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📍 クイックナビゲーション
生まれたばかりの赤ちゃんの皮膚に、こりこりとした硬いしこりが一つ、あるいはいくつも見つかる——乳児筋線維腫症(IM)は、そんな形で気づかれることの多い、乳児期にもっとも多い良性の線維性腫瘍です。多くはやがて自然に小さくなって消えていく穏やかな病気ですが、ごく一部に、内臓を巻き込んで命に関わる重いタイプが存在します。この「良性なのに、時に致死的」という二つの顔が、IMという病気を理解するうえでいちばん大切なポイントです。
この記事では、IMがどんな病気で、なぜPDGFRBの恒常的活性化や、一部の家族性IMで報告されたNOTCH3変異によるシグナル異常が病態に関わるのか、そしてイマチニブなどの分子標的薬が重症例の治療選択肢になっていること、さらに長期的な見守り(サーベイランス)の考え方までを解説します。
- ➤ IMがどんな病気で、なぜ「良性なのに時に命に関わる」のか
- ➤ 孤立性・多発性・播種性という3つの病型と、それぞれの見通し
- ➤ 原因遺伝子PDGFRB・NOTCH3が引き起こす「スイッチ入りっぱなし」のしくみ
- ➤ 経過観察・手術・化学療法・分子標的薬という治療の選び分け
- ➤ イマチニブによるパラダイムシフトと、生涯にわたる見守りの考え方
🧬Q. 乳児筋線維腫症(IM)とはどんな病気ですか?
皮膚・筋肉・骨、まれに内臓に、硬いしこり(結節)ができる、乳児期にもっとも多い良性の線維性腫瘍です。多くは生後1〜2年で自然に消える穏やかな病気ですが、内臓を巻き込むタイプはまれに命に関わります。
🩺Q. なぜしこりができるのですか?
多くの症例では、PDGFRBという「細胞を増やす受信アンテナ」の遺伝子に活性化型の変化が生じ、シグナルが入り続けることが病態に関わります。一部の家族性IMではNOTCH3のp.L1519P変異が報告され、実験的にはNOTCHシグナルの亢進とPDGFRB発現増加が示されています。
🌸Q. 治療法はありますか?
多くは経過観察(見守り)で十分です。命に関わる重症例には、暴走したPDGFRBを狙い撃ちするイマチニブなどの分子標的薬が治療選択肢になることがあります。
乳児筋線維腫症(IM)とは——赤ちゃんに最も多い、線維のしこり
「良性なのに、時に命に関わる」という二つの顔
乳児筋線維腫症(Infantile Myofibromatosis、以下IM)は、皮膚・皮下組織・筋肉・骨、そしてまれに内臓に、線維でできた硬いしこり(結節)ができる病気です。良性の腫瘍のなかでも、乳児期にもっとも多く見られる線維性腫瘍として知られています[1]。とても珍しい病気で、報告されている発生頻度はおよそ出生15万人に1人程度と報告されていますが、軽症例が見逃される可能性もあり、真の頻度はこれより高い可能性があります[2][3]。
患者さんの大多数は、生まれたときか、生後まもない乳児期の早い時期に見つかります。IMのもっとも大切な特徴は、同じ「良性」という名前でありながら、経過がまったく異なる二つの顔を持つことです。ほとんどの場合、しこりは特別な治療をしなくても自然に小さくなって消えていきます。ところが、ごく一部に、肺や心臓・腸などの内臓を巻き込み、命に関わる重い経過をたどるタイプが存在します[1]。この幅の広さが、診断と治療方針を考えるうえでの出発点になります。
かつてIMは「筋線維芽細胞(筋肉と線維の中間の細胞)」から生まれる腫瘍と考えられ、その名がつきました。しかし近年、世界保健機関(WHO)の分類では「周皮細胞性(pericytic / perivascular)腫瘍」のグループに位置づけられています[3]。周皮細胞とは、毛細血管などの外側に沿って存在し、血管を支える細胞です。周皮細胞はIMの細胞起源の候補とされており、PDGFRBシグナルが周皮細胞の維持に重要であることとも整合します。
3つの病型——見通しを大きく左右する分かれ道
IMは、しこりの数と、内臓を巻き込んでいるかどうかによって、大きく3つのタイプに分けられます[1]。このタイプ分けが、見通し(予後)と治療方針を決める最大の分かれ道になります。
図1:IMの3つの病型と見通し
① 孤立性(SFIM)
- しこりが1個だけ
- 頭頸部・体幹・四肢の皮膚や筋肉
