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68Ga-DOTATATE(ガリウム68 ドタテート)とは?神経内分泌腫瘍を映し出すPET検査とセラノスティクスを遺伝専門医が解説

目次

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医・総合内科専門医。30年にわたる臨床のなかで、のべ10万人以上のご家族の切実な意思決定に伴走してきました。世界基準の遺伝子診断と遺伝カウンセリングを、終始責任をもって提供します。

神経内分泌腫瘍(しんけいないぶんぴつしゅよう、Neuroendocrine Tumor:NET)は、症状が非特異的なこともあり、診断まで時間を要する場合があります。この見つけにくい腫瘍を、細胞の表面にある目印を手がかりにして全身から映し出すのが、68Ga-DOTATATE(ガリウム68 ドタテート)という検査薬です。

この記事では、68Ga-DOTATATEがどういう仕組みで腫瘍を映すのか、どんな病気に使われるのか、そして治療(PRRT)とどうつながるのか、さらにこの検査の背後にある遺伝性腫瘍症候群との関係までを、遺伝専門医の立場から順を追って解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16〜18分
🧬 分子イメージング・セラノスティクス
臨床遺伝専門医監修
  • 68Ga-DOTATATEが「ソマトスタチン受容体」を目印に腫瘍を映すしくみ
  • 診断とPRRT(内照射治療)を「対」で考えるセラノスティクスという発想
  • NETの背後にあるMEN1・VHL・NF1・SDHB変異などの遺伝的背景
  • 髄膜腫・腫瘍誘発性骨軟化症・神経芽腫など広がる適応
  • ソマトスタチンアナログの休薬をめぐる考え方の変化と日本の状況
⏱️ 30秒でわかる要約

🧬Q. 68Ga-DOTATATEとは何ですか?

神経内分泌腫瘍などの細胞表面に多くあるソマトスタチン受容体にくっつくように作られた、PET検査用の放射性のお薬です。この目印を手がかりに、全身のどこに腫瘍があるかを高い精度で映し出します[1]

🩺Q. 何のために使うのですか?

腫瘍がどこにどれだけ広がっているかを調べる病期診断に加え、同じ目印を狙う内照射治療(PRRT)が効くかどうかの判定にも使われます。診断と治療がひとつづきになった「セラノスティクス」の中心です[2]

🌸Q. 遺伝と関係があるのですか?

神経内分泌腫瘍の一部は、MEN1・VHL・NF1などの遺伝性腫瘍症候群の一部として起こります。検査の結果は、遺伝的な背景を考えるきっかけにもなります[9]

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68Ga-DOTATATEとは——腫瘍の「目印」に狙って届く検査薬

「受容体という鍵穴」に合う鍵を放射線で光らせる

68Ga-DOTATATEは、神経内分泌腫瘍(NET)という種類の腫瘍を映し出すために作られた、PET検査(陽電子放出断層撮影)用の放射性のお薬です。NETの多くは、細胞の表面にソマトスタチン受容体(SSTR)という「鍵穴」をたくさん持っています。とくにSSTR2というタイプの受容体が高い頻度で現れることが知られています[1]。68Ga-DOTATATEは、この鍵穴にぴったり合う「鍵」の役割をする分子(ソマトスタチンによく似たペプチド)に、放射線を出すガリウム68(68Ga)を結びつけたものです。

体に注射すると、この薬は血液に乗って全身をめぐり、SSTR2をたくさん持つ腫瘍の表面にくっつきます。そこから出る微量の放射線をPET装置でとらえることで、腫瘍がどこにあるかを点として画面に浮かび上がらせることができます。つまり、体のかたち(かたちの異常)を見るCTやMRIとは違い、68Ga-DOTATATEは「細胞がどんな性質を持っているか」を分子のレベルで見る検査だと言えます。

🔬 用語解説:ソマトスタチン受容体(SSTR)

ソマトスタチンは、体の中でホルモンの分泌をおさえる働きをする物質です。その相手役として細胞の表面にあるのが受容体で、ヒトには1〜5番までの5種類(SSTR1〜5)があります。神経内分泌腫瘍では、このうちSSTR2が特に多く現れるため、SSTR2に強くくっつく68Ga-DOTATATEが目印を狙う「鍵」として役立ちます[1]

