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MEND症候群とは?原因・症状・遺伝形式・診断・治療を専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

MEND症候群は、X染色体にあるEBP遺伝子の働きが少しだけ弱くなる変化によって、体内でコレステロールをうまく作れなくなり、主に男の子に生まれつきのさまざまな症状が現れる、とても稀な病気です。脳の発達の遅れ、特徴的な顔つき、皮膚や骨の症状などが組み合わさって起こります。100万人に1人未満という希少疾患ですが、原因や診断の進め方は少しずつ明らかになってきています。同じEBP遺伝子が原因でも、女の子に多い「点状軟骨異形成症2型(CDPX2)」とは別の病気であることを理解することが、とても大切なポイントです。

この記事でわかること
📖 読了時間:約15分
🧬 EBP遺伝子・コレステロール代謝・臨床遺伝
臨床遺伝専門医監修

Q. MEND症候群とはどのような病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. X染色体にあるEBP遺伝子の「働きが少しだけ弱くなる」タイプの変化によって、コレステロールをうまく作れなくなり、主に男の子に発症する希少な先天性の症候群です。重い発達の遅れ・脳の構造の異常(Dandy-Walker奇形など)・魚鱗癬(うろこ状の皮膚)・第2趾と第3趾がくっつく合趾症などを特徴とします。同じEBP遺伝子が原因でも、女の子に多いCDPX2とは性質も経過も異なる別の病気です。

  • 疾患の定義 → OMIM 300960、Orphanet ORPHA:401973、X連鎖潜性(劣性)遺伝、有病率は100万人に1人未満
  • 原因 → EBP遺伝子のハイポモルフィック(機能低下型)変異によるコレステロール合成の障害
  • 主な症状 → 重度の発達の遅れ・Dandy-Walker奇形・魚鱗癬・第2/第3趾の合趾症・白内障
  • 鑑別診断 → CDPX2・スミス・レムリ・オピッツ症候群(SLOS)との見分けが重要
  • 診断・検査 → 血漿ステロール分析(8-DHCの上昇)とEBP遺伝子解析の組み合わせ

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1. MEND症候群とは:疾患の定義と歴史的背景

MEND症候群(OMIM 300960)の「MEND」は、Male EBP disorder with Neurological Defects(神経学的な異常をともなう男性のEBP障害)という英語の頭文字をとった名前です。その名のとおり、主に男の子に発症し、脳・神経の発達の異常を中心としながら、顔つき・皮膚・骨格・目など全身にさまざまな症状が現れる、超希少な先天性の症候群です。世界的にも報告例は数家系と十数例の孤発例にとどまるほど稀な病気です。

💡 用語解説:X連鎖潜性(劣性)遺伝(エックスれんさせんせいいでん)

原因となる遺伝子がX染色体の上にあり、その変化が「潜性(劣性)」、つまり正常な遺伝子があれば症状が出にくいタイプの遺伝形式です。女の子はX染色体を2本持つため、1本が変化していてももう1本が補えますが、男の子はX染色体が1本だけなので、その1本が変化していると症状が現れやすくなります。これがMEND症候群が主に男の子に発症する理由です。なお「潜性(劣性)」「顕性(優性)」は、近年用いられるようになった新しい呼び方で、それぞれ従来の「劣性」「優性」と同じ意味です。

国際的な希少疾患データベースであるOrphanetには「ORPHA:401973」として登録され、推定有病率は100万人に1人未満とされています。原因遺伝子であるEBPは、もともと女の子に多い別の病気「点状軟骨異形成症2型(CDPX2/コンラディ・ヒューネルマン・ハップル症候群)」の原因として知られていました。長い間、EBPに変化を持つ男の子は、お腹の中で命を落とすか、ごく一部のモザイク(後述)の場合にしか生まれてこられないと考えられていました。

