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DNAシークエンス
DNAシークエンスとは?
DNAシークエンスとは、DNAに含まれる4種類の塩基の配列を決定することを言います。臨床医学では感染症の病原体決定など多岐にわたり応用され、NIPT(新型出生前診断)もその一つです。
DNAシークエンス(シーケンシング)とは、核酸配列、すなわちDNA中のヌクレオチドの順序を決定するプロセスのことです。アデニン、グアニン、シトシン、チミンの4つの塩基の順序を決定するために使用されるあらゆる方法や技術を含む。高速DNA配列決定法の出現により、生物学的・医学的研究や発見が大幅に加速しました。
現在ではDNA 配列の知識は、生物学の基礎研究や、医学診断、バイオテクノロジー、法医学生物学、ウイルス学、生物系統学などの多くの応用分野で不可欠なものとなっています。健康なDNA配列と配列が変わってしまって変異したDNA配列を比較することで、様々な癌を含む様々な疾患の診断や抗体のレパートリーの特徴付け 、患者の治療の指針となります。DNAを迅速に配列決定する方法を持つことで、より迅速に、かつ個々人に最適化するという個別化をした医療の実施が可能となったり、より多くの生物の同定や分類してカタログ化することが可能となってきました。
シークエンスに必要な機械の進歩はこの10年目まぐるしく、あたかも飛行機で月に行けるようになったみたいだと表現されています。
最初にヒトのゲノムを全部シークエンスしようとした事業は世界中のマンパワーと数十億ドルと10年以上の歳月をかけましたが、2000年代の後半にはこれを1週間程度に短縮する機械が登場し、DNAシークエンスは一気に市場に出ます。
自動でDNA配列決定をする機械の開発
最初のDNA配列は、1970年代初頭に学術研究者によって、二次元クロマトグラフィーに基づく手間のかかる方法で得られました。その後、DNAシーケンサーを用いた蛍光ベースの塩基配列決定法が開発され、DNAの塩基配列決定が容易になり、数桁の速さで行われるようになりました。
DNAシークエンスが役立っている分野
DNA シーケンシングは、個々の遺伝子、より大きな遺伝子領域(すなわち、遺伝子のクラスターやオペロン)、染色体全体、またはあらゆる生物のゲノム全体の配列を決定するために使用することができます。また、DNAシークエンシングは、RNAやタンパク質を間接的に配列決定する最も効率的な方法でもあります。
1.分子生物学
シーケンシングは分子生物学の分野で、ゲノムやそれがコードするタンパク質を研究するために用いられています。シーケンスを用いて得られた情報により、遺伝子の変化、疾患や表現型との関連性、創薬標的の特定などが可能になります。
2.進化生物学
DNAは、ある世代から別の世代への伝達という点で情報を提供する高分子であるため、進化生物学では、異なる生物がどのように関連し、どのように進化してきたのかを研究するために、DNA配列決定が利用されています。
メタゲノミクス
メタゲノミクスの分野では、水域、下水、その他のサンプルに存在する生物種の同定が行われています。特定の環境にどのような生物が存在するかを知ることは、生態学、疫学、微生物学、その他の分野の研究に不可欠となっています。シーケンシングにより、研究者は、例えば微小環境の中にどのような種類の微生物がどれくらい存在しているかを特定することができます。
ウイルス学
ウイルスは小さすぎて光学顕微鏡で見ることはできません。このため、DNA(RNA)シークエンスはウイルスを同定して研究するためのウイルス学の主要な研究手法の1つとなっています。ウイルスのゲノムはDNAとRNAの双方があります。RNAウイルスは臨床サンプルでの分解が早いため、ゲノム配列決定にはRNAウイルスの方がより時間経過に敏感となります。
伝統的なサンガー配列決定法や次世代配列決定法は、基礎研究や臨床研究のほか、新興ウイルス感染症の診断、ウイルス病原体の分子疫学、薬剤耐性試験などの目的でもウイルスの配列決定に使用されている。GenBankには230万以上のユニークなウイルス配列が登録されています。 最近では、ウイルスゲノムを生成するための最も一般的なアプローチとして、次世代シークエンサーが使用されています。
ウィルスシーケンスは、流行の発生源を特定するために、流行中に使用することができます。1997年に発生した鳥インフルエンザでは、ウイルスの塩基配列解析により、インフルエンザの亜型はウズラと家禽の間の再同居によって発生したことが判明しました。このことから、香港では、生きたウズラと家禽を一緒に市場で販売することを禁止する法律が制定されました。ウイルスシークエンスは、分子時計技術を用いてウイルスの発生がいつから始まったかを推定するためにも使用されます。
