所見)」が見つかる可能性もあります。こうした結果をどう受け止め、どう次のステップにつなげるかについても、遺伝カウンセリングの場で丁寧に扱われます。検査は「受けて終わり」ではなく、その前後の対話までを含めた一連のプロセスとして理解することが大切です。

7. よくある誤解

誤解①「XHMMのほうが新しいから優れている」

XHMMは計算技術としては新しいですが、CMAより「優れている」わけではありません。両者は得意分野が異なるだけです。ゲノム全体を広く見るならCMA、遺伝子内の微小変異を狙うならXHMM、というように目的で使い分けます。

誤解②「WESをすればCMAは不要になる」

WES+XHMMはエクソン領域に限られ、ありふれたCNVや非コード領域の変化、コモンCNVは苦手です。ゲノム全体を見るCMAの役割は今も揺るぎません。両者は補完的で、片方が片方を完全に置き換えるものではありません。

誤解③「感度22%だからXHMMは使えない」

22.2%という数字は「すべてのCNV」を対象にした場合の値です。3エクソン以上の稀少CNVに絞れば感度79%と報告されており、対象を変えれば評価は大きく変わります。数字は測定条件とセットで読む必要があります。

誤解④「1人分のデータだけでXHMMは使える」

XHMMのPCAによるノイズ除去には、約50サンプル以上のバッチデータが必要です。単一検体だけではその強みを発揮できません。単一サンプルで解析できるCMAとは、この点が大きく異なります。

よくある質問(FAQ)

Q1. マイクロアレイとXHMM、どちらを先に受けるべきですか?

一般的には、原因不明の発達遅滞や多発奇形などに対して、まず染色体マイクロアレイ(CMA)が第一選択として実施されます。XHMM解析は、CMAで原因が見つからずWESを行った場合に、そのデータを追加で活用する補完的な位置づけになることが多いです。ただし最適な順序は症状や家族歴によって変わるため、臨床遺伝専門医への相談が推奨されます。

Q2. XHMMはマイクロアレイの代わりになりますか?

完全な代わりにはなりません。XHMMはエクソン領域に限定されるため、非コード領域や遺伝子間領域の大きなCNV、そして集団に多いコモンCNVはCMAのほうが得意です。一方でXHMMは20kb未満の微小な遺伝子内欠失・重複を捉えられます。両者は補い合う関係であり、目的に応じて使い分けるものです。

Q3. なぜXHMMは多数のサンプルが必要なのですか?

XHMMは、多数のサンプルに共通して現れる変動パターンを「技術的ノイズ」とみなして取り除く仕組み(PCA正規化)を使っています。この統計処理を正しく行うには、変動を推計するための十分な数のサンプル(設計上おおむね50サンプル以上)が必要になります。サンプルが少ないと、ノイズと本物のシグナルを見分けられなくなってしまうのです。

Q4. マイクロアレイでは何を調べられて、何が調べられないのですか?

CMAはゲノム全体の欠失・重複(コピー数変異)を高精度で調べられ、SNPアレイなら片親性ダイソミーやホモ接合領域も検出できます。一方で、1塩基だけが変わる点変異(SNV)やごく小さな挿入欠失、そしてDNA量が変わらない均衡型転座・逆位は検出できません。これらを調べるにはシーケンス検査が必要です。

Q5. 「感度が低い」と聞きましたが、XHMMは信頼できないのですか?

「感度22.2%」という数字は、すべてのCNVを対象にした厳しい条件での値です。XHMMはあえて偽陽性を抑える設計になっているため全体の感度は控えめですが、3エクソン以上にまたがる稀少CNVに絞れば感度79%と高い性能を示します。品質スコアによるフィルタリングもでき、信頼性の高いコールを選別できます。数字は測定条件とセットで理解することが大切です。

Q6. 日本でこれらの検査は受けられますか?費用はどうなりますか?

染色体マイクロアレイ検査は、日本では先天性疾患を疑う一部の症例に対して保険診療の対象となっています。WESやXHMM解析は、主に研究や自費診療、専門施設での網羅的解析として実施されるのが現状です。海外論文にある米国の保険コードは日本には当てはまりません。費用や適応は個々の状況で異なるため、詳しくは医療機関にご確認ください。

Q7. XHMM以外にもWESからCNVを調べる方法はありますか?

はい、あります。CoNIFER・ExomeDepth・CANOES・GATK-gCNV・CNVkit・ClinCNVなど、複数のツールが開発されており、それぞれノイズ補正の方法や感度・特異度のバランスが異なります。近年は複数のツールを組み合わせる「アンサンブルアプローチ」で、単一ツールの弱点を補い診断率を高める研究も進んでいます。

Q8. 将来的にはどちらの検査が主流になりますか?

現時点では、CMAが第一選択のゴールドスタンダードという位置づけは揺らいでいません。ただし、全ゲノムシーケンス(WGS)のコストが下がるにつれ、ゲノム全体を切れ目なく読み取る手法の精度が高まり、CNV検出とシーケンス検査が1つに統合されていく方向が見込まれます。どちらか一方が消えるというより、複数の技術が組み合わされていくと考えられます。

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参考文献

  • [1] Chromosomal Microarrays: Understanding Genetics of Neurodevelopmental Disorders and Congenital Anomalies. PMC. [PMC5288005]
  • [2] Discovery and statistical genotyping of copy-number variation from whole-exome sequencing depth. American Journal of Human Genetics. 2012. [PubMed 23040492] / [PMC3484655]
  • [3] Comparison of CNV Detection from Whole-Exome Sequencing (WES) as compared with SNP Microarray. Bionano. [Bionano]
  • [4] Chromosomal microarray analysis, or comparative genomic hybridization: A high throughput approach. PMC. [PMC4707176]
  • [5] Using XHMM software to detect copy number variation in whole-exome sequencing data. PMC. [PMC4065038]
  • [6] Integrative DNA copy number detection and genotyping from sequencing and array-based platforms. Bioinformatics, Oxford Academic. [Oxford Academic]
  • [7] XHMM (eXome-Hidden Markov Model) Documentation. Broad Institute / CSC. [Docs CSC]
  • [8] Evaluation of three read-depth based CNV detection tools using whole-exome sequencing data. PMC. [PMC5569469]
  • [9] Defining Ploidy-Specific Thresholds in Array Comparative Genomic Hybridization to Improve the Sensitivity of Detection of Single Copy Alterations in Cell Lines. PMC. [PMC1867620]
  • [10] Copy number variants calling from WES data through eXome hidden Markov model (XHMM) identifies additional 2.5% pathogenic genomic imbalances smaller than 30 kb undetected by array-CGH. PubMed. [PubMed 35141892]
  • [11] A comparison of tools for calling CNVs from sequence data. CureFFI.org. [CureFFI]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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