InstagramInstagram

リン酸尿性間葉系腫瘍(PMT)とは|FGF23が引き起こす腫瘍性骨軟化症の症状・診断・最新治療

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医・総合内科専門医。30年にわたる臨床のなかで、のべ10万人以上のご家族の切実な意思決定に伴走してきました。世界基準の遺伝子診断と遺伝カウンセリングを、終始責任をもって提供します。

📍 クイックナビゲーション

「原因のわからない骨の痛みが何年も続く」「少しずつ足腰に力が入らなくなり、気づけば車椅子が必要になった」——こうした深刻な症状の陰に、体のどこかに数センチにも満たない小さな腫瘍がひそんでいることがあります。リン酸尿性間葉系腫瘍(Phosphaturic Mesenchymal Tumor、以下PMT)は、FGF23(線維芽細胞増殖因子23)というホルモンを過剰につくり出し、血液中のリンを枯渇させて骨をやわらかくする、きわめてまれな腫瘍です。

PMTが引き起こす骨の病気は腫瘍性骨軟化症(Tumor-Induced Osteomalacia:TIO)と呼ばれ、長らく「原因不明の難病」として多くの患者を苦しめてきました。しかし近年、原因遺伝子(FN1-FGFR1融合遺伝子)の発見腫瘍を見つけ出す新しい画像検査、そしてFGF23を直接止める抗体薬(ブロスマブ)の登場によって、その診断と治療は大きく変わりました。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16〜18分
🦴 FGF23・低リン血症・骨軟化症
遺伝専門医監修

  • PMTがどんな腫瘍で、なぜ「原因不明の骨の痛み」として何年も見逃されるのか
  • FGF23の過剰産生が血中のリンを枯渇させ、骨をやわらかくするしくみ
  • 「空腹時血清リン」という、診断のカギとなるたった一つの血液検査
  • 68Ga-DOTATATE PET/CTと静脈サンプリングによる、小さな腫瘍の探し方
  • 手術・ブロスマブ(抗FGF23抗体)・分子標的薬という治療の選択肢
⏱️ 30秒でわかる要約

🦴Q. リン酸尿性間葉系腫瘍(PMT)とはどんな病気ですか?

骨や軟部組織にできるきわめてまれな良性腫瘍で、FGF23というホルモンを過剰につくるのが特徴です。その結果、血液中のリンが不足して骨がやわらかくなる「腫瘍性骨軟化症(TIO)」を引き起こします。

🩺Q. どうして診断が難しいのですか?

症状が骨の痛みや筋力低下などありふれたもので、一般的な血液検査に「リン」が含まれないことが多いため、骨粗鬆症やリウマチと誤診されがちです。診断まで平均で数年かかると報告されています[2]

🌸Q. 治りますか?遺伝しますか?

腫瘍を完全に手術で取り切れば、多くは治癒します。原因は体の一部の細胞に後から起きた変化(体細胞性の融合遺伝子)で、親から子へ遺伝する病気ではありません。手術が難しい場合は抗FGF23抗体(ブロスマブ)が有効です。

\ 原因不明の骨の痛み・低リン血症・遺伝のご相談を、遺伝専門医に直接 /

📅 遺伝カウンセリングを予約する

※遺伝子検査・遺伝診療のご案内:遺伝カウンセリング・遺伝診療

リン酸尿性間葉系腫瘍(PMT)とは——FGF23をつくる小さな腫瘍

リン酸尿性間葉系腫瘍(PMT)は、骨や軟部組織(筋肉・脂肪・結合組織など)から発生する、間葉系という種類の腫瘍です。FGF23というホルモンを過剰につくり出すことで、腫瘍性骨軟化症(TIO)という全身の骨の病気を引き起こします[1]。TIOは腫瘍が原因で起こる「傍腫瘍症候群(腫瘍が離れた場所に及ぼす症状)」の一つです。

この病気の歴史は古く、TIOそのものは1940年代から報告されてきましたが、その原因となる腫瘍の特徴が整理され「PMT」という概念が確立したのは1980年代のことです。現在では世界保健機関(WHO)の骨軟部腫瘍分類でも独立した腫瘍として位置づけられています[1]

