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α-Klotho(KL遺伝子)とは|老化・FGF23・腎臓をつなぐ「抗老化遺伝子」を遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

α-Klotho(アルファ・クロトー)は、1997年に「これを失ったマウスが急速に老化する」遺伝子として発見され、「抗老化遺伝子」として一躍注目を集めました。その名は、ギリシャ神話で人の運命の糸を紡ぐ女神クロトーに由来します。しかし四半世紀の研究を経て見えてきたのは、Klothoが単なる「若返りの魔法の遺伝子」ではなく、リン・カルシウムの調整、腎臓、心臓、血管、神経をつなぐ体の“調整ハブ”だという姿です。この記事では、KL遺伝子とは何か、なぜFGF23というホルモンの相棒として重要なのか、そして「老化のものさし」や新しい治療になりうるのかを、最新の研究にもとづいて遺伝専門医の視点で解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 KL遺伝子・FGF23・老化・腎臓
臨床遺伝専門医監修

Q. α-Klotho(KL遺伝子)とは、ひとことで言うと何ですか?

A. 主に腎臓でつくられるタンパク質の設計図で、FGF23というホルモンの「共受容体(相棒の受け皿)」として、体のリンとカルシウム、ビタミンDのバランスを調整します。加齢や腎臓病でこの量が減ることが知られ、老化や心血管の健康との関わりが研究されています。ただし「抗老化薬」や「老化を測る血液検査」として確立したものは、2026年時点ではまだありません。

  • 発見の経緯:1997年、失うと早老様の症状が出る遺伝子として同定[1]
  • いちばん確かな働き:FGF23の共受容体としてリン・カルシウム代謝を調整[3][4]
  • 腎臓が中心:Klothoの主な供給源。腎臓病で早くから低下する[9]
  • 治療・検査:mRNA製剤の臨床試験が始まった段階。検査法の標準化はこれから[15]

📋 α-Klotho(KL遺伝子)基本データ

遺伝子シンボル KL(HGNC承認シンボル。産物はα-Klothoタンパク質)
染色体の位置 第13番染色体長腕(13q13.1)/NCBI RefSeqの現行注釈では7エクソン
タンパク質 約1012アミノ酸・約130〜135 kDaの1回膜貫通型糖タンパク質[5]
主な発現部位 腎臓(とくに遠位側のネフロン)を中心に、副甲状腺・脈絡叢など
いちばん確かな機能 FGF23ホルモンの共受容体(リン・カルシウム・ビタミンD調整)
医療との関わり 慢性腎臓病(CKD)、血管の石灰化、老化研究、治療・検査法の開発

※本記事は一般の方と遺伝診療に関わる方の両方に向けた用語解説です。特定の検査や治療を勧めるものではありません。

α-Klothoの遺伝子・タンパク質構造、分子種、FGF23シグナル、腎臓を中心とした全身作用、加齢・慢性腎臓病との関連、治療開発を示す模式図

α-Klotho(KL遺伝子)の構造と主な分子種、FGF23・FGFRとの共受容体複合体によるリン・ビタミンD代謝の調節、腎臓を中心とした全身との関わりをまとめた模式図。α-Klothoは加齢や慢性腎臓病(CKD)との関連が研究されており、タンパク質補充やmRNAなどを用いた治療開発も進められていますが、ヒトにおける抗老化治療としての有効性は確立していません。

1. α-Klothoとは ─ 「抗老化遺伝子」発見の物語

物語は1997年に始まります。黒尾誠(くろお・まこと)博士らのグループが、あるマウスの系統で偶然に一つの遺伝子の働きが失われていることを発見しました。この遺伝子を失ったマウスは、短い寿命・動脈硬化のような血管の変化・骨粗しょう症・肺気腫・皮膚の萎縮・不妊といった、まるで急速に老け込んだような症状(早老様の表現型)を同時に示したのです[1]。この遺伝子は、運命の糸を紡ぐギリシャ神話の女神にちなんで「Klotho(クロトー)」と名づけられました。

さらに2005年には、逆にKlothoを多くつくるように操作したマウスでは寿命が延びることが報告されました[2]。「失うと老化が進み、増やすと長生きする」——この2つの実験が、Klothoを一躍「抗老化遺伝子」のスターに押し上げました。当初は腎臓のタンパク質と考えられていましたが、その後の研究で、Klothoはリンやカルシウムの調整、代謝、線維化(組織が硬くなること)、酸化ストレス、心臓や血管、神経の働きまで結ぶ、体の広い“調整ハブ”だと理解されるようになりました。

