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KIF1A遺伝子とは?神経を支える「分子モーター」の働きと関連疾患・最新治療をやさしく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

KIF1A遺伝子は、神経細胞の中で必要な荷物を運ぶ「分子モーター(運び屋)」の設計図です。この遺伝子に変化(変異)が起こると、発達の遅れ・歩きにくさ・てんかん・視力の問題などを特徴とするKIF1A関連神経疾患(KAND)という病気のグループが生じることがあります。この記事では、KIF1Aが体の中で何をしているのか、変異するとなぜ病気になるのか、そして検査や最新治療までを、専門家にも一般の方にもわかるように解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 KIF1A遺伝子・キネシン・神経疾患
臨床遺伝専門医監修

Q. KIF1A遺伝子とは、ひとことで言うと何ですか?

A. 神経細胞の長い「軸索」の中を移動して、シナプスに必要な部品を運ぶ「分子モーター(キネシン)」をつくる遺伝子です。この運び屋がうまく働かないと神経の情報のやり取りが滞り、発達の遅れ・進行性の歩行障害・てんかん・視力障害などが現れる「KIF1A関連神経疾患(KAND)」を引き起こすことがあります。

  • 遺伝子の基本 → 第2染色体(2q37.3)にあり、キネシン-3ファミリーに属する神経特異的な運び屋(NCBI Gene ID 547/OMIM 601255)
  • 働き → 「K-loop」という特別な構造で微小管に強くくっつき、長い軸索を高速・長距離で走り続ける
  • 関連疾患 → KAND(発達遅滞・知的障害 約90%、進行性の痙性対麻痺 約80%、てんかん 約40%、視力障害 約40%)
  • 遺伝のしかた → 多くは新生突然変異(de novo)。常染色体顕性(優性)・常染色体潜性(劣性/SPG30)の形もある
  • 検査・治療 → 出生前(単一遺伝子NIPT・羊水/絨毛検査)と出生後(遺伝子解析)を分けて解説。ASOによる個別化核酸医療も登場

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1. KIF1A遺伝子とは:基本情報

KIF1A(Kinesin Family Member 1A)遺伝子は、私たちの第2番染色体の長い腕の先端近く(2q37.3という場所)にある遺伝子です。この遺伝子は、神経細胞の中だけで特別に活躍する「分子モーター」というタンパク質の設計図になっています。脳のさまざまな領域で非常に多くつくられている一方、心臓や膵臓などの体の他の組織ではほとんどつくられません。「脳・神経に特化した運び屋」——これがKIF1Aの最大の特徴です。

💡 用語解説:軸索(じくさく)とは

神経細胞(ニューロン)から長く伸びる「電線」のような部分で、別の神経細胞へ情報を送り出す出力ケーブルです。ヒトでは1メートルを超えることもあります。細胞の本体(細胞体)でつくられた部品を、この長い軸索の先端まで運び届けるしくみが欠かせません。その「物流」を担う主役の一つがKIF1Aです。

KIF1Aは1991年、モデル生物である線虫(C. elegans)の神経系で働くモータータンパク質「UNC-104」として最初に見つかりました。その後1995年に、岡田康志・廣川信隆らによって哺乳類のKIF1Aが同定され、神経伝達物質を入れた小さな袋(小胞)を軸索の先へ高速で運ぶ運び屋であることが明らかになりました。なお、別名として UNC104・ATSV・SPG30・HSN2C・MRD9 などが使われることがあり、これらは過去に別々の病名として報告されてきた名残でもあります。

項目 内容
遺伝子記号 KIF1A
別名 UNC104、ATSV、C2orf20、HSN2C、MRD9、SPG30
染色体上の位置 第2染色体長腕 2q37.3
タンパク質の長さ 1,791アミノ酸(ヒト)
主な発現場所 中枢神経系(脳・神経細胞)に特異的に高発現
主なデータベースID NCBI Gene 547/OMIM 601255/Ensembl ENSG00000130294/HGNC 888/UniProt Q12756

2. KIF1Aの働き:神経を支える「分子モーター」

KIF1Aがなぜ重要なのかを理解するには、細胞の中の「物流システム」を知るのが近道です。細胞の中には微小管(びしょうかん)というレールが張りめぐらされていて、その上をキネシンダイニンといった運び屋(モータータンパク質)が荷物を持って移動します。KIF1Aはこのうち、軸索の先端(プラス端)に向かって荷物を運ぶキネシンの仲間です。

