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高齢出産でなぜ染色体異常が起こりやすいのか|卵子の老化の仕組みと年齢別の確率、父親の年齢との関係

仲田洋美 医師

この記事の監修・執筆:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

ミネルバクリニック院長。臨床遺伝専門医・総合内科専門医・がん薬物療法専門医。1995年に医師免許を取得し、遺伝医療と出生前診断に携わっています。

記事の作り方(編集方針)

「高齢出産だと赤ちゃんの染色体異常が増える」とよく言われます。では、なぜ年齢とともに増えるのでしょうか。答えの中心は卵子にあります。卵子は、お母さん自身が胎児だったころに分裂を始め、その途中で止まったまま何十年も排卵を待つ、とても特殊な細胞です。その長い待ち時間のあいだに、染色体をつなぎとめる仕組みが少しずつ弱まり、分裂のときに染色体がうまく分かれなくなります。この記事では、その仕組みを図で示し、年齢別の確率の数字の読み方、父親の年齢との関係、そして年齢と関係なく起こる変化まで、臨床遺伝専門医の立場から順に解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 高齢出産・染色体異常・減数分裂
★ 臨床遺伝専門医監修
  • ➤高齢出産で染色体異常が起こりやすくなる仕組み(卵子の減数分裂の停止・コヒーシン・不分離)
  • ➤年齢別の確率と、受精卵・妊娠中・出生時で数字が違う理由
  • ➤13・18・21番のトリソミーが、生まれてくる赤ちゃんで見つかる理由
  • ➤父親の年齢と、新しく起こる遺伝子の変化(de novo変異)
  • ➤年齢と関係なく起こる微小欠失と、NIPTで調べられる範囲

⏱️ 30秒でわかる要約

🧬 Q. 高齢出産でなぜ染色体異常が起こりやすいの?

お母さんが胎児のころに分裂を始めた卵子は、途中で止まったまま何十年も排卵を待ちます。そのあいだに染色体をつなぎとめるコヒーシンが弱まり、分裂のときに染色体がうまく分かれない「不分離」が起こりやすくなると考えられています。

💡 Q. ダウン症候群だけ調べれば大丈夫ですか?

大丈夫とは言えません。子育ての負担を最も大きく左右するのは、知的障害の程度よりも、攻撃的な行動や自傷、睡眠の問題といった行動の問題です。それを伴いやすいのは、ダウン症候群よりも微小欠失症候群や単一遺伝子疾患で、三大トリソミーだけの検査では調べられません。当院のNIPTはこれらの病気まで調べられます。

📊 Q. 年齢でどれくらい増えるの?

米国の推計では、出生時に見つかる臨床的に意味のある染色体異常は、35歳で約1,000人に5人、40歳で約15人、45歳で約50人でした。受精卵や妊娠初期の段階では、もっと多くの染色体異常が起きています。

👨 Q. 父親の年齢は関係するの?

父親の年齢とともに増えるのは、主に精子で新しく起こる遺伝子の変化(de novo変異)で、1歳ごとに約2個増えると報告されています。染色体の数の変化は、ほとんどが卵子の側で起こります。

🌸 Q. NIPTで自閉症や発達障害はわかりますか?

一部はわかります。当院のNIPTは、自閉症・発達障害・知的障害の原因になる遺伝子や染色体の変化の一部を調べられます。

\ ダウン症候群だけで大丈夫ですか? /

当院のNIPTは、子育ての負担につながりやすい微小欠失症候群や単一遺伝子疾患まで調べられます。どこまで調べるかは、90分の受診枠の中で臨床遺伝専門医と一緒に決められます。

📅 NIPTを予約する

まだどのプランにするか決めていない方は:プラン別の範囲と料金 | 35歳でNIPTを受けるか迷う方へ

高齢出産で染色体異常が起こりやすいのはなぜ? ― まず結論

結論から言うと、高齢出産で染色体異常が増える主な理由は、卵子が減数分裂の途中で止まったまま、お母さんの年齢と同じだけ年を重ねているからです。卵子のもとになる細胞は、お母さん自身が胎児だったころに減数分裂を始めます。そして分裂の途中で止まり、排卵の時期が来るまで待ち続けます[6]。

このあいだ、染色体どうしをつなぎとめているのがコヒーシンというタンパク質です。年を重ねた卵子ではコヒーシンが減り、染色体を正しい組み合わせで保てなくなることが、動物とヒトの卵子の研究で示されています[4][5][6]。その結果、分裂のときに染色体がうまく分かれない「不分離」が起こり、染色体が1本多い(トリソミー)・1本少ない(モノソミー)卵子ができやすくなります。

