目次
- 1 1. HR-pQCTとは ─ 「骨の質」を三次元で測る検査
- 2 2. DXAとの違い ─ 「量」を測る検査と「質」を測る検査
- 3 3. 仕組みと装置 ─ 低被ばくで骨を立体的に撮る
- 4 4. 測定できる指標 ─ 密度・構造・強度を数値化する
- 5 5. 骨強度の推定(μFEA)─ コンピュータで「折れにくさ」を計算する
- 6 6. 骨折リスクの予測 ─ 大規模研究が示したこと
- 7 7. 治療効果の観察 ─ 薬が骨のどこを変えるかを見る
- 8 8. さまざまな病気での意義 ─ DXAで説明できない骨のもろさ
- 9 9. 遺伝診療との接点 ─ 骨形成不全症などの遺伝性骨疾患
- 10 10. 限界と、よくある誤解
- 11 まとめ ─ 「量」だけでなく「質」を見る技術
- 12 よくある質問(FAQ)
- 13 参考文献
- 14 関連記事
骨の健康を測る検査というと、多くの方は骨密度(DXA)を思い浮かべます。ところが、骨の強さは「量」だけでは決まりません。同じ骨密度でも、骨の内部構造がすかすかか、ぎっしり詰まっているかで、折れやすさは大きく変わります。この「骨の質」を、腕や足首の骨で三次元的に、しかもごく低い被ばくで測れるのがHR-pQCT(高解像度末梢骨定量CT)です。この記事では、HR-pQCTとは何か、ふつうの骨密度検査(DXA)と何が違うのか、何が分かって何が分からないのか、そして骨形成不全症をはじめとする遺伝性・二次性の骨の病気とどうつながるのかを、遺伝専門医の視点から解説します。
Q. HR-pQCTとは何ですか?まず結論だけ知りたいです
A. HR-pQCT(高解像度末梢骨定量CT)とは、手首(橈骨)や足首(脛骨)の骨を、ごく低い被ばくで三次元撮影し、骨の密度だけでなく「皮質骨」「海綿骨」の微細構造や、コンピュータで推定した骨の強さまで数値化できる検査です。ふつうの骨密度検査(DXA)では分からない「骨の質」を可視化できる点が大きな特長です。ただし現時点では、骨粗鬆症の診断や集団の検診をDXAに置き換える検査ではなく、主に研究や専門的な精査に使われています。
- ➤正体 → 手首・足首の骨を三次元で撮る、骨専用の高解像度CT。被ばくは通常のCTより桁違いに低い
- ➤DXAとの違い → 面積あたりの密度(g/cm²)ではなく体積あたりの密度(mg HA/cm³)を測り、骨の内部構造まで見える
- ➤分かること → 皮質骨・海綿骨の密度と構造、コンピュータ解析による推定骨強度(骨折しにくさ)
- ➤得意な場面 → DXAでは説明しにくい骨のもろさ、CKD・2型糖尿病・骨形成不全症などの骨の評価
- ➤限界 → 統一された診断基準(T値の閾値)がなく、主に研究・専門施設向けの技術である
🦴 HR-pQCTの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | 高解像度末梢骨定量CT(high-resolution peripheral quantitative computed tomography) |
| 測定する場所 | おもに手首(橈骨遠位部)と足首(脛骨遠位部)。背骨や股関節は原則対象外 |
| 分かること | 体積骨密度・皮質骨と海綿骨の微細構造・皮質多孔性・推定骨強度 |
| 被ばく(実効線量) | 標準的な撮影で概ね3〜5マイクロシーベルト程度と、通常のCTより桁違いに低い[2] |
| 解像度 | ボクセル(画素)は第1世代で約82μm、第2世代で約61μm。ただし実際の空間分解能はこれより粗い[1][2] |
| 現在の位置づけ | 主に研究・専門施設向け。骨粗鬆症のDXA診断を置き換える検査ではない[3] |
※本記事は一般の方と骨・遺伝診療に関わる方の両方に向けた用語解説です。特定の検査を勧めるものではありません。数値は代表的な標準値であり、機種・撮影条件により変わります。
1. HR-pQCTとは ─ 「骨の質」を三次元で測る検査
