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IFITM5遺伝子とは?骨を支えるBRILタンパク質の働きと、骨形成不全症5型など関連疾患をわかりやすく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

IFITM5遺伝子は、骨をつくる細胞(骨芽細胞)でBRILというタンパク質をつくるための設計図です。この遺伝子に変異が起こると、骨がもろく折れやすくなる「骨形成不全症5型(OI5型)」をはじめとする、複数の骨の病気が引き起こされます。同じIFITM5遺伝子でも、変異が起こる場所によって全く違う病気になることが、この遺伝子の最も大きな特徴です。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 IFITM5遺伝子・BRIL・骨形成不全症
臨床遺伝専門医監修

Q. IFITM5遺伝子とは、どんな遺伝子ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 骨をつくる細胞(骨芽細胞)でBRILというタンパク質をつくり、骨が硬くなる過程(石灰化)を支える遺伝子です。この遺伝子に変異が起こると、骨がもろくなる骨形成不全症5型などを引き起こします。最大の特徴は、変異の場所が少し違うだけで、全く異なる重症度・症状の病気になることです。

  • 遺伝子の基本 → 11番染色体(11p15.5)に位置し、骨芽細胞だけでBRILタンパク質をつくる
  • 代表的な関連疾患 → 骨形成不全症5型(肥厚性仮骨・前腕骨間膜の石灰化が特徴)
  • 病気の仕組み → タンパク質が「減る」のではなく「新しい悪さをする」機能獲得型のメカニズム
  • 変異の多様性 → c.-14C>Tからp.S40L・p.N48Sまで、表現型が劇的に異なる
  • 検査と遺伝 → NGS遺伝子検査・NIPT、常染色体顕性遺伝と新生突然変異(de novo)

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1. IFITM5遺伝子とは:骨をつくる遺伝子の発見

IFITM5遺伝子は、「Interferon Induced Transmembrane Protein 5(インターフェロン誘導膜貫通タンパク質5)」の頭文字をとった名前を持つ遺伝子です。ヒトの11番染色体の短腕(11p15.5)という場所にあり、長さはおよそ1,327塩基対と、遺伝子としては小ぶりです。名前に「インターフェロン誘導」とありますが、実際にはインターフェロン(免疫に関わる物質)の刺激で活性化することは確認されていません。これは進化の過程でこの遺伝子が、仲間の遺伝子とは違う独自の役割を獲得したためと考えられています。

この遺伝子がつくるタンパク質が、BRIL(Bone-Restricted Ifitm-Like protein=骨に限定されたIfitm様タンパク質)です。名前のとおり、BRILは体のなかでもほぼ「骨をつくる細胞」だけで働く、骨に特化したタンパク質です。

💡 用語解説:骨芽細胞(こつがさいぼう)

新しい骨をつくる役割を持つ細胞です。コラーゲンなどの骨の土台(骨基質)を分泌し、そこにカルシウムを沈着させて骨を硬くしていきます(この過程を「石灰化」といいます)。骨は一見すると変化のない組織に見えますが、実際には骨芽細胞(つくる係)と破骨細胞(壊す係)が日々バランスを取りながら、生涯にわたって作り替えられています。BRILはこの「骨をつくる」現場で重要な調整役を担っています。

骨形成不全症(OI)は、骨がもろく折れやすくなる遺伝性の病気の総称で、昔は「脆弱性骨疾患(もろい骨の病気)」と呼ばれてきました。世界で約1万5,000〜2万人に1人に起こると推定され、生まれてすぐ命に関わる重症型から、生涯で数回しか骨折しない軽症型まで、重症度はさまざまです。従来、OIの約85〜90%はI型コラーゲン(骨や皮膚の主成分)の設計図であるCOL1A1・COL1A2遺伝子の変異で起こると考えられ、「OI=コラーゲンの病気」というのが長年の常識でした。

ところが次世代シーケンサー(NGS)の登場で、コラーゲンに直接の異常がないタイプのOIが次々と見つかりました。IFITM5遺伝子は、まさにこの「コラーゲンに依存しないOI」を象徴する遺伝子です。BRILは細胞外のコラーゲンそのものではなく、骨をつくる細胞の中のシグナル(情報伝達)や細胞の運命決定に関わっており、OIという病気の理解を根本から広げる存在となりました。

