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FGF23(線維芽細胞増殖因子23)とは?リン・ビタミンD代謝を司るホルモンと関連疾患・治療を遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医・総合内科専門医。30年にわたる臨床経験をもとに、遺伝学的検査の選択、結果の解釈、遺伝カウンセリングを一貫して行っています。

📍 クイックナビゲーション

「血液検査でリン(P)が低いと言われた」「骨がもろい・骨の痛みが続く」「腎臓が悪くなってから心臓のことも指摘された」——こうした一見つながりの見えない症状の背景に、FGF23(線維芽細胞増殖因子23)というホルモンが関わっていることがあります。FGF23は、骨から分泌され、血液中のリンとビタミンDの量を調節する司令塔のような役割を担っています。

この記事では、FGF23がどんなホルモンで、Klotho(クロトー)という相棒とどう働くのか、なぜFGF23の過不足がくる病・骨軟化症や慢性腎臓病(CKD)の合併症につながるのか、そして抗FGF23抗体ブロスマブという新しい治療までを、一般の方にもわかる言葉で、遺伝専門医の立場からお伝えします。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16〜18分
🧬 リン・ビタミンD代謝/内分泌
臨床遺伝専門医監修

  • FGF23がリンとビタミンDをどう調節しているのか
  • 相棒タンパク質α-Klotho(クロトー)が果たす決定的な役割
  • XLH(ビタミンD抵抗性くる病)やTIOなど、FGF23が関わる病気
  • 慢性腎臓病でFGF23が心臓に及ぼす「非古典的」な作用
  • 抗FGF23抗体ブロスマブと、検査(iFGF23/cFGF23)の考え方
⏱️ 30秒でわかる要約

🧬Q. FGF23とはどんなホルモンですか?

おもに骨の細胞(骨細胞)から分泌され、腎臓に働きかけて余分なリンを尿に捨てさせ、活性型ビタミンDを下げるホルモンです。血液中のリン濃度を一定に保つ「調整役」として働きます[1]

🩺Q. FGF23が多すぎたり少なすぎたりするとどうなりますか?

FGF23が過剰だとリンが下がりすぎて骨が弱くなり(くる病・骨軟化症)、慢性腎臓病では極端な高値が心臓の肥大にも関わります。逆に働きが弱いとリンがたまって石灰化を起こします。

🌸Q. 治療法はありますか?

FGF23が過剰になる病気(XLHやTIOなど)には、FGF23の働きを直接おさえる抗体医薬ブロスマブが使われるようになっています[7]

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FGF23とは——骨から出て、リンとビタミンDを調節するホルモン

「リンを捨てる司令塔」としてのFGF23

FGF23(線維芽細胞増殖因子23、Fibroblast growth factor 23:エフジーエフにじゅうさん)は、おもに骨の中にある骨細胞(こつさいぼう)や骨芽細胞から血液中に分泌されるホルモンです。血液中のリン(P)と活性型ビタミンDの量を、全身レベルで調整しています。リンを尿へ排出させる働きを持つことから、「フォスファトニン(リン利尿ホルモン)」と呼ばれる仲間の代表格でもあります[1]

リンは、骨や歯をつくる材料であると同時に、細胞のエネルギー通貨(ATP)や遺伝情報(DNA・RNA)の骨組みにも欠かせないミネラルです。多すぎても少なすぎても体に不都合が生じるため、体はFGF23・副甲状腺ホルモン(PTH)・ビタミンDという3つの調整役を組み合わせて、血液中のリン濃度を狭い範囲に保っています。FGF23はそのなかで、「リンが増えたら、尿に捨てて下げる」方向のブレーキ役を担います。

この3つの調整役は、たがいに連絡を取り合いながらバランスを保っています。たとえば、リンが増えるとFGF23が増えて尿への排出をうながし、活性型ビタミンDを下げて腸からの吸収も減らす、という具合です。逆にリンが不足しそうなときは、これらの働きがゆるみます。FGF23はこの連携のなかで「上がりすぎを止める」役を受け持っているため、その量や働きが狂うと、リンのバランス全体が崩れてしまいます。だからこそ、FGF23は骨・腎臓・副甲状腺をつなぐ調整ネットワークの要(かなめ)として注目されているのです。

