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NIPTの結果が間違う理由のまとめ:偽陽性・偽陰性の原因と検査前後に大切なこと

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医として遺伝医療に携わっています。

NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)の結果が実際の赤ちゃんの染色体と食い違うことがあるのは、検査の精度が低いからではなく、NIPTが調べているのが主に胎盤から母体の血液に出てきたDNAだからです。胎盤だけに染色体の変化がある、双子の一人が早い時期に亡くなっている、お母さん自身の染色体やがんの影響が混ざる――こうした理由で、陽性なのに赤ちゃんは正常(偽陽性)、陰性なのに赤ちゃんに染色体の変化がある(偽陰性)ということが起こります。原因の多くは事前の確認と結果のあとの確定検査で見分けられますが、知らないまま結果を受け取ると、重い判断を誤るおそれがあります。このページは、NIPT教科書シリーズ第5章「何故NIPTは非確定的検査なのか」の結びとして、第5章で扱った偽陽性・偽陰性の原因を一覧に整理し、検査の前と結果のあとに何をすればよいかを臨床遺伝専門医の視点でまとめます。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
📊 偽陽性・偽陰性・判定保留・確定検査
★ 臨床遺伝専門医監修

Q. NIPTの結果が間違うことはありますか?

A. あります。ただし、その多くは測定のミスではなく、胎盤やお母さん由来のDNAを正しく測った結果が、赤ちゃん本人の染色体と食い違うことによるものです。一般の妊婦を対象にした研究をまとめた2022年の解析では、21トリソミー陽性のうち本当に21トリソミーだったのは約92%、13トリソミー陽性では約37%でした。陽性の結果は確定検査で確かめるまで「診断」ではありません。

  • ➤偽陽性の主な原因 → 胎盤限局性モザイク、バニシングツイン、母体の染色体の変化(CNV)、母体の悪性腫瘍
  • ➤偽陰性の主な原因 → 胎児由来DNAの割合が低い、胎盤は正常で赤ちゃんだけに異常があるモザイク
  • ➤検査の前 → 病歴の確認、超音波で胎児の数の確認、検査前の遺伝カウンセリング
  • ➤結果のあと → 陽性なら判断の前に確定検査、陰性でもゼロではない、判定保留は染色体異常の可能性の上昇と関連する

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. なぜNIPTの結果は間違うことがあるの?

NIPTが見ているのは主に胎盤から出たDNAで、胎盤と赤ちゃんの染色体が食い違ったり、お母さん由来のDNAの影響を受けたりするからです。

📊 Q. どれくらいの割合で間違うの?

2022年の解析では、陽性が本当だった割合は21トリソミーで約92%、18トリソミーで約66%、13トリソミーで約37%でした。染色体の種類で大きく違います。

✅ Q. 陽性だったらどうすればいい?

妊娠についての判断をする前に、羊水検査などの確定検査で赤ちゃん本人の染色体を確かめることが国内外の指針で求められています。

妊婦と女性医師、本、DNAと染色体の図を配置し、NIPTの仕組み・検査の種類・結果の読み方を紹介した画像

1. NIPTの結果が「間違う」とはどういうことか

NIPTの結果が「間違う」というとき、結果の不一致には偽陽性と偽陰性があります。判定保留は陽性・陰性を判定できない状態であり、誤った結果とは区別します。そして、そのほとんどは検査機器の故障や取り違えではなく、NIPTという検査のしくみそのものから生じます。この点を理解しておくと、結果を受け取ったときに何を確かめればよいかがはっきりします。

NIPTが見ているのは胎盤のDNA

妊婦さんの血液には、細胞の外に浮かんでいる短いDNA(セルフリーDNA)が流れています。その大部分はお母さん自身の血液細胞などに由来し、妊娠に関係する部分は主に胎盤の表面をおおう細胞(栄養膜細胞)から出てきたものです。つまりNIPTは、赤ちゃん本人ではなく「胎盤の細胞の染色体」と「お母さんの染色体」が混ざったものを測っている検査です。そのため「胎児のDNA(cffDNA)」という呼び方は便宜上のもので、実際には胎盤のDNAだと考えたほうが結果の意味を読み違えません。

