自閉症スペクトラム障害とは

1. 自閉症とはどういう疾患なのか?

自閉症は

①社会的相互作用(コミュニケーション)の障害:他人の気持ちを理解・共感できないなど
②固執傾向:決まった手順を踏むことへの強いこだわり
③常同行動:反復または限定された行動を取る

などといった特徴があります。

医学的には、①社会的相互作用とコミュニケーションの困難さ,②限定された反復的で常
同的な行動・興味・活動を中核症状とする幼児期早期から認められる神経発達障害と定義されます(DSM-5)。

こうしたさまざまな状態をスペクトラム(連続体)としてひっくるめる診断名として自閉症スペクトラム(autism spectrum disorder; ASD)と呼ばれます。

以前、自閉性障害(自閉症),アスペルガー症候群、特定不能の広汎性発達障害、小児期崩壊性障害などと呼ばれていたものは、最新の診断基準であるDSM-5においては自閉症スペクトラム(ASD)という単一の診断名で表現することが再定義されました。

最近のアメリカ疾病予防管理センター(CDC;Centers for Disease Control and Prevention  )の統計では,実に59人に一人が自閉症と診断されています。

ASDの診断的特徴

ASDの症状は、発達とともに次第に顕在化するので、典型的には生後2年目までに気づかれます。
しかし、社会との相互関係の障害であるため、症状の程度や環境によっては、必ずしも幼少期に明確になるとは限りません。
障害がごく軽度の場合は、社会的に自立して生活することが可能と考えられます。
しかし、社会生活を営むうえでストレスを受けやすく、不安や抑うつなどを呈しやすいため、成人してから診断される場合があります。
☛社会との相互関係の障害なので、早期に発見して適切な療育をすることが肝心だと思います。

診断基準
1.社会的相互作用とコミュニケーションの障害
言語的および非言語的な障害を指します。
言語的な障害とは,完全に会話が欠如しているものから、言葉の遅れ・会話の理解が乏しい・反響言語・格式ばった字義どおりの言語の使用などを指し、多くのASD罹患者において言語的障害が認められます。
非言語的な障害とは、他者の行動の模倣の障害・他者との情動の共有の障害が認められます。
しばしば,コミュニケーションが一方的となるようです。
また、周囲の状況に合わせて自分の振る舞いをコントロールすることに障害が見られます。
2.限定された反復的で常同的な行動・興味・活動
運動・発声・行動の繰り返しや、習慣への頑ななこだわり、変化への適応の障害といった、いわゆる柔軟性
の障害が見られます。
また、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚などの感覚の過敏さ・鈍感さや,特異な興味などが認められることも特徴の1つとして挙げられています。

2. 自閉症スペクトラム障害(ASD)と遺伝の関係はあるのか?

遺伝性検討の歴史

自閉症スペクトラム障害の家族内での遺伝性については検討が重ねられてきました。

ASDは、 家族研究から遺伝率が~95%と非常に高く、遺伝因子の関与が強いのです。
ASDの有病率は02~1 .0%で、男女比は4:l と男性に多くなっています。
また, 遺伝因子と環境因子が組み合わさった多因子疾患であると考えられています。
疾患概念が拡大し、普及したことにより、有病率が劇的に増加しました。

ASDの遺伝学的研究

ASDの遺伝率は、50~95%と推定されています。
両親が同じ兄弟では3~10%程度と報告されています。
*Schaefel GB, Mendelsohn NJ ;Clinical genetics evaluation in identifying the etiology of autism spectrum disorders;Genet Med 15,399-407,2013
再発リスクは罹患者が女性の場合は7%、男性の場合は4%です。
複数の罹患者がいる場合には、少なくとも30%の再発リスクがあるようです。

しかし、こういう研究ではDSM-5の定義しているASDの診断基準よりも前の、より自閉症の臨床症状を拡大して用いているものが多いことに注意が必要で、拡大概念を用いた場合、診断率は高くなることに注意が必要です。

遺伝子変異による発症メカニズム

ASDの遺伝要因としては、 頻度(多い、稀、希少)、遺伝形式(常染色体遺伝性、X連鎖性、de novo多型)、 変化のタイプ(構造的異数体)、 コピー数多型(CNV:copy number variant)、 indel (挿入/欠失)、一塩基多型(SNV:single nucleotide variant)、作用機序(相加的、劣性、優性、半接合) といった、すべての遺伝的リ
スクが関係するとされています。
これまでのゲノムワイド関連解析では個々のSNPの効果が非常に弱く、サンプルサイズが不足しているために検出でしたが、非常に多くのSNPの多遺伝子リスクがASDの変異の主たる要因である可能性が考えられています。