✓ ここがポイント

FGF23のいちばん大切な仕事は、①腎臓でリンの再吸収をおさえて尿に捨てさせることと、②活性型ビタミンDを下げて腸からのリン吸収を減らすことの2つです[1]。どちらも「血液中のリンを下げる」方向にそろっているのが特徴です。

FGFファミリーのなかで「遠くまで届く」特別な一員

ヒトの線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーは22種類のメンバーからなり、いくつかのサブグループに分かれています。多くのFGFは、分泌された場所のすぐ近くの細胞に作用する「近所づきあい型(傍分泌)」ですが、FGF23はFGF19・FGF21とともに血流に乗って遠くの臓器まで届く「内分泌型」という、めずらしい性質を持っています[1]

この違いを生んでいるのが、ヘパラン硫酸(細胞のまわりにある糖の鎖)との結びつきにくさです。ふつうのFGFは細胞のまわりの糖鎖に強くくっついてその場にとどまりますが、FGF23はこの結合力が弱いため、骨の中にとどまらずに血流へと自由に出ていけます[1]。その結果、FGF23はホルモンとして、離れた場所にある腎臓や副甲状腺にまで到達して働くことができるのです。

進化の面から見ると、FGF23は、脊椎動物がリン酸カルシウムを土台にした骨格をもつようになった時期に登場したと考えられています。カルシウムとリンで硬い骨をつくる体のしくみが発達すると、今度はそのリンが増えすぎないように調整する必要が生まれます。FGF23は、その「リンを増やしすぎない」しくみを担う役割として重要になったと理解できます。興味深いことに、相棒であるα-Klothoに似た分子は、FGF23が登場する前の段階からすでに存在していたことが示されており、α-Klothoにはもともとリン調整以外の独自の役割があった可能性も議論されています[1]

また、FGF23の産生は、リンの量だけで決まるわけではありません。活性型ビタミンD、副甲状腺ホルモン(PTH)といったミネラル関連の因子に加えて、低酸素状態、炎症、エリスロポエチン(赤血球を増やすホルモン)、そして鉄の不足など、実に多様な全身の状態がFGF23をつくる遺伝子の働きを変化させます[1]。FGF23が「骨・腎臓・血液・全身の状態」をつなぐ結び目のような存在であることが、ここからもうかがえます。

FGF23の「相棒」——α-Klothoと受容体のしくみ

FGF23が標的の臓器で働くには、細胞の表面にあるFGF受容体(FGFR、おもにFGFR1c)と、α-Klotho(アルファ・クロトー)という膜のタンパク質の2つが必要です。FGF23は単独では受容体にほとんど作用できず、α-Klothoがそこに加わってはじめて「FGF23が効く受容体」に変わります[1]。α-Klothoは、FGF23が働ける場所(腎臓・副甲状腺など)を決める「住所ラベル」のような存在です。

🔬 用語解説:受容体(レセプター)とは

受容体とは、細胞の表面にある「鍵穴」のようなタンパク質です。ホルモン(=鍵)がぴったりはまると、細胞の中にスイッチが入り、決まった反応が始まります。FGF23の場合、鍵穴(FGFR)だけでは反応が弱く、α-Klothoという「鍵穴の感度を上げる部品」が組み合わさることで、はじめてしっかり反応するようになります。

α-Klothoは「酵素」ではなく「足場」だった

かつてα-Klothoは、糖を切る酵素(グリコシダーゼ)として働くのではないかと考えられていました。しかし、FGF23・FGFR1c・α-Klothoが1個ずつ結合した複合体の原子レベルの立体構造が解明され、実際にはα-Klothoは酵素としてではなく、FGF23と受容体を物理的につなぎとめる「足場(スキャフォールド)タンパク質」として働いていることが示されました[2]

この複合体では、α-KlothoがFGF23の「しっぽ(C末端)」と受容体をそれぞれつかみ、両者を近づけて安定させます。さらに、この複合体が2組ペアになり、ヘパラン硫酸が加わることで、はじめて受容体のスイッチが入って細胞内に信号が伝わります[2]。FGF23の受容体としては、腎臓ではFGFR1cが中心的に働きますが、後述するように心臓ではFGFR4という別のタイプが重要な役割を果たします。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「同じ遺伝子でも、変異の性質で対応が変わる」という視点】