2. BRILタンパク質の働きと、意外な事実

BRILは132個のアミノ酸からなる、ごく小さなタンパク質です(予測分子量はおよそ14.3キロダルトン)。細胞の膜やゴルジ体という場所に位置する「II型膜貫通タンパク質」で、細胞の内側にある3つのシステイン残基に脂肪酸が結合するS-パルミトイル化という化学修飾を受けることが知られています。難しく聞こえますが、要は「膜に正しく刺さって機能するための仕上げの加工」が施されている、と考えてください。

BRILの最大の特徴は、その発現が事実上、骨芽細胞に特異的であることです。骨ができていく現場(膜性骨化や軟骨内骨化が進む発達中の骨)では非常に強く現れる一方、軟骨細胞ではほとんど現れません。この骨に偏った現れ方から、BRILは骨の正常な石灰化や骨芽細胞の成熟に欠かせない、と長く考えられてきました。

💡 用語解説:マウス実験からわかった「意外な事実」

マウスでIFITM5遺伝子を完全に壊して(ノックアウトして)も、胎児期から生後12か月まで死ぬことはなく、ほぼ正常に育つことが確認されています。骨の変形も明らかには起こらず、骨の強度や骨代謝マーカーにも大きな変化は見られませんでした。つまり、BRILは「無くても致命的ではない」のです。これは非常に重要な発見でした。なぜなら、IFITM5変異による重い病気は「タンパク質が足りなくなること(機能喪失)」では説明できず、変異したタンパク質が新しい“悪さ”を獲得すること(機能獲得・ネオモルフィック)で起こると考えられるからです。

この「足りないのではなく、新しい毒性を持つ」という考え方は、IFITM5関連疾患を理解するうえでの土台になります。後ほど詳しく見ていきますが、コラーゲンの病気(COL1A1/COL1A2型)が「量が半分になる(ハプロ不全)」や「異常な部品が混ざって壊す(ドミナントネガティブ)」で説明されるのに対し、IFITM5の代表的な変異は、これらとは別の仕組みで病気を引き起こします。

3. IFITM5変異で起こる代表的な病気:骨形成不全症5型

IFITM5変異で起こる病気の大多数を占めるのが、骨形成不全症5型(OI Type V、OMIM 610967)です。2000年に独立した病気として記載され、常染色体顕性(優性)遺伝の形をとります。これまで報告された約150例以上の患者さんの大多数で、IFITM5遺伝子の5’非翻訳領域(5′-UTR)にあるたった1か所の再発性変異「c.-14C>T」が原因として見つかっています。

OI5型は、最も多い軽症型(COL1A1型のOI1型など)とは明確に区別される、特徴的な所見の組み合わせを示します。

🦴 肥厚性仮骨(ひこうせいかこつ)

患者さんの約65%に見られる、OI5型を定義づける最大の特徴。骨折や手術のあと、ときには明らかなきっかけなく、骨を修復する組織(仮骨)が異常に巨大化します。腫れ・熱感・痛みを伴い、骨肉腫(悪性腫瘍)と誤認されるリスクがあります。

🦾 前腕骨間膜の石灰化

ほぼ全例に見られる所見。前腕の2本の骨(橈骨と尺骨)をつなぐ膜が異常に硬く石灰化し、腕をねじる動作(回内・回外)が大きく制限されます。食事・着替え・筆記など日常動作に影響します。

💪 橈骨頭の脱臼

骨間膜の石灰化と、橈骨・尺骨の不均衡な成長の結果として、肘の橈骨頭が脱臼することが高頻度に起こります。これも関節の動きの制限と痛みの原因になります。

👁️ 「ない」ことが手がかり

古典的なOIで多く見られる青色強膜(白目が青く見える)や象牙質形成不全(歯の異常)は、OI5型では通常見られません。この「ない」という情報が、コラーゲン型のOIとの鑑別を助けます。

注目すべきは、同じ家系で同じc.-14C>T変異を持っていても、重症度がかなり異なることです。骨折の頻度や肥厚性仮骨の有無・規模は、同じ変異を持つ人の間でも大きくばらつきます。これは、変異だけで病気の全体像が決まるのではなく、環境要因や他の修飾遺伝子などが複雑に関わっている可能性を示しています。