ASDの遺伝子研究が進むにつれて、リスクとなる遺伝子の異常は増える一方でしたが、それもだいぶおちついてきています。
現在、極めて詳細に同定できる稀な染色体の再配列が明らかになり、超顕微鏡的欠失や重複
(CNVか、 より小さな構造的多型)、SNV、小欠失や重複のすべてがリスクとなり得ます。
Genetics and genomics of autism spectrum disorder: embracing complexity Silvia De RubeisJoseph D. Buxbaum  Human Molecular Genetics, Volume 24, Issue R1, 15 October 2015, Pages R24–R31

 

稀な変異は、罹患していない親からの遺伝か、減数分裂における配偶子形成の間に新生突然変異と考えられています。
常染色体性の機能を喪失する申請突然変異のSNVは優性遺伝し、非常に大きなリスクとなります。
タンパクの機能を障害するようなバリアントは優性遺伝、劣性遺伝、X連鎖の遺伝形式をとります。、
遺伝的な要因以外のASDのリスクはあるのですが、そのメカニズムはいまだ明確ではありあせん。
父と母の年齢は相関性があります。
父が高齢であるほど新生突然変異のSNVとCNVが増えるとされています。
父の年齢と比較して、母の年齢については解明されていませんが、母が高齢であるほど染色体異常が増えます。

以上より、ASDの遺伝的な発症メカニズムは、ありふれた多型と稀な多型の両方が感受性を決定し
そこに高リスクの遺伝的な因子や環境因子などが加わり、易罹患性の閾値を上回るとASDを発症するのではないかと考えられるようになってきています。

染色体異常

染色体の異常は、ASDにおいて一貫して報告されています。
ASDの推定CNV頻度は5~21%で、たとえば16p11.2におけるCNVはASD罹患者の0。5~l%に認められます。

the Simons Foundatio Autism Reseach Initiative (SAFRI)

ASDの遺伝子研究の結果を統合しているリサーチリソースデータベース。
関連進伝子はCalegories lから6までスコアリングされていて、信頼性が高い順となっています。

GWAS

2000年代後半から,全ゲノム関連解析研究(GWAS)が行われ、3つの別の研究でCadherin9,Cadherin10Semaphorin5AMACROD2が自閉症関連遺伝子として示唆されました。

2015年にNatureに掲載された論文です。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25621899

アブストラクト:自閉症スペクトラム障害(ASD)は遺伝的に多様であり,数百の感受性遺伝子座が見つかっている.過去行われたマイクロアレイおよびエクソーム配列決定研究では,この疾患の散発性型と推定される単純家系(両親および1人のASD患児)におけるゲノムの一部が調査されている。われわれは、ASD患者170人からなる85の四人組(両親および2人のASD罹患同胞)の全ゲノムシークエンシング(WGS)を用いて明らかに家族性のASDの形態で、すべてのクラスの遺伝的変異(非コード変異を含む)および付随する表現型を包含する包括的データを作成した。

過去にASDまたはその他の神経発達障害と関連があると報告された遺伝子の新規およびまれな遺伝的一塩基変異および構造的変異を調べたところ、罹患した兄弟姉妹の一部(69.4%)が異なるASD関連遺伝子変異を保有していることがわかった。異なる遺伝子変異を有するこれらの兄弟姉妹は,同じ遺伝子変異を共有する兄弟姉妹よりも臨床的多様性を示す傾向があった。われわれの研究では,ASDにはかなりの遺伝的異質性が存在し、研究および臨床診断におけるすべての遺伝的および非遺伝的感受性変異を明らかにするためにWGSの使用が必要であることが強調されている。

3. 自閉症スペクトラム障害の遺伝子パネル検査をなぜ扱うのか?

いろんな意見があると思いますが、当院は臨床遺伝専門医として地域で新型出生前診断NIPTを扱い、たくさんの患者さんたちが来院されます。
そんななか、上のお子さんが自閉症で下のお子さんも障害があると育てられない、本当は自閉症のリスクそのものを検査してほしい、というお声をたくさん頂戴いたしました。

また、お子さんが珍しい遺伝病だということがはっきりしていて、何年も通院しているのに,まったく次のお子さんを妊娠していいのかとか、どうなるのかとかということがご両親と医療従事者の間で話し合われていなくて、突然妊娠して当院に全国から駆け込んでくる、ということもあり、遺伝診療部がまだまだまったく大学病院にしかなくて敷居が高いため、気軽に相談できる状況にないという現実と、たとえ大学病院の遺伝診療部に行ったとしても、本当に乗ってほしい相談には乗ってもらえないという現実。

こうした現実のはざまで実際に苦しんでいる人々に手を差し伸べることは、やってはいけないことなのか?

臨床遺伝専門医として多くの新型出生前診断と一例一例向き合ってきたからこそ、こうした声を一つ一つ拾い上げ、わたしもともに歯がゆい思いをしてきました。
いろいろご批判もあるでしょうが、ミネルバクリニックでは専門医としてギリギリのところで患者さんのニーズと急速に進歩する科学技術の橋渡しをしていきたいと思います。

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