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細胞の中にあるDNAは、すべての遺伝子が同時に働いているわけではありません。必要な遺伝子だけをオンにし、使わない遺伝子はしっかりオフにしておく――この「オン・オフの管理」を担うのがエピジェネティクスのしくみです。EHMT2遺伝子(コードするタンパク質:G9a)は、そのなかで「遺伝子をオフにする」側の中心的な酵素をつくる設計図です。近年、この遺伝子の変化がKleefstra(クリーフストラ)症候群によく似た神経発達症を起こすことが分かり、さらにがんの悪化やアルツハイマー病とのつながりも注目されています。本記事では、EHMT2の基本的な働きから関連する病気、治療研究の最前線までを、遺伝専門医がやさしく解説します。
Q. EHMT2遺伝子とは何をする遺伝子ですか?まず結論だけ知りたいです
A. EHMT2は「G9a」というタンパク質の設計図で、DNAを巻き取っているヒストンに“オフ”の目印(H3K9のメチル化)をつけて、特定の遺伝子の働きを抑える酵素です。細胞が「自分らしさ」を保ち、使うべきでない遺伝子を眠らせておくために欠かせません。この働きのバランスが崩れると病態につながることがあり、特定の病的変異によってG9aのメチル化活性が大きく低下するとKleefstra症候群に似た神経発達症を起こしうる一方、多くのがんではG9aの過剰発現が悪性形質や治療抵抗性と関連することが報告されています。
- ➤基本の働き → ヒストンH3の9番目のリジン(H3K9)をモノ・ジメチル化し、遺伝子をオフにする「書き込み役」
- ➤相棒はEHMT1(GLP) → 2つがペア(ヘテロダイマー)を組んで初めて本来の力を発揮する
- ➤神経発達症との関係 → de novo(新生)病的変異によるKleefstra様の症候群が2026年に報告・定義された。常染色体劣性型は候補段階
- ➤がんとの関係 → 多くのがんで過剰になり、予後不良と関連。DNA修復を助けて抗がん剤耐性の一因にもなる
- ➤診断の手がかり → エピシグネチャー(疾患に特徴的なDNAメチル化パターン)を、EpiSignなどのDNAメチル化検査で評価できる
🧬 EHMT2遺伝子の基本情報
各項目の根拠と詳しい解説は、本文の該当セクションをご覧ください。
1. EHMT2遺伝子とG9a ─ 名前がたくさんある理由
EHMT2は、Euchromatic Histone-lysine N-methyltransferase 2(ユークロマチン・ヒストンリジンN-メチルトランスフェラーゼ2)の頭文字をとった遺伝子名です。この遺伝子は、研究の歴史のなかで複数の名前で呼ばれてきました。よく使われるG9aのほか、KMT1C、BAT8(HLA-B associated transcript 8)、C6orf30、NG36などです[1]。名前が多いのは、発見された経緯が複雑だったためで、当初はこの領域に「NG36」と「G9a」という2つの別々の遺伝子が隣り合っていると考えられていましたが、後の詳しい解析で、これらが実は1つの遺伝子(EHMT2)であることが確認されました[1]。検索する場面によって表記が違うのはこのためで、どれも同じ遺伝子を指しています。
EHMT2は6番染色体の短腕6p21.33にあり、免疫に関わる遺伝子が密集する主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIII領域に位置しています[1]。この遺伝子がつくるタンパク質がG9aで、DNAを巻き取る糸巻きのようなタンパク質「ヒストン」に化学的な目印(メチル基)をつける酵素です。ここで大切なのは、EHMT2は6番染色体の遺伝子であり、名前がよく似たEHMT1(9番染色体9q34.3にある別の遺伝子)とは別物だという点です。この2つは後で説明するようにペアを組んで働く「相棒」同士ですが、遺伝子としては染色体上の場所も、関連する病気の遺伝の仕方も異なります。
💡 用語解説:エピジェネティクスとヒストン修飾
エピジェネティクスとは、DNAの文字(塩基配列)そのものは変えずに、遺伝子の働きをオン・オフする調節のしくみです。DNAは「ヒストン」というタンパク質に巻きついて収納されており、このヒストンにメチル基やアセチル基といった小さな目印がつくことで、その場所の遺伝子が読まれやすくなったり読まれにくくなったりします。EHMT2がつけるH3K9のメチル化は「読まれにくくする=オフにする」目印の代表格です。くわしくはエピジェネティクスとは、ヒストンメチル化をご覧ください。
