目次
📍 クイックナビゲーション
細胞の中には、荷物を目的地まで運ぶ「宅配便」のようなしくみがあります。作られたタンパク質を正しい場所へ届け、いらなくなったものを回収して処分する——この物流をさばく司令塔のひとつが、RAB33B(ラブ・サーティスリー・ビー)という遺伝子から作られる小さなタンパク質です。ふだんは全身の細胞で静かに働いていますが、この遺伝子が両方とも壊れると、骨の育ち方に特有の影響が出る「Smith-McCort(スミス・マッコート)異形成症2型(SMC2)」という、まれな骨の病気が起こります。
RAB33Bは、細胞の中の「荷さばき場」であるゴルジ体での輸送と、いらないものを分解するオートファジーという2つのしくみの、どちらにも足場を提供する珍しいタンパク質です。ここでは、RAB33Bがどんな分子で、どう働き、なぜ壊れると骨に症状が出るのか、そして診断・遺伝の考え方までを、順を追って整理します。
- ➤ RAB33Bがどんなタンパク質で、細胞の中で何をしているのか
- ➤ 「オン・オフ」を切り替える分子スイッチのしくみ
- ➤ ゴルジ体輸送・細胞の移動・オートファジーという3つの働き
- ➤ RAB33Bの変異が起こすSMC2の症状・遺伝・鑑別診断
- ➤ ウイルス・パーキンソン病・がん研究とのつながり
🧬Q. RAB33B遺伝子とは何ですか?
細胞の中の物流を制御する「低分子量GTPアーゼ」という小さなスイッチタンパク質の設計図です。ゴルジ体での輸送と、細胞の掃除機能であるオートファジーの両方に関わり、全身の細胞で働いています。
🦴Q. 変異するとどんな病気になりますか?
両方の遺伝子が機能を失うと、短い体幹・樽状の胸などを特徴とするSmith-McCort異形成症2型(SMC2)という骨の病気になります。知的発達と頭囲が一般に保たれるのが特徴です。
🧩Q. どのように遺伝しますか?
常染色体潜性(劣性)遺伝です。両親がそれぞれ保因者の場合、お子さんが発症する確率は妊娠ごとに原則25%です。血族結婚の家系で報告されることが多い病気です。
RAB33Bとは——細胞の物流をさばく小さなスイッチ
「Rabファミリー」という細胞内交通の管制官
わたしたちの細胞は、内部でたえず小さな袋(小胞)に荷物を積んで運び、必要な膜どうしを正しくつなぎ合わせています。この輸送の「行き先」と「タイミング」を決めているのが、Rab(ラブ)GTPアーゼと呼ばれるタンパク質の一群です。ヒトの細胞には60種類以上のRabがあり、それぞれが特定の場所に貼りつき、時間と空間を細かく制御しています[1]。RAB33Bは、このRabファミリーに属する一員です。
RAB33B遺伝子は、4番染色体の長腕(4q31.1)にあり、たった2つのエクソン(タンパク質の設計情報が書かれた部分)から構成されています[2]。ここから作られるRAB33Bタンパク質は229個のアミノ酸からなる小さな分子で、細胞の中ではゴルジ体という「荷さばき場」の中央あたり(メディアルゴルジ)に主に局在します[3]。1998年に初めて詳しく報告されたとき、この分子はすでに「全身の組織にまんべんなく発現し、ゴルジ体に位置する新しいRab」として記述されていました[3]。
GTP(グアノシン三リン酸)を握っているか離しているかで、形と働きを切り替える小さなタンパク質です。GTPを握ると「オン(活性型)」、GDPに変わると「オフ(不活性型)」になる、いわば分子のオン・オフスイッチ。RabやRasなどが代表格で、細胞の輸送・増殖・分化を細かく制御しています。
「全身で働く」ことが手がかりになる
RAB33Bには、RAB33Aというよく似た兄弟分子(パラログ)がいます。RAB33Aは脳やメラノサイト(色素細胞)など限られた場所でしか働きませんが、RAB33Bはほぼすべての組織で発現している(ユビキタス発現)点が大きく異なります[3]。全身のどの細胞にも必要とされるということは、RAB33Bが担う仕事が、特定の細胞だけの特別な役割ではなく、あらゆる細胞の基礎的な生存維持(いわゆるハウスキーピング機能)に関わっていることを示しています。この「どこでも働いている」という性質は、のちほど触れる病気の理解にも重要な手がかりになります。
分子スイッチのしくみ——オンとオフを切り替える
RAB33Bが「司令塔」として機能できるのは、必要なときだけオンになり、仕事が終わればオフに戻る、という厳密な切り替えができるからです。この切り替えの中心にあるのが、GTPとGDPの持ち替えです。RAB33Bは、GTP結合型とGDP結合型の間を行き来しながら、膜輸送やオートファジーに関わる相手分子との結合を切り替えます。