FGF23をめぐる病気は、「FGF23が多すぎる病気」と「少なすぎる病気」がきれいに対になっているのが特徴です。同じ一つの分子の調整のわずかな傾きが、正反対の症状を生む——これは、遺伝医学で重要な「同じ遺伝子でも、変異の性質によって意味も対応も変わる」という考え方と共通しています。

臨床遺伝専門医として文献を踏まえると、FGF23の物語は「一つの検査値の裏に、産生・分解・受容体という複数の段階がある」ことを教えてくれます。検査値だけでなく、その値がどの段階の異常から来ているのかまで考えることが、正確な診断の入り口になります。

産生と分解の精密なバランス——「切るか、守るか」

血液中で実際に働くFGF23の量は、「どれだけ作るか」だけでなく「どれだけ壊すか(切断するか)」でも決まります。FGF23はまず長いひとつながりのタンパク質として作られますが、その内部にはフリン(furin)という酵素が切る目印があります。ここで切られると、FGF23は2つの断片に分かれて働けなくなります(不活性化)[1]

この「切断」を防いで活性型FGF23を守るか、それとも切断させて減らすかを決めているのが、GALNT3FAM20Cという2つの酵素のせめぎ合いです。GALNT3はFGF23の切断部位に糖の鎖をつけて(O-グリコシル化)、フリンがアクセスできないように守ります。一方、FAM20Cは切断部位のすぐ隣にリン酸をつけて(Ser180のリン酸化)、GALNT3による保護を邪魔します。保護を失ったFGF23はフリンに切られてしまいます[3]

図1:FGF23を「守る」か「切る」かを決める2つの酵素

GALNT3(守る)

切断部位に糖鎖をつけて保護 → フリンが切れない → 活性型FGF23が血中へ

FAM20C(切らせる)

切断部位の隣にリン酸をつけて保護を妨害 → フリンが切る → 不活性な断片に

※このバランスの傾きが、病気の方向(過剰か不足か)を決めます。

この巧妙なしくみは、病気とも直結しています。GALNT3の働きが失われるとFGF23が壊されすぎて不足し、リンがたまる高リン血症性家族性腫瘍状石灰化症(HFTC)になります。逆にFAM20Cの働きが失われると、切断されない活性型FGF23が増え、Raine症候群で低リン血症性くる病・骨軟化症を呈することがあります[3]。「守る側」と「切る側」のどちらが壊れるかで、正反対の病気になるのです。

✓ ここがポイント

鉄が不足したときにもFGF23の産生は増えますが、体は同時に切断も強めるため、活性型FGF23は増えすぎず、ふつうは低リン血症になりません[1]。この「作ると同時に切る」バランスが崩れる特別な状況が、次章で触れる静注鉄剤による低リン血症です。

FGF23を増やす(あるいは切断を変化させる)要因を整理すると、次のようになります。同じ「FGF23が増える」でも、活性型(iFGF23)まで増えるのか、切断された断片(cFGF23)だけが増えるのかは、要因によって異なります。

要因 活性型iFGF23 断片cFGF23 考えられるしくみ
高リン血症 増加↑↑ 骨細胞での産生を促進
活性型ビタミンD 増加↑↑ 骨でFGF23の産生を直接活性化
鉄欠乏(未治療) 正常〜軽度↑ 著明に↑↑↑ 産生が増える一方で切断も強まる
静注鉄剤(FCM)投与後 著明に↑↑ FGF23産生・切断のバランスが変化し活性型が増える
炎症 ↑↑ 産生の刺激と切断の亢進が並行

※↑の数は増加の目安を示したものです。「—」はここでは主要な指標として扱わないことを表します[1]

