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DEE-SWAS/EE-SWASとは|睡眠中の脳波異常が招く発達の退行と最新治療を遺伝専門医が解説

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

DEE-SWAS/EE-SWASは、眠っている間に脳波のてんかん性異常放電が著しく活性化し、その結果として昼間のことばや理解、行動が少しずつ後戻り(退行)してしまう、小児のてんかん症候群です。まれな病気ですが、そこで起きている「睡眠が担うはずの脳の整理作業が、異常放電に乗っ取られる」という仕組みは、睡眠と記憶・発達の関係そのものを映し出しています。ですからこの病気を理解することは、子どもの発達と睡眠のつながりを理解することにもつながります。本記事では、2022年に国際抗てんかん連盟(ILAE)が整理し直した新しい呼び名と診断の考え方、GRIN2Aなどの原因遺伝子、そして副腎皮質ステロイドや免疫療法といった最新の治療戦略までを、遺伝専門医の視点からやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約18分
🧬 睡眠時の脳波異常・発達退行・最新治療
臨床遺伝専門医監修

Q. DEE-SWAS/EE-SWASとはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 眠っている間に脳波がてんかん性の異常放電で著しく活性化し、それに伴って昼間のことば・認知・行動・運動の発達が停滞したり後戻りしたりする、2歳〜12歳ごろに発症する小児てんかん症候群です。発症前の発達が正常だった場合をEE-SWAS、発症前から発達の遅れがあった場合をDEE-SWASと呼び分けます。以前はESES・CSWSと呼ばれていました。脳波の異常は思春期までに自然に治まることが多い一方、退行への対応が遅れると後遺症が残りやすいため、早期の診断と治療がとても大切です。

  • 名前の意味 → 「睡眠時棘徐波発射の活性化(SWAS)」を伴う発達性/てんかん性脳症。旧称ESES・CSWSを2022年にILAEが整理し直した呼び名
  • 中心となる症状 → てんかん発作そのものより、ことば・注意・行動・運動の「退行」が本質。約半数で行動面の退行も伴う
  • 原因 → 早期の視床損傷などの構造的病変、GRIN2Aなどの遺伝子変異が関与し、神経炎症の関与も示唆されている。最大3分の1で遺伝的原因が見つかる
  • 治療の中心 → 発作を止めるだけでなく脳波の異常(SWAS)を抑えることが目標。副腎皮質ステロイドが最も有力で、ベンゾジアゼピンや免疫療法も選択肢
  • 予後を分けるもの → 異常な脳波の状態が続いた期間の長さは重要な予後因子の一つ。だからこそ迅速な診断と適切な治療が重要

🧬 DEE-SWAS/EE-SWASの基本情報

項目 内容
疾患名 睡眠時棘徐波発射の活性化を伴う発達性および/またはてんかん性脳症/英名 Developmental and/or Epileptic Encephalopathy with Spike-Wave Activation in Sleep/略称 DEE-SWAS・EE-SWAS(旧称 ESES・CSWS)
2つの呼び分け 発症前の発達が正常=EE-SWAS/発症前から発達障害あり=DEE-SWAS
主な原因遺伝子 GRIN2A(最多)/CNKSR2・SLC9A6・SCN2A・KCNQ2・KCNT1・TRPM3 など
遺伝形式 多くは新生突然変異(de novo)。CNKSR2・SLC9A6などはX連鎖性で、家系により再発リスクの評価が必要
頻度・発症年齢 小児てんかん全体の約0.2〜1.3%。発症は2〜12歳で、4〜5歳がピーク。男女差はほぼなし
主な症状 睡眠中の焦点運動発作、ことば・注意・行動・運動の退行、約半数で多動・攻撃性などの行動退行
診断の決め手 睡眠時脳波(ノンレム睡眠での1.5〜2Hzの棘徐波の著明な活性化)と、退行の臨床経過が時間的に一致すること
鑑別すべき疾患 レノックス・ガストー症候群、点頭てんかん(West症候群)、自己免疫性脳炎、薬剤誘発性の悪化など
検査上の注意 日中の短時間脳波では見逃されることがあり、睡眠をとらえた記録が必要。カルバマゼピンなどは悪化を招くことがある

各項目の根拠と詳しい解説は、本文の該当セクションをご覧ください。

1. DEE-SWAS/EE-SWASとは ─ 眠っている間に進む「発達の後戻り」

DEE-SWAS/EE-SWASは、眠っている間に脳波のてんかん性異常放電が著しく活性化し、その結果として昼間のことばや認知、行動、運動の発達が停滞したり後戻りしたりする病気です。ここで大切なのは、ご家族にとって最初に気づきやすいのが発作ではなく「できていたことができなくなる」という変化だという点です。

この病気は長いあいだ「睡眠時てんかん性電位重積状態(ESES)」や「睡眠時持続性棘徐波を示すてんかん性脳症(CSWS)」と呼ばれ、用語の定義や解釈が研究者ごとに食い違うという問題を抱えていました。この混乱を収拾するため、国際抗てんかん連盟(ILAE)の疾患分類タスクフォースは2022年のポジションペーパーで、この一連の病態を「睡眠時棘徐波発射の活性化を伴う発達性および/またはてんかん性脳症(DEE-SWAS/EE-SWAS)」として新たに定義し直しました[1]。旧称のESES・CSWSと同じ病態を指しているので、以前の診断名を受け取っている方も同じ枠組みで理解して大丈夫です[2]