図1:RAB33Bの活性化サイクルと機能切り替え機構
「スイッチ領域」が形を変えて相手を選ぶ
GTPが結合すると、RAB33Bの中の「Switch I」「Switch II」と呼ばれる2つの柔軟な領域が、ぴたりと折りたたまれて形を整えます。この整った形が、特定の相手タンパク質(エフェクター)だけを認識してくっつくための「鍵穴」になります。GDPに変わってオフになると、この鍵穴はほどけて相手を離します。つまりRAB33Bは、GTPかGDPかによって「今どの相手と組むか」を切り替える分子スイッチとして働いているのです。
さらにRAB33Bが膜の上で働くには、C末端に「ゲラニルゲラニル基」という脂の錨(いかり)を付ける必要があります。この脂質のおかげでRAB33Bは水に溶けた状態から抜け出し、ゴルジ体やファゴフォア(後述する隔離膜)などの膜に安定して差し込まれます。オフのときはGDI(GDP解離インヒビター)という運搬役がこの錨を包み隠し、RAB33Bを膜から引き抜いて細胞質へ戻す——この出し入れが、輸送の交通整理をきめ細かくしています。
オンにする係(GEF)とオフにする係(GAP)
スイッチの切り替えは、RAB33B自身だけでは十分な速さで進みません。一般にRabタンパク質は、オンにするGEF(グアニンヌクレオチド交換因子)と、オフに戻すGAP(GTPアーゼ活性化タンパク質)によって制御されます。ただし、RAB33Bを直接活性化する生理的GEFは、現時点で十分に確立していません。一方、RAB33Bを不活性化するGAPとしてはTBC1D25(別名OATL1)がオートファジーの文脈で示されており[8]、SGSM2(RUTBC1)もin vitroでRAB33BのGTP加水分解を促進することが報告されています[17]。RAB33Bでは、どのGEF/GAPがどの細胞内区画で生理的に働くかについて、なお未解明な点が残っています。
RAB33Bは「GTP=オン/GDP=オフ」の分子スイッチです。オンのときだけ相手(エフェクター)と組んで仕事をするため、いつ・どこでオンになるかを、GEFとGAPが厳密に管理しています。この切り替えが乱れると、細胞内の輸送や掃除がうまく回らなくなります。
RAB33Bの3つの働き——輸送・移動・掃除
RAB33Bは、まったく異なる3つの細胞機能に関わっています。ひとつはゴルジ体の中の物流、ひとつは細胞そのものの移動、そしてもうひとつが細胞の掃除機能であるオートファジーです。順に見ていきます。
① ゴルジ体の中の「バケツリレー」(Rabカスケード)
RAB33Bの古くから知られた中心的な仕事は、ゴルジ体の中での小胞輸送、とくに逆向きの輸送(逆行性輸送)の制御です。ここでRAB33Bは、洗練されたバケツリレーのしくみを使います。オンになったRAB33Bは、Ric1-Rgp1という2つのタンパク質でできた複合体をゴルジ体膜に呼び寄せます。おもしろいのは、この呼び寄せられたRic1-Rgp1複合体が、じつは別のRabであるRab6AをオンにするGEFだという点です[4]。
つまり、ゴルジ体の中央あたりでオンになったRAB33Bが、下流のRab6Aのスイッチを入れる——という「上流のRabが下流のRabを起動する」連鎖(Rabカスケード)が成立します[4]。実際、細胞からRic1やRgp1を取り除くとRab6Aが不安定になり、マンノース-6-リン酸受容体などの大切な荷物の逆行性輸送がうまくいかなくなることが示されています[4]。方向性を持ったバトンタッチによって、ゴルジ体の内部の秩序が保たれているのです。
図2:RAB33Bが起動する「Rabカスケード」
RAB33B
オン(GTP型)になる
Ric1-Rgp1
複合体を膜に呼び寄せる
Rab6A
下流でオンになり輸送を担う
② 細胞の「移動」を支える
RAB33Bの働きは、ゴルジ体の内部にとどまりません。近年の研究では、ゴルジ体から細胞膜へ荷物を運ぶ経路にも関わることがわかってきました。RAB33Bは、小胞を細胞膜につなぎとめる巨大な複合体「エキソシスト」の一員であるExoc6と結びつき、β1インテグリンなどの細胞接着分子を「接着斑(フォーカル・アドヒージョン)」へ局所的に届けることが示されています[18]。接着斑は、細胞が組織の中を動くときの「足がかり」で、その形成と解消のサイクルが細胞の移動(遊走)に関わります。RAB33Bを減少させると接着斑の動態と細胞移動が変化したことから、RAB33BはExoc6を介した局所分泌によって細胞運動を調節すると考えられています[18]。
