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昼のあいだに覚えたことばや動作が、夜のあいだに少しずつほどけていく——CSWS・ESESは、そんな不思議で残酷な現象を起こす子どものてんかん症候群です。発作そのものは目立たないのに、睡眠中の脳波だけが激しく乱れ、言語・認知・行動の発達が停滞したり後戻り(退行)したりします。2022年に国際的な分類が改訂され、この状態は「睡眠による棘徐波の活性化を伴う発達性および/またはてんかん性脳症(DEE/EE-SWAS)」という新しい名前でとらえ直されました。まれな病気ですが、その仕組みは「睡眠が記憶を育てる」という誰にでも共通する働きの裏返しでもあります。この記事では、CSWS・ESESからDEE/EE-SWASへと至る考え方の変化、なぜ発達が退行するのかという最新の脳のメカニズム、そして原因遺伝子ごとに変わる治療の選択肢までを、遺伝専門医の視点からやさしく解説します。
1. CSWS・ESESとは ─ 睡眠中だけ暴れる脳波と発達の退行
CSWS・ESESは、眠っているあいだに脳波の異常が爆発的に増え、そのせいで言語や認知の発達が止まったり後戻りしたりする、子ども特有のてんかんの状態です。日中の発作は軽いか、まったくないこともあります。ご家族にとって最初に気づくきっかけは、けいれんよりも「ことばが減った」「急に落ち着きがなくなった」「できていたことができなくなった」といった発達面の変化であることが少なくありません。
2つの呼び名は、もともと少し違う角度からこの状態を指していました。ESES(睡眠時てんかん性放電重積状態)は、1971年にPatryらが、ノンレム睡眠中に棘徐波が著しく増える一群の子どもたちを報告して名づけた呼称です[1]。一方のCSWS(睡眠時持続性棘徐波)は、1989年に国際抗てんかん連盟(ILAE)が臨床症候群の名前として分類に採り入れた言葉です。昼に織った布を夜にほどき続けたギリシャ神話の登場人物になぞらえ、「ペネロペ症候群」と呼ばれたこともあります。
ところが、この2つの言葉が「脳波の見え方(表現型)」を指すのか「臨床の症候群」を指すのかは、長らく専門家のあいだでも定まっていませんでした。北米の神経内科医・てんかん専門医を対象にした調査では、多くの医師がESESとCSWSをほぼ同じ意味で使っており、診断の目安となる指標の測り方にも大きなばらつきがあったと報告されています[2]。呼び名と定義の混乱そのものが、研究の進歩や標準的な治療の確立をさまたげてきたのです。ご家族にとって大切なのは、「同じ状態がいくつもの名前で呼ばれてきた」という背景を知っておくことです。別々の病名を告げられても、実は地続きの同じ問題を指していることが多く、混乱する必要はありません。
💡 用語解説:棘徐波(きょくじょは)とノンレム睡眠
棘徐波は、脳波に現れる「とがった波(棘波)」と「ゆるやかな波(徐波)」がセットになった、てんかんに特徴的なパターンです。ノンレム睡眠は、夢をあまり見ない深い眠りの時間帯で、体と脳が休み、記憶を整理する大切な時間です。CSWS・ESESでは、このノンレム睡眠のあいだに棘徐波が異常に増えます。つまり「休むべき時間に脳が休めていない」状態と考えると、なぜ発達に影響するのかがイメージしやすくなります。
2. ILAE2022の新しい呼び名 ─ DEE-SWASとEE-SWASの違い
2022年のILAE分類の改訂で、CSWS・ESESは「睡眠による棘徐波の活性化を伴う発達性および/またはてんかん性脳症(DEE/EE-SWAS)」という新しい枠組みに統合されました。名前が長くなった代わりに、「異常な脳波(SWAS)そのものが発達の停滞・退行の直接の原因になっている」という考え方が、名前の中にはっきり書き込まれています。
この新分類でいちばん大切な区別は、「SWASが始まる前の発達がどうだったか」にあります。二つのタイプに分かれます。
DEE-SWAS
SWASが始まる前から、すでに発達の遅れや自閉スペクトラム症、運動の障害などがあったタイプです。もともとの脳の病気に、SWASによる退行が上乗せされます。発症が早く、知的な予後がより慎重に見られる傾向があります。
EE-SWAS