ふつうは胎盤と赤ちゃんは同じ受精卵から育つので、染色体も同じです。ところが、胎盤だけに染色体の変化がある場合や、お母さん側のDNAに変化がある場合には、NIPTは「正しく測ったうえで、赤ちゃんとは違う答え」を出します。NIPTが確定診断ではなく非確定的検査とされる根本の理由はここにあります。この全体像は第5章の入口であるNIPTはなぜ非確定的検査なのかで、スクリーニング検査と確定検査の違いはスクリーニング検査と診断的検査の違いで解説しています。

「思っていたのと違う結果」の3つの型

📋 NIPTの偽陽性・偽陰性と判定保留の違い

型 どういう状態か 主な理由
偽陽性 NIPTは陽性だが、赤ちゃんに検査対象の染色体の変化はない 胎盤だけの染色体の変化、亡くなった双子の影響、母体の染色体の変化や腫瘍
偽陰性 NIPTは陰性だが、赤ちゃんに染色体の変化がある 胎盤由来DNAの割合が低い、胎盤は正常で赤ちゃんだけに変化があるモザイク
判定保留(再検査) 結果を出せない 胎盤由来DNAの割合が低い、母体側の要因、検体の問題

※第5章各ページの内容とISPD(国際出生前診断学会)2023年声明[1]をもとに作成。

ここで大切なのは、偽陽性と偽陰性は同じ原因の裏表であることが多い、という点です。たとえば胎盤と赤ちゃんの染色体の食い違いは、胎盤だけが異常なら偽陽性に、赤ちゃんだけが異常なら偽陰性になります[2]。原因を「陽性のとき」「陰性のとき」と分けて覚えるより、「胎盤」「双子」「お母さん」「測定の限界」という4つの出どころで整理したほうが、全体を見通しやすくなります。

2. 2018年以降の研究でみる「どれくらい間違うか」

NIPTの検出率(感度)と特異度は非常に高い一方、陽性が本当だった割合(陽性的中率)は染色体の種類によって大きく異なります。2022年に米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)の指針作成のために行われた系統的レビューでは、一般の妊婦(単胎)を対象にした研究を統合して、次の数字が示されました[3]。

📊 一般の妊婦(単胎)でのNIPTの成績

対象 検出率(感度) 特異度 陽性的中率
21トリソミー 98.8% 99.96% 91.8%
18トリソミー 98.8% 99.93% 65.8%
13トリソミー 100%(症例数が少なく、見逃しがないことを保証する値ではない) 99.96% 37.2%
性染色体の数の変化 (種類ごとに異なる) 全体で約43%(45,Xで約30%、47,XXXで約54%、47,XXY・47,XYYで約74%)

※Roseら(2022)[3]の統合解析による。判定不能(no-call)の割合は31研究で0.85%でした。数値は研究の集まりから推定した値で、個人の確率ではありません。

陽性的中率が染色体ごとに違う理由

検出率と特異度はどの染色体でもほぼ同じ高さなのに、陽性的中率がこれほど違うのは2つの理由によります。1つめは、検査を受ける妊娠集団で、その染色体の変化がある頻度の違いです。21トリソミーより18トリソミー、18トリソミーより13トリソミーのほうがまれなので、同じ割合で偽陽性が出ても、本物の陽性に対する偽陽性の比率が大きくなります。2つめは、胎盤だけに染色体の変化がある状態(胎盤限局性モザイク)の起こりやすさが染色体によって違うことです。ISPD(国際出生前診断学会)も、18トリソミーと13トリソミーは自然の頻度が低く、胎盤限局性モザイクが多いため陽性的中率が低いと述べています[1]。