✓ ここがポイント

PMTの腫瘍は多くが直径5cm未満と小さく、成長もゆっくりです。そのため腫瘍そのものによるしこりや圧迫の症状はほとんど出ません。かわりに、腫瘍がつくり続けるFGF23によって、全身の骨の痛み・筋力低下・骨折という深刻な症状が現れます。「小さな腫瘍が、遠く離れた全身の骨をむしばむ」——これがPMTの本質です。

どれくらいまれで、誰に起こるのか

PMT/TIOは超希少疾患です。これまでに世界で報告された症例は、あるシステマティックレビュー(多数の論文を系統的に集めて分析する研究手法)では769の論文から1,979例が集計されており[2]、別の大規模レビューでは895例が分析されています[3]。発症は40〜50代の中年期に多く、男女差は大きくありません[3]。小児にもまれに発症し、その場合は成長障害や骨の変形をともなう「くる病」の形をとることがあります[1]

🔬 用語解説:間葉系腫瘍とは

間葉系(かんようけい)とは、骨・軟骨・筋肉・脂肪・血管・結合組織など、体を支える組織のもとになる細胞のグループを指します。ここから発生する腫瘍が「間葉系腫瘍」です。PMTはこの仲間で、上皮(皮膚や粘膜、臓器の表面をおおう細胞)から発生する「がん(癌腫)」とは種類が異なります。PMTの大多数は良性で、いわゆる「がん」とは区別されます。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「歳のせい」で片づけられてきた痛みに、名前を】

PMTの患者さんの多くは、診断がつくまでに長い年月を「原因不明」のまま過ごしておられます。骨の痛みや筋力の低下は、加齢や骨粗鬆症、更年期の不調として片づけられやすく、何軒もの医療機関を回った末にようやくたどり着く、ということが少なくありません。

私はがんの診療にも長く携わってきましたが、「たった一つの血液検査(血清リン)を測っていれば、もっと早く道が開けたはず」という症例に、この病気ではしばしば出会います。原因不明の骨の痛みが続くとき、リンという項目を一度確認する——それだけで、長いトンネルの出口が見えることがあります。

なぜ骨が弱るのか——FGF23とリンの関係

FGF23は「リンを尿に捨てる」ホルモン

FGF23(線維芽細胞増殖因子23)は、本来は骨の細胞(骨細胞)から分泌され、血液中のリン濃度を一定に保つはたらきをするホルモンです。リンが増えすぎたとき、FGF23は腎臓に「リンを尿に捨てなさい」と指令を出し、余分なリンを排泄させます[1]

ところがPMTでは、腫瘍がこのFGF23を体の必要量とは無関係に、自分勝手に大量につくり続けます。その結果、腎臓はリンを尿にどんどん捨ててしまい、血液中のリンが枯渇します。リンは骨を硬く保つために不可欠なミネラルなので、不足すると骨の石灰化(硬くなるしくみ)が障害され、骨がやわらかくなる骨軟化症に至ります[1]

図1:PMTが骨をやわらかくするまでの流れ

PMT(腫瘍) FGF23を過剰産生 腎臓に作用 リンを尿へ排泄 低リン血症 活性型ビタミンDも低下 骨軟化症(TIO) 骨の痛み・筋力低下・骨折

FGF23の悪影響はリンだけにとどまりません。FGF23は腸からのリン・カルシウムの吸収を助ける「活性型ビタミンD」の産生も抑え込みます[1]。腎臓からリンが漏れ出るうえに、腸からの吸収も落ちるため、体はリン不足に二重に追い込まれます。これが、骨がやわらかくなる骨軟化症の根本にあるしくみです。

腫瘍発生の引き金——FN1-FGFR1融合遺伝子

では、なぜPMTはFGF23を暴走的につくるのでしょうか。近年の研究で、PMTの約半数に特徴的な融合遺伝子(gene fusion)が見つかりました。最も多いのが、FN1という遺伝子とFGFR1という遺伝子がつながったFN1-FGFR1融合遺伝子です[4]。大規模な解析では、この融合がPMTの約41%に認められ、さらに一部にはFN1-FGF1という別の融合遺伝子も見つかっています[5]