2019年末より世界的にアウトブレイクしたSARS-CoV-2ウイルスでも、シークエンス技術は当然大活躍しています。
臨床医学
医師は、遺伝性疾患のリスクがあるかどうかを判断するために、患者の遺伝子(エクソームと呼ばれる部分を通常はさします)をシーケエンスすることがあります。これは遺伝学的検査の一形態ですが、遺伝学的検査の中にはDNA配列決定を伴わないものもあります。また、DNA配列決定は例えば耐性菌などの特定の細菌の同定に有用であり、より正確な抗生物質治療を可能にし、これにより細菌集団に抗菌薬耐性を作り出すリスクを減らすことができます。
法医学
DNA シークエンスは、法医学的な個体識別、父子鑑定のために DNAプロファイリング法とともに使用されることがあります。DNA 検査はここ数十年で飛躍的に進化し、最終的にはDNAは裁判では個体識別において指紋と同義に扱われています
DNAを構成する4つの塩基
ヒトのDNAは、チミン(T)、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)の4つの塩基で構成されています。
DNA(デオキシリボ核酸)の分子は、デオキシリボース(5炭糖)・リン酸・塩基からなるヌクレオチドが多数つながってできています。
*こちらの画像にはRNAにおいてチミンに変わり使われるウラシルが入っています。
5炭糖骨格の炭素に酸素から時計回りに1’(いちぷらいむ)から4’と番号を振り、4’から延びた炭素に5’と番号を振ります。
ヌクレオシド
D-リボースやデオキシ-D-リボースの1’位に塩基が結合した化合物をヌクレオシド(nucleoside)とい、ヌクレオシドの5’位にリン酸がエステル結合した化合物をヌクレオチド(nucleotide)といいます。
DNAはヌクレオチドがホスホジエステル結合して長く連なった構造を取ります。
DNAの塩基配列決定は、DNA分子内のこれらの塩基の物理的な順序を決定することです。
この構造式を見てわかる通り、AT,GCで相補対(ペアということです)となります。水素結合といいます。ATは水素結合の手が2本、CGは3本ですので性質の似たもの同士で相補しあうのは合理的です。
この構造式からわかる通り、5炭糖同士はリン酸基を介して結合して繋がっていき、この結合のことをホスホジエステル結合と呼びます。
この塩基の並び方(配列)が遺伝情報としてはたらくわけですが、すべての塩基配列が遺伝情報となるわけではありません。
ちなみに、DNAの配列全部をゲノムと呼びます。
DNAには遺伝情報をもっている部分ともっていない部分が存在し,この中で遺伝情報をもっている領域のことを遺伝子と呼びます。
新しいDNAシークエンス法
ハイスループットシークエンス(HTS)法
1990 年代半ばから後半にかけて、いくつかの新しい DNA シークエンス法が開発され、2000 年までに市販の DNA シーケンサーに導入されました。これらは、サンガーシークエンスを含む以前の方法と区別するために、「次世代」または「第二世代」シークエンス(NGS)法と呼ばれています。第一世代のシークエンスとは対照的に、NGS技術は一般的に、ゲノム全体を一度にシークエンスすることができ、非常にスケーラブルであるという特徴を持っています。通常、これは、ゲノムを小さな断片に断片化し、断片のためにランダムにサンプリングし、配列決定することによって達成されます。複数の断片を一度に自動化されたプロセスで配列決定するため、ゲノム全体の配列決定が可能になります(「超並列」配列決定と呼ばれるようになりました)。
次世代シークエンスが開いたもの
次世代シークエンスが開いた恩恵は、なんといってもNIPT(新型出生前診断)でしょう。
セルフリーDNAをつかって胎児の染色体その他の異常を知ることができる検査で、対象疾患もどんどん拡大されています。
また、セルフリーDNAのシークエンスでがんに罹患しているかどうかや再発のモニタリングができる時代がやってこようとしています。
この記事の著者:仲田洋美医師
医籍登録番号 第371210号
日本内科学会 総合内科専門医 第7900号
日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 第1000001号
臨床遺伝専門医制度委員会認定 臨床遺伝専門医 第755号