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羊膜索症候群(ようまくさくしょうこうぐん/ABS)は、お腹の中で羊膜(赤ちゃんを包む薄い膜)がちぎれ、その細い線維の「ひも(索)」が手足や指、まれに顔や体幹に巻きついて生じる、遺伝しない・偶然起こる先天異常です。指のくびれのような軽いものから、手足の欠損まで幅が広いのが特徴です。この記事では、原因・症状・重症度分類・出生前診断・胎児治療・出生後の再建手術、そして「次の子への再発リスク」までを、遺伝専門医の視点でわかりやすく解説します。
Q. 羊膜索症候群とはどんな病気ですか?遺伝しますか?まず結論だけ知りたいです
A. 羊膜索症候群は、お腹の中で羊膜がちぎれてできた線維性の「ひも」が赤ちゃんの手足などに巻きつき、その部分の発育や血流が妨げられて起こる先天異常です。原因遺伝子や染色体異常による「遺伝病」ではなく、偶然に起こる(散発性の)体の形づくりの障害と考えられています[1]。そのため次のお子さんに同じことが起こる再発リスクは、一般の妊娠と変わらないほど低いとされています。ただし、遺伝性の手足の病気と見分けることが大切で、そこに遺伝専門医が関わる意味があります。
- ➤原因の正体 → 羊膜が破れてできた線維の索が手足に巻きつく「破壊シークエンス」。遺伝ではなく偶然起こる
- ➤症状の幅 → 指の浅いくびれから、合指・自己切断、まれに顔面裂・体壁破裂まで連続的
- ➤診断の主役 → 超音波(エコー)とカラードップラー。血流と手足の動きで重症度を見極める
- ➤治療の選択肢 → 胎児鏡手術(お腹の中で索を切る)や、出生後の多段階の再建手術
- ➤遺伝の視点 → 再発リスクは低い。遺伝性の四肢奇形との「見分け」が遺伝カウンセリングの要
1. 羊膜索症候群とは?「症候群」だけど遺伝病ではない理由
羊膜索症候群(Amniotic Band Syndrome:ABS)は、妊娠中の子宮の中で、発育している赤ちゃんの体の一部が伸び縮みしない線維性の「羊膜索(ようまくさく)」に絡まることで起こる、先天性の形の異常です[1]。名前に「症候群」とついていますが、これは1つの原因遺伝子や染色体異常でまとめられる病気ではありません。「一度の破壊的なできごと」から連鎖的にさまざまな異常が生じるため、医学的には「シークエンス(連鎖)」や「複合体」と呼ぶ方が正確だと考えられています[1]。
💡 用語解説:シークエンス(連鎖)とは
「シークエンス」とは、たった1つの最初の異常(きっかけ)から、ドミノ倒しのように次々と別の異常が連鎖して生じる状態を指す医学用語です。たとえば羊膜が破れる→線維の索ができる→それが手足に巻きつく→血流が止まる→指が欠ける、という一連の流れが、まさにシークエンスです。原因が「体の設計図(遺伝子)の間違い」ではなく「あとから起きた物理的なできごと」である点が、いわゆる遺伝病との決定的な違いです。
この病気は非常に多彩な見た目をとるため、歴史的にさまざまな名前で呼ばれてきました。ADAMシークエンス(羊膜の変形・粘着・肢体切断)、先天性絞扼輪症候群(せんてんせいこうやくりんしょうこうぐん)、ストリーター異形成などが代表的な同義語です[1]。呼び名は違っても、指し示す本質は「羊膜由来の索による、非対称で場所を選ばない形の破壊」という共通点を持っています。
重要なのは、羊膜索症候群には特定の遺伝パターンがないという点です。両親の血縁(近親婚)や民族的なかたより、特定の遺伝子変異との明確な因果関係は証明されていません[1]。ごくまれに、詳しい染色体検査で偶発的な小さな欠失が見つかる報告もありますが、それが症状を直接引き起こしているとは考えられておらず、「たまたま見つかっただけの変化」とみなされています[1]。この「遺伝しない」という事実こそ、ご家族の不安をやわらげる出発点になります。