③ 細胞の「掃除」(オートファジー)の足場になる
3つ目の、そしてとくに注目されている働きが、マクロオートファジー(以下オートファジー)への関与です。オートファジーは、いらなくなった細胞質の成分や傷んだ部品を「ファゴフォア(隔離膜)」という二重の膜で包み込み、オートファゴソームという袋を作ってから分解・再利用する、大規模な細胞内の浄化システムです。飢餓などのストレスがかかると、RAB33Bの一部がゴルジ体からファゴフォアへ移動します[5]。
ファゴフォアの上でRAB33Bは、オートファゴソーム作りに欠かせないATG12-ATG5-ATG16L1複合体を膜に強く呼び寄せます[5]。結晶構造解析によって、RAB33BのSwitch I・Switch II領域が、ATG16L1のコイルドコイルドメインと直接結合することがわかっています[6]。さらに興味深いのは、ATG16L1がただの受け身の相手ではなく、GEFによるスイッチ操作を経なくてもRAB33Bを「オンの形」に導く、非典型的なRab結合タンパク質として振る舞う点です[7]。通常はGEFがないとオンになれないはずのRabを、ATG16L1が形の面から手助けして活性型に固定するという、珍しいしくみです。この協調によって、細胞質のLC3というタンパク質の脂質化が進み、オートファゴソームが完成へと向かいます。
ファゴフォアは、いらないものを包み込むために伸びてくる「三日月形の膜」。これが端どうしでつながって球状の袋になったものがオートファゴソームです。袋はやがて分解酵素を持つリソソームと融合し、中身を分解します。RAB33Bはこの袋を作る初期段階の足場として働きます。
完成したオートファゴソームがリソソームと融合して中身を処理する段階では、GAPであるTBC1D25(OATL1)が登場します。OATL1はLC3と結びついてオートファゴソームの上に集まり、そこにあるRAB33Bをオフに切り替えます[8]。常にオンのままのRAB33B(Q92Lという人工変異)を細胞に多く作らせると、オートファゴソームとリソソームの融合が妨げられることが観察されており[8]、RAB33Bを適切にオフに戻す操作が、次の分解段階へスムーズに進むための「ブレーキ」として重要だと考えられています。
RAB33Bの変異が起こす病気——SMC2
全身で幅広く働くRAB33Bですが、この遺伝子の両方のコピーが機能を失うと、ヒトでは意外にも「骨」に的をしぼった特有の病気が現れます。それがSmith-McCort異形成症2型(SMC2、OMIM 615222)です[9]。SMC2は、常染色体潜性(劣性)遺伝の、重い骨軟骨の育ちの異常(骨軟骨異形成症)です。
どんな症状が現れるのか
SMC2の特徴は、乳幼児期から小児期早期にかけて明らかになります。主な所見として、胴(体幹)が短いタイプの低身長、樽のように膨らんだ胸、短い首、脊椎の扁平化(扁平椎)、関節の動きの制限などが挙げられます[9]。X線画像では、骨の端の部分(骨端・骨幹端)の全般的な異常に加えて、骨盤の腸骨のふちが「レース状(lacy)」に不整になる、この病気に特徴的な所見が見られます[9]。
背骨をつくる椎体(ついたい)が、上下につぶれて平たくなった状態のことです。SMC2では、椎体の上下の縁が二つの山のように見える「ダブルハンプ(double hump)」という特徴的な形を示すことがあり、診断の手がかりになります。
よく似た病気との見分け方(鑑別診断)
SMC2の骨の所見は、DYM遺伝子(ジメクリンというタンパク質を作る)の変異で起こるDyggve-Melchior-Clausen(ダイクベ・メルキオール・クラウセン、DMC)症候群やSmith-McCort異形成症1型(SMC1)と、放射線画像上ほぼ見分けがつきません[10]。DMCでは知的発達の障害や小頭症を伴うのに対し、SMC1とSMC2では知的発達と頭囲が一般に保たれます[9][11]。したがって、知的発達と頭囲はDMCとSmith-McCort異形成症を見分ける重要な手がかりになりますが、SMC1とSMC2の鑑別には原因遺伝子の確認が必要です。SMC1はDYM、SMC2はRAB33Bの両アレル性病的バリアントによって起こります。