4. 病態メカニズムと、変異による表現型の多様性

古典的変異 c.-14C>T が生む「MALEP-BRIL」

OI5型の原因 c.-14C>T は、タンパク質の設計図が始まる「本来のスタート地点(開始コドン)」の14塩基手前に、新しいスタート地点を作ってしまう変異です。しかもこの新しいスタート地点は、リボソーム(タンパク質をつくる装置)が好んで読み始める強い目印(Kozak配列)を伴うため、細胞は本来のスタートより新しいスタートを優先してしまいます。

その結果、BRILの先頭に5つのアミノ酸(メチオニン-アラニン-ロイシン-グルタミン酸-プロリン、通称MALEP)が余分に付いた変異タンパク質「MALEP-BRIL」が作られます。たった5アミノ酸の延長ですが、これが骨をつくる細胞の運命を劇的に変えてしまいます。

💡 用語解説:ミスセンス変異・新生突然変異(de novo)

ミスセンス変異とは、DNAの1文字が変わることで、できあがるアミノ酸が別の種類に置き換わる変異です。タンパク質の形が変わり、機能に影響します。

新生突然変異(de novo)とは、両親には無く、精子・卵子ができる段階や受精直後に新しく生じた変異です。IFITM5関連疾患では、この新生突然変異による発症が高い頻度で見られます。

最新の研究で、MALEP-BRILの病気を起こす仕組みが詳しく解明されつつあります。MALEP-BRIL自身は正常なBRILと同じく細胞膜に正しく届いており、I型コラーゲンの分布や修飾にも異常はありません。しかしMALEP-BRILは膜の上でのタンパク質どうしの付き合い方を変え、細胞内のERK/MAPKというシグナル経路を過剰に活性化(リン酸化ERK1/2の増加)させます。これにより、MEF2・NFATc・NR4Aといった転写因子が異常に活性化し、本来の分化プログラムが脱線します。

臨床的に最も重要なのは、この変異が「どの段階の細胞」で働くかです。成熟した骨芽細胞で発現しても重大な異常は起こりません。しかし、まだ分化していない「骨・軟骨の前駆細胞」の段階で発現すると、前駆細胞が成熟した骨芽細胞や軟骨細胞へ変わる「最終分化」が強力にブロックされます。結果として、成熟した骨芽細胞が枯渇して骨量が低下し、一方で分化を妨げられた前駆細胞が異常に増えることで、OI5型に特徴的な「肥厚性仮骨(無秩序な軟骨と未熟な骨の過形成)」が形成されるのです。

野生型(正常)BRIL

細胞膜のBRIL

適切なERK/MAPK(正常なpERK1/2)

前駆細胞 → 成熟した骨芽細胞へ正常に分化

健常な骨基質

変異型 MALEP-BRIL

膜上で複合体との相互作用が変化

ERK/MAPKの過剰活性化(pERK1/2↑)

MEF2・NFATc・NR4Aの異常活性化 → 最終分化がブロック

肥厚性仮骨・骨量低下

c.-14C>T変異で生じたMALEP-BRILは、細胞膜上でERK/MAPK経路を過剰に活性化します。これにより骨・軟骨前駆細胞の成熟した骨芽細胞への最終分化が妨げられ、骨量低下と異常な軟骨形成(肥厚性仮骨)が引き起こされます。

💡 用語解説:ハプロ不全・ドミナントネガティブ・機能獲得

ハプロ不全=タンパク質の「量が半分に減る」ことで起こる病態(OI1型など)。

ドミナントネガティブ=異常な部品が正常な部品の働きを「邪魔する」ことで起こる病態(重症のコラーゲン型OIなど)。

機能獲得(ネオモルフィック)=変異タンパク質が「新しい悪さ」を獲得することで起こる病態。IFITM5のc.-14C>Tはこのタイプで、上の2つとは根本的に異なります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【同じ遺伝子なのに、なぜ違う病気になるの?】

「遺伝子に変異がある=壊れて働かなくなる」と思われがちですが、IFITM5はその直感が通用しません。マウスでこの遺伝子を完全に無くしても大きな問題が起きないのに、特定の変異が入ると重い病気になる——これは、変異したタンパク質が“新しい悪さ”を始めるからです。