どのくらいの頻度で起こるのか
生きて生まれた赤ちゃんにおける羊膜索症候群の頻度は、報告によって1,200人に1人から15,000人に1人までと大きな幅があります[8]。これほど幅がある理由は2つあります。1つは、指のごく浅いくびれだけで手術も必要ないような軽症例が見逃されやすいこと。もう1つは、逆に非常に重い例が流産や死産になってしまい、正確な診断に至らないことです[1]。実際、自然流産や死産を詳しく調べると羊膜索症候群の割合はぐっと高くなり、妊娠初期の胎児喪失における「隠れた主要因」の1つとされています[1]。
2. なぜ起こる?原因をめぐる3つの学説
羊膜索症候群がどうして起こるのかについては、長い間いくつかの考え方が議論されてきました。現在は大きく「外因性説」「内因性説」「医原性の要因」の3つに分けて理解されています[1]。どれか1つだけが正しいというより、症例によって当てはまる説が異なると考えられています。
① 外因性説(羊膜が破れる説)
最も広く受け入れられているのが、1965年にTorpin(トーピン)が提唱した外因性説です[1]。妊娠の比較的早い時期(多くは20週より前)に、内側の膜である羊膜だけが破れ、外側の絨毛膜(じゅうもうまく)は無事なまま、という状況から始まると考えます。赤ちゃんは絨毛膜に包まれた空間にとどまりますが、破れた羊膜からはがれた細い線維の帯(羊膜索)が子宮の中に漂うようになります[1]。
赤ちゃんが活発に動くうちに、この伸びない線維が手足や指、頭などに絡みつきます。絡んだ部分は、赤ちゃんの急速な成長とともに相対的に締めつけが強まり、むくみ(リンパ浮腫)→静脈の流れの障害→動脈の流れの障害、という順で血流が悪化していきます[1]。これはちょうど、腕を強く縛ったときに先が青ざめていく「止血帯(ターニケット)」に似た現象で、最終的に指や手足の自己切断や、骨折を伴う変形にまで至ることがあります[1]。
締めつけで進む「虚血(血流障害)」の4ステップ
② 内因性説(もともとの発生異常説)
1930年代にStreeter(ストリーター)が代表的に唱えた内因性説は、原因を「羊膜の破れ」ではなく、胚(はい)の発生段階そのものの内的な欠陥や、局所的な血管の障害に求めます[1]。体の一部への血流が途絶えて組織が壊死・欠損し、その治りかけの過程で二次的に線維の反応が起こり、それが羊膜索に似た帯として観察される、という考え方です[1]。手術中に羊膜の破れがはっきり確認できない例や、血管の低形成を伴う四肢の異常を説明するうえで、この説は今も重視されています[1]。
③ 医原性の要因(擬似羊膜索症候群・PABS)
近年注目されているのが、双胎間輸血症候群(そうたいかんゆけつしょうこうぐん)に対する胎児鏡下レーザー治療のあとに起こる「擬似羊膜索症候群(Pseudoamniotic band sequence:PABS)」です。これは手術で羊膜に人工的な穴が開くことがきっかけとなり、その断片が赤ちゃんに巻きつくもので、レーザー治療後のPABS発生率はおよそ2%と報告されています[5]。
💡 用語解説:双胎間輸血症候群とレーザー治療
双胎間輸血症候群とは、1つの胎盤を共有する一卵性の双子で、2人の間の血液の流れがアンバランスになり、片方に血液が偏ってしまう状態です。治療としては、赤ちゃんを直接見る細いカメラ(胎児鏡)を子宮に入れ、胎盤の異常な血管をレーザーで焼いて流れを整えます。命を救う重要な治療ですが、その過程で羊膜に穴が開くと、まれに擬似羊膜索症候群(PABS)を引き起こすことがあります。