腎臓・副甲状腺への作用と、心臓への「非古典的」な影響

腎臓:リンを捨て、ビタミンDを下げる

FGF23の中心的な作用は、腎臓の近位尿細管でリンの再吸収をおさえることです。腎臓では、いったん血液からこし取られたリンの多くが、この近位尿細管で再び血液へと回収されます。FGF23が受容体・α-Klotho複合体に結合すると、細胞内でERK1/2やSGK1という信号の連鎖が動き、リンを尿から血液に戻す輸送体(NaPi-2aなど)が細胞の表面から引っ込められて分解されます。回収の担い手が減るため、こし取られたリンはそのまま尿へ流れ、排出量が増えます[1]。血液検査で「尿にリンが漏れている(腎性リン漏出)」と表現される状態は、この作用が過剰になったときに起こります。

同時にFGF23は、ビタミンDを活性化する酵素(1α-ヒドロキシラーゼ)をおさえ、活性型ビタミンDを分解する酵素(24-ヒドロキシラーゼ)を増やします。この二重の作用で活性型ビタミンDが下がり、腸からのリンとカルシウムの吸収が減ります[1]。近年は、遠位尿細管でカルシウムチャネルTRPV5を介してカルシウムの再吸収を促す働きも報告されており、FGF23の作用がリンだけにとどまらないことがわかってきました[4]

この「活性型ビタミンDを下げる」働きは、一見すると不都合に思えるかもしれません。しかし、活性型ビタミンDが増えすぎると、腸からリンやカルシウムが過剰に吸収され、体のあちこちが石灰化してしまう危険があります。動物の研究では、FGF23の欠けたモデルが示す軟部組織の石灰化や早く老化したような変化が、ビタミンDの経路を遺伝的に断つと消えることが示されています[1]。つまりFGF23には、過剰な活性型ビタミンDの害から体を守る「安全弁」の側面もあると理解できます。

副甲状腺:PTHとのフィードバック

副甲状腺もFGF23の標的です。ふだんはFGF23が副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌をおさえ、逆にPTHは骨に働いてFGF23を増やす、という相互のブレーキ関係が成り立っています[1]。ところが慢性腎臓病(CKD)が進むと、副甲状腺のα-Klothoが減って「FGF23が効きにくい状態(FGF23抵抗性)」になり、FGF23が高値でもPTHがおさえられず、二次性副甲状腺機能亢進症が悪化していきます。

心臓:α-Klothoがなくても届く「非古典的シグナル」

腎機能が落ちてリンを捨てにくくなると、体は代償的にFGF23を大量に作ります。末期腎不全では、FGF23の血中濃度が正常の何千倍にも達することがあります。この極端に高いFGF23は、単なる腎機能の指標ではなく、左室肥大(心臓の壁が厚くなる変化)や心血管疾患による死亡と強く結びつくことがわかってきました[5]

心臓にはα-Klothoがほとんどありませんが、極端に高いFGF23は心筋細胞のFGFR4に直接結合し、α-Klothoなしでも作用します。これを「非古典的シグナル」と呼びます。この結合はPLCγ・カルシニューリン・NFATという経路を動かし、心筋を病的に肥大させます[6]。動物モデルでは、FGFR4だけをブロックする抗体を使うと、血圧に影響を与えずに左室肥大の進行がおさえられ、すでにできた肥大さえ改善したと報告されており、FGFR4は新しい治療標的として注目されています[8]

⚠️ 注意

FGF23が血管の石灰化や動脈硬化を「直接」引き起こすかどうかは、研究者の間で今も議論が続いています。大規模な観察研究では、リン濃度などの影響を除くとFGF23と冠動脈石灰化の独立した関連は見いだされなかったという報告もあり、間接的な影響の可能性が残ります。現時点では明確な結論には至っていません。

また、α-Klothoは膜に埋まった形だけでなく、切り出されて血液中を流れる「可溶型α-Klotho(sKl)」としても存在します。この可溶型が、FGF23とは独立して抗酸化・抗炎症・抗老化といった役割を持つのではないかという見方がある一方で、その主な役割はあくまで「血液中を流れるFGF23の相棒」であり、独自の作用は限定的だとする反論もあります[1]。可溶型α-Klothoの本当の役割は、まだ研究が進んでいる途中の課題です。

腎臓病における骨との複雑なつながり(CKD-MBD)

