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「ビタミンK」と聞くと、多くの方が血を固めるビタミンを思い浮かべると思います。それは重要な働きですが、それだけではありません。この数十年の研究で、ビタミンKは血液凝固だけでなく、骨代謝や血管石灰化の調節に関わり、糖代謝や男性ホルモン合成との関連も研究されている栄養素であることがわかってきました。
この記事では、ビタミンKが体の中でどう働くのか、緑黄色野菜に多いK1と納豆に多いK2(MK-7)はどう違うのか、赤ちゃんに注射する理由、そして遺伝子の異常が関わる病気とのつながりまでを、一般の方にもわかる言葉で、遺伝専門医の立場から順を追ってお話しします。
- ➤ ビタミンKが「血を固める」以外に担っている多彩な役割
- ➤ K1(緑黄色野菜)とK2(納豆・MK-7)の違いと、体内での使われ方
- ➤ 赤ちゃんにビタミンKを与える理由と、新生児の出血症(VKDB)
- ➤ 骨・血管・代謝・男性ホルモンとの関連まで広がるビタミンK研究の現在
- ➤ ワルファリン・遺伝子多型・遺伝性疾患とのつながり
🧬Q. ビタミンKとはどんなビタミンですか?
脂に溶ける脂溶性ビタミンの一つで、特定のタンパク質を「働けるかたち」に仕上げる補酵素です。もともとは血液を固める因子づくりに必要とされてきましたが、骨・血管・代謝を支える十数種類のビタミンK依存性タンパク質を活性化することがわかっています[1][17]。
🥬Q. K1とK2は何が違うのですか?
K1(フィロキノン)は緑黄色野菜に多く、食事由来の主要なビタミンKとして肝臓の凝固因子活性化に利用されます。K2(メナキノン類)のうち、とくに納豆に多いMK-7はK1やMK-4より血中に長くとどまるのが特徴です[1]。
ビタミンKとは——「血を固めるビタミン」から全身のスイッチへ
ビタミンKは、1929年にデンマークのヘンリク・ダム博士が「血液が固まる(デンマーク語でKoagulation)のに欠かせない脂溶性の栄養素」として発見しました。この発見は1943年のノーベル生理学・医学賞につながっています。以来ずっと、ビタミンKといえば肝臓での凝固因子づくり、というのが医学の常識でした[1]。
ところが近年、この見方は大きく塗り替えられました。ビタミンKは単なる「止血のビタミン」ではなく、骨代謝や血管石灰化の調節に関わり、さらに糖・脂質代謝、免疫、細胞死との関連も研究されている栄養素であることがわかってきたのです[17]。現在、ヒトの体内では、ビタミンKによって仕上げられて初めて働ける「ビタミンK依存性タンパク質(VKDPs)」が、報告により十数種類が知られています。これらは肝臓だけでなく、骨や血管などさまざまな組織で機能します。
ビタミンKが「補酵素」として働きかけることで、初めて機能を持てるようになるタンパク質のグループです。血液凝固因子(第II・VII・IX・X因子)のほか、骨をつくるオステオカルシン、血管の石灰化を防ぐマトリックスGlaタンパク質(MGP)などが代表です。ビタミンKが足りないと、これらが「仕上げ前の不完全なかたち」のままになり、うまく働けません。
「γ-カルボキシル化」というひと手間が鍵
ビタミンKの最も基本的な仕事は、γ-グルタミルカルボキシラーゼ(GGCX)という酵素の相棒(補酵素)になることです。GGCXは、対象となるタンパク質のグルタミン酸残基のγ位にカルボキシ基を付け足し、Gla(ガンマ・カルボキシグルタミン酸)というかたちに変えます。このひと手間があると、そのタンパク質はカルシウムをしっかりつかまえられるようになり、細胞膜や骨の土台にくっついて働けるようになります[1]。
この反応でビタミンKはいったん酸化されて「エポキシド」という別のかたちに変わりますが、ビタミンKエポキシド還元酵素(VKOR)という酵素が元の使えるかたちに戻します。使っては戻し、戻しては使う——この再利用のしくみが「ビタミンKサイクル」で、ごく少量の摂取でも体が回っていくのは、この巧みなリサイクルのおかげです。後で出てくる薬「ワルファリン」は、このVKORをブロックすることで血を固まりにくくします。
K1とK2の違い——緑黄色野菜、納豆、そして体内合成