SWASが始まる前は、発達がほぼ正常だったタイプです。SWASの出現と時をほぼ同じくして、言語・認知・行動・運動の退行が現れます。特定の聴覚の失認と言語退行を特徴とするランドウ・クレフナー症候群(LKS)は、この代表例です。
この区別は、ご家族にとって「なぜうちの子はこうなったのか」を理解する助けになります。ランドウ・クレフナー症候群のように、それまで順調に話していた子が急にことばの理解を失っていく場合は、脳波の異常そのものが引き金になっている可能性が高く、脳波を抑える治療の意味が大きくなります。DEE/EE-SWASは全小児てんかんのおよそ0.2〜1.3%を占めるまれな状態とされますが[1]、まれであっても、早く気づいて手を打つことが将来の発達を守るうえで決定的に重要です。
3. 診断の決め手 ─ 睡眠脳波と棘徐波指数(SWI)
診断の中心になるのは、眠っているあいだの脳波を記録することです。数値の目安として「棘徐波指数(SWI)」が使われますが、ILAE2022では、以前のような厳しいパーセンテージの合格ラインは撤廃され、脳波の活性化と発達の退行が時期的に重なっているかどうかが重視されるようになりました[1]。ご家族にとって重要なのは、「数値が基準に届かないから問題ない」とは言い切れない、という点です。
💡 用語解説:棘徐波指数(SWI)とは
棘徐波指数(SWI:Spike-Wave Index)は、ノンレム睡眠の時間のうち、棘徐波が現れている時間がどれくらいの割合を占めるかをパーセントで表した数値です。かつては「85%以上」という非常に厳しい基準が使われていましたが、その後、50%程度、あるいはそれ以下でも重い認知の障害が起こりうることが分かってきました[2]。そのためILAE2022は、あえて特定のパーセンテージを診断基準として固定せず、「より低い割合でも意味のある退行と関連しうる」と明記しています。
SWIには技術的な難しさもあります。棘徐波は眠り始めの最初の睡眠サイクルで最も強く現れ、夜の後半に向かって少なくなる傾向があるため、一晩全体の平均をとるのか、ピーク時を評価するのかで数値が大きく変わります[2]。実際、算出方法についての標準化されたプロトコルはまだ確立されておらず、ノンレム睡眠全体を分母にする方法と、入眠から最初の10〜30分だけをサンプリングする方法が施設によって混在しています。さらに、覚醒しているときにすでに一定の棘波がある子が睡眠時に増える場合をSWASとみなすか、局所的な放電が睡眠時に両側同期性へ変化した場合をどう扱うかなど、脳波の広がり方(分布)の評価についても合意が得られていません。こうした事情から、同じ子どもでも測る人や測り方によって数値がばらつきうるのが現状です。
近年は、皮下に埋め込む小型脳波計による日常生活下の連続モニタリングや、機械学習を使ってSWIを自動で計算する試みも進んでおり、より客観的で再現性の高い評価法が期待されています。ご家族にとって大切なのは、SWIという一つの数値に一喜一憂しすぎないことです。数値が基準に届かなくても、発達の後戻りが脳波の活性化と同じ時期に起きているなら、治療を検討する理由になります。逆に数値が高くても、それだけで将来がすべて決まるわけではありません。診断名や数値そのものより、「脳波の異常が、発達の変化と同じ時期に起きているか」という全体像を丁寧に見ることが、正しい理解への近道です。
4. 3つのステージと予後 ─ 多くは思春期に自然に消える
この病気は、「SWASが始まる前」「SWASの時期」「SWASが消えた後」という3つのステージをたどるのが一般的です。そして多くの場合、思春期を迎えるころに脳波の異常は自然に消えていきます。ここは、不安の中にあるご家族にとって、ひとつの見通しになる大切な事実です。
① SWAS発症前
おおむね2〜5歳に、焦点発作や両側の強直間代発作で発症します。発作の頻度は低く、薬に比較的反応しやすい時期です。
② SWAS期
4〜5歳をピークに睡眠中の脳波が爆発的に増えます。言語退行・行動異常・運動退行など、多彩な発達の問題が最大の課題になります。
③ SWAS消失後
およそ11〜15歳で、原因にかかわらず多くの例で脳波の異常と発作が自然に消えていきます。
