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「あの夜、電話に出ていなかったら…」3つの新しい命と、私を泣かせた和菓子。
こんにちは、ミネルバクリニック院長の仲田です。
医師にとって、患者さんはみな平等に大切な存在です。
ですが、長い医師人生の中には、どうしても忘れられない、「強烈に記憶に残る患者さん」という方がいらっしゃいます。
今日は、私を泣かせた、ある一人の女性のお話をさせてください。
ミネルバの電話が「コールセンター」に変わった理由
本題に入る前に少しだけ、当院の電話事情についてお話しします。
現在、ミネルバクリニックのお電話は、プロのコールセンターの方に対応をお願いしています。
これは、私たちが診療に全集中し、目の前の患者様にご迷惑をおかけしないための対策です。
実は以前、というか割と1年くらい前までは、医師である私たちが直接電話に出ていた時期がありました。
医師が直接電話に出るクリニックなんて、珍しいですよね。
でも、当時はその「距離の近さ」ゆえに、大変なこともありました。
- 📞 営業電話や嫌がらせ電話の対応
- 📞 夜の10時にかかってきて、2時間近く切ってくれない電話…
そんな経験もあり、現在は外部の方にお任せする体制を整えました。
しかし、まだ私が電話に出ていたあの頃。一本の忘れられない電話がかかってきたのです。
震える声と、絶望の淵で
受話器の向こうから聞こえてきたのは、今にも泣き出しそうな、か細い女性の声でした。
「……Hクリニック(仮名)でNIPTを受けて、陽性だったんです」
彼女は、とあるクリニックで検査を受け、陽性判定を受けました。
しかし、十分な説明やフォローがないまま放り出され、どうしていいかわからないまま必死に羊水検査ができる場所を探し、確定診断を受け……
泣く泣く、赤ちゃんを諦める(中絶する)という選択をされていました。
💡 陽性で不安な方へ
NIPT陽性後のフローや確率については、こちらの記事で詳しく解説しています。
▶ NIPT陽性・判定保留と言われたら?確率の真実と次にすべき行動
「次は大丈夫なんでしょうか……次も同じことになるんじゃないかと、不安でたまらないんです」
電話口で震える彼女に、私は臨床遺伝専門医として、そして一人の人間として、精一杯の言葉をかけました。
「大丈夫。次もそうなるリスクは非常に低いですよ。
むしろ、その低い確率に今回たまたま当たってしまったわけですから、2回連続で当たる確率は天文学的に低い。
だから大丈夫、安心して妊娠してくださいね!」
私の言葉を聞いて、彼女は電話口で泣き崩れました。
「ありがとう、ありがとう」と、何度も繰り返しながら。
💡 専門医によるサポート
ミネルバクリニックでは、専門医が患者様に寄り添い、正確な情報提供と心理的サポートを行います。
▶ NIPTと遺伝カウンセリング – 臨床遺伝専門医が担う役割
3つの命と、和菓子の重み
その後、その方はなんと3回妊娠され、3回ともミネルバクリニックに来てくださいました。
そして3回目のご来院の時。「もうこれで最後だから」と思われたのでしょう。
お住まいの近くにあるという、有名な和菓子屋さんのお菓子を持ってきてくださったのです。
そこで彼女が語ってくれた言葉に、私は胸がいっぱいになりました。
「あの時、先生が電話に出てくれなかったら、怖すぎてもう子供を持つことを諦めていたかもしれません。
きょうだいには、ポンポンと何人も赤ちゃんができて……。
自分だけ不妊治療をしないとできなくて、どうしてこんなに違うのって。
もう、きょうだいが憎らしいとさえ思ってしまったこともありました。
でも、あの夜、先生に勇気をもらったから、頑張れました」
その言葉を聞いた瞬間、私はハッとしました。
あの日、あの夜、私が電話に出ていなかったら。
今、この世に存在している「3人の新しい命」は、生まれてこなかったかもしれない。
そう思うと、患者さん以上に、私のほうが感動してしまいました。
頂戴した和菓子はずっしりと重く、そこには命の重みと、彼女の人生の苦悩と喜びが詰まっているように感じました。
まとめ:人と人は支え合っている
医師は患者さんを支える存在です。
でも同時に、私たち医師もまた、患者さんの言葉や生きる姿勢に支えられ、勇気をもらっています。
人と人は支え合って生きていく。
医師と患者さんもまた、そうした温かい関係でありたい。
12年目を迎える今、改めてそう強く心に刻みました。
NIPTで不安な思いをされている方、他院での対応に傷ついた方。
一人で抱え込まず、ぜひ私たちにご相談ください。