PABSの発生には、レーザー治療後に絨毛膜と羊膜が分かれてしまう絨毛膜羊膜分離(CAS)が強く関連し、報告されたPABS例の約90%でCASが認められています[5]。膜が分離すると、自由に動ける膜の断片が子宮内を漂い、赤ちゃんの手足を締めつけやすくなるためです[5]。また、より早い妊娠週数で治療を受けた場合や、双子間の推定体重差が大きい場合にもリスクが高まる傾向が指摘されています[5]。
3. 全身に及ぶ症状:手足・顔・体幹まで
羊膜索症候群の症状は非常にばらつきが大きく、影響を受ける部位は全身に及びます[1]。もっとも大きな特徴は、索がどこにどう巻きつくかという偶然で決まるため、左右非対称で、体の正常な発生の境界線を無視した「場所を選ばない」分布をとる点です[6]。この「非対称・非解剖学的」という特徴は、遺伝性の四肢奇形と見分けるうえでも重要な手がかりになります。
手足・指の異常(もっとも多い)
全症例の7割以上で手足の末梢が障害され、その現れ方は軽い皮膚の溝から壊滅的な欠損まで連続的です[1]。代表的なのが先端合指症(せんたんごうししょう)です。これは、いったん正常に分かれた指の先どうしが、索による圧迫と炎症で二次的にくっついてしまうもので、指の付け根側には「窓」と呼ばれる小さな孔が残ることが多いのが特徴です[6]。
💡 用語解説:先端合指症と、ふつうの合指症の違い
ふつうの(遺伝性の)合指症は、発生の途中で指どうしが「分かれきれなかった」ために付け根から一体化しているものです。一方、羊膜索症候群でみられる先端合指症は、一度きちんと分かれた指の「先だけ」が後からくっついたもので、付け根側に小さな孔(窓)が残ります。この「窓があるかどうか」が、両者を見分ける大切なポイントになります。
締めつけが強く血流が完全に途絶えると、お腹の中で指や手足が脱落する自己切断(じこせつだん)が起こります[1]。索は長い指(中指や薬指など)に巻きつきやすいため、長い指が選択的に失われやすいという特徴があります[8]。このほか、関節が進行的に固まる拘縮、内反足(ないはんそく)、骨の湾曲や偽関節(ぎかんせつ)といった整形外科的な変形も、索による物理的な係留や動きの制限によって引き起こされます[1]。
顔・頭の異常
索が顔や頭を横切るように圧迫すると、通常の発生のルールから外れた、斜めに走る非対称な顔面裂や口唇口蓋裂が生じます[1]。これは、正常な融合線に一致しない位置に裂が現れる点で、通常の口唇口蓋裂とは区別されます。脳瘤(のうりゅう)も、通常はきっちり正中線上にできるのに対し、羊膜索症候群による場合は正中から外れた位置に、局所的な骨の破壊を伴って形成されるのが特徴です[1]。ほかにも小眼球症や眼瞼欠損など、索の直接的な圧迫を裏付ける多彩な眼の異常を伴うことがあります[1]。
体壁・内臓の異常(重症例)
太い索が体幹を横切って強く締めつけると、体壁が閉じきれず、内臓が体の外に出てしまうことがあります[1]。心臓が体外に露出する心臓脱、腸や肝臓が露出する腹壁破裂(ふくへきはれつ)・臍帯ヘルニアなどがこれにあたり、いずれも命に関わる重篤な状態です[10]。これらの脱出は左右非対称で、しばしば露出した臓器が周囲の膜と癒着しているのが特徴です[1]。スペクトラムのもっとも重い端には、「体壁・肢体変形(LBWD)」や「ボディ・ストーク異常」と呼ばれる、致死的な病態が連続して存在します[1]。
4. 重症度分類と予後:血流と動きが決め手
治療の方針を決めるうえでは、形の変化だけでなく、締めつけた部分より先の血流と、手足の動きを組み合わせて評価することが欠かせません[1]。臨床では、形の変形に着目した古典的なPatterson(パターソン)分類と、血流に着目した現代的な重症度分類(Class 1〜5)が補い合って使われています[1]。