「オクトレオスキャン」から世代交代した理由

かつてSSTRを目印にした検査といえば、111In-ペンテトレオチド(オクトレオスキャン)という、SPECTという別の方式の検査が使われていました。ただこの方法には、画像のこまかさ(分解能)が低い、小さな病変が見えにくい、撮影が複数日にまたがることがあるといった課題がありました。68Ga-DOTATATE PET/CTでは、オクトレオスキャンより高い病変検出感度と空間分解能、短い検査時間が得られます[1]。SSTR2への結合の強さも高く、DOTATATEは従来薬の約100倍という高い親和性を持つと報告されています[1]

米国では、この薬は「NETSPOT」という製品名で、2016年6月1日に米国食品医薬品局(FDA)に承認されました。成人と小児のどちらでも、SSTR陽性の神経内分泌腫瘍の局在診断(どこにあるかを調べる)を目的として使えるようになっています[2][3]。標準的な投与量は体重1kgあたり2 MBq(最大200 MBq)で、注射のあとおおむね60分ほど待ってから撮影します[3]

SSTRを目印にするお薬は、じつは68Ga-DOTATATEだけではありません。ペプチドの配列がわずかに違うことで受容体への「くっつき方の好み」が変わるため、68Ga-DOTATOC(SSTR2に加えSSTR5にも中くらいの親和性)や68Ga-DOTANOC(SSTR2・3・5に幅広く結合)といった、いわば兄弟のような薬も臨床で使われています。DOTATATEはこのなかでもSSTR2への親和性がとくに高いことが特徴です[1]。総合的な診断精度では、これら3つのあいだに決定的な優劣はないとされ、各施設で利用しやすいものが選ばれているのが現状です[14]

さらに近年は、受容体を「活性化させずに、ただ結合してとどまる」タイプの分子(アンタゴニスト、たとえば68Ga-DOTA-JR11)も研究されています。細胞の中に取り込まれないにもかかわらず、腫瘍の表面により多く結合できるため、正常な臓器への集まりが少なく、とくに肝転移の見えやすさで優れると報告されています。一方で骨転移の検出では、細胞内にとどまる従来型(アゴニスト)のDOTATATEの方が優れるという相反する結果も示されており、患者さんの転移のパターンに応じた使い分けが今後の課題として議論されています[1]

仕組みと体の中の動き——ジェネレータ・被ばく・分布

半減期68分——「その場で作れる」薬

放射線を出すガリウム68は、半減期がおよそ68分と短い核種です。短いことは一見不便に思えますが、撮像に必要な放射能を確保しつつ、投与後は比較的速やかに放射能が減衰するという特徴があります[4]。この薬が世界に広まった大きな理由のひとつは、大がかりなサイクロトロン(加速器)を施設内に持たなくても、「68Ge/68Gaジェネレータ」という装置を使えば、その場で必要なときにガリウム68を取り出せるようになったことにあります[4]

ジェネレータの中では、親となるゲルマニウム68(半減期は約271日と長い)が少しずつ崩れてガリウム68を生み出し続けます。取り出したあと約68分で最大量の半分、4時間ほどで9割以上が回復するため、1日のうちに何度も薬を準備できます[4]。この使い勝手のよさが、核医学の現場の風景を大きく変えました。

実際の調製では、ジェネレータから薄い塩酸でガリウム68を溶出し、DOTATATEというペプチドとていねいに結合させます。この「標識」と呼ばれる工程は、弱い酸性の環境で進み、できあがった薬は薄層クロマトグラフィーという方法で品質を確かめてから使われます[3]。標識がうまくいっているか(放射化学的純度)を1回ごとに確認するため、患者さんに届く薬の品質は一定に保たれています。ジェネレータを長く使ううえで技術的にもっとも注意すべきなのは、親核種であるゲルマニウム68がわずかに漏れ出す「ブレークスルー」ですが、近年のジェネレータでは、この漏れが規格の範囲内に収まるよう品質管理が行われています[4]