ただし、脳波が消えても、発達が発症前の水準まで完全に戻るとは限りません。多くのお子さんに、学習の困難、注意欠如・多動症(ADHD)、あるいは中等度から重度の知的障害が残ることがあります。これは残念な事実ですが、だからこそ「脳波が消えるのを待つ」のではなく、活性化している時期にできるだけ早く介入する意味が大きいのです。長期的な予後を左右する最大の要因は、SWASがどれだけ長く続いたか、そして根っこにある原因(病因)が何かだと考えられています。異常な脳波が2年以上続いた場合や、発症年齢がきわめて低い場合には、脳が最も柔らかく育つ時期に神経回路の傷が積み重なるため、予後がより慎重に見られます[1]。
5. なぜ発達が退行するのか ─ 睡眠紡錘波の「乗っ取り」
発達が後戻りする理由は、「睡眠が記憶を育てる働き」が、てんかんの放電によって邪魔されるからだと考えられています。ここは少し専門的ですが、ご家族が「なぜ夜の脳波が昼の発達を奪うのか」を理解する核心です。
私たちが深く眠っているあいだ、脳の奥にある視床と、表面の大脳皮質が連携して、神経のリズムをつくります。その中でも「睡眠紡錘波(すいみんぼうすいは)」という短い波の束は、日中に覚えた記憶を大脳皮質に転送し、長期記憶として固定する「記憶の定着装置」のような役割をしています。ところがDEE/EE-SWASでは、ヒトの視床と皮質を同時に記録した研究によって、睡眠中に活性化した皮質のてんかん性の棘波が視床へ伝わり、本来つくられるはずの睡眠紡錘波の生成を物理的に妨げてしまうことが直接示されました[3]。この現象はしばしば紡錘波の「ハイジャック(乗っ取り)」と表現されます。記憶を定着させる装置が夜ごと乗っ取られるため、子どもは日々の学習を積み上げられなくなり、結果として認知機能が下がっていくのです。
💡 用語解説:シナプス恒常性 ─ 夜に「余分な結びつき」を整理する
脳の神経細胞どうしは「シナプス」という接点でつながっています。起きているあいだに学習を重ねると、シナプスの結びつきはどんどん強まります。そのままではエネルギーもスペースも足りなくなるため、深い眠りのあいだに、脳は不要なシナプスを整理して全体を適度なレベルまでリセットします。これを「シナプス恒常性(こうじょうせい)」と呼びます。
DEE/EE-SWASでは、睡眠中の脳を埋め尽くす棘徐波が、この夜間の「整理」を妨げます[3]。結果としてシナプスの結びつきが強すぎるまま残り、脳が最も活発に育つ臨界期に異常な神経回路が固定されてしまう——これが、言語退行や自閉スペクトラム様の症状が起こる根本の仕組みと考えられています。
なぜこの病気が幼い時期に集中し、そして思春期に自然に消えていくのかも、この仕組みから説明できます。脳の神経回路が最も活発につくり替えられる「臨界期」は、ちょうどSWASが現れる幼児期から学童期に重なります。脳が柔らかく変化しやすい時期だからこそ、夜間の異常な放電が回路に刻み込まれてしまい、その影響も大きく残りやすいのです。逆に、臨界期が過ぎて脳の可塑性が落ち着く思春期になると、異常な放電も勢いを失い、脳波は自然に鎮まっていきます。この「時期」と「脳の柔らかさ」の関係を知っておくと、なぜ早期の治療が将来を大きく左右するのかが腑に落ちます。
この「視床と皮質のネットワークの乱れ」という理解は、まれな病気の話にとどまりません。睡眠が学習や記憶を支えているという、誰にでも共通する仕組みの裏返しだからです。だからこそ、DEE/EE-SWASを理解することは、子どもの脳発達と睡眠の関係全体を理解することにもつながります。近年の総説でも、視床皮質ネットワークの機能不全と睡眠構造の乱れが、脳波の異常と認知・行動の悪化を結ぶ枠組みとして整理されています[8]。
6. 原因遺伝子と個別化医療 ─ GRIN2Aが握る鍵
🔍 関連記事:GRIN2A遺伝子/遺伝形式/てんかん包括的遺伝子検査
長らく原因不明とされてきたこの病気ですが、網羅的な遺伝子解析や高解像度MRIの普及により、患者さんのおよそ半数近くで、単一遺伝子の変化・コピー数の変化・脳の器質的な病変といった明確な原因が見つかるようになりました[8]。この進展は、症候群の名前だけで治療を決める時代から、原因の分子を狙う「プレシジョン・メディシン(個別化医療)」への移行を後押ししています。