血流にもとづく現代的な重症度分類(Class 1〜5)
この分類は、超音波のカラードップラー(血流を色で見る検査)と直結しており、お腹の中での治療が必要かどうかを判断するための、事実上の標準的なものさしになっています[1]。
予後を占ううえでもっとも重要なのは、締めつけより先の血流と、赤ちゃんの自発的な動きです[6]。カラードップラーで血流が感じられ、手足が能動的に動いていれば、締めつけを解除することで組織が大きく回復する余地(可塑性)が残っていると判断されます[1]。逆に、これらが完全に消えている場合は、介入しても手足の救済は難しく、母体に手術のリスクだけを課すことになるため慎重に判断されます[1]。
5. 出生前診断と胎児治療
どうやって見つけるのか(画像診断)
お腹の中で羊膜索を直接映し出すのはしばしば難しいため、複数の画像検査を組み合わせて診断します[2]。超音波では、索そのものが「高エコーで非常に薄い線維状の構造」として映ることがありますが、多くの場合、索は直接には見えません[2]。そのため、手足の動きが制限されている、ある部分から先がむくんでいる、といった「結果」から間接的に本症を疑うことが実際には多くなります[2]。片側だけの異常であることは、遺伝性の異常や早期の血管障害の可能性を下げる手がかりにもなります[2]。
カラードップラーは、疑わしい索の中に血流があるか(羊膜索自体には血管がないため信号は出ません)を確認すると同時に、手足の先の血流を評価するために使われます[1]。さらに、骨・関節・筋肉や内臓の位置関係を高いコントラストで描き出す胎児MRIは、超音波で見えにくい部分や、重い体壁欠損における内臓の位置、脳瘤の正確な評価に力を発揮します[1]。
胎児治療(お腹の中での手術)
羊膜索症候群に対する根本的な胎児治療の中心が、胎児鏡下羊膜索切除術(たいじきょうかようまくさくせつじょじゅつ)です[4]。母体の麻酔下で、細いカメラ(胎児鏡)を子宮に入れ、直接見ながらレーザーや繊細なはさみで、手足や臍帯を締めつけている索を切り離します[1]。子宮を大きく切る必要がないため母体の子宮へのダメージが少なく、次の妊娠で経腟分娩を選びやすいという利点があります[4]。
💡 用語解説:臍帯(へその緒)の締めつけ
索が手足ではなく臍帯(へその緒)に巻きついた場合は、赤ちゃんへの血液と酸素の供給そのものが断たれるため、放置すればきわめて危険です。手足の救済が「機能を守る」ためのものであるのに対し、臍帯の締めつけへの介入は「命を守る」ための治療という位置づけになり、胎児手術の強い適応と考えられています。
胎児鏡手術のベネフィットとリスク(システマティックレビューより)
37例を含む17研究のシステマティックレビューによる。数値は胎児鏡下羊膜索切除術を受けた症例の集計値。
37例を含むシステマティックレビューによると、胎児鏡手術での胎児生存率は89.2%、患肢の機能温存は75.7%に達しました[3]。進行する血流障害を早く解除できれば、赤ちゃんの高い組織の再生力によって、すでに現れていたむくみや神経障害が回復し、健やかな発達を続けられる可能性があります[3]。一方で最大のリスクは、術後の前期破水(PPROM)で、このレビューでは51.3%に発生し、それに伴う早産が問題となります[3]。手術は中央値で22週ごろに行われるため、早産による合併症とのバランスを慎重に見極める必要があります[3]。
初期の単施設の経験では、胎児鏡手術で手足の機能が保たれたのは約50%と報告されており[4]、術中の羊膜内出血などの合併症も一定の頻度で生じます[4]。そのため、「手足の救済だけ」が目的の場合には胎児鏡手術のリスクを重く見て適応外とし、臍帯の締めつけなど致死的な兆候が現れた場合に限って手術を行うべき、という慎重な立場もあり、いまも議論が続いています[6]。どの方針を選ぶかは、重症度・週数・ご家族の価値観を含めた総合的な判断になります。