だからこそ、IFITM5の検査では「変異があるか」だけでなく「どこに、どんな変異があるか」を精密に読み解くことが何より大切です。同じ遺伝子の中の数文字の違いが、まったく異なる経過につながる。そのことを、私はいつも家族の方にていねいにお伝えしています。

変異の場所で激変する表現型スペクトラム

IFITM5は長く「OI5型だけを起こす単一表現型の遺伝子」と考えられてきました。しかし近年、遺伝子内の別の場所に生じる稀なミスセンス変異が、OI5型とは全く異なる病気を引き起こすことが分かってきました。同じ遺伝子で、これほど臨床像が違うのは驚くべきことです。

変異(DNAレベル) タンパク質への影響 表現型・疾患分類 主な臨床的特徴
c.-14C>T MALEP-BRIL(+5アミノ酸) 骨形成不全症5型(OI Type V) 肥厚性仮骨、前腕骨間膜の石灰化、青色強膜なし
c.119C>T p.S40L 非定型骨形成不全症(6型様) 重度の出生前骨折、四肢短縮、局所的なPEDF欠乏
c.143A>G p.N48S 頭蓋冠ドーナツ病変を伴う骨粗鬆症(OP-CDL) 小児期の骨折、頭蓋冠ドーナツ病変
c.-9C>A p.M1ext-3(+3アミノ酸) 軽度の骨異形成 単独の鎖骨骨折のみと、ごく軽微
c.119C>G p.S40W 非定型骨形成不全症 出生前骨折を伴うが、出生後の骨密度は正常化

特に注目すべきは p.S40L(c.119C>T) です。この変異を持つ人は、肥厚性仮骨や前腕骨間膜石灰化といったOI5型の決定的な特徴を全く示さず、その代わりに胎児期から重度の多発骨折・四肢短縮を呈する、極めて重い早期発症型になります。これは別の遺伝子(SERPINF1)が原因のOI6型に酷似します。一方、p.N48S(c.143A>G) は、日本人家系などで見つかった変異で、頭蓋骨に中央が抜けて辺縁が硬化する独特の環状病変(頭蓋冠ドーナツ病変)を伴う骨粗鬆症(OP-CDL)を起こします。c.143A>G変異の別の患者では骨髄内に類上皮骨肉腫を合併した報告もあり、腫瘍学的な経過観察の必要性も指摘されています。

BRILとPEDF(SERPINF1)の意外なつながり

p.S40L変異がなぜOI6型に似た病気を起こすのか——その鍵は、PEDF(SERPINF1遺伝子の産物)というタンパク質との関係にあります。PEDFは骨芽細胞の分化や石灰化を促す重要な因子で、この機能喪失(SERPINF1の劣性変異)がOI6型を引き起こします。研究によると、p.S40L変異を持つ細胞ではBRIL自体は正常なのに、SERPINF1の発現が著しく低下し、分泌されるPEDFがほとんど検出できないレベルまで減っていたのです。逆に、古典的なc.-14C>T(OI5型)ではPEDFはむしろ増えていました。この鮮やかな対比は、BRILがPEDFの分泌を制御する「上流の調整役」であることを示し、常染色体顕性のOI5型と常染色体劣性のOI6型を分子レベルで結ぶ架け橋となっています。

5. 鑑別診断:見逃してはならない病気

胎児期や乳児期に多発骨折・四肢短縮が見つかったとき、超音波像だけで「重症OI」と決めつけるのは危険です。なかでも絶対に見逃してはならないのが 先天性低ホスファターゼ症(HPP) です。

💡 用語解説:先天性低ホスファターゼ症(HPP)

ALPL遺伝子の変異で起こる、骨の石灰化障害を主とする病気です。超音波やX線の所見が重症OIと非常によく似ますが、HPPには酵素補充療法(アスホターゼ アルファ)という生命予後を大きく改善できる特異的治療があります。そのため、重い骨の病気を見たら血中アルカリホスファターゼ(ALP)値の測定や遺伝子パネル検査で鑑別することが、児の命を守るうえで極めて重要です。「重症OI」と片づけて治療機会を逃すことは絶対に避けなければなりません。