ところがその後、酵素の働きが「完全には失われず、少しだけ残る」タイプの変化を持つ男の子が生き延び、CDPX2とはまったく異なる症状を示すことが分かってきました。2012年にArnoldらの研究グループが、この一連の症状をCDPX2とははっきり区別し、「MEND症候群」という名前を提唱したのです。同じEBP遺伝子の変化でも、変化の種類や場所によって、まったく違う病気になるという、臨床遺伝学にとって重要な発見でした。

2. 原因遺伝子EBPと、コレステロール代謝の破綻

MEND症候群の原因は、X染色体(Xp11.23付近)にあるEBP遺伝子の変化です。EBP遺伝子は、コレステロールを作る工程で働く「酵素」の設計図です。この酵素がうまく働かないと、体は十分なコレステロールを作れなくなり、かわりに体に害のある中間物質がたまってしまいます。遺伝子そのものの詳しい構造やはたらきは、EBP遺伝子の解説ページで詳しくご紹介しています。

💡 用語解説:コレステロールはなぜ大切なのか

コレステロールは「体に悪いもの」と思われがちですが、本当はとても大切な物質です。細胞の膜を作る材料になるほか、ホルモンや胆汁酸のもとになり、さらに胎児期に体の形を正しく作るための信号(ソニック・ヘッジホッグなど)にも欠かせません。そのため、赤ちゃんがお腹の中で育つ時期にコレステロールが不足すると、脳・骨・皮膚・目など、さまざまな場所の発達に影響が出てしまうのです。

EBPが作る酵素は、コレステロール完成間近の工程を担当する「3β-ヒドロキシステロイド-Δ8,Δ7-イソメラーゼ」です。この酵素の働きが弱まると、その手前の材料である8-デヒドロコレステロール(8-DHC)や8(9)-コレステノールが、形を変えられないまま体にたまっていきます。これらの異常な物質は細胞膜にまぎれ込んだり、酸化ストレスを受けやすかったりするため、神経や網膜、水晶体などの発達を妨げると考えられています。下の図は、この「ブロックされた流れ」をあらわしたものです。

MEND症候群におけるコレステロール生合成経路の遮断。EBP酵素の働きが低下することで8-DHCや8(9)-コレステノールが蓄積し、コレステロールが不足する。

「働きが少し残る変化」がカギ:ハイポモルフィック変異

EBP遺伝子の変化は、その「重さ」によってまったく違う結果をもたらします。酵素の働きを完全に失わせる変化は、女の子ではCDPX2を引き起こしますが、男の子では多くの場合お腹の中で命を落とします。これに対してMEND症候群を起こすのは、酵素の働きを完全には失わせず、一部だけ残すタイプの変化です。働きが少し残っているために生き延びることができますが、そのかわりに全身の発達に影響が出るのです。

💡 用語解説:ハイポモルフィック(機能低下型)変異

遺伝子の働きを「ゼロ」にするのではなく、「弱める」だけにとどまるタイプの変化です。蛇口でたとえると、完全に閉めるのではなく少しだけ流れるように緩める状態です。MEND症候群では、酵素の働きがわずかに残ることで、男の子でも胎児期を生き延びることができます。働きが残る程度(蛇口の開き具合)の差が、症状の重さの違いにもつながると考えられています。

これまでに報告された病的な変化には、特定の場所に集まる傾向があります。たとえば、47番目のアミノ酸が変わるp.W47Cp.W47Rというミスセンス変異が複数の家系で見つかっています。とくにp.W47Rは、構造的な奇形は目立たないものの、知的障害や極端な行動の問題が前面に出る3世代の家系で報告され、MEND症候群の症状の幅の広さを示す重要な例となりました。

💡 用語解説:ミスセンス変異と半接合体(ヘミ接合体)

ミスセンス変異とは、遺伝子の設計図の1文字が変わることで、作られるタンパク質のアミノ酸が別の種類に置き換わるタイプの変化です。形が少し変わることで、酵素の働きに影響が出ます。