この呼び名の最大の意義は、「発症する前の発達がどうだったか」を病名に反映させたことにあります。発症前の発達がおおむね正常だった子どもが、睡眠時の棘徐波活性化(SWAS)の出現とともに新しいスキルを獲得できなくなったり、すでに身につけたスキルを失ったりする場合をEE-SWASと呼びます。一方、発症前からすでに発達の遅れなどがあり、SWASの出現によってその状態がさらに悪化したり退行したりする場合をDEE-SWASと呼びます[1]。両者は脳波所見や治療の考え方に大きな違いはなく、まとめてD/EE-SWASと総称されます[2]

💡 用語解説:「発達性脳症」と「てんかん性脳症」の2つの要素

この病名には2つの独立した考え方が組み込まれています。ひとつは発達性脳症で、これは病気の根っこにある原因(遺伝子変異や脳の構造の違いなど)そのものが発達に影響を与えている部分を指します。もうひとつはてんかん性脳症で、これは頻繁なてんかん性の放電そのものが発達を止めたり後戻りさせたりしている部分を指します。DEE-SWASでは、この2つが重なって症状をつくります。てんかん性脳症の部分は治療で放電を抑えれば改善が期待できるという点が、治療を考えるうえでとても重要です。

この病気は決して多いものではなく、小児てんかん全体の約0.2〜1.3%を占める希少な症候群です[3]。発症年齢は2歳から12歳のあいだで、4〜5歳ごろに発症のピークを迎えます。男女で頻度に大きな差はなく、どちらの性別も同じように罹患します[3]。まれな病気だからこそ、地域の小児科ですぐに診断がつくとは限らず、ことばの遅れや落ち着きのなさとして経過を見られてしまうことがあります。だからこそ、この病気の存在と「睡眠中の脳波」という手がかりを知っておくことが、正しい診断への近道になります。

2. 症状と経過 ─ 発作が先、退行はあとから静かに始まる

典型的な経過では、まず臨床的なてんかん発作が先に現れ、その数週間から1〜2年後に、認知や行動の退行がゆっくりと明らかになってきます。ここで知っておいていただきたいのは、初期の退行はとても緩やかなので、ご家族や保育者がすぐには気づきにくく、発作だけが主な訴えとして受診されることが多いという点です[3]

発作はほとんどの患者さんで認められますが、すべてに必須というわけではありません。一部の患者さん(特にEE-SWASの一部)では、はっきりした発作を伴わずに、著しい脳波異常と退行だけを示すことがあります[1]。実際、退行こそがこの症候群の中心的な特徴であり、臨床的な発作が診断に必ずしも必要ではないとされています[1]。「発作が目立たないから大丈夫」とは言えない、という点がこの病気の難しさです。

最も一般的な発作型は、睡眠中に生じる焦点運動発作です。この焦点発作はしばしば両側に広がり、両側強直間代発作(以前の二次性全般化発作)の形をとることがあります。病期が進んで脳波上の棘徐波活性化が顕著になるにつれ、定型または非定型欠神発作、脱力発作(ドロップアタック)、陰性ミオクローヌスを伴う焦点運動発作など、新たな発作型が加わってくる傾向があります[2]

鑑別のうえで大切な点として、睡眠に関連した強直発作てんかん性スパスムが見られる場合は、ILAEの2022年基準ではレノックス・ガストー症候群(LGS)や点頭てんかんなど別の発達性てんかん性脳症を強く示唆する所見とされています[1]。また、DEE-SWASは、中心側頭部に棘波をもつ自己限定性てんかん(SeLECTS:かつてのローランドてんかん)や、自律神経発作を伴う自己限定性てんかんといった、本来は経過のよい焦点てんかん症候群から移行してくるケースがあることも知られています[2]。良性と考えられていたてんかんでも、途中で経過が変わることがある、という視点が見逃しを防ぎます。

神経発達の退行 ─ ことばだけでなく行動や運動にも及ぶ

退行は広い範囲の認知機能に影響します。具体的には、ことばやコミュニケーションの力、時間・空間の見当識、注意力、実行機能、社会的なやりとり、記憶や学習の力、そして運動スキルなどが含まれます[2]。ご家族から見ると、「急にしゃべらなくなった」「返事が返ってこなくなった」「勉強についていけなくなった」といった形で気づかれることが多くあります。

さらに約半数の患者さんでは、多動、攻撃性、感情の不安定さ、社会的なひきこもり、不適切な行動といった行動面の退行が見られ、これがことばや認知の退行とは独立して生じることもあります[2]。運動面では、うまく動作ができなくなる(失行)、ジストニア、陰性ミオクローヌスによる運動の乱れが現れることがあり、歩きにくさや、よだれ・嚥下障害を伴うタイプ(オペルキュラー症候群)を示すこともあります[2]。こうした変化を「一時的な気分」や「わがまま」と捉えず、脳波の変化と結びつけて評価することが、適切な治療の出発点になります。

3. ランドウ・クレフナー症候群(LKS)─ ことばが「聞こえるのに分からなくなる」タイプ

ランドウ・クレフナー症候群(LKS)は、EE-SWASの特定のサブタイプとしてはっきり位置づけられています[1]。お子さんのことばの退行に悩むご家族にとって、この病名は「ことばの問題にも治療可能なてんかんが隠れていることがある」という大切な手がかりになります。