- 内臓浸潤なし・見通しは極めて良好
- 多くは生後18〜24か月で自然消退
② 多発性(MFIM)
- しこりが多数(骨にも)
- 頭蓋骨・肋骨・長い骨などに骨病変
- 内臓浸潤がなければ見通しは良好
- 自然に退縮する傾向
③ 播種性(DFIM)
- 皮膚・骨に加えて内臓を巻き込む
- 肺・心臓・腸・肝臓・腎臓など
- 最も重篤で命に関わりうる
- 積極的な治療が必要
※病型ごとの頻度・自然消退のしやすさには文献間で幅があります。ここでは代表的な整理を示しています。
① 孤立性(SFIM)——いちばん多く、いちばん穏やか
しこりが1個だけできるタイプで、IMのなかでもっとも多く見られます。頭頸部・体幹・四肢の皮膚や皮下、筋肉のなかに、痛みのない硬いしこりとして現れます。見た目は紫紅色から肌色までさまざまで、表面に毛細血管が透けたり、まれに潰瘍をつくったりすることもありますが、遠くの臓器に転移することはなく、成長もゆっくりです。見通しは極めて良好で、多くは診断後18〜24か月ほどで自然に退縮します[1]。
② 多発性(MFIM)——数は多いが、内臓がなければ良好
皮膚・皮下・筋肉、さらに骨にまで、数個から数十個以上のしこりができるタイプです。骨の病変はレントゲンで境界のはっきりした「骨が溶けたように見える像」として写り、時間とともに周囲が硬くなっていくことがあります。数は多くても、内臓を巻き込んでいなければ、孤立性と同じように自然に退縮する傾向があり、長期的な見通しは良好です[3]。
③ 播種性(DFIM)——最も重く、積極的な治療が必要
皮膚や骨の病変に加えて、肺・心臓・腸・肝臓・腎臓、まれに中枢神経といった内臓にしこりができるタイプで、もっとも重く、命に関わりうる形です。腸の病変が難治性の腸閉塞や穿孔を起こしたり、心臓や肺の病変が呼吸不全や心不全につながったりします[1]。過去の(分子標的薬が登場する前の)古い時代の報告では、多臓器を巻き込むこのタイプの死亡率が非常に高いとされてきました[1]。ただし、後述する分子標的薬の登場により、この見通しは大きく変わりつつあります。
IMという診断名がついたとき、いちばん重要なのは「内臓を巻き込んでいるかどうか」です。内臓病変がなければ、多くは見守るだけで自然に治っていく穏やかな病気。内臓を巻き込む播種性のタイプだけが、集中的な治療を要する重症例です。
原因遺伝子のしくみ——PDGFRBの「スイッチ入りっぱなし」
長らく原因が謎だったIMですが、次世代シーケンサー(NGS)による解析が進んだことで、2013年に主要な原因遺伝子が明らかになりました。それがPDGFRB遺伝子と、一部の家系で見つかるNOTCH3遺伝子です[4][5]。この発見は、病気のしくみの理解だけでなく、後で述べる分子標的治療という新しい道を切り開きました。
PDGFRBは「細胞を増やす受信アンテナ」
PDGFRBは、5番染色体にある遺伝子で、間葉系の細胞(線維芽細胞、周皮細胞、血管平滑筋細胞など)の増殖や移動を指令する受容体チロシンキナーゼ(RTK)という「受信アンテナ」のタンパク質をつくります[3]。ふだんは、外からの成長シグナル(リガンド)を受け取ったときだけスイッチが入り、細胞に「増えなさい」と伝えます。
遺伝子の設計図がたった1文字書き換わり、できるタンパク質のアミノ酸が1個入れ替わる変化をミスセンス変異といいます。IMで起こるのは、その中でも「機能獲得型(gain-of-function)」とよばれるタイプ。受信アンテナを「オフ」に保つための自己ブレーキの構造が壊れ、外からのシグナルがなくても、スイッチが入りっぱなし(恒常的活性化)になってしまいます[4]。代表的な変化には、膜の近くで起こる p.R561C(c.1681C>T) や、キナーゼ部分の p.N666K・p.P660T などがあります[3]。
スイッチが入りっぱなしになると、その先の増殖シグナルが延々と流れ続け、筋線維芽細胞が異常に増えて、しこりをつくります[4]。ちょうど、押しても戻らなくなったインターホンのボタンのように、静かなはずの細胞に「増えろ」という信号が鳴りっぱなしになる、とイメージするとわかりやすいでしょう。
家族性と孤発性——遺伝のしかたと「2回目のヒット」