また、陽性的中率は受ける人の年齢によっても変わります。同じ21トリソミー陽性でも、年齢が若く事前の確率が低い人ほど、陽性が偽陽性である割合は高くなります。2015年に一般の妊婦約1万6千人を対象にした前向き研究では、21トリソミーの陽性的中率は80.9%でした[4]。研究によって数字に幅があるのは、対象者の年齢構成や検査法の違いによるものです。年齢別の陽性的中率の考え方は感度・特異度と陽性的中率・陰性的中率で、研究デザインによって数字が変わる理由はコホート研究と症例対照研究の違いで解説しています。

陰性でもゼロにはならない

陰性の結果は、対象の染色体の変化がある可能性を大きく下げますが、ゼロにはしません。21トリソミーの検出率98.8%ということは、21トリソミーの赤ちゃんのおよそ80人に1人は陰性と判定される計算です[3]。ISPDは、陰性の人への説明に「NIPTはすべての遺伝的な病気を除外するものではなく、偽陰性も起こりうる」という注意を含めるよう求めています[1]。偽陰性の詳しいしくみはNIPTの偽陰性で扱っています。

3. 偽陽性・偽陰性の原因の全体像

NIPTの結果と赤ちゃんの染色体が食い違う原因は、「胎盤」「双子」「お母さん」「測定の限界」の4つの出どころに整理できます。次の表は、第5章の各ページで扱った原因を一覧にしたものです。

🗺️ NIPTの結果が食い違う原因の一覧

出どころ 原因 起こりやすい結果 見分ける手がかり
胎盤 胎盤限局性モザイク(CPM) 偽陽性(胎盤だけに染色体の変化がある) 羊水検査で赤ちゃん本人の染色体を確認
胎盤 まれな常染色体トリソミー(RAT)・大きな部分的異常 RATの陽性、ほかの染色体の判定への影響 羊水検査、超音波での発育の確認
双子 バニシングツイン(早期に亡くなった双子) 偽陽性、性別の食い違い 妊娠初期の超音波で胎嚢・胎児の数を確認
お母さん 母体のコピー数変化(CNV)・X染色体のモザイク 偽陽性(性染色体やCNVの判定、常染色体トリソミーの判定など) 母体の染色体検査や、必要に応じてCNVを調べる検査
お母さん 母体の悪性腫瘍 複数の染色体にまたがる異常なパターン 母体の精密検査(画像検査など)
お母さん 臓器移植・輸血の既往 性別の食い違い、予期しない結果 検査前の病歴の確認
測定の限界 胎盤由来DNAの割合(胎児分画)が低い 偽陰性、判定保留 再検査、超音波、必要に応じて確定検査

※ISPD 2023年声明[1]、Grati(2014)[2]、Snyder(2015)[5]、Turriff(2024)[6]と第5章各ページの内容をもとに作成。

胎盤に原因がある場合:胎盤限局性モザイクとまれなトリソミー

偽陽性の重要な原因の一つが、胎盤限局性モザイク(confined placental mosaicism:CPM)です。受精卵が分裂していく途中で染色体の数の誤りが起こると、胎盤になる細胞の一部だけがトリソミーになり、赤ちゃんの体は正常という状態が生まれます。NIPTのDNAは胎盤の表面の細胞から出るので、この細胞にトリソミーが十分な割合で存在すれば、NIPTは陽性になりえます。逆に、胎盤の表面の細胞は正常で、赤ちゃんの細胞にトリソミーがある胎児側のモザイクでは、NIPTは陰性になり偽陰性の原因になります。この逆の状態は胎盤限局性モザイクとは区別します[2]。

胎盤限局性モザイクは「赤ちゃんは正常だから問題なし」とは限りません。トリソミーの細胞を含む胎盤は働きが落ちることがあり、胎児発育不全などの妊娠経過との関連が報告されています[7]。そのため、偽陽性とわかった後も妊娠経過の観察が大切です。モザイクの型と、片親性ダイソミーとの関係はNIPTのモザイクとはで詳しく解説しています。

