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遺伝子検査;遺伝学的リスク評価を考慮するための判定基準:北斗晶さんを考えてみよう

みなさま,こんにちは.

まだまだあまり,なじみがないかもしれませんが.がんの遺伝学的リスクを検討する場面があります.

米国国立がんセンター NCIが発信しているNCCNのガイドラインには,以下のようなことがあれば,遺伝の専門家にコンサルトするよう述べられています.

原文のままお出しします.日本語はわたしがつけたものです.訳がおかしかったらご指摘ください.

www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/genetics_screening.pdf

CRITERIA FOR FURTHER GENETIC RISK EVALUATION 遺伝学的リスク評価を考慮するための基準

An individual with a cancer diagnosis meeting any of the  following: がんと診断され,以下をひとつでも満たす人

  • A known mutation in a cancer susceptibility gene within the family 家系にがん易罹患性を示す遺伝子変異が既知である
  • Early-age-onset breast cancer 若年発症 (スタディにより40,50歳とバラバラですが,臨床的には50歳とするのが一般的です)
  • Triple negative (ER-, PR-, HER2-) breast cancer ≤60 y  60歳以下のトリプルネガティブ
  • Two breast cancer primariescin a single individual 同一個体で2箇所の原発性乳がん
  • Breast cancer at any age, and 年齢を問わない乳がんで

’≥1 close blood relatived with breast cancer ≤50 y, or 50歳以下の血縁者の乳がんが1名以上

’≥1 close blood relatived with invasive ovariane cancer at any age, or 年齢を問わない浸潤性卵巣がんが血縁に1名以上

’≥2 close blood relatives with breast cancer and/or pancreatic cancer at any age, or 血縁者に2名以上の年齢を問わない乳がんまたは膵がん

’From a population at increased risk がんの危険度の高い集団出身

  • Personal and/or family history of three or more of the following (especially if early onset): pancreatic cancer, prostate cancer (Gleason score ≥7); sarcoma, adrenocortical carcinoma, brain tumors, endometrial cancer; thyroid cancer, kidney cancer, dermatologic manifestations and/or macrocephaly, hamartomatous polyps of gastrointestinal (GI) tract; diffuse gastric cancer (can include multiple primary cancer in same individual) 家系に3人以上の(特に若年性の)以下の存在: すい臓がん,前立腺がん(グリソンスコア7以上),肉腫,副腎皮質癌,脳腫瘍,子宮内膜癌,甲状腺がん,腎癌,皮膚症状,巨脳症,消化管過誤腫,びまん性胃がん(同一個体における複原発性を含む)
  • Invasive ovariane cancer  浸潤性卵巣がん
  • Male breast cancer  男性乳がん

An individual with no personal history of cancer  but with a family history of any of the following:   がん未発症で以下のいずれかの家族歴を満たす

  • A known mutation in a cancer susceptibility gene within the family 家系のがん易罹患性を示す遺伝子変異が既知の場合
  • ≥2 breast cancer primaries in a single individual 同一個体に2箇所以上の乳がんの原発巣
  • ≥2 individuals with breast cancer primaries on the same side of family 父系,母系という同じ系統の家系のなかで2人以上の乳がん
  • ≥1 invasive ovariane cancer primary  1人以上の浸潤性卵巣がん
  • First- or second-degree relatived with breast cancer ≤45 y 1または2親等で45歳以下の乳がん
  • Personal and/or family history of three or more of the following (especially if early onset): pancreatic cancer,  prostate cancer (Gleason score ≥7), sarcoma, adrenocortical carcinoma, brain tumors, endometrial cancer; thyroid cancer, kidney cancer, dermatologic manifestations,and/or macrocephaly, hamartomatous polyps of GI tract;h diffuse gastric canceri (can include multiple primary cancers in same individual)
    3人以上の(特に若年発症の)以下のがん;膵臓がん,前立腺がん(グリソンスコア7以上), 肉腫,副腎皮質癌,脳腫瘍,子宮内膜癌,甲状腺がん,腎癌,皮膚症状,巨脳症,消化管過誤腫,びまん性胃がん(同一個体における複原発性を含む)
  • Male breast cancer 男性乳がん

このうち,報道で知ることが出来るのは,北斗さんが48歳であることから,

乳がんと診断されて,「Early-age-onset breast cancer」であることでしょう.とすると,北斗さんはこのクライテリアを満たす,と言うことになります.

遺伝学的リスク評価を考慮しないといけない乳がんの割合は約10%とされています.

まったく家族歴がなくても,「新生突然変異」といって,配偶子(精子,卵子)形成過程で起こった変異により,両親にない変異があるのが通常ですから,それがたまたまがんの易罹患性を増してしまう遺伝子におこることも十分考えられるのです.
ですから,家族歴がなくても否定できないのです.

以前,お伝えしたとおり,DNAコピーの際に,DNAポリメラーゼという酵素がミスコピーする確率が10万分の1.

そして,それを修復するDNA修復酵素のエラーが1/100

これを掛けた1000万分の1が,DNAのミスコピーの確率です.

ヒトのゲノムは,30億塩基対ありますから,理論的には1ゲノムあたり,600箇所のミスコピーがあるということですよね.

完璧な遺伝子など,この世にはないのでした!

というわけで.

今日は,みなさまに,がんの遺伝学的リスク評価を考慮するのはどういう場合なのかをお伝えしようと思いこれを書きました.

尚,通常は,特定の個人を対象として,このような内容を専門医として発信したりは致しませんが.

北斗さんは,自ら「乳がん患者さんたちのために」と,ご自身が啓発のために尽力されておられますので宜しいかと考えました.

お問い合わせは,こちらまでお願いします.

info@minerva-clinic.or.jp