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RGG/RGモチーフとは?RNA結合タンパク質の「相分離」と神経・がん疾患をつなぐ鍵を遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

細胞の中には、RNAとやりとりをするたくさんのタンパク質があります。その多くが、はっきりした立体構造を持たない「やわらかいひも」のような部分を使ってRNAをつかまえています。そのひもの代表格が、アルギニンとグリシンという2種類のアミノ酸をたくさん含む「RGG/RGモチーフ」です。RGG/RGモチーフは、RNAをつかむだけでなく、細胞の中に「膜のない小部屋」をつくる相分離という現象の主役でもあります。そしてこの小さな配列のバランスがくずれると、ALS(筋萎縮性側索硬化症)や脆弱X症候群、脊髄性筋萎縮症といった重い病気、さらには一部のがんにもつながることが分かってきました。この記事では、RGG/RGモチーフの基本から病気とのつながりまでを、遺伝専門医の視点でやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約18分
🧬 RNA結合・相分離・神経変性疾患・がん
臨床遺伝専門医監修

Q. RGG/RGモチーフとは何ですか?まず結論だけ知りたいです

A. RGG/RGモチーフは、アルギニン(R)とグリシン(G)がくり返し並んだ、決まった立体構造を持たないタンパク質の部分(配列)です。多くのRNA結合タンパク質に見られ、RNAをやわらかくつかまえたり、細胞の中に膜のない小部屋(生体分子凝縮体)をつくったりする働きの中心を担います。ヒトでは1,000種類を超えるタンパク質がこの配列を持ち[1]、その働きのバランスがくずれると神経変性疾患やがんにつながることがあります。

  • 正体 → アルギニン(R)とグリシン(G)に富む、決まった形を持たない配列。ヒトの1,000種類超のタンパク質が持つ[1]
  • RNAをつかむ → RNAの特殊な立体構造(Gカルテット)などを、やわらかく多点で認識する[2][3]
  • 小部屋をつくる → 弱い結合をたくさん結ぶ「相分離」で、膜のない小部屋(凝縮体)を形成する[2]
  • スイッチ → アルギニンのメチル化やシトルリン化という化学修飾で、働きが細かく切り替わる[2][6]
  • 病気とのつながり → ALS・脆弱X症候群・脊髄性筋萎縮症・がんの分子基盤にかかわる[4][7]

🧬 RGG/RGモチーフの基本情報

項目 内容
名前の意味 アルギニン(R)とグリシン(G)のくり返しから命名。かつては「GARドメイン」「RGGボックス」とも呼ばれた[1]
構造の特徴 決まった立体構造を持たない天然変性領域(IDR)。水の中でゆらゆらと動く
おもな働き RNA・DNAへの結合相分離による膜のない小部屋づくり、タンパク質どうしの結合の足場
持っているタンパク質 FUS、EWS、TAF15、hnRNPA1、FMRP、ヌクレオリン、SMNなど多数。RNA結合タンパク質に特に多い[1]
関連する病気 ALS/前頭側頭型認知症、脆弱X症候群、脊髄性筋萎縮症、各種のがん[4]
分類の目安 くり返しの数と間隔で、Tri-RGG/Di-RGG/Tri-RG/Di-RG などに分けられる[1]

1. RGG/RGモチーフとは ─ RNAをつかむ「やわらかいひも」

タンパク質と聞くと、多くの人は決まった立体構造にきちんと折りたたまれた分子を思い浮かべます。ところが実際のタンパク質のなかには、はっきりした形をとらず、水の中でゆらゆらと動きつづける部分を持つものがたくさんあります。こうした部分を天然変性領域(IDR)といいます。RGG/RGモチーフは、その代表的な例のひとつです。

RGG/RGモチーフは、アルギニン(略号R)とグリシン(略号G)という2種類のアミノ酸が「RGG・RGG…」「RG・RG…」のようにくり返し並んだ配列です。数十年前から、アルギニンとグリシンに富む部分がタンパク質の働きに関わることは知られており、当時は「GAR(グリシン・アルギニン・リッチ)ドメイン」や「RGGボックス」と呼ばれていました[1]。その後、くり返しの数や間のアミノ酸の数によって、Tri-RGGやDi-RGG、Tri-RG、Di-RGといったバリエーションがあることが整理され、これらをまとめてRGG/RGモチーフと呼ぶようになりました[1]