13・18・21番以外の常染色体のトリソミー(まれな常染色体トリソミー:RAT)も、ゲノム全体を調べるNIPTで見つかることがあります。RATの多くは胎盤に限られたモザイクを反映していると考えられており、赤ちゃんの確認には羊水検査が勧められています[8][1]。偽陽性の原因としての位置づけは珍しい常染色体のトリソミーや染色体の構造異常で、RATそのものの生物学は第7章のまれな常染色体トリソミー(RAT)とはで扱っています。

双子に原因がある場合:バニシングツイン

バニシングツインとは、双子の一人が妊娠の早い時期に亡くなり、超音波で見えなくなる現象です。早期に亡くなる胎児には染色体の数の異常が多く、亡くなった後もしばらくその胎盤からDNAが血液に出続けることがあります。そのため、生きている赤ちゃんは正常なのに、亡くなった双子の染色体の異常をNIPTが拾って陽性になることがあります。亡くなった双子が男の子だった場合は、女の子の赤ちゃんなのにY染色体が検出され、性別の食い違いの原因にもなります。ISPDも偽陽性の原因として双子間の染色体の食い違いを挙げています[1]。

バニシングツインは、妊娠初期の超音波で胎嚢や胎児の数を確認しておけば、多くの場合、事前に気づくことができます。しくみはバニシングツインとNIPTの偽陽性で、生き残った赤ちゃんへの影響などはバニシングツイン現象における染色体・遺伝子異常で解説しています。

お母さんに原因がある場合:CNV・モザイク・悪性腫瘍・移植

妊婦さんの血液のセルフリーDNAの大部分はお母さん自身に由来するため、お母さんの染色体の変化はNIPTの結果を大きく動かします。代表的なのは、お母さんが生まれつき持っている染色体の小さな重複や欠失(コピー数変化:CNV)です。2015年の報告では、母体のCNVがトリソミーの偽陽性を生じうることが示されました[5]。お母さんに症状がないことが多く、NIPTで初めて見つかることもあります。また、年齢とともにお母さんの血液細胞の一部でX染色体が失われることがあり、これが性染色体の判定に影響することもあります。

まれではありますが、お母さんの体の中にまだ見つかっていないがん(悪性腫瘍)があると、腫瘍から出たDNAがNIPTに混ざり、複数の染色体にまたがる異常なパターンとして現れることがあります。米国国立衛生研究所が行ったIDENTIFY研究(2024年報告)では、NIPTで通常と異なる結果が出た107人のうち52人(48.6%)にがんが見つかりました。研究用の追加解析で、3種類以上の染色体にわたってコピー数の増加と減少が混在するパターンを示した49人では、47人(95.9%)ががんでした。この研究は通常と異なる結果などで紹介された人が対象であり、これらの割合をNIPTを受ける妊婦全体や、通常の判定保留全体に当てはめることはできません。見つかったがんで最も多かったのはリンパ腫でした[6]。ゲノム全体を測る方法では、このように胎児とは関係のない母体の情報が見えてしまうことがあります。母体側の要因の全体はNIPTの偽陽性の原因:母体側の要因で、母体のCNVを解析の中でどう扱うかは第3章の母親のコピーナンバーバリアントで、母体のがんについてはNIPTで母親の「がん」が見つかる?で解説しています。

このほか、臓器移植を受けたことがある人では提供者のDNAが、最近輸血を受けた人では献血者のDNAが血液中に混ざることがあり、性別の判定などに影響します。こうした情報は検査の前に確認しておかなければ、結果の解釈を誤る原因になります。