近年はPET検査の需要が世界的に急増したことを受け、ジェネレータだけでなく、医療用サイクロトロンを使ってガリウム68を大量に製造する方法も実用化されつつあります。ジェネレータには1回に取り出せる量に上限があるため、供給のボトルネックを解消する選択肢として期待されています。サイクロトロンで作ったガリウム68で標識した68Ga-DOTATATEも、純度や腫瘍への集まり、安全性においてジェネレータ由来のものと同等であることが複数の研究で示されています[4]

図1:68Ga-DOTATATEが腫瘍を映すまでの流れ

① ジェネレータその場で68Gaを溶出
② 標識DOTATATEに結合
③ 注射・分布SSTR2に結合
④ PET撮影腫瘍が点で光る

※注射から撮影まではおおむね60分ほど待ちます。

体のどこに集まりやすいか——被ばくは比較的少ない

68Ga-DOTATATEは、体の中でSSTRが自然に多くある臓器に集まります。もっとも強く集まるのは脾臓(ひぞう)で、次いで腎臓の皮質、副腎、肝臓、下垂体、胃壁などに中くらいの集まりが見られます[5]。薬はおもに腎臓から尿へ排泄されるため、放射線の吸収線量が高いのは、SSTRの密度が高い脾臓、次いで排泄の経路になる膀胱の壁や腎臓です[5]

被ばくの量そのものは、一般的なPET検査として大きなものではありません。ただ膀胱の壁に比較的集まりやすいため、検査の前後にしっかり水分をとり、こまめにトイレに行くことがすすめられます[3]。骨盤の中の小さな病変を見えやすくする意味でも、撮影の直前に排尿することが大切な手順とされています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「かたち」ではなく「性質」を見るということ】

CTやMRIは、腫瘍の大きさや形といった「かたち」を見る検査です。これに対して68Ga-DOTATATEは、その腫瘍がどんな受容体を表面に出しているかという「性質」を映し出します。臨床遺伝専門医として文献を踏まえると、この「性質を見る」という発想は、遺伝医学で変異の種類や機能的影響を評価して診療方針を考えることと共通する点があります。

原因が明らかでない段階で検査を重ねる経過は、遺伝性・希少疾患やがんの診療でもみられます。68Ga-DOTATATEによって腫瘍の受容体発現という情報が加わることは、診断や治療選択を検討するための判断材料になります。

検査でわかること——診断とPRRT(セラノスティクス)

高い感度で「どこに、どれだけ」を見る

68Ga-DOTATATE PET/CTは、原発がどこかわからないNETの局在診断、リンパ節や遠くの臓器への転移の広がりの評価、そして治療方針の決定において、中心的な役割を果たしています[2]。FDA承認の根拠となった臨床試験でも、参照となる画像診断と比べて高い一致率が示されました[3]。従来のオクトレオスキャンやCT・MRIだけでは見つけにくかった小さな病変も、この検査で明らかになることがあります。

🔬 用語解説:セラノスティクス(Theranostics)

セラノスティクスとは、「診断(diagnostics)」と「治療(therapeutics)」を組み合わせた言葉です。同じ目印(ここではSSTR2)を、診断では画像で光らせる68Ga-DOTATATEに、治療では細胞を攻撃する放射線を出す177Lu-DOTATATEに、と使い分けます。「見えたところを、そのまま狙って治療する」という、いわば診断と治療が対になった医療の考え方です。

PRRTが効くかどうかの「見取り図」になる

PRRT(ペプチド受容体放射性核種療法)は、SSTR2を目印にして腫瘍に放射線を届ける内照射治療です。分子標的治療のひとつと位置づけられ、177Lu-DOTATATEを用いる治療がよく知られています。この治療が効くかどうかを見きわめるうえで、腫瘍が68Ga-DOTATATEをどれだけ強く取り込むかそのものが、もっとも大切な手がかりになります[6]。集まりが強い腫瘍ほど、同じ目印を狙うPRRTの効果も期待しやすいと考えられるためです。