このモチーフを持つタンパク質は、ヒトゲノムでは1,000種類を超えると報告されています[1]。しかも、これらのタンパク質はスプライシング(RNAの編集)、核と細胞質のあいだの物質の出し入れ、必要な場所での翻訳(タンパク質合成)、DNAの傷の修復など、細胞の根幹に関わる働きに幅広く関わっています[1]RNA結合タンパク質の世界では、RNAをつかむための領域として、RRMという別のタイプに次いで2番目によく見られるのがこのRGG/RGモチーフです[2]

💡 用語解説:モチーフとドメイン

タンパク質の話に出てくる「モチーフ」とは、共通した働きや特徴を持つ、比較的短いアミノ酸の並びのことです。決まった立体構造にきっちり折りたたまれた「ドメイン」とは違い、RGG/RGモチーフのように形が決まっていないモチーフもあります。音楽で同じフレーズがくり返し出てくるのを「モチーフ」と呼ぶのに似て、タンパク質の中でくり返し現れる特徴的な並び、とイメージすると分かりやすいです。

2. なぜアルギニンとグリシンなのか

RGG/RGモチーフの性質は、アルギニンとグリシンという2つのアミノ酸の組み合わせから生まれます。この2つには、それぞれはっきりした役割があります。

まずアルギニンは、側鎖(アミノ酸から突き出た部分)に「グアニジニウム基」というプラスの電気を帯びた部分を持っています[2]。このプラスの電気があるおかげで、マイナスの電気を帯びたRNAやDNAに引きよせられます。さらにアルギニンは、平らな形をした芳香環(チロシンやフェニルアラニンなどが持つ環状の構造)とのあいだで、カチオン-π相互作用と呼ばれる特別なくっつき方をします[2]。プラスの電気と、環の上に広がる電子の雲とが引き合う結合で、これが相分離を支える重要な力になります。

一方のグリシンは、側鎖が水素原子だけという、いちばん小さくてシンプルなアミノ酸です[2]。じゃまになる出っぱりがないため、タンパク質の背骨(主鎖)を非常にやわらかくします。このやわらかさのおかげで、となりのアルギニンは自由に向きを変え、相手のRNAやタンパク質の複雑な形にぴったり合わせて結合できます[2]

RGG/RGモチーフには、二次構造(αヘリックスやβシートといった、きちんとした折りたたみ)をつくるのに必要な、かさばった疎水性アミノ酸がほとんど含まれていません。そのため、単独では決まった形をとらず、水の中で動的にゆらいでいます[2]。この「形を持たない」という性質こそが、さまざまな相手に柔軟に合わせられる強みの源になっています。グリシンがもたらす柔軟性と、アルギニンがもたらす強い結合力。この組み合わせが、RGG/RGモチーフの働きの土台です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「形がない」ことが強みになる】

私たちはつい、きちんとした形に折りたたまれたタンパク質こそ「ちゃんと働くもの」だと考えがちです。けれども生命は、あえて形を決めないことで柔軟さを手に入れる、という戦略も使っています。RGG/RGモチーフはその好例で、決まった形を持たないからこそ、相手に応じて姿を変え、いろいろな分子とつきあえます。

遺伝医療の現場では、こうした「やわらかい領域」に生じた変化が、思いがけず重い病気につながる場面に出会います。かっちりした部品だけでなく、ゆらぎのある部分にも大切な意味がある。分子の世界の奥深さを感じるところです。

3. RNAへの結合 ─ Gカルテットを読み取る

RGG/RGモチーフはふだんは形を持ちませんが、特別な相手と結合するときには、その場で決まった形をとることがあります。「結合しながら折りたたまれる」というこの現象の、もっとも劇的な例が、脆弱X症候群に関わるFMRPというタンパク質のRGGボックスと、グアニン四重鎖(Gカルテット)を持つRNAとの結合です[3]