測定の限界:胎児分画が低い場合と性別の食い違い

血液中のセルフリーDNAのうち胎盤に由来するものの割合を「胎児分画(fetal fraction)」と呼び、この割合が低いほどNIPTは正確に判定しにくくなります。妊娠の早い時期、お母さんの体重が多い場合などに胎児分画は低くなりやすく、極端に低いと判定保留や偽陰性の原因になります。ISPDは、胎児分画が非常に低いと結果の正確さが落ちること、判定保留(no call)の結果は胎児の染色体異常などの可能性が高いことと関連すると述べています[1]。基準値の考え方は第3章の胎児ゲノム率が低い=異常?4%基準と再検査の考え方で解説しています。

性別の判定と超音波や出生時の性別が食い違う場合も、ここまでの原因の組み合わせで説明できることがほとんどです。胎盤のモザイク、男の子のバニシングツイン、男性からの臓器移植、赤ちゃんの性分化の病気などが知られています。詳しくはNIPTにおける胎児の性別の不一致をご覧ください。

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4. 検査の前に大切なこと

偽陽性・偽陰性の原因の多くは、検査の前に病歴と超音波を確認し、検査でわかることとわからないことを説明しておくことで、結果を受け取る前から見通しを立てられます。表の「見分ける手がかり」の多くが検査の前に手に入る情報であることは、そのことを示しています。

病歴の確認:移植・輸血・がん・ご家族の染色体

臓器移植や骨髄移植を受けたことがあるか、最近輸血を受けたか、がんの治療歴や現在の体調の変化はあるか、ご両親やご家族に染色体の変化がわかっている人はいるか――こうした情報は、NIPTの結果を解釈するうえで欠かせません。踏み込んだ質問に感じられるかもしれませんが、これらは結果を正しく読むための医学的な情報です。移植や最近の輸血がある場合には、NIPT自体が適さないこともあります。

超音波で胎児の数と週数を確かめる

妊娠初期の超音波で、胎嚢と胎児の数、妊娠週数を確認しておくことは、バニシングツインによる偽陽性や、週数が早すぎて胎児分画が低いことによる判定保留を避けるうえで重要です。双子の妊娠ではNIPTの成績や結果の解釈が単胎と異なるため、検査前の説明に双子特有の情報を含めることが求められています[9]。

検査前の遺伝カウンセリング

国内外の指針は、NIPTを受ける前の説明(遺伝カウンセリング)を検査の一部として位置づけています。日本医学会の指針は、NIPTを検討している妊婦を対象に受検前の遺伝カウンセリングを行い、検査の対象や精度などを説明することを定めています[10]。ISPDは、検査前の説明に、本人の価値観の確認、スクリーニング検査と確定検査の違い、検査の精度と陽性的中率・陰性的中率、検査の限界、偶発的な所見の可能性、超音波の役割などを含めるよう示しています[1]。NIPTにおける遺伝カウンセリングの役割はNIPTと遺伝カウンセリングで詳しく紹介しています。

検査前の説明でもう一つ大切なのは、検査を受けるかどうかを本人が自分の意思で決めているかを確かめることです。家族などから「受けなければいけない」と言われて受ける検査では、結果を受け取ったときの判断も本人のものになりにくくなります。出生前検査は受けない選択も含めて本人が選ぶものであり、その前提を確認することも検査前の説明の役割だと考えています。

5. 陽性・陰性・判定保留のあとにすること

NIPTの結果を受け取ったあとにすべきことは、結果の種類によって異なりますが、共通する原則は「NIPTの結果だけで取り返しのつかない判断をしない」ことです。

陽性のとき:判断の前に確定検査

NIPTが陽性でも、それは「赤ちゃんに染色体の変化がある可能性が高い」という意味であり、診断ではありません。ISPDは、陽性の結果を受けた妊婦が妊娠の中断を考えている場合、遺伝カウンセリングと確定検査を受けることを強く推奨しています[1]。米国産科婦人科学会(ACOG)が承認した2025年の米国母体胎児医学会(SMFM)の現行指針も、陽性の人には遺伝カウンセリングと詳しい超音波検査を行い、確定検査で確かめる機会を提供すべきとし、NIPTは確定検査と同等ではないと明記しています[9]。日本医学会の指針も、陽性の結果は確定的検査を受ける相当の理由になるとしています[10]。