2. 遺伝子を「オフ」にする働き ─ G9aは書き込み役
G9aの最も基本的な仕事は、ヒストンH3の9番目のリジン(H3K9と書きます)に、メチル基を1つ(モノメチル化=H3K9me1)または2つ(ジメチル化=H3K9me2)つけることです[1]。この目印がつくと、その場所のクロマチンは折りたたまれて読まれにくくなり、そこにある遺伝子は「オフ」の状態に保たれます。細胞が、使うべきでない遺伝子を確実に眠らせておくための、いわば消灯スイッチのような役割です。
興味深いのは、G9a自身は「どのDNA配列をオフにすべきか」を自分では決められないことです。G9aはDNAの特定の並びを直接見分ける力を持たないため、どこに目印をつけるかは、別のタンパク質(転写因子や抑制複合体など)に案内してもらって決まります。つまりG9aは、案内役に連れられて目的地にたどり着き、そこで初めて「オフの書き込み」を行う職人のような存在です。
「書き込み」と「読み取り」を1つでこなす
G9aというタンパク質には、大きく2つの機能パーツがあります。1つは、目印を書き込むSETドメイン(ライター=書き込み役)。もう1つは、すでについている目印を読み取るアンキリンリピート(リーダー=読み取り役)です[4]。読み取り役が「ここにはもうH3K9me1/me2の目印がある」と認識し、書き込み役がその隣にさらに目印を足していく――この二役を1つのタンパク質が兼ね備えているため、いったんついたオフの目印が周囲へと広がり、まとまった領域を安定して沈黙させることができます[4]。
G9aが遺伝子を「オフ」にするまで
G9aを目的地へ
メチル化を書き込む
読み取る
閉じて遺伝子オフ
G9aが書き込んだH3K9me2の目印は、HP1(ヘテロクロマチンタンパク質1)という別のタンパク質がくっつく足場になります。HP1が呼び寄せられることで、その領域はさらにしっかり折りたたまれ、遺伝子のオフ状態が安定します。EHMT1/EHMT2の働きが失われた細胞では、この目印が消えてHP1の居場所が乱れることが実験で確かめられています[2]。G9aは単に一か所をオフにするだけでなく、こうしてクロマチンの構造そのものを組み替える起点になっているのです。
3. EHMT1との二人三脚 ─ ペアで働く酵素
🔍 関連記事:EHMT1遺伝子/Kleefstra症候群1/G9aとは(用語)
細胞のなかで、G9aは単独で働くよりも、よく似た「きょうだい」のようなタンパク質EHMT1(別名GLP)と1:1のペアを組んで働きます。このペアをヘテロダイマーと呼びます[2]。それぞれのSETドメイン(書き込み役の部分)どうしがしっかり結びつくことでペアが完成し、これが体の中で実際に働く主要な形です[2]。単独でも一応の酵素活性はありますが、細胞内でH3K9のメチル化を担う中心はこのペアなのです[3]。

この二人三脚には、はっきりした意味があります。まず、ペアを組むことでお互いのタンパク質が安定します。EHMT1を失った細胞では、G9aタンパク質の量そのものが大きく減ってしまうことが知られており[2]、ペア形成はG9aを守るしくみにもなっています。さらに、生化学的な解析では、G9aとEHMT1が別々に組んだ場合よりも、2つが組み合わさったヘテロダイマーのほうが、目印を読み取る力も書き込む力も格段に高まることが示されています[3]。ペアになって初めて、本来の実力が引き出されるわけです。
この「ペアで働く」という性質は、後で説明する病気の理解にも直結します。相棒であるEHMT1の機能が半分になるとKleefstra症候群1という神経発達症になりますが、G9a側(EHMT2)に問題が起きても、よく似た病気が生じることが近年分かってきました。1つのペアの片方が欠けても、もう片方が欠けても、同じ「二人三脚」が成り立たなくなる――そう考えると理解しやすいでしょう。
4. ヒストン以外の標的 ─ 多才なG9a
