目次
筋強直性ジストロフィー2型(DM2)は、大人になってから現れる、ゆっくり進む遺伝性の病気です。手のこわばり(筋強直)や慢性的な筋肉痛、若い時期の白内障、不整脈など、筋肉だけでなく全身のさまざまな臓器に症状が及びます。原因はCNBPという遺伝子の中で「CCTG」という4文字の並びが異常に長く伸びてしまうことです。よく似た「1型(DM1)」とは原因遺伝子も経過も異なります。この記事では、DM2の原因・遺伝のしくみ・症状・診断・治療を、一般の方にもわかるように臨床遺伝専門医が解説します。
Q. 筋強直性ジストロフィー2型(DM2)とは、どんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです
A. CNBP遺伝子の中のCCTGリピートが異常に長く伸びることで起こる、成人発症の進行性の多臓器疾患です。体の中心に近い筋肉(首・太もものつけ根)の筋力低下、こわばり(筋強直)、慢性的な筋肉痛が中心で、白内障・不整脈・糖尿病なども伴います。1型(DM1)に比べて全体に経過はおだやかですが、不整脈による突然死や、手術・麻酔時の重い合併症には生涯にわたる注意が必要です。
- ➤原因 → 第3染色体のCNBP遺伝子イントロン1で、CCTGの4文字が数千〜1万回以上に伸びる
- ➤しくみ → 伸びたRNAが核内でタンパク質MBNL1を閉じ込め、全身の遺伝子のスプライシングが乱れる
- ➤症状 → 近位筋の筋力低下・筋強直・筋肉痛、白内障、不整脈、インスリン抵抗性(糖尿病)など
- ➤診断 → 確定はCNBPのリピート解析(リピートプライムPCR+サザンブロット)。通常のパネル検査では見逃される
- ➤治療 → 根本治療薬は未承認。心臓・呼吸の定期チェックと対症療法が中心。核酸医薬の研究が進行中
1. 筋強直性ジストロフィー2型(DM2)とは
筋強直性ジストロフィー2型(Myotonic Dystrophy Type 2:DM2)は、かつて「近位筋優位ミオパチー(PROMM)」とも呼ばれた、常染色体顕性(優性)遺伝の進行性の病気です。骨格筋のこわばりや筋力低下を中心としながら、心臓・内分泌・目・神経など全身のさまざまな臓器に影響します。1909年に最初に記載された「古典的」な筋強直性ジストロフィー(現在のDM1)と長く同じ病気と考えられていましたが、白内障や筋強直があるのにDM1の原因遺伝子の変異を持たない患者さんの存在から別の病気と分かり、2001年にCNBP(旧名ZNF9)遺伝子のCCTG伸長が原因として同定され、正式にDM2と分類されました [3]。
頻度には地域差が大きく、特にドイツ・フィンランド・チェコなど北・中央ヨーロッパではDM1と同じか、それ以上に多いとされ、ドイツでは約12,000人に1人と推定されています。ヨーロッパ系の人のDM2変異は約4,000〜11,000年前の単一の祖先に由来すると考えられていますが、日本人を含むさまざまな背景で孤発的に発症する例も報告されています [3]。発症は非常にゆるやかで、初期の症状が筋肉痛など非特異的なため、確定診断までに数年以上かかることが珍しくありません [1]。
💡 用語解説:筋強直(ミオトニー)とは
筋強直(ミオトニー)とは、力を入れて縮めた筋肉が、すぐにゆるめられない現象のことです。たとえばドアノブや人の手を強く握ったあと、手をパッと開けない(把握ミオトニー)、診察用ハンマーで筋肉を叩くと筋肉がしばらく盛り上がったまま続く(叩打ミオトニー)といった形で現れます。これは「筋肉が縮みっぱなしになる」状態で、痛みを伴うこともあります。DM2では患者さんの70〜90%にみられますが、ミオトニー単独で重い障害になることはまれです [1]。
DM2は「筋ジストロフィー」という名前がついていますが、実態は筋肉だけにとどまらない真の全身性疾患(多臓器疾患)です。原因も経過も異なる「1型(DM1)」とは、混同されやすいものの明確に区別される別の病気です。次の章から、その原因と全身に症状が出るしくみを順番に見ていきます。なお本記事は最新の医学知識を一般の方向けに解説するもので、特定の検査や治療を推奨するものではありません。
2. 原因と遺伝のしくみ:CNBP遺伝子とCCTGリピート