慢性腎臓病では、リンの調整がうまくいかなくなることで、骨・血管・心臓を巻き込んだ全身の異常(CKD-MBD:慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常)が起こります。この病態では、FGF23の異常な高値が、骨をつくる働きに関わる別の信号(Wnt/β-カテニン経路)とも影響し合い、骨がもろくなる・血管が石灰化するといった複数臓器の合併症に関わると考えられています[1]。FGF23は単独で働くのではなく、体の他の調整システムと網の目のようにつながっているのです。

腎臓・心臓以外への広がり

FGF23の作用は、ミネラル代謝や心臓にとどまらないことも報告されています。研究段階の知見として、FGF23が免疫のはたらきに影響して感染への抵抗力に関わる可能性や、鉄の代謝との相互作用、脳での役割などが検討されています。ただし、これらはまだ十分に確立していない基礎・研究段階の知見も多く含まれます。現時点では、FGF23の中心的な役割はあくまで「リンとビタミンDの調整」であり、それ以外の作用については今後の研究が待たれる段階です[1]

FGF23が関わる病気——「過剰」と「不足」の対

FGF23の病気は、大きく「FGF23が過剰でリンが下がりすぎる病気」と「FGF23の働きが弱く(または壊されすぎて)リンがたまる病気」に分かれます。ここでは代表的なものを整理します。

FGF23が過剰になる病気

もっとも代表的なのがX連鎖性低リン血症性くる病(XLH、ビタミンD抵抗性くる病)です。原因はPHEX(フェックス)という遺伝子の変化で、その結果としてFGF23が過剰になり、リンが尿に漏れ続けて骨が十分に硬くならず、こどもではくる病、おとなでは骨軟化症を起こします。X染色体上の遺伝子が関わるため、伝わり方(X連鎖遺伝)にも特徴があります。

もう一つが腫瘍性骨軟化症(TIO)です。これは、体のどこかにできた小さな腫瘍(多くはリン酸尿性間葉系腫瘍:PMT)がFGF23を過剰に分泌することで、後天的に強い低リン血症と骨軟化症が起こる病気です。腫瘍を取り除けば劇的に改善することがあるため、原因となる腫瘍を見つけることが大切になります。

🔬 用語解説:くる病・骨軟化症とは

どちらも、骨の材料であるリンやカルシウムが不足して骨が十分に硬くならない状態です。骨の成長が続いているこどもで起こるものをくる病、成長が終わったおとなで起こるものを骨軟化症と呼びます。FGF23が過剰だとリンが慢性的に不足し、これらが起こりやすくなります。

FGF23の働きが弱くなる病気

反対に、FGF23が壊されすぎたり効きが悪くなったりすると、リンが体にたまって、皮下や関節のまわりに石灰の塊ができる家族性腫瘍状石灰化症を起こします。前述のGALNT3の機能喪失がその代表で、FGF23を守れずに活性型が不足するために起こります[3]。似た病態として、リン濃度が正常範囲にとどまるタイプ(正常リン血症性家族性腫瘍状石灰化症:NFTC)も知られています。

静注鉄剤による低リン血症(6H症候群)

見落とされやすいのが、貧血の治療に使われる特定の静注鉄剤(カルボキシマルトース第二鉄:FCM)による低リン血症です。FCM投与後にはFGF23の産生と切断のバランスが変化し、切断されていない活性型FGF23(iFGF23)が急上昇することがあります。FCMがどの分子段階でこの変化を起こすかは完全には解明されていません。その結果、腎臓から重度のリン漏れが起こり、活性型ビタミンDの低下や二次性副甲状腺機能亢進症を伴う病態が生じます[9]

この一連の変化は、6つの「H」(低リン血症・高FGF23・高リン尿・低カルシトリオール・低カルシウム・二次性副甲状腺機能亢進症)で特徴づけられることから「6H症候群」と呼ばれます[10]。臨床試験の二次解析では、FCM投与群の40.0%で試験終了時にも低リン血症が持続していたと報告されており、繰り返しの投与では筋力低下・骨の痛み・骨軟化症や骨折につながることがあるため、注意が必要な医原性(いげんせい)の有害事象として認識されるようになっています[9]

検査と治療——iFGF23とcFGF23、そしてブロスマブ

2種類の測定法:完全長(iFGF23)とC末端(cFGF23)