近年はPETの数値化のしやすさを生かし、SUVmax(最大標準集積値)という取り込みの強さを表す指標を使った検討が進んでいます。ある研究では、68Ga-DOTATOC PET/CTにおける肝転移のSUVmaxが16.4を超える、あるいは腫瘍と肝臓の取り込み比が2.2を超えるといった値が、PRRTへの反応を予測する目安になりうると報告されています[6]。ただし、これらは単一研究から提案された閾値であり、装置間差もあるため、日常診療で一律の基準として用いるものではありません。

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遺伝的背景——NETの一部は「遺伝性腫瘍症候群」から起こる

MEN1・VHL・NF1・TSC——受容体イメージングと遺伝の接点

神経内分泌腫瘍は、多くが散発性(家族歴なく偶発的に起こるもの)ですが、一部は遺伝性腫瘍症候群の一部として起こります。代表的なものに、多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)、フォン・ヒッペル・リンドウ病(VHL)、神経線維腫症1型(NF1)結節性硬化症(TSC)などがあります[9]。これらはいずれも、生まれつき特定の遺伝子に変化を持つことで、体のあちこちに腫瘍ができやすくなる病気です。原因となるMEN1遺伝子VHL遺伝子の働きは、それぞれ別ページでくわしく解説しています。

散発性の膵神経内分泌腫瘍でも、体細胞(生まれつきではなく後天的に生じた)レベルでMEN1遺伝子やDAXX/ATRXといった遺伝子の変化がよく見られ、これらが腫瘍の成り立ちに深く関わっていることが、全ゲノム解析によって明らかになっています[9]。こうした背景を持つ患者さんでは、68Ga-DOTATATEでとらえた腫瘍の広がり(機能的な腫瘍の体積)が、血液中の特定のホルモン値とよく対応することも報告されています[9]

✓ ここがポイント

若くしてNETが見つかった、複数の内分泌臓器に腫瘍がある、家族に同じような病気の人がいる——こうした場合には、背景に遺伝性腫瘍症候群がひそんでいる可能性があります。画像でわかる腫瘍の姿だけでなく、遺伝的な背景まで含めて考えることが、ご本人とご家族の見通しを整理するうえで役立ちます。

18F-FDGと組み合わせる「NETPETスコア」

NETは、おとなしいもの(高分化型)から悪性度の高いもの(低分化型)まで、生物学的にとても幅があります。おとなしい腫瘍はSSTRを強く出す一方、悪性度が高くなるとSSTRが減り、代わりにブドウ糖をさかんに消費するようになります。この二つの性質を全身で見比べるために、68Ga-DOTATATE(SSTRを見る)と18F-FDG(ブドウ糖代謝を見る)の2種類のPETを組み合わせる方法が提唱されています[7]

この2つの取り込みパターンを分類し、予後の予測に体系化したものがNETPETスコアです。319人の患者さんを対象とした国際的な検証研究では、スコアごとに全生存期間(中央値)に大きな差があることが示されました[7]。局所の生検だけではとらえきれない、全身に散らばる腫瘍の性質の「地図」を、体を傷つけずに描ける点が特徴です。

同じ患者さんの体の中でも、原発の腫瘍と転移した腫瘍のあいだ、あるいは無数にある肝転移どうしのあいだで、性質が食い違うことがあります。DOTATATEには写るがFDGには写らないおとなしい病変と、DOTATATEには写らずFDGに写る悪性度の高い病変が、同じ人のなかに混在する——この腫瘍の不均一性(ふきんいつせい)は、治療方針を考えるうえでとても重要です[7]。一部の病変だけを針で調べる生検では、たまたま採ったその一点の性質しかわからないのに対し、2種類のPETを組み合わせれば、全身の腫瘍の性質のばらつきを一度に見渡すことができます。

こうした精密な画像診断は、治療方針そのものを変えることがあります。文献では、外科的に切除する範囲の見直し、効果の見込みにくい治療の回避、あるいはPRRTへの移行といった形で、多くの患者さんで治療方針に影響を与えたと報告されています[2]。腫瘍の性質という新しい情報が、次にどの手を打つかの判断材料になるわけです。

図2:NETPETスコアと予後の関係

P1(DOTATATE陽性/FDG陰性)