LKSは1957年にWilliam M. LandauとFrank R. Kleffnerによって初めて記述された症候群で、それまで正常に発達していた子どもに、後天的な「聴覚失認」を伴うことばの著しい退行が現れるのが特徴です[1]。LKSの子どもは、耳そのものの聞こえは正常であるにもかかわらず、音声言語を処理して意味を解釈する力を失っていきます(受容性言語の喪失)。この受容性言語の崩れに続いて、話す力(表出性言語)も急速に低下し、最終的に無言に至ることもあります[2]

💡 用語解説:聴覚失認とは

聴覚失認とは、耳は正常に音を拾っているのに、その音が「何の音か」「どんなことばか」を脳が解釈できなくなる状態です。LKSでは、ことばの音が聞こえていても意味に変換できなくなるため、まるで知らない外国語を聞いているような状態になります。自閉スペクトラム症のことばの遅れと似て見えることがありますが、LKSは発症年齢がやや遅く(通常3〜8歳)、しかもそれまで話せていたことばが急性〜亜急性に失われるという点が特徴です。この「いったん獲得したものを失う」という経過が、生まれつきの発達の特性とは異なる重要な見分けのポイントになります。

てんかん発作はLKSの約70〜80%の患者さんで認められますが、興味深いことに、発作の頻度や重症度とことばの障害の進行度は必ずしも一致しません。むしろ、ことばをつかさどるシルビウス裂の周囲で起こる、局所的で持続的なてんかん性放電が、言語ネットワークの働きを直接的に妨げていると考えられています。ここでも問題の本質は「目に見える発作」ではなく「脳波上の持続的な異常」にあり、だからこそ脳波を評価することが診断のかなめになります。

4. 脳波(EEG)と診断基準 ─ 睡眠をとらえることが決め手

DEE-SWASの診断は、退行という臨床的な変化と、睡眠時の著しい脳波異常が同じ時期に起きていることを、客観的に確かめることにかかっています。ご家族にとっては、「なぜ長時間の、しかも睡眠を含む脳波検査が必要なのか」の答えがここにあります。日中に短時間とった脳波では異常が目立たず、眠って初めて異常が姿を現すからです。

ILAE 2022が定めた診断のルール

ILAEのタスクフォースは、診断に必要な必須基準、他の診断を考えるべき警告基準、そして除外基準を細かく定めています[1]。必須基準は、ノンレム(NREM)睡眠中に著しく活性化する「遅い(1.5〜2Hz)棘徐波パターン」です。この1.5〜2Hzという周波数の指定は今回はじめて導入されたもので、レノックス・ガストー症候群で見られる遅い棘徐波パターンとの混同を避けるための工夫です[2]。さらに、この脳波上の活性化が、認知・行動・運動の停滞や退行と時間的に一致していることが必須とされます。退行の経過が睡眠脳波の所見と結びつかない場合は、DEE-SWASの診断からは外れます[1]

警告基準(別の診断を考えるべき所見)としては、1歳未満または12歳以上での発症、睡眠に関連した強直発作、覚醒時・睡眠時を問わない全般性の遅い(2.5Hz未満)棘徐波複合、睡眠時の全般性発作性速波活動などが挙げられます。除外基準にはてんかん性スパスムの存在がはっきり定められています[1]。これらは、似て見える他のてんかん症候群と丁寧に区別するための道しるべです。

棘徐波指数(SWI)をめぐる論争と「最初の100秒」

長いあいだ、この病態の脳波診断には、ノンレム睡眠中の記録の「85%以上」を棘徐波が占めること(棘徐波指数:SWI≧85%)が古典的な基準とされてきました。SWIは、棘徐波を含む1秒間の区画(ビン)の数を、評価した全体の時間で割って計算します。しかし近年の多くの研究で、SWIが50%程度、あるいはもっと低くても重い認知退行や行動異常が起こり得ることが分かってきました[2]。そのためILAE 2022のガイドラインは、あえて特定のSWIのカットオフ値を設けず、「より低い割合であっても、認知や行動の有意な退行と関連する可能性がある」として、数値よりも臨床的な文脈を重視する姿勢を打ち出しました[1]。数字が基準に届かないから安心、とは言えないということです。

一晩じゅうのノンレム睡眠を手作業で数えるのは現実的でないため、測り方の効率化も進んでいます。研究によれば、最初の睡眠紡錘波を確認した後のNREM睡眠「最初の100秒」のSWIを測る方法は、より長い記録から得たSWIと高い一致を示します。SWI 50%をカットオフにした場合、この「最初の100秒」に基づく診断は、より伝統的な方法と比べて診断精度92%、感度96%、特異度88%、陽性的中率90%という高い精度を示したと報告されています[4]。この方法は、SWIを効率的に評価する手法として有用性が報告されています。近年はさらに、客観性と再現性を高めるために、自動でスパイクを検出するソフトウェアを使った評価システムの導入も進んでいます[3]。ご家族にとっては、検査がより短時間で・より客観的に行える方向に進んでいることは、負担軽減という点で意味のある変化です。

5. なぜ退行が起こるのか ─ 睡眠の「整理作業」が乗っ取られる

この病気の本質は、睡眠に依存した生理的な脳のはたらきが、持続的なてんかん性放電によって乗っ取られ、壊されてしまうことにあります。ご家族にとって大切なのは、「なぜ夜の脳波が昼間の発達に影響するのか」という素朴な疑問への答えが、まさにここにあるという点です。これは脳の一か所だけの問題ではなく、視床と大脳皮質をつなぐ広いネットワーク(視床皮質ネットワーク)全体の機能不全として理解されています。