確定検査には羊水検査と絨毛検査がありますが、偽陽性の重要な原因の一つが胎盤限局性モザイクであることを考えると、絨毛(胎盤の組織)を調べる絨毛検査では、NIPTと同じ胎盤の異常を見てしまうおそれがあります。ISPDは、13トリソミー・45,X陽性で超音波に異常がない場合や、RATが陽性の場合には、羊水検査が望ましいとしています[1]。どの検査をいつ選ぶかはNIPTで陽性の結果がでたときの確定診断で、検査の方法は羊水検査・絨毛検査と羊水検査の迅速検査(FISH・QF-PCR)で解説しています。

陰性のとき:可能性は低いがゼロではない

陰性の結果は、対象とした染色体の変化の可能性を大きく下げますが、偽陰性はゼロではなく、NIPTの対象外の病気は調べられていません[1]。陰性の後でも、妊婦健診の超音波で赤ちゃんの形や発育に気になる所見が見つかった場合には、NIPTの結果にかかわらず確定検査を検討します。超音波の所見はNIPTとは別の情報であり、陰性の結果がそれを打ち消すわけではありません。

判定保留のとき:再検査と追加の確認

判定保留は「異常」という意味ではありませんが、ISPDは判定保留の結果が胎児の染色体異常などの可能性が高いことと関連すると述べています[1]。2022年の統合解析では、判定不能の割合は0.85%でした[3]。判定保留になった場合は、遺伝カウンセリング、詳しい超音波検査、確定検査という選択肢の提示が必要です。再採血を選ぶ場合は、妊娠週数や超音波所見、確定診断が遅れる可能性を踏まえて次の手順を検討します[9]。

💡 用語解説:胎盤限局性モザイク(CPM)

胎盤の一部の細胞にだけ染色体の数の変化があり、赤ちゃんの体の細胞は正常である状態です。受精卵が分裂していく途中で染色体の分配の誤りが起こり、その細胞が胎盤のほうへ分かれていくことで生じます。NIPTは胎盤の表面の細胞から出たDNAを測るため、その細胞に染色体の変化が十分な割合で存在すると陽性になることがあります。逆の組み合わせ(胎盤の表面の細胞は正常で赤ちゃんに変化がある)は偽陰性の原因になりますが、胎盤限局性モザイクとは区別します。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【NIPTは胎盤の「正直な報告書」】

NIPTの偽陽性は「検査の間違い」と表現されることがよくあります。けれども、胎盤限局性モザイクやお母さんのCNVによる陽性は、検査が測っているものを正しく測った結果です。NIPTは赤ちゃんの染色体の報告書ではなく、胎盤とお母さんの血液のDNAについての正直な報告書だと考えると、結果の読み方が変わります。

だからこそ、NIPTの結果を赤ちゃんの診断に置き換えるには、赤ちゃん本人の細胞を調べる確定検査という別の手順が必要になります。結果がどうであれ、取り返しのつかない判断は確定検査の後に行うこと――これが第5章全体を通して最も伝えたいことだと考えています。

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6. 第5章のまとめと各ページへの道案内

第5章では、NIPTが高い精度をもちながら確定検査ではない理由を、検査の考え方、研究の読み方、偽陽性・偽陰性の原因、確定検査の順にたどってきました。気になるテーマから読み進められるよう、各ページの内容を一覧にしました。