🔬 用語解説:融合遺伝子と「アクセルが踏みっぱなし」

融合遺伝子とは、本来は別々の2つの遺伝子が、染色体の組み換えでつながってしまったものです。FN1-FGFR1では、FGFR1(細胞増殖に関わる受容体型チロシンキナーゼ)が、FN1との融合によって過剰発現・活性化しやすい状態になります。その結果、FGFR1シグナルが持続的に強まり、FGF23を含むリガンドによる自己分泌・傍分泌機構も関与しながら腫瘍形成を促すと考えられています[4]。この分子のしくみの解明が、後で述べる分子標的薬(FGFRを狙う薬)の理論的な根拠になりました。

FN1-FGFR1やFN1-FGF1が見つからないPMTでも、近年のRNAシーケンス(遺伝子の読み取りを網羅的に調べる技術)によって、FN1-FGFR2やNIPBL-BEND2、KIAA1549-BRAFといった別のまれな融合遺伝子が次々と同定されており、PMTの遺伝的背景には一定の多様性があることがわかってきました[6]

✓ ここがポイント:遺伝しません

この融合遺伝子は、腫瘍細胞の中だけで後から起きた変化(体細胞変異)であり、生まれつき全身の細胞が持っている変化ではありません。つまりPMTは親から子へ受け継がれる「遺伝性疾患」ではなく、子どもに伝わる心配もありません。生まれつきのリン代謝異常である遺伝性の低リン血症性くる病(後述)とは、この点が根本的に異なります。体細胞変異と生殖細胞系列変異のちがいもあわせてご覧ください。

症状と血液検査——診断のカギは「空腹時血清リン」

PMT/TIOの症状は、長く続く原因不明の全身の骨の痛み、進行する筋力低下(とくに太ももや肩など体の中心に近い筋肉)、歩行障害、強い疲労感です[1]。進行すると肋骨・大腿骨・背骨などに繰り返し骨折が起こり、最終的に車椅子生活や寝たきりになることも珍しくありません。

これらの症状はどれもありふれていて特異性に乏しく、しかも一般的な血液検査のセットに「リン」が含まれていないことが多いため、多くの患者が骨粗鬆症・関節炎・リウマチ・椎間板ヘルニアなどと誤診されてきました[2]。診断までにかかる期間は平均で数年(あるレビューでは平均4.8年)に及ぶと報告されています[2]

TIOで見られる典型的な血液・尿の所見

診断の出発点は、「原因不明の、成人になってから発症した低リン血症」を見つけることです。以下に、TIOで典型的にみられる検査所見を整理します[1]

検査項目 TIOでの所見 意味
空腹時血清リン 著しく低下 FGF23により腎臓からリンが失われる。診断の最重要の入り口。
尿中リン排泄(TmP/GFR) 不適切に高い 血のリンが低いのに、腎臓が再吸収せず尿に漏らしている状態。
血中インタクトFGF23 上昇または不適切に正常 本来は低リン時に下がるべきFGF23が下がらない=自律的な産生。
活性型ビタミンD 低下または不適切に正常 FGF23が活性型ビタミンDの産生を抑えるため。
血清カルシウム おおむね正常 カルシウムは保たれることが多く、鑑別のヒントになる。
アルカリフォスファターゼ(ALP) 上昇 骨の石灰化障害に対する骨代謝の反応を反映する。
✓ ここがポイント

ポイントは、「血のリンが低いのに、尿にはリンが漏れ続けている」という一見矛盾した組み合わせです。ここにFGF23の上昇が加われば、TIOが強く疑われます。腎機能が正常な人の原因不明の低リン血症では、まずFGF23を測ることが診断への近道になります[1]

