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先天的形態異常が発生する原因とメカニズム

形態異常とは、個体の体の一部が通常とは異なる形状、サイズ、または構造を持つ状態を指します。これは先天的(生まれつきの)ものや、後天的(生後に発生した)ものがあり、単一の器官や体の部位に限定される場合もあれば、複数の部位に影響を及ぼす場合もあります。形態異常は、遺伝的要因、環境要因、あるいはその両方の影響によって生じることがあります。

●形態異常の例
四肢の異常: 短指症(手足の指が異常に短い状態)、多指症(手足に余分な指がある状態)、欠指症(一部の指が欠けている状態)など。
頭蓋顔面の異常: クルーゾン症候群(早期頭蓋縫合閉鎖による頭部と顔の異常な形状)、口唇裂・口蓋裂(上唇や口蓋が完全に閉じていない状態)など。
心臓の異常: 心室中隔欠損(心室の壁に穴が開いている状態)、大動脈縮窄症(大動脈が異常に狭い状態)など。

先天的な形態異常は、胚発生中に起こる異常によって引き起こされ、個体の形態や機能に影響を与えます。これらの異常は、遺伝的要因、環境要因、あるいはその両方の相互作用によって生じることがあります。発生機序を理解することは、先天性異常の予防や治療の改善につながります。

●遺伝的要因
単一遺伝子異常: 特定の遺伝子の変異が原因で、メンデルの法則に従って遺伝します。
染色体異常: 染色体の数や構造の異常により起こります。例として、ダウン症候群(染色体21のトリソミー)、ターナー症候群(X染色体の部分的または完全な欠如)、クラインフェルター症候群(男性が追加のX染色体を持つ)などがあります。
●環境要因
感染症: 妊娠中に母親が感染すると、胎児に先天異常を引き起こす可能性があります。例えば、風疹ウイルス感染は、心臓の欠陥、聴覚障害、白内障などを引き起こすことがあります。
化学物質や薬剤: 妊娠中の特定の薬剤や化学物質への暴露は、先天異常のリスクを高めます。たとえば、タリドマイドは手足の異常を引き起こすことが知られています。
栄養不足: 妊娠中の母親の栄養不足、特に葉酸の不足は、神経管欠損症などのリスクを高めます。
物理的因子: 放射線への暴露も胎児の先天異常を引き起こす可能性があります。
●遺伝的と環境要因の相互作用
多くの場合、先天異常は遺伝的要因と環境要因の複雑な相互作用によって発生します。遺伝的背景がある個体が特定の環境要因に暴露することで、リスクが顕著になることがあります。この相互作用の理解は、先天異常の予防策を講じる上で重要です。

●発生の分子機構
形態異常の発生には、細胞の分化、増殖、移動などを制御する複雑な分子機構が関与しています。遺伝子発現の調節異常、シグナル伝達経路の障害、細胞外マトリックスの構築不良などが、異常な発生を引き起こす可能性があります。

先天異常の原因分類割合


先天異常の原因割合を見ていくと、染色体不均衡がその約25%を占めています。染色体不均衡は、元々あるべき染色体の状況から外れて、遺伝物質が過剰または不足な状態にあることで、染色体1本単位で増えているトリソミー、1本単位で不足しているモノソミー、染色体の構造異常によって一部の特定の遺伝物質が過剰または不足する状態である、欠失(一部が欠けること)、重複(一部が余分に存在すること)、転座(染色体の一部が異なる位置に移動すること)などがあります。染色体不均衡の中では、21番、 18番、13番染色体の常染色体トリソミーの頻度が高くなっています。

20%を占めるのが単一遺伝子異常です。単一遺伝子異常は、一つの遺伝子内の変異によって引き起こされる遺伝病です。この変異は、遺伝子の機能を損ない、特定のタンパク質の異常な生産または機能不全を引き起こすことで、疾患や障害を引き起こします。単一遺伝子異常は、オートソーム優性、オートソーム劣性、X連鎖優性、またはX連鎖劣性のいずれかの遺伝パターンに従って遺伝することがあります。新生児死亡の40%を占めるのが単一遺伝子異常です。