G9aの働きは、ヒストンに目印をつけることだけにとどまりません。細胞のなかのさまざまなタンパク質を直接メチル化し、その働きを微調整することが分かっています。代表的な標的が、がん抑制遺伝子として有名なp53です。G9aはp53の特定のリジン(K373)をメチル化し、その活性を抑える方向に働くことが報告されています[11]。もう1つの例が、酸素が足りない環境で働くHIF-1αで、G9a/GLPはHIF-1αのK674をメチル化し、その転写活性を抑えることが示されています[12]。腫瘍のなかのような特殊な環境で、細胞の生き残り方を左右するしくみです。
さらに近年、G9aがDNA修復にも直接関わることが明らかになりました。DNAが切れる(二重鎖切断)と、G9aはCK2という酵素によってリン酸化され、損傷した場所へ素早く駆けつけます。そこでRPAやRAD51といった修復タンパク質を呼び込み、「相同組換え修復」という正確な修復を後押しするのです[5]。この働きは正常な細胞では役に立ちますが、がん細胞にとっては抗がん剤や放射線で与えたダメージを修復してしまう=治療抵抗性の一因にもなります。この点は第8章で詳しく取り上げます。
💡 「オフにする酵素」なのに複雑なのはなぜ?
G9aは「遺伝子をオフにする酵素」と説明されることが多いのですが、実際にはヒストン以外のタンパク質をメチル化したり、DNA修復を手伝ったり、状況によっては足場として働いて別の複合体の集合を助けたりと、多くの顔を持つ「多機能ハブ」です。だからこそ、この1つの遺伝子の変化が、神経の発達からがん、認知機能まで、まったく違って見える病態に関わってきます。1つの酵素をさまざまな角度から見るのが、EHMT2を理解するコツです。
5. 発生とレトロウイルス制御 ─ なぜ生命に重要なのか
EHMT2は、生命が生まれる最初期にどうしても欠かせない遺伝子です。マウスでEHMT2(またはEHMT1)を完全になくすと、胎児は妊娠中期ごろに育つことができず、命を落とします[2]。受精から間もない時期に、G9aは「本来この時期に使うべきでない遺伝子」に的確にオフの目印をつけ、発生を正しい順序で進める交通整理をしています。
もう1つの重要な役割が、レトロウイルス由来配列のサイレンシングに関わることです。ヒトゲノムの約8%は、太古のウイルス感染の名残である「内在性レトロウイルス(ERV)」に由来するとされています。こうした配列の抑制にはSETDB1(ESET)など複数のエピジェネティック因子が関わり、G9aだけが「番人」を担うわけではありません。マウス胚性幹細胞の研究では、G9aはERVのサイレンシング維持そのものには必須ではない一方、新たに組み込まれたプロウイルスのH3K9me2形成、de novo DNAメチル化、サイレンシングの成立に重要であることが示されています[13]。
EHMT2は、細胞が「自分らしさ」を守るための障壁としても働きます。分化した体細胞を初期化してiPS細胞(人工多能性幹細胞)をつくる過程では、G9aはOCT4やNANOGといった多能性の遺伝子をしっかりオフに保つ「エピジェネティックな壁」として立ちはだかります。逆にいえば、この壁を阻害剤などで一時的に弱めると、実験系によってはiPS細胞への初期化効率が高まることが報告されています[14]。EHMT2は、細胞のアイデンティティを固定する「記憶の鍵」のような存在なのです。
6. 神経発達症との関わり ─ Kleefstra様症候群
🔍 関連記事:Kleefstra症候群1/クロマチン異常症(MDEM)/EpiSign検査
EHMT2をめぐる知見のなかで、ここ数年で最も大きく進展したのがこの領域です。相棒であるEHMT1の機能が半分になると、知的障害・特徴的な顔立ち・筋緊張低下などを伴うKleefstra症候群1(クリーフストラ症候群1)という神経発達症になることが、20年以上前から知られていました。では、もう片方のG9a(EHMT2)に問題が起きたらどうなるのか――これが長く未解明でした。
2026年に、この問いに答える重要な報告が出ました。7例の患者で、両親にはない新たに生じたEHMT2の変異(de novo変異)が見つかり、いずれもKleefstra症候群1とよく似た症状・DNAメチル化パターン(エピシグネチャー)・遺伝子発現の特徴を示すことが確認されたのです[6]。これらの変異は、G9aタンパク質の形はほぼ保たれるものの、ヒストンH3の尾部やメチル基の供与体(SAM)との相互作用が乱れ、メチル化の力を失ってしまうタイプでした[6]。この報告により、「常染色体優性のEHMT2関連Kleefstra症候群」という疾患概念が定義されました。