  • もっとも高分化でおだやかな性質
  • PRRTの最適な対象
  • 全生存期間の中央値:約101.8か月

P2〜P4(両方が陽性)

  • 中間的な悪性度
  • 性質の異なる腫瘍が混在
  • 全生存期間の中央値:約46.5か月

P5(DOTATATE陰性/FDG陽性)

  • 悪性度が高く脱分化した状態
  • PRRTは効きにくい
  • 全生存期間の中央値:約11.5か月

※319人を対象とした多施設検証研究の数値[7]。値は目安であり、個々の見通しは主治医との相談が前提です。

NET以外への広がり——髄膜腫・骨軟化症・褐色細胞腫・神経芽腫

SSTR2は神経内分泌腫瘍だけでなく、ほかのいくつかの腫瘍や病態でも高く現れることがわかってきました。そのため68Ga-DOTATATEの活躍の場は、消化管や膵臓のNETの枠を超えて広がっています。

髄膜腫(ずいまくしゅ)——2024年に国際ガイドラインへ

髄膜腫は、成人の脳の腫瘍のなかでもっとも多いもので、ほぼすべての症例でSSTR2を強く持つという特徴があります。2024年に改訂されたEANM/EANO/RANO/SNMMIの合同ガイドラインでは、髄膜腫の診療におけるSSTR-PETの位置づけが明確に示されました[8]。造影MRIだけでは見分けにくい頭蓋底などへの細かい広がりの把握や、治療後の瘢痕(はんこん)と本当の再発との区別において、68Ga-DOTATATEを用いたPETが高い精度を発揮します[8]

腫瘍誘発性骨軟化症(TIO)——「干し草の中の針」を探す

腫瘍誘発性骨軟化症(TIO)は、ごく小さなリン尿性間葉系腫瘍(PMT)が線維芽細胞増殖因子23(FGF23)というホルモンを過剰に出すことで、骨がもろくなり、強い骨の痛みや筋力低下を起こす、まれな病気です。原因となる腫瘍が非常に小さく成長も遅いため、従来のCTやMRIでは見つけるのがきわめて難しく、診断まで何年もかかることが少なくありませんでした[11]

ところがPMTはSSTR2を強く持つため、68Ga-DOTATATE PET/CTを使うと原因の腫瘍を高い精度でピンポイントに見つけられるようになりました。報告により幅はありますが、感度は85.7〜100%と高い水準が示されています[10][11]。長年原因のわからなかった骨の痛みに答えが見つかる、この検査の価値がよく表れている領域です。

褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)とSDHB

褐色細胞腫やパラガングリオーマ(あわせてPPGLと呼びます)では、腫瘍の遺伝的な背景によって最適な検査が異なります。とくに悪性化や転移のリスクが高いSDHB遺伝子の変化を持つタイプや、頭頸部のパラガングリオーマの評価では、68Ga-DOTATATE PET/CTが有用とされています[9]。SDHB・SDHASDHCSDHDといったSDHx遺伝子の変化があると、細胞の中で「偽の低酸素状態」が生じ、その結果としてSSTRの発現が強まることが、その分子的な理由と考えられています[9]。なお、MEN2という別の遺伝性腫瘍症候群の原因となるRET遺伝子も、内分泌腫瘍と関わる代表的な遺伝子です。

小児の神経芽腫(しんけいがしゅ)

小児の交感神経のもとから発生する神経芽腫でも、細胞表面にSSTRが豊富に現れます。従来は123I-MIBGシンチグラフィという検査が標準でしたが、MIBGの供給が不安定になる場面があったことや、一部にMIBGで写らない腫瘍が存在することが課題でした[3]。68Ga-DOTATATEはFDAの表示でも小児への使用が明記されており、待機時間が短く被ばくも少ないことから、鎮静を必要とする小児の負担軽減という面でも意義があります[3]

日本での状況・検査の注意点

ソマトスタチンアナログの休薬をめぐる考え方の変化

NETの症状をおさえる薬として、オクトレオチドやランレオチドといった長時間作用型のソマトスタチンアナログ(LA-SSA)が広く使われています。かつてのガイドラインでは、このお薬と検査薬が受容体を取り合って偽陰性(本当はあるのに写らない)を招くのを避けるため、検査の数週間前にLA-SSAをいったん休むべきと強くすすめられていました[12]

