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頭蓋前頭鼻骨異形成症(CFND)は、X染色体上のEFNB1遺伝子の変化によって、頭蓋骨・顔・鼻を中心に多彩な生まれつきの変化を起こす、10万人に1人未満の非常にまれな疾患です。最大の特徴は、X染色体の病気でありながら女性のほうが重く、男性は軽くなる「逆説的な性差」。このふしぎなしくみを、臨床遺伝専門医がやさしく解説します。
Q. 頭蓋前頭鼻骨異形成症(CFND)とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. X染色体にあるEFNB1遺伝子の変化が原因で、頭の縫い目が早く閉じる・左右の目が大きく離れる・鼻先が縦に割れる、などを特徴とする希少なX連鎖性の先天性疾患です。別名を頭蓋前頭鼻骨症候群(CFNS/OMIM 304110)といいます。最大の特徴は、女性のほうが重く、男性は軽い(逆説的な性差)こと。知能は多くの場合で正常範囲に保たれます。
- ➤疾患の定義 → OMIM 304110、Orphanet ORPHA:1520、有病率は10万人に1人未満。別名CFNS
- ➤原因遺伝子 → X染色体上のEFNB1。タンパク質「エフリンB1」が細胞どうしの境界づくりを担う
- ➤主な症状 → 冠状縫合早期癒合症・眼窩隔離症・二分鼻尖、爪や毛髪の変化など
- ➤逆説的な性差 → なぜ女性で重く男性で軽いのか(X染色体不活性化と「細胞干渉」)
- ➤診断・検査・支援 → 出生後・出生前それぞれの検査の進め方と遺伝カウンセリング
1. 頭蓋前頭鼻骨異形成症(CFND)とは
頭蓋前頭鼻骨異形成症は、英語名 Craniofrontonasal Dysplasia の頭文字をとってCFNDと呼ばれます。名前は「頭蓋(cranio=頭の骨)」「前頭(fronto=おでこ)」「鼻(nasal=鼻)」という、症状があらわれやすい場所の組み合わせに由来しています。同じ病気を、国際的な遺伝病データベースであるOMIM(オミム)では頭蓋前頭鼻骨症候群(Craniofrontonasal Syndrome/CFNS)、登録番号304110として収載しています。CFNDとCFNSは、呼び方が違うだけで同じ疾患を指します。希少疾患データベースOrphanetにも「ORPHA:1520」として登録されています[1]。
この病気は、全世界で新生児10万人あたり1人未満と推定される、希少疾患のなかでもとりわけまれな疾患です。これまでに医学文献で報告された患者さんは100〜150人程度とされ、その多くは欧米からの報告ですが、アジアの家系でも確定診断例が報告されており、人種を問わず起こりうることがわかっています。疾患として体系的に記述されたのは1979年で、比較的新しく整理された疾患群のひとつです[2]。
CFNDの最大の特徴は、「女性のほうが重く、男性は軽い」という、ふつうのX染色体の病気とは正反対の遺伝のしかたです。血友病などのよく知られたX連鎖性疾患では、X染色体が1本しかない男性が重症になります。ところがCFNDでは、X染色体を2本持つ女性に、頭蓋骨の縫い目の早期癒合や強い顔の左右差などの重い症状が出る一方で、変化を持つ男性は目の間隔が少し広い程度の軽い症状にとどまったり、まったく症状が出ない(未発症の保因者)こともめずらしくありません。この一見ふしぎな現象には、後の章で説明する明確な生物学的なしくみがあります。
💡 用語解説:X連鎖顕性(優性)遺伝
原因となる遺伝子がX染色体(性別に関わる染色体)の上にあり、変化したX染色体を1本受け継ぐだけで症状が出るタイプの遺伝です。「顕性(けんせい)」は以前「優性(ゆうせい)」と呼ばれていた言葉で、意味は同じです。X連鎖の遺伝のしくみ全体についてはX連鎖遺伝の解説ページもあわせてご覧ください。
2. 原因遺伝子EFNB1と「エフリンB1」のしくみ
CFNDの直接の原因は、X染色体の長い腕のXq13.1という場所にあるEFNB1遺伝子の変化(バリアント)です。この遺伝子は、細胞の表面に並ぶ「エフリンB1(ephrin-B1)」というタンパク質をつくる設計図です。エフリンB1は、隣り合う細胞の表面にあるEph(エフ)受容体と結びついて、細胞どうしが「近づくか・離れるか」を伝え合う目印として働きます。胎児のからだづくりの時期に、顔や頭蓋骨のもとになる細胞(神経堤細胞)が正しい場所に並ぶよう、いわば交通整理の役を果たしているのです。