鑑別すべき「遺伝性」の低リン血症

TIOの診断では、FGF23が関わる遺伝性の低リン血症を除外することが重要です。代表的なのが、PHEX遺伝子の変化によるX連鎖性低リン血症(XLH)と、FGF23遺伝子の変化による常染色体優性(顕性)低リン血症性くる病(ADHR)です。これらは生まれつきの体質で、X連鎖遺伝常染色体優性(顕性)遺伝という形で家系内に伝わることがあり、家族歴や遺伝子検査で鑑別します。PMT(後天性・遺伝しない)とは成因がまったく異なるため、この見分けは治療方針と将来設計の両面で決定的に重要です。

🩺 遺伝性の低リン血症が疑われるとき

家族に同じような骨の症状がある、幼少期から低身長や脚の変形(O脚・X脚)があった、という場合は、生まれつきのリン代謝異常が背景にあるかもしれません。ミネルバクリニックでは、PHEX・FGF23・DMP1・ENPP1などリン代謝に関わる遺伝子をまとめて調べる低リン血症性くる病遺伝子検査(NGSパネル)を行っています。

腫瘍の探し方——数ミリの腫瘍をどう見つけるか

血液検査でTIOが確定したら、次の最大の難関は、全身のどこかに潜む数ミリ〜数センチの小さな腫瘍を特定することです。腫瘍は骨にも軟部組織にもでき、下肢に最も多く、次いで頭頸部・副鼻腔領域に好発しますが、頭蓋底や骨盤の奥など、探しにくい場所に潜むこともあります[1]。全体の流れは、次のフローチャートのように整理できます。

図2:FGF23産生腫瘍の局在診断と治療の流れ

腫瘍性骨軟化症におけるFGF23産生腫瘍の局在診断と治療の流れを示すフローチャート。低リン血症と高FGF23を生化学的に確認した後、68Ga-DOTATATE PET/CTによる機能的画像診断を行い、腫瘍が局在できれば外科手術を検討する。局在困難または多発病変の場合は選択的静脈サンプリング(SVS)を行い、SVS比が1.6を超える部位を標的として手術または焼灼治療を検討する。

※生化学的にTIOを確認したうえで、機能的画像→(必要なら)静脈サンプリング→治療という順に進みます。

第一歩は「68Ga-DOTATATE PET/CT」

現在、腫瘍探しの第一選択としてまず行われるのが、68Ga-DOTATATE PET/CTという核医学検査です。PMTの表面にはソマトスタチン受容体(SSTR2A)が多く出ているため、この受容体にくっつく標識薬(68Ga-DOTATATE)を注射すると、腫瘍だけが光って写ります[7]

TIOでの腫瘍局在を、68Ga-DOTATATE PET/CTと従来のオクトレオスキャン(111In)やFDG-PETとで前向きに比較した研究では、68Ga-DOTATATE PET/CTが最も高い感度と特異度を示し、PMTを見つけ出す単独検査として最良である可能性が示されました[7]。この高い性能は、標識薬がソマトスタチン受容体に強く結合することによるものです。

✓ ここがポイント

検査の順番が大切です。まず機能的画像(68Ga-DOTATATEなど、全身を光でスクリーニングする検査)で「あやしい場所」を探し、そこをCTやMRIで詳しく確認する、という流れが世界的な標準になっています[7]

画像で見つからないとき——FGF23の選択的静脈サンプリング

高性能な画像でも腫瘍が見つからない場合や、あやしい病変が複数あってどれが本物か決められない場合には、FGF23の選択的静脈サンプリングという最終手段があります。カテーテルを血管に入れ、全身のさまざまな静脈から少しずつ採血してFGF23濃度を測る検査です[8]

腫瘍のある場所から戻ってくる血液では、全身の血液に比べてFGF23濃度が局所的に跳ね上がります。研究では、腫瘍近くの静脈血と全身循環血のFGF23濃度の比が「1.6以上」であれば、その領域に責任腫瘍があると診断できるとされ、複雑な部位に潜む微小なPMTの特定に役立っています[8]