染色体の数の変化をもつ受精卵は、ヒトの妊娠の少なくとも約10%にみられ、生殖年齢の終わりに近い女性では50%を超えることがあると報告されています。そして、その誤りはほとんどが卵子の側で起こります[2]。ここで大切なのは、これはお母さんの生活や行動で起こるものではないということです。原因は卵子が待ち続けた時間そのものにあり、妊娠中の過ごし方で防げたものではありません。

なお、以前このページでは「細胞は毎日DNAに傷を受け、修復の誤りが卵子にたまっていくため」という説明をしていました。DNAの傷とその修復は細胞にとって大切なテーマですが、年齢とともに不分離が増える仕組みの説明としては、今の研究の中心ではありません。本記事では、現在の研究で示されている仕組みに沿って説明し直しています(詳しくは後半の「なぜ年齢とともに不分離が増えるのか」で述べます)。

年齢で増えるのは主に「染色体の数の変化」

ヒトの細胞には、2本ずつ対になった染色体が23組(46本)あります。卵子と精子は、この対を1本ずつに分ける特別な分裂(減数分裂)でつくられ、23本ずつをもちます。受精すると、また46本にもどります。

トリソミーとモノソミー

減数分裂で対の染色体がうまく分かれないと、24本や22本の卵子ができます。それが受精すると、ある染色体が3本あるトリソミーや、1本しかないモノソミーの受精卵になります。母体の年齢は、ほとんどすべてのトリソミーの危険因子で、ヒトの異数性(染色体の数の変化)の多くは、母親の第一減数分裂の誤りから生じることが分かっています[3]。

染色体が1本多いと、その染色体にある遺伝子の量が1.5倍になり、体のつくりや発達にさまざまな影響が出ます。この「遺伝子の量」という考え方は染色体が1本多いとなぜ病気になるのかで、数の異常の全体像は染色体の数的異常とはで解説しています。

年齢と関係が薄い変化もある

一方で、すべての染色体の変化が年齢とともに増えるわけではありません。染色体のごく一部が欠ける微小欠失は、母親の年齢とは関係なく起こります[9]。また、父親の年齢とともに増えるのは、染色体の数ではなく、遺伝子の1文字単位の新しい変化です[8]。「年齢だけが問題」ではない、という点は後半で詳しく説明します。

💡 用語解説:不分離(ふぶんり)

細胞が分裂するときに、本来分かれるべき染色体が分かれずに、同じ側へ行ってしまうことです。卵子や精子をつくる減数分裂で起こると、染色体の本数が多い・少ない卵子や精子ができます。詳しくは染色体不分離とはをご覧ください。

卵子は生まれる前からある ― 減数分裂が何十年も途中で止まる仕組み

卵子は、お母さんが胎児のころにつくられ始めた細胞です。卵子のもとになる細胞は胎児期に減数分裂を始め、第一減数分裂の途中で止まります。この長い停止はディクチオテン期停止と呼ばれます。

止まっているあいだも、対になった染色体(相同染色体)と、複製されてできた2本の姉妹染色分体は、コヒーシンによってつながれています。ヒトの卵子の研究では、このコヒーシンは胎児期に置かれたもので、50歳ごろまでの生殖期間のあいだ、入れ替わらずに持ちこたえなければならないと考えられています(マウスの研究では入れ替わりがないことが示されています)[6]。

① 胎児期卵子のもとが減数分裂を始める
▶
② 第一分裂の途中で停止コヒーシンで染色体をつないだまま待つ
▶
③ 数十年の待機コヒーシンは入れ替わらず減っていく
▶
④ 排卵の前に分裂を再開結びつきが弱いと不分離が起こりやすい

💡 用語解説:コヒーシンとディクチオテン期停止

コヒーシンは、染色体どうしを輪のようにつなぎとめるタンパク質の複合体です。ディクチオテン期停止(でぃくちおてんきていし)は、卵子が第一減数分裂の前期で長く止まっている状態のことで、ヒトでは最長で数十年続きます。

つまり、35歳のお母さんの卵子は、35年以上この状態で待っていた卵子です。年齢とともに染色体異常が増えるのは、この待ち時間が長くなるほど、つなぎとめる力が弱まっていくためと考えられています。卵子と精子のつくられ方の違いは配偶子形成と受精・減数分裂のしくみで詳しく解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「卵子の老化」は、お母さんのせいではありません】