💡 用語解説:リガンドとEph受容体
細胞どうしが連絡を取り合うとき、片方の細胞が出す「メッセージ役の分子」をリガンド、それを受け取る相手側の「アンテナ」を受容体と呼びます。エフリンB1はリガンドの代表で、その相手が「Eph受容体」です。エフリンB1のおもしろい点は、メッセージを送る側(エフリンB1を持つ細胞)の中にも信号が返ってくる「双方向シグナル」を起こすこと。この詳しいしくみは、姉妹ページで丁寧に解説しています。
EFNB1の変化はこれまでに世界で100種類以上が報告されており、その大部分(およそ3分の2)は、エフリンB1が相手と結合する大切な部分(エクソン2・3)に集中しています[3]。変化のタイプはさまざまで、いずれも結果としてエフリンB1の働きが失われたり弱まったりして、胎児期の細胞どうしの連絡が乱れます。エフリンB1がどのように脳・顔・骨の発生を導くのか、変化の種類が分子レベルで何を引き起こすのかは、原因遺伝子そのものの解説ページで詳しくまとめています。
💡 用語解説:変化(バリアント)の主な種類
ミスセンス変異…DNAが1か所変わり、アミノ酸が別の種類に入れ替わるタイプ。タンパク質の形や働きが変わります。
ナンセンス変異…途中に「終わりの合図」ができてしまい、タンパク質が短く打ち切られるタイプ。
フレームシフト変異…DNAの読み枠がずれ、その先のアミノ酸がすべて変わってしまうタイプ。
3. 主な症状と表現型のひろがり
CFNDの症状は、頭や顔だけにとどまらず、骨格・皮膚・毛髪・爪、ときに内臓まで、全身の幅広い範囲にあらわれます。前述のとおり症状の強さには大きな個人差があり、女性で強く、男性では軽いことが多い点が特徴です。ここでは代表的な所見を、からだの部位ごとに整理します。
① 頭蓋・顔の特徴(もっとも目立つ部分)
もっとも頻度が高く、臨床的にも重要なのが冠状縫合早期癒合症(かんじょうほうごうそうきゆごうしょう)です。頭蓋骨の縫い目が脳の成長より先に閉じてしまうことで、頭の形がいびつになり(前後に短く左右に広い短頭症や、おでこの突出など)、顔の左右差が生じます。また、左右の目の間隔が大きく開く眼窩隔離症(がんかかくりしょう)は、男女ともに最も一貫してみられる所見です。鼻すじが平たく広がり、鼻先が縦に割れる二分鼻尖(にぶんびせん)も、視覚的に気づかれやすい特徴です。このほか、眼裂が外側に下がる、斜視、口の天井が深いアーチ状になる高口蓋、ときに口蓋裂を伴うこともあります。
💡 用語解説:冠状縫合早期癒合症
赤ちゃんの頭蓋骨は、脳の急成長に合わせて広がれるよう、いくつかの骨に分かれています。そのつなぎ目(縫合)のうち、耳から耳へ頭を横切る「冠状縫合」が早く閉じてしまう状態です。骨がその方向に広がれなくなるため頭の形が変わり、脳が育つスペースが足りなくなると頭蓋内圧が上がることがあります。早期の評価と、必要に応じた手術が大切です。
💡 用語解説:眼窩隔離症(hypertelorism)と二分鼻尖
眼窩隔離症は、左右の目(眼窩)の間隔が解剖学的に大きく開いている状態です。CFNDでは男女を問わず最もよくみられ、軽症の男性では「目が少し離れている」だけが唯一の所見ということもあります。二分鼻尖は、鼻の先が中央で縦にくぼんだり、二つに割れて見えたりする状態で、報告された患者さんの約9割という高い割合でみられます。
② 骨格・胸郭の特徴
顔以外の骨格にも幅広い変化がみられます。肩のあたりでは、鎖骨の形成不全を伴う著しい「なで肩」や、肩甲骨が高い位置にとどまることがあります。胸郭では、漏斗胸(胸の中央がへこむ)や鳩胸、左右差、側弯症が起こることがあります。手足では、第5指(小指)が内側に曲がる斜指症、指全体が短い短指症、第3指と第4指の間の皮膚性の合指症、親指・足の親指の幅が広いといった特徴のほか、関節が柔らかい(過可動性)方もいます。
③ 皮膚・毛髪・爪(外胚葉組織)の特徴