Gカルテットとは、グアニン(G)という塩基が4つ集まって板のような構造をつくり、それが積み重なってできるRNAやDNAの特殊な立体構造です。X線を使った結晶構造の解析によって、FMRPのRGGペプチドが、カリウムイオンで安定化されたGカルテットと二本鎖RNAとの「接合部」に、原子のレベルでぴったり結合するしくみが明らかになりました[3]。単独では形の定まらないRGGペプチドが、RNAに結合するときには「I型βターン」という特定の折れ曲がりをつくり、Gカルテットの構造を安定化させることが示されています[3]

この発見が教えてくれるのは、RGGモチーフによるRNAの認識が、ただ電気的にべたっとくっつくだけの雑な結合ではない、ということです。RNAの二本鎖と四重鎖がつくる幾何学的な接合部を、形の相補性(かたちのぴったり感)によって精密に読み取っているのです[3]。決まった形を持たない配列が、相手の形に合わせて自分を仕立てあげる。これがRGG/RGモチーフの巧みさです。

4. 相分離(LLPS)── 細胞の中の「膜のない小部屋」

RGG/RGモチーフを持つタンパク質の、もっとも目立った性質のひとつが、細胞の中で液–液相分離(LLPS)を起こすことです[2]。相分離とは、水と油が分かれるように、細胞の中でタンパク質やRNAが集まって濃い「液滴」をつくる現象のことです。こうしてできる液滴は、まわりを膜で囲まれていないのに、あたかも小部屋のようにふるまいます。これを「膜のない小部屋(生体分子凝縮体)」と呼びます。核小体やストレス顆粒、P-bodyなどがその例です[2]

💡 用語解説:膜のない小部屋(生体分子凝縮体)

細胞の中には、核やミトコンドリアのように膜で仕切られた部屋があります。ところが最近になって、膜がないのに中身が濃く集まった「小部屋」がたくさんあることが分かってきました。これが生体分子凝縮体です。必要なときにさっとでき、役目が終わればすっと散る。この身軽さで、細胞は反応の場をすばやくつくり分けています。

相分離は、高分子物理学の「ステッカーとスペーサー」というモデルで説明されます[2]。RGGモチーフのアルギニンや、近くにあるチロシン・フェニルアラニンといった芳香環は、互いにくっつき合う「ステッカー(のり)」として働きます。一方、グリシンは出っぱりがなく背骨をやわらかくするので、のりとのりの間をつなぐ「スペーサー(すき間)」として働き、液滴の流動性を調節します[2]。弱い結合をたくさん、くっついたり離れたりくり返すことで、全体としてはやわらかい液体のような状態が保たれます。

ステッカーアルギニン・チロシン(芳香環)が互いに結合
スペーサーグリシンが背骨をやわらかくし流動性を調節
液滴(凝縮体)膜のない小部屋ができる

ALSの原因タンパク質のひとつであるFUSは、この相分離のよく研究されたモデルです。FUSの液滴は、ふだんはやわらかい液体としてふるまいますが、長いあいだストレスにさらされたり、病気を起こす遺伝子変異があったりすると、内部で異常なβシート構造の橋かけが進み、やわらかい液体から硬い固体(アミロイド様の線維)へと不可逆的に変化してしまいます。これを「液体から固体への相転移」と呼びます[4]。試験管の中でFUSの液滴を「熟成」させる実験では、時間とともに液滴が固まっていくこと、そしてこの変化が患者由来の変異によって加速されることが示されました[4]。この「液体から固体へ」の変化が、神経が壊れていく病気の入り口になると考えられています。

5. 翻訳後修飾 ─ 働きを切り替える化学スイッチ

RGG/RGモチーフのアルギニンは、さまざまな翻訳後修飾(タンパク質がつくられたあとに加わる化学的な変化)の標的になります。修飾によってアルギニンの電気や水になじみやすさ、出っぱり具合が変わり、相分離の起こりやすさが細かく調節されます[2]。ここでは代表的な2つの修飾を紹介します。

アルギニンのメチル化 ─ 相分離のブレーキ

アルギニンに「メチル基」という小さな部品を付ける反応を、アルギニンメチル化といいます。この反応を担うのが、PRMT(タンパク質アルギニンメチル基転移酵素)というグループの酵素です。とくにPRMT1は、RGG/RGモチーフ(GARモチーフ)を好んでメチル化する主要な酵素として知られています。