DM2の原因は、第3染色体(3q21.3)にあるCNBP遺伝子のイントロン1(タンパク質に翻訳されない部分)にあります。この領域にもともと存在する複雑な反復配列のうち、「CCTG」という4文字の並び(テトラヌクレオチド反復)が病的に長く伸びることで発症します [3]。健常な人ではCCTGの繰り返しは通常30回以下で、しばしば別の配列の「中断」を含んでいます。これがおおむね75回以上になると病的とされ、DM2患者さんでは平均で約5,000回、最大で11,000回以上という、けた違いの大きさにまで伸びています [1]。
💡 用語解説:リピート伸長(くり返し配列が伸びる病気)
私たちのDNAには、同じ短い文字列が何度もくり返す「マイクロサテライト」と呼ばれる領域があります。DNAをコピーするときにこの部分で「すべり(スリップ)」が起こりやすく、回数が世代を超えて変わることがあります。回数が一定の限度を超えて異常に伸びると病気を引き起こすものを「リピート伸長病(反復配列病)」と呼びます。ハンチントン病などのCAGリピート病もこの仲間で、DM2はそのなかでも4文字(CCTG)がくり返すタイプです。
この巨大な反復配列は体の細胞のなかで非常に不安定で、加齢とともに同じ人の組織の中でも回数がさらに伸びていく傾向(体細胞モザイク現象)を示します。一方で、DM1で有名な「世代を経るごとに症状が重く・早くなる」表現促進現象は、DM2でははっきりとは確認されていません。これがDM1とDM2の経過の違いを生む一因と考えられています [2]。
💡 用語解説:体細胞モザイクとは
受精卵から体ができていく途中で、細胞ごとにDNAの状態が少しずつ違ってしまうことを「体細胞モザイク」といいます。DM2では、生まれつき同じ細胞を出発点にしていても、組織ごと・年齢ごとにCCTGの伸長回数がばらつきます。そのため採血した白血球で測ったリピート数が、実際に症状を起こしている筋肉の回数を正確に反映しないことがあり、検査の解釈をむずかしくする要因にもなります。
遺伝形式は常染色体顕性(優性)遺伝で、親が変異を持っていると子どもに伝わる確率は理論上50%です。ただしDM1のような重い先天型は存在せず、発症は典型的には30〜40代以降です。遺伝のパターンや家系の意味づけについては、遺伝形式の解説ページもあわせてご覧ください。
3. 分子病態:なぜ「翻訳されない場所」の変異で全身に症状が出るのか
🔍 関連記事:選択的スプライシングとは/機能喪失型変異とは
DM2の症状は、DNAの変異そのものではなく、変異した遺伝子から作られた「異常なRNA」が細胞の中で起こす一連の連鎖反応で説明されます。CNBPのイントロンにあるCCTGは本来タンパク質には翻訳されない部分ですが、伸びた反復配列を含むRNA(CCUGリピートRNA)が細胞の核の中にたまり、「RNAフォーカス」と呼ばれる凝集体を作ります [3]。下の図は、この一連の流れを示したものです。
変異CNBPから転写された伸長CCUG RNAが核内でMBNL1を隔離してスプライシング異常を起こし、一部は細胞質でRAN翻訳を受けて毒性タンパク質を生む。この「二重の毒性」が多臓器症状の根本にある。
第1のしくみ:MBNL1の隔離とスプライシング異常
巨大なCCUGリピートを持つRNAは、MBNL1(マッスルブラインド様タンパク質1)というRNA結合タンパク質を強力に捕まえ、核の中に閉じ込めてしまいます。その結果、本来の働きをするためのMBNL1が足りなくなり、機能喪失(loss of function)の状態に陥ります [5]。MBNL1は、細胞が胎児から成人へ成熟する過程で、多数の遺伝子の選択的スプライシングを精密に切り替える司令塔です。これが足りなくなると、数百もの遺伝子で「成人型」ではなく「胎児型」の不適切な部品(アイソフォーム)が作られてしまいます。
💡 用語解説:スプライシング異常(スプライソパチー)
遺伝子の設計図(RNA)は、必要な部分(エクソン)をつなぎ、不要な部分(イントロン)を切り捨てて完成します。この編集作業を「スプライシング」といい、同じ遺伝子から状況に応じて少しずつ違う部品を作り分けられます。DM2ではこの編集の切り替えが全身で乱れ(スプライソパチー)、たとえばインスリン受容体(INSR)が効きにくい胎児型になってインスリン抵抗性・糖尿病を、骨格筋の塩化物チャネル(CLCN1)が異常になって筋強直を引き起こします [4]。
なお、もう一つのRNA結合タンパク質CELF1の過剰な働きについては、DM1でははっきり確認されている一方、DM2では一定せず、これがDM2の経過がおだやかな一因とも考えられています。同じ「RNA毒性」でも、1型と2型では細部の分子の振る舞いに違いがあるのです [3]。
