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ピエゾICSI(PIEZO-ICSI)とは? 従来の顕微授精との違い・成績・安全性を遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

顕微授精(ICSI)は、体外受精で広く用いられている受精方法の一つです。その顕微授精を「卵子にやさしく」進化させたのが、ピエゾICSI(PIEZO-ICSI)です。従来のように鋭い針で卵子の膜を突き破って細胞質を吸い出すのではなく、圧電素子(ピエゾ素子)の超高速な微振動で膜をなめらかに貫き、卵子へのダメージを最小限に抑えて精子を届けます。この記事では、ピエゾICSIとは何か、従来の顕微授精と何が違うのか、受精率や卵子の生き残る率(生存率)にどれくらい効果があるのか、なぜ「妊娠率そのものは変わらない」のに重要なのか、そして高齢や受精障害の方にどう役立つのか、赤ちゃんの安全性はどうなのかまでを、遺伝専門医の視点でわかりやすく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約14分
🔬 遺伝専門医が一次文献をもとに解説

Q. ピエゾICSI(PIEZO-ICSI)とは、ひとことで言うと?

A. 圧電素子の微振動を使って、卵子の細胞質を吸い出さずに膜を貫く「低侵襲な顕微授精」です。従来の顕微授精(ICSI)に比べて、卵子が壊れる率(変性率)を下げ、受精率と良い胚(はい)ができる率を高めます。ただし1回の胚移植あたりの妊娠率そのものを直接押し上げる技術ではなく、「使える胚の数を増やす」ことで、1回の採卵から得られる累積的な妊娠・出産の機会を増やす可能性がある技術です。

  • 卵子にやさしい:細胞質の吸引をやめ、変性率を約半分に下げることが複数の研究で示されています。
  • 恩恵が大きい人:高年齢層や、過去に顕微授精で受精がうまくいかなかった方などで有用性を示した報告があります。
  • 安全性:新生児の予後や胚の染色体異常(PGT-Aで確認)を増やさないことが報告されています。
  • 未来:手技が標準化しやすく、AI・ロボットによる自動化ICSIの土台にもなっています。

1. ピエゾICSI(PIEZO-ICSI)とは?

ピエゾICSI(PIEZO-ICSI)は、卵子の中に精子を1個だけ注入する顕微授精(ICSI=卵細胞質内精子注入法)の一種です。ふつうの顕微授精(この記事では「従来ICSI」と呼びます)との最大の違いは、卵子の膜を破るときに圧電素子(ピエゾ素子)の超高速な微振動を使う点にあります。

ピエゾICSIの発想のもとになったのは、基礎研究でした。1995年、ハワイ大学のKimuraとYanagimachiは、マウス卵子の顕微授精で生存率が非常に低いという問題を、注入用のピペット(極細ガラス管)にピエゾ素子を取り付けることで解決しようとしました[9]。続いて1996年、Huangらがヒトの卵子に初めてピエゾ法を応用し、この技術が人にも使えることを示しました[8]。その後、日本のクリニックを中心に改良と普及が進み、現在では国内外で臨床応用が広がっています。

💡 用語解説:圧電素子(ピエゾ素子)とは

圧電素子(ピエゾ素子)は、電圧をかけるとごくわずかに伸び縮みする材料です。この性質を利用して、ピペットの先端に「サブミクロン(1000分の1ミリより小さい)」単位の超高速な前後運動を生み出します。ピエゾICSIは、この微小な振動で卵子の殻(透明帯)と膜をなめらかに貫きます。

2. 従来の顕微授精(ICSI)との違い

従来ICSIとピエゾICSIの決定的な違いは、卵子の膜を破る「やり方」です。ここが、卵子へのダメージの大きさを左右します。

従来ICSI:先のとがった針で「刺して・吸う」

従来ICSIでは、先端が斜めにカットされた鋭いピペットを使い、卵子の殻(透明帯)を物理的に押し破ります。さらに、いちばん外側の細胞膜(卵細胞膜)を破るために、卵子の中身(細胞質)を少しピペット内に吸い込むという操作を行います。この「吸引」で膜が破れて精子を送り込めるのですが、同時に卵子の内側の圧力が急に変わり、細胞の骨組みにダメージを与える原因になります。

ピエゾICSI:平らな先で「振動させて・貫く」

一方ピエゾICSIでは、先端が平らなピペットを使います。ピエゾの微振動で透明帯を局所的に削るように貫き(マイクロドリリング)、膜に達したあとは細胞質を吸引せず、ひと押しのパルスで瞬時に膜を破って精子を届けます[1]。「切って吸う」から「振動で貫く」へ変えることで、卵子の過度な変形を防ぎ、膜の張り具合のバランスを保てるのが特長です。