しかし近年の複数の研究で、この考え方を見直す結果が示されています。LA-SSAを続けたままでも、腫瘍への68Ga-DOTATATEの集まりは意味のある形では低下しないことがわかってきたのです[12][13]。それどころか、正常な肝臓や脾臓への集まりが下がるため、結果として腫瘍と肝臓のコントラスト(腫瘍対肝臓比)がむしろ改善し、病変が見えやすくなることも報告されています[13]。休薬による症状悪化のリスクを負わせずに検査ができる可能性が高まっており、今後の指針の見直しに向けた重要な論点になっています[14]

日本国内のインフラ整備——ガリアファームの承認

日本でも、ガリウム68を使った分子イメージングの基盤づくりが進んでいます。2025年9月19日、「ガリアファーム 68Ge/68Gaジェネレータ」が日本で製造販売承認を取得しました[15]。これは前立腺がんの分子イメージングに用いる薬剤の標識用として承認されたものですが、日本国内でガリウム68を安定的に供給する仕組みが公的に整ったことを意味します[16]。今後の国内の分子イメージングの広がりにつながる動きとして注目されています。

読影の落とし穴——偽陽性と偽陰性

68Ga-DOTATATEは感度が高いぶん、注意して読む必要もあります。膵臓の一部(鉤状突起)にはもともとSSTRが多く生理的に集まりやすいため、腫瘍と見まちがえやすいことがあります[3]。また炎症や副脾(ふくひ)などでも集まりが見られることがあります。逆に、ステロイドの大量・反復投与はSSTR2を減らすため、本来は写るはずの腫瘍が写りにくくなる(偽陰性)ことがある点にも注意が必要です[3]。悪性度が高くなってSSTRが失われた腫瘍でも、同様に写りにくくなります。

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よくある質問(FAQ)

Q1. 68Ga-DOTATATE(ガリウム68 ドタテート)とは、どんな検査ですか?

神経内分泌腫瘍などの細胞表面に多くあるソマトスタチン受容体(SSTR2)にくっつくように作られた、PET検査用の放射性のお薬です。この目印を手がかりに、腫瘍が全身のどこにどれだけあるかを高い精度で映し出します。従来のオクトレオスキャンより高い病変検出感度と空間分解能を持ち、検査時間も短縮されています。

Q2. セラノスティクスやPRRTとは何ですか?

同じ目印(SSTR2)を、診断では画像で光らせる68Ga-DOTATATEに、治療では放射線で腫瘍を攻撃する177Lu-DOTATATEに使い分ける考え方を「セラノスティクス」といいます。その治療の方がPRRT(ペプチド受容体放射性核種療法)です。見えた腫瘍をそのまま狙って治療するという、診断と治療が対になった医療です。

Q3. 検査で被ばくは大丈夫ですか?

ガリウム68は半減期が約68分と短く、一般的なPET検査として被ばくの量が大きなものではありません。薬はおもに尿から排泄されるため、膀胱の壁に集まりやすい特徴があります。検査の前後にしっかり水分をとり、こまめにトイレに行くことで、被ばくをさらに減らすことができます。

Q4. 神経内分泌腫瘍は遺伝するのですか?

多くは散発性(偶発的)ですが、一部はMEN1・VHL・NF1・結節性硬化症などの遺伝性腫瘍症候群の一部として起こります。若くして発症した、複数の内分泌臓器に腫瘍がある、家族歴がある、といった場合には遺伝的な背景を考えることがあります。見通しの整理は、臨床遺伝専門医との遺伝カウンセリングで行うことをおすすめします。

Q5. ソマトスタチンの注射(LA-SSA)を受けていても検査できますか?

かつては検査前に休薬すべきとされていましたが、近年の研究では、長時間作用型ソマトスタチンアナログを続けたままでも腫瘍への集まりは意味のある形では低下せず、むしろ腫瘍と肝臓のコントラストが改善して病変が見えやすくなることが報告されています。ただし実際の休薬の要否は主治医の判断によりますので、必ず担当医にご確認ください。

Q6. 神経内分泌腫瘍以外にも使えるのですか?