第2のしくみ:RAN翻訳という新しい毒性
近年、リピート伸長病で「RAN翻訳」という画期的なしくみが見つかりました。通常、タンパク質は「開始コドン(AUG)」から作られ始めますが、異常に伸びたリピートRNAは開始コドンがなくても自己流に翻訳を始めることができるのです [5]。DM2ではDNAの両方向から転写が起こり、CCUG側からはLPAC、反対鎖のCAGG側からはQAGRという毒性のあるくり返しタンパク質が作られ、解剖された脳組織で実際に蓄積が確認されています。LPACとQAGRの翻訳には翻訳開始因子eIF2A・eIF2αが関わることも示されています [9]。
💡 用語解説:RAN翻訳(リピート関連非AUG翻訳)
RAN翻訳(Repeat-Associated Non-ATG translation)とは、通常タンパク質の合成に必要な「開始の合図(開始コドンAUG)」がなくても、伸びたリピート配列からタンパク質が作られてしまう現象です。MBNL1が伸びたRNAを核内に閉じ込めているうちは抑えられていますが、RNAが多くなって閉じ込めきれず細胞質へあふれ出ると、そこでRAN翻訳が起こって毒性タンパク質(DM2ではLPAC・QAGR)が蓄積し、細胞の障害が進むと考えられています(二段階モデル)[5]。
さらに、一般集団によくみられる塩化物チャネル遺伝子(CLCN1)やナトリウムチャネル遺伝子(SCN4A)の変異は、DM2のミオトニーを相乗的に悪化させる「修飾遺伝子」として働くことが報告されています。同じCCTG伸長でも症状の重さに個人差が出る背景には、こうした他の遺伝子の影響もあります [2]。
💡 用語解説:修飾遺伝子(しゅうしょくいでんし)
修飾遺伝子とは、病気の原因そのものではないけれど、症状の重さや出方を左右する別の遺伝子のことです。同じ原因変異を持っていても人によって症状が違うのは、こうした修飾遺伝子や環境の影響があるためです。DM2ではCLCN1やSCN4Aの変異が筋強直を強めることが知られています。くわしくは修飾遺伝子の解説ページをご覧ください。
4. 全身に出る症状:DM2は多臓器疾患です
前章のスプライシング異常やRAN翻訳の影響は、特定の臓器ではなく全身の細胞に及びます。そのため症状は筋肉だけにとどまりません。下の4つのグループに分けて、DM2の主な症状を整理します。
💪 骨格筋(ほぼ全員)
- 体の中心に近い筋肉の筋力低下(首・股関節)
- 筋強直(ミオトニー、70〜90%)
- 慢性的でつらい筋肉痛
- ふくらはぎの肥大がみられる例も
❤️ 心臓(10〜20%)
- 房室ブロックなどの伝導障害
- 心房細動・心房粗動などの不整脈
- 拡張型心筋症への進行
- 軽症でも突然死リスクに注意
👁️ 目・内分泌
- 50歳未満で起こる早期の白内障(50〜80%)
- インスリン抵抗性・2型糖尿病
- 甲状腺機能の異常
- 男性の性腺機能低下(約20%)
🧠 神経・その他
- 強い疲労感・日中の眠気(10〜20%)
- 軽度の実行機能の低下
- 嚥下障害・便秘・胆石
- 感音性難聴
最大の特徴は、筋力低下が体の中心に近い「近位筋・体幹筋」から始まることです。首を曲げる筋肉や、太もものつけ根(股関節を曲げる腸腰筋)から弱くなり、立ち上がりや階段がつらくなります。DM1で目立つ顔の筋肉や足首の筋肉の障害(下垂足)は、DM2では比較的まれです [1]。
そしてDM2でとりわけ重要なのが筋肉痛(ミオアルジア)です。波があり、エピソード的に出る慢性的な筋肉痛が、しばしば最初の症状になります。DM1では筋肉痛が前面に出ることは少ないため、これは両者を見分ける大切な手がかりです。一方、白内障は細隙灯顕微鏡で見ると「赤と緑に輝く特徴的な混濁」として観察され、筋強直性ジストロフィーに非常に特異的な所見です [1]。
心臓については、心筋トロポニンT(TNNT2)やナトリウムチャネル(SCN5A)のスプライシング異常が関与し、骨格筋の症状が軽くても、不整脈や伝導障害が突然死の引き金になりうることが知られています。だからこそ循環器内科との連携が欠かせません [6]。一方で、呼吸器の障害はDM1よりかなり軽いのもDM2の特徴です。次の章で、その違いを具体的に見ていきます。
5. DM1(1型)とDM2(2型)の違い
🔍 関連記事:筋強直性ジストロフィー1型(DM1)/DMPK遺伝子とは/表現促進現象とは