💡 用語解説:早老様の表現型(そうろうようのひょうげんけい)

「表現型」とは、遺伝子の働きの結果として体に現れる特徴のことです。「早老様」は、実際の老化とまったく同じではないものの、老化に似た症状が早く現れる状態を指します。Klothoを失ったマウスの症状は、後で述べるように、リンやカルシウムの代謝が大きく乱れることと深く結びついている点に注意が必要です。

2. Klothoという分子のかたち ─ 「はさみ」ではなく「留め具」

α-Klothoは、細胞膜を1回だけ貫く大きなタンパク質です。細胞の外に出ている部分に、KL1・KL2とよばれるよく似た2つの領域(ドメイン)が並んでいます[5]。このKL1・KL2は、糖を切る酵素(グリコシド加水分解酵素ファミリー)とそっくりの立体構造をしています。そのため発見当初は、Klotho自身が糖を切る酵素なのではないかと考えられました。

ところが、ここに大きな“どんでん返し”がありました。2018年、Klothoの立体構造が原子レベルで解き明かされると、KL1・KL2は酵素として働くのに必要な「触媒残基」を欠いていることがはっきりしたのです[4]。つまりKlothoは、糖を切る「はさみ」ではありませんでした。では何をしているのか——答えは、後で述べるFGF23というホルモンとその受容体を同時に抱きかかえて結びつける「留め具(足場)」だったのです。

⚠️ よくある誤解:「Klothoは糖を分解する酵素」

古い解説では、Klothoを「β-グルクロニダーゼ」などの酵素として説明することがあります[13]。しかし2018年の構造解析は、Klothoが古典的な糖分解酵素として働くという考えを支持しませんでした[4]。糖鎖に関わる現象は確かに報告されていますが、Klotho自身が糖を切っているのか、別の仕組みなのかは、2026年時点でも決着していません。「Klotho=酵素」と断定するのは正確ではない、というのが現在の理解です。

3. FGF23との関係 ─ Klothoの「いちばん確かな仕事」

Klothoの数ある働きのなかで、最も確実で再現性が高いのが、FGF23というホルモンの「共受容体」になることです。FGF23は骨(骨細胞)でつくられ、血液に乗って腎臓に届き、「体からリンを出しなさい」「ビタミンDを減らしなさい」と指令するホルモンです。

ところがFGF23は、そのままでは腎臓の受容体(FGFR)にうまく結合できません。ここでKlothoが登場します。2006年の研究は、Klothoがあることで初めてFGFRがFGF23に強く反応できるようになることを示し、「KlothoはFGFRをFGF23専用の受け皿に作り変える」という概念を打ち立てました[3]。2018年の立体構造の研究は、これをさらに直接証明しました。Klothoが片手でFGFR、もう片手でFGF23を同時につかみ、両者を隣り合わせにして結びつける「留め具」として働いていたのです[4]

骨がFGF23を分泌リンを出す指令
腎臓でFGFR+α-Klothoが受け取るKlothoが留め具役
尿へのリン排泄が増えるビタミンDも調整

この仕組みがあるおかげで、体はリンとカルシウム、そしてビタミンDのバランスを保っています。逆にKlothoが足りなくなると、FGF23がいくら多くても腎臓が反応しにくくなり(FGF23への抵抗性)、リンや活性型ビタミンDが過剰になってしまうことがあります[3]。この「リン・カルシウム調整」こそが、Klothoの生物学の土台です。

💡 用語解説:共受容体(きょうじゅようたい)

「受容体」は、ホルモンなどの合図を受け取るアンテナです。「共受容体」は、そのアンテナが合図を正しく受け取るのを助ける“補助アンテナ”のこと。Klothoは、FGF23という合図を腎臓のアンテナ(FGFR)が受け取れるようにする、必須の補助役です。受容体について詳しくはこちら

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4. 「Klotho」には複数の顔がある ─ 混乱しやすい分子種の整理