💡 用語解説:分子モーターと微小管

分子モーターとは、ATP(細胞のエネルギー通貨)を使って動く、ナノサイズの「エンジン付き運び屋」です。代表がキネシンダイニン。これらが走る線路が微小管です。KIF1Aはキネシンの「キネシン-3ファミリー」というグループに属します。

KIF1Aの体のつくり:頭でエンジン、しっぽで荷物をつかむ

KIF1Aは大きく3つの部分に分かれています。先頭(N末端側)のモータードメイン(頭部)がATPを分解しながら微小管の上を歩く「足兼エンジン」、中ほどのネック〜FHAドメインが活動を調節する部分、そして末端(C末端側)のPHドメインが運ぶべき荷物(小胞)の表面をつかむ「手」の役割をします。2つの分子が手を組んで二量体(ペア)になると、まるで手をかわるがわる前に出す(hand-over-hand)ように微小管の上を進みます。

💡 用語解説:K-loopと「超持続的運動」

KIF1Aの頭部にはK-loop(Kループ)という、プラスの電気を帯びたアミノ酸(リジン)が並んだ特別な出っ張りがあります。一方、レールである微小管の表面はマイナスの電気を帯びています。プラスとマイナスが強く引き合うため、KIF1Aは一度くっつくと簡単には離れず、非常に長い距離を高速で走り続けられます(これを「超持続的=スーパープロセッシブ」な運動といいます)。1メートルにもなる軸索を運びきれるのは、この性質のおかげです。

3. KIF1Aが運ぶ荷物と、神経での役割

KIF1Aが運ぶ荷物は、どれも神経細胞が生きて働くために欠かせないものばかりです。主な荷物を見ていきましょう。

🧪 シナプス小胞前駆体(SVP)

神経どうしが情報をやり取りする「シナプス」で、神経伝達物質を放出するための部品の素。これが届かないと、神経の通信そのものが滞ります。

📦 有芯小胞(DCV)

脳の栄養因子(BDNFなど)を入れた袋。神経回路の発達、記憶や学習、神経細胞の生存に深く関わります。

📡 TrkA受容体

神経成長因子(NGF)を受け取るアンテナ。感覚神経の生存と、痛みなどの感覚の伝達に重要です。

🔧 足場・受容体ほか

Liprin-αやAMPA受容体を含む小胞なども運び、シナプスの可塑性(つながりの強さの調整)を支えます。

つまりKIF1Aは、神経が「つながり」「伝え」「育ち」「記憶する」ためのあらゆる部品を、正しい場所まで届ける物流の要です。だからこそ、この運び屋が壊れると、神経のさまざまな機能が同時に影響を受けてしまうのです。

4. KIF1A変異で起こる病気「KAND」と主な症状

KIF1A遺伝子に変化(変異)が生じると、運び屋の機能が低下し、神経の物流ネットワークが乱れます。これによって起こる神経症状の集まりを、まとめてKIF1A関連神経疾患(KAND:KIF1A-Associated Neurological Disorder)と呼びます。KANDは、発達がうまく進まない「発達障害」の側面と、いったん獲得した力が年齢とともに少しずつ失われる「神経変性」の側面をあわせ持つ、幅の広い疾患スペクトラムです。

💡 用語解説:ミスセンス変異

遺伝子の文字(塩基)が1つ変わることで、つくられるタンパク質のアミノ酸が別の種類に置き換わるタイプの変異です。タンパク質の「形」が変わって、働きに影響します。KANDの重い症状の多くは、KIF1Aの頭部(モータードメイン)に生じたミスセンス変異が原因です。

KANDの主な症状と、その出やすさ

KANDの症状は、中枢神経(脳・小脳)、末梢神経、自律神経にまたがり多岐にわたります。これまでの報告に基づく主な症状の出やすさ(おおよその頻度)を、グラフにまとめました。

KIF1A関連神経疾患(KAND)における主な症状の出現頻度

発達遅滞・知的障害 90%
進行性の痙性対麻痺 80%
てんかん発作 40%
視力障害(視神経萎縮など) 40%
運動失調 28%
振戦(ふるえ) 22%
自閉スペクトラム症・ADHD・不安障害 20%
ジストニア 15%

※頻度はGeneReviews等の報告に基づくおおよその目安です。症状の有無や程度は、変異の種類や個人によって大きく異なります。

乳児期はまず筋緊張低下(だらりとした「フロッピーインファント」)として気づかれることが多く、首すわりや歩行の獲得が遅れます。成長とともに下肢を中心とした筋のこわばり(痙性対麻痺)へと変わっていき、多くの方が歩行に補助具や車椅子を必要とするようになります。さらに、てんかん(薬が効きにくいことも多い)、視神経萎縮による視力低下、手足のしびれや痛み・感覚の異常といった末梢神経症状、体温調節や排尿の問題などの自律神経症状を伴うことがあります。