DM1とDM2は「RNA毒性によるスプライシング異常」という同じ枠組みに属しますが、原因遺伝子も、遺伝のふるまいも、必要な医療も明確に異なる別の病気です。DM1はDMPK遺伝子のCTGリピート、DM2はCNBP遺伝子のCCTGリピートが原因です。下の表で主な違いを整理します。
違いを象徴するのが呼吸器です。DM2では呼吸の補助(非侵襲的換気)が必要になる人がDM1よりずっと少ないことが分かっています。下の図は、その割合の差を示したものです。
呼吸の補助(非侵襲的換気)が必要になる割合の比較
DM2はDM1にくらべて呼吸器の負担が軽い傾向
DM1(1型)
DM2(2型)
ただし、睡眠時無呼吸(OSA)はDM2でも約43%と一般的で、いびきや日中の眠気には注意が必要です [1]。
DM2がDM1より「軽い」とされる理由には、変異が起こる遺伝子の発現パターンの違いや、未知の修飾遺伝子の関与などが複合的に作用していると推測されています。とはいえ、DM2を「良性の病気」と片づけるのは危険です。次章以降で見るように、心臓と麻酔には1型と同等の警戒が必要です [2]。
6. 診断の進め方:出生後と出生前を分けて理解する
DM2の診断は、症状の評価・電気生理検査(針筋電図)・そして最終的な遺伝学的検査の組み合わせで確定します。診断は「出生後」と「出生前」で目的も方法も異なるため、分けて理解することが大切です。
出生後の診断:臨床評価・筋電図・遺伝学的検査
最初の手がかりは、近位筋優位の筋力低下・把握/叩打ミオトニー・若年性の白内障という三徴候と、常染色体顕性遺伝を示す家族歴です。針筋電図では患者さんの約90%で「急降下爆撃音」とも形容される特徴的なミオトニー放電が記録されます。ただしDM2では放電が傍脊柱筋など近位の筋肉に偏ることがあるため、遠位の筋肉だけを調べると見逃すことがあり、広い範囲の筋肉を含めた検査が必要です [1]。
⚠️ 重要:通常のパネル検査ではDM2は見つかりません
DM2の確定診断のゴールドスタンダードは、CNBP遺伝子のCCTGリピート伸長を直接証明することです。変異は数千回に及ぶ巨大な配列のため、ふつうのPCRでは増幅できず、サザンブロット解析とリピートプライムPCR(repeat-primed PCR)を組み合わせる特別な検査が標準です。これにより99%以上の高い感度で検出できます。一方、コード領域を読む一般的なNGSパネル検査や全エクソーム検査では、この反復配列の伸長は原則として検出できません。「パネル検査が陰性だったから否定できた」とは言えない点に注意が必要です [8]。
高精度な遺伝学的検査が普及した現在、診断のために筋生検が必須となることは減りました。非典型例で生検を行った場合、DM2ではタイプ2(速筋)線維の選択的な萎縮や中心核の増加といった、DM1(タイプ1線維萎縮が主体)とは区別される所見がみられます。発端者で変異が同定されれば、希望に応じて血縁者の発症前診断や、出生前・着床前の検査への道が開かれます [1]。遺伝子検査全体の流れは遺伝子検査トップもご参照ください。
出生前の検査:選択肢と、その意味づけ
家系内でCNBPの病的変異がすでに分かっている場合、出生前の確定検査として絨毛検査・羊水検査に、CNBPのリピートを狙った解析を組み合わせる方法があります。妊娠前であれば着床前診断(PGT-M)も選択肢になり得ます。ただし、DM2は成人発症で重い先天型がなく、全体に経過がおだやかな病気です。そのため、出生前に見つけることが常にご本人やご家族の利益になるとは限りません。
私たちは情報を提供する立場であり、特定の検査をすすめたり、結果に安心を保証したり、不安をあおったりすることはしません。どの選択をするかは、十分な情報を得たうえでご家族が決めることです。判断に迷うときこそ、遺伝カウンセリングで一緒に整理していくことをおすすめします。
7. 治療と日常管理・最新研究
2026年現在、DM2のRNA毒性やスプライシング異常を根本から元に戻す「疾患修飾薬」は、まだ承認されていません。そのため現在の標準は、各臓器の症状をやわらげ、機能を保ち、致死的な合併症(特に心臓と呼吸の問題)を防ぐための多職種による集学的ケアです [1]。
生涯にわたる定期チェック(サーベイランス)
致死的なできごとは重症度に関わらず予測しにくいため、先回りした定期評価が欠かせません。具体的には次のような項目が推奨されます [1]。