💡 遺伝形式のポイント:優性型が報告・定義、劣性型は候補
EHMT2関連の神経発達症には、遺伝の仕方が異なる2つの形が報告されています。1つは、新たに生じたde novo変異による常染色体優性(顕性)の形で、こちらは2026年に疾患概念として報告・定義された形です[6]。もう1つは、両親から1つずつ受け継いだ変異がそろって発症する常染色体劣性(潜性)の形で、こちらはホモ接合のスプライス変異を持つ1例が報告され、Kleefstra様のエピシグネチャー陽性でしたが、まだ「候補」段階です[7]。
この違いは、遺伝カウンセリングで次のお子さんへの再発リスクを説明するときに決定的に重要です。de novoの優性型では次のお子さんへの再発リスクは一般に低いものの、親の生殖細胞系列モザイクなどによりゼロとは言い切れません。一方、常染色体劣性型が病因として確定し、両親がそれぞれ病的変異の保因者である場合には、理論上は1回の妊娠あたり25%となり、説明が大きく異なるからです。遺伝形式を正確に見きわめることが出発点になります。
EHMT2関連例では、エピシグネチャー(疾患に特徴的なDNAメチル化パターン)に異常がみられることも重要です。2026年の優性型報告では、Kleefstra症候群1に近いエピジェネティック異常を示すとともに、血液DNAからEHMT2関連例を識別するエピシグネチャーが示されました[6]。このため、DNAメチル化検査(EpiSignなど)は、通常の遺伝子検査で見つかった変化の病的意義を評価する補助になり得ます[6][7]。こうしたエピジェネティクスの乱れによる一群の疾患はクロマチン異常症(MDEM)と総称され、EHMT2関連症候群もその一員として位置づけられます。診断法の詳細はEpiSign(エピシグネチャー)検査をご覧ください。
7. アルツハイマー病 ─ 成体の脳では「多すぎ」も問題
EHMT2は、機能が失われると発達に問題が生じる一方で、成人の脳では働きすぎも困りものになります。アルツハイマー病のモデルマウス(5XFAD)を使った研究では、G9a/GLPを選択的に阻害するUNC0642を投与すると、脳内のH3K9me2レベルが下がり、アミロイドβプラークの蓄積が平均で約45%減少したと報告されています[8]。さらに行動試験でも、新奇物体認識試験(NORT)や物体位置認識試験(OLT)で測る短期・長期の記憶が、健常なマウスの水準まで改善したとされます[8]。
8. がんとの関わり ─ 過剰が悪化を招く
発生に必須のEHMT2ですが、多くのがんでは過剰に働くことが問題になります。乳がん・大腸がん・肺がん・肝細胞がん・前立腺がん・白血病など、さまざまな腫瘍でG9aが増えており、しばしば予後不良(生存期間が短い、進行しやすい)と関連することが報告されています。過剰なG9aは、本来オフにすべきでない「がん抑制遺伝子」まで黙らせてしまい、細胞の増殖・浸潤・転移を後押しすると考えられています。
抗がん剤・PARP阻害薬への耐性という難題
がん治療でとくに厄介なのが、第4章でふれたDNA修復を助ける働きです。G9aが高く働いているがん細胞は、抗がん剤や放射線で与えたDNAダメージを効率よく修復してしまい、治療から逃れやすくなります[5]。実際、卵巣がん(高異型度漿液性卵巣がん)では、PARP阻害薬に耐性となった細胞でH3K9me2とEHMT1/2がそろって増えており、EHMT1/2を阻害すると相同組換え修復と非相同末端結合の両方が破綻し、PARP阻害薬への感受性が回復することが示されました[9]。これは、DNA修復の弱点を突く合成致死という考え方を、エピジェネティクスの側から実現しようとする試みです。
創薬の最前線 ─ 阻害から「分解」へ
EHMT2は、最も注目されるエピジェネティック創薬標的の1つです。これまでの薬は、G9aのSETドメイン(書き込み役)に結合して酵素の活性を止める阻害剤が中心でした(BIX-01294、UNC0638/UNC0642、A-366など)。しかし、こうした阻害剤は書き込みの力は止められても、G9aがEHMT1と組んで果たす「足場」としての役割や、読み取り役としての働きまでは完全には消せません。