メチル化はアルギニン全体のプラスの電気を変えませんが、メチル基が入ることで水になじみにくくなり、水素結合をつくる力が減り、立体的なじゃまも生まれます[2]。その結果、アルギニンと芳香環のあいだのカチオン-π相互作用が弱まります。相分離の観点では、この修飾は液滴のできやすさを下げ、細胞質での異常な集まり(凝集)を抑える「分子ブレーキ」として働くと考えられています。実際、FUSではアルギニンメチル化が失われると相分離が促進され、ストレス顆粒に取り込まれやすくなることが示されています[5]

シトルリン化 ─ プラスの電気を消す

もうひとつの重要な修飾が「シトルリン化」です。これはPAD4という酵素が、アルギニンのプラスの電気を帯びた部分を化学的に変えて、シトルリンという別のアミノ酸に変換する反応です。この変換によって、アルギニンが持っていたプラスの電気が完全に失われます。プロテオミクス(タンパク質の網羅的解析)では、PAD4が変化させるタンパク質の約2割がRG/RGGモチーフを持つことが報告されています[6]

興味深いのは、このシトルリン化が、PRMTによるメチル化と競い合うように働く点です。FUS・EWS・TAF15といったFETタンパク質やhnRNPA1のRGGモチーフがシトルリン化されると、異常なタンパク質の集まり(凝集)が強く抑えられることが示されており、細胞を毒性から守る役割を担うと考えられています[6]。同じアルギニンをめぐって、メチル化とシトルリン化という2つの修飾がせめぎ合い、相分離の起こりやすさや凝集のしやすさを微調整しているのです。

6. シャペロンと核への輸送 ─ Transportin-1の二つの顔

RGG/RGモチーフは、タンパク質を核の中へ運ぶしくみとも深く関わっています。その主役が、Transportin-1(TNPO1、Karyopherin-β2とも呼ばれます)という「核内移行受容体」です。TNPO1はふだん、FUSやhnRNPA1などのタンパク質が持つ「核へ入るための目印(PY-NLS)」を認識して、細胞質から核の中へ運びます[5]

近年になって、TNPO1には運び屋という役割だけでなく、細胞質で強力に働く「分子シャペロン」および「脱凝集酵素」としての顔があることが分かり、大きな注目を集めました[7]。細胞質で異常な相分離やアミロイド様の線維化を起こしたFUSやhnRNPA1に対して、TNPO1は目印やRGGモチーフに多点で結合し、凝集体を安定化させているタンパク質どうしの結びつきを物理的に断ち切ります。その結果、いったんは元に戻らないように見えたかたまりが、すみやかにばらけて溶けていくのです[7]。TNPO1を細胞にたくさん供給すると、細胞質にたまった異常なタンパク質のかたまりが溶け、神経細胞を守れる可能性があることから、治療への応用も検討されています[7]

RGGモチーフとNLSを持つタンパク質が、可溶性モノマーから液滴、固体線維へと相転移し、TNPO1が線維を解きほぐして可溶化する流れを示す模式図

この図は、RGGモチーフと核内移行シグナル(NLS)を持つRNA結合タンパク質が、可溶性のモノマーから液滴を形成し、さらに条件によっては固体状の線維へ移行する流れと、それに対するTNPO1の働きをまとめたものです。TNPO1はNLSだけでなくRGG領域を含む複数の部位に結合することで、異常な分子間相互作用を競合的にほどき、線維化したタンパク質を再び可溶化する方向へ導きます[7]。つまりTNPO1は、核への「運び屋」であると同時に、病的な相転移を抑える品質管理因子としても働きます。

ここで、前の章で紹介したアルギニンメチル化とのつながりが効いてきます。標的タンパク質のRGGモチーフのメチル化が少ない状態ほど、TNPO1との結びつきが強くなり、効果的なシャペロンとしての働きが発揮されると報告されています[5]。修飾のバランスが、輸送やシャペロンの働きまで左右しているのです。