- ➤心臓(年1回):心電図・24時間ホルター心電図・心エコー。必要に応じ心臓MRIで微細な線維化や心筋症を評価
- ➤呼吸(年1回):呼吸機能検査・咳の最大流量・夜間オキシメトリー。睡眠時無呼吸の問診
- ➤代謝・内分泌(年1回):空腹時血糖・HbA1c・甲状腺ホルモン・脂質。男性ではホルモン評価
- ➤目・聴力など:白内障の眼科診察、聴力検査、ビタミンDなど
対症療法としては、歩行に支障をきたす下肢のミオトニーにメキシレチンやラモトリギンが用いられることがありますが、メキシレチンは心臓の伝導系に影響する可能性があり、心電図モニタリングが不可欠です。難治性の筋肉痛には鎮痛薬やガバペンチン・プレガバリンなどが経験的に使われます。注意したいのは、コレステロールを下げるスタチン系薬剤がDM2の筋力低下や筋肉痛を悪化させる恐れがある点で、使用は可能な限り慎重に行うべきとされています。理学療法を通じた適度な運動は、筋機能とスタミナの維持に明確な利益があることも示されています [1]。
⚠️ 最重要:手術・全身麻酔の前に必ず伝えてください
DM2のケアで最も致命的な落とし穴が、手術時の麻酔管理です。症状が軽くても、全身麻酔・局所麻酔で予測できない重い合併症のリスクがあります。国際ガイドラインでは次の点が強調されています。
- ▸サクシニルコリン(脱分極性筋弛緩薬)は全身の強い筋強直や高カリウム血症を招くため禁忌
- ▸鎮静剤・オピオイド・吸入麻酔の呼吸抑制に過敏。抜管は完全覚醒を確認してから慎重に
- ▸手術ストレスで不整脈が顕在化しうるため除細動器の準備・モニタリングを
- ▸低体温・シバリング(ふるえ)も筋強直の引き金。保温が重要
生命予後:「軽症」という従来の認識は見直されつつある
DM2の平均寿命は一般集団とほぼ同等と長く考えられてきましたが、近年の研究で修正が迫られています。2024年に発表されたオランダのコホート研究では、亡くなった26名の死亡年齢の中央値は70.9歳で、一般集団の78.1歳より約7年短いことが示されました。主な死因は心疾患(31%)と肺炎などの呼吸器疾患(27%)で、26名中7名(27%)が死亡時に何らかの腫瘍を有していました [7]。DM2は「良性」ではなく、心臓・呼吸への継続的な医療と、前もっての人生設計(アドバンス・ケア・プランニング)が予後に直結することを示す結果です。
最新の研究と創薬パイプライン(2025〜2026年)
これまで研究投資は患者数の多いDM1に集中してきましたが、DM1で培われたアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)やRNA干渉(RNAi)などの核酸医薬の技術が、同じ病態基盤を持つDM2へ広がりつつあります。骨格筋という大きな臓器への「送達」が最大の課題でしたが、薬を筋肉・心筋へ届けるペプチド結合型の送達技術や、変異RNAを直接分解するRNAi技術の登場で、技術的なハードルが着実に克服されつつあります [10]。
現在開発が進む主なプログラムには、ペプチド結合型ASO(PepGen社のPGN-EDODM1、Vertex社のVX-670など)、RNAi治療薬(Sarepta社のSRP-1003〔旧ARO-DM1〕)、日中の眠気を標的とする低分子(ピトリサント)、GSK3β阻害薬(チデグルシブ)、再ポジショニングが検討されるメトホルミンなどがあります。多くは先行してDM1を対象としていますが、その基盤技術はDM2への適応拡大が強く期待されています [10]。あわせて、治験の成功に欠かせないバイオマーカーや評価指標を確立するための大規模な自然史研究も世界で進行中です。
8. 遺伝カウンセリングと家族のために
🔍 関連記事:遺伝カウンセリングとは/臨床遺伝専門医とは/着床前診断(PGT)
DM2は常染色体顕性(優性)遺伝のため、お子さんに変異が伝わる確率は理論上50%です。ただし、発症年齢や症状の重さには個人差が大きく、修飾遺伝子の影響もあるため、「変異がある=必ず重く発症する」わけではありません。こうした不確実さがあるからこそ、遺伝カウンセリングで扱う内容が重要になります。
- ➤再発リスクと家族内の意味づけ:血縁者への発症前診断の選択肢と、その心理的・社会的な影響
- ➤生殖の選択肢:出生前診断(羊水・絨毛+CNBP解析)や着床前診断(PGT-M)。ただし非指示的に
- ➤全身管理の橋渡し:循環器・呼吸器・眼科・内分泌など、適切な診療科への継続的な連携
- ➤麻酔リスクの共有:手術を受ける際に、本人と医療者が必ず把握しておくべき注意点の整理