ビタミンKは共通の骨格を持ちながら、側鎖のかたちの違いで大きく3種類に分けられます。K1(フィロキノン)はほうれん草やブロッコリー、ケールなどの緑黄色野菜に豊富で、植物の光合成に関わる成分です。K2(メナキノン類、MK-nと表記)は細菌によって産生される一群で、チーズなどの発酵食品や、日本の伝統食品である納豆(とくにMK-7が豊富)に多く含まれます。腸内細菌もメナキノン類を産生しますが、それがヒトのビタミンK栄養にどの程度寄与するかは明確ではありません。そしてK3(メナジオン)は合成されたナフトキノンで、後で述べるように酸化ストレスや溶血などの毒性が問題となるため、現在のヒト用ビタミンK補充の標準製剤としては用いられません[1]。
図1:ビタミンK1・K2(MK-4/MK-7)のおおまかな違い
K1(フィロキノン)
- 緑黄色野菜に豊富
- 血中の半減期は約1〜2時間と短め
- 食事由来の主要型で、肝臓の凝固因子活性化に利用される
K2(MK-4)
- 動物性食品や体内でのK1からの変換で供給
- 半減期は約1〜2時間
- 組織内で生成され、肝外組織にも広く分布する
K2(MK-7・納豆)
- 納豆・発酵食品に豊富
- 半減期が約72時間と長い
- K1やMK-4より血中濃度が長く維持される
MK-7はK1やMK-4に比べて血中にとどまる時間が長く、肝外のビタミンK依存性タンパク質のカルボキシル化への影響が研究されています[1]。
摂取されたビタミンKは、胆汁酸やすい臓の酵素の助けを借りて吸収され、いったん肝臓へ運ばれてから、骨・脳・心臓などの組織に配られます。ここで大切なのは、脂に溶けるビタミンなので、脂肪の吸収がうまくいかない状態では不足しやすいという点です。この特徴は、後で出てくる新生児の出血症や、胆道・膵臓・腸の病気とも深く関わってきます。
MK-4を組織で作るUBIAD1という酵素
食事からとったビタミンKは、体の中で一部がMK-4という型に作り替えられます。その変換に関与する酵素がUBIAD1(ユビアド・ワン)です[20]。またUBIAD1はHMG-CoA還元酵素(HMGCR)の分解制御にも関わり、ビタミンK代謝とコレステロール恒常性の両方に関連する分子です[5]。UBIAD1はコレステロール合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素(HMGCR)とくっついたり離れたりして、細胞内のコレステロール量を微調整しています。この話が、次章で述べる遺伝性の目の病気につながります。
血液凝固と新生児——なぜ赤ちゃんに注射するのか
肝臓で作られる血液凝固因子(第II・VII・IX・X因子)や、逆に固まりすぎを防ぐタンパク質(プロテインC・S・Z)は、いずれもビタミンKによって仕上げられて初めて働けます。ところが新生児は、生まれつきビタミンKが不足しやすい状態にあります。胎盤を通したビタミンKの移行が少ないこと、出生直後はビタミンK産生菌による腸管内での供給を期待しにくいこと、母乳中のビタミンK量が少ないことなどが理由です[2]。
この不足が原因で起こるのが、ビタミンK欠乏性出血症(VKDB:ぶいけーでぃーびー)です。VKDBは発症する時期によって3つに分けられます。
図2:ビタミンK欠乏性出血症(VKDB)の3タイプ
① 早期型(生後24時間以内)
妊娠中の一部の薬(抗てんかん薬・抗結核薬など)がビタミンK代謝を妨げることで生じます。頭の中の出血など重いことがあります。
② 古典型(生後2〜7日)
生理的な不足と母乳栄養が背景です。消化管出血(下血・吐血)やへその緒からの出血などがみられます。
③ 遅発型(生後2週〜6か月)
予防を受けていない完全母乳の赤ちゃんや、脂肪の吸収障害がある場合に。頭の中の出血を伴いやすく、最も注意が必要です。
とくに遅発型は、頭蓋内出血を伴うことが多く、神経学的な後遺症を残しうる重い病型として知られています[2]。米国小児科学会(AAP)は1961年からビタミンK投与を推奨しており、現在もすべての新生児に対し、出生後にビタミンK1を筋肉内注射することを推奨しています[6]。AAPは遅発型VKDBの予防効果について筋肉内注射を最も確実な方法と位置づけています[6]。一方、日本ではビタミンK2シロップの経口投与が広く行われており、日本小児科学会などの2021年提言では、哺乳確立時、生後1週または退院時、その後は生後3か月まで週1回の投与が推奨されています[19]。予防法は国によって異なるため、日本の読者は国内の投与スケジュールとAAPの筋注推奨を区別して理解する必要があります。
ワルファリンとDOAC——「ビタミンKが効く出血・効かない出血」