高齢出産と染色体異常の話をすると、「もっと早く産んでいれば」「生活が悪かったのでは」とご自分を責めてしまう方がいます。けれども、ここまで見てきたとおり、年齢とともに不分離が増える仕組みの中心は、卵子が胎児期から待ち続けてきた時間そのものです。食事や仕事、妊娠中の過ごし方で起こるものではありません。

臨床遺伝専門医として大切だと考えているのは、仕組みを正しく知ったうえで、「では何を、いつ調べられるのか」に目を向けていただくことです。年齢は変えられませんが、赤ちゃんの染色体の状態を早い時期に知る方法はあります。ご自身に合った選択を考えるための材料として、この記事を使っていただければと思います。

なぜ年齢とともに不分離が増えるのか

年齢とともに不分離が増える理由は、1つの原因ではなく、卵子のつくられ方の特徴と、体の中や外のさまざまな要因が重なって起こると考えられています[2]。その中で、研究で特に強く示されているのが次の2つです。

コヒーシンの減少

年を重ねたマウスの卵子では、コヒーシンの量が減り、第一減数分裂で染色体をそろえて分ける力が大きく落ちていました。コヒーシンが、交叉した染色体の結びつきや、姉妹染色分体のつながりを保つのに必要な量を下回ることが、不分離の原因になると報告されています[4]。別の研究でも、染色体の中心部(セントロメア)の結びつきが弱まることが、年齢による異数性の主な原因の1つだと示されました[5]。

ヒトの卵子でも、年齢の高い女性の卵子では、コヒーシンを守るSGO2というタンパク質が失われていることが多く、姉妹染色分体の結びつきが弱まっていました[6]。動物で見つかった仕組みが、ヒトでも起きていることを裏づける結果です。

交叉(組換え)の変化

減数分裂の初めに、対になった染色体どうしは一部を交換して組換えを起こし、その交わった点(交叉)で互いをつなぎとめます。交叉の数や位置の変化は、不分離の大切な要因であることが分かっています[3]。交叉が少なかったり、染色体の端に寄りすぎていたりすると、長い待ち時間のあとでコヒーシンが減ったときに、つながりを保ちにくくなります[4]。

「DNA損傷の蓄積」という説明について

「卵子は生まれ変わらないのでDNAの傷がたまり、それで染色体異常が増える」という説明を目にすることがあります。卵子が生まれ変わらない細胞であることは正しいのですが、トリソミーのような数の変化が年齢とともに増える理由としては、染色体をつなぎとめる仕組みが弱まることのほうが、研究で強く裏づけられています[2][4][5]。数の変化と、DNAの文字の変化(変異)は、別の仕組みで起こると考えてください。

年齢別の確率 ― 受精卵・妊娠中・出生時で数字が違う理由

「高齢出産の染色体異常の確率」として紹介される数字は、どの時点の数字かによって大きく違います。染色体異常のある妊娠の多くは、途中で流産になるためです。受精卵の段階、妊娠中期(羊水検査の時期)、出生時の数字を混ぜずに読むことが大切です。

📊 段階ごとにみた染色体異常の数字

段階 報告されている数字 対象・条件
受精卵・妊娠全体 染色体の数の変化は妊娠の少なくとも約10%。生殖年齢の終わりに近い女性では50%を超えることがある[2] 総説(流産を含む妊娠全体)
妊娠中期(羊水検査の時期) 18トリソミー(モザイクでない47,+18)は、羊水検査で見つかったあと68.0%が胎児死亡となった[7] 米国の羊水検査のデータ(1983年報告)
出生時 臨床的に意味のある染色体異常の合計:35歳 約5/1,000、40歳 約15/1,000、45歳 約50/1,000[1] 年齢以外にリスクのない女性の推計(米国・1983年報告)

数字は研究ごとに対象や調べ方が違うため、横に並べて単純に比べることはできません。段階が進むほど数字が小さくなるのは、染色体異常のある妊娠の多くが途中で流産になるためです。

出生時の数字でみると、35歳で約1,000人に5人、40歳で約15人、45歳で約50人と、年齢とともになめらかに上がっていきます[1]。35歳で急に線が引かれるわけではなく、40代で上がり方が大きくなるのが特徴です。この推計は「年齢以外にリスクのない女性」を対象にしたもので、個々の方の確率をそのまま表すものではありません。