コピー数バリアント(CNV)は、ゲノム内のDNA断片が通常とは異なるコピー数を持つ遺伝子の構造的変異です。これにより、特定の遺伝子領域が正常な2コピーではなく、欠失(デリーション)または追加(ダプリケーション)され、個体の遺伝的多様性に寄与することがあります。CNVは、遺伝病の原因や薬物反応性の差異に関連することがあります。

近年のゲノム規模での網羅的なマイクロアレイ染色体検査 (comparativegenomic hybridization :CGH、別名アレイCGH)の臨床への応用により、顕微鏡では観察できない微細な欠失や重複、いわゆるコピー数バリアント(CNV)が先天奇形のある人の10%程度にde novo(新生)で生じていることが明らかになってきました。

多因子形質は、複数の遺伝子と環境要因が相互作用して引き起こされる特徴や状態です。これらの形質は、単一遺伝子異常によって引き起こされるものとは異なり、遺伝と環境の両方がその発現に影響を及ぼします。多因子形質には、多くの疾患(心臓病、糖尿病、精神障害など)や身体的特徴(身長、体重、皮膚の色など)が含まれます。これらの形質の遺伝的複雑さのため、予測や管理が難しい場合があります。

催奇形物質は、胎児の正常な発達を妨げ、先天的な形態異常や奇形を引き起こす化学物質や因子のことです。これには特定の薬剤、化学物質、放射線、感染症、および母体の一部の健康状態などが含まれます。妊娠中の特定時期にこれらの物質に曝露することで、胎児は心臓疾患、四肢の奇形、神経系の障害など、さまざまな異常を持って生まれてくることがあります。

遺伝的要因による先天的形態異常

単一遺伝子異常による先天的形態異常

単一遺伝子疾患は、一つの遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性の病気であり、これには形態異常を伴うものが数多く含まれます。これらの病気は、影響を受ける遺伝子の機能に応じて、様々な身体系統にわたる特徴的な症状を示します。以下に、形態異常を伴う代表的な単一遺伝子疾患をいくつか紹介します。
●軟骨無形性症(Achondroplasia)
遺伝子: FGFR3(線維芽細胞成長因子受容体3)
症状: アキロンドロプラジアは、最も一般的な形の小人症の一つで、短躯短肢、特徴的な顔貌、正常な知能を特徴とします。FGFR3遺伝子の変異は骨の成長を抑制し、特に四肢の成長に影響を与えます。
●クルーゾン症候群(Crouzon Syndrome)
遺伝子: FGFR2(線維芽細胞成長因子受容体2)
症状: 早期頭蓋縫合閉鎖(頭蓋骨の縫合が早く閉じること)により、頭部と顔の異常な形状、突出した眼(眼球突出)、平らな中顔部が特徴です。時には、上気道の障害や聴覚障害を伴うことがあります。
●マルファン症候群
遺伝子: FBN1(フィブリリン1)
症状: 心血管系、眼、骨格系の異常があり、特に長い手足、蜘蛛指、胸骨の突出または陥没、眼の水晶体脱臼、大動脈瘤や大動脈解離を引き起こす可能性があります。
●エーラス・ダンロス症候群(EDS)
遺伝子: 複数(COL5A1、COL5A2、COL3A1など、タイプにより異なる)
症状: 皮膚の過度の伸びやすさと脆さ、関節の過度の可動性、容易な出血などが特徴です。血管型では、血管の脆弱性が重大な合併症を引き起こすことがあります。
●ロイス・ディーツ症候群
遺伝子: TGFBR1、TGFBR2(変換成長因子β受容体1および2)
症状: 顔貌の特徴、皮膚の特徴、および心血管系の異常(特に大動脈瘤)を伴います。遺伝的変異は大動脈の壁の構造と機能に影響を与えます。

これらの疾患は、特定の遺伝子変異によって引き起こされる形態異常を伴い、患者やその家族に多大な影響を与える可能性があります。それぞれの疾患には特有の臨床的特徴があり、遺伝子検査によって診断されることが多いです。治療は主に症状の管理に焦点を当て、必要に応じて手術的介入が行われます。また、遺伝カウンセリングが患者と家族に提供され、病気の理解と将来のリスクについての情報が共有されます。

染色体異常による先天性形態異常

染色体異常による先天性形態異常は、遺伝子の変異や染色体の構造・数の異常に起因する一連の状態です。これらの異常は、受精時や胚発生の初期段階での染色体の非分離、染色体の破損や再編成によって生じることが多く、影響を受ける個体では多様な身体的、精神的発達障害が見られることがあります。以下に、染色体異常を原因とする代表的な先天性形態異常のいくつかを紹介します。