血栓を防ぐ薬ワルファリンは、先ほどのVKOR(ビタミンKを再利用する酵素)をブロックして、凝固因子を作りにくくします。ワルファリンによる出血や、緊急手術が必要なときには、ビタミンKの投与が有効で、あわせてプロトロンビン複合体製剤などが使われます[1]。
一方で、近年広く使われるDOAC(直接作用型経口抗凝固薬:アピキサバン、リバーロキサバン、ダビガトランなど)による出血には、ビタミンKは効きません。DOACはビタミンKのサイクルとは別のしくみで、凝固因子を直接ブロックするためです。DOACの出血には、薬剤の種類や出血の重症度に応じて、特異的中和薬やプロトロンビン複合体製剤などが検討されます。ビタミンKはDOACの作用を直接中和しません[1]。「抗凝固薬の出血にはビタミンK」という思い込みが通用しないケースがある、という点は臨床上とても大切です。
一部の抗菌薬でも出血傾向が起こる
感染症治療で使われる特定のセフェム系抗菌薬(セフメタゾール、セフォペラゾンなど)では、プロトロンビン時間(PT/INR)が急に延びて出血傾向が生じることがあります。これらの薬に共通するNMTT側鎖(N-メチルチオテトラゾール側鎖)を持つセフェムでは、ビタミンKエポキシド還元系が阻害され、低プロトロンビン血症を起こしやすくなることが示されています[9][10]。従来言われた「抗菌薬で腸内細菌が減ってビタミンKが作れなくなるから」という説明だけでは説明しきれない現象です。とくに高齢者、腎機能が低下した方、栄養状態のよくない方では、低プロトロンビン血症やPT延長が起こりやすいため、リスクの高い方では凝固検査を含む慎重なモニタリングが必要です。ビタミンK補充の要否は栄養状態や出血リスクなどを踏まえて判断します[11]。
骨と血管への働き——ビタミンKの「もう一つの顔」
オステオカルシンと骨・筋肉
骨は、体を支えるだけの構造物ではなく、ホルモンを出す「内分泌器官」でもあります。骨芽細胞から分泌される代表的なビタミンK依存性タンパク質がオステオカルシンです。ビタミンKによって仕上げられたカルボキシル化オステオカルシンは、骨のミネラル(ヒドロキシアパタイト)と結合し、正常な骨の石灰化と骨の強さを支えます[17]。ビタミンKは、加齢に伴う筋力低下(サルコペニア)の予防という観点からも注目されていますが、この分野はまだ研究が積み重ねられている段階です。
同じオステオカルシンでも、仕上げが不完全な低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC)については、骨から血中に出た後に内分泌作用を示す可能性が動物モデルを中心に研究されています。インスリン分泌や糖代謝との関連が報告されていますが、ヒトでの生理的意義はなお議論があります[17]。
さらに、このucOCと男性ホルモン(テストステロン)の合成との関連も研究されています。マウスでは、ucOCが精巣のライディッヒ細胞にあるGPRC6Aを介してテストステロン産生に影響する機序が示され、ヒトについても関連を示唆するデータが報告されています[12]。近年の細胞実験では、ucOCがPKA-MAPK/ERK-CREBという経路を介してテストステロン合成を高める分子の道筋も示されています[13]。骨由来タンパク質と生殖・代謝の関連を示す研究領域が形成されています。ただし、これらの多くは研究段階の知見であり、サプリメントで男性機能が改善するといった話とは切り離して理解する必要があります。
血管が硬くなるのを防ぐMGP
血管の石灰化(血管が硬く、もろくなること)は、単なる加齢によるカルシウムの沈着ではなく、細胞が関わる「能動的なプロセス」であることがわかっています。ビタミンKは、マトリックスGlaタンパク質(MGP)という強力な石灰化ブレーキを活性化することで、この進行を最前線で抑えます[16]。ビタミンKが足りないと、仕上げ前の不活性なMGP(dp-ucMGP)がたまり、血管石灰化が進みやすくなります。このdp-ucMGPは、体のビタミンK不足を映すバイオマーカーとして研究・臨床で使われています[16]。