ダウン症候群(21トリソミー)だけの年齢別の確率と、妊娠週数による流産の割合はダウン症胎児の流産メカニズムと自然流産率にまとめています。ご自身の年齢に近いページもご覧ください:35歳、36歳、37歳、38歳、39歳、40歳、41歳、42歳、43歳、44〜45歳。

13・18・21番のトリソミーが、生まれてくる赤ちゃんで見つかる理由

不分離は、理屈のうえではどの染色体にも起こります。けれども、生まれてくる赤ちゃんで見つかる常染色体のトリソミーは、13番・18番・21番がほとんどです。これは、ほかの染色体のトリソミーの多くが、妊娠のごく早い時期に育たなくなり、流産で終わるためです。異数性は流産のいちばん大きな遺伝的な原因でもあります[3]。流産でよく見つかる16トリソミーなどについては16トリソミーは流産原因No.1【全染色体検査ガイドVol.2】で解説しています。

13・18・21番のトリソミーでも、多くは出生前に失われます。18トリソミーでは、羊水検査で見つかったあとに68.0%が胎児死亡となったというデータがあります[7]。生まれてきた場合も、18トリソミーと13トリソミーでは1歳まで生きられる赤ちゃんは約1割にとどまります(1年生存率は18トリソミー13.4%、13トリソミー11.5%)[13]。それぞれの病気は18トリソミー(エドワーズ症候群)とはと13トリソミー(パトウ症候群)とはで詳しく解説しています。

一方、21トリソミー(ダウン症候群)は、医療や支援の進歩で平均寿命が50〜60歳まで延び[14][15]、成人して働いたり地域で暮らしたりする方も多い病気です。18トリソミーの原因が母親にあるのかという疑問には18トリソミーの原因は母親?年齢と遺伝の誤解で、上の子がダウン症候群だった場合の次の妊娠についてはダウン症は遺伝する?2人目の再発率と転座型のリスクで答えています。

父親の年齢は関係する? ― 増えるのは「新しく起こる遺伝子の変化」

「高齢出産」は母親の年齢を指す言葉ですが、父親の年齢も赤ちゃんに関係します。ただし、父親の年齢とともに増えるのは、染色体の数の変化ではなく、遺伝子の1文字単位の新しい変化(de novo変異)です。

父親由来の遺伝子変異が子へ伝わるイメージ

(父親由来の遺伝子変異が子へ伝わるイメージ)

アイスランドの78組の親子の全ゲノムを調べた研究では、子どもに見つかる新しい変化の数のばらつきは、ほぼ父親の年齢で説明でき、父親の年齢が1歳上がるごとに約2個ずつ増えていました[8]。de novo変異の基本はDe Novo変異(新生突然変異)とはで解説しています。

新しい変化のほとんどは健康に影響しない場所に起こりますが、まれに、発達や体のつくりにかかわる大切な遺伝子に起こると、ヌーナン症候群や軟骨無形成症などの単一遺伝子疾患の原因になります。こうした病気は、染色体の数を数える検査ではわかりません。当院では、ダイヤモンドプラン(56遺伝子)とインペリアルプラン(最大155遺伝子・202疾患)で、このde novo変異を調べられます。父親の年齢と子どもの病気の関係は父親の高齢と子どもの病気とNIPTと単一遺伝子疾患|父親の年齢リスクでも解説しています。

年齢と関係なく起こる変化 ― 微小欠失(22q11.2など)

年齢で増えるのは主に染色体の数の変化ですが、赤ちゃんの染色体の変化は、年齢に関係なく起こるものもあります。その代表が、染色体のごく一部が欠ける微小欠失です。

22q11.2欠失症候群は、妊娠中の赤ちゃんのおよそ1,000人に1人にみられ、微小欠失症候群の中で最も多い病気です[9]。多くは親から受け継いだものではなく新しく起こる変化で、母親の年齢とは関係がありません[9]。心臓の病気、免疫の働きの低下、低カルシウム血症、口蓋裂、発達の遅れなどを伴うことがあり、自閉スペクトラム症を伴う割合も一般より高いと報告されています[12][9]。知的発達への影響は比較的軽いこともありますが、子どものADHDが37%、25歳を超えた大人の精神病性障害が41%と、精神面の合併症も多いことが国際共同研究で示されています[11]。