HR-pQCTは、手首や足首の骨を固定した状態で、多数の角度からX線をあてて撮影し、コンピュータで三次元の立体画像を再構成する、骨専用のCT装置です。ふつうのレントゲンやDXA(後で説明します)が骨を「影絵」のように平面でとらえるのに対し、HR-pQCTは骨をごく薄い輪切りにして積み重ね、骨の内部の細かい構造まで立体的に映し出します[1]。
この技術は2005年にボウトロワ(Boutroy)らによって、手首と足首の骨の微細構造と体積骨密度をヒトの体で評価できる方法として報告され、骨の研究に急速に広まりました[1]。骨の強さは「どれだけの量の骨があるか(骨量)」だけでなく、「その骨がどのように配置され、どれだけ荷重に耐えられるか(構造・質)」で決まります。HR-pQCTは、この後者の「質」の部分を、体を傷つけずに数値化できる点が重要です。
💡 用語解説:皮質骨と海綿骨
骨は大きく2種類の組織でできています。外側をかたく囲む緻密な皮質骨(ひしつこつ)と、内側でスポンジ状の網目をつくる海綿骨(かいめんこつ)です。皮質骨は建物でいえば外壁、海綿骨は内部の梁(はり)にあたります。DXAはこの2つをまとめて評価しますが、HR-pQCTは両者を分けて測れるため、「外壁が薄くなっているのか」「内部の梁が減っているのか」を区別できます。
「末梢骨(peripheral)」という名前のとおり、HR-pQCTが測るのは手首や足首といった体の末端の骨です。背骨や股関節そのものは測れません。それでも、末梢骨の構造には全身の骨のもろさを反映する情報が含まれているため、骨折の起こりやすさを推定する手がかりになります[6]。
2. DXAとの違い ─ 「量」を測る検査と「質」を測る検査
骨の健康を測る検査として最も普及しているのがDXA(デキサ/二重エネルギーX線吸収測定法)です。骨粗鬆症の診断は、世界的にこのDXAで測った骨密度(T値)を基準に行われます。では、HR-pQCTとDXAは何が違うのでしょうか。要点を表にまとめます。
⚖️ DXAとHR-pQCTの違い
※HR-pQCTの体積骨密度(mg HA/cm³)とDXAの面積骨密度(g/cm²)は単位も測り方も異なり、直接置き換えることはできません。
HR-pQCTの臨床的意義を報告初期に示したのが、ボウトロワらの研究です。背骨や股関節のDXA値が同じくらいでも、すでに骨折を起こしたことのある骨減少症(骨量がやや少ない状態)の女性では、手首の海綿骨の密度が低く、骨の網目のばらつき(不均一性)が大きいことが示されました[1]。つまりHR-pQCTは、「DXAだけでは同じに見える骨」の中に隠れた質の違いを見分けられる、というわけです。
💡 ここが重要:HR-pQCTはDXAの「置き換え」ではない
誤解されやすい点ですが、HR-pQCTは骨粗鬆症の診断や検診をDXAから置き換える検査ではありません。骨粗鬆症の診断基準(T値)はDXAを前提に作られており、HR-pQCTには同じように使える確立した診断の閾値がまだありません[4]。HR-pQCTは、DXAで失われる「骨の質」の情報を補う高度な検査、と理解するのが現時点では適切です。
3. 仕組みと装置 ─ 低被ばくで骨を立体的に撮る
HR-pQCTは、校正用のファントム(基準となる標準試料)を使って画像の値をハイドロキシアパタイト相当の密度(mg HA/cm³)に変換します。ハイドロキシアパタイトとは骨の主成分となるミネラルのことで、これを基準にすることで、装置が違っても骨の密度を比較しやすくなります。撮影した立体画像から、骨膜面・皮質骨・海綿骨の領域を分けて(セグメンテーション)、それぞれの構造を数値化します[1]。
装置には世代があります。第1世代(XtremeCT I)ではボクセル(画像を構成する立方体の画素)が約82μm、第2世代(XtremeCT II)では約61μmへと細かくなりました[1][2]。世代が進むほど細かい構造まで直接とらえられるようになっています。世代間で数値には系統的な差が出るため、標準化のための国際的なガイドラインも整備されました[5]。