⚠️ 重要な検査の順番

後で述べる治療薬ブロスマブ(抗FGF23抗体)を始めると、血液検査上のFGF23測定値が薬剤との結合や測定系の影響を受けて解釈しにくくなり、静脈サンプリングによる局在診断の信頼性が損なわれます。そのため、静脈サンプリングが必要となる可能性がある場合は、原則としてブロスマブ治療を始める前に済ませておくことが重要です。これは治療の順番を決める、非常に重要な留意点です。

病理と遺伝子——顕微鏡で見えるPMTの正体

腫瘍が見つかったら、生検や切除した組織を顕微鏡で調べて確定診断します。ただしPMTは見た目が多彩で、他の骨・軟部腫瘍と紛らわしいことがしばしばあります[1]。最も多い「混合結合組織型(PMT-MCT)」では、次のような特徴が組み合わさって見られます[1]

図3:PMT(混合結合組織型)の顕微鏡的特徴

① おとなしい細胞

異型(悪性らしさ)の乏しい紡錘形〜星形の細胞が増える。分裂像や壊死は通常なし。

② 独特の石灰化

「薄汚れたような(grungy)」と表現される、青紫色のざらついた石灰化がPMT最大の目印。

③ 鹿の角状の血管

枝分かれした「鹿の角(staghorn)」のような拡張血管が豊富に見られる。

診断を支える2つのブレイクスルー

形が紛らわしいPMTを、他の腫瘍(とくに孤立性線維性腫瘍や骨肉腫など)と正しく見分けるために、現在では特殊な染色が活躍しています。ひとつはSSTR2A免疫染色で、PMTのほぼ全例で細胞膜に強く陽性になり、信頼性の高いマーカーとされています[1]。一方、形が似ている孤立性線維性腫瘍で陽性になるSTAT6はPMTでは陰性となり、鑑別に役立ちます[1]

もうひとつが、FGF23 mRNAのin situハイブリダイゼーション(RNAscope)という手法です。腫瘍組織の中でFGF23の遺伝子が実際に読み取られている(発現している)様子を、高い精度で直接検出できます。検証研究ではPMTの96%(22/23例)で陽性となり、悪性PMTやその転移巣でも陽性を示した一方、紛らわしい対照腫瘍40例ではすべて陰性でした[9]。これにより、非典型的なPMTでも確定診断がしやすくなりました。

ほとんどは良性、しかしまれに悪性化も

PMTの圧倒的多数は良性で、腫瘍を完全に切除すれば劇的に治癒します[1]。ただし、ごく一部には局所への浸潤が強く、肺などへ遠隔転移する悪性PMTも存在します。悪性を示唆する所見としては、高い核異型度、細胞密度の増加、腫瘍壊死、活発な核分裂などが挙げられます[1]。まれではありますが、初期には良性だった腫瘍が後に悪性転化した報告もあるため、切除後も長期のフォローが望まれます。

最新の治療——手術・ブロスマブ・分子標的薬

① 治療の基本は「完全切除」

TIO治療の第一選択(ゴールドスタンダード)は、原因となる腫瘍を十分な余裕をもって完全に切除することです[1]。転移のない良性PMTであれば、切除後わずか数日で血液中のリン濃度が正常化し、骨の痛みや筋力低下も急速に改善していきます[1]。PMTは境界がはっきりせず周囲へしみ込むように広がる傾向があるため、再発を防ぐには適切な切除範囲を確保することが決定的に重要です[1]。頭蓋底や脊髄の近くなど、完全切除が難しい部位では、ラジオ波や凍結療法などの局所治療が選ばれることもあります。

② ブロスマブ——FGF23を直接止める抗体薬

腫瘍の場所がわからない場合や、切除できない部位にある場合、これまではリンと活性型ビタミンDを大量に飲む対症療法が中心でした。しかしこれは根本治療ではなく、腎臓の石灰化などの副作用の問題がありました。この状況を大きく変えたのが、FGF23そのものを狙い撃ちする完全ヒト型モノクローナル抗体「ブロスマブ(Crysvita®)」です[10]。ブロスマブは血液中の過剰なFGF23に結合してその働きを止め、腎臓でのリンの再吸収と活性型ビタミンDの産生を正常なレベルに戻します。