半接合体(ヘミ接合体)とは、男の子のようにX染色体を1本しか持たないため、その遺伝子を1コピーしか持たない状態を指します。1本しかないので、その1本に変化があるとそのまま影響を受けやすくなります。

3. 主な症状と、症状の幅の広さ

MEND症候群の症状は複数の臓器にまたがり、その重さも人によって大きく異なります。重い脳の奇形が前面に出る方から、知的障害や行動の問題が中心の方まで、幅広いスペクトラム(連続した広がり)を示すのが特徴です。ここでは、よく見られる症状を体の部位ごとに整理します。

🧠 中枢神経・発達

  • Dandy-Walker奇形などの脳奇形:高頻度
  • 脳梁の低形成・無発生、小脳低形成
  • 中等度〜重度の知的障害:ほぼ全例
  • てんかん発作・筋緊張の異常

👤 頭蓋・顔つき

  • 小短頭症・大きな大泉門
  • 両眼隔離・内眼角開離(目の間が広い)
  • 鼻梁の突出・団子鼻
  • 小顎症・口蓋裂・耳介低位

🦴 皮膚・毛髪・骨格

  • コロディオン児・魚鱗癬(うろこ状の皮膚)
  • 斑状の色素脱失・毛包性皮膚萎縮
  • 第2趾と第3趾の合趾症:診断的価値が高い
  • 側弯・後弯、低身長

👁️ 目・内臓・その他

  • 白内障(早発・両側性が多い)
  • 小眼球症・内斜視・緑内障
  • 大動脈弁狭窄・心室中隔欠損などの心疾患
  • 停留精巣・腎臓の解剖学的異常

💡 用語解説:Dandy-Walker奇形(ダンディ・ウォーカーきけい)

脳の後ろ側にある小脳の一部(虫部)の形成が不十分で、その奥にある第4脳室が大きく広がる先天的な脳の奇形です。脳脊髄液(脳の中を流れる水)の流れが滞りやすく、水頭症(頭の中に水がたまる状態)を合併しやすいため、発達や予後に大きく関わります。MEND症候群の中枢神経症状の中でも、とくに特徴的な所見の一つです。

💡 用語解説:コロディオン児と魚鱗癬(ぎょりんせん)

コロディオン児とは、生まれたときに全身が羊皮紙のような光沢のある薄い膜でおおわれている状態です。この膜がはがれた後、魚鱗癬——魚のうろこのように皮膚がカサカサと厚くなり、はがれ落ちる状態——が続くことが多くみられます。コレステロールは皮膚のバリア機能を作るためにも必要なので、その合成が障害されると皮膚にも症状が現れます。これらの皮膚症状は、成長とともに軽くなる傾向があります。

💡 用語解説:合趾症(ごうししょう)

隣り合った指や趾(あしのゆび)が、皮膚や骨でくっついている状態です。MEND症候群では第2趾と第3趾がくっつく合趾症が高い割合でみられ、診断の手がかりとして重要視されています。そのほか、多指症(指の数が多い)や、指どうしが重なり合う変形などもみられることがあります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【同じ遺伝子なのに、なぜ姿が違うのか】

同じEBP遺伝子の変化でも、CDPX2とMEND症候群というまったく違う病気になります。鍵を握るのは「酵素の働きがどれだけ残っているか」という、ほんのわずかな差です。完全に止まれば男の子は生まれてこられず、少し残れば生き延びて、別のかたちで症状が表に出ます。生命がいかに精密なバランスの上に成り立っているかを、この遺伝子は教えてくれます。

だからこそ、遺伝子検査では「変化が見つかったかどうか」だけでなく、「どこに、どんな種類の変化があるのか」を丁寧に読み解くことがとても大切です。同じ名前の変化でも、その意味は一人ひとり違います。私たちが時間をかけて結果を解釈するのは、その違いがご家族の見通しを大きく左右するからです。