米国臨床遺伝・ゲノム学会(ACMG)は、年齢にかかわらずすべての妊婦さんに、22q11.2欠失症候群のNIPTを提供することを提案しています[10]。生まれる前に分かっていれば、出産する施設の選び方や、生まれてすぐの心臓・カルシウム・免疫の検査など、赤ちゃんを迎える準備ができます。当院では、スタンダードプランから22q11.2欠失症候群を調べられます。ただし、微小欠失は数の異常より陽性的中率が低め(項目によって60〜70%程度)なので、陽性なら必ず確定検査で確かめます。

つまり、「年齢が若いから検査は関係ない」「年齢が高いからダウン症候群だけ調べればよい」のどちらも、染色体の変化の起こり方から見ると正確ではありません。年齢で増える数の変化、父親の年齢で増える新しい遺伝子の変化、年齢と関係ない微小欠失。どこまで調べるかは、この3つを分けて考えると選びやすくなります。22q11.2欠失症候群についてはDiGeorge症候群(22q11.2欠失)の全体像を、微小欠失全体は微小欠失症候群とは?12種類の症状と検査をご覧ください。

自閉症・発達障害・知的障害もNIPTで一部わかる ― 当院で調べられること

お子さんの発達を心配されるのは、自然なことです。自閉症・発達障害・知的障害の原因はさまざまで、その一部は染色体や遺伝子の変化が原因だと分かっています。当院のNIPTが調べる微小欠失・重複や単一遺伝子疾患には、こうした特性を伴う病気が含まれています。

ダウン症候群だけを調べればよいわけではない

出生前検査で調べる病気は、どれも赤ちゃんの命や発達、そしてご家族の暮らしに大きくかかわるものです。ただ、その中身は病気によって大きく異なります。ダウン症候群は、医療や支援の進歩で平均寿命が50〜60歳まで延び[14][15]、成人して働いたり地域で暮らしたりする方も多い病気です。知的障害のあるお子さんを比べた研究では、ダウン症候群のお子さんは、自閉症や原因不明の発達の遅れのあるお子さんに比べて、行動の問題が少ないと報告されています[16]。自閉スペクトラム症を伴う割合も、出生前検査で調べるほかの病気と比べて少ないことが分かっています[12]。

一方、18トリソミーや13トリソミーでは、1歳まで生きられる赤ちゃんは約1割にとどまります[13]。また、微小欠失症候群や単一遺伝子疾患の中には、重い知的障害やてんかんに加えて、自閉スペクトラム症を高い割合で伴い、ご家族の見守りや介護の負担が大きくなりやすい病気も少なくありません(例:レット症候群61%、コルネリア・デ・ランゲ症候群43%、アンジェルマン症候群34%が自閉スペクトラム症を伴う。ダウン症候群は16%)[12]。ダウン症候群だけでなく、こうした病気まで調べられるかどうかは、検査を選ぶうえで大切なポイントです。

知的障害を伴う病気のお子さんのご家族を比べた研究では、スミス・マゲニス症候群、ウィリアムズ症候群、プラダー・ウィリー症候群のご家族は、ダウン症候群のご家族より子育てのストレスが高いと報告されています[17]。ストレスを最も強く左右していたのは、知的障害の程度よりも、攻撃的な行動や自傷などの行動の問題、睡眠の問題でした[17]。アンジェルマン症候群やスミス・マゲニス症候群では他人への攻撃的な行動が、コルネリア・デ・ランゲ症候群やスミス・マゲニス症候群、プラダー・ウィリー症候群では自傷が多いことが分かっています[18]。自閉スペクトラム症のお子さんの親は、ほかの障害のお子さんの親より子育てのストレスが高く(メタ解析の全体の効果量0.64)、ダウン症候群のお子さんの親と比べたときの差が最も大きかった(効果量0.90〜1.53)とする報告もあります。ただし著者は、この比較の解釈には注意が必要だと添えています[19]。

スミス・マゲニス症候群、プラダー・ウィリー症候群、アンジェルマン症候群は全プラン、コルネリア・デ・ランゲ症候群はダイヤモンドプラン・インペリアルプラン、ウィリアムズ症候群はインペリアルプラン・双子マックスプランで調べられます。ダウン症候群だけを調べればよいのか、検査を選ぶ前に考えていただきたい点です。

🧬 当院のNIPTで調べられる範囲(自閉症・発達障害・知的障害との関係)