ミネルバクリニックは、臨床遺伝専門医が在籍する数少ない医療機関の一つとして、結果の数値そのものだけでなく「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを含めた一貫した遺伝カウンセリングを大切にしています。
9. よくある誤解
誤解①「2型は軽いから放っておいてよい」
筋肉や呼吸の症状は1型より軽い傾向がありますが、不整脈・心筋症による突然死リスクは1型と同等になり得ます。心臓の定期チェックは生涯必要です。
誤解②「遺伝子パネル検査で調べられる」
DM2は反復配列の伸長が原因のため、コード領域を読む通常のNGSパネルや全エクソーム検査では検出できません。サザンブロットとリピートプライムPCRという専用の検査が必要です。
誤解③「ただの線維筋痛症・加齢のせい」
DM2の筋肉痛と近位筋の筋力低下は、線維筋痛症やスタチン筋症と取り違えられやすいのが実情です。家族歴や白内障・ミオトニーがあれば、遺伝性疾患も考える必要があります。
誤解④「世代ごとに必ず重くなる」
世代を経て早期化・重症化する表現促進現象は1型の特徴で、2型でははっきりしません。また2型には重い先天型は存在しません。1型の知識をそのまま当てはめないことが大切です。
よくある質問(FAQ)
🏥 筋強直性ジストロフィー・遺伝子診断のご相談
筋強直性ジストロフィー2型(DM2)をはじめとする
遺伝性疾患の遺伝子検査・遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。
参考文献
- [1] Myotonic Dystrophy Type 2. GeneReviews®, NCBI Bookshelf. [NCBI Bookshelf NBK1466]
- [2] Myotonic dystrophy type 2: the 2020 update. PMC. [PMC7783423]
- [3] Myotonic Dystrophy Type 2: An Update on Clinical Aspects, Genetic and Pathomolecular Mechanism. PMC. [PMC5240594]
- [4] Insulin Receptor Splicing Alteration in Myotonic Dystrophy Type 2. PMC. [PMC1182097]
- [5] RAN Translation Regulated by Muscleblind Proteins in Myotonic Dystrophy Type 2. PMC. [PMC5951173]
- [6] Splicing misregulation of SCN5A contributes to cardiac-conduction delay and heart arrhythmia in myotonic dystrophy. PMC. [PMC4831019]
- [7] Damen MJ, et al. Life expectancy and causes of death in patients with Myotonic Dystrophy Type 2. J Neuromuscul Dis. 2024. [PubMed 39240646]
- [8] Best practice guidelines and recommendations on the molecular diagnosis of myotonic dystrophy types 1 and 2. PMC. [PMC3499739]
- [9] The alternative initiation factor eIF2A plays a key role in RAN translation of myotonic dystrophy type 2 CCUG·CAGG repeats. Human Molecular Genetics, Oxford Academic. [HMG]
- [10] MDF Myotonic Dystrophy Drug Development Pipeline — February 2026. Myotonic Dystrophy Foundation. [Myotonic Dystrophy Foundation]