●トリソミー21(ダウン症候群)
原因: 第21染色体の全体または一部が3本存在する状態(トリソミー)です。
特徴: 身体的特徴には、上斜めに傾いた目、平らな顔、短い首、小さな耳、幅広い手に単一の掌溝が含まれます。知的障害や発達遅延も一般的です。
●ターナー症候群
原因: 女性がX染色体を1本しか持たない、またはX染色体が部分的にしか存在しない状態です。
特徴: 成長の遅れ、短い身長、不妊、心臓の異常、および特定の学習障害が特徴です。多くの場合、外見上は重篤な問題は見られません。
●クラインフェルター症候群
原因: 男性が1つ以上の余分なX染色体を持つ状態(通常はXXY)です。
特徴: 低いテストステロンレベル、長身、発達した乳房、低い筋肉量、不妊などがあります。知能に大きな影響はないことが多いです。
●トリソミー18(エドワーズ症候群)
原因: 第18染色体が3本存在する状態です。
特徴: 重篤な発達遅延、生存率の低下、重度の身体的異常などがあります。生まれてくる子供の多くは、出生後1年以内に亡くなります。
●トリソミー13(パトー症候群)
原因: 第13染色体が3本存在する状態です。
特徴: 重篤な知的障害、身体的異常(例: 眼の異常、口蓋裂、心臓疾患)、および低い生存率が特徴です。

これらの症候群は、遺伝的スクリーニングや出生前診断によって特定されることが多く、発見された場合、適切な支援や治療が行われます。染色体異常の影響は非常に個人差が大きいため、症状の程度や管理方法はケースバイケースで異なります。

環境要因による先天性形態異常

感染症による先天性形態異常

感染症による先天性形態異常は、妊娠中に母親が特定の感染症に罹患した結果、胎児に影響を与えることで発生します。これらの感染症は、発達中の胎児に対して直接的または間接的な影響を及ぼし、多様な先天性異常を引き起こす可能性があります。先天性形態異常を引き起こす代表的な感染症には、TORCH症候群として知られる以下のものがあります。

●TORCH症候群
TORCHは、以下の感染症を指す頭文字です:

T: Toxoplasmosis(トキソプラズマ症)
原因:トキソプラズマ・ゴンディによる感染。
影響:脳の炎症、視力障害、水頭症、発育遅延など。

O: Other infections(その他の感染症)
例:シフィリス(梅毒)、バリセラ(水痘)、HIV、Zikaウイルスなど。
影響:Zikaウイルス感染症は小頭症、脳の発育不全などを引き起こす可能性があります。

R: Rubella(風疹)
影響:先天性風疹症候群は、聴力障害、心臓疾患、白内障などを引き起こすことがあります。

C: Cytomegalovirus(サイトメガロウイルス)
影響:聴力障害、視力障害、小頭症、学習障害など。

H: Herpes simplex virus(単純ヘルペスウイルス)
影響:皮膚の病変、脳炎、発育遅延など。

●予防と管理
感染症による先天性形態異常の予防には、妊娠計画中または妊娠中の女性への予防策が重要です。これには、適切な予防接種の受け取り、生肉や生魚の摂取を避ける、ペットの糞の取り扱いに注意する、手洗いの徹底などが含まれます。

治療と管理は、特定の感染症とそれによって引き起こされる具体的な異常に基づきます。いくつかの感染症は治療可能ですが、先天性形態異常の影響は永続的である可能性があります。そのため、早期の介入、支援サービス、および必要に応じた特殊な医療ケアが推奨されます。

感染症による先天性形態異常は、妊娠中の女性にとって重要な健康リスクを表し、適切な予防策、早期診断、そして管理が必要です。これらの努力により、先天性異常のリスクを減らし、影響を受ける子どもたちの生活の質を向上させることが可能になります。

化学物質や薬剤による先天性形態異常

化学物質や薬剤による先天性形態異常は、胎児が母親の妊娠中に特定の薬剤や化学物質に曝露することで引き起こされることがあります。これらの物質は、胎児の発育に重大な影響を与える可能性があり、先天性障害、発達障害、または出生前の成長遅延を引き起こすことが知られています。このような物質は一般に「催奇形性物質」と呼ばれます。以下は、特に知られている催奇形性物質の例と、それに関連するリスクです。