器質的な原因は、DEE/EE-SWASのおよそ1〜4割程度を占める重要なリスク因子とされます。なかでも、新生児期の視床出血や周産期の脳卒中といった早期の視床損傷が特に重要です。視床は前章で見た「睡眠中のリズムをつくる中心地」ですから、そこが傷つくと、まさに紡錘波を生み出す仕組みが直接こわれ、SWASが起こる高いリスクになります。実際、DEE/EE-SWASでは、はっきりした病変がなくても視床の体積が小さいことがあると報告されており、視床がこの病気の鍵を握る場所であることを裏づけています。片側または両側のシルヴィウス裂周囲多小脳回、限局性皮質形成異常、脳室周囲白質軟化症などの大脳皮質の形成異常も、睡眠に誘発される強いてんかん性放電の発生源になります。こうした病変が片側にとどまっている場合は、後述する外科治療の良い適応になることがあり、MRIで原因を確かめることが治療方針に直結します。
同じ遺伝子でも、変化の向きで薬が正反対になる
原因遺伝子の中でも中心的な役割を果たすのがGRIN2Aです。GRIN2Aは、脳の興奮性の情報伝達を担うNMDA型グルタミン酸受容体の部品(GluN2Aサブユニット)の設計図で、てんかんと言語障害が重なる「てんかん性失語スペクトラム」の最も代表的な原因遺伝子です[5]。
臨床的にきわめて重要なのは、同じGRIN2Aの変化でも、それが受容体の働きを強めるタイプ(機能獲得型・GoF)か、弱めるタイプ(機能喪失型・LoF)かによって、検討される分子標的治療の方向性が異なるという点です[5]。この事実は、遺伝子検査が「診断のため」だけでなく「治療方針を決めるため」に不可欠であることを、はっきりと示しています。
⚠️ なぜ遺伝子検査の前に自己判断で薬を選んではいけないのか
機能型と合わない治療では症状が悪化する可能性があり、少数例ではL-セリン投与後の一過性の症状悪化も報告されています[5]。「同じ遺伝子=同じ治療方針」ではないのがこの領域の難しさであり、だからこそ、遺伝子パネル検査や全エクソーム解析で変化を見つけ、さらにその変化が受容体の働きを強めるのか弱めるのかを機能解析で見きわめることが欠かせません。これらの治療はまだ研究・臨床試験の段階のものを含み、確立した標準治療ではありませんが、遺伝子の情報が治療の方向を決める時代に入りつつあります。
GRIN2A以外にも、SCN2A・KCNQ2・SYNGAP1・CHD2など、これまでドラベ症候群など他のてんかん性脳症の責任遺伝子とされてきた多くの変化が、DEE-SWASの姿をとりうることが分かってきました[8]。またTSC1・TSC2などmTOR経路に関わる遺伝子の場合は、経路を狙った阻害薬が検討されることもあります。表現型の重なりと遺伝的な多様性の高さは、遺伝子検査による正確な原因の見きわめが、いかに大切かを物語っています。
7. 治療の考え方 ─ 目標は「脳波の正常化」と発達を守ること
治療で最も大切な発想の転換は、「治療の最終目標は発作を止めることではなく、睡眠中の異常な脳波を解消し、それに伴う発達の退行を止める(あるいは回復させる)ことにある」という点です。この考え方は、ご家族が治療の意味を理解し、医療者と同じ方向を向くための土台になります。
薬物治療 ─ 標準的な抗てんかん薬だけに頼らない
575例を統合した大規模な解析では、バルプロ酸やレベチラセタムなどの標準的な抗てんかん薬(ASM)だけでの改善率は約49%と低く、これらの単剤投与に長くこだわることは、発達の退行を放置する結果になりかねないと指摘されています[4]。同じ解析では、副腎皮質ステロイドが約81%、ベンゾジアゼピン系が約68%という、より高い有効性を示しました[4]。ここでの「有効」とは、認知機能または脳波のいずれかの改善を指します。
2023年末にオンライン公開され、2024年に正式掲載された、この領域で初めての多施設無作為化比較試験「RESCUE-ESES試験」の結果が報告されました。2〜12歳の子ども45名を、クロバザム(ベンゾジアゼピン系)とコルチコステロイドの2群に無作為に割り付けて比較した試験です[7]。患者登録の難しさから予定より早く終了しましたが、6か月後に一定以上の知能指数(IQ)の上昇を達成した子どもの割合は、クロバザム群で0%だったのに対し、ステロイド群では25%と有意に高い結果でした[7]。この試験は、早期治療においてステロイドが有力な選択肢であることを裏づけています。ただしステロイドには体重増加などの副作用があるため、連日の内服より、メチルプレドニゾロンの静注パルス療法のほうが忍容性に優れるとされることもあります。