成人TIO患者を対象とした第2相臨床試験(最長144週間の追跡)では、ブロスマブによって血清リン値の持続的な正常化、骨軟化症の組織学的な改善、骨折の治癒、そして痛みや歩行能力の大幅な改善が示されました[10]。日本と韓国の患者を対象とした第2相試験でも、同様の有効性と安全性が確認されています[11]

🇯🇵 日本での承認状況

日本では2019年9月に、ブロスマブ(Crysvita®)が「FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症」を対象として承認され、同年12月に発売されました[12]。米国・欧州でもTIOやX連鎖性低リン血症(XLH)の治療薬として承認されています。なお、患者の自己注射の負担を軽くするプレフィルドシリンジ(あらかじめ薬液が充填された注射器)製剤も、2025年11月に日本で発売されています[14]

⚠️ 治療前に確認を

前述のとおり、ブロスマブを始めるとFGF23測定値の解釈が難しくなり、静脈サンプリングによる局在診断の信頼性が損なわれます。そのため、静脈サンプリングが必要となる可能性がある場合は、原則としてブロスマブ開始前に局在診断を進めておくことが重要です。また、過度なFGF23抑制による高リン血症などの副作用に注意し、定期的にリン値を確認しながら用量を調整します。

③ FGFR阻害薬——理論は確か、しかし課題も

PMTの原因であるFN1-FGFR1融合が「FGFR1というスイッチの暴走」であることから、このスイッチを止める飲み薬(FGFRチロシンキナーゼ阻害薬)も試されました。キナーゼ(リン酸化酵素)を阻害するインフィグラチニブの第2相試験では、FGF23の低下と血清リンの正常化、腫瘍活性の低下が確認され、FGFRシグナルがPMTの中核であることが臨床的に裏づけられました[13]

ただし、この試験では角膜や網膜への眼の副作用が予想以上に多く、主要評価項目を達成する前に早期終了となりました[13]。理論的な根拠は強固ですが、全身の毒性を避けつつ腫瘍だけに作用する、より選択的な次世代の薬の開発が今後の課題です。関連する分子標的についてはFGFR3遺伝子のページでも触れています。

よくある質問(FAQ)

Q1. リン酸尿性間葉系腫瘍(PMT)は「がん」ですか?

大多数は良性の腫瘍で、いわゆる「がん(悪性腫瘍)」とは区別されます。ただし完全に切除しないと再発することがあり、ごくまれに悪性化して転移する例も報告されています。切除後も定期的なフォローが望まれます。

Q2. この病気は遺伝しますか?子どもに伝わりますか?

PMTの原因である融合遺伝子は、腫瘍の細胞だけに後から起きた変化(体細胞変異)です。生まれつき全身の細胞が持つ変化ではないため、親から子へ遺伝する心配はありません。一方、生まれつきのリン代謝異常(X連鎖性低リン血症など)は遺伝することがあり、こちらとの見分けが重要です。

Q3. なぜ診断まで何年もかかることがあるのですか?

症状が骨の痛みや筋力低下などありふれたもので、骨粗鬆症やリウマチと誤診されやすいこと、そして一般的な血液検査に「リン」が含まれないことが多いためです。原因不明の骨の痛みが続くときに一度リンを測ることが、早期発見の第一歩になります。

Q4. 手術で治りますか?

転移のない良性PMTであれば、腫瘍を完全に切除することで多くは治癒します。切除後は数日でリン値が正常化し、骨の痛みや筋力低下も改善していきます。ただし境界がはっきりせず広がることがあるため、十分な範囲の切除が再発予防に重要です。

Q5. 腫瘍が見つからない・切除できない場合はどうしますか?

FGF23を直接止める抗体薬「ブロスマブ」が有効な選択肢です。日本では2019年に承認されており、血清リンの正常化や骨・症状の改善が臨床試験で示されています。なお、ブロスマブ開始後はFGF23測定値の解釈が難しくなるため、静脈サンプリングが必要となる可能性がある場合は原則として開始前に局在診断を進めておきます。

Q6. 遺伝性の低リン血症とはどう違うのですか?