7. 病気とのつながり ─ 神経変性疾患

RGG/RGモチーフを中心とした相互作用や修飾のバランスがくずれると、深刻な神経変性疾患につながります。ここでは代表的な3つを見ていきます。

ALS・前頭側頭型認知症(FTD)

ALS(筋萎縮性側索硬化症)や前頭側頭型認知症(FTD)では、FUSやhnRNPA1などのRNA結合タンパク質が異常なかたまり(封入体)をつくることがあり、ALS/FTD全体ではTDP-43の凝集も重要な病理学的特徴として知られています[4]。ふだんストレスに応じてできるストレス顆粒はやわらかく元に戻せますが、長いストレスや遺伝子変異があると、液滴の内部で異常な橋かけが進み、元に戻らない「アミロイド様の固体」へと変わってしまいます[4]

とくにFUSでは、核へ入る目印(PY-NLS)に生じる変異が、重く若くして発症するタイプのALSを引き起こすことが知られています[7]。こうした変異があるとTNPO1との結びつきが弱まり、FUSが核に入れずに細胞質に異常にたまってしまいます。変異したFUSがつくったかたまりには、TNPO1の脱凝集の働きも十分にはおよばず、細胞への毒性が進んでいくと考えられています[7]。この流れを逆転させようと、モデル生物でTNPO1をたくさん供給してFUSのかたまりを溶かす、という治療的なアプローチが研究されています[7]

正常なFUSやわらかい液滴(可逆)
変異・長いストレスβシートの橋かけが進む
固い線維元に戻らない凝集・毒性

💡 用語解説:ミスセンス変異

ミスセンス変異とは、遺伝子のたった1文字の変化によって、タンパク質をつくるときのアミノ酸が別のものに置きかわってしまう変化です。1か所の置きかわりでも、それが大切な場所であれば、タンパク質の性質が大きく変わり、病気につながることがあります。RGG/RGモチーフや、その近くの目印に生じるミスセンス変異は、この記事で紹介する複数の病気に関わっています。

脆弱X症候群(FXS)

脆弱X症候群は、FMR1遺伝子の働きが失われることで起こる、遺伝性の知的障害としてはもっとも多いもので、自閉スペクトラム症の主要な単一遺伝子原因のひとつでもあります。正常な神経細胞では、FMRPというタンパク質がRGGモチーフを使って標的となるmRNAのGカルテットに結合し、リボソームによる翻訳をおさえることで、シナプス(神経のつなぎ目)でのタンパク質合成のバランスを保っています[3]

脆弱X症候群の詳しい原因や検査については、脆弱X症候群の解説ページや、FMR1遺伝子のページもあわせてご覧いただけます。FMRPのRGGモチーフとGカルテットの結合は、この病気を分子のレベルで理解するうえでの土台になっています。

脊髄性筋萎縮症(SMA)

脊髄性筋萎縮症(SMA)は、SMNタンパク質の不足や機能異常によって起こる病気です。SMNは、自身の「チュードルドメイン」という部分を使って、メチル化されたRGGモチーフを持つタンパク質を認識・結合し、核の中でのRNAスプライシング装置(snRNP)の組み立てを助けます。研究では、SMA患者で見つかるSMNのTUDORドメインの変異が、FMRPファミリーなどのパートナーとの結合を失わせ、SMNが本来つくる液滴(相分離)の性質も損なうことが示されています[8]。RGGモチーフとそれを読み取る側の、両方のバランスが大切だということが分かります。

SMNタンパク質そのものをつくる遺伝子については、SMN1遺伝子のページで詳しく解説しています。

8. がんと治療薬 ─ PRMTを標的にする

RGG/RGモチーフとの関わりは、神経の病気だけにとどまりません。RGGモチーフをメチル化する酵素であるPRMT、とくにPRMT1やPRMT5の働きすぎや調節の異常が、乳がん・肺がん・大腸がん・膵臓がんや、さまざまな血液のがんで広く報告されており、患者さんの予後とも関連することが指摘されています。PRMTが働きすぎると、転写因子やスプライシング因子、DNA修復タンパク質の上のRGGモチーフが過剰にメチル化され、がん細胞の増殖などを後押しすると考えられています。