Klothoを難しくしているのが、「Klotho」と呼ばれるものが実は1種類ではないという点です。論文でも「分泌型」「可溶型」などの言葉が入り乱れています。ここを整理しておくと、ニュースや解説をぐっと読みやすくなります。

① 膜型細胞膜にある本体
② 切り出された可溶型血液・尿中へ
③ 断片(KL1/KL2)さらに小さく

まず①膜型Klothoが本体で、これがFGF23の共受容体として働きます。この膜型の外側部分が、ADAM10/ADAM17というハサミ役の酵素によって切り離されると、血液や尿の中に流れ出す②可溶型(soluble)Klothoになります[6]。この「切り出し(シェディング)」は、インスリンの刺激で強まることも実験で確かめられています。血液検査で測る「Klotho」は、主にこの②を見ていると考えるのが、いちばん確実です。

💡 用語解説:「分泌型」という言葉のわな

1998年、遺伝子の読み取り方を変える選択的スプライシングによって「分泌型KL1」という短いKlothoができる、という報告がありました。しかし2017年の研究で、ヒトではこの設計図(mRNA)が途中で止まる指令を持ち、ナンセンス変異依存mRNA分解(NMD)という品質管理の仕組みで壊されてしまうことが示されました[7]。そのため、血液中のKlothoの正体を「分泌型」と説明するのは、現在では支持されにくくなっています。

5. 腎臓とKlotho ─ 「遠位尿細管だけ」という古い地図の修正

腎臓は、α-Klotho研究の中心です。長らく「腎臓の遠位尿細管という部分だけがKlothoをつくる」という模式図が使われてきました。しかし近年、この“地図”はより精密に書き直されています。2024年のヒト腎臓の解析では、接合尿細管(CNT)で最も強く、次いで遠位曲尿細管(DCT)で発現し、近位尿細管にも低〜中程度みられる、という分布が示されました[14]

さらに2026年に発表された、腎臓の部分ごとにKlothoを欠損させる精密な研究は、重要な修正を加えました。遠位側のKlothoは尿中Klothoやカルシウムの再吸収には大切ですが、それだけを失っても血液中のKlotho・FGF23・リンのバランスは大きく崩れなかったのです[18]。全身のリン調整が本当に破綻するのは、腎臓の広い範囲でKlothoを失ったときでした。これは「KlothoはDCT限定のタンパク質」という単純な見方を否定する結果です。

🩺 臨床でのポイント:尿のKlothoと血液のKlothoは別物かもしれない

この2026年の研究が示す大切な点は、「尿中のKlothoを増やすこと」と「全身のFGF23・リンのバランスを整えること」は同じゴールではないということです[18]。将来Klothoを検査や治療に使うときには、血液の値だけでなく、尿中Klothoやカルシウム・リンの動きを分けて評価する必要があります。

6. 老化・腎臓病・心臓 ─ Klothoが関わる病気

慢性腎臓病(CKD)とKlotho

腎臓病では、腎臓のKlothoが低下し、同時にFGF23が上昇します。Klotho低下、高リン血症、FGF23上昇などは、血管の石灰化や心肥大など、腎臓病にともなう心臓・血管障害と関連します。動物実験では、Klothoを補ったり増やしたりすると、腎障害・血管石灰化や尿毒症性の心筋症が改善することが示されています[9][10][12]。ただし、これらは動物での結果であり、ヒトで病気を治す効果はまだ証明されていません。

Klothoの低下は、腎臓病の単なる「結果」ではなく、病気を悪化させる「増幅装置」にもなりうると考えられています。腎臓病のモデルでは、Klothoが減るとWntシグナルTGF-βシグナルが過剰になり、線維化が進みます。可溶型Klothoを補うと、これらの過剰なシグナルと線維化が抑えられました[11]。Klothoはまた、酸化ストレスから細胞を守る働きにも関わります[8]

心臓・血管とKlotho

心臓では、少し複雑な二面性があります。腎臓ではFGF23はKlothoを必要としますが、心臓では過剰なFGF23がKlothoなしでも心臓の肥大を引き起こすことが示されています[20]。実際、Klothoが欠乏したマウスの尿毒症性心筋症は、リンやFGF23を正常に戻しても完全には消えず、可溶型Klothoを補うと改善しました[12]。これは、Klothoの心臓を守る働きに、リン代謝とは独立した成分があることを示しています。

