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DNAシークエンスとは、DNAを構成する4つの塩基(A・T・G・C)がどの順番で並んでいるかを読み取る技術です。NIPTもこの技術の上に成り立っていますが、NIPTがシークエンスを使う目的は、1本のDNAの配列を正確に読むことではなく、母体の血液中にある数百万本ものDNAの断片が「どの染色体から来たか」を決めて数えることにあります。このページはNIPTの教科書シリーズ第2章の入口(2-1)として、NIPTが母体血のDNAから何を読んでいるのか、1977年のサンガー法から次世代シークエンサー(NGS)へと読める量がどのように桁違いに増えたのか、そしてNIPTにNGSが欠かせない理由を、臨床遺伝専門医の立場から解説します。
⏱ 30秒でわかる要約
Q. DNAシークエンスとは?
DNAの4つの塩基(A・T・G・C)の並び順を読み取る技術です。塩基配列決定法ともよばれます。
Q. NIPTはDNAの何を読んでいる?
母体血漿中のDNA断片を読み、それぞれがどの染色体から来たかを決めて本数を数えています。1本1本の配列そのものが目的ではありません。
Q. サンガー法と次世代シークエンサーの違いは?
サンガー法は1回に読める本数が少なく、1本を長く正確に読む方法です。次世代シークエンサーは短い断片を同時に数億〜数十億本読めます。
Q. なぜNIPTにNGSが必要?
NIPTでは小さな染色体由来断片数の差を捉えるため、数百万規模のリードを解析します。サンガー法の処理能力ではこの規模を扱うことは現実的ではありません。
Q. NIPTでは、なぜサンガー法ではなく次世代シークエンサー(NGS)を使うのですか?
A. NIPTに必要なのは、1本のDNAを正確に読むことではなく、数百万本の断片を読んで数えることだからです。母体血漿中の胎児(胎盤)由来のDNAは血漿cfDNAの一部で、21トリソミーによる21番染色体由来断片の増加は胎児分画に応じた小さな差として現れます。この小さな変化を統計的に見分けるには、1検体あたり数百万本以上のリードが必要で、1回に数十〜百本程度しか読めないサンガー法では現実的に不可能です。短い断片を同時に膨大な本数読めるNGSの登場によって、2008年に初めてNIPTの原理が示されました。
- ➤DNAシークエンス → 4つの塩基の並び順を読み取る技術
- ➤NIPTの目的 → 断片の出どころを決めて、染色体ごとに数える
- ➤サンガー法 → 1977年に報告。1本を長く正確に読むが、本数は少ない
- ➤NGS → 2005年ごろ登場。短い断片を同時に膨大な本数読む
- ➤NIPTの誕生 → 2008年、NGSで母体血のDNAを数える方法が示された

1. 結論:NIPTのシークエンスは「読む」より「数える」ための技術
DNAシークエンス(塩基配列決定法)は、DNAを構成するアデニン(A)・チミン(T)・グアニン(G)・シトシン(C)の4つの塩基の並び順を読み取る技術です。NIPTでは、この技術を「母体血の中のDNA断片がどの染色体から来たのかを決め、その本数を数える」ために使います。病気の原因となる遺伝子の変化を1文字単位で探す遺伝子検査とは、同じシークエンスでも目的がまったく違うのです。
DNAシークエンスという技術そのものの定義や種類、医療での幅広い使われ方については、用語ページのDNAシークエンシングとはで詳しく解説しています。このページでは、NIPTを理解するために必要な部分に絞って、シークエンスの考え方と歴史を整理します。
DNAを読むための最低限の知識:4つの塩基と相補性
DNAは、糖(デオキシリボース)とリン酸と塩基からなるヌクレオチドが長くつながった鎖で、2本の鎖が向かい合って二重らせんをつくっています。向かい合う塩基は、AとT、GとCが必ず対になります。この決まりを相補性といい、AとTは2本、GとCは3本の水素結合で結びついています。片方の鎖の配列が分かれば、もう片方の配列も自動的に決まるという相補性こそ、シークエンスの技術の土台です。サンガー法でもNGSでも、読みたいDNAを鋳型にして相補的な鎖を合成し、そのときに取り込まれた塩基を読み取るからです。DNAの構造はDNAの基本構造と機能、相補性は相補的塩基対で説明しています。
ヌクレオチドの糖の炭素には1’から5’までの番号が振られていて、鎖には5’末端と3’末端という向きがあります。DNAを合成する酵素(DNAポリメラーゼ)は、鎖を必ず5’から3’の向きにしか伸ばせません。この「伸ばす向きが決まっている」という性質は、次のページで扱うサンガー法の原理、つまり伸長を途中で止める仕組みを理解するうえで重要になります。ヒトのゲノム全体の構成はヒトゲノムとはをご覧ください。