4. 鑑別診断:CDPX2・SLOSとの違い

MEND症候群は症状の幅が広いため、よく似た他の病気との見分けがとても大切です。とくに重要なのが、同じEBP遺伝子が原因のCDPX2と、別の遺伝子が原因のスミス・レムリ・オピッツ症候群(SLOS)です。

CDPX2が男の子に起こる場合、それは受精後に体の一部の細胞だけに変化が生じた「モザイク」の状態です。その場合、X線で見える「点状軟骨異形成(骨に石灰の斑点が見える所見)」など、女性患者と同じ特徴を示します。一方、MEND症候群はすべての細胞に変化がある非モザイクの状態で、CDPX2に特徴的な点状軟骨異形成は通常みられず、かわりにDandy-Walker奇形などの重い脳の奇形が前面に出ます。一方のSLOSは、コレステロールを作る最終段階の別の酵素(DHCR7)の欠損で起こり、たまる物質が異なります。下の表で違いを整理します。

項目 MEND症候群 CDPX2 SLOS
原因遺伝子 EBP EBP DHCR7
遺伝形式 X連鎖潜性(劣性) X連鎖顕性(優性) 常染色体潜性(劣性)
主な患者 男児 ほぼ女児(男児は原則モザイク) 男女
たまる物質 8-DHC・8(9)-コレステノール 同(女性はモザイク状) 7-DHC
中枢神経 重い脳奇形・知的障害が前面 通常は知能は正常範囲 知的障害・行動障害
点状軟骨異形成 通常みられない 特徴的にみられる みられない
第2/第3趾の合趾症 高頻度 高頻度

この見分けで決め手になるのが血漿ステロール分析です。MEND症候群では8-DHCや8(9)-コレステノールが上昇するのに対し、SLOSでは7-DHCが上昇します。たまっている物質の種類を調べることで、どの段階の酵素に問題があるのかが分かります。そのほか、皮膚症状が強い場合は他の魚鱗癬症候群、骨や白内障の所見からは他の点状軟骨異形成症なども鑑別に挙がります。

5. 診断と遺伝子検査の進め方

MEND症候群の診断は、詳しい診察から始まり、血液による生化学検査を経て、遺伝子検査で確定するという段階を踏みます。ここで大切なのは、「出生後の診断」と「出生前の検査」を分けて考えることです。「診断=出生前」という誤解を持たないことが、正しい理解につながります。

出生後の診断:生化学検査と遺伝子解析

最初の強い手がかりは、血液を使った血漿ステロール分析です。MEND症候群では、EBP酵素のブロックによって蓄積した8-DHCや8(9)-コレステノールの濃度が高くなり、これがEBPの異常を示す特異的な指標(バイオマーカー)となります。

💡 用語解説:血漿ステロール分析(GC-MS)

血液(血漿)の中に含まれるコレステロールやその仲間(ステロール)の種類と量を、ガスクロマトグラフィー・質量分析法(GC-MS)という精密な方法でくわしく調べる検査です。どの物質が異常にたまっているかが分かるため、「コレステロールを作るどの工程に問題があるか」を推測でき、MEND症候群とSLOSなどを見分けるのに役立ちます。

生化学検査で異常があったり、特徴的な所見(Dandy-Walker奇形・合趾症・魚鱗癬など)から強く疑われたりする場合は、分子遺伝学的検査(遺伝子検査)を行います。EBP遺伝子のコーディング領域とその境界を読み取るサンガー法によって病的な変化を見つけることで、確定診断となります。最近は、症状が典型的でなく原因を絞り込みにくい場合に、さまざまなタイプの変異を一度に探せる全エクソーム解析(WES)の中でEBPの変化が見つかるケースも増えています。

💡 用語解説:全エクソーム解析(WES)