もう一つ重要なのが、乳幼児期の原因不明の多発骨折における児童虐待(非偶発的外傷)との鑑別です。IFITM5変異の患者さんは青色強膜や象牙質形成不全を欠くため、外見からは遺伝性疾患と気づきにくい場合があります。こうした状況で、NGSによるIFITM5を含む遺伝子変異の正確な証明は、不当な家族分離を防ぎ、適切な医療・福祉支援につなげるための強力な根拠になります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【肥厚性仮骨を「がん」と間違えないために】

OI5型の肥厚性仮骨は、大きく腫れて熱を持ち、痛みを伴います。画像だけを見れば、骨肉腫などの悪性腫瘍とよく似ています。実際に、不必要な生検や過剰な治療につながってしまった例も報告されています。

「IFITM5変異を持つ方には、こうした仮骨が起こりうる」と知っているかどうかが、診断の入り口で大きな分かれ道になります。私は、骨の病気は“画像と遺伝子と経過”を合わせて読むことが何より大切だと考えています。気になる経過があれば、遠慮なくご相談ください。

6. 遺伝子検査の進め方

現在、OIや関連する骨の病気の確定診断では、NGS(次世代シーケンサー)を用いた包括的な遺伝子解析が第一選択として確立しています。効率的な診断のためには、段階的なアプローチが推奨されます。

💡 段階的な検査の流れ

  • まずOI全体の約90%を占める COL1A1・COL1A2 のNGS解析を行う
  • コラーゲン遺伝子に異常がなく、肥厚性仮骨や頭蓋冠ドーナツ病変などの特異な所見がある場合 → IFITM5・SERPINF1・PLS3 などを含む拡張型パネルへ移行
  • 変異が見つかった場合は、その位置と種類を精密に解釈し、OI5型・非定型OI・OP-CDLのいずれかを判断する

💡 用語解説:家族歴がなくても遺伝性疾患のことがある

IFITM5関連疾患、特にOI5型は常染色体顕性遺伝でありながら、家系内に発症者が一人もいない「新生突然変異(de novo)」による発症が非常に多いのが特徴です。学術文献でも、OI5型の発端者の多くがde novoとされています。そのため「家族歴がないから遺伝性疾患ではない」と安易に除外するのは、重大な落とし穴になります。

当院では、臨床遺伝専門医が必ず診療と遺伝カウンセリングを行ったうえで、骨密度異常や骨形成不全に関連する遺伝子を網羅的に解析するNGS検査を提供しています。検査メニューの詳細は遺伝子検査一覧をご覧ください。オンライン診療にも対応しており、全国どこからでもご相談いただけます。

7. 出生前診断・NIPTでの可能性

出生前と出生後では、診断のアプローチが異なります。まず整理しておきましょう。

  • 出生前の確定診断羊水検査・絨毛検査による遺伝子解析
  • 出生前のスクリーニング = 母体血を用いる非侵襲的なNIPT(単一遺伝子疾患に対応する拡大型)

ダウン症などの染色体数の異常を調べる従来のNIPTでは、骨の遺伝性疾患は検査対象になりません。一方、母体血中を流れるセルフリーDNA(cfDNA)を用いた拡大型の単一遺伝子NIPTでは、胎児のFGFR3やCOL1A1/COL1A2などの主要な骨系統疾患の原因遺伝子を、針を刺さずにスクリーニングできるようになってきました。当院のインペリアルプランには、IFITM5を含む154遺伝子が対象として含まれています。

超音波検査で長管骨の異常などが疑われた段階でこうした検査を活用すれば、早期に方向性を絞り、その後の確定的な検査(羊水検査・絨毛検査)や周産期管理の方針立案に役立つ情報を得られます。なお当院でNIPTを受検された方は互助会(8,000円)に加入となり、陽性結果が出た場合の羊水検査費用が補助されます。どのプランを選ぶかは、検査でわかること・わからないことを理解したうえで、ご家族で話し合ってお決めください。

不完全な情報で出生前に骨の病気を疑った場合、それを「常に見つけるべき」と考えるのは適切ではありません。IFITM5関連疾患は重症度の幅が非常に広く、検査結果の受け止め方も人それぞれです。当院では、特定の検査を勧めたり、安心を保証したり、不安を煽ったりすることはせず、中立的な立場で情報をお伝えし、決定はご家族に委ねます。