老化と寿命 ─ 「多ければ多いほど良い」ではない

老化研究では、Klothoを補う実験が神経の働きに良い影響を与える可能性が注目されています。一方で、老齢のサル(アカゲザル)を使った2023年の研究は、とても示唆に富む結果を示しました。低用量のKlothoで記憶が改善したのに、用量を増やすと効果がなくなったのです[17]。つまりKlothoは「多ければ多いほど良い」わけではなく、ちょうど良い量の“窓”があるのかもしれません。この点は、Klothoを「万能の若返りホルモン」と単純化することへの、重要な戒めになっています。

7. 治療・検査への応用 ─ どこまで進んでいるのか

治療開発 ─ まだ多くは前臨床段階

Klothoを治療に使う試みには、組換えタンパク質を補う方法、遺伝子を導入する方法、mRNAで一時的につくらせる方法などがあります。現時点で最も厚いデータは動物実験です。2026年には、α-Klothoの設計図をmRNAとして脂質ナノ粒子(LNP)で届ける製剤(AKL003)の、ヒトで初めての第1b相試験が登録されました[15]。これは主に安全性と、血液中のKlothoが上がるかを確かめる初期段階の試験で、寿命延長や病気を治す効果を示すものではありません。

⚠️ 大切な注意:「臨床で効果が証明されたKlotho治療」はまだありません

Klothoを増やすことにも、実はリスクがあります。FGF23への感受性を高めすぎればリンやビタミンDが減りすぎる可能性があり、Wnt・TGF-βを抑えることにも、組織の修復とのバランスという難しさがあります。さらに前述のとおり、記憶への効果は「多いほど良い」わけではないことが分かっています[17]。将来の試験では、血液中のKlothoを最大化するより、リン・カルシウム・ビタミンD・FGF23・腎機能・心臓の状態を同時に見ながら、ちょうど良い量を探すことが理にかなっています。

バイオマーカー ─ 「老化のものさし」への期待と壁

血液中の可溶型Klothoは、加齢や腎機能の低下と関連するという研究が数多くあります。2010年には測定法(ELISA)が開発され、成人の血中Klotho値が年齢とともに下がることが示されました[16]。しかし、ここには大きな壁があります。測定法によって結果が大きく違うのです。2019年の研究は、市販の測定キットと高精度な方法とで、回収率や腎機能との相関が大きく異なること、さらに検体の凍結・解凍でも値が変わることを実証しました[19]

💡 なぜ「Klotho低値=老化」と言い切れないのか

「血中Klothoが◯◯以下なら老化が進んでいる」といった単一の基準値を決めるには、測定法の標準化、基準となる標準物質、どの分子種を測っているのか、検体の保存条件、といった課題を解決する必要があります[19]。これらが未解決のため、2026年時点では「Klothoを1回測れば老化速度が分かる」とは言えません。バイオマーカーの考え方はこちら

エビデンスの成熟度マップ

Klothoに関する主張は、確かなものから研究途上のものまで、成熟度に大きな幅があります。混同しないよう、証拠のレベルを整理しておきましょう。

FGF23の共受容体としての機能
非常に確立
腎臓でのリン・カルシウム調整
非常に確立
切り出しによる可溶型Klothoの生成
確立
Wnt・TGF-β・酸化ストレスへの保護作用
強い前臨床(動物)
Klotho自身の糖分解酵素としての活性
論争中
ヒトの老化バイオマーカー・治療効果
有望だが未確立

8. 遺伝診療との接点 ─ KL遺伝子をどう位置づけるか

α-Klothoは「KL」という遺伝子の産物です。KL遺伝子そのものは、日常の遺伝子検査でよく調べる対象ではありませんが、その働きを理解することは、リンやカルシウムの代謝に関わる病気、FGF23が関係する病気、慢性腎臓病の分子的な背景を読み解くうえで役立ちます。たとえば、KL遺伝子の設計図の一部が変わるミスセンス変異などによって、リン代謝の異常が生じうることが報告されています。