📊 従来ICSI と ピエゾICSI のちがい

ポイント 従来ICSI ピエゾICSI
ピペットの先 斜めにカットした鋭い先 平らな先
膜の破り方 刺して細胞質を吸引 微振動で貫く(吸引なし)
卵子への負担 変形・内圧変化が大きい 変形が小さく低侵襲
熱の影響 なし なし(レーザー法と違い熱源を使わない)[1]

※レーザーで透明帯を薄くする「レーザーアシストICSI」も卵子の生存率を高める方法ですが、ピエゾICSIは熱源を使わず、物理的な微振動だけで膜を通過する点が異なります。

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3. ピエゾICSIのしくみ ─ なぜ卵子にやさしいのか

ピエゾICSIの流れを、図で追ってみましょう。ポイントは、最後の「膜を破る」ステップで細胞質を吸わないことです。

① 平らな先を透明帯へ卵子の殻に接触
② 微振動で貫く削るように穿孔
③ 膜をひと押し吸引せず破膜
④ 精子を届ける低侵襲で注入

「吸引しない」ことが効く理由

従来ICSIの「細胞質を吸う」操作は、卵子の内圧を急に変え、細胞の骨組み(細胞骨格)を乱す主な原因になります。ピエゾICSIはこの吸引をやめ、前進する微振動だけで膜を破るため、卵子の変形と内圧変化を最小限に抑えられます[1]。これが、卵子の「壊れる率(変性率)」を下げる最大の理由です。

ピペットの「壁の薄さ」も成績を左右する

もうひとつ重要なのが、ピペットの壁の厚さです。HiraokaとKitamuraは、壁を極限まで薄くしたピペット(壁厚0.625μm)を用いると、より厚いピペット(0.925μm)に比べて、卵子の生存率・受精率・良好胚の到達率・妊娠率・生産率がいずれも有意に改善することを報告しました[3]。壁が薄いほど、卵子の中に入るピペットの体積が減り、細胞質を押しのけるストレスが小さくなるためと考えられます。

💡 用語解説:透明帯(とうめいたい)と卵細胞膜

卵子は、外側の殻にあたる「透明帯(Zona pellucida)」と、その内側の「卵細胞膜(卵の細胞そのものを包む膜)」の二重構造をしています。顕微授精では、この2つを通過して精子を細胞の中に届けます。ピエゾICSIは、透明帯を微振動で貫き、細胞膜を吸引せずに破る点が特徴です。

4. 受精率・卵子生存率はどれくらい上がる?

ピエゾICSIの導入が進む最大の理由は、培養室での受精成績が明確に向上することです。ここでは、実際の臨床研究の数字を見てみましょう(研究ごとに患者背景が違うため、数値は研究間で幅があります)。

受精率が上がり、卵子の変性が減る

オーストラリアの前向き研究(Zander-Foxら, 2021)では、ピエゾICSIは従来ICSIに比べて受精率が有意に高く(80.5% 対 65.8%)、卵子の変性率(4.4% 対 8.6%)や異常受精率(2.9% 対 7.4%)が有意に低いことが示されました[1]。結果として、この研究では1回の採卵あたり、平均してもう1個ぶん多く胚が得られると報告されています[1]

複数の施設で行われた「同胞卵子(きょうだい卵子)」を分けて比べる試験(Zander-Foxら, 2024)でも、ピエゾICSIは受精率(71.6% 対 65.6%)を有意に高め、卵子の変性率(6.3% 対 12.1%)を有意に下げ、5日目の良い胚盤胞(はいばんほう)の割合を高めました[6]。日本の初期の研究(Fujiら, 2020)でも、生存率97.0%(従来94.1%)、受精率83.5%(従来70.6%)と、同じ方向の結果が得られています[4]

💡 用語解説:変性率・胚盤胞(はいばんほう)

変性率とは、顕微授精のあとに卵子が壊れてしまう割合のことです。低いほど、使える卵子が多く残ります。胚盤胞とは、受精卵が5〜6日ほど育った段階の胚で、着床の直前の状態です。良い胚盤胞が多く得られるほど、移植や凍結に回せる胚が増えます。

受精率と卵子変性率の比較(Zander-Fox 2021) 従来ICSI ピエゾICSI 0 50 100 65.8% 80.5% 受精率 8.6% 4.4% 卵子変性率