💡 用語解説:ボクセルサイズ ≠ 実際の解像度
「ボクセルが82μmだから、82μmの細かさで見える」と考えるのは誤りです。画素の大きさ(ボクセルサイズ)と、実際に見分けられる細かさ(空間分解能)は別物です。第1世代の実際の空間分解能は約130μm程度と報告されており、これは骨の梁(骨梁)の太さと近いくらいです[2]。そのため、ごく細い構造は「部分容積効果」(小さいものが画素にまたがってぼやける現象)の影響を受けます。「HR(高解像度)」とはいえ、標本を直接測るミクロCTと同じではない、という点は理解しておく必要があります。
被ばくの少なさもHR-pQCTの特長です。標準的な撮影の実効線量は概ね3〜5マイクロシーベルト程度で、これは通常のCT検査より桁違いに低い値です[2]。この低さは、同じ人を何度も繰り返し評価する研究(縦断研究)に向いている理由の一つでもあります。ただし、低いからといって無制限に繰り返してよいわけではなく、検査の正当化と被ばく低減の原則は常に守られます。

HR-pQCT(高解像度末梢骨定量CT)は、橈骨や脛骨などの末梢骨を三次元的に撮影し、皮質骨の厚さ・多孔性や、海綿骨の骨梁の数・太さ・間隔などを評価できます。DXAによる骨密度だけでは捉えにくい骨微細構造の変化を可視化でき、骨粗鬆症、2型糖尿病、慢性腎臓病(CKD)などにおける骨質評価の研究に利用されています。図は各疾患でみられうる代表的な変化を模式的に示したもので、個々の患者で必ず同じ所見を示すものではありません。
4. 測定できる指標 ─ 密度・構造・強度を数値化する
HR-pQCTが出力する数値は、大きく「密度」「海綿骨の微細構造」「皮質骨の微細構造」「推定される力学的強度」に分けられます。代表的な指標を、一般の方向けの意味とあわせて整理します。
🔬 HR-pQCTの代表的な指標
| 指標(略号) | 意味 | 一般的な解釈 |
|---|---|---|
| Tt.BMD | 骨全体の体積骨密度 | 低いほど骨量が少ない |
| Ct.BMD | 皮質骨(外壁)の密度 | 低いと皮質骨の減少・多孔化を反映しうる |
| Tb.BMD | 海綿骨(内部の網目)の密度 | 低いと海綿骨の量が減っている |
| Ct.Th | 皮質骨の厚さ | 低いと外壁が薄くなっている |
| Ct.Po | 皮質多孔性(皮質骨内の空隙の割合) | 高いほど一般に骨がもろくなる方向 |
| Tb.N / Tb.Th / Tb.Sp | 骨梁の数・太さ・間隔 | 数が減り、間隔が広がるほど網目が粗い |
| Failure load | コンピュータ解析で推定した破壊荷重 | 低いほど骨折リスクが高い |
※これらの指標には、DXAのT値のような「万人共通の正常/異常の境界線」はありません。年齢・性別・人種・体格・撮影部位・機種で値が変わるため、単一の正常値表を診断にそのまま使うことはできません[4]。
とくに注意したいのは、これらの指標が年齢とともに大きく変化することです。国際的な文献の整理では、手首の骨密度は若年成人から高齢期にかけて相当な割合で低下することが示されており、「若い人の平均との差」をそのまま病気とみなすのは適切ではありません[4]。値の解釈には、年齢・性別に応じた基準(パーセンタイル)を用いる必要があります。
5. 骨強度の推定(μFEA)─ コンピュータで「折れにくさ」を計算する
HR-pQCTのもう一つの重要な機能が、マイクロ有限要素解析(μFEA)です。これは、撮影した骨の立体画像を無数の小さな要素(有限要素)に分割し、コンピュータ上で仮想的に「上から押しつぶす」力を加えて、骨がどれくらいの荷重で壊れるか(推定破壊荷重・failure load)を計算する手法です。
ここで大切なのは、μFEAが出す値は「その人の骨が実際に折れる荷重を直接測ったもの」ではないという点です。あくまで、標準化された仮想の条件のもとで計算した構造的な強度の推定値です。それでも、この推定破壊荷重は将来の骨折との関連が強く、後で述べる大規模研究では、手首・足首いずれの推定破壊荷重も骨折リスクの最も強い予測因子の一つでした[6]。