正常なノンレム睡眠では、大脳皮質と視床が息を合わせて活動し、睡眠紡錘波という特徴的な波や徐波をつくります。DEE-SWASでは、興奮性のグルタミン酸を使う背側視床の神経細胞と、抑制性のGABAを使う視床網様核の神経細胞のあいだのバランスが崩れることが、SWASの根本的な発生メカニズムとして提唱されています[3]。ヒトの視床と皮質を同時に記録した研究では、睡眠中に活性化した皮質のてんかん性の棘波が視床に伝わり、視床での紡錘波の休止期を必要以上に引き延ばし、その結果として睡眠紡錘波の生成を強く抑えてしまうことが示されました[5]。睡眠紡錘波は記憶の固定に欠かせないため、この喪失が認知の障害に直接つながると考えられています。

💡 用語解説:シナプス恒常性仮説(SHY)

昼間の学習でつながりを強めた神経のつなぎ目(シナプス)は、睡眠中の徐波活動によって全体的に少しずつ弱められ、翌日の新しい学習のための余白がつくられます。これをシナプス恒常性仮説(SHY)と呼びます。ところがDEE-SWASでは、一晩じゅう続く棘徐波発射がこの「夜のリセット作業」を無効にしてしまいます。てんかんの焦点ではシナプスがリセットされず、過剰な興奮が保たれたままになるため、発達の大切な時期に異常なつながりが作られ、ことばや認知の深刻な退行に至ると考えられています。つまり退行は、脳が壊れていくのではなく、夜ごとの手入れができなくなっている状態として理解できます。

この「夜のリセットが無効になる」という見方は、ご家族にとって希望にもつながります。異常な放電を治療で抑えることができれば、本来の整理作業が戻り、失われた力の一部が回復する可能性があるからです。実際、睡眠中の徐波の変化を測る研究では、放電が治まると夜間の整理作業が戻り、それが認知の回復と結びつくことが示されています[2]。加えて、デフォルトモードネットワークと呼ばれる脳のネットワークの活動や結びつきの乱れも、DEE-SWASで見られる精神・行動面の症状に関わっていると指摘されています[2]

6. 原因と病態 ─ 構造・遺伝子・神経炎症の関与

DEE-SWAS/EE-SWASの原因はひとつではなく、脳の構造的な違いや遺伝子の変化が関与し、免疫・炎症の要素も病態形成に関わる可能性が示唆されています。ご家族にとって大切なのは、原因を突き止めることが単なる「病名探し」ではなく、原因に応じた治療(プレシジョン・メディシン)を選ぶための入り口になりつつある、という点です。

構造的な原因と「視床の大きさ」

生まれる前後の早い時期の脳の損傷や、脳のつくられ方の違い(形成異常)は、DEE-SWASの主要なリスク因子です。とくに新生児期や乳児期早期の視床の損傷(血流障害や出血による病変)は、のちのSWAS発症と強く関連します。周産期に視床損傷を受けた患者さんを追跡した研究では、多くがのちにESESスペクトラムの異常を発症したと報告されています[2]

近年のMRIを用いた画像解析では、目に見える病変がなくても、DEE-SWASの子どもでは視床の体積が対照群より小さいことが確認されています[6]。ある横断研究では、DEE-SWASの子どもの6割で、目視ではとらえきれない視床体積の低下が定量的に検出されました[6]。視床の大きさが神経発達の予後と関わる可能性が示されており、視床がこの病気の重要な舞台であることを裏づけています。その他の構造的な原因としては、両側のシルビウス裂周囲の多小脳回、限局性皮質異形成、水頭症、脳梗塞などが報告されています[2]。こうした構造的な原因が見つかることは、後で述べる外科的治療という選択肢につながる場合があります。

遺伝的な原因 ─ 最大3分の1で見つかる

大規模な研究により、DEE-SWASの患者さんの最大3分の1で単一遺伝子の変異や染色体異常が特定されることが分かってきました。遺伝的原因が見つかる割合は、発症前から発達の遅れがあるDEE-SWASのほうが、発達が正常だったEE-SWASよりも高い傾向があります[2]。SWASにはじめて特異的に結びつけられた遺伝子はGRIN2Aで、2013年に、てんかん失語スペクトラムの患者さんの約9%で見つかりました[2]。GRIN2Aは、学習や記憶にかかわるNMDA受容体の部品(GluN2Aサブユニット)の設計図です。次の表は、DEE-SWASに関連する主な遺伝子を整理したものです。

遺伝子 はたらき・経路 特徴・個別化医療の可能性
GRIN2A NMDA型グルタミン酸受容体(GluN2A) てんかん失語スペクトラムで最も多い単一遺伝子原因。ことばの障害が目立つ。機能喪失型にはL-セリン、機能獲得型にはメマンチンの適用が研究段階で検討されている
CNKSR2 シナプスの足場タンパク質 X連鎖性の知的障害やことばの退行を伴うEE-SWAS
SLC9A6 ナトリウム/水素交換輸送体 クリスチャンソン症候群の原因遺伝子。重い知的障害と発達性てんかん性脳症を伴う
SCN2ASCN8ASCN1A 電位依存性ナトリウムチャネル 早期発症のてんかん性脳症から移行することがある。薬の反応性は変異の性質(機能獲得/喪失)に左右される
KCNQ2KCNT1 電位依存性カリウムチャネル イオンチャネルの病気の一環としてSWASを示すことがある
TRPM3 一過性受容体電位チャネル 発達遅滞とてんかん。抗てんかん薬プリミドンによる標的治療の可能性が報告されている