家族のなかで代々みられる家族性IMは、片方の親から変異を1つ受け継ぐだけで発症しうる常染色体顕性(優性)遺伝の形をとります[5]。ただし、生まれつき持っている(生殖細胞系列の)変異は、膜の近くに多く、それだけではスイッチを入れる力が比較的弱いことが知られています。そのため、多発性の病変ができるには、同じ遺伝子のなかにもう1つ別の変化(2回目のヒット)が後から加わることが必要と考えられています[3][6]。実際、家族性のケースで、腫瘍のなかに2つ目のPDGFRB変異が見つかった例が報告されています[6]。
一方、家族歴のない孤発性のIMでは、体の一部の細胞だけに強い活性化能を持つ変異が発生していること(体細胞モザイク)が原因になります[3]。こうした変異の分布のちがいが、しこりが1個なのか多発するのかにも関わってきます。
もう一つの原因、NOTCH3——遠回りして同じ暴走へ
PDGFRBに病的変異が見つからない家族性IMの一家系では、NOTCH3遺伝子のp.L1519P変異が報告されています[7]。興味深いことに、この変異NOTCH3タンパク質は細胞の表面にうまく運ばれず、細胞内(小胞体)にたまってしまいます。それでもリガンドなしにNOTCHシグナルを過剰に働かせ、その結果として下流にあるPDGFRBの量を大きく増やしてしまうのです[7]。この結果は、少なくともこのNOTCH3変異について、NOTCHシグナルの異常がPDGFRB発現増加へつながる可能性を示しています。ただし、NOTCH3変異はPDGFRB変異ほど広く確立したIMの原因ではなく、報告数も限られています[7]。
診断と鑑別——良性であることを見きわめる
IMは、見た目が乳児血管腫や、悪性の乳児線維肉腫などと似ることがあり、出血や潰瘍を伴うと悪性腫瘍と間違われやすい病気です[1]。だからこそ、確定診断には顕微鏡での組織検査(病理)と免疫染色が欠かせません。ここを丁寧に行うことが、「良性であること」を確かめ、過剰な治療を避けるための土台になります。
顕微鏡で見える「二相性」の姿
IMは、顕微鏡で見ると特徴的な「二相性」の姿を見せます[1]。腫瘍の外側は、コラーゲンに富んで紡錘形の細胞が束になって並ぶ落ち着いた領域。一方、中心部は細胞がぎっしり詰まった未熟な領域で、鹿の角のように分岐する薄い血管網(血管周皮腫様パターン)を伴います[3]。良性のIMでは、核の形の乱れはあってもごく局所的で、悪性を思わせる異常な細胞分裂像は通常みられません[1]。
「2つの陰性」が診断の決め手
似たしこりをつくる他の腫瘍と見分けるうえで、免疫染色はとても強力です。IMでは、筋線維芽細胞や周皮細胞であることを示すSMA(平滑筋アクチン)が陽性になり、デスミンやS100は陰性で神経系や横紋筋の腫瘍が除外されます[1]。とりわけ重要なのが、次の「2つの陰性」です。
① 核内STAT6が陰性 → 孤立性線維性腫瘍(SFT)を除外
SFTはNAB2-STAT6という融合遺伝子を持ち、核の中のSTAT6が強く染まります。IMでは陰性のため、両者を見分けられます[8]。
② 核内β-cateninが陰性 → デスモイド型線維腫症を除外
デスモイド型線維腫症はWnt経路の異常(CTNNB1変異など)で核の中にβ-cateninがたまります。IMでは核内にはたまらないため、決定的な手がかりになります[9]。
加えて、悪性の乳児線維肉腫はETV6-NTRK3という遺伝子の変化を持つため、遺伝子検査で除外できます[1]。この鑑別は治療にも直結し、乳児線維肉腫であればNTRK阻害薬が有効なため、正確な見分けが重要です。核内STAT6と核内β-cateninがともに陰性であることは、SFTやデスモイド型線維腫症との鑑別を補助する有用な免疫所見です。ただし、IMの診断は形態所見、免疫染色、必要に応じた分子検査を総合して行います[8]。
生まれる前の診断——超音波・胎児MRIと遺伝子検査
IMの病変は胎児のうちから形成されるため、妊娠中期以降の胎児超音波で、皮膚・筋肉・内臓に境界のはっきりした多発性のしこりとして見つかることがあります。胎児MRIは、中枢神経・気道・消化管など深部への広がりを立体的に評価するのに役立ちます[10]。ただし胎児の向きやしこりの小ささによっては描出が難しく、画像だけで確定に至らないこともあります。