6. 骨折リスクの予測 ─ 大規模研究が示したこと
HR-pQCTが将来の骨折をどれだけ予測できるかを示した代表的な大規模前向き研究が、BoMIC(骨微細構造国際コンソーシアム)です。北米・欧州の8つのコホートを統合し、7,254人を平均約4.6年追跡した前向き研究で、この間に765件(約11%)の新しい骨折が発生しました[6]。
BoMIC研究における代表的なハザード比(1SDあたり)。推定破壊荷重(μFEA)が最も強く骨折と関連した[6]。
解析では、皮質骨・海綿骨の密度や構造指標の多くが将来の骨折を予測しました。指標が1SD(標準偏差)悪化するごとのリスク上昇は、脛骨の皮質多孔性で約1.12倍、手首の海綿骨密度で約1.58倍などで、推定破壊荷重では手首2.13倍・足首2.40倍と最も強い関連を示しました[6]。重要なのは、これらの予測が股関節のDXAやFRAX(骨折リスク評価ツール)で調整した後でも成り立ったことです。しかも、骨折を起こした人の多くはDXAでは骨粗鬆症の基準に達していませんでした[6]。
💡 ただし個人レベルの判定には限界がある
HR-pQCTはDXAとは異なる骨微細構造の情報を持ちますが、すべての指標を個人の骨折リスク判定にそのまま使えるわけではありません。既存研究をまとめた系統的レビュー・メタ解析では、骨折群と非骨折群で多くのHR-pQCT指標に差が認められた一方、測定誤差を上回って個人レベルで安定して識別できたのは、総体積骨密度・海綿骨体積骨密度や一部の脛骨皮質骨指標などに限られ、推定破壊荷重を含む一部指標では再現性のさらなる改善が必要とされました[7]。研究間のばらつきもあり、現時点で万人共通の判定基準(カットオフ値)は確立していません。
7. 治療効果の観察 ─ 薬が骨のどこを変えるかを見る
HR-pQCTは「骨折を予測する検査」であると同時に、薬が皮質骨・海綿骨のどこをどう変えるかを分けて見られる、機序を調べるための道具としても有用です。骨粗鬆症の治療薬を比べたDATA-HRpQCT研究では、テリパラチド(骨をつくる薬)とデノスマブ(骨の吸収を抑える薬)、その併用が比較されました[8]。
この研究では、テリパラチド単独では皮質骨の密度がむしろ低下することがある一方で、併用群では骨全体の密度・皮質骨密度・皮質骨厚・推定強度などが最も大きく改善しました[8]。これは、骨をつくる薬が骨の内部を活発につくり変える過程で、「密度が下がる=強度が下がる」という単純な関係が必ずしも成り立たないことを示しています。
💡 個人の治療効果判定にはまだ課題がある
ただし注意点があります。薬による指標の変化は数%程度のことが多く、これは測定の誤差と同じくらいの大きさになり得ます。そのため、「この患者さんは治療に反応している」と個人レベルで判定するには、その施設・装置・指標ごとに意味のある変化量(最小有意変化・LSC)を確立する必要がありますが、これはまだ十分に整っていません[4]。現在のHR-pQCT治療研究は「薬の機序を集団で調べる研究」としては有用ですが、日常診療での個人判定にはまだ課題が残ります。
8. さまざまな病気での意義 ─ DXAで説明できない骨のもろさ
HR-pQCTが特に力を発揮するのが、DXAの骨密度だけでは説明しにくい骨のもろさを持つ病気です。代表的なものを見ていきましょう。
2型糖尿病 ─ 骨密度は正常でも折れやすい
2型糖尿病は、HR-pQCTによる骨微細構造研究の対象となっている病気です。2型糖尿病ではDXAで測る骨密度が正常〜やや高めでも、骨折リスクはむしろ上昇することが知られているためです[9]。フラミンガム研究のHR-pQCT解析では、この「密度は保たれているのに折れやすい」という矛盾の構造的な背景として、皮質骨の密度低下や皮質多孔性などの手がかりが示されました[9]。ただし研究結果は一貫せず、罹病期間・血糖コントロール・合併症の有無などによって、皮質骨の劣化がはっきりする場合とそうでない場合があります。