2. NIPTは母体血のDNAから何を読んでいるのか
NIPTが読んでいるのは、母体の血漿中を流れている細胞外DNA(cfDNA)の短い断片です。その大部分は母体自身の細胞に由来し、一部が胎盤の細胞に由来します。NIPTはこの断片を数百万本以上読み、どの染色体から来たかを数えることで、胎児の染色体の数の変化を推定します。
母体血漿には胎児(胎盤)由来のDNAが流れている
妊婦さんの血液に胎児由来のDNAが含まれていることは、1997年に報告されました。男児を妊娠している女性の血漿や血清から、Y染色体に特有の配列が検出されたのです。妊娠していない女性からは検出されず、妊娠が進むほど検出されやすくなることも示されました[1]。この発見が、母体の採血だけで胎児の染色体を調べるNIPTの出発点になりました。cfDNAの性質や、胎児由来の部分を表すcffDNAとの違いはセルフリーDNA(cfDNA)とはで解説しています。
ただし、母体血漿中のDNAの大部分は母体のもので、胎児(胎盤)由来の部分は一部にすぎません。しかも、母体のDNAも胎児のDNAも同じヒトのDNAなので、ほとんどの部分で配列はほぼ同じです。1本の断片の配列を読んだだけでは、それが母体由来なのか胎児由来なのかは分からないことが多いのです。
母体のDNAと胎児(胎盤)のDNAは何が違うのか
母体由来と胎児由来のDNAは、配列そのものはほとんど同じですが、まったく区別できないわけではありません。男児を妊娠している場合、Y染色体の配列は胎児由来の部分にしかありません。また、胎盤由来のcfDNAは母体由来のものよりわずかに短い傾向があることや、DNAの化学的な目印(メチル化)のパターンが母体と胎盤で違うことも知られています。両親から受け継いだ一塩基多型(SNP)の違いを使って母体と胎児を見分ける方法もあります。こうした違いは、胎児由来のDNAの割合(胎児分画)を推定したり、SNPを使うNIPTの仕組みに生かされたりしています。ただし、WGSを使う多くのNIPTの判定の中心は、あくまで染色体ごとの「数」です。
「配列」ではなく「出どころ」を知るために読む
では、NIPTはどうやって胎児の染色体の変化を見つけるのでしょうか。答えは、配列の中身ではなく「数」にあります。シークエンサーで読んだ断片(リード)を、ヒトの参照ゲノムと照らし合わせて、それぞれが何番の染色体のどこから来たのかを決めます。そして、染色体ごとにリードの本数を数えます。胎児が21トリソミーなら、胎盤由来の部分に21番染色体が3本分含まれるため、血漿全体で見ると21番染色体由来のリードがわずかに増えます。NIPTが検出しているのは、このわずかな「本数の増加」なのです。
このとき、1本1本のリードについて必要なのは、ゲノム上の位置を1か所に決められるだけの長さと正確さです。数十塩基を読めば、多くの断片は位置を決められます。それ以上長く、あるいはより正確に読んでも、位置が決まることに変わりはありません。NIPTのシークエンスで重要なのは、1本の質よりも、読める本数の多さです。この「数えて比べる」解析の考え方は、第3章のリードの密度のページで計算例とともに説明しています。
必要なのは「正確な1本」より「膨大な本数」
どれくらいの本数が必要なのか、目安を示しておきます。21番染色体はゲノム全体の約1.5%しかありません。胎児由来のDNAが全体の2%の検体で胎児が21トリソミーの場合、単純な混合モデルでは21番染色体由来断片の相対的な増加は約1%です。こうした小さな差を統計的に検出するためには多数のリードが必要ですが、必要なリード数は解析法、GC補正、参照染色体、品質管理基準などによって変わります。初期の全ゲノム型NIPT研究でも、1検体あたり平均約500万のsequence tagsを用いて染色体の過剰・過少を評価しており、実際の検査では各プラットフォームで定めたリード深度と品質基準に基づいて判定します。
🧮 NIPTに必要なリードの目安
NIPTでは小さな染色体由来断片数の差を統計的に検出するため、多数のリードを解析します。必要なリード数は解析法や品質管理条件によって異なり、初期の全ゲノム型NIPT研究では1検体あたり平均約500万のsequence tagsが用いられました(第3章のリードの密度で数え方の考え方を説明しています)。実際の検査では、プラットフォームごとの補正法や品質管理基準に応じたリード深度が設定されます。
3. サンガー法から次世代シークエンサーへ:読める量はどう変わったか