皮膚・毛髪・爪に特有の変化がみられるのも、この病気の大きな手がかりです。髪は乾いてごわつき縮れやすく、おでこの中央に髪がV字に垂れる「富士額」、後頭部の生え際が低い、左右の眉がつながる癒合眉などがみられます。とくに爪に縦の深い溝が入る・縦に割れる・もろくなるといった爪の変化は浸透率が高く、男女を問わず診断の強い視覚的な手がかりになります。首の横に皮膚のたるみができる翼状頸や、乳房の付着位置が低い、片側の乳房の発達が遅れる・欠ける、といった所見も報告されています。
④ 神経系・内臓の所見
頭部MRIで、左右の脳をつなぐ脳梁の欠損や形成不全が偶然みつかることがあります。知能や認知機能は多くの場合で正常範囲に保たれますが、ことば・運動・社会性の発達がゆっくりな例もみられます。聴こえについては、伝音性・感音性のいずれの難聴も報告されています。頻度は高くないものの、先天性横隔膜ヘルニアや臍ヘルニアといった重い合併症、女性の双角子宮、男性の尿道下裂などの泌尿生殖器の所見が伴うこともあります。
CFND患者で報告される主な所見の頻度(症例集積より)
※ EFNB1の変化が確定したCFND患者さんの症例集積(コホート)で報告された割合です。報告や集団によって頻度には幅があります。なかでも眼窩隔離症は男女ともに最も一貫してみられる所見です[6]。
4. なぜ女性で重く出るのか:X連鎖と「細胞干渉」
CFND最大の謎が、「変化を1つしか持たない女性のほうが、変化のみを持つ男性より重くなる」という逆説です。長らく不思議とされてきたこの現象は、近年「細胞干渉(さいぼうかんしょう)」というしくみで合理的に説明されるようになりました。カギを握るのは、女性のからだだけに起こるX染色体不活性化(ライオニゼーション)です。
💡 用語解説:X染色体不活性化(ライオニゼーション)
女性は2本のX染色体を持ちますが、発生の初期に細胞ごとにどちらか一方を「お休み(不活性化)」させて、働く量を男性と同じに調整します。その結果、CFNDの女性のからだは「正常なエフリンB1をつくる細胞」と「まったくつくらない細胞」がモザイク状(パッチワーク状)に混ざった状態になります。どちらが休むかは細胞ごとにランダムなので、混ざり方は人によって大きく異なります。詳しくはX染色体不活性化の解説ページをご覧ください。
問題は、顔や頭蓋骨をつくる組織のなかで「働く細胞」と「働かない細胞」が混ざると何が起こるか、です。本来エフリンB1は細胞どうしの境界をきれいに引く役目を持っています。ところが性質の違う細胞がランダムに隣り合うと、本来あってはならない場所に異常な「境界」ができ、細胞の選別や移動が大きく乱れます。この混乱が、顔の正中部の癒合不全(二分鼻尖など)や冠状縫合の早期癒合を直接引き起こすと考えられています。これが「細胞干渉」です。
💡 用語解説:細胞干渉(cellular interference)
「正常な細胞」と「変化を持つ細胞」が混ざり合うこと自体が、組織づくりをかえって乱してしまう現象です。混ざっていることがかえって害になる、という直感に反する考え方で、遺伝学の教科書級の発見とされています。
では、なぜ男性は軽いのでしょうか。変化を持つ男性はX染色体が1本だけなので、からだのすべての細胞が一様にエフリンB1を持たない、均一な状態です。性質の違う細胞が混ざらないため、境界の「摩擦」がそもそも起こりません。さらに、似た働きをするほかのエフリン分子が機能をある程度肩代わりできるため、大きな顔や頭蓋の崩れは避けられると考えられています。なお、EFNB1は不活性化を逃れるエスケープ遺伝子ではなく、きちんと不活性化される遺伝子である点も、このモザイク現象が成立する前提になっています。
💡 用語解説:偏ったX染色体不活性化(SXCI)
どちらのX染色体を休ませるかは細胞ごとにランダムですが、その比率が大きく一方に偏ることがあります。これを「偏ったX染色体不活性化(SXCI)」と呼びます。CFNDでは、この比率と細胞の混ざり方のばらつきが、同じ家系内の母と娘でさえ症状の重さが大きく異なる理由になっていると考えられています。つまり症状の差は変化の「種類」ではなく、発生のときの混ざり方の偶然に大きく左右されます。
