X染色体異常
X染色体とは?
東京でNIPT他の遺伝子検査を提供しているミネルバクリニックです。NIPTなどの遺伝子検査や遺伝性疾患を理解するためには、基礎的なヒトゲノムや染色体の構造についての理解が必要となってきます。このページでは、X染色体とその不活化がどのように行われているのかについて言及したいと思います。
1949年、ネコの脳細胞の染色質を観察していた力ナ夕の解剖学者マレー・バーは、核の中に濃く染まる小さな斑点があるのを見つけました。
そして、この物体があらわれるのは決まってメスの細胞であり、オスの細胞には存在しないことにも気が付きました。
その後、バーが見つけたものは、ネコだけでなく、ヒトを含むさまざまな哺乳類のの雌にみられることもわかったのです。
バー小体とよばれるようになったその物体の正体をおおのすすむ突きとめたのは、日本人生物学者である大野乾らでした。バー小体は、1本のX染色体が凝縮したものであることを1959年に発見したのです。
二つの発見を結びつけてその背後にあるメカニズムを説明したのは、イギりスの遺伝学者メアリーライアンです。ライアンは1961年、次のような仮説を発表した。「女性の細胞では2本あるX染色体の片方はいつも眠っている。その眠ったX染色体が、バー小体として観察される。」
ライアンは2本のX染色体のどちらが眠らされるのかは、発生初期の段階でランダムに決まると考えました。いったん選ばれると、不活性状態は一生の間安定に保たれるため、ある細胞では母親由来のX染色体だけがはたらき、また別の細胞では父親由来のX染色体だけがはた5く。それらの細胞が半々すつまじりあってできているのが女性の体であると考えたのです。
ほんの少し前は、X染色体不活化のことをLionizationとよんでいました。
X染色体不活化
X染色体不活化の原則は、正常女性の体細胞において一方のX染色体が発生初期の段階で不活化されることです。正常男性ではこれが起こらないことにより、両性におけるX連鎖遺伝子の発現が同等になります。
正常女性の発生において、どちらのX染色体が不活化されるかはランダムに決まり、その後に細胞分裂によってできる細胞系列でも同じ不活化が維持されるため、X連鎖遺伝子の発現という点では女性はモザイクとなります。
体細胞の活性X染色体と不活化X染色体を区別するエピジェネティックな変化は多く、不活化Xでは殆どの遺伝子が抑制されていますが約15%はある程度発言しています。また、クロマチンの状態はヘテロクロマチン、Barr小体となっています。不活性X染色体は、X染色体上にあるXIST遺伝子が転写するノンコーディングRNAであるXIST RNAがX染色体を包み込むように蓄積してクロマチン上にさまざまなエピジェネティクス修飾因子と呼ばれるタンパク質群を呼び込み、クロマチンが高度に凝集したヘテロクロマチンとなることによって形成されると考えられています。DNAの複製はS期の遅くになされます。
男性であれ女性であれ、過剰なX染色体をもつ患者では、1本より多いX染色体は不活化されます。
このようにして男女のすべての二倍体の体細胞は、性染色体の合計の本数にかかわらず1本の活性X染色体をもつことになるのです。
x染色体は約千の遺伝子を含んでいるがこれらのすべてが不活化されるわけではありません。不活化X染色体から少ないながら両アレルがある程度発現し続けている遺伝子は、X染色体上でランダムに分布しておらず、不活化を免れた遺伝子の約50%はXp遠位部にあり、Xqにあるものはたったの数パーセントです。
この事実はX染色体の部分異数性の症例の遺伝カウンセリングに重要な意味があります。
Xp上の遺伝子の不均衡はその多くがX染色体不活化により抑制されているXq上の遺伝子の不均衡よりも大きな臨床的意義をもつ可能性があるためです。
X染色体不活化パターン
女性の体細胞におけるX染色体不活化は通常ランダムで、父由来のX染色体のアレルを発現する細胞集団と母由来のX染色体のアレルを発現する細胞集団のモザイクになっています。
調べてみると、ほとんどの女性は2つの細胞集団の割合がほぽ等しく、正常表現型の女性の約90%が75:25から25:75の間にあります。こうした分布は胚発生初期における比較的少数の細胞に起こるランダムなどちらのX染色体が不活化されるかの選択の結果であるという予測を反映するものです。
X遺鎖単一遺伝子疾患の保因者では関連する組織や細胞タイプの中でどれだけの割合の細胞が活性X染色1本上の異常なアレルを発現するかによって、X染色1本不活化率が臨床表現型に影評を及ほすことがあります。例えばX連鎖の血友病が女性で認められることがあるのは、対立遺伝子がたまたまそのセルライン(細胞系)で不活化されてしまうためです。
しかし、核型に構造異常X染色体が含まれる場合は体不活化から予想する分布は当てはまりません。
例えば染色1本の不均衡型構造異常(欠失、重複同腕染色体など)をもつ患者のほほ全員で、構造異常X染色体は常に不活化されていることがわかっています。胚発生初期に起こる最初の不活化はランダムなので、出生後にみられるパターンは生存不可能な遺伝的に不均衡な細胞が二次的に淘汰されたことを反映しているとみられています。こうした選択的不活化X染色体の異常は、常染色体の同様のサイズ(7番染色体とほとんど同じなので大きいです)や遺伝子含量の染色体の不均衡異常に比べると表現型への影響が圧倒的に小さくなっています。
この図は不活化X染色体に関連するヒストンバリアントmacroH2Aを見たものです。Xの数が増えるごとに明るい蛍光領域、すなわち不活化されたmacroH2Aで覆われたX染色体が増加しています。
非ランダムな不活化はX染色体と常染色体の転座のほとんどの症例においても観察されています。
転座が均衡型であれば、正常X染色体が選択的に不活化され、転座による派生染色体の2つの部分は活性化されたままになります。これも常染色体上の重要な遺伝子が不活化された細胞がであればその細胞は生きていけず、洵汰されることを反映しているのだと考えらえます。
しかし、均衡型転座保因者からの不均衡型転座をもつ子では、X染色体不活化センター(X inactivation center)をもつ派生染色体のみが存在し、X染色体が活性化されています。
非ランダムな不活化パターンは特定の染色体異常による臨床的な影態を小さくはするのですが、完全に除去することはできません。
X染色体不活化のパターンは臨床所見と強い相関がみられ、X染色体と常染色体の転座を伴うすべての症例は、細胞遺伝学的あるいは分子遺伝学的解析によるX染色体不活化パターンの決定の検査をしたほうがよろしいということになります。
x染色体不活化センター
正常なX染色体でも、構造異常x染色体であっても、いずれにしてもX染色体の不活化はXIC(
X inactivation center region ) の存在で決まります。
不活化された構造異常X染色体を詳細に解析すると、XICはXq近位部(Xq13.2)の約800kbの候補領域内にあることが示されました。
この領域は、不活化する方のX染色体をクロマチン不活化状態へと導入し、この状態をX染色体のほぼ全体に広げるために必要な段階の多くを調整していて、この一連の複雑な事象には非コードRNA遺伝子XISTが必要です。XISTはX染色体不活化を開始するための鍵となるマスター調節座位であると考えられていて、一連の非コードRNA遺伝子の1つであり、 他の非コードRNA遺伝子もXISTの発現の調節やX染色体不活化過程の早い段階で起こる他の事象に作用している可能性があります。
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