📚 第5章「何故NIPTは非確定的検査なのか」のページ一覧

ページ わかること
はじめに 精度が高くても確定診断にならない理由の全体像
診断的検査とスクリーニング検査 確定検査とスクリーニング検査の定義・目的・結果の意味
コホート研究と症例対照研究 NIPTの精度を確かめた研究の組み立て方
エビデンスレベル 研究デザインごとの信頼性の序列
感度・特異度と陽性的中率 年齢や染色体の種類で陽性の意味が変わる理由
胎盤限局性モザイク 偽陽性の重要な原因とモザイクの型
バニシングツイン 亡くなった双子のDNAが結果に影響するしくみ
珍しいトリソミーと構造異常 RATや大きな部分的異常が偽陽性になる理由
胎児の性別の不一致 性別の判定が食い違う原因
母体側の要因 母体のCNV・モザイク・悪性腫瘍・移植など
陽性のときの確定検査 羊水検査・絨毛検査の選び方と検査方法
NIPTの偽陰性 陰性なのに染色体の変化がある理由

※NIPT教科書シリーズ第5章の構成です。

第6章へ:双子妊娠のNIPT

第5章で見たように、双子の存在はNIPTの結果に大きく影響します。バニシングツインのように一人が亡くなった場合だけでなく、双子がともに育っている場合にも、胎盤由来のDNAが2人分混ざるため、検査の精度や結果の解釈は単胎とは異なります。次の第6章双胎妊娠におけるNIPTの役割では、卵性・膜性の違いから、双子でのNIPTの精度、陽性だったときの対応までを扱います。

よくある質問(FAQ)

Q1. NIPTの結果が間違うことはありますか?

あります。NIPTが調べているのは主に胎盤とお母さんに由来する血液中のDNAなので、胎盤だけに染色体の変化がある場合や、お母さんの染色体の変化・腫瘍の影響がある場合には、赤ちゃん本人の染色体と食い違う結果が出ます。2022年の統合解析では、21トリソミー陽性のうち本当に21トリソミーだったのは91.8%、13トリソミー陽性では37.2%でした。

Q2. NIPTで陰性なら、赤ちゃんに染色体の異常はないと考えてよいですか?

対象の染色体の変化がある可能性は非常に低くなりますが、ゼロではありません。21トリソミーの検出率は98.8%と報告されており、偽陰性も起こりえます。また、NIPTの対象外の病気は調べられていません。超音波で気になる所見があれば、NIPTの結果にかかわらず確定検査を検討します。

Q3. NIPTの偽陽性の一番多い原因は何ですか?

重要な原因の一つが、胎盤の一部の細胞にだけ染色体の数の変化がある胎盤限局性モザイクです。NIPTは胎盤から出たDNAを測るため、赤ちゃんの体は正常でも陽性になることがあります。このほか、双子の一人が早期に亡くなるバニシングツイン、お母さんの染色体の小さな重複・欠失(CNV)、まれにお母さんの悪性腫瘍が原因になります。

Q4. NIPTで陽性だったら、どうすればよいですか?

妊娠についての判断をする前に、遺伝カウンセリングを受け、羊水検査などの確定検査で赤ちゃん本人の染色体を確かめることが国内外の指針で求められています。偽陽性の原因に胎盤のモザイクがあるため、13トリソミー・45,X陽性で超音波に異常がない場合や、まれなトリソミーが陽性の場合には、羊水検査が望ましいとされています。

Q5. 判定保留(再検査)になったのは異常があるからですか?