FGF23の測定には、大きく2種類の方法があります。インタクトアッセイ(iFGF23)は、切断されていない完全な形(=実際に働ける活性型)だけを測ります。一方、C末端アッセイ(cFGF23)は、活性型に加えて切断された断片も一緒に測るため、総量に近い値になります[1]

この2つの値の関係が、病態を読み解く手がかりになります。たとえば、鉄欠乏だけがある状態では「作るけれど切る」ためcFGF23は高くてもiFGF23は正常のことが多く、低リン血症は起こりにくくなります。ところがFCM投与後はFGF23の産生・切断バランスが変化し、iFGF23が急上昇して低リン血症を招くことがあります[1]。同じ「FGF23が高い」でも、どちらの値が高いかで意味がまったく違うのです。

抗FGF23抗体ブロスマブ

FGF23が過剰になる低リン血症性疾患(XLHやTIOなど)に対する分子標的治療として、ブロスマブ(抗FGF23モノクローナル抗体)が開発され、使われるようになっています。ブロスマブは血中のFGF23に直接結合してその作用をブロックし、腎臓でのリン再吸収と活性型ビタミンDの産生を回復させます。近年の第1/2相の多施設臨床試験では、PHEX遺伝子変異によるXLHの生後12か月未満の乳児に対しても、早期からの投与について安全性・忍容性・薬物動態・有効性が評価されています。この試験では、もっとも多く報告された治療下で発現した有害事象(TEAE)は発熱で、TEAEを理由とする投与中止や死亡は報告されませんでした[7]

🔬 用語解説:モノクローナル抗体とは

モノクローナル抗体とは、ねらった相手(ここではFGF23)だけにくっつくよう設計された、精密な「一点狙い」のタンパク質医薬です。ブロスマブは、過剰なFGF23をつかまえてその働きを止めることで、下がりすぎたリンを戻します。

FGF23と遺伝診療のつながり

FGF23が関わる病気の多くは遺伝子の変化と結びついています。XLHはPHEX遺伝子、家族性腫瘍状石灰化症はGALNT3などが関与し、それぞれ伝わり方(遺伝形式)が異なります。原因や遺伝形式を正しく整理することは、こども・きょうだい・将来の妊娠に関わる見通しを考えるうえで重要です。低リン血症性くる病の遺伝子検査(NGSパネル)では、こうした複数の原因遺伝子をまとめて調べることができます。原因が確定すれば、治療の選び方やフォローの方針も立てやすくなります。

低リン血症性のくる病・骨軟化症は、栄養不足によるふつうのくる病とは異なり、ビタミンDを補うだけでは十分に改善しないのが特徴です。「ビタミンD抵抗性」という呼び名は、この点に由来します。遺伝性のもの(XLHなど)か、後天的な腫瘍性のもの(TIO)か、あるいは薬剤(静注鉄剤)によるものかで、必要な検査も対応も変わります。血液のリンが低いという一つの所見の背後には、FGF23の「産生」「分解」「受容体」という複数の入り口があり、そのどこに問題があるのかを見きわめることが、遠回りを減らす手がかりになります。診断が定まらないうちから特定の検査や治療を急ぐのではなく、まずは全体像を整理することが大切です。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「原因のわからないリン低下」に、道すじを】

血液検査でリンが低いことが偶然見つかっても、その原因は栄養・薬剤・腎臓・腫瘍・遺伝性とさまざまで、たどり着くまでに時間がかかることがあります。原因がわからないまま検査を重ねる状況は、ご本人にもご家族にも負担の大きいものです。これは、低リン血症の鑑別に限らず、遺伝性疾患やがん診療でもみられる診断過程の特徴です。

FGF23という一つのホルモンを軸に考えると、「産生」「分解」「受容体」のどの段階の問題かで、見るべき検査も治療の選択肢も変わってきます。正確な診断にもとづいて適切な検査・治療方針を選ぶことが、不要な検査や治療を減らすことにつながります。

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よくある質問(FAQ)