この細胞干渉仮説は、「女性なみに重い男性患者」を詳しく調べることで決定的に証明されました。本来は軽症のはずの男性がなぜ重症になったのかを高感度の遺伝子解析で調べたところ、これらの男性は全例で体細胞モザイク——受精直後やごく初期に変化が生じ、正常な細胞と変化を持つ細胞が体内に混在している状態——を持っていました[5]。全身に均一に変化を持つ「真の男性」より、混ざった状態の男性のほうが重いという事実は、変化したタンパク質そのものが毒なのではなく、「不均一に混ざっていること」こそが組織づくりを壊す本質であることを示しています。
5. 診断の進め方と鑑別診断
診断はまず、特徴的な顔つき(とくに強い眼窩隔離症と二分鼻尖)・頭蓋の変形・爪の縦溝や縮れ毛といった所見の組み合わせから、CFNDを臨床的に疑うところから始まります。家族歴の聞き取りも重要で、罹患した母親からは息子・娘の双方に50%、軽症・無症状の罹患男性からはすべての娘に必ず(息子には決して)伝わる、というX連鎖特有のパターンが手がかりになります。
臨床的な疑いを確定診断に結びつけるには、EFNB1遺伝子の変化を分子遺伝学的検査で同定することが必要です。血液・唾液・毛根などからDNAを取り出し、まずは遺伝子の全コード領域を読むシーケンス検査を行います。最大規模の研究では、この方法で臨床的にCFNSと診断された患者さんの約87〜89%に病的変化が同定されています[4]。シーケンスで見つからない場合や、女性で正常側の信号に変化が隠れる可能性がある場合には、欠失・重複解析(MLPA法など)を追加します。とくに重症男性でみられる低い割合の体細胞モザイクを正確に検出するうえで、高感度の解析が決め手になります。
💡 用語解説:NGS と MLPA法
NGS(次世代シーケンス)は、多数の遺伝子をまとめて高精度に読む検査法で、ミスセンス変異など小さな変化の検出が得意です。MLPA法は、エクソン単位や遺伝子全体といった「広い範囲の欠失・重複」や、低い割合で混ざるモザイクの検出が得意な手法です。両者を組み合わせることで、見落としを減らせます。
よく似た疾患との鑑別
CFNDは、前頭鼻部の異形成や眼窩隔離症を示すほかの症候群とよく似るため、正確な鑑別が予後予測と治療計画に欠かせません。臨床的にCFNDの特徴をそろえているように見えても、徹底的な解析でEFNB1に変化が見つからない例が約20%あると報告されており、診断では常に鑑別の余地を残しておく必要があります[2]。
| 鑑別疾患 | 主な原因遺伝子 | 遺伝形式 | CFNDとの鑑別のポイント |
|---|---|---|---|
| 単独性眼窩隔離症 | 多様 | 多様 | 爪・毛髪や縫合の異常を伴わない。CFNDの軽症男性例と酷似するため、遺伝子検査と家族歴の確認が必須。 |
| Baraitser-Winter症候群 | ACTB, ACTG1 | 常染色体顕性(優性) | 著しい眼窩隔離症を伴うが、脳回形成異常(滑脳症など)と知的障害が前面に出る点が異なる。 |
| Pai症候群 | 不明 | 散発性 | 上唇正中裂・顔面のポリープ・脳梁脂肪腫を三徴とし、縫合早期癒合はまれ。 |
| ALX関連前頭鼻骨異形成症 | ALX1, ALX3, ALX4 | 常染色体潜性(劣性)/顕性(優性) | X連鎖の逆説的な性差がない。重症型では無眼球症など重い眼球形成不全を伴うことがある。 |
| Apert症候群 | FGFR2 | 常染色体顕性(優性) | 尖頭に手指の重い癒合(ミトン様手)を伴い、毛髪・爪の異常という症状セットが大きく異なる。 |
変化の解釈は専門性が問われる部分です。同定された所見が病的かどうかの判断や、ほかの症候群との見極めには、臨床遺伝専門医による評価が重要になります。
6. 検査の選択肢(出生後・出生前)
EFNB1に関わる検査は、生まれた後(出生後)と生まれる前(出生前)で道筋が大きく異なります。混同しやすいため、分けて理解しておくことが大切です。
出生後の検査
お子さんに頭蓋の縫い目の早期癒合や特徴的な顔つきがみられ、CFNDなどが疑われる場合は、血液や唾液などのDNAを次世代シーケンスで網羅的に調べます。当院では、EFNB1を含む頭蓋・顔面の発生に関わる多数の遺伝子を一度に調べられる頭蓋骨縫合早期癒合症(狭頭症)NGS遺伝子検査パネルをご用意しています。複数の遺伝子を1回でまとめて調べられるため、原因を効率よく探せます。