8. 遺伝カウンセリングと長期管理

IFITM5関連疾患の確定診断は、ゴールではなく、生涯にわたる長期管理とサポートの始まりです。臨床遺伝専門医による継続的な遺伝カウンセリングが大切な役割を果たします。

  • 再発リスクの説明:患者さん本人が子どもを持つ場合、変異が受け継がれる確率は理論上50%(常染色体顕性遺伝)です。両親が非発症で子どもがde novo変異で発症した場合、次のお子さんの再発リスクは一般集団と同程度に低いと考えられます。ただし生殖細胞モザイク(親の精子・卵子だけに変異がある状態)の可能性は完全には除外できないため、次子妊娠時の出生前診断の選択肢について十分な話し合いが必要です。
  • 心理的サポート:軽症で外見からは理解されにくい「見えない障害」から、車椅子生活を要する重症型まで、不確実性が家族に与える負担は計り知れません。結果という数値で終わらせず、「どう受け止め、どう生きるか」に寄り添うことを大切にしています。
  • 集学的なチーム医療:骨脆弱性への薬物療法、変形や骨折への外科的介入、難聴・歯科領域の管理、小児期から成人期への移行期医療(トランジションケア)まで、複数の診療科による包括的な対応が必要です。

特に外科的介入では、OI5型の特徴である肥厚性仮骨を誘発するリスクがあるため、手術適応の慎重な判断と周術期の特別なリスク管理が求められます。

9. よくある誤解

誤解①「家族歴がないから遺伝性ではない」

OI5型の多くは新生突然変異(de novo)で起こり、両親には変異がありません。「家族にいないから遺伝病ではない」という思い込みが診断を遅らせることがあります。

誤解②「同じIFITM5変異なら同じ病気」

同じ遺伝子でも、変異の場所が数文字違うだけで全く別の病気になります。c.-14C>TはOI5型、p.S40Lは重症の6型様、p.N48SはOP-CDLです。

誤解③「腫れた仮骨はがんかもしれない」

肥厚性仮骨は腫れ・熱感・痛みを伴い悪性腫瘍に似ますが、OI5型に特徴的な現象です。経過と遺伝子検査を合わせれば、不必要な生検を避けられます。

誤解④「青色強膜がないからOIではない」

OI5型では青色強膜や象牙質形成不全が通常見られません。これらが「ない」ことはOIを否定する根拠にはならず、むしろOI5型を疑う手がかりになります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【正確な診断名が、これからの道しるべになる】

骨がもろいお子さんを持つご家族とお話ししていると、「原因がわからないまま骨折を繰り返してきた」「虐待を疑われてつらい思いをした」という声を少なからず耳にします。IFITM5という一つの遺伝子の中の、わずかな違いを正確に読み解くことが、こうした不安に明確な答えを与えてくれます。

遺伝医療の役割は、検査結果という数字を渡して終わることではありません。最新のエビデンスをもとに、その家族が「どう受け止め、どう生きていくか」に寄り添い、ともに歩むこと。それが、私が遺伝子の情報発信を続けている理由です。

よくある質問(FAQ)

Q1. IFITM5遺伝子は何をしている遺伝子ですか?

骨をつくる細胞(骨芽細胞)でBRILというタンパク質をつくり、骨の形成や石灰化を支える遺伝子です。11番染色体(11p15.5)にあり、BRILはほぼ骨芽細胞だけで働きます。変異すると骨形成不全症5型などの骨がもろくなる病気を引き起こします。

Q2. IFITM5の変異はどのように遺伝しますか?

常染色体顕性(優性)遺伝の形をとります。ただしOI5型の多くは新生突然変異(de novo)で起こり、両親には同じ変異がないことがほとんどです。患者さん本人が子どもを持つ場合、変異が受け継がれる確率は理論上50%です。次子の出生前診断の選択肢については臨床遺伝専門医にご相談ください。

Q3. なぜ同じ遺伝子なのに違う病気になるのですか?