プラン 微小欠失・重複 単一遺伝子 自閉症・発達障害・知的障害を伴うことがある主な疾患
スタンダード 6種類7疾患 ― 22q11.2欠失症候群、アンジェルマン症候群、プラダー・ウィリー症候群
プレミアム 12種類13疾患 ― スタンダードと同じ微小欠失+ジェイコブセン症候群など
ダイヤモンド 12種類13疾患 56遺伝子(de novo変異) 上記+レット症候群、コルネリア・デ・ランゲ症候群、CHARGE症候群
双子マックス 92種類+5Mbを超える構造異常 ― 上記の微小欠失+16p11.2欠失・重複など
インペリアル 92種類+5Mbを超える構造異常 最大155遺伝子(202疾患) 上記+フェラン・マクダーミッド症候群、ピット・ホプキンス症候群、16p11.2欠失・重複など

※プレミアム・ダイヤモンド・インペリアルは単胎のみ。スタンダードと双子マックスは双胎にも対応しています。微小欠失・重複は数の異常より陽性的中率が低めのため、陽性の場合は確定検査が必要です。

性染色体の数の変化は、ほかの病気とは分けて考える

性染色体の数の異常(クラインフェルター症候群[47,XXY]、トリプルX[47,XXX]、47,XYYなど)は、ほかの染色体の病気とは事情が大きく異なります。知的障害を伴うことは少なく、成人の多くは自立して生活しています[20]。ただし、言葉の発達がゆっくりだったり、読み書きなど学習面に苦手さが出たりすることがあり、自閉スペクトラム症などの発達特性がみられる割合も一般より高いと報告されています(XYY 19%・XXY 11%)[20][21]。早く分かっていれば、ことばの支援や学習の支援を早めに始めることができます。

正直にお伝えしておきたい限界もあります。陰性でも、自閉症・発達障害・知的障害がないとは言えません。脆弱X症候群などNIPTで調べられない原因もあり、症状の重さを予測することもできません。陽性の場合は確定検査が必要です。自閉症とNIPTの関係は自閉症はNIPTでわかりますか?で、高齢出産と自閉症の確率は高齢出産と障害|自閉症の子供が生まれてくる確率とリスクで解説しています。

\ 年齢が気になる方へ:調べる範囲から選ぶNIPT /

ダウン症候群だけでなく、18・13トリソミーや微小欠失症候群、一部の自閉症・発達障害・知的障害の原因まで、当院のNIPTでわかります。

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まだどのプランにするか決めていない方は:ダイヤモンドプラン | インペリアルプラン

ダウン症候群だけで大丈夫? ― 「値段」ではなく「調べられる範囲」で選ぶ

「ダウン症候群だけが心配」という方は少なくありません。けれども、出生前検査で調べる病気は、どれも赤ちゃんとご家族の暮らしに大きくかかわるものです。そして、ご家族の子育ての負担を最も大きく左右するのは、知的障害の程度よりも、攻撃的な行動や自傷、睡眠の問題といった「行動の問題」だと分かっています[17]。こうした行動の問題を伴いやすい病気には、ダウン症候群ではなく、微小欠失症候群や単一遺伝子疾患が多く含まれます[17][18]。三大トリソミーだけを調べる検査では、これらの病気は調べられません。

出生前検査は、その後の人生を左右するかもしれない検査です。「安さ」だけで選んで大丈夫でしょうか。三大トリソミーだけを調べる検査を仮に10万円とすると、1つの病気あたりは約3万3千円です。当院のインペリアルプランは、全常染色体と性染色体の数の異常、92種類の微小欠失・重複、202の単一遺伝子疾患を調べます。性染色体の数の異常も含めて、数えられる病気だけで320になり、1つの病気あたりは約1,719円です。さらに、5Mbを超える欠失・重複はすべての染色体が対象なので、数えきれないほどの変化を調べていることになります。数えられる分だけでも、これだけの範囲を調べられます。

プラン 主に調べる範囲 数えた病気の数 1つの病気あたり
三大トリソミーだけを調べる検査
(仮に10万円とした場合)
13・18・21トリソミー 3 約33,333円
スタンダード(220,000円) 13・18・21トリソミー、性染色体の数の異常、微小欠失6種類7疾患 14 約15,714円
プレミアム(264,000円) 13・18・21・15・16・22トリソミー、性染色体の数の異常、微小欠失12種類13疾患 23 約11,478円
ダイヤモンド(407,000円) プレミアムの範囲+単一遺伝子56 79 約5,152円
双子マックス(440,000円) 全常染色体の数の異常、92種類の微小欠失・重複、5Mbを超える構造異常 114+α 約3,860円
インペリアル(550,000円) 全常染色体の数の異常、性染色体の数の異常、92種類の微小欠失・重複、5Mbを超える構造異常、単一遺伝子202疾患 320+α 約1,719円