そこで近年登場したのが、標的タンパク質分解(PROTAC)という新しい戦略です。これはG9aタンパク質そのものを細胞内で分解・消去してしまう技術で、活性だけでなく非酵素的な働きも含めてまとめて断つことができます。2025年には、G9aとEHMT1(GLP)の両方を分解するPROTAC型分解薬が報告され、MCF-7乳がん細胞でG9a/GLPタンパク質量とH3K9メチル化を低下させ、細胞増殖を大きく損なわずに遊走を抑えることが示されました[10]。ただし、これらはいずれも研究・前臨床の段階であり、EHMT2を標的とした薬がヒトのがん治療として確立しているわけではありません。今後の臨床試験の進展が待たれる分野です。
9. 遺伝子検査と遺伝カウンセリングの実際
🔍 関連記事:遺伝カウンセリング・遺伝診療/全エクソーム検査(WES)/EpiSign検査
EHMT2を調べる場面は、大きく2つに分かれます。それぞれ、検査の意味も結果の受け止め方も異なります。
神経発達症の原因を調べる場合、まず全エクソーム検査(WES)などで遺伝子の変化を探し、見つかった変化の病的意義を評価し、必要に応じてDNAメチル化検査(EpiSignなど)を補助的に用います。EHMT2は常染色体優性の疾患関連が2026年に報告・定義された比較的新しい疾患遺伝子であり、とくに常染色体劣性型はまだ候補段階のため、見つかった変化の意味づけには専門的な判断が必要になります。
当院では、こうした検査の前後で臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行います。話し合う内容は、検査で何が分かり何が分からないのか、結果がご本人やご家族にどのような意味を持つのか、そして次のお子さんへの再発リスクをどう考えるか、といった点です。EHMT2関連症候群では、遺伝形式が優性(de novo)か劣性かによって再発リスクの説明がまったく変わるため、この見きわめがとくに重要になります。検査を受けるかどうかを含め、決めるのはご本人・ご家族であり、私たちは中立の立場で判断材料を整理する役割を担います。
10. よくある誤解
誤解①「EHMT2とEHMT1は同じ遺伝子」
名前は似ていますが別の遺伝子です。EHMT2は6番染色体、EHMT1は9番染色体にあります。2つはペアを組んで働く相棒ですが、EHMT1の機能低下はKleefstra症候群1を、EHMT2の機能低下はそれによく似た別の症候群を起こします。混同しないことが大切です。
誤解②「EHMT2の変化は必ず遺伝する」
2026年に報告・定義された常染色体優性型では、報告された患者に両親にはない新たに生じた変異(de novo変異)が認められました[6]。この場合、次のお子さんへの再発リスクは一般に低いものの、生殖細胞系列モザイクなどのためゼロではありません。また、常染色体劣性型は候補段階のため、遺伝形式を個別に見きわめることが重要です。
誤解③「阻害剤があるからすぐ治療できる」
EHMT2の阻害剤や分解薬は数多く研究されていますが、いずれも細胞実験・動物実験や前臨床の段階です。がんでもアルツハイマー病でも、ヒトの治療として確立した薬はまだありません。研究の進展と実用化は分けて受け止める必要があります。
よくある質問(FAQ)
🏥 神経発達症・遺伝性疾患の遺伝子診断のご相談
Kleefstra様症候群をはじめとする神経発達症や
エピジェネティクス関連疾患の遺伝子検査・遺伝カウンセリングは
臨床遺伝専門医が在籍するミネルバクリニックにご相談ください。
参考文献
- [1] OMIM #604599. EUCHROMATIC HISTONE-LYSINE N-METHYLTRANSFERASE 2; EHMT2. Johns Hopkins University. [OMIM 604599]
- [2] Histone methyltransferases G9a and GLP form heteromeric complexes and are both crucial for methylation of euchromatin at H3-K9. Genes Dev. 2005. [PubMed 15774718]
- [3] Heterodimerization of H3K9 histone methyltransferases G9a and GLP activates methyl reading and writing capabilities. J Biol Chem. 2021. [PMC8564726]