判定保留は異常という意味ではありません。胎盤由来DNAの割合が低いことが主な理由で、妊娠の早い時期やお母さんの体重などが影響します。ただし、判定保留の結果は胎児の染色体異常などの可能性の上昇と関連すると報告されているため、遺伝カウンセリングと詳しい超音波検査を行い、確定検査という選択肢も提示したうえで、再採血を含めて次の手順を検討します。

まとめ:NIPTの結果を「診断」に変えるのは確定検査

NIPTの結果が赤ちゃんの染色体と食い違うのは、NIPTが主に胎盤とお母さんに由来するDNAを測っているためです。その原因は、胎盤限局性モザイクやまれなトリソミー(胎盤)、バニシングツイン(双子)、母体のCNV・悪性腫瘍・移植や輸血(お母さん)、胎児分画の低さ(測定の限界)に整理できます[1][2][5][6]。

2022年の統合解析では、陽性的中率は21トリソミーで91.8%、18トリソミーで65.8%、13トリソミーで37.2%と、染色体の種類によって大きく異なりました[3]。だからこそ、検査の前に病歴と超音波を確認して検査前の説明を受け、陽性であれば判断の前に確定検査で確かめることが、国内外の指針で共通して求められています[1][9][10]。ACMGは一般の妊婦の単胎妊娠でNIPTを従来のスクリーニングより推奨していますが[11]、それはスクリーニング検査としての評価であり、確定検査の代わりになるという意味ではありません。第5章はここで終わり、次は第6章 双胎妊娠におけるNIPTの役割へ進みます。

🧬 NIPT・出生前診断をご検討の方へ

ミネルバクリニックには臨床遺伝専門医が常駐しており、NIPTの検査前の説明から、結果に応じた確定検査の案内までを行っています。偽陽性・偽陰性が起こるしくみや、陽性・判定保留の結果をどう受け止めるかについても、医学的な根拠に基づいて説明します。

参考文献

  • [1] Hui L, et al. Position statement from the International Society for Prenatal Diagnosis on the use of non-invasive prenatal testing for the detection of fetal chromosomal conditions in singleton pregnancies. Prenat Diagn. 2023;43(7):814-828. [DOI]
  • [2] Grati FR, et al. Fetoplacental mosaicism: potential implications for false-positive and false-negative noninvasive prenatal screening results. Genet Med. 2014;16(8):620-624. [PubMed 24525917]
  • [3] Rose NC, Barrie ES, Malinowski J, et al. Systematic evidence-based review: The application of noninvasive prenatal screening using cell-free DNA in general-risk pregnancies. Genet Med. 2022;24(7):1379-1391. [DOI]
  • [4] Norton ME, et al. Cell-free DNA Analysis for Noninvasive Examination of Trisomy. N Engl J Med. 2015;372(17):1589-1597. [PubMed 25830321]
  • [5] Snyder MW, et al. Copy-Number Variation and False Positive Prenatal Aneuploidy Screening Results. N Engl J Med. 2015;372(17):1639-1645. [DOI]
  • [6] Turriff AE, et al. Prenatal cfDNA Sequencing and Incidental Detection of Maternal Cancer. N Engl J Med. 2024;391(22):2123-2132. [DOI]
  • [7] Eggenhuizen GM, et al. Confined placental mosaicism and the association with pregnancy outcome and fetal growth: a review of the literature. Hum Reprod Update. 2021;27(5):885-903. [DOI]
  • [8] Lannoo L, et al. Rare autosomal trisomies detected by non-invasive prenatal testing: an overview of current knowledge. Eur J Hum Genet. 2022;30:1323-1330. [DOI]
  • [9] Society for Maternal-Fetal Medicine (SMFM), Rink BD, Dugoff L, Kuller JA, SMFM Publications Committee. Society for Maternal-Fetal Medicine Consult Series #74: Cell-free DNA screening for aneuploidies: Updated guidance. Pregnancy. 2025;1(6):e70139. ACOGが承認した現行指針。[全文]
  • [10] 日本医学会 出生前検査認証制度等運営委員会. NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び施設(医療機関・検査分析機関)認証の指針. 2022年2月. [PDF]
  • [11] Dungan JS, et al. Noninvasive prenatal screening (NIPS) for fetal chromosome abnormalities in a general-risk population: An evidence-based clinical guideline of the American College of Medical Genetics and Genomics (ACMG). Genet Med. 2023;25(2):100336. [DOI]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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