遺伝子のうち、タンパク質の情報を持つ部分(エクソン)全体をまとめて読み取る次世代の解析方法です。原因がどの遺伝子にあるか見当がつかないときに、多くの遺伝子を一度に調べられます。患者さんだけでなく両親も一緒に解析する「トリオ解析」を行うと、両親にはなく子どもで初めて生じた変化(新生突然変異)を効率よく見つけられます。

出生前の検査:NIPTと確定診断

妊娠中に調べる検査には段階があります。当院のNIPT(新型出生前診断)のうち、ダイヤモンドプランインペリアルプランには、EBPを含む単一遺伝子の変化を調べる項目が含まれています。ただしNIPTはあくまでスクリーニング(ふるい分け)であり、出生前の確定診断は羊水検査・絨毛検査で行います。当院のNIPTを受けられる方には、互助会(8,000円)により、万一陽性となった場合の羊水検査費用が全額補助されます

大切なのは、MEND症候群のように症状の幅がとても広い病気では、変化を生まれる前に見つけることが、必ずしもご家族の利益になるとは限らないということです。私たちは特定の検査をおすすめしたり、安心を保証したり、不安をあおったりすることはありません。検査を受けるかどうか、その結果をどう受け止めるかは、十分な情報を得たうえでご家族が決めることです。遺伝カウンセリングでは、臨床遺伝専門医が中立的な立場で、判断のための材料を丁寧にお伝えします。

6. 治療と長期的な管理

現在のところ、MEND症候群を根本的に治す方法は確立されていません。治療の中心は、一人ひとりの症状に合わせた対症療法と、多くの診療科が連携する包括的なケアです。同時に、病態の理解に基づいた実験的な薬物療法も試みられています。

病態に基づく薬物療法(研究段階)

ステロールの異常を標的とした方法として、「コレステロールの補充とシンバスタチン(コレステロール合成を抑える薬)の併用」が検討されています。シンバスタチンでコレステロール合成の最上流を抑えると、毒性をもつ中間物質(8(9)-コレステノールなど)の蓄積が減ることが、患者さん由来の培養細胞を用いた実験で示されています。実際に、行動の問題が強い患者さんに対して、毒性ステロールの産生を抑えつつ外からコレステロールを補う治療が試みられています。ただし、よく似たSLOSで同様の方法を試した際に、神経や発達面でのはっきりした改善が必ずしも得られなかったという報告もあり、MEND症候群での長期的な効果は、まだ研究段階です。皮膚症状に対しては、コレステロールとシンバスタチンを配合した外用薬も提唱されています。

多職種による集学的ケア

神経・発達のサポート

てんかんに対する発作コントロール、理学・作業・言語の各療法による早期療育が中心です。水頭症が進む場合は、脳神経外科による髄液をのがすための手術(シャント造設)が検討されます。

整形外科・呼吸の管理

進行する側弯・後弯は胸郭の変形を通じて呼吸機能に影響するため、定期的なX線評価と、必要に応じた装具療法や手術が検討されます。重い呼吸器感染症の予防も重要です。

皮膚・目のケア

魚鱗癬や乾燥には保湿剤や角質溶解剤による継続的なスキンケアを行います。早発の白内障は、視力の発達を守るため、早めの手術や視力矯正が検討されます。

肝芽腫について:国内で、MEND症候群に肝臓の腫瘍「肝芽腫」を合併した症例が1例報告されています(2025年・日本小児科学会雑誌)。ステロール代謝の異常との関連が注目されていますが、現時点では確立した合併症やがん素因とは言えません。腹部超音波やα-フェトプロテイン(AFP)測定によるフォローを行うかどうかは、主治医とよく相談のうえ、慎重に判断していくことになります。

7. 遺伝カウンセリングの意義

MEND症候群はX連鎖潜性(劣性)遺伝のため、多くの場合、変化はお母さんから受け継がれます(お母さんは症状のない保因者であることが多いです)。ただし、女性が保因者であっても症状が出るかどうかは、どちらのX染色体が働くか(ライオニゼーション)のパターンにも左右され、偏ったX染色体不活性化やエスケープ遺伝子といった、より細かいしくみも研究されています。遺伝カウンセリングでは、こうした遺伝のしくみと再発の可能性を、ご家族の状況に合わせて丁寧にお伝えします。