この関係に注目して、PRMT5やPRMT1の働きをおさえる低分子化合物の開発が進められています。たとえばPRMT5をおさえるGSK3326595という薬は、進行した固形がんや非ホジキンリンパ腫を対象とした第I相臨床試験(METEOR-1試験)で、安全性と初期の有効性が検討されました[9]。まだ研究段階の取り組みですが、RGGモチーフの修飾を担う酵素を標的にするという発想は、次世代のがん治療の一つの方向性として関心を集めています。

💡 これは「研究段階」の話です

ここで紹介したPRMT阻害剤は、臨床試験の段階にある研究上の治療薬です。特定の薬が効くと確立したわけでも、日常の診療で標準的に使われているわけでもありません。「RGGモチーフを標的にすればがんが治る」という段階には至っておらず、あくまで有望な研究の方向性のひとつとして受け止める必要があります。

9. 遺伝診療の視点から ─ 用語と臨床のつながり

RGG/RGモチーフは、一見すると基礎研究の専門用語ですが、遺伝診療の現場とも確かにつながっています。遺伝子検査やエクソーム検査で見つかった変異が、どんな意味を持つのかを考えるとき、その変異がタンパク質のどの部分にあるのかがヒントになります。RGG/RGモチーフやその近くの目印に生じた変化は、これまで見てきたように、脆弱X症候群・SMA・家族性ALSといった病気の分子基盤に直結することがあります。

たとえば、FMR1遺伝子では、脆弱X症候群の大部分はCGGリピートの異常伸長とそれに伴う遺伝子サイレンシングによって起こりますが、FMRPのRGGモチーフを含むRNA結合領域の機能異常も、FMRPのRNA認識や翻訳調節に影響しうることが知られています。SMNではTUDORドメインの病的変異がSMAに関わります。こうした背景を理解しておくと、検査結果の「意味づけ」がしやすくなります。当院では、こうした検査の前後で臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、検査で何が分かり何が分からないのか、結果がご本人やご家族にどのような意味を持つのか、どんな選択肢があるのかを、中立の立場で一緒に整理します。決めるのはご本人であり、私たちはその判断材料を整える役割です。

神経や筋肉に関わる遺伝性の病気が気になる方は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の遺伝子検査FMR1リピート伸長検査(脆弱X症候群)脊髄性筋萎縮症(SMA)の遺伝子検査などについても、あわせてご相談いただけます。

10. よくある誤解

誤解①「形のないタンパク質は役に立たない」

RGG/RGモチーフは決まった形を持ちませんが、形がないからこそ相手に合わせて自在に結合できます。RNAをつかむ、膜のない小部屋をつくる、タンパク質どうしをつなぐなど、細胞の根幹に関わる大切な働きを担っています。

誤解②「RGGモチーフはただRNAにくっつくだけ」

RGGモチーフによるRNAの認識は、電気的にべたっとくっつくだけの雑な結合ではありません。RNAの立体構造にぴったり合わせて、形の相補性で精密に読み取っていることが、構造解析から分かっています。

誤解③「相分離=病気の原因」

相分離そのものは、細胞が正常に働くために必要なしくみです。問題になるのは、やわらかい液体が硬い固体へ不可逆的に変わるとき。相分離自体が悪いのではなく、そのバランスがくずれることが病気につながります。

誤解④「メチル化は多いほどよい」

アルギニンのメチル化は、相分離のブレーキとして働く一方で、修飾のバランスが大切です。多すぎても少なすぎても、輸送やシャペロンの働き、がん化のリスクなどに影響します。過不足のない調節こそが要です。

よくある質問(FAQ)

Q1. RGG/RGモチーフとは何ですか?

アルギニン(R)とグリシン(G)がくり返し並んだ、決まった立体構造を持たないタンパク質の部分(配列)です。多くのRNA結合タンパク質に見られ、RNAをやわらかくつかまえたり、細胞の中に膜のない小部屋(生体分子凝縮体)をつくったりする働きの中心を担います。かつてはGARドメインやRGGボックスと呼ばれ、ヒトでは1,000種類を超えるタンパク質がこの配列を持つと報告されています。

Q2. なぜアルギニンとグリシンの組み合わせなのですか?