一方で症状の幅は非常に広く、成人になってから「歩きにくさ」だけが現れる軽症型から、乳児期から重いてんかんや発達の問題を示す重症型まで、同じKIF1A変異でも経過はさまざまです。この「幅広さ」がKANDの大きな特徴です。

KIF1Aに関連する代表的な病名

「KAND」は包括的な呼び名で、その中には歴史的に別々に報告されてきた次のような病名が含まれます。それぞれの詳細は専用の解説ページをご覧ください。

5. KIF1Aの遺伝のしかた

KIF1Aは第2染色体(性染色体ではない常染色体)にある遺伝子です。遺伝のしかたは変異の種類によって主に3つに分かれます。

💡 用語解説:新生突然変異(de novo変異)

両親の遺伝子には異常がなく、精子や卵子がつくられる過程、または受精直後にその子で初めて新しく生じた変異のことです。KANDの重症例の多くはこの新生突然変異によって起こります。つまり「親から受け継いだ病気」ではないケースが多いのです。

  • 新生突然変異(de novo):KANDの重症例で最も多いパターン。両親は変異を持たないため、次の子(きょうだい)に同じ病気が遺伝する確率は一般的に低いと考えられます。ただし、親の生殖細胞だけに変異がある「性腺モザイク」の可能性はゼロではありません。
  • 常染色体顕性(優性)遺伝:片方の親から変異を受け継いで発症するパターン。親自身が軽い痙性対麻痺などを持っていることもあります。子へ受け継ぐ確率は理論上50%です。
  • 常染色体潜性(劣性)遺伝:両親がそれぞれ変異を1つずつ持つ「保因者」(多くは無症状)で、子が両方から受け継いで発症するパターン。主に痙性対麻痺30型(SPG30)として現れ、次の子の再発リスクは25%です。

💡 用語解説:ドミナントネガティブ(優性阻害)とハプロ不全

KIF1Aは2つで手を組んで働きます。頭部のミスセンス変異では、変異したKIF1Aが正常なKIF1Aと組んだときに正常な相手の働きまで邪魔してしまうことがあり、これを「ドミナントネガティブ(優性阻害)」といいます。被害が大きいため重症になりがちです。一方、片方の遺伝子が単に作られなくなる「ハプロ不全(量が半分に減るだけ)」では、邪魔はしないため比較的軽症ですむ傾向があります。同じKIF1A変異でも症状の重さが大きく違う理由が、ここにあります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「親のせいではない」という事実が、ご家族を支える】

KANDのお子さんを持つご家族から、「私たちのどちらかが悪いのでしょうか」というお気持ちを打ち明けられることがあります。多くのケースは新生突然変異——つまり、ご両親には何の落ち度もなく、偶然その子で初めて生じた変化です。このことを正確にお伝えするだけで、ご家族の自責の念がやわらぐ場面を、私は何度も見てきました。

同時に、再発のリスクや、性腺モザイクというわずかな可能性についても、誇張も省略もせずお話しします。正しい情報こそが、次の一歩を落ち着いて選ぶための土台になると考えています。

6. KIF1Aの遺伝子検査:出生前と出生後

KIF1A変異の検査は、調べるタイミングによって方法が異なります。「出生前」と「出生後」を分けて理解することが大切です。

出生前の検査

広く行われている標準的なNIPT(新型出生前診断)は、ダウン症候群など「染色体の数の異常」を調べる検査です。KIF1Aのように、たった1つの遺伝子の文字のわずかな違い(点変異など)で起こる病気は、標準的なNIPTや通常の超音波検査では検出できません。家族歴もないことが多く、事前に予測することがとても難しい疾患です。

💡 用語解説:単一遺伝子NIPT

母体の血液中に流れている、ごく少量の胎児(胎盤)由来のDNA(cfDNA)を解析し、特定の1つひとつの遺伝子の変異を調べる、進化したタイプのNIPTです。妊娠初期から採血のみで実施でき、流産のリスクはありません。新生突然変異で起こる重い疾患を、家族歴がなくても捉えられる点が特徴です。

ミネルバクリニックでは、KIF1Aを含む多数の遺伝子を対象とするインペリアルプランをご用意しています。なお、NIPTはあくまで「可能性を調べるスクリーニング」であり、確定診断には羊水検査・絨毛検査が必要です。当院でNIPTを受けられる方は互助会(8,000円)に加入いただき、これにより陽性時の羊水検査費用が全額補助されます。