  • 遺伝形式と再発リスクの説明:母親が保因者の場合、次の妊娠で男の子に受け継がれる可能性などを、図を用いてご説明します。家系内の変化が分かっている場合は、より具体的な見通しを立てられます。
  • 症状の幅が広いことの共有:同じ変化でも重さが異なるため、「この子がどうなるか」を断定することはできません。だからこそ、過度な不安にも過度な安心にも傾かない、バランスのとれた情報提供が大切です。
  • 出生前診断の選択肢:次のお子さんを望む場合、既知の変化があれば絨毛検査・羊水検査による出生前遺伝子診断が選択肢になります。受けるかどうかはご家族の価値観を尊重して決めていきます。
  • 心理的サポートの継続:希少疾患は情報が限られ、ご家族が孤立しがちです。長期的に医療機関とつながり、必要な支援にアクセスできるよう伴走することも、遺伝カウンセリングの大切な役割です。

8. よくある誤解

誤解①「EBP変異=CDPX2」

同じEBP遺伝子でも、酵素の働きの残り具合によってCDPX2とMEND症候群という別の病気になります。変化の場所と種類の解釈がとても重要です。

誤解②「女の子だけの病気だ」

CDPX2が女の子に多いのは事実ですが、MEND症候群は主に男の子に発症します。EBP関連の病気は、性別によって姿を変えるのが特徴です。

誤解③「同じ変化なら症状も同じ」

同じ家系で同じ変化を持っていても、症状の重さは人によって大きく異なります。残る酵素活性や、他の遺伝子の影響が関係すると考えられています。

誤解④「検査で将来がすべて分かる」

遺伝子検査で変化が見つかっても、症状の重さを正確に言い当てることはできません。検査結果は未来を決めるものではなく、これからを考える「材料」のひとつです。

9. 臨床遺伝専門医からのメッセージ

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【検査は「答え」ではなく「材料」です】

遺伝子検査は、ときに「白か黒かをはっきりさせてくれるもの」と思われがちです。けれどMEND症候群のように症状の幅がとても広い病気では、変化が見つかっても、その子がどのくらいの症状になるかを正確に言い当てることはできません。検査の結果は、未来を決めるものではなく、これからを考えるための「材料」のひとつなのです。

医師の役割は、どの道を選ぶべきかを指示することではありません。正確な情報を、わかりやすく、偏りなくお伝えし、ご家族が納得して進めるように寄り添うことだと考えています。迷ったとき、不安なときこそ、遠慮なくご相談ください。希少な病気だからこそ、一つひとつの診断と対話を大切にしています。

よくある質問(FAQ)

Q1. MEND症候群は遺伝しますか?

X連鎖潜性(劣性)遺伝の病気で、多くの場合、変化は症状のないお母さん(保因者)から受け継がれます。母親が保因者の場合、次の妊娠で男の子に受け継がれる可能性などについて、遺伝カウンセリングで具体的にご説明します。家系内で変化が分かっている場合は、出生前診断の選択肢についてもご相談いただけます。

Q2. 同じEBP遺伝子なのに、なぜCDPX2とは違う病気になるのですか?

鍵は「酵素の働きがどれだけ残るか」です。働きをほぼ失わせる変化は女の子ではCDPX2を起こし、男の子では多くの場合お腹の中で命を落とします。一方、働きを一部だけ残すハイポモルフィック変異では、男の子でも生き延びてMEND症候群を発症します。同じ遺伝子でも変化の種類によって結果が大きく変わるのです。

Q3. どのような症状がありますか?