アルギニンはプラスの電気を帯びており、マイナスのRNAに引きよせられるほか、芳香環とのあいだで特別な結合(カチオン-π相互作用)をつくります。一方グリシンは最も小さいアミノ酸で、タンパク質の背骨をやわらかくします。この「強い結合力(アルギニン)」と「柔軟性(グリシン)」の組み合わせによって、相手の形に合わせて自在に結合できる性質が生まれます。

Q3. 相分離(LLPS)とはどんな現象ですか?

水と油が分かれるように、細胞の中でタンパク質やRNAが集まって濃い液滴をつくる現象です。こうしてできる液滴は膜で囲まれていないのに、小部屋のようにふるまいます。これを膜のない小部屋(生体分子凝縮体)と呼びます。RGG/RGモチーフは、弱い結合をたくさん結ぶことでこの相分離を起こす主役の一つです。必要なときにさっとでき、役目が終わればすっと散る身軽さが特徴です。

Q4. RGG/RGモチーフはどんな病気に関わっていますか?

ALS(筋萎縮性側索硬化症)や前頭側頭型認知症では、FUSやhnRNPA1などのRNA結合タンパク質の相分離・凝集異常が病態に関わります。ALS/FTD全体ではTDP-43の凝集も重要ですが、TDP-43をRGG/RGモチーフの代表例として扱うわけではありません。ほかにも、脆弱X症候群(FMRP)、脊髄性筋萎縮症(SMN)、さらに一部のがん(PRMTの異常)との関連が研究されています。

Q5. アルギニンのメチル化にはどんな意味がありますか?

PRMTという酵素がアルギニンにメチル基を付ける反応で、相分離の起こりやすさを調節します。メチル化されると芳香環との結合が弱まり、液滴のできやすさが下がるため、異常な集まりを抑える「分子ブレーキ」として働きます。ただし多すぎても少なすぎてもよくなく、輸送やシャペロンの働き、がん化のリスクなどに影響します。過不足のない調節が大切です。

Q6. この用語は遺伝子検査とどう関係しますか?

遺伝子検査で見つかった変異を評価するとき、タンパク質のどの領域に変化があるかは重要な手がかりになります。RGG/RGモチーフや核内移行シグナル、TUDORドメインなどの機能領域に変化があれば、RNA結合・相分離・核内輸送などへの影響を考える材料になります。当院では検査の前後で臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、結果の意味や選択肢を中立の立場で一緒に整理します。

🏥 遺伝性疾患・遺伝子検査のご相談

神経・筋肉に関わる遺伝性疾患や、遺伝子検査で見つかった変異の意味づけについての
遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにご相談ください。

参考文献

  • [1] Defining the RGG/RG Motif. Mol Cell. 2013. [PubMed 23746349]
  • [2] RGG/RG Motif Regions in RNA Binding and Phase Separation. J Mol Biol. 2018. [PubMed 29913160]
  • [3] Crystal structure reveals specific recognition of a G-quadruplex RNA by a β-turn in the RGG motif of FMRP. Proc Natl Acad Sci U S A. 2015. [PMC4593078]
  • [4] A Liquid-to-Solid Phase Transition of the ALS Protein FUS Accelerated by Disease Mutation. Cell. 2015. [Cell]
  • [5] Phase Separation of FUS Is Suppressed by Its Nuclear Import Receptor and Arginine Methylation. Cell. 2018. [PubMed 29677514]
  • [6] Citrullination of RGG Motifs in FET Proteins by PAD4 Regulates Protein Aggregation and ALS Susceptibility. Cell Rep. 2018. [Cell Reports]
  • [7] Nuclear-Import Receptors Reverse Aberrant Phase Transitions of RNA-Binding Proteins with Prion-like Domains. Cell. 2018. [Cell]
  • [8] SMA-linked SMN mutants prevent phase separation properties and SMN interactions with FMRP family members. Life Sci Alliance. 2022. [PubMed 36375840]
  • [9] Phase Ib and dose-expansion study of GSK3326595, a PRMT5 inhibitor as monotherapy and in combination with pembrolizumab in patients with advanced cancers. Ann Oncol. 2025. [PubMed 40935292]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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