Zander-Foxら(2021)の前向きコホート研究より。ピエゾICSIは受精率を高め、卵子の変性率を下げた[1]。数値は研究ごとに異なります。

5. 「妊娠率は変わらない」パラドックスの正しい理解

ここが、ピエゾICSIを理解するうえで最も大切なポイントです。ピエゾICSIは受精率や胚の質を上げるのに、1回の胚移植あたりの妊娠率や生産率(赤ちゃんが生まれる率)は、従来ICSIと差がないという結果が、多くの研究で一貫して報告されています[6]。一見すると矛盾に見えますが、これには深い意味があります。

ピエゾICSIの主な効果は、「技術的なダメージで失われていたはずの卵子を救い、使える胚の数を増やす」ことです。胚が着床して妊娠が続くかどうかは、主に子宮内膜の受け入れやすさや、胚の染色体が正常かどうか(後述)で決まります。ピエゾICSIはこれらを変える技術ではないため、1回の移植あたりの妊娠率は変わりません。

💡 なぜ重要なのか:累積のチャンスが増える

1回の移植あたりの妊娠率は同じでも、凍結・移植できる良い胚の「絶対数」が増えることで、1回の採卵から得られる累積的な妊娠・出産の機会が増える可能性があります。ただし、累積妊娠率・累積生産率そのものを改善するかについては、さらなる検証が必要です[1]

6. ピエゾICSIが向いている人

ピエゾICSIはすべての方に使える技術ですが、とくに次のような予後が心配な方でメリットが大きいことが、臨床データから分かっています。

① 過去の顕微授精で受精がうまくいかなかった方

Caddyらの研究(2023)では、過去の従来ICSIで受精率が50%未満・変性率が15%以上・胚の利用率が20%未満といった「予後不良」だった患者さんに対して、次のサイクルでピエゾICSIを行ったところ、受精率が45.3%から61.9%へ改善し、変性率が18.2%から7.7%へ有意に低下しました(いずれもP<0.0001)[2]。これは、精子側だけでなく、従来の物理的ストレスに耐えられない「卵子側の弱さ」による受精障害にも、ピエゾICSIが助けになりうることを示しています[2]

② 高年齢層で卵子がデリケートな方

Furuhashiらの研究(2019)は、35歳を超える女性で、ピエゾICSIが受精率と胚盤胞の到達率を有意に高めることを報告しています[5]。また、Zander-Foxらの研究では38歳以上の女性で改善効果が大きいことが示されています[1]。前述のCaddyらの研究でも、女性の年齢が高い層で受精率の改善が大きく表れました[2]

💡 なぜ高齢の卵子で差が出やすいのか

加齢に伴って卵子の細胞膜や細胞質の性状が変化し、顕微操作による物理的ストレスへの耐性が低下する可能性があります。ピエゾICSIでは細胞質の吸引を必要としないため、こうした卵子への機械的負担を減らせることが、高年齢層での成績改善につながる可能性があります。

7. 赤ちゃんの予後・胚の染色体異数性に関する安全性

新しい技術で最も気になるのは、生まれてくる子どもへの安全性です。現時点までの研究では、従来ICSIと比較して明らかな安全性上の懸念を示す結果は報告されていません。

新生児の予後に差はない

倉敷の施設で行われた後方視的コホート研究(Fujiiら, 2020)では、ピエゾICSIと従来ICSIの間で、流産率・生産率・在胎週数・出生体重・帝王切開率・新生児の性別の比率に有意な差は認められませんでした[4]。受精・培養の成績が上がる一方で、赤ちゃんの予後は悪化しない、という結果です。

胚の染色体異常(異数性)を増やさない

「ピエゾの振動が、胚の染色体の分かれ方に悪影響を与えないか」という懸念に対して、PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)を用いた研究が答えを出しています。Zander-Foxらの2024年の試験は、ピエゾICSIと従来ICSIで作られた胚盤胞の異数性(染色体の数の異常)の割合に差がないことを示した最初の研究です[6]

💡 用語解説:異数性(いすうせい)とダウン症などとの関係

異数性とは、染色体の数が正常な46本より多い・少ない状態のこと。ダウン症(21トリソミー)などが代表例です。胚の異数性の主な原因は、母体年齢に伴う卵子の減数分裂の乱れであり、精子を注入する技術(ピエゾか従来ICSIか)が、受精後の染色体の分かれ方を悪くするわけではないと考えられます。