出生後の検査

生まれたあとにKANDが疑われる場合は、血液などから採取したDNAを解析します。発達の遅れ・歩行障害・小脳萎縮・てんかんなどを手がかりに、次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析(全エクソーム解析や、発達遅滞・知的障害に関わる多数の遺伝子をまとめて調べるパネル検査)でKIF1Aの変異を探します。とくに、両親も一緒に解析する「トリオ全エクソーム解析」は、新生突然変異を効率よく見つけられるため有力です。

KIF1A遺伝子検査やNIPT(採血は提携施設)は、多くがオンライン診療で完結できます。遠方の方も、ビデオ通話による遺伝カウンセリングのうえで検査を受けていただけます。

なお、KANDのように症状の幅が広く、出生前に見つけることが必ずしも利益につながるとは限らない疾患では、検査を受けるかどうかも含めて、ご家族自身が納得して選べることが何より大切です。医師は中立的な立場で正確な情報をお伝えし、特定の検査を勧めたり、結果に過度な安心や不安を持たせたりはしません。最終的な決定は、いつもご家族にゆだねられています。

7. 最新の研究と治療開発

現在のところ、KANDを根本的に治す承認薬はまだありません。治療の中心は、てんかんや痛みのコントロール、リハビリ(拘縮の予防・運動機能の維持)、嚥下や栄養の管理など、多くの専門職が連携して行う対症療法です。しかし近年、病気の根っこである遺伝子変異そのものを狙う治療が大きく前進しています。

💡 用語解説:ASO(アンチセンス・オリゴヌクレオチド)

遺伝子の「変異したコピーだけ」を狙ってその設計図(mRNA)を分解し、異常なタンパク質がつくられるのを止める、短い人工のDNA/RNAのような分子です。正常なコピーは残すため、毒性のある異常タンパク質だけを減らせるのが特徴です。

2024年、米国の研究チームは、KIF1Aの頭部にp.Pro305Leuという重い変異を持ち、難治性の「行動停止発作」と歩行障害を抱えるたった1人の患者さんのためだけに設計したASOによる治療(N-of-1治験)の結果を報告しました(Nature Medicine 誌)。このASOは髄液中へ注射する形で投与され、初回に硬膜外の髄液貯留という合併症がみられたものの自然に消失し、9か月にわたって安全に使用でき、発作の重症度が下がり、転倒が減って生活の質が大きく改善したと報告されています。これは、超希少疾患でも「変異を狙い撃つ個別化治療」が成り立つことを示す画期的な成果です。

このほか、患者由来のiPS細胞や3D脳オルガノイド(ミニ脳)を使った病態の再現、既存薬の中から効果のある薬を探す取り組み(ドラッグ・リパーパシング)など、世界中の研究機関と患者団体が連携して治療開発を進めています。将来的には、正常なKIF1A遺伝子そのものを補う遺伝子治療も目標に掲げられています。

8. 遺伝カウンセリングの意義

KIF1A変異が見つかったとき、あるいは見つかるかどうかを考えるとき、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングが大きな支えになります。主に次のような内容を、時間をかけてお話しします。

  • 遺伝形式と再発リスク:多くは新生突然変異で次子への遺伝は少ないこと、ただし顕性遺伝なら本人の子へは理論上50%、潜性遺伝(SPG30)なら次子25%といったリスクを、ご家族の状況に合わせて説明します。
  • 幅広い見通しの共有:同じ変異でも軽症から重症まで幅があるため、「断定」ではなく「起こりうる幅」として誠実にお伝えします。
  • 出生前診断の選択肢:次のお子さんを希望される場合、既知の変異があれば絨毛検査・羊水検査などの選択肢があることを、中立的にご案内します。
  • 療育・社会資源と心理的サポート:早期からの療育、各種福祉手帳や補装具の助成、患者・家族会とのつながりなど、暮らしを支える情報も継続的にご提供します。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「治らない病気」から「狙える病気」へ】

かつてKANDのような単一遺伝子の神経疾患は、原因がわかっても手立てがない「診断のためだけの診断」になりがちでした。しかし、たった1人の患者さんのために設計されたASOが実際に発作を減らした——この事実は、医療の風景を確実に変えつつあります。「不可逆で治療不可能」から「分子レベルで修飾しうる」へ、概念そのものが動いているのです。

だからこそ、正確な遺伝子診断の価値はこれまで以上に高まっています。どの遺伝子の、どの場所の、どんな変異か——その一行が、将来の治療の入り口になるかもしれません。私が遺伝子の情報発信を続けているのは、その入り口に一人でも多くの方がたどり着けるようにと願っているからです。

よくある質問(FAQ)

Q1. KIF1Aはどんな働きをする遺伝子ですか?