この違いは、RAB33Bという「全身で働く分子」が、なぜ骨だけに強く影響するのかという疑問ともつながります。脳の発達には、RAB33Bの機能不全が近縁のRabなどによってある程度補われるか、あるいは骨づくりの過程がとくにRAB33Bに強く依存している——そうした背景があると考えられています。歴史的には、DMCとSMCは長らく同じDYM遺伝子による「アレル病(同じ遺伝子の別タイプの変異による病気)」とされてきましたが、DYMに変異が見つからないSMC患者の存在から、別の原因遺伝子が探索され、その結果として発見されたのがRAB33Bでした[11]。
図3:SMC2とDMCの臨床的な見分け方
SMC2(RAB33B遺伝子)
- 短体幹の低身長・樽状胸
- 扁平椎・レース状の腸骨
- 知能は正常
- 頭囲は正常
DMC症候群(DYM遺伝子)
- 骨の所見はSMCとほぼ同じ
- (画像だけでは区別困難)
- 知的発達の障害を伴う
- 小頭症を伴う
※DMCとSMCは知的発達・頭囲が重要な手がかりです。SMC1とSMC2は臨床像が近いため、確定にはDYM・RAB33Bの遺伝子検査が必要です。
これまでに報告されている遺伝子変異
エクソーム解析や全ゲノム解析の進歩により、SMC2患者からさまざまなRAB33Bの変異が見つかっています。最初にSMC2の原因としてRAB33Bを同定した報告では、サウジアラビアの血族結婚の家系で、GTP/GDPが結合する部分の重要なアミノ酸を置き換えるミスセンス変異(p.Lys46Gln)が見つかりました[11]。ウェスタンブロットや免疫染色を用いた解析で、この変異はRAB33Bタンパク質をひどく不安定にし、ゴルジ体上での量を大きく減らすことが確認されています[11]。
続いて、DYMに変異のなかったトルコの患者さんから別のミスセンス変異(p.Asn148Lys)が報告され、この変異でもRAB33Bタンパク質が著しく減少することが示されました[12]。さらにその後、翻訳を途中で止めてしまうナンセンス変異(p.Arg94Terなど、複数の新規変異)を持つ患者さんも報告され、SMC2におけるRAB33B変異の種類は広がり続けています[13]。これらの多くは、タンパク質を作れなくする、あるいは不安定にする「機能喪失型」の変異です。
ミスセンス変異は、設計図の1文字が変わってアミノ酸が別のものに置き換わる変異。タンパク質の形や安定性が変わります。ナンセンス変異は、途中に「ここで終わり」という指示が割り込んでしまい、タンパク質が途中までしか作られなくなる変異です。どちらもRAB33Bの働きを失わせる原因になります。
なぜ「全身の分子」が「骨」に影響するのか
ゴルジ体で全身的に働く輸送タンパク質の欠損が、なぜ骨という限られた場所に症状を出すのか。この疑問に、SMC2患者と同じ変異(p.Lys46Gln)を持つマウスの研究がひとつの手がかりを示しました[14]。生後4か月の雄マウスでは、大腿骨の海綿骨・皮質骨が厚くなり、骨髄の面積が減っていました[14]。骨の組織を詳しく調べると、驚くことに、骨を吸収する破骨細胞の数の指標が野生型の約4倍に増えていたにもかかわらず骨は厚くなっており、破骨細胞の機能に障害(骨吸収の欠陥)があることが示唆されました[14]。
さらに重要なのは、この変異マウスの組織で、糖鎖修飾(グリコシル化)のパターンに異常と変動が見られたことです[14]。ゴルジ体は、分泌されるタンパク質に糖の鎖を付ける「仕上げの工房」です。骨をつくる細胞が分泌するコラーゲンなどの細胞外マトリックスは、ゴルジ体で正しく糖鎖修飾されてはじめて成熟します。RAB33Bの機能不全でゴルジ体の秩序が乱れると、こうした骨づくりに必須のタンパク質の糖鎖修飾が乱れ、結果として骨組織の性質に広く影響が及ぶ、と考えられています[14]。「全身の分子が骨に効く」謎は、こうして少しずつ解かれつつあります。
診断・遺伝子検査と遺伝の考え方
診断はどう進むのか
SMC2の診断は、まず骨のX線所見(扁平椎、レース状の腸骨、骨端・骨幹端の異常など)と、知能・頭囲が保たれているという臨床像から疑うことが出発点になります。骨の所見だけではDMCやSMC1と区別できないため、確定には遺伝子を調べる検査が必要です。RAB33Bに変異があればSMC2、DYMに変異があればDMCまたはSMC1、という形で原因遺伝子を突き止めます。RAB33Bはシークエンス解析の対象にできますが、骨系統疾患では臨床像の重なる原因遺伝子が多いため、原因の同定には遺伝子パネルやエクソーム解析などの網羅的なアプローチが有効です[11]。