DNAシークエンスの歴史は、1回に読める量が桁違いに増えていく歴史です。1977年のサンガー法から、蛍光とキャピラリーによる自動化を経て、2005年ごろに短い断片を同時に膨大な本数読む次世代シークエンサー(NGS)が登場しました。NIPTが実現したのは、このNGSの登場によってです。
1977年:サンガー法の登場
現在のシークエンス技術の原点は、1977年にサンガーらが報告した方法です[2]。DNAを合成するときに、伸長を止める特殊なヌクレオチド(ジデオキシヌクレオチド)を少しだけ混ぜることで、さまざまな長さで止まったDNA鎖をつくり、その長さの違いから塩基の並びを読み取ります。この方法はサンガー法、ジデオキシ法、あるいは鎖伸長停止法とよばれます。原理の詳細は次のページサンガー法とはで図を使って説明します。
自動化:蛍光色素とキャピラリー電気泳動
サンガー法は当初、放射性同位体で標識したDNAを4本のレーンに分けて電気泳動し、フィルムに写った帯を人が読み取るという手間のかかる方法でした。その後、4種類の塩基を別々の蛍光色素で標識し、細い管(キャピラリー)の中で電気泳動して、流れてくる蛍光を機械が読み取る自動シークエンサーが開発されました。これにより、1本の反応で4種類の塩基を同時に読めるようになり、作業は大幅に速くなりました。この装置の仕組みはDNAシークエンサーを用いたジデオキシ法で解説します。
ただし、自動化されたサンガー法でも、1回の運転で読めるのは、装置に並んだキャピラリーの本数分、つまり数十本から百本程度です。1本あたり最長で1,000塩基前後と長く正確に読めるのが強みで、現在でも、特定の遺伝子の変化を確かめる検査などでは標準的な方法として使われています。
ヒトゲノム計画と、シークエンスのコストの劇的な低下
サンガー法を大規模に使って行われたのが、ヒトゲノムの全塩基配列を読むヒトゲノム計画です。米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)によると、米国の拠出額は約27億ドル、期間は約13年に及び、2003年に完了しました。2003年時点で1人分のゲノムを読む費用は約5,000万ドルと見積もられていましたが、NGSの普及とともに急速に下がり、2015年後半には1,500ドルを下回りました[3]。10数年で費用が数万分の1になったこの変化が、母体の血液から数百万本のDNAを読むNIPTを、現実の検査にしたのです。
2005年:超並列シークエンス(NGS)の登場
転機は2005年に訪れました。微小な反応の区画を大量に並べ、それぞれの区画で別々の断片を同時に読む方法が報告されたのです。この方法では、1回4時間の運転で2,500万塩基を99%以上の精度で読むことができ、従来の方法の約100倍の速さでした[4]。1本あたりの長さは平均約110塩基とサンガー法より短いものの、同時に読める本数が桁違いに増えました。このように、たくさんの断片を同時並行で読む方法を「超並列シークエンス」とよび、サンガー法と区別して次世代シークエンサー(NGS)とよぶようになりました。
2008年には、DNA断片を基板の上で増幅してクラスターをつくり、1塩基ずつ蛍光で読み取る方法で、ヒト1人分のゲノムを読んだ成果が報告されました[5]。現在のNIPTの多くは、この流れをくむ方式のシークエンサーで行われています。機種によっては、1回の運転で数億〜数十億本のリードを読むことができます。NGSの仕組みはNGSの仕組みで、用語としての解説は次世代シークエンサー(NGS)とはで説明しています。
📊 シークエンスの方法と、1回に読める量の目安
| 方法 | 登場した時期 | 1本の長さ | 1回に読める本数 | NIPTへの適性 |
|---|---|---|---|---|
| 手作業のサンガー法 | 1977年 | 数百塩基 | 数本 | 不可能 |
| 自動化したサンガー法 | 1980〜90年代 | 最長1,000塩基前後 | 数十〜百本程度 | 現実的でない |
| 次世代シークエンサー(NGS) | 2005年〜 | 数十〜数百塩基 | 数百万〜数十億本 | 可能 |
※値は方法の性格を示すための目安で、装置や条件によって大きく異なります。
NGSで変わったこと:1本の精度から統計の力へ
NGSの登場は、単に速く安くなったというだけでなく、シークエンスの考え方そのものを変えました。サンガー法では、1本の長いリードをできるだけ正確に読むことが品質の中心でした。一方、NGSでは、1本1本のリードには一定の読み間違いが含まれることを前提に、同じ場所を何十本も重ねて読んだり、膨大な本数を統計的に扱ったりすることで、全体として高い精度を得ます。2008年に報告されたヒト1人分のゲノムの解読でも、ゲノムを平均約40回重ねて読むことで、高い精度で一塩基の違いを見つけられることが示されました[5]。NIPTも、この「数と統計で精度を出す」という発想の上に成り立っています。