- [4] The ankyrin repeats of G9a and GLP histone methyltransferases are mono- and dimethyllysine binding modules. Nat Struct Mol Biol. 2008. [Nat Struct Mol Biol]
- [5] G9a coordinates with the RPA complex to promote DNA damage repair and cell survival. Proc Natl Acad Sci U S A. 2017. [PubMed 28698370]
- [6] De novo EHMT2 variants cause an autosomal dominant EHMT2-related Kleefstra syndrome via loss of G9a methyltransferase activity. Nat Commun. 2026. [Nat Commun]
- [7] EHMT2 as a Candidate Gene for an Autosomal Recessive Neurodevelopmental Syndrome. Mol Neurobiol. 2025(Epub 2024 Dec 15). [PubMed 39674972]
- [8] Pharmacological inhibition of G9a/GLP restores cognition and reduces oxidative stress, neuroinflammation and β-Amyloid plaques in an early-onset Alzheimer’s disease mouse model. Aging (Albany NY). 2019. [PMC6932909]
- [9] Histone methyltransferases EHMT1 and EHMT2 (GLP/G9A) maintain PARP inhibitor resistance in high-grade serous ovarian carcinoma. Clin Epigenetics. 2019. [PubMed 31775874]
- [10] A Novel PROTAC G9a/GLP Degrader that Inhibits, Similar to G9a siRNA, the Migration of MCF-7 Breast-Cancer Cells without Affecting Proliferation. J Med Chem. 2025. [J Med Chem]
- [11] G9a and GLP methylate p53 at lysine 373 and regulate p53 function. J Biol Chem. 2010. [PubMed 20118233]
- [12] Methylation of hypoxia-inducible factor (HIF)-1α by G9a/GLP inhibits HIF-1 transcriptional activity and cell migration. Nucleic Acids Res. 2018. [PubMed 29860315]
- [13] Lysine methyltransferase G9a is required for de novo DNA methylation and the establishment, but not the maintenance, of proviral silencing. Proc Natl Acad Sci U S A. 2011. [PubMed 21427230]
- [14] Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic fibroblasts by Oct4 and Klf4 with small-molecule compounds. Cell Stem Cell. 2008. [PubMed 18983970]