そこで家族性IMで原因となるPDGFRB生殖細胞系列バリアントが既知の場合や、胎児画像から重症IMが強く疑われる場合には、羊水などから得た胎児DNAを解析し、PDGFRBバリアントを出生前に確認することが検討される場合があります。実際に、妊娠中に全身のしこりが見つかった胎児で、羊水からの遺伝子解析により父親由来の c.1681C>T(p.R561C) が同定され、重症の播種性IMと診断された例が報告されています[10]。この遺伝学的な確定診断は、重症例の予後予測や、ご家族への遺伝カウンセリング・分娩管理の計画において、大きな意味を持ちます[10]。遺伝カウンセリングについて詳しくは別ページで解説しています。
治療の選び方——「見守る」から「狙い撃つ」まで
IMには、すべての患者さんに当てはまる一律の標準治療はありません。しこりの数・大きさ・場所、内臓を巻き込んでいるか、そして遺伝子変異のタイプに応じて、病変の広がりと症状に応じて個別に治療方針を決める必要があります[1]。ここでは治療の選択肢を、穏やかなものから順に見ていきます。
① 経過観察(見守り)——多くはこれで十分
内臓を巻き込まず、気道や中枢神経など生命に直結する器官を圧迫していない孤立性・多発性の病変には、経過観察が第一選択として広く推奨されます[1]。実際、欧州のCWSという大規模な登録研究でも、生検や切除のあとは「見守り(watch-and-wait)」が治療の中心でした[11]。これらの病変は生後18〜24か月以内に自然に消えることが多く、不要な治療による後遺症を避けられます。ただし、急な増大や新しい内臓病変の出現を見逃さないよう、超音波や全身MRIによる定期的な確認は欠かせません[1]。
② 手術——命に関わる場所や機能障害があるとき
気道・頭蓋内・脊髄・眼のまわりなど、命や機能に直結する場所にできた腫瘍、強い痛みや機能障害を起こす腫瘍、経過観察中に増大を続ける病変には、外科的切除が検討されます[1]。良性であるため、重要な臓器を守るために完全にとりきらない(部分切除・減量手術)選択でも、長期的な見通しが良いことが多いのですが、局所での再発には注意が必要です。
③ 全身化学療法——切除できない進行例に
内臓を巻き込み、手術ができない進行性の播種性IMに対しては、歴史的に全身化学療法が標準治療とされてきました[11]。低用量のビンブラスチンとメトトレキサートの併用などが用いられます。ただし、これらの薬は骨髄抑制や肝・腎への負担など強い副作用を伴い、発育途上の乳児には大きな負担です。特に新生児・乳児ではビンブラスチンの体内での動きが個人差・変動が大きいため、血中濃度を測りながら投与量を調整するやり方の重要性が指摘されています[12]。
分子標的治療——暴走したPDGFRBを狙い撃つ
IMの正体が「PDGFRBの過剰活性化」だとわかったことで、その暴走したスイッチを直接止めるチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)による治療が、難治性・致死的な播種性IMに対する大きなパラダイムシフトをもたらしています[6]。イマチニブなどのTKIは、活性化したPDGFRBのキナーゼ部分に直接くっついて、増殖シグナルを遮断します[7]。
変異のタイプで、効く薬が変わる
ここで重要なのが、PDGFRB変異のできる場所によって、薬の効き方が変わるという点です。多くのPDGFRB活性化変異はin vitroでイマチニブ感受性を示し、p.R561Cやp.N666Kなども感受性が報告されています[3]。細胞を使った研究でも、p.R561Cを持つ腫瘍細胞ではPDGFRBのリン酸化が非常に高く、スニチニブなどのキナーゼ阻害薬でそれが抑えられることが確認されています[13]。
■ イマチニブ感受性が報告されているタイプ:p.R561C、p.N666K など[3]。p.R561Cを有する症例や細胞モデルでは、スニチニブなど他のTKIの有効性を示す報告もあります[6]。
■ イマチニブ抵抗性が報告されているタイプ:キナーゼ領域のp.D850Vはイマチニブ抵抗性を示します。ただし、こうした変異でもダサチニブなどの次世代TKIには感受性を保つことが研究で示されています[14]。実際、あるスプライス部位の変異例では、腫瘍に生じた二次的なAsp850変異によりイマチニブが無効となり、ダサチニブへの切り替えで改善がみられました[14]。