6. 出生後の再建手術と、驚くべき回復力
生まれた後の治療は、一人ひとりの欠損のパターンに合わせた多段階かつ多職種による再建外科として進められます[6]。ここでは、代表的なくびれ(絞扼輪)の治療と、手の機能を作り直す再建を紹介します。
くびれ(絞扼輪)の手術:2つのやり方
残ったくびれや、血流・むくみを引き起こしている絞扼輪の治療には、伝統的な多段階のZ形成術・W形成術と、現代的な一期的な環状切開術の2つがあり、それぞれに利点があります[7]。
🔵 多段階 Z/W形成術
くびれの半周ずつを、数か月あけて2回以上に分けて解除します。皮膚への血流を保ちやすく、壊死のリスクを最小化できる、伝統的に確立された方法です。
課題:複数回の全身麻酔・入院が必要で、治療が長期化しやすい
🟢 一期的 環状切開術
健康な皮膚のレベルで全周を1回で切開し、絞扼バンドをまとめて除去して縫合します。1回で完結するため、お子さんとご家族の負担が大きく軽減されます。
課題:血管・神経の走行を熟知した高度な技術が必要
27例を対象とした一期的環状切開術の報告では、すべての手足・指趾が救済され、むくみも著明に軽減し、患者さんの見た目の満足度(VASスコア)も平均7.55/10と高い結果でした[7]。手術回数が1回で済むこと、切開線が自然な皮膚のしわに沿うことが、負担軽減と整容面の満足につながっています[7]。どちらの方法を選ぶかは、くびれの深さや部位、神経血管の同定のしやすさによって決まります。
手の再建:つまむ・にぎるを取り戻す
多くの指を失った手や先端合指症の手は、「つまむ(ピンチ)」「にぎる(グリップ)」を目指して計画的に作り直されます。合指の早期分離や絞扼輪の解除は、骨のずれや関節の変形が固定してしまう前の生後早い時期に行うことが多く、生じた皮膚の欠損は全層植皮で覆います[6]。
指の多くが失われている場合には、マイクロサージャリー(顕微鏡下手術)による第2足趾(足の人さし指にあたる趾)の手への移植が行われます[8]。両足からそれぞれの第2足趾を移し、骨・関節・腱・神経・直径1mm以下の微細な血管を顕微鏡下でつなぎ合わせます。2歳未満の重症の手の変形8例を対象とした報告では、移植した組織の脱落(フラップロス)はなく、感覚があり、実用的なつまみ機能をもつ手が再建できたと報告されています[8]。足趾を採取しても、足の運動能力や歩行への長期的な影響は最小限にとどまるとされています[8]。
診断が遅れても回復した例:組織の可塑性
羊膜索症候群で深いくびれが長く続いていた場合でも、神経や血管が示す回復力(可塑性)は驚くべきものです[9]。ある9歳の男児は、右下腿の深い残存絞扼輪により、先の痛覚・温覚が失われ、血管造影で前脛骨動脈が途絶していました[9]。反対側の太ももから採取した皮弁(ALT皮弁)で絞扼組織をまとめて除去し覆ったところ、感覚神経を縫い合わせていないにもかかわらず、術後2年で足の感覚が大きく回復し、閉塞していた後脛骨動脈が元の絞扼部を通って再び足を養う主幹動脈へと再構築されたことが確認されました[9]。
この事実は、幼児期に早期の解除ができなかった遅れて診断された例であっても、機械的な「締めつけ」を取り除き、血流の豊富な健康な組織で覆い直すことで、神経と血管が自ら新しい経路を探し出す力をもっていることを示しています[9]。ただし、神経の障害が長く続いた例では回復が乏しい報告もあり、回復の度合いは症例により幅がある点には注意が必要です。
7. 遺伝カウンセリングと再発リスク:遺伝性の四肢奇形との見分け