神経細胞の長い軸索の中で、シナプスに必要な部品(シナプス小胞前駆体や成長因子を含む小胞など)を先端へ運ぶ「分子モーター(キネシン-3ファミリー)」をつくる遺伝子です。神経の通信・発達・記憶を支える物流の要を担っています。

Q2. KIF1Aの変異は遺伝しますか?

重症のKANDの多くは新生突然変異(de novo)で、両親には変異がなく、次の子に遺伝する確率は一般的に低いと考えられます。一方、常染色体顕性で受け継ぐ場合は本人の子へ理論上50%、常染色体潜性(SPG30)では次子の再発リスクが25%です。性腺モザイクの可能性もあるため、遺伝カウンセリングでの個別評価をお勧めします。

Q3. KIF1A関連神経疾患(KAND)とはどんな病気ですか?

発達の遅れ・知的障害(約90%)、進行性の歩行障害(痙性対麻痺、約80%)、てんかん(約40%)、視力障害(約40%)などを特徴とする神経疾患のグループです。発達障害と神経変性の両面を持ち、症状の幅は軽症から重症まで非常に広いのが特徴です。

Q4. KIF1Aの異常は出生前にわかりますか?

標準的なNIPTや超音波検査では検出できません(これらは主に染色体の数の異常を調べるためです)。母体血を用いてひとつひとつの遺伝子の変異を調べる「単一遺伝子NIPT」で評価でき、当院ではKIF1Aを含むインペリアルプランをご用意しています。確定診断には羊水検査・絨毛検査が必要です。

Q5. KANDは治る病気ですか?

現時点で根本的に治す承認薬はなく、治療の中心はてんかんや痛みの管理、リハビリ、栄養管理などの対症療法です。ただし2024年には、特定の変異を狙うASO(アンチセンス・オリゴヌクレオチド)による個別化治療で発作や生活の質が改善した症例が報告され、iPS細胞を用いた創薬や遺伝子治療の研究も進んでいます。

Q6. KIF1AとSPG30・HSN2Cはどう関係していますか?

どちらもKIF1A変異で起こる病態で、現在はKANDという大きな枠組みに含まれます。SPG30(痙性対麻痺30型)は歩行障害を主体とする型で、常染色体顕性・潜性の両方があります。HSN2C(遺伝性感覚自律神経障害IIC型)は感覚・自律神経の障害が前面に出る型です。詳しくは各疾患の解説ページをご覧ください。

Q7. KANDでは必ず知的障害がありますか?

発達遅滞・知的障害は約90%と高頻度ですが、必ずではありません。歩行障害だけが現れる軽症型から最重度まで幅があります。程度は変異の種類(とくに頭部のミスセンス変異かどうか)と個人差によって大きく異なります。

Q8. 検査はオンラインで受けられますか?

多くの遺伝子検査やNIPT(採血は提携施設で実施)は、オンライン診療で完結できます。ビデオ通話による遺伝カウンセリングのうえで検体をお送りいただく流れです。詳細はお気軽にご相談ください。

🏥 遺伝子・遺伝性疾患のご相談について

KIF1A関連神経疾患をはじめとする遺伝性疾患や出生前診断に関するご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にお寄せください。

関連記事

参考文献

  • [1] GeneReviews®. KIF1A-Related Neurodevelopmental Disorder. University of Washington, Seattle. [NCBI Bookshelf NBK621569]
  • [2] Okada Y, Yamazaki H, Sekine-Aizawa Y, Hirokawa N. The neuron-specific kinesin superfamily protein KIF1A is a unique monomeric motor for anterograde axonal transport of synaptic vesicle precursors. Cell. 1995;81(5):769-780. [PubMed]
  • [3] Ziegler A, et al. Antisense oligonucleotide therapy in an individual with KIF1A-associated neurological disorder. Nat Med. 2024;30(10):2782-2786. [Nature Medicine]
  • [4] NCBI Gene. KIF1A kinesin family member 1A [Homo sapiens] (Gene ID: 547). [NCBI Gene]
  • [5] OMIM. KIF1A; Kinesin Family Member 1A (#601255). Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [6] Centre for Genetics Education. Health conditions caused by changes in the KIF1A gene. [Centre for Genetics Education]
  • [7] KIF1A.ORG. Treatment Accelerator Program (TAP). [KIF1A.ORG]
  • [8] Natera. Vistara single-gene non-invasive prenatal screen. [Natera]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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