このため、全身治療を検討するIMでは、可能であれば腫瘍組織のPDGFRB変異をNGSで調べ、TKI感受性に関する既知の情報も踏まえて治療を検討することが推奨されます[3]。「良性の腫瘍だからこそ、遺伝子を調べて薬を選ぶ」——これが現代のIM治療の考え方です。
血中濃度を測りながら——乳児ならではの難しさ
乳児、とくに腸にIM病変があり腸閉塞のため飲食できないお子さんでは、飲み薬であるイマチニブの吸収が大きく妨げられます。乳児では薬物動態の個人差が大きく、消化管病変などで吸収が不安定になることもあるため、重症例では血中濃度を測定して投与量調整に活用する薬物治療モニタリング(TDM)が有用な場合があります[15]。実際の難治例では、胃酸を抑える薬などを併用して吸収を助けつつ、イマチニブを増量して目標濃度に到達させ、腫瘍の著明な縮小と腸閉塞の解除に成功した事例が報告されています。腫瘍が縮小して吸収が回復した後は、逆に過剰投与を防ぐために減量する、という緻密な管理が求められます[15]。
長期フォロー——治ったあとも続く「見守り」
IM全体の見通しは、内臓浸潤の有無に大きく左右されます。欧州のCWSレジストリによる長期分析では、95人のIM患者を評価した結果、限局性(LD)の患者の5年無イベント生存率は79%、全生存率は98%と、極めて良好でした[11]。一方で、ごく一部の重症例や特定の遺伝子背景を持つ患者さんでは、長い経過のなかで注意すべき合併症や再発のリスクがあります。
大人になってからの再発と、血管の異常
IMは乳児期に自然退縮することが多い一方、局所再発や新たな病変が報告されることがあります。多発性IMは一般に多中心性病変と考えられており、真の転移が起こるかどうかは確立していません[3]。再発や非典型的な増大が疑われる病変では、必要に応じて再生検を行い、組織学的・分子学的に評価し直すことが重要です[11]。また、PDGFRBは血管の平滑筋細胞や周皮細胞の維持にも欠かせないため、その機能異常により、長期経過後に脳動脈瘤などの血管の異常が判明する例も報告されています[3]。
SIOPEによる、生涯にわたる見守りの目安
こうした晩期の合併症を防ぐため、PDGFRB生殖細胞系列バリアント保有者、またはIM患者の第一度近親者について、SIOPE Host Genome Working Groupは小児期を中心としたサーベイランスと、思春期の脳MRIを提案しています[3]。下の表はその考え方を整理したものです。
| 対象年齢 | 主な見守り・検査 | 目的 |
|---|---|---|
| 診断時(ベースライン) | 全身の診察、腹部超音波、心臓超音波 | 内臓・心臓病変の初期チェックとPDGFRB変異の特定 |
| 0〜24か月 | 3か月ごとの診察、成長・体重増加、血圧評価、腹部超音波 | 症状が出やすい時期の新規病変・再発の早期発見 |
| 2〜12歳 | 1〜2年ごとの診察、成長・体重増加、血圧評価、腹部超音波 | ゆるやかな変化や遅発性の腹部病変のスクリーニング |
| 15〜18歳 | 頭部MRIを1回検討 | PDGFRB変異に起因する脳動脈瘤など血管異常の検出 |
| 症状が出たとき | 新たな結節・心雑音・成長障害があれば全身MRI・心臓超音波など | 異常に即座に対応し、致死的な臓器不全を防ぐ |
※上記はSIOPE Host Genome Working Groupが、PDGFRB生殖細胞系列バリアント保有者またはIM患者の第一度近親者に提案したサーベイランスの目安です。すべての孤立性IM患者に一律に適用するものではなく、実際の間隔や項目は病型・遺伝学的背景・症状に応じて主治医が個別に判断します[3]。
よくある質問(FAQ)
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参考文献
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- [3] Genetic testing and surveillance in infantile myofibromatosis: a report from the SIOPE Host Genome Working Group. Fam Cancer. 2021. [PubMed 32888134]
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