※価格は事前学習動画を見て来院した場合の当日割引後の税込価格です。最新の料金は料金ページをご確認ください。※病気の数は、数の異常・微小欠失・重複・単一遺伝子疾患を1つずつ数えたものです。性染色体の数の異常は4種類(ターナー症候群・クラインフェルター症候群・トリプルX症候群・XYY症候群)として数えています(性染色体を調べるのはスタンダード・プレミアム・ダイヤモンド・インペリアル。双子マックスは調べません)。5Mbを超える構造異常は数に入れていないため、双子マックスとインペリアルは実際にはさらに多くの変化を調べています。※『三大トリソミーだけを調べる検査』は計算のための仮の例で、特定の施設の価格ではありません。

ただし、調べる範囲が広がるほど、陽性になる可能性も、確定検査が必要になる場面も増えます。病気の数が多いほど良い検査、というわけではありません。どこまで調べたいかはご家族によって違うため、90分の受診枠の中で、常駐する臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行い、どのプランが合うかを一緒に考えます。

年齢が気になる方のNIPTの選び方 ― 受ける時期と流れ

仕組みが分かったら、次は「いつ、何をすればよいか」です。当院のNIPTは妊娠9週から受けられます。さらに、できるだけ早い時期に結果を知りたい方のために、妊娠6〜8週から臨床研究として受けられる体制を整えています。週数が早いほど、血液中の赤ちゃん由来のDNAが少なく、判定できずに再検査になることがあります(妊娠8週で受けた場合の再検査率は約5%:当院のデータ)。10週を過ぎても、16週でも受けられます。

早めに受ける理由は、結果のあとに考える時間を持てることにあります。陽性の場合は確定検査で確かめる必要があり、その結果を待ってから、ご家族で考える時間が必要です。妊娠12週以降に妊娠を続けない選択をした場合は中期中絶となり、体への負担が大きくなります。確定検査と考える時間から逆算して、早めの時期に受けることをおすすめしています。

① 予約・事前学習動画プランの説明を事前に確認
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② 来院(90分の受診枠)4Dエコーと臨床遺伝専門医の遺伝カウンセリング・採血
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③ 結果(基本10〜14日)陰性はマイページでお知らせ
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④ 陽性の場合確定検査まで院内で

結果が出るまでは基本10〜14日です。インペリアルプランの単一遺伝子の結果だけは3〜4週間かかります(ダイヤモンドプランは単一遺伝子も10〜14日)。当院のNIPTの判定保留は0%で、胎児分画(お母さんの血液中の赤ちゃん由来のDNAの割合)が基準に届かないときは「再検査(再採血)」になります。

陽性の場合も、確定検査(絨毛検査・羊水検査)まで院内で受けられます。主要な検査項目は3日以内に、マイクロアレイ検査は2週間ほどで結果が出ます。陽性後の遺伝カウンセリングは何度でも無料です。また、NIPTを受ける方は全員、羊水検査互助会(カトレア会。1回のNIPTにつき8,000円)で確定検査の費用が補助され(上限なし)、安心検査結果保障制度(1回6,000円)では、再検査が必要になったのに流産して再検査ができず結果が出なかったときに、検査代金(諸費用を除く)が返金されます。確定検査については羊水検査・絨毛検査をご覧ください。

施設を選ぶときは、調べられる範囲だけでなく、陽性のときに誰が説明し、確定検査をどこで受けられるのかまで確かめてください。施設選びのポイントはNIPTクリニックの選び方にまとめています。来院が難しい方は、オンラインNIPT(Zoomでのカウンセリング+全国110か所の提携施設で採血)もご利用いただけます。高齢出産の定義や、初産と経産婦の違いは高齢出産は何歳から?で解説しています。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【年齢という「数字」だけで、検査の範囲を決めないでください】

高齢出産というと、まずダウン症候群の確率の数字が思い浮かぶかもしれません。けれども、染色体の変化の起こり方を仕組みから見ると、年齢で増える数の変化、父親の年齢で増える新しい遺伝子の変化、年齢と関係なく起こる微小欠失という、性質の違う3つの流れがあります。年齢の数字は、そのうちの1つを映しているにすぎないと考えています。