出生前の検査
ご家族にすでにEFNB1の変化がわかっている場合などには、妊娠中の確定検査として絨毛検査・羊水検査を選ぶことができます。既知の変化が特定されていれば、その有無を確実に調べられます。また、母体の血液で赤ちゃんのDNAを調べるNIPT(非確定的なスクリーニング検査)でも、EFNB1を含む単一遺伝子を対象にしたプランがあります。当院ではダイヤモンドプランや、より広い範囲を対象とするインペリアルプランにEFNB1が含まれています。
そして大切な点として、CFNDは症状の幅がとても広く、出生前にEFNB1の変化が見つかっても、生まれてくるお子さんの症状の重さを正確に予測することはできません。検査を受けることが常に「安心」につながるとは限らないため、受けるかどうかは、十分な情報を得たうえでご家族が主体的に決めていただくことが何より大切です。
7. 治療と長期的な管理
CFNDの症状の出方は一人ひとり大きく異なるため、すべての患者さんに当てはまる画一的な「標準治療」は存在しません。治療の目標は、各患者さんの状態に合わせて、呼吸・摂食という生命維持の機能を守りつつ、社会生活で大切な見た目のバランスを整えることです。そのためには、頭蓋顎顔面外科・脳神経外科・形成外科を中核に、眼科・耳鼻咽喉科・言語聴覚士・歯科矯正・臨床心理士・臨床遺伝専門医などが連携する集学的チーム医療が前提になります。
乳幼児期:呼吸と栄養の確保が最優先
乳幼児期に生命を直接おびやかしうる最大のリスクは、複雑な頭蓋顔面の構造による気道閉塞と、それに伴う摂食障害です。鼻の奥の通り道が狭い・閉じている(後鼻孔狭窄・閉鎖)、極端な小さい顎による舌根の沈下、下気道の構造異常などにより、複数のレベルで呼吸障害が起こりえます。授乳中にしばしば乳首を離す・小鼻が張る・胸がへこむといった切迫したサインに注意し、すべての多発性頭蓋縫合癒合の患者さんに早期の内視鏡的な気道評価が強くすすめられています。気道確保が困難な重症例では、気管内挿管や気管切開が必要になることもあります。摂食障害には、成長曲線と栄養状態を厳密にみながら、必要に応じて経管栄養を導入します。
外科的再建のタイミング
手術は、脳の発達空間の確保・気道の維持・顔面骨格の成長段階を総合的に考えて、長期のロードマップとして計画されます。冠状縫合早期癒合症に対しては、頭蓋内圧の上昇を防ぎ脳が育つ空間を確保するための頭蓋形成術が、乳児期に優先して行われます。一方、眼窩隔離症の是正や鼻・上顎の形の根本的な再建は、骨の成長と強度が確保される5歳以降〜青年期へ段階的に延期されることが多くなります。斜視や眼振による視力発達への影響を防ぐため、眼科的な矯正手術も適切な時期に計画されます。
長期予後
新生児期の重い気道閉塞や横隔膜ヘルニアなどの致死的合併症を乗り越えることができれば、寿命は一般集団と同等を期待できます。知能も大多数で正常範囲に保たれます。一方で、見た目の違い・くり返す外科手術の負担・難聴やことばの困難などは、長期の生活の質や心理社会的な発達に影響しうるため、生涯にわたる心理的サポートと教育的支援が、外科治療と同じくらい重視されます。
8. 遺伝カウンセリングと家族計画
CFNDの診断が確定したら、ご家族への丁寧な遺伝カウンセリングが大切になります。臨床遺伝専門医は特定の選択を「すすめる」のではなく、正確な情報をお伝えして、決定はご家族に委ねる中立・非指示的な立場をとります。
- ➤遺伝形式と再発リスク:罹患した女性は、子どもの性別に関わらず毎回50%の確率で変化を受け渡します。罹患した(軽症キャリアを含む)男性は、すべての娘に必ず受け渡し、息子には決して受け渡しません。
- ➤新生突然変異(de novo):ご両親には変化がなく、お子さんで初めて生じることも少なくありません。新たに生じる変化は父親由来の生殖細胞で起こることが多いと報告されています。
- ➤症状の幅の説明:同じ変化でも、女性と男性、また個人によって重さが大きく異なります。「見つかった=重症」とは限らないことを丁寧に共有します。
- ➤出生前診断の選択肢:次のお子さんを望む場合、既知の変化があれば絨毛検査・羊水検査による出生前診断が選択肢になります。