Q. FGF23は何のためにあるホルモンですか?

血液中のリンとビタミンDの量を調整するためのホルモンです。おもに骨から分泌され、腎臓に働きかけて余分なリンを尿に捨てさせ、活性型ビタミンDを下げます。リンが増えすぎないようにする「ブレーキ役」と考えるとわかりやすいです。

Q. FGF23とKlotho(クロトー)はどういう関係ですか?

α-Klothoは、FGF23が受容体に効くために欠かせない「相棒」です。FGF23単独では受容体をほとんど動かせず、α-Klothoが加わってはじめてしっかり作用します。α-Klothoは酵素としてではなく、FGF23と受容体をつなぎとめる「足場」として働くことが立体構造の研究で示されています。

Q. FGF23が高いと言われました。どういう意味ですか?

「FGF23が高い」だけでは病態は決まりません。測っているのが活性型(iFGF23)か総量に近い値(cFGF23)かで意味が変わります。慢性腎臓病では代償的に高くなり、鉄欠乏や特定の静注鉄剤投与後にも上がります。値の解釈には、リンやビタミンD、腎機能などとあわせた総合的な判断が必要です。

Q. FGF23が関わる病気は遺伝しますか?

XLH(ビタミンD抵抗性くる病)はPHEX遺伝子の変化によるもので、X連鎖の形で遺伝します。家族性腫瘍状石灰化症など、他の原因遺伝子による遺伝性のタイプもあります。一方、腫瘍性骨軟化症(TIO)は後天的で、遺伝しません。伝わり方や見通しは、原因ごとに異なるため、臨床遺伝専門医との遺伝カウンセリングで整理することをおすすめします。

Q. 貧血で鉄の点滴を受けたあとにリンが下がるのはなぜですか?

特定の静注鉄剤(カルボキシマルトース第二鉄)では、FGF23の産生・切断バランスが変化して活性型FGF23が急に増え、腎臓からのリン排泄が増加することがあります。この一連の変化は「6H症候群」と呼ばれます。多くは一時的ですが、繰り返すと骨の痛みや骨軟化症につながることがあるため、リンの値に注意が必要です。

Q. FGF23をおさえる治療はありますか?

FGF23が過剰になるXLHやTIOには、FGF23の働きを直接ブロックする抗体医薬ブロスマブが使われるようになっています。乳児を含む早期からの投与についても臨床試験でデータが積み重ねられています。適応や導入の判断は専門的な評価が必要ですので、主治医とよく相談してください。

関連記事

参考文献

  1. [1] FGF23 signalling and physiology. J Mol Endocrinol. 2021;66(2):R23-R32. [PubMed 33338030]
  2. [2] α-Klotho is a non-enzymatic molecular scaffold for FGF23 hormone signalling. Nature. 2018;553(7689):461-466. [PubMed 29342138]
  3. [3] Dynamic regulation of FGF23 by Fam20C phosphorylation, GalNAc-T3 glycosylation, and furin proteolysis. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014;111(15):5520-5525. [PubMed 24706917]
  4. [4] FGF23 promotes renal calcium reabsorption through the TRPV5 channel. EMBO J. 2014;33(3):229-246. [PubMed 24434184]
  5. [5] FGF23 induces left ventricular hypertrophy. J Clin Invest. 2011;121(11):4393-4408. [PubMed 21985788]
  6. [6] Activation of Cardiac Fibroblast Growth Factor Receptor 4 Causes Left Ventricular Hypertrophy. Cell Metab. 2015;22(6):1020-1032. [PubMed 26437603]
  7. [7] Safety, tolerability, pharmacokinetics, and efficacy of burosumab in infants with X-linked hypophosphataemia: an open-label, multicentre, non-randomised study. Lancet Diabetes Endocrinol. 2026;14(6):475-484. [PubMed 42044650]
  8. [8] FGF23/FGFR4-mediated left ventricular hypertrophy is reversible. Sci Rep. 2017;7:1993. [PMC5434018]
  9. [9] Risk Factors for and Effects of Persistent and Severe Hypophosphatemia Following Ferric Carboxymaltose. J Clin Endocrinol Metab. 2022;107(4):1009-1019. [PMC8947794]
  10. [10] Intravenous iron supplementation therapy. Mol Aspects Med. 2020;75:100862. [PubMed 32444112]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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