中等度から重度の発達の遅れと、Dandy-Walker奇形などの脳の構造の異常がほぼ全例にみられます。加えて、特徴的な顔つき、コロディオン児・魚鱗癬などの皮膚症状、第2趾と第3趾の合趾症、白内障、心疾患などが組み合わさります。症状の重さは人によって大きく異なります。

Q4. どうやって診断しますか?

まず血液を使った血漿ステロール分析で、8-DHCや8(9)-コレステノールの上昇を確認します。そのうえでEBP遺伝子を読み取る遺伝子検査により病的な変化を見つけることで、確定診断となります。症状が典型的でない場合は、全エクソーム解析(WES)の中でEBPの変化が見つかることもあります。

Q5. 出生前に調べられますか?

当院のNIPTのうちダイヤモンドプランインペリアルプランには、EBPを含む単一遺伝子の項目が含まれています。確定診断は羊水検査・絨毛検査で行います。ただし症状の幅が広い病気のため、検査を受けるかどうかは遺伝カウンセリングで十分に話し合ってお決めください。

Q6. 治療法はありますか?

根本的に治す方法はまだ確立されておらず、症状ごとの対症療法と多職種による包括的なケアが中心です。研究段階の試みとして、コレステロールの補充とシンバスタチンの併用が検討されていますが、神経・発達面への長期的な効果はまだ十分には分かっていません。てんかん・水頭症・側弯・白内障などへの個別の管理が予後に関わります。

Q7. スミス・レムリ・オピッツ症候群(SLOS)との違いは何ですか?

どちらもコレステロール合成の障害ですが、原因の段階が異なります。MEND症候群はEBP遺伝子の変化で8-DHCや8(9)-コレステノールがたまるのに対し、SLOSはDHCR7遺伝子の欠損で7-DHCがたまります。症状が重なる部分もありますが、血漿ステロール分析でどの物質がたまっているかを調べることで見分けられます。

Q8. MEND症候群と肝芽腫(がん)の関連はありますか?

国内で、MEND症候群に肝芽腫を合併した症例が1例報告されています(2025年・日本小児科学会雑誌)。ステロール代謝異常との関連が注目されていますが、現時点では確立した合併症やがん素因とは言えません。腹部超音波やα-フェトプロテイン(AFP)によるフォローを行うかどうかは、主治医とよく相談のうえ慎重に判断していくことになります。

🏥 希少疾患の診断・遺伝カウンセリングについて

MEND症候群をはじめとする希少遺伝性疾患に関するご相談は、
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにお気軽にご相談ください。

参考文献

  • [1] OMIM #300960. MEND Syndrome. Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [2] OMIM *300205. Emopamil-Binding Protein; EBP. Johns Hopkins University. [OMIM]
  • [3] Orphanet. MEND syndrome (Male EBP disorder with neurological defects). ORPHA:401973. [Orphanet]
  • [4] Chondrodysplasia Punctata 2, X-Linked. GeneReviews®. NCBI Bookshelf. [GeneReviews]
  • [5] Arnold AW, et al. Conradi-Hünermann-Happle syndrome in males vs. MEND syndrome (male EBP disorder with neurological defects). Br J Dermatol. 2012. [PubMed]
  • [6] Barboza-Cerda MC, et al. Phenotypic severity in a family with MEND syndrome is directly associated with the accumulation of potentially functional variants of cholesterol homeostasis genes. Mol Genet Genomic Med. 2019. [PMC6732292]
  • [7] Hartill VL, et al. An unusual phenotype of X-linked developmental delay and extreme behavioral difficulties associated with a mutation in the EBP gene. Am J Med Genet A. 2014. [PubMed]
  • [8] MEND syndrome. NIH Genetic Testing Registry (GTR). C4085243. [NIH GTR]
  • [9] 加藤愛子, ほか. MEND症候群に合併した肝芽腫の一例. 日本小児科学会雑誌. 2025;129(2):215. [J-GLOBAL]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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