慢性腎臓病(CKD)─ 早い段階から骨の網目が乱れる
慢性腎臓病(CKD)では、比較的早い段階(ステージII〜IV)から、海綿骨の骨梁が減り、網目のばらつきが増えることが報告されています[10]。とくに皮質多孔性は、腎臓病に伴う骨の異常(CKD-MBD)の進行や治療反応をとらえる候補として注目されています。ただし、骨の代謝回転を確定診断する骨生検を、HR-pQCTが代替できるところまでの証拠はまだありません[10]。
原発性副甲状腺機能亢進症・関節リウマチ
原発性副甲状腺機能亢進症では、皮質骨の劣化に加えて海綿骨の骨梁も影響を受け、手術(副甲状腺摘出)後にこれらが回復する様子を追う用途に向いています。関節リウマチでは、HR-pQCTが手指関節の骨びらん(骨の欠け)を三次元で定量でき、標準化の国際研究が進められています。
9. 遺伝診療との接点 ─ 骨形成不全症などの遺伝性骨疾患
HR-pQCTは、遺伝性の骨疾患の評価という点でも価値があります。その代表が骨形成不全症(OI)です。骨形成不全症は、骨の土台となるI型コラーゲンの設計図であるCOL1A1・COL1A2などの遺伝子の変化によって、骨がもろくなる病気です。
こうした遺伝性の骨疾患では、DXAだけでは表現型(症状の現れ方)の違いをとらえにくいことがあります。HR-pQCTは、皮質骨や海綿骨の微細構造の違いを可視化することで、病型による骨の質の差をより詳しくとらえられる可能性があり、希少疾患の研究における評価指標として特に価値があると考えられています。
💡 用語解説:バリアント(遺伝子の変化)と表現型
「変異」や「バリアント」とは、遺伝子の設計図(DNAの並び)が多くの人と異なっている状態です。同じ骨形成不全症でも、原因となる遺伝子や変化の種類によって、骨のもろさの程度(表現型)はさまざまです。HR-pQCTのような詳しい骨の評価は、こうした表現型の違いを客観的な数値でとらえる助けになります。ただし、診断そのものは症状・家族歴・遺伝子検査を総合して行われるものであり、HR-pQCTはあくまで骨の状態を評価する一手段です。
当院では、遺伝子や染色体に関わる検査の前後で、臨床遺伝専門医が遺伝カウンセリングを行っています。骨形成不全症をはじめとする遺伝性の骨疾患について、検査で何が分かり何が分からないのか、見つかった遺伝子の変化がご本人やご家族にとってどういう意味を持つのか、どのような選択肢があるのかを、中立の立場で整理してお伝えします。なお、HR-pQCTは高度な研究・専門施設向けの検査であり、当院で実施している検査ではありません。ここでは「骨の質をどう評価するか」という理解の土台として位置づけています。
10. 限界と、よくある誤解
HR-pQCTの科学的価値は確立していますが、臨床の標準検査になるにはまだ課題があります。撮影中に手足を数分間じっと固定する必要があり、体動(モーション)による画像の乱れが起きやすいこと、皮質骨と海綿骨を分ける処理(セグメンテーション)が解析方法に依存すること、統一された正常値データベースや診断の閾値が不足していること、そして高額な専用装置で設置台数が少ないことなどです[3]。よくある誤解を整理します。
誤解①「HR-pQCTはDXAの上位互換」
HR-pQCTは骨の「質」を、DXAは骨の「量」を測る検査で、役割が違います。骨粗鬆症の診断基準はDXAを前提にしており、HR-pQCTには置き換えられる診断閾値がまだありません。DXAを補完する検査、と理解するのが正確です。
誤解②「HRだから顕微鏡なみに見える」
ボクセルサイズと実際の解像度は別物です。第1世代の実空間分解能は約130μmで、骨梁の太さに近いため、細い構造はぼやけて見えます。標本を直接測るミクロCTと同じではありません。
誤解③「推定強度=実際の骨折荷重」