💡 混同注意:α-Klothoと β-Klotho(KLB)は別物です

「Klotho」には、この記事のα-Klotho(KL遺伝子)のほかに、よく似た名前のβ-Klotho(KLB遺伝子)があります。β-Klothoは、FGF21やFGF19という別のホルモンの共受容体で、主に代謝(糖・脂質)の研究で登場します。名前は似ていても、相手にするホルモンも働く場所も異なります。α-Klothoの働きを、β-Klothoが関わるFGF21の研究から類推するのは適切ではありません。ニュースや論文で「Klotho」を見たら、どちらの話かを確かめることが大切です。

当院では、遺伝子や染色体に関わる検査の前後で、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行っています。ある遺伝子の働きが体にどう影響しうるのかを、中立の立場で分かりやすく整理し、ご本人・ご家族の意思決定に伴走します。なお、α-Klothoは老化・腎臓・心血管をつなぐ研究段階の話題が多いテーマであり、ここでは「遺伝子の働きをどう読み解くか」という理解の土台として位置づけています。

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仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「抗老化」という言葉に振り回されないために】

α-Klothoは、健康や美容の文脈で「抗老化」「若返り」というきらびやかな言葉とともに語られがちです。たしかに、Klothoの発見が老化研究に大きなインパクトを与えたのは事実です。けれども、この四半世紀の研究がていねいに教えてくれたのは、むしろ「単純化しないことの大切さ」でした。

Klothoは、リンやカルシウムの調整という地味だけれど確かな仕事を土台に、腎臓・心臓・血管・神経へと広く関わっています。一方で「老化を測る検査」「老化を止める薬」として確立したものは、まだありません。科学のニュースに触れるときは、「どこまでが確かで、どこからが期待なのか」を分けて読む——その姿勢こそが、遺伝医療でも最も大切にしていることです。

9. よくある誤解

誤解①「Klothoは若返りの魔法の遺伝子」

Klothoの最も確かな働きは、FGF23の共受容体としてのリン・カルシウム調整です。老化との関わりは重要な研究テーマですが、「増やせば若返る万能ホルモン」ではありません。むしろ、ちょうど良い量の“窓”がある可能性が示されています。

誤解②「Klothoは糖を分解する酵素」

発見当初はそう考えられましたが、2018年の構造解析は、Klothoが古典的な糖分解酵素として働くことを支持しませんでした。Klothoの本質は、FGF23とその受容体を結びつける「留め具(足場)」です。

誤解③「血液のKlothoを測れば老化が分かる」

測定法によって結果が大きく異なり、標準化がまだできていません。単一の基準値で「老化度」を判定する根拠は不足しており、2026年時点で確立した「老化検査」ではありません。

誤解④「α-Klothoとβ-Klothoは同じもの」

名前は似ていますが別の遺伝子・別の働きです。α-Klothoはリン代謝のFGF23、β-Klotho(KLB)は代謝のFGF21/FGF19と組みます。混同すると理解が大きくずれてしまいます。

よくある質問(FAQ)

Q1. α-Klotho(KL遺伝子)とは何ですか?

主に腎臓でつくられるタンパク質「α-Klotho」の設計図となる遺伝子です。1997年に、失うと老化に似た症状が早く現れる遺伝子として発見されました。最も確かな働きは、FGF23というホルモンの「共受容体」として、体のリン・カルシウム・ビタミンDのバランスを調整することです。

Q2. Klothoは本当に「抗老化遺伝子」なのですか?

マウスでは、Klothoを失うと早老様の症状が出て、増やすと寿命が延びることが示されており、老化との関わりは確かです。ただし、その症状の多くはリン・カルシウム代謝の乱れと深く結びついており、Klothoを「万能の若返りホルモン」と単純化することはできません。ヒトで「抗老化薬」として効果が証明されたものは、2026年時点ではありません。

Q3. Klothoを増やせば長生きできますか?

動物実験では寿命延長や臓器保護の報告がありますが、ヒトで実証されてはいません。むしろ、老齢のサルの研究では「用量を増やすと効果がなくなる」という結果も出ており、ちょうど良い量が重要と考えられています。Klothoを増やすことにもリン代謝への影響などのリスクがあり、安全で効果的な使い方はこれからの研究課題です。

Q4. 血液でKlothoを測れば、自分の老化度が分かりますか?

現時点ではおすすめできません。血中Klothoは加齢や腎機能と関連しますが、測定法によって結果が大きく異なり、標準化ができていません。「この値以下なら老化が進んでいる」といった単一の基準値を、施設をまたいで使える段階には至っていないのが実情です。

Q5. α-Klothoとβ-Klothoは何が違うのですか?