●サリドマイド
使用目的: 1950年代と1960年代初頭に妊娠中の女性の悪阻(つわり)の治療薬として広く使用されました。
影響: 四肢の発育不全を含む重篤な先天性異常を多数の子どもたちに引き起こしました。
●アルコール
使用目的: 娯楽薬物として広く使用されていますが、妊娠中の摂取は厳しく推奨されていません。
影響: 胎児アルコール症候群(FAS)を引き起こす可能性があり、これには成長障害、顔貌の異常、神経発達障害が含まれます。
●抗てんかん薬
使用目的: てんかんの治療に使用されます。
影響: 特定の抗てんかん薬は、先天性心臓病、口蓋裂、脊椎裂などのリスクを高めることが示されています。
●アクキュテイン(イソトレチノイン)
使用目的: 重度のにきびの治療に使用されるビタミンA誘導体です。
影響: 重篤な先天性異常のリスクが高いため、妊娠中や妊娠の可能性がある女性には禁忌です。
●ディエチルスチルベストロール(DES)
使用目的: 1940年代から1970年代にかけて、流産予防薬として妊娠中の女性に処方されました。
影響: DESに曝露した女性の子どもたちに、生殖器系の異常や稀ながんの発生率の上昇が見られました。

これらの例からわかるように、妊娠中の薬剤や化学物質の使用は極めて慎重に行わなければならず、医師の指導のもとでのみ行うべきです。妊娠中の女性や妊娠を計画している女性は、医薬品や化学物質の使用に際して医師と相談することが重要です。また、これらの物質に関する研究は進行中であり、新たな発見がなされる可能性があるため、最新の情報を常に確認することが推奨されます。

栄養不足による先天性形態異常

栄養不足による先天性形態異常は、胎児の発達中に栄養素が不足することで起こります。妊娠中の母親が十分な栄養を摂取していない場合、特に重要な発達期に必要なビタミンやミネラルが不足すると、胎児は成長障害や先天性異常のリスクが高まります。例えば、葉酸の不足は神経管欠損症のリスクを高め、カルシウムやビタミンDの不足は骨の形成に影響を与える可能性があります。したがって、妊娠中の栄養は母親と胎児の健康にとって極めて重要です。

物理的因子によって引き起こされる先天性形態異常

物理的因子によって引き起こされる先天性形態異常は、胎児が妊娠中に遭遇する外部的な力や条件によって生じることがあります。これらの異常は、通常、環境的ストレスや外傷が原因で、特定の身体的特徴や機能障害を引き起こす可能性があります。物理的因子による代表的な先天性形態異常の例を以下に挙げます。

●アムニオティックバンド症候群
原因: 妊娠中に羊水嚢が破裂し、羊膜の一部が細い線維帯(アムニオティックバンド)となり、これが胎児の体の一部を締め付けることで発生します。
影響: 指や手足が締め付けられることで、その部位の成長が妨げられたり、最悪の場合、切断されることもあります。また、顔や頭部に影響が出る場合もあります。
●放射線暴露
原因: 妊娠中の女性が放射線に暴露することで、胎児が放射線障害を受ける可能性があります。これは医療検査や環境的暴露によるものが考えられます。
影響: 放射線は細胞のDNAに損傷を与え、これが発育中の器官や組織に影響を及ぼし、形態異常や機能障害を引き起こす可能性があります。
●温度による影響
原因: 極端な高温や低温への暴露が、胎児の発育に影響を与えることがあります。
影響: 特に重要な発育段階での温度ストレスは、発育遅延や先天性異常のリスクを高める可能性があります。
物理的因子による先天性形態異常の予防には、妊娠中の女性がこれらのリスクに晒されないよう注意することが重要です。放射線への不必要な暴露を避け、極端な温度変化から身を守ること、また、特定のリスクがある場合は医師と相談することが推奨されます。

アムニオティックバンド症候群やその他の物理的因子による形態異常の診断は、超音波検査などの画像診断を通じて行われることが多く、治療や管理は症状の種類や重症度によって異なります。必要に応じて、出生前の介入や出生後の手術が行われる場合があります。

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プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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