変異の場所と種類によって、タンパク質への影響が大きく変わるためです。5’非翻訳領域のc.-14C>Tは「MALEP-BRIL」という新しい性質を持つタンパク質を生んでOI5型を起こします。一方、コード領域のp.S40Lは重い6型様の病気を、p.N48Sは頭蓋冠ドーナツ病変を伴う骨粗鬆症(OP-CDL)を起こします。

Q4. 骨形成不全症5型の特徴は何ですか?

骨折後などに巨大な仮骨ができる「肥厚性仮骨」(約65%)、前腕の骨をつなぐ膜が硬くなる「前腕骨間膜の石灰化」(ほぼ全例)、橈骨頭の脱臼が特徴です。一方で、ほかのOIで見られる青色強膜や象牙質形成不全(歯の異常)は通常見られません。

Q5. どのように検査・診断しますか?

まずCOL1A1・COL1A2のNGS解析を行い、異常がなく特徴的な所見がある場合にIFITM5などを含む拡張型パネルへ移行します。変異が見つかったら、その位置(5’UTRかコード領域か等)を精密に解釈して疾患を判断します。家族歴がなくてもde novoで発症することが多い点に注意が必要です。

Q6. 出生前にIFITM5変異を調べられますか?

既知の変異がある場合は絨毛検査・羊水検査による確定診断が可能です。スクリーニングとしては、IFITM5を含む154遺伝子に対応する当院のインペリアルプランなど、母体血を用いる拡大型NIPTの活用も選択肢になります。検査でわかること・わからないことを理解したうえで選択してください。

Q7. 治療で特に注意すべきことはありますか?

骨脆弱性への薬物療法や、変形・骨折への外科的介入が検討されますが、OI5型では手術が肥厚性仮骨を誘発するリスクがあるため、適応の慎重な判断と周術期の特別な管理が必要です。難聴・歯科領域・移行期医療を含む集学的なチーム医療が、長期的な生活の質を保つうえで欠かせません。

Q8. 重症OIを疑ったとき、忘れてはいけない鑑別は?

先天性低ホスファターゼ症(HPP)です。超音波やX線で重症OIによく似ますが、酵素補充療法という有効な治療があるため、見逃すと治療機会を失います。血中アルカリホスファターゼ(ALP)の測定や低ホスファターゼ症を含む遺伝子検査での鑑別が重要です。乳幼児では児童虐待との鑑別も大切で、正確な遺伝子診断が家族を守る根拠になります。

🏥 骨の遺伝性疾患・遺伝子検査のご相談

IFITM5をはじめとする骨の遺伝性疾患に関するご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックへお気軽にどうぞ。

関連記事

参考文献

  • [1] OMIM. Osteogenesis Imperfecta, Type V; OI5 (#610967). Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [2] OMIM. Interferon-Induced Transmembrane Protein 5; IFITM5 (*614757). [OMIM]
  • [3] Semler O, et al. A mutation in the 5′-UTR of IFITM5 creates an in-frame start codon and causes autosomal-dominant osteogenesis imperfecta type V with hyperplastic callus. Am J Hum Genet. 2012;91(2):349-357. [PubMed]
  • [4] The IFITM5 mutation in osteogenesis imperfecta type V acts through the osteoblast lineage. J Clin Invest (JCI). [JCI]
  • [5] The osteogenic cell surface marker BRIL/IFITM5 is dispensable for bone development and homeostasis in mice. PLOS One. 2017. [PLOS One]
  • [6] Farber CR, et al. A novel IFITM5 mutation in severe atypical osteogenesis imperfecta type VI impairs osteoblast production of PEDF. J Bone Miner Res. [PMC4352343]
  • [7] Mäkitie RE, et al. A Novel IFITM5 Variant Associated with Phenotype of Osteoporosis with Calvarial Doughnut Lesions: A Case Report. Calcif Tissue Int. 2021. [PMC8531111]
  • [8] The Osteogenesis Imperfecta Type V Mutant BRIL/IFITM5 Promotes Transcriptional Activation of MEF2, NFATc, and NR4A in Osteoblasts. Int J Mol Sci. 2022;23(4):2148. [MDPI]
  • [9] GeneCards. IFITM5 Gene – Interferon Induced Transmembrane Protein 5. [GeneCards]

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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