ここで、遺伝の心配を抱えるご家族に向けて大切な点をお伝えします。DEE-SWASの原因となる遺伝子変異の多くは、両親のどちらからも受け継がれていない新生突然変異(de novo)です。つまり、多くの場合そのお子さん一代で新しく生じた変化です。ただし、CNKSR2やSLC9A6のようにX連鎖性で受け継がれるタイプもあり、その場合は母親が保因者である可能性や、きょうだい・次のお子さんへの再発リスクを個別に評価する必要があります。原因遺伝子が分かると、こうした家系のなかでのリスクの見通しを具体的に持てるようになります。なお、L-セリンやメマンチンといった遺伝子に応じた治療は、あくまで研究段階のものであり、確立した標準治療ではない点は誤解のないようにしてください。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「候補遺伝子」と「確立した原因」を分けて話す】

遺伝子の名前がひとつ見つかると、「これで原因がすべて分かった」と受け取られがちです。けれど実際の医学では、関連が疑われている段階と、複数の家系や機能実験で裏づけられた段階のあいだには、まだかなりの距離があるものが少なくありません。DEE-SWASに関わる遺伝子のなかにも、確立したものと、これから検証が進むものが混在しています。

この距離を曖昧にしたまま説明すると、ご家族は「原因が確定した」と受け取り、あとで「まだ研究段階だった」と知って二度つらい思いをされることがあります。だから私は、遺伝の相談の場では、どこまでが確かで、どこからが今後の課題なのかを、できるだけ正直にお伝えすることを大切にしています。今わかっていることの輪郭を正確にお渡しすることが、長い目で見ていちばん誠実だと考えているからです。

神経炎症の関与 ─ 病態形成への関与が示唆される

近年、DEE-SWASの病態形成に神経炎症が関わる可能性を示唆する報告が蓄積しています。SWASやESESの既往をもつ患者さんの脳脊髄液や血清では、インターロイキン(IL)-1β、IL-1α、IL-6、IL-8、TNF-αなどの炎症性サイトカインが対照群より高いことが報告されています[2]。とくにIL-6とIL-8はDEE-SWASの病勢と相関し、免疫を調整する治療で下がることも示されており、補助的なバイオマーカーになり得ると考えられています[2]。免疫の過剰なはたらきがシナプスの可塑性に悪影響を与え、てんかん性の活動を強めて認知を低下させる、という考え方は、次に述べる免疫調節療法の理論的な支えになっています。とくにFIRESのような炎症が強く関わるてんかん性脳症では、この視点が治療の手がかりになります。

7. 治療 ─ 発作を止めるだけでなく「脳波を鎮める」

DEE-SWASの治療の目的は、単に発作を抑えることにとどまりません。脳波上のSWASをしっかり抑え、発達の退行を食い止め、認知の回復を促すことが本当の目標です。ご家族にとって重要なのは、発作が減ったからといって安心せず、脳波と発達の両方を見て治療の効果を判断していく、という姿勢です。発作そのものは従来の抗てんかん薬で抑えられることがある一方、SWASとそれに伴う認知障害は治療に抵抗を示すことが多いのが実情です[7]

第一選択 ─ 副腎皮質ステロイドとベンゾジアゼピン

現在の国際的な合意では、高用量のベンゾジアゼピン(クロバザムなど)と副腎皮質ステロイドが、SWASの抑制と認知の改善に最も有力な選択肢とされています。なかでもステロイドは、認知の改善について現時点で最も支持される治療選択肢の一つで、第一選択として検討され、単独あるいは抗てんかん薬との併用で用いられます[2]。ただし、その確実性は「低〜中程度」と評価されており、万能の特効薬ではない点も同時に理解しておく必要があります[2]

📊 RESCUE ESES試験 ─ ステロイド vs クロバザムの直接比較

治療法を最適化するため、ヨーロッパの複数のてんかん専門施設で「RESCUE ESES」という多施設共同のランダム化比較試験が行われました。2〜12歳のEE-SWAS患者さんを対象に、副腎皮質ステロイド(メチルプレドニゾロンの静注パルス療法、またはプレドニゾロンの連日経口投与)とクロバザムの効果を、6か月後の認知機能で直接比べたものです[8]

結果として、6か月後にIQが11.25ポイント以上改善した子ども(IQレスポンダー)は、ステロイド群で20人中5人(25%)だったのに対し、クロバザム群では0人でした。ただし総合的な認知スコアでは両群に差は見られず、試験は目標人数に届かず早期に終了したため、結果は慎重に解釈する必要があります。それでも、この試験は早期のステロイド使用を支持する重要な根拠になっています[8]

さらに、この試験の条件に合わなかった患者さんを含む別の多施設の観察研究でも、ステロイドの優位性が実際の診療データとして裏づけられています。72人の子どもを対象にしたこの研究では、6か月後の日常機能の改善はステロイド群で84%、クロバザム群で51%であり、SWIの減少もステロイド群でより明確でした[2]。副作用については、体重増加をはじめとするステロイドの影響と、疲労や行動の変化といったクロバザムの影響がそれぞれあり、両者とも慎重な見守りが必要ですが、静注のパルス療法は連日の経口投与より忍容性が高い傾向が報告されています[2]。治療は効果と副作用のバランスを見ながら、お子さんごとに調整していくことになります。