骨系統疾患は原因遺伝子が非常に多いため、複数の遺伝子をまとめて調べる骨系統疾患のNGS遺伝子パネル検査や、より広く骨格異形成症の遺伝子検査を用いることで、RAB33Bを含む多数の候補遺伝子を効率よく評価できます。どの検査が適しているかは、症状や家族歴によって変わるため、遺伝の専門家と相談しながら選ぶことがすすめられます。
どう遺伝するのか(常染色体潜性遺伝)
SMC2は常染色体潜性(劣性)遺伝をとります。人はどの遺伝子も父由来・母由来の2つのコピーを持っていますが、SMC2では両方のコピーが機能を失ってはじめて発症します。片方だけに変異を持つ人は「保因者」と呼ばれ、通常は症状が出ません。両親がともに保因者の場合、お子さん一人ひとりについて、発症する確率は原則25%、保因者になる確率は50%、どちらの変異も受け継がない確率は25%です。血族結婚の家系では両親が同じ変異を保因している確率が高まるため、こうした潜性遺伝の病気が報告されやすくなります[11]。
図4:両親が保因者のときの遺伝(常染色体潜性遺伝)
25%
変異を受け継がない
(発症せず・保因もなし)
50%
保因者になる
(通常は症状なし)
25%
発症する
(両方の変異を受け継ぐ)
※確率は妊娠ごとに毎回この割合です(前のお子さんの結果は次に影響しません)。
こうした確率や、家系内での見通し、次のお子さんへのリスクなどをどう受け止めるかは、数字だけで割り切れるものではありません。保因者や潜性遺伝のしくみを整理したうえで、ご家族それぞれの状況に応じて情報を扱うことが大切です。ミネルバクリニックでは、こうした遺伝の見通しについて遺伝カウンセリングの形で、臨床遺伝専門医が一緒に整理していきます。
研究の広がり——ウイルス・神経・がんとのつながり
RAB33Bの研究は、骨の病気だけにとどまりません。細胞内の物流とオートファジーを握る分子であるがゆえに、さまざまな分野で注目されています。以下は、いずれも基礎研究の段階で見えてきた知見であり、直接の診断・治療につながるものではありませんが、この分子の重要性を物語っています。
ウイルスに「乗っ取られる」輸送路
細胞の物流とオートファジーを制御するRAB33Bは、侵入したウイルスにとって、自分の部品を運ぶために利用しやすい標的でもあります。インフルエンザAウイルスの研究では、ウイルスのM2というタンパク質が細胞内で発現するとRAB33Bの発現が高まり、RAB33BがエフェクターのATG16L1やGAPのTBC1D25と協調して、オートファジーのしくみを利用しながらM2タンパク質を細胞膜へ運ぶことで、ウイルスの複製を助けることが報告されています[15]。細胞にとって本来は防御や掃除のためのしくみが、ウイルスに逆用される——RAB33Bはその接点に位置しています。
パーキンソン病とRabの制御
家族性パーキンソン病の主要な原因遺伝子のひとつLRRK2は、リン酸化酵素(キナーゼ)として働きます。近年の網羅的な解析で、LRRK2は複数のRabタンパク質のSwitch II領域にある特定のアミノ酸を直接リン酸化し、その働きを変えることがわかりました[16]。パーキンソン病でみられるLRRK2の変異はこの酵素活性を過剰に高め、Rabの制御を乱すことで、細胞のアンテナである「一次繊毛」の形成不全などにつながると考えられています[16]。なお、これまでに確実にLRRK2の基質と確認されているRabは、Rab8・Rab10・Rab12などの一群であり[16]、RAB33B自体がこの経路の確立された基質であるかについては、現時点で明確なデータが十分に示されているとは言えません。RAB33Bは、あくまで同じ「Rabの制御」という文脈で関心を持たれている分子です。
オートファジーとがん研究
オートファジーは、がん細胞が過酷な環境を生き延びるための「保護的なしくみ」として働くことがあります。栄養が乏しくなると、TFEBやFOXO3といった転写因子が核に移り、オートファジー関連の遺伝子群の発現を高めます。RAB33Bもそうした遺伝子群の一員として、この文脈で研究されています。がん治療において、過剰なオートファジーが薬の効きにくさ(治療耐性)に関わる可能性が議論されており、RAB33Bを含むオートファジー経路は、基礎研究上の関心の対象になっています。ただし、これらはまだ研究段階の知見であり、臨床の診断や治療に直接応用されているわけではありません。
よくある質問(FAQ)
🏥 ネットの情報に疲れたら、一度専門医の話を聞きに来ませんか?