別々の遺伝子で、働きも異なります。この記事のα-Klotho(KL遺伝子)はFGF23と組んでリン・カルシウム代謝を調整します。一方のβ-Klotho(KLB遺伝子)は、FGF21やFGF19という別のホルモンの共受容体で、主に糖・脂質の代謝に関わります。名前は似ていますが、混同しないよう注意が必要です。

Q6. Klothoの遺伝子検査は受けられますか?

KL遺伝子は、日常の遺伝子検査で一般的に調べる対象ではありません。α-Klothoは老化・腎臓・心血管をつなぐ研究段階の話題が多いテーマです。遺伝子検査や遺伝性の病気について気になることがあれば、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングでご相談いただけます。

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参考文献

  • [1] Mutation of the mouse klotho gene leads to a syndrome resembling ageing. Nature. 1997. [PubMed 9363890]
  • [2] Suppression of aging in mice by the hormone Klotho. Science. 2005. [PubMed 16123266]
  • [3] Klotho converts canonical FGF receptor into a specific receptor for FGF23. Nature. 2006. [PubMed 17086194]
  • [4] α-Klotho is a non-enzymatic molecular scaffold for FGF23 hormone signalling. Nature. 2018. [PubMed 29342138]
  • [5] Identification of the human klotho gene and its two transcripts encoding membrane and secreted klotho protein. Biochem Biophys Res Commun. 1998. [PubMed 9464267]
  • [6] Insulin stimulates the cleavage and release of the extracellular domain of Klotho by ADAM10 and ADAM17. Proc Natl Acad Sci U S A. 2007. [PNAS 10.1073/pnas.0709805104]
  • [7] Human alternative Klotho mRNA is a nonsense-mediated decay target inefficiently spliced in renal disease. JCI Insight. 2017. [JCI Insight 94375]
  • [8] Regulation of oxidative stress by the anti-aging hormone klotho. J Biol Chem. 2005. [PubMed 16186101]
  • [9] Klotho deficiency is an early biomarker of renal ischemia-reperfusion injury and its replacement is protective. Kidney Int. 2010. [PubMed 20861825]
  • [10] Klotho deficiency causes vascular calcification in chronic kidney disease. J Am Soc Nephrol. 2011. [PubMed 21115613]
  • [11] Loss of Klotho contributes to kidney injury by derepression of Wnt/β-catenin signaling. J Am Soc Nephrol. 2013. [PubMed 23559584]
  • [12] Soluble Klotho protects against uremic cardiomyopathy independently of fibroblast growth factor 23 and phosphate. J Am Soc Nephrol. 2015. [PMC4413766]
  • [13] Klotho is a novel beta-glucuronidase capable of hydrolyzing steroid beta-glucuronides. J Biol Chem. 2004. [PubMed 14701853]
  • [14] Klotho is highly expressed in the chief sites of regulated potassium secretion, and it is stimulated by potassium intake. Sci Rep. 2024. [Sci Rep s41598-024-61481-w]
  • [15] aKLmRNA-mediated α-Klotho protein replacement (AKL003), Phase 1b study. ClinicalTrials.gov. [NCT07544420]
  • [16] Establishment of sandwich ELISA for soluble alpha-Klotho measurement: age-dependent change of soluble alpha-Klotho levels in healthy subjects. Biochem Biophys Res Commun. 2010. [PubMed 20599764]
  • [17] Longevity factor klotho enhances cognition in aged nonhuman primates. Nat Aging. 2023. [Nat Aging s43587-023-00441-x]
  • [18] Klotho in the kidney distal convolution regulates urinary Klotho excretion and kidney calcium reabsorption, but not phosphate homeostasis. Kidney Int. 2026;109(5):987-1003. doi:10.1016/j.kint.2026.01.030. [PubMed 41759932]
  • [19] Performance of soluble Klotho assays in clinical samples of kidney disease. Clin Kidney J. 2020;13(2):235-244. doi:10.1093/ckj/sfz085. [PubMed 32297879]
  • [20] FGF23 induces left ventricular hypertrophy. J Clin Invest. 2011;121(11):4393-4408. doi:10.1172/JCI46122. [PubMed 21985788]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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