外科治療と新しい治療 ─ 片側の病変には手術が最も劇的
脳MRIで片側性の器質的病変が確認され、それがSWASの発生源になっている場合、てんかん外科手術は最も劇的で根本的な効果をもたらすことがあります。575例の解析では、外科的介入を受けた患者さんの90%で脳波が大きく改善したと報告されています[4]。特筆すべきは、発作が薬でコントロールされている場合でも、重い発達の退行を食い止める目的だけで、早期に外科の適応を検討すべきだという発想の転換が起きている点です。
薬や外科が適応外となる難治例に対しては、新しい治療も探索されています。AMPA型グルタミン酸受容体を抑えるペランパネルは、小児の焦点てんかんとESESを対象にした後方視的研究で、追加投与から24週(6か月)後に53.7%の患者さんでESESの解消が認められたと報告されています[9]。この薬は、前章で触れたGRIN2Aなどグルタミン酸系の過剰な興奮を伴う症例では、病態に直結する治療として働く可能性も期待されています。
このほか、DEE/EE-SWASの一部では血液中の炎症性の物質が上がっていることが報告されており、持続的な神経炎症が病態に関わっている可能性が示唆されています[8]。ステロイドが効かない難治例に、炎症を抑える免疫調整の薬を用いて、行動や睡眠の改善が得られた症例も報告されています。また、ドラベ症候群などで知られるフェンフルラミンの探索的研究や、特定の遺伝的背景をもつ症例での高純度カンナビジオール(CBD)の試みも進んでいます。いずれも研究段階の知見を含み、確立した標準治療ではありませんが、かつては打つ手が限られていたこの病気に、原因や病態に応じた選択肢が少しずつ増えつつあることは、ご家族にとって前向きな見通しになります。どの治療が向くかは原因や年齢によって変わるため、専門的な評価のうえで検討されます。
💡 この病気と遺伝診療のつながり
DEE/EE-SWASは、「用語」でありながら、遺伝子診断・遺伝形式・遺伝カウンセリングのすべてに深く関わる状態です。原因遺伝子(GRIN2Aなど)を調べることは診断の確定だけでなく、GoF/LoFの見きわめを通じて治療方針を左右します。また、原因遺伝子によっては新生突然変異(de novo)が多くみられますが、家族性の例もあり、家系内の再発リスクや血縁者への影響を整理するには、遺伝形式の正確な理解が出発点になります。当院では、こうした検査の前後で臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、中立の立場で判断材料を整理します。仲田院長は成人を診療する臨床遺伝専門医であり、小児の直接の主治医となる立場ではありませんが、遺伝学の視点から検査計画やご家族の理解を支える役割を担うと考えています。
8. よくある誤解
誤解①「発作が少ないから軽症だ」
DEE/EE-SWASでは、発作がほとんどなくても、睡眠中の脳波が発達をむしばむことがあります。けいれんの頻度と病気の重さは必ずしも一致しません。ことばや行動の後戻りに気づいたら、発作が軽くても睡眠脳波を調べる価値があります。
誤解②「脳波が消えれば元どおりになる」
思春期に脳波の異常が消えても、発達が発症前の水準まで完全に戻るとは限りません。学習の困難やADHD、知的障害が残ることがあります。だからこそ、活性化している時期に早く治療する意味が大きいのです。
誤解③「同じ遺伝子なら同じ薬が効く」
GRIN2Aでは、受容体の働きを強めるタイプと弱めるタイプで、検討される治療の方向性が異なります。機能型と合わない治療では症状悪化の可能性もあり、遺伝子の変化の「向き」を見きわめることが欠かせません。
誤解④「標準的な抗てんかん薬を続ければよい」
標準的な抗てんかん薬だけでの改善率は約49%にとどまります[4]。効果がないまま単剤を長く続けることは、発達の退行を放置する結果になりかねません。ステロイドや外科など、より有効な選択肢への迅速なステップアップが検討されます。
このページを読んだあなたへ
