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【開院11周年】「ただ検査に出すだけ」ではない。12年目を迎えたミネルバクリニックのこだわりと軌跡

NIPT 保因者(キャリア)スクリーニング 遺伝子検査

【開院11周年】「ただ検査に出すだけ」ではない。12年目を迎えたミネルバクリニックのこだわりと軌跡

開院11周年を迎えて|ミネルバクリニック

本日、2025年12月1日。
ミネルバクリニックは開院から11年が経ち、12年目という新たな一歩を踏み出しました。

この11年間、本当にいろいろなことがありました。
「世界中のラボに必要な検査を出せる体制を構築する」
言葉で言うのは簡単ですが、それを行うまでの間には、ラボと数えきれないほどのやり取りをしなければなりません。

世界とつながるための「見えない壁」

まず直面したのは、検体の「輸送」という壁です。
海外の検査機関に検体を出すには、税関を通らなければなりません。
血液や唾液、口腔粘膜といった検体は、基本的にすべて「感染性のあるもの」として扱われます。

特に9.11以降、世界的にバイオテロへの警戒が強まり、検体を送ること自体のハードルが極端に上がっていました。
それ用の特別な書類を作成し、厳しい規制をクリアしなければ、税関を通過することすらできません。

前例の少ない中、一つひとつ手探りで解決し、道を作ってきたのが私たちの11年です。

もっとも重要な「遺伝子検査会社選び」

そして、輸送以上に重要だったのが、提携する遺伝子検査会社選びです。

正直なところ、シーケンス(DNAのアデニン・グアニン・シトシン・チミンの塩基配列を読むこと)自体は、シーケンサー(解析機)さえ買えば誰でもできます。
しかし、そこから先の「この変異(バリアント)が何を意味しているのか」を見極めることこそが難しく、最も重要なのです。

💡 なぜ「解釈」が専門医の真骨頂なのか?

遺伝子検査はよく「読書」に例えられます。

🔬 シーケンス(読み取り)

「文字の羅列を読み取る作業」です。
機械(シーケンサー)があれば誰でもできます。

例:「ここに『ア』ではなく『イ』という文字がある」と見つけること。

🧠 解釈(インタープリテーション)

「その文字の違いが、物語(人体)にどう影響するか判断する作業」です。
高度な専門知識と経験が必要です。

ここが専門医の腕の見せ所!
例:「この誤植のせいで、物語がバッドエンド(病気)になるのか、ただの誤字(無害)なのかを見極める」こと。

🚫 データベースを見るだけでは不十分な理由

世界中のデータベース(ClinVarなど)には、「意味がわからない(VUS)」と分類されている変異がたくさんあります。
「辞書に載っていない言葉」が出てきたとき、文脈や実験データからその意味を推測し、正しく翻訳できる力。

これこそが、世界基準の検査機関と臨床遺伝専門医に求められる真の能力なのです。

例えば、遺伝子の変異情報は「ClinVar」などのデータベースに登録されており、以下の5段階で評価されます。

  • Benign(良性)
  • Likely benign(良性である可能性が高い)
  • Variant of Unknown Significance:VUS(意義不明な変異)
  • Likely pathogenic(病的である可能性が高い)
  • Pathogenic(病的)

登録されている内容はあくまでデータベース上の情報であり、それが「本当に正しいかどうか」は、解釈する人がきちんと判断しなければなりません。

臨床遺伝専門医が信頼する「技術力」とは

おそらく99%以上の検査所は、ClinVarに「VUS(意義不明)」と書いてあれば、そのまま「VUS」という結果を返してしまいます。
しかし、VUSの中には、およそ10%ほどの確率で、将来的に「Likely pathogenic(病的)」へと評価が変わっていくものが含まれています。

ミネルバクリニックで、実際にこんなケースがありました。
ClinVar上では「VUS」と登録されている変異に対し、当院が依頼している検査会社からは、以下のような回答が返ってきたのです。

「ClinVarにはVUSと登録されていますが、このバリアントにおけるタンパク機能解析実験の結果から、Likely pathogenicとみなします」

男の子を妊娠中の患者様のケース

実際、この症例は保因者検査で「X染色体性の異常」が見つかったケースでした。
その後、患者様は妊娠され、お腹の赤ちゃんが男の子であることがわかりました。

X染色体性遺伝なので、男の子であれば「このLikely pathogenic variant(病的と思われる変異)」を持っているかどうかが、お子様の将来に大きく関わってきます。

私はすぐに、血縁者の方の遺伝子検査と胎児の遺伝子検査を行いました。
家系の家族歴と照らし合わせた結果、やはり「Likely pathogenicで間違いない」という結論に私も達しました。

もちろん、その前に検査会社が出した「タンパクの機能解析実験結果」からも、Likely pathogenicだろうという心証は得ていました。
しかし、やはりこんな時は、片っ端から必要な論文を読み込みます。
そうじゃないと、責任を持って検査結果を患者さんに説明できないからです。

「この仕事をしていてよかった」

胎児検査の結果。
幸いなことに、胎児に伝達された遺伝子は「正常な方」であることが分かりました。

患者様は安心して出産に臨まれ、すでにお子さんは無事に生まれています。

安心して生まれた赤ちゃんとご家族

こういうとき、「この仕事をしていて本当によかったな」と真剣に感じます。

もし、この症例を他の検査会社でやっていたらどうなっていたでしょう。
「VUS(意味不明)」あるいは「問題なし」と判断されていたかもしれません。

その場合、患者様はその時点では不安を抱かないかもしれません。
しかし、実際には病的な遺伝子が伝達されており、生まれてきた男の子が疾患を発症してしまいます。
そうなれば、「高い費用をかけて保因者検査をしたのに、意味がなかった」という最悪の結果になってしまいます。

患者様の人生を守るために、臨床遺伝専門医としてそのようなことは致せません。
ですので、たとえ「VUS」であっても、「本当にVUS(無害)なのかどうか」の確認も行ってから、検査結果をお返ししています。

これまで数多くの検査会社とお取引してきましたが、現在は大体1社に絞られています。
それは決して人間関係によるものではありません。
専門医である私を、その専門性で引き付けるほどの高い技術力があるからです。

12年目のミネルバクリニック

今日から12年目。

私自身も、「健康に留意して頑張らないとね」と思い、3年くらい前からジムに通い始めました。
非常にゆっくりとしたペースではありますが、体づくりも頑張っています。

遺伝の専門クリニックとして、ミネルバクリニックはこの11年間、皆様のおかげで大きな成長を遂げてこられました。
この先もずっと成長し続け、患者様の人生に寄り添っていきたいと思います。

これからも、ミネルバクリニックをどうぞよろしくお願いいたします。

本日のまとめ

  • 開院11周年:世界中のラボへ検体を送る独自の輸送ルートを開拓し、12年目を迎えました。
  • 検査会社の選定基準:データベース(ClinVar)を鵜呑みにせず、自ら「タンパク機能解析」まで行える技術力のあるラボのみと提携しています。
  • 専門医の責務:「高い費用をかけて意味がなかった」という事態を避けるため、VUSであっても徹底的に検証してから結果をお返しします。
  • 12年目の決意:臨床遺伝専門医として、これからも患者様の不安を安心に変えるため、成長を続けていきます。



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