はい。SSTR2は髄膜腫、腫瘍誘発性骨軟化症(原因となる小さな腫瘍の発見)、SDHB変異などを背景とする褐色細胞腫・パラガングリオーマ、小児の神経芽腫などでも高く現れるため、これらの評価にも用いられています。とくに髄膜腫では、2024年の国際ガイドラインでその位置づけが示されました。

Q7. 18F-FDGとの2種類のPETを組み合わせるのはなぜですか?

68Ga-DOTATATEは受容体(おだやかな性質)を、18F-FDGはブドウ糖代謝(悪性度の高い性質)を映します。この2つを組み合わせて分類したのがNETPETスコアで、全身に散らばる腫瘍の性質を体を傷つけずに評価でき、予後の予測や治療選択の手がかりになります。

参考文献

  • [1] Neuroendocrine Tumor Diagnosis and Management: 68Ga-DOTATATE PET/CT. AJR Am J Roentgenol. [AJR Online]
  • [2] FDA Approves NETSPOT (gallium Ga 68 dotatate). [ACCP]
  • [3] Label: NETSPOT- 68ga-dotatate kit. DailyMed (U.S. National Library of Medicine). [DailyMed]
  • [4] 68Ga-Based Radiopharmaceuticals: Production and Application Relationship. Molecules. 2019. [PMC6332429]
  • [5] Measured Human Dosimetry of 68Ga-DOTATATE. J Nucl Med. 2015. [PMC4472480]
  • [6] Kratochwil C, Stefanova M, Mavriopoulou E, et al. SUV of [68Ga]DOTATOC-PET/CT Predicts Response Probability of PRRT in Neuroendocrine Tumors. Mol Imaging Biol. 2015;17(3):313-318. [PubMed 25319765]
  • [7] Dual [68Ga]DOTATATE and [18F]FDG PET/CT in patients with metastatic gastroenteropancreatic neuroendocrine neoplasms: a multicentre validation of the NETPET score. Br J Cancer. 2022. [PMC9938218]
  • [8] Joint EANM/EANO/RANO/SNMMI practice guideline/procedure standards for diagnostics and therapy (theranostics) of meningiomas using radiolabeled somatostatin receptor ligands: version 1.0. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2024. [PMC11445317]
  • [9] Diagnosis in Neuroendocrine Neoplasms: From Molecular Biology to Molecular Imaging. Cancers (Basel). 2022. [Cancers (Basel)]
  • [10] 68Ga DOTATATE PET/CT is an Accurate Imaging Modality in the Detection of Culprit Tumors Causing Osteomalacia. Clin Nucl Med. 2015. [PubMed 26053726]
  • [11] Gallium-68-DOTATATE PET/CT for phosphaturic mesenchymal tumor localization in suspected tumor-induced osteomalacia. JBMR Plus. 2025. [PMC11995880]
  • [12] Long-Acting Somatostatin Analog Therapy Differentially Alters 68Ga-DOTATATE Uptake in Normal Tissues Compared with Primary Tumors and Metastatic Lesions. J Nucl Med. 2017. [PubMed 28729431]
  • [13] Changes in biodistribution on 68Ga-DOTA-Octreotate PET/CT after long acting somatostatin analogue therapy in neuroendocrine tumour patients may result in pseudoprogression. Cancer Imaging. 2018. [PMC5781297]
  • [14] SNMMI Procedure Standard/EANM Practice Guideline for SSTR PET: Imaging Neuroendocrine Tumors. J Nucl Med. 2023. [J Nucl Med]
  • [15] ガリアファーム68Ge/68Gaジェネレータ 承認審査情報. PMDA. 2025. [PMDA]
  • [16] ノバルティス、PSMA陽性転移性去勢抵抗性前立腺がんの治療における日本初の標的放射性リガンド療法として「プルヴィクト静注」の承認を取得. Novartis Japan. 2025. [Novartis]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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