骨系統疾患や遺伝性疾患、遺伝のご相談は、臨床遺伝専門医が運営するミネルバクリニックへ。遺伝子検査の解釈から遺伝カウンセリングまで、終始責任をもって支援します。一人で抱え込まないでください。
🏥 ミネルバクリニックの特徴
臨床遺伝専門医が運営する医療機関です
✓ 遺伝子検査の設計・結果説明・遺伝カウンセリングまで一貫対応
✓ 必要な検査をターゲット法で精度よく行うことを重視
✓ 生涯にかかわる情報だからこそ、スピードより「正確性」を最優先
「患者のための医療を実現することを貫いています」
関連記事
参考文献
- [1] Rab proteins as major determinants of the Golgi complex structure. Small GTPases. [PubMed 29099310]
- [2] RAS-ASSOCIATED PROTEIN RAB33B; RAB33B. OMIM. [OMIM 605950]
- [3] A novel Rab GTPase, Rab33B, is ubiquitously expressed and localized to the medial Golgi cisternae. J Cell Sci. 1998. [PubMed 9512502]
- [4] Ric1-Rgp1 complex is a guanine nucleotide exchange factor for the late Golgi Rab6A GTPase and an effector of the medial Golgi Rab33B GTPase. J Biol Chem. 2012. [PubMed 23091056]
- [5] Golgi-resident small GTPase Rab33B interacts with Atg16L and modulates autophagosome formation. Mol Biol Cell. 2008. [PubMed 18448665]
- [6] Crystal structure of the Rab33B/Atg16L1 effector complex. Sci Rep. 2020. [PubMed 32737358]
- [7] RAB33B recruits the ATG16L1 complex to the phagophore via a noncanonical RAB binding protein. Autophagy. 2021. [PMC8496732]
- [8] OATL1, a novel autophagosome-resident Rab33B-GAP, regulates autophagosomal maturation. J Cell Biol. 2011. [PMC3051816]
- [9] SMITH-MCCORT DYSPLASIA 2; SMC2. OMIM. [OMIM 615222]
- [10] Evidence that Smith-McCort dysplasia and Dyggve-Melchior-Clausen dysplasia are allelic disorders that result from mutations in a gene on chromosome 18q12. Am J Hum Genet. 2002. [PMC378548]
- [11] Mutation in RAB33B, which encodes a regulator of retrograde Golgi transport, defines a second Dyggve-Melchior-Clausen locus. J Med Genet. 2012. [PubMed 22652534]
- [12] A novel RAB33B mutation in Smith-McCort dysplasia. Hum Mutat. 2013. [PubMed 23042644]
- [13] Seven patients with Smith-McCort dysplasia 2: Four novel nonsense variants in RAB33B and follow-up findings. Eur J Med Genet. 2021. [PubMed 34000439]
- [14] A Rab33b missense mouse model for Smith-McCort dysplasia shows bone resorption defects and altered protein glycosylation. Front Genet. 2023. [Front Genet]
- [15] Host cellular protein RAB33B facilitates influenza viral replication and modulates M2 trafficking by enhancing autophagy. Vet Res. 2025. [PubMed 40598642]
- [16] Phosphoproteomics reveals that Parkinson’s disease kinase LRRK2 regulates a subset of Rab GTPases. eLife. 2016. [PubMed 26824392]
- [17] RUTBC1 protein, a Rab9A effector that activates GTP hydrolysis by Rab32 and Rab33B proteins. J Biol Chem. 2011. [PubMed 21808068]
- [18] Rab33b-exocyst interaction mediates localized secretion for focal adhesion turnover and cell migration. iScience. 2022. [PubMed 35521520]