免疫調節療法 ─ 難治例へのインターロイキン阻害

原因のはっきりしない難治性の症例で、病態に神経炎症が関わっていると考えられる場合には、サイトカインを標的にした免疫調節療法が注目されています。とくにIL-1受容体拮抗薬であるアナキンラの有効性が報告されています。ある症例報告では、非構造的でおそらく炎症性の原因をもつEE-SWASの子どもが、アナキンラで著しい認知の改善を示したとされています[7]。報告した研究者らは、非構造的で炎症が疑われる原因のEE-SWASに対して、アナキンラの試みが選択肢になり得ると述べています[7]。ただしこれは限られた症例に基づく報告であり、すべての患者さんに当てはまる確立した治療ではありません。あくまで、神経炎症の関与が示唆される一部の症例で治療の可能性が検討されている段階として理解してください。

ケトン食療法・抗てんかん薬・避けるべき薬

従来の抗てんかん薬(バルプロ酸、レベチラセタム、エトスクシミドなど)は発作の制御に一定の役割を果たします。難治例にはケトン食療法が試みられ、EEGの改善が約半数、発作が半分以上減る効果が4割程度で報告されています[2]。一方で、カルバマゼピンやオクスカルバゼピンなどのナトリウムチャネル阻害薬は、かえって棘徐波を悪化させ、経過のよいてんかんからDEE-SWASへの進行を誘発するおそれがあるため、注意すべき、あるいは避けるべき薬とされています[2]。すでに服用中の薬がある場合は、自己判断で中止せず、必ず主治医と相談してください。

外科的治療 ─ 病変がはっきりしている場合

脳MRIで、限局性皮質異形成などの構造的病変がSWASの焦点として特定された場合には、外科的な切除や離断術が選択肢になります。手術は、適切に選ばれた患者さんにおいてSWASの消失率が最も高い治療で、系統的レビューでは、大脳半球離断術で約80%、焦点切除術で約79%のSWAS消失率が報告されています[9]。ただし、これらの結果は慎重に選ばれた患者さんの手術例に基づくもので、内科的治療と単純に比べられるものではありません[9]。病変が明確な薬剤抵抗性のケースでは、早い段階で外科的評価を検討する価値がある、という点がご家族にとっての要点です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「時間」がいちばんの治療薬になる病気】

この病気の治療を考えるとき、私が最も重く受け止めているのは「時間」という要素です。脳波の異常そのものは思春期までに自然に治まることが多い病気です。けれど、異常な状態にさらされた期間の長さが、そのまま長期的な知能やことばの予後を左右します。つまり、放っておいても脳波はいつか治まるからと様子を見てしまうと、その間に取り返しのつかない退行が進んでしまうことがあるのです。

だからこそ、退行に気づいたら早めに睡眠脳波を評価し、必要なら積極的に治療を始めることが大切だと考えています。私は成人を診る臨床遺伝専門医ですが、原因遺伝子の評価や家系のリスクの整理という点で、小児科の主治医と役割を分け合いながらご家族を支えることができます。焦らせるためではなく、「動ける時期を逃さないため」に、この病気の時間の性質をお伝えしています。

8. 予後 ─ 脳波は治まる。でも「時間」が勝負を分ける

DEE-SWAS/EE-SWASは年齢に強く依存する症候群で、睡眠中の脳波異常(SWAS)や臨床的な発作の多くは、思春期(おおむね10代半ばから後半)までに自然に治まり、寛解に向かいます[1]。この点はご家族にとって大きな希望です。ただし、脳波上の「てんかん性の活動が治る」ことと、「認知機能が完全に元通りになる」ことは同じではありません。ここを取り違えないことが、この病気と向き合ううえでとても大切です。

治療が遅れて長期間SWASが続いた場合、完全な認知の回復が得られる患者さんは一部にとどまり、最大で半数の患者さんに、自立した生活を制限しうる残存障害が残ると報告されています[2]。そして、複数の研究で一致して指摘されている最も重要な予後不良因子が、ESESが続いた期間の長さと、発症年齢の若さです[2]。つまり、異常なネットワークにさらされた時間が長いほど、後遺症が残りやすくなります。だからこそ、脳波上のSWASをできるだけ速やかに評価し、適切に治療することが、認知機能への影響を少なくするうえで重要になります。退行や経過の変化に気づいたら、早めに睡眠脳波を含む評価につなげることが大切です。

9. 検査と遺伝カウンセリングの実際

DEE-SWASが疑われるときの検査は、大きく3つの柱で進みます。それぞれ、調べるものも結果の意味も異なります。ご家族が「なぜこんなにいろいろな検査をするのか」を理解しておくと、検査への不安が少し軽くなります。

検査の柱 調べるもの 分かること・要点
睡眠脳波(長時間EEG) 睡眠中の脳波(SWI) 診断の決め手。日中の短時間脳波では見逃されることがあり、睡眠をとらえた記録が必要。治療効果の判定にも繰り返し使う
脳MRI 脳の構造(視床・皮質など) 視床の損傷や皮質形成異常などの構造的原因を探す。病変が見つかれば外科的治療の検討につながることがある
遺伝学的検査 血液(生殖細胞系列のDNA) MRIで原因がはっきりしないときの次の一手。GRIN2Aなどが見つかれば原因に応じた治療や再発リスク評価の手がかりになる