8. 受精障害・卵子活性化との関わり

顕微授精で精子を入れても、卵子が「目覚めない(活性化しない)」と受精は成立しません。卵子の目覚めには、精子が持ち込む因子(PLCζ=ホスホリパーゼCゼータ)が引き起こす、細胞内カルシウムの波(カルシウム・オシレーション)が欠かせません。この波がうまく起きないことが、重度の男性不妊や原因不明の全受精障害(卵子活性化障害)の一因です。

こうしたケースでは、人為的卵子活性化(AOA)の併用が選択肢になります。通常のPIEZO-ICSIとは異なる方法ですが、ピエゾ電気刺激を卵子活性化に応用した研究もあります。過去に全受精障害の経験がある夫婦を対象にしたBaltaciらの研究(2010)では、ピエゾ刺激を併用したグループで受精率が62%に達し、標準の顕微授精だけのグループ(12%)を大きく上回りました[7]

⚠️ 受精障害には遺伝子の要因も関わります

全受精障害の背景には、精子側のPLCζ(PLCZ1遺伝子)やACTL7Aなどの遺伝子の変化が関わることがあります。ピエゾICSIやAOAは技術的な対処ですが、原因の見きわめには男性不妊症の遺伝子検査女性不妊症の遺伝子検査が役立つ場合があります。当院では、こうした検査の前後で遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行っています。

9. 自動化・AIとの融合という未来

ピエゾICSIがもたらしたもうひとつの大きな変化が、手技の標準化です。従来ICSIは、膜を破るための微妙な吸引圧のコントロールを習得するのに長い訓練が必要でした。ピエゾICSIはピペットが前進するだけで、膜を破る操作はピエゾパルス(機械的な制御)が担うため、経験の浅い培養士でも安定した受精率を出しやすくなります。ある大規模データの検討でも、ピエゾICSIは培養士の経験レベルへの依存を減らすことが示唆されています[6]

この「機械的で予測しやすい」性質は、体外受精ラボの自動化への土台にもなっています。2023年には、injection pipetteの前進、透明帯と細胞膜のピエゾパルスによる貫通、精子放出後のピペット引き抜きまでを自動化したロボットシステム(ICSIA)を用いて、ヒトで自動化ICSIによる赤ちゃんの誕生が報告されました[10]。ピエゾ技術は、単なる受精率向上のツールを超えて、ロボット・画像解析・AIを含む生殖医療ラボの自動化を支える基盤技術の一つになりつつあります。

10. よくある誤解

誤解①「妊娠率が上がる魔法の技術」

ピエゾICSIは、1回の移植あたりの妊娠率を直接上げる技術ではありません。使える胚の数を増やして累積のチャンスを底上げするのが本質です。

誤解②「振動で染色体が傷つく」

PGT-Aを用いた研究で、ピエゾICSIと従来ICSIの間で胚の異数性の割合に差はないことが示されています[6]

誤解③「誰がやっても同じだから普及した」

普及の理由はむしろ逆で、手技が標準化しやすく、成績が安定することにあります。培養士の経験差による受精率のばらつきを抑えられます[6]

誤解④「レーザー法と同じ熱の技術」

ピエゾICSIは熱源を使いません。物理的な微振動だけで透明帯を通過するため、熱による予期せぬ影響を避けられます[1]

まとめ ─ 「歩留まりを上げる」低侵襲な顕微授精

ピエゾICSIは、圧電素子の微振動を使うことで、従来の顕微授精が抱えていた「細胞質の吸引による物理的ダメージ」という根本的な弱点を克服した技術です。細胞質を吸わない極細ピペットとピエゾパルスの組み合わせは、卵子へのストレスを最小化し、変性率を下げ、受精率と良い胚の到達率を高めます[1]。その恩恵は、高齢の方や卵子の膜が弱い方、過去に受精障害を経験した方でとくに大きく表れます[2]

ピエゾICSIは、1回の移植あたりの妊娠率を直接押し上げる「魔法の弾丸」ではありません。しかし、受精から培養までの歩留まりを高め、患者さんに提供できる良い胚の数を確実に増やすことで、1回の採卵から得られる累積的な妊娠・出産の機会を増やす可能性があります。なお、累積生産率そのものの改善については、さらなる検証が必要です。加えて、手技が標準化しやすく、ロボット・画像解析・AIを含む自動化ICSIの土台にもなっている点で、現代の生殖補助医療における重要な選択肢の一つといえます。

よくある質問(FAQ)

Q1. ピエゾICSI(PIEZO-ICSI)とは何ですか?