羊膜索症候群は、遺伝診療の場面ではしばしば「見分け」が最大のテーマになります。というのも、この病気は遺伝しない・偶然起こるため、次のお子さんや血縁者での再発リスクは一般集団と変わらないほど低い一方で[1]、見た目が似ている遺伝性の四肢の病気と取り違えると、ご家族への説明がまったく逆になってしまうからです。
なぜ「見分け」が大切なのか
たとえば、指や手足が欠けている・くっついているという所見は、羊膜索症候群でも、遺伝性の裂手裂足症のような病気でも起こりえます。しかし前者なら次子の再発リスクはごく低いのに対し、遺伝性の病気であれば遺伝形式に応じた再発リスクが生じます。「非対称・場所を選ばない・くびれや窓を伴う」といった羊膜索症候群らしい特徴を丁寧に確認し、遺伝性の四肢奇形と区別することが、正確な再発リスクの説明の前提になります。
🧩 羊膜索症候群らしい特徴
- 左右非対称
- 発生の境界線を無視した分布
- くびれ(絞扼輪)を伴う
- 先端合指で「窓」が残る
出生前と出生後で分けて考える検査
検査は「出生前」と「出生後」で目的が異なります。出生前は、まず超音波胎児スクリーニングや胎児ドックで手足や体の形を評価します。ほかの染色体異常が合併していないかを確認したい場合には、羊水検査・絨毛検査が選択肢になります。一方、出生後にまれな遺伝子領域の変化がないかを詳しく調べる場合には、血液を用いた染色体マイクロアレイ(CMA)などが用いられます[1]。羊膜索症候群そのものは遺伝子検査で診断する病気ではありませんが、「遺伝性の病気ではないことを確認する」という目的で検査が役立つことがあります。
💡 用語解説:染色体マイクロアレイ(CMA)
染色体マイクロアレイ(CMA)は、染色体の中の微細な過不足(小さな欠失・重複)を、通常の染色体検査よりずっと細かく調べられる検査です。羊膜索症候群では原因遺伝子はありませんが、症状が本当に索によるものか、それとも別の遺伝的な背景がないかを確認する目的で用いられることがあります。
遺伝カウンセリングで扱うこと
羊膜索症候群と診断された、あるいは疑われたご家族には、遺伝カウンセリングが支えになります。当院では臨床遺伝専門医が、次のような点を一緒に整理します。
- ➤再発リスク:散発性であり、次のお子さんでの再発リスクは一般の妊娠と変わらないほど低いこと[1]
- ➤鑑別の説明:遺伝性の四肢奇形との見分けと、必要に応じた検査の意味
- ➤気持ちのサポート:流産・死産を経験されたご家族の心理的な支え
- ➤次の妊娠への備え:出生前の超音波での経過観察の考え方
8. よくある誤解
誤解①「遺伝する病気だから次の子も心配」
羊膜索症候群は遺伝子や染色体異常による遺伝病ではなく、偶然に起こる先天異常です[1]。次のお子さんでの再発リスクは、一般の妊娠と変わらないほど低いとされています。
誤解②「妊娠中の行動が原因だった」
この病気は特定の生活習慣や行動で「起こす」ものではありません。羊膜が破れるきっかけは多くの場合はっきりせず、防ぎようのない偶然のできごとと考えられています[1]。自分を責める必要はありません。
誤解③「見つかったら必ず胎児手術が必要」
胎児手術が検討されるのは主に血流障害が進んでいる例や臍帯の締めつけがある例です[6]。軽症例は経過観察のうえ、出生後の手術で対応することが多く、重症度に応じて方針が決まります。
誤解④「診断が遅れたらもう手遅れ」
幼児期に治療できなかった例でも、締めつけを解除し健康な組織で覆い直すことで、神経や血流が回復した報告があります[9]。回復の度合いには幅がありますが、遅い時期でも改善の余地はあります。
よくある質問(FAQ)
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