当院では、こうした検査の前後で臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行います。話し合う内容は、検査で何が分かり何が分からないのか、結果がお子さんやご家族にとってどのような意味を持つのか、そして結果を受けてどのような選択肢があるのか、といった点です。とくにDEE-SWASのように神経発達障害と知的障害が関わる病気では、遺伝形式(多くは新生突然変異、一部はX連鎖性)によって、次のお子さんやきょうだいへの影響の考え方が変わります。検査を受けるかどうかを含め、決めるのはご家族であり、私たちは中立の立場で判断材料を整理する役割を担います。

当院は成人を診療する臨床遺伝専門医のクリニックです。お子さんのてんかんそのものの治療は小児神経の主治医が担いますが、原因遺伝子が見つかったあとの家系内のリスクの整理や、ご両親・ごきょうだいの見通しについては、遺伝の専門的な観点からご相談に応じることができます。小児科と役割を分け合いながら、ご家族全体を支える形を大切にしています。

10. よくある誤解

この病気は情報が少なく、誤解も生まれやすいものです。ご家族が不安を一つでも減らせるよう、よくある思い込みを整理します。

誤解①「発作がなければ心配ない」

この病気の本質は発作ではなく、睡眠中の脳波異常による発達の退行です。実際、はっきりした発作を伴わずに退行だけが進むタイプもあります。「発作が目立たないから大丈夫」とは言えず、ことばや行動の後戻りに気づいたら睡眠脳波の評価が大切です。

誤解②「脳波が治れば元通りになる」

脳波の異常は思春期までに治まることが多いのですが、それは認知の完全回復を意味しません。異常な状態が続いた期間が長いほど後遺症が残りやすいため、「いつか治まるから待つ」のではなく、早く抑えることが予後を左右します。

誤解③「必ず親から遺伝する病気だ」

原因となる遺伝子変異の多くは、両親から受け継いだものではなく、そのお子さん一代で新しく生じた新生突然変異です。ただしX連鎖性のタイプもあるため、再発リスクは原因遺伝子によって異なります。一律に「遺伝する/しない」と決めつけず、個別の評価が必要です。

誤解④「遺伝子に応じた特効薬がもうある」

GRIN2Aに対するL-セリンやメマンチンなど、原因遺伝子に応じた治療は期待されていますが、いずれも研究段階で、確立した標準治療ではありません。現在の中心は、ステロイドをはじめとする治療でSWASを抑えることです。過度な期待も、あきらめも、どちらも正確ではありません。

📌 このページを読んだあなたへ

この記事にたどり着いた方は、たとえば「お子さんが急にことばを失い、睡眠脳波でSWAS/ESESと言われた」「良性のてんかんと聞いていたのに経過が変わってきた」「原因遺伝子が見つかり、次の子への影響を知りたい」といった状況にいらっしゃるかもしれません。次に確認しておくとよい観点を整理します。

遺伝形式と再発リスク … 多くは新生突然変異ですが、X連鎖性のタイプもあります。X連鎖遺伝のしくみを知っておくと、家系のリスクを整理しやすくなります。
原因遺伝子ごとの意味GRIN2Aなど、見つかった遺伝子によって今後の見通しや研究段階の治療の可能性が変わります。
スペクトラム全体の理解発達性てんかん性脳症という大きな枠のなかで、この病気がどこに位置づくかを知ると全体像がつかめます。
相談の入り口 … 検査を受けるかどうかを含め、遺伝カウンセリングで判断材料を整理できます。

よくある質問(FAQ)

Q1. DEE-SWASとEE-SWASは何が違うのですか?

違いは「発症する前の発達がどうだったか」にあります。発症前の発達がおおむね正常だった子どもが、睡眠時の棘徐波活性化(SWAS)とともにことばや認知の力を失っていく場合をEE-SWASと呼びます。一方、発症前からすでに発達の遅れがあり、SWASによってさらに悪化・退行する場合をDEE-SWASと呼びます。脳波の所見や治療の考え方に大きな違いはなく、まとめてD/EE-SWASと総称されます。以前はESES・CSWSと呼ばれていた病態を、2022年にILAEが整理し直した呼び名です。

Q2. この病気は治りますか?予後はどうですか?

睡眠中の脳波異常や発作の多くは、思春期までに自然に治まることが多い病気です。ただし、脳波が治まることと認知が完全に元通りになることは同じではありません。治療が遅れて異常な脳波が長く続くと、最大で半数の患者さんにことばや注意、行動などの残存障害が残ると報告されています。異常な状態が続いた期間の長さは、重要な予後因子の一つです。だからこそ、退行に気づいたら早めに睡眠脳波を評価し、必要なら積極的に治療を始めることが大切です。

Q3. 子どもに遺伝しますか?次の子も同じ病気になりますか?

原因となる遺伝子変異の多くは、両親から受け継いだものではなく、そのお子さん一代で新しく生じた新生突然変異です。この場合、次のお子さんに同じことが起こる確率は一般に高くありません。ただし、CNKSR2やSLC9A6のようにX連鎖性で受け継がれるタイプもあり、その場合は母親が保因者である可能性やきょうだいへの再発リスクを個別に評価する必要があります。再発リスクは原因遺伝子によって大きく異なりますので、遺伝カウンセリングで家系歴を含めて整理することをおすすめします。

Q4. どんな検査で診断するのですか?普通の脳波では分かりませんか?