2008年:NGSでNIPTの原理が示された
NGSが登場してわずか数年後の2008年、2つの研究グループが、母体血漿のDNAを大量並列シークエンスで読み、染色体ごとの断片の割合から胎児の21トリソミーを見分けられることを相次いで報告しました[6][7]。1997年に母体血中の胎児DNAが見つかってから約10年、NGSという「数える道具」がそろったことで、NIPTの原理が初めて形になったのです。その後NIPTは2011年ごろから臨床で使われるようになり、対象となる染色体の変化も広がってきました。
4. なぜNIPTはサンガー法ではできないのか
NIPTにサンガー法を使えない理由は、1本の精度ではなく、読める本数にあります。1検体に必要な数百万本のリードをサンガー法で読もうとすると、装置を数万回動かさなければならず、時間的にも費用の面でも現実的ではありません。
計算してみましょう。仮に1検体で500万本の独立したDNA断片を読み、1回に96本読める自動シークエンサーで同じ本数を処理するとすると、単純計算で500万÷96、約5万2,000回の反応に相当します。1回の運転に数時間かかることを考えると、1人分の検査に何年もかかってしまいます。しかも、サンガー法はもともと「特定の場所を狙って増やし、その1か所を読む」ための方法で、母体血漿中のさまざまな場所から来た断片を無作為に1本ずつ読み分けるようにはできていません。
一方、NGSは、DNAの断片を1分子ずつ分けて、それぞれを同時並行で読む仕組みです。断片の一つひとつが別々のリードになるので、母体血漿中のさまざまな場所から来た断片を、そのまま数えることができます。「1分子ずつ分けて、同時に読む」というNGSの性質こそが、断片を数えるNIPTにぴったり合っているのです。逆に、NGSの1本あたりの精度はサンガー法に及ばないこともありますが、NIPTでは位置さえ決まれば数えられるので、大きな問題にはなりません。
サンガー法が今も使われる場面
サンガー法が時代遅れになったわけではありません。特定の遺伝子の決まった場所に変化があるかどうかを確かめる検査や、NGSで見つかった変化が本当にあるかを確認する検査などでは、長く正確に読めるサンガー法が今も使われています。家族の中で見つかった遺伝子の変化を、ほかの家族が受け継いでいるかを調べる検査も、その代表例です。目的に応じて「長く正確に1本」と「短く大量に」を使い分けているのが、現在のシークエンスの姿です。
5. 第2章で学ぶこと:NIPTのシークエンスの流れ
NIPTのシークエンスは、母体の血液からDNAを取り出す工程から始まり、シークエンサーで読み、読んだ断片を検体ごとに仕分けて参照ゲノムに当てはめるまでの一連の流れで成り立っています。第2章では、この流れを順番に解説します。
- サンガー法とは:ジデオキシヌクレオチドで伸長を止める原理
- DNAシークエンサーを用いたジデオキシ法:蛍光とキャピラリーによる自動化
- DNAの抽出とライブラリー調製:血漿のDNAをシークエンサーで読める形にする
- NGSの仕組み:クラスター形成から塩基配列の読み取りまで
- デマルチプレックスとアライメント:検体ごとの仕分けと参照ゲノムへの当てはめ
- NGS以外のNIPT技術:マイクロアレイなど別の数え方
シークエンサーの種類と、NIPTで使われる方式
現在のシークエンサーは、短いリードを大量に読むショートリード型と、1本の長い分子をそのまま読むロングリード型に大きく分けられます。ロングリード型は、反復配列の多い領域や大きな構造の変化を調べるのに向いていますが、母体血漿中のcfDNAはもともと短い断片なので、長く読める利点は生かしにくく、NIPTでは主にショートリード型が使われています。それぞれの特徴はロングリードシーケンサーのページで説明しています。
シークエンスと増幅(PCR)の関係
シークエンスとよく一緒に登場する技術に、DNAの特定の部分を大量に増やすPCRがあります。サンガー法では、読みたい場所をPCRなどで十分な量に増やしてから反応させます。NGSでも、ライブラリー調製や基板上のクラスター形成で、断片を増幅する工程が含まれます。ただし、NIPTで数えたいのは「もともと血漿中に何本あったか」なので、増幅の過程で特定の断片だけが増えすぎると、数え方に偏りが生じます。この偏りをどう補正するかは、第3章の重要なテーマの1つです。
結果の確かさに関わるのはどの工程か