PMTは腫瘍が原因の後天性で遺伝しない病気です。一方、X連鎖性低リン血症(PHEX遺伝子)や常染色体優性低リン血症性くる病(FGF23遺伝子)は生まれつきの遺伝性で、家系内に伝わることがあります。幼少期からの症状や家族歴がある場合は、遺伝子検査による鑑別が役立ちます。

🏥 原因不明の骨の痛み・低リン血症でお困りなら

長引く骨の痛みや筋力低下、遺伝性の低リン血症のご相談は、臨床遺伝専門医が運営するミネルバクリニックへ。遺伝子検査の設計から結果の解釈、遺伝カウンセリングまで、終始責任をもって支援します。

🏥 ミネルバクリニックの特徴
臨床遺伝専門医が運営する、稀有な医療機関です
✓ 遺伝子検査の設計・結果説明・遺伝カウンセリングまで一貫対応
✓ 必要な検査をターゲット法で精度よく行うことを重視
✓ 生涯にかかわる情報だからこそ、スピードより「正確性」を最優先

関連記事

参考文献

  1. [1] Phosphaturic Mesenchymal Tumor. AJNR Am J Neuroradiol. 2022. [PMC9172954]
  2. [2] Tumor-induced osteomalacia: A systematic literature review. Bone Rep. 2024. [PMC11107251]
  3. [3] Tumor-Induced Osteomalacia: A Systematic Clinical Review of 895 Cases. Calcif Tissue Int. 2022. [PubMed 35857061]
  4. [4] Identification of a novel FN1-FGFR1 genetic fusion as a frequent event in phosphaturic mesenchymal tumour. J Pathol. 2015. [PubMed 25319834]
  5. [5] Characterization of FN1-FGFR1 and novel FN1-FGF1 fusion genes in a large series of phosphaturic mesenchymal tumors. Mod Pathol. 2016. [PubMed 27443518]
  6. [6] RNA Sequencing Reveals Novel Oncogenic Fusions and Depicts Detailed Fusion Transcripts of FN1-FGFR1 in Phosphaturic Mesenchymal Tumors. Mod Pathol. 2023. [PubMed 37391169]
  7. [7] 68Ga-DOTATATE for Tumor Localization in Tumor-Induced Osteomalacia. J Clin Endocrinol Metab. 2016. [PubMed 27533306]
  8. [8] Selective Venous Catheterization for the Localization of Phosphaturic Mesenchymal Tumors. J Bone Miner Res. 2011. [PMC3179290]
  9. [9] A Novel Chromogenic In Situ Hybridization Assay for FGF23 mRNA in Phosphaturic Mesenchymal Tumors. Am J Surg Pathol. 2015. [PubMed 25025444]
  10. [10] Burosumab for the Treatment of Tumor-Induced Osteomalacia. J Bone Miner Res. 2021. [PubMed 33338281]
  11. [11] Interim Analysis of a Phase 2 Open-Label Trial Assessing Burosumab Efficacy and Safety in Patients With Tumor-Induced Osteomalacia. J Bone Miner Res. 2021. [PubMed 32967046]
  12. [12] Kyowa Kirin Announces Approval of Crysvita (burosumab) for the Treatment of FGF23-related Hypophosphatemic Rickets and Osteomalacia in Japan. Kyowa Kirin. 2019. [Kyowa Kirin]
  13. [13] Infigratinib Reduces Fibroblast Growth Factor 23 (FGF23) and Increases Blood Phosphate in Tumor-Induced Osteomalacia. JBMR Plus. 2022. [PubMed 35991529]
  14. [14] Kyowa Kirin Launches Crysvita® Prefilled Syringe Formulation in Japan. Kyowa Kirin. 2025. [Kyowa Kirin]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

お電話での受付可能
診療時間
午前 10:00~14:00
(最終受付13:30)
午後 16:00~20:00
(最終受付19:30)
休診 火曜・水曜

休診日・不定休について

クレジットカードのご利用について

publicブログバナー
 
medicalブログバナー
 
NIPTトップページへ遷移