多くのCFND家系では「家系図に罹患男性(キャリア男性)が極端に少ない」ことが知られています。これは、新しく生じる変化が父方の生殖細胞で起こりやすく罹患した娘として現れること、そして重い形態異常を持つ患者さんの生殖適応度が下がることが主な理由と考えられています(受精後に生じる体細胞モザイクも女性優位に寄与します)[5]。
9. よくある誤解
誤解①「X染色体の病気だから男性が重い」
CFNDは逆です。X染色体を2本持つ女性のほうが重く出るのが特徴で、これは細胞干渉という独特のしくみによります。
誤解②「変化の種類で重症度が予測できる」
CFNDでは、変化の種類と症状の重さに明確な相関は認められていません。重さは主に発生時のX染色体不活性化のばらつき(偶然)に左右されます。
誤解③「親が健康なら遺伝ではない」
ご両親に変化がなく、お子さんで初めて生じる新生突然変異(de novo)もあります。「両親が健康だから関係ない」という思い込みが診断を遅らせることがあります。
誤解④「CFNDとCFNSは別の病気」
同じ病気の別の呼び方です。OMIMでは頭蓋前頭鼻骨症候群(CFNS/304110)として収載され、Orphanetでは「dysplasia(異形成症)」の名で登録されています。
🏥 希少疾患の診断・遺伝カウンセリングについて
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臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にお問い合わせください。
よくある質問(FAQ)
参考文献
- [1] Orphanet. Craniofrontonasal dysplasia(ORPHA:1520). [Orphanet]
- [2] OMIM #304110. CRANIOFRONTONASAL SYNDROME; CFNS. Johns Hopkins University. [OMIM]
- [3] Twigg SR, et al. Mutations of ephrin-B1 (EFNB1), a marker of tissue boundary formation, cause craniofrontonasal syndrome. PNAS. 2004;101(23):8652-8657. [PNAS]
- [4] Twigg SR, et al. The origin of EFNB1 mutations in craniofrontonasal syndrome: frequent somatic mosaicism and explanation of the paucity of carrier males. Am J Hum Genet. 2006;78(6):999-1010. [PMC1474108]
- [5] Wieland I, et al. Cellular interference in craniofrontonasal syndrome: males mosaic for mutations in the X-linked EFNB1 gene are more severely affected than true hemizygotes. Hum Mutat. 2013. [PMC3605834]
- [6] van den Elzen ME, et al. Phenotypes of craniofrontonasal syndrome in patients with a pathogenic mutation in EFNB1. Eur J Hum Genet. 2014. [PubMed]
- [7] MedlinePlus Genetics. Craniofrontonasal syndrome. [MedlinePlus]
- [8] Aberrant cell segregation in the craniofacial primordium and the emergence of facial dysmorphology in craniofrontonasal syndrome. PLOS Genet. 2019. [PLOS Genetics]