ピエゾICSIは、圧電素子(ピエゾ素子)の超高速な微振動を使って、卵子の細胞質を吸い出さずに膜を貫く「低侵襲な顕微授精」です。従来の顕微授精(ICSI)が鋭い針で膜を刺して細胞質を吸引するのに対し、ピエゾICSIは平らな先のピペットを振動させて膜をなめらかに破ります。これにより卵子へのダメージが減り、卵子の変性率が下がって受精率や良い胚ができる率が高まります。

Q2. ピエゾICSIをすれば妊娠率は上がりますか?

1回の胚移植あたりの妊娠率や生産率は、従来ICSIと差がないという報告が多くの研究で一貫しています。ピエゾICSIの本質は、技術的ダメージで失われていたはずの卵子を救い、使える胚の数を増やすことにあります。その結果、1回の採卵から得られる累積的な妊娠・出産の機会が増える可能性がある、という形でメリットが表れます。ただし、累積妊娠率・累積生産率そのものを改善するかについては、さらなる検証が必要です。

Q3. どんな人にピエゾICSIが向いていますか?

とくに、過去の顕微授精で受精率が低かった方・卵子の変性が多かった方、そして高年齢層で、メリットを示した報告があります。過去に予後不良だった患者さんでは、次のサイクルでピエゾICSIに変更することで受精率が改善したという研究があります。個々の適応は主治医とご相談ください。

Q4. ピエゾICSIで生まれた赤ちゃんの安全性は大丈夫ですか?

後方視的コホート研究では、ピエゾICSIと従来ICSIの間で、流産率・生産率・在胎週数・出生体重・帝王切開率・新生児の性別比に有意な差は認められていません。また、PGT-A(着床前の染色体検査)を用いた研究で、胚の異数性(染色体の数の異常)の割合にも差がないことが示されています。現時点のデータでは、ピエゾICSIが周産期転帰や胚の染色体異数性を明らかに悪化させる所見は示されていません。

Q5. 受精しなかった(全受精障害)場合、ピエゾICSIは役立ちますか?

役立つ可能性があります。過去に全受精障害の経験がある夫婦を対象にした研究では、ピエゾ刺激を併用したグループで受精率が改善したと報告されています。ただし全受精障害の背景には、精子側の遺伝子(PLCZ1など)の変化が関わることもあり、原因の見きわめには男性不妊・女性不妊の遺伝子検査が役立つ場合があります。治療方針は主治医とご相談ください。

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📌 ご注意

本記事は学術的な情報提供を目的としたものであり、特定の患者さんに向けた個別の医療アドバイスや診断、治療計画を示すものではありません。顕微授精の方法の選択を含む治療の決定については、必ず担当の生殖医療専門医または主治医にご相談ください。

参考文献

  • [1] PIEZO-ICSI increases fertilization rates compared with standard ICSI: a prospective cohort study. Reprod Biomed Online. 2021. [PubMed 34326006]
  • [2] PIEZO-ICSI increases fertilization rates compared with conventional ICSI in patients with poor prognosis. J Assist Reprod Genet. 2023. [PubMed 36586007]
  • [3] Clinical efficiency of Piezo-ICSI using micropipettes with a wall thickness of 0.625 μm. J Assist Reprod Genet. 2015. [PubMed 26489413]
  • [4] Evaluation of the effect of piezo-intracytoplasmic sperm injection on the laboratory, clinical, and neonatal outcomes. Reprod Med Biol. 2020. [PMC7138935]
  • [5] Piezo-assisted ICSI improves fertilization and blastocyst development rates compared with conventional ICSI in women aged more than 35 years. Reprod Med Biol. 2019. [DOI 10.1002/rmb2.12290]
  • [6] Improved fertilization, degeneration, and embryo quality rates with PIEZO-intracytoplasmic sperm injection compared with conventional intracytoplasmic sperm injection: a sibling oocyte split multicenter trial. Fertil Steril. 2024. [PubMed 38272382]
  • [7] The effectiveness of intracytoplasmic sperm injection combined with piezoelectric stimulation in infertile couples with total fertilization failure. Fertil Steril. 2010. [PubMed 19464000]
  • [8] The use of piezo micromanipulation for intracytoplasmic sperm injection of human oocytes. J Assist Reprod Genet. 1996. [DOI 10.1007/BF02070146]
  • [9] Intracytoplasmic sperm injection in the mouse. Biol Reprod. 1995. [DOI 10.1095/biolreprod52.4.709]
  • [10] First babies conceived with Automated Intracytoplasmic Sperm Injection. Reprod Biomed Online. 2023. [PubMed 37400320]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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