このページには、いろいろな状況の方がたどり着かれていると思います。お子さんのことばや行動の後戻りに気づいて検索された方、CSWS・ESESやDEE/EE-SWASという診断名を告げられて調べている方、遺伝子検査をすすめられて意味を知りたい方——それぞれに、次に確認するとよい観点があります。
・診断名を整理したい方は、新分類の呼び名でまとめたDEE-SWAS/EE-SWASの診断・治療のページや、言語退行が目立つタイプのランドウ・クレフナー症候群もあわせてご覧ください。
・原因遺伝子と治療のつながりを知りたい方は、GRIN2A遺伝子や、原因を網羅的に調べるてんかん包括的遺伝子検査が参考になります。
・再発リスクや血縁者への影響が心配な方は、遺伝形式と遺伝カウンセリングの考え方を知っておくと、次の一歩を落ち着いて選べます。
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よくある質問(FAQ)
参考文献
- [1] Rebuilding the Tower of Babel: The Current Landscape and Emerging Opportunities in DEE-SWAS. Epilepsy Currents. 2025. [PMC12149166]
- [2] The tower of Babel: survey on concepts and terminology in electrical status epilepticus in sleep and continuous spikes and waves during sleep in North America. Epilepsia. 2013. [PubMed 23163318]
- [3] Thalamic epileptic spikes disrupt sleep spindles in patients with epileptic encephalopathy. Brain. 2024. [Brain 147(8):2803]
- [4] Treatment of electrical status epilepticus in sleep: A pooled analysis of 575 cases. Epilepsia. 2015. [PubMed 26337159]
- [5] GRIN2A-Related Disorders. GeneReviews®. [NBK385627]
- [6] L-Serine Treatment is Associated with Improvements in Behavior, EEG, and Seizure Frequency in Individuals with GRIN-Related Disorders Due to Null Variants. Neurotherapeutics. 2022. [PubMed 34997442]
- [7] Corticosteroids versus clobazam for treatment of children with epileptic encephalopathy with spike-wave activation in sleep (RESCUE ESES): a multicentre randomised controlled trial. Lancet Neurology. 2024. [Lancet Neurol]
- [8] Developmental and/or epileptic encephalopathy with spike-and-wave activation in sleep: Pathophysiological insights and treatment options. Epilepsia. 2026. [Epilepsia doi:10.1002/epi.70271]
- [9] Effectiveness of perampanel in the treatment of pediatric patients with focal epilepsy and ESES: A single-center retrospective study. Front Pharmacol. 2022. [PMC9585220]