NIPTはスクリーニング検査で、陽性なら確定検査で確かめることが前提です。だからこそ、可能性のある赤ちゃんを見逃さずに拾い上げ、そのあと院内で確定検査まで責任をもってつなぐ体制が大切だと考えています。何を調べ、何を調べないのかを知ったうえで、ご家族にとって納得できる範囲を選んでいただきたいと思います。

🏥 年齢が気になる方のNIPTは、調べる範囲から選べます

ダウン症候群だけで大丈夫か迷う方へ。当院のNIPTは、微小欠失症候群や単一遺伝子疾患、一部の自閉症・発達障害・知的障害の原因まで調べられ、陽性でも確定検査(羊水検査・絨毛検査)まで院内で受けられます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 高齢出産でなぜ染色体異常が起こりやすいのですか?

卵子は、お母さんが胎児だったころに減数分裂を始め、その途中で止まったまま排卵の時期を待ちます。待つ期間が数十年に及ぶあいだに、染色体をつなぎとめるコヒーシンというタンパク質が減って結びつきが弱まり、分裂のときに染色体がうまく分かれない「不分離」が起こりやすくなると考えられています。交叉(組換え)の変化など、ほかの要因も重なります。

Q2. ダウン症候群だけ調べれば大丈夫ですか?

ダウン症候群だけを調べれば大丈夫、とは言えません。知的障害を伴う病気のお子さんのご家族を比べた研究では、スミス・マゲニス症候群、ウィリアムズ症候群、プラダー・ウィリー症候群のご家族は、ダウン症候群のご家族より子育てのストレスが高く、ストレスを最も強く左右していたのは知的障害の程度よりも行動の問題でした。こうした病気は三大トリソミーだけを調べる検査ではわかりません。当院ではスタンダードプランから22q11.2欠失症候群やプラダー・ウィリー症候群、アンジェルマン症候群などの微小欠失を、ダイヤモンドプラン・インペリアルプランでは単一遺伝子疾患まで調べられます。どこまで調べるかは、検査前の遺伝カウンセリングで一緒に考えます。

Q3. 35歳を過ぎると急に染色体異常が増えるのですか?

35歳ではっきり線が引けるわけではありません。年齢とともに少しずつ上がり、40代で上がり方が大きくなります。米国の推計では、出生時に見つかる臨床的に意味のある染色体異常は、母体年齢35歳で約1,000人に5人、40歳で約15人、45歳で約50人でした。35歳は、検査を考える目安として使われてきた年齢です。

Q4. 父親の年齢は関係しますか?

関係します。ただし、父親の年齢とともに増えるのは、主に精子で新しく起こる遺伝子の変化(de novo変異)です。アイスランドの研究では、父親の年齢が1歳上がるごとに、子どもに伝わる新しい変化が約2個増えていました。年齢とともに増える染色体の数の変化は、ほとんどが卵子の側で起こります。

Q5. 生活習慣を変えれば、卵子の染色体異常は防げますか?

年齢とともに不分離が増える仕組みの中心は、卵子が長い年月止まっているあいだに染色体の結びつきが弱まることだと考えられており、生活習慣で取り戻せることは確かめられていません。妊娠中の過ごし方で起こるものでもありません。お母さんのせいではないことを、まず知っていただきたいと考えています。

Q6. 若ければ染色体異常の心配はいりませんか?

若い方でも染色体異常は起こります。染色体の数の変化は妊娠全体の少なくとも約10%にみられると報告されています。また、22q11.2欠失症候群のような微小欠失は、母親の年齢とは関係なく起こります。年齢は目安の1つで、年齢だけで心配の有無は決まりません。

Q7. NIPTで自閉症や発達障害はわかりますか?

一部はわかります。当院のNIPTは、自閉症・発達障害・知的障害の原因になる遺伝子や染色体の変化の一部を調べられます。たとえば22q11.2欠失症候群やアンジェルマン症候群はスタンダードプランから、レット症候群やコルネリア・デ・ランゲ症候群はダイヤモンドプラン・インペリアルプランで調べられます。ただし、陰性でも自閉症・発達障害・知的障害がないとは言えません。

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※本記事は一般の方に向けた情報提供を目的とするもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。

仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 当サイトの記事は、院長が自ら執筆し、医学的な内容を確認してから公開しています。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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