NIPTの結果の確かさは、シークエンサーで読む工程だけで決まるわけではありません。採血後の血液の扱いが悪いと、母体の血球が壊れて母体のDNAが増え、胎児分画が下がります。ライブラリー調製や増幅の工程では、DNAの断片によって増えやすさに差が出て、数え方に偏りが生じます。読み取りの工程では、塩基の読み間違いが起こりますが、NIPTではリードの位置が決まれば数えられるため、影響は比較的小さくなります。仕分けと当てはめの工程では、検体の取り違えや、ゲノム上の似た配列への誤った当てはめが問題になります。第2章の各ページでは、こうした工程ごとの注意点にも触れながら、仕組みを解説していきます。
🩺 院長コラム【NIPTは「読む技術」が「数える技術」に変わって生まれた】
シークエンスというと、多くの方は「遺伝子の文字を1つずつ読む」というイメージをもたれると思います。実際、遺伝性の病気の原因を探す検査では、たった1文字の違いを見つけることが目的になります。けれども、NIPTのシークエンスは発想がまったく逆で、1文字の違いではなく、数百万本の断片がどの染色体から来たかという「数」を見ています。
この違いを知っておくことは、NIPTの結果を理解するうえで大切だと考えています。NIPTが陽性になるのは、21番染色体の断片が数%多かったという統計的な事実であって、赤ちゃんの遺伝子の文字を読んだ結果ではありません。だからこそ、胎盤や母体のDNAの影響を受けることがあり、確定検査が必要になるのです。技術の成り立ちを知ることが、検査の限界を正しく理解する近道だと考えています。
よくある質問(FAQ)
Q1. DNAシークエンスとは何ですか?
DNAを構成する4つの塩基(アデニン・チミン・グアニン・シトシン)の並び順を読み取る技術です。塩基配列決定法ともよばれ、1977年に報告されたサンガー法と、2005年ごろに登場した次世代シークエンサー(NGS)が代表的な方法です。
Q2. NIPTはDNAの何を調べているのですか?
母体の血漿中にあるDNAの断片を数百万本以上読み、それぞれがどの染色体から来たかを決めて本数を数えています。胎児にトリソミーがあると、その染色体由来の断片がわずかに増えるため、その増加を統計的に見分けています。
Q3. サンガー法と次世代シークエンサーの違いは何ですか?
サンガー法は1回に読める本数が数十〜百本程度と少ない一方、1本を最長1,000塩基前後と長く正確に読めます。次世代シークエンサーは1本の長さは短いものの、数百万〜数十億本を同時に読めます。
Q4. なぜNIPTにはサンガー法が使えないのですか?
NIPTでは1検体あたり数百万規模のリードを解析するためです。サンガー法のように限られた本数を個別に読む方式では、この規模の断片を処理することは現実的ではありません。断片を1分子ずつ同時に読めるNGSの登場によって、NIPTが可能になりました。
Q5. 母体の血液に赤ちゃんのDNAがあると分かったのはいつですか?
1997年です。男児を妊娠している女性の血漿や血清から、Y染色体に特有の配列が検出されたことで確認されました。この発見が、採血だけで胎児の染色体を調べるNIPTの出発点になりました。
Q6. NGSは1本ずつの読み間違いがあるのに、NIPTの結果は信頼できるのですか?
NIPTでは、1本のリードが何番の染色体のどこから来たかが決まれば数えられるため、多少の塩基の読み間違いは判定にほとんど影響しません。数百万本を統計的に扱うことで、全体として高い精度を得ています。ただし、NIPTは非確定的検査であり、陽性の場合は確定検査で確かめる必要があります。
6. まとめ
DNAシークエンスは、DNAの4つの塩基の並び順を読み取る技術です。NIPTはこの技術を、母体血漿中のDNA断片がどの染色体から来たかを決め、その本数を数えるために使っています。胎児由来の部分が少ない検体でも小さな変化を見分けるには、1検体あたり数百万本以上のリードが必要です。
1977年のサンガー法は1本を長く正確に読める一方、1回に読める本数が少なく、NIPTには使えません。2005年ごろに登場した次世代シークエンサーは、短い断片を同時に膨大な本数読めるため、2008年にNIPTの原理が示されました。次のページでは、サンガー法の原理を詳しく解説します。
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ミネルバクリニックでは、常駐する臨床遺伝専門医が、NIPTの仕組みや分かることと分からないこと、陽性・陰性・判定保留の意味を含めて検査前の遺伝カウンセリングを行い、NIPTを実施しています。
📚 NIPTの教科書 第2章のページ
参考文献
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