μFEAが出す推定破壊荷重は、標準化された仮想条件での計算値であり、その人が実際に折れる荷重を直接測ったものではありません。骨折予測には役立ちますが、絶対的な数値ではありません。
誤解④「もう一般の検診に使える」
現時点のHR-pQCTは、主に研究・専門施設向けの技術です。一般人口の骨粗鬆症検診・診断をDXAから置き換える検査ではありません。想定される用途の一つが、DXAでは説明しにくい骨のもろさの精査です。
まとめ ─ 「量」だけでなく「質」を見る技術
HR-pQCTは、「骨がどれだけあるか」ではなく「骨がどのように配置され、その構造がどれだけ荷重に耐えるか」を、体を傷つけずに定量できる、現在確立している骨微細構造の評価法の一つです。DXAでは同じに見える骨の中に隠れた質の違いを見分け[1]、大規模研究では骨折の予測に独立した情報を加えることが示されました[6]。
一方で、統一された診断基準や個人レベルの判定基準はまだ整っておらず、2026年の時点でも主として高度な研究・専門施設向けの技術です[3]。想定される用途の一つは、DXA上は正常〜骨減少症でも、実際には骨の構造が大きく傷んでいる人の同定や、骨形成不全症・CKD・2型糖尿病など、DXAでは説明しにくい骨のもろさの精査だと考えられます。DXAの競合技術というより、DXAで失われる「骨の質」の情報を補う高度な評価法と捉えるのが、現時点の証拠に沿った理解です。
よくある質問(FAQ)
Q1. HR-pQCTとは何ですか?
HR-pQCT(高解像度末梢骨定量CT)とは、手首(橈骨)や足首(脛骨)の骨をごく低い被ばくで三次元撮影し、骨の密度だけでなく皮質骨・海綿骨の微細構造や、コンピュータで推定した骨の強さまで数値化できる、骨専用の高解像度CT検査です。ふつうの骨密度検査(DXA)では分からない「骨の質」を可視化できる点が特長です。
Q2. HR-pQCTとDXA(骨密度検査)は何が違うのですか?
DXAは面積あたりの骨密度(g/cm²)を二次元で測り、骨の「量」を評価します。HR-pQCTは体積あたりの骨密度(mg HA/cm³)を三次元で測り、皮質骨と海綿骨を分けて内部構造や推定強度まで評価できます。ただし骨粗鬆症の診断基準(T値)はDXAを前提にしており、HR-pQCTはDXAを置き換える検査ではなく、補う検査と理解するのが正確です。
Q3. HR-pQCTの被ばくは大きいですか?
いいえ。標準的な撮影の実効線量は概ね3〜5マイクロシーベルト程度で、通常のCT検査より桁違いに低い値です。この低さもあって、同じ人を繰り返し評価する研究に向いています。ただし、低いからといって無制限に繰り返してよいわけではなく、検査の正当化と被ばく低減の原則は守られます。
Q4. HR-pQCTで骨折のリスクは分かりますか?
ある程度の予測に役立ちます。7,254人を追跡した大規模研究(BoMIC)では、HR-pQCTの多くの指標が将来の骨折を予測し、とくにコンピュータ解析による推定破壊荷重が強く関連しました。股関節DXAやFRAXで調整した後も関連は維持されました。一方、系統的レビューでは、個人レベルで測定誤差を上回って安定して識別できる指標は一部に限られ、推定破壊荷重を含む一部指標では再現性の改善が必要とされています。
Q5. HR-pQCTは遺伝性の骨の病気に役立ちますか?
役立つ可能性があります。骨形成不全症(COL1A1・COL1A2などの変化によるI型コラーゲンの病気)のように、DXAだけでは表現型の違いをとらえにくい遺伝性骨疾患で、皮質骨・海綿骨の微細構造の違いを可視化でき、希少疾患の研究における評価指標として価値があります。診断自体は症状・家族歴・遺伝子検査を総合して行われ、HR-pQCTは骨の状態を評価する一手段です。遺伝性骨疾患について相談を希望する場合は、臨床遺伝専門医にご相談ください。
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参考文献
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