診断の決め手は、睡眠をとらえた脳波です。この病気の異常放電は眠っている間に著しく活性化するため、日中の短時間の脳波では見逃されることがあります。ノンレム睡眠中に1.5〜2Hzの棘徐波が著しく活性化し、その所見が退行の経過と時間的に一致していることが診断の必須条件です。近年は、最初の睡眠紡錘波を確認した後のNREM睡眠「最初の100秒」のSWIを測る効率的な方法も報告されています。あわせて脳MRIで構造的な原因を探し、原因がはっきりしないときは遺伝学的検査を検討します。

Q5. どんな治療が行われますか?発作を止めるだけでよいのですか?

この病気の治療目標は、発作を止めるだけでなく、睡眠中の脳波異常(SWAS)を抑えて発達の退行を食い止めることです。現在最も有力とされるのは副腎皮質ステロイドで、高用量のベンゾジアゼピン(クロバザムなど)も用いられます。ヨーロッパのRESCUE ESES試験では、IQ改善についてステロイド群がクロバザム群を上回りましたが、試験は予定症例数に達する前に終了し、認知指標によって結果も異なるため慎重な解釈が必要です。難治例には免疫調節療法やケトン食療法、構造的病変がある場合は外科的治療も選択肢になります。カルバマゼピンなど一部の薬は悪化を招くことがあるため注意が必要です。

Q6. ランドウ・クレフナー症候群とはどう違うのですか?

ランドウ・クレフナー症候群(LKS)は、DEE-SWAS/EE-SWASのなかの特定のサブタイプです。とくに、耳の聞こえは正常なのにことばの意味が分からなくなる「聴覚失認」を伴うことばの退行が中心となるタイプを指します。それまで話せていたことばが急性〜亜急性に失われるのが特徴で、通常3〜8歳ごろに発症します。睡眠時の脳波異常という共通の基盤の上で、症状の中心がことばに強く出るものがLKSと理解するとよいでしょう。

Q7. GRIN2Aが見つかると、特別な治療が受けられますか?

GRIN2Aはこの病態で最も多い単一遺伝子の原因で、NMDA受容体の部品の設計図です。GRIN関連神経発達症を対象とした研究では、変異が受容体の働きを弱めるタイプ(機能喪失型)にL-セリンの補充、逆に働きを強めるタイプ(機能獲得型)にメマンチンといった、変異の性質に応じた治療が研究されています。ただし、これらはいずれも研究段階のものであり、確立した標準治療ではありません。原因遺伝子が分かることは、こうした将来の可能性を検討する入り口や、家系の再発リスクを整理する手がかりになります。

Q8. 良性のてんかんと言われていたのに、この病気に進むことはありますか?

あります。中心側頭部に棘波をもつ自己限定性てんかん(かつてのローランドてんかん)など、本来は経過のよい焦点てんかんから、一部がDEE-SWASへ移行することが知られています。良性と考えられていたてんかんでも、途中でことばや行動の後戻り、睡眠中の脳波の悪化が見られたら、DEE-SWASへの移行を疑って睡眠脳波を再評価することが大切です。「一度良性と言われたから安心」ではなく、経過を見守る視点が見逃しを防ぎます。

🏥 てんかん・発達退行の遺伝子診断のご相談

DEE-SWAS/EE-SWASなど、発達の退行を伴うてんかんに関する
遺伝子検査と遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにご相談ください。

参考文献

  • [1] International League Against Epilepsy classification and definition of epilepsy syndromes with onset in childhood: Position paper by the ILAE Task Force on Nosology and Definitions. Epilepsia. 2022. [PubMed 35503717]
  • [2] Developmental and/or Epileptic Encephalopathy with Spike-Wave Activation in Sleep: From Thalamocortical Mechanisms to Precision Therapy. Children (Basel). 2026. [doi:10.3390/children13080993]
  • [3] Rebuilding the Tower of Babel: The Current Landscape and Emerging Opportunities in DEE-SWAS. Epilepsy Curr. 2025. [PMC12149166]
  • [4] The Spike-Wave Index of the First 100 Seconds of Sleep Can Be a Reliable Scoring Method for Electrographic Status Epilepticus in Sleep. J Clin Neurophysiol. 2023. [PubMed 35025840]
  • [5] Thalamic epileptic spikes disrupt sleep spindles in patients with epileptic encephalopathy. Brain. 2024. [PubMed 38650060]
  • [6] Thalamic volumetric analysis in Developmental and/or Epileptic Encephalopathy with Spike Wave Activation in Sleep (D/EE-SWAS): A cross-sectional study. Seizure. 2025. [PubMed 40120364]
  • [7] Successful treatment of epileptic encephalopathy with spike wave activation in sleep with anakinra. Epilepsy Behav Rep. 2024. [PMC11177074]
  • [8] Corticosteroids versus clobazam for treatment of children with epileptic encephalopathy with spike-wave activation in sleep (RESCUE ESES): a multicentre randomised controlled trial. Lancet Neurol. 2024. [PubMed 38081201]
  • [9] Surgical treatment of epileptic encephalopathy with spike-and-wave activation in sleep: a systematic review and meta-analysis. Seizure. 2024. [doi:10.1016/j.seizure.2024.05.008]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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