この観点は、透析患者さんで特に重要です。慢性腎臓病や透析の方は機能的ビタミンK不足を示す指標が高値になりやすく、血管や心臓弁の石灰化が進みやすいことが知られています。ここへワルファリンを使うと、VKORが抑えられてビタミンK不足が悪化し、かえって石灰化を加速しうるという「ワルファリンのジレンマ」が生じます[16]。透析中の心房細動患者を対象に、ワルファリン・DOAC単独・DOAC+ビタミンK2の3群を比べたValkyrie試験では、リバーロキサバン(DOAC)群はワルファリン群に比べて心血管イベントと大出血の複合エンドポイントを有意に下げました(主要心血管イベントのハザード比0.41)[8]。一方で、ビタミンK2の追加でdp-ucMGPは改善したものの、画像上の石灰化進行を明確に抑えるまでの上乗せ効果は確認されませんでした[8]。ビタミンK補充が生化学的には有効でも、すでに進んだ石灰化を「巻き戻す」効果には、まだ不確かさが残っています[18]。
細胞死(フェロトーシス)を抑える新しい役割
ここ数年で大きな注目を集めているのが、ビタミンKのフェロトーシス(鉄に依存する細胞死)を抑える働きです。2022年に報告された研究では、ビタミンKの還元型(ビタミンKヒドロキノン)が強力な抗酸化物質として働き、脂質の過酸化の連鎖を断ち切ってフェロトーシスを抑えることが示されました[3]。この経路は、FSP1という酵素がビタミンKを還元することで回っており、ワルファリンでは止まらない「非古典的なビタミンKサイクル」を形づくっています[3]。半世紀以上探されてきた「ワルファリンに邪魔されないビタミンK還元酵素」の正体がFSP1だと突き止めた点でも、大きな発見でした。
遺伝性疾患とのつながり——ビタミンKと遺伝子
ここからは、遺伝診療の立場から特に重要な「ビタミンKと遺伝子のつながり」を整理します。ビタミンKに関わる酵素などの遺伝子に変化があると、出血しやすさや薬の効きやすさ、まれには目や代謝の病気として現れることがあります。これらは、遺伝形式(どのように子へ伝わるか)やミスセンス変異(1つの部品が別のものに置き換わる変化)といった遺伝医学の基本ともつながっています。
GGCX・VKORC1の異常と、生まれつきの出血傾向
ビタミンKの働きに欠かせない酵素であるGGCX(仕上げの酵素)や、VKORC1(再利用の酵素の本体)に生まれつきの異常があると、複数の凝固因子が一度にうまく作れなくなり、ビタミンK依存性凝固因子複合欠乏症(VKCFD)という、まれな出血性の病気になることがあります。GGCXの異常によるものと、VKORC1の異常によるものが知られています。これらは常染色体潜性(劣性)の形で伝わるとされ、出生前や新生児期からの出血がみられることもあります。生まれつきの複数の凝固因子欠乏をみたときには、こうした遺伝的な背景も鑑別に入ります。
2つで1組の遺伝子の両方に変化がそろって初めて症状が出る伝わり方です。片方だけに変化を持つ人(保因者)は通常は症状が出ませんが、両親がともに保因者の場合、子どもに症状が出る確率は妊娠ごとに原則25%です。詳しくは遺伝形式のページで解説しています。
UBIAD1の変異とシュナイダー角膜ジストロフィー
先ほど登場したMK-4づくりの酵素UBIAD1(ユビアド・ワン)の遺伝子に変化があると、シュナイダー角膜ジストロフィー(SCD)という、角膜にコレステロールなどが異常にたまる常染色体顕性(優性)の目の病気になります。N102SやG186Rといったミスセンス変異が代表的です[4]。これらの変異型UBIAD1はHMG-CoA還元酵素(コレステロール合成の律速酵素)とくっついたまま離れず、その分解を止め続けるため、角膜で局所的にコレステロールが過剰に作られてしまいます[5]。ビタミンKづくりの酵素が、実はコレステロール代謝の調整役でもある——という深いつながりを示す例です。角膜ジストロフィーの原因遺伝子は、角膜ジストロフィーの遺伝子検査(NGSパネル)でまとめて調べることができます。
脂肪の吸収障害を起こす遺伝性疾患とビタミンK
ビタミンKは脂に溶けるため、脂肪の吸収がうまくいかない病気では不足しやすくなります。遅発型VKDBの背景として挙げられるものに、嚢胞性線維症(のうほうせいせんいしょう)があります。これはCFTR遺伝子の異常で、すい臓の分泌障害などから脂溶性ビタミンの吸収が落ちる病気です。また、α1-アンチトリプシン欠乏症など肝・胆道の障害を伴う病気でも、胆汁の流れが滞ることでビタミンKが吸収されにくくなります[2]。ビタミンKと同じ脂溶性ビタミンでも、ビタミンD依存性くる病のように、代謝経路の遺伝子異常が特定のビタミンの働きを妨げる病気もあり、「ビタミンと遺伝子」というテーマは奥が深い領域です。
検査・薬との関係——薬理遺伝学と診断への応用
ワルファリンの効きやすさと遺伝子多型
ワルファリンは効果の幅が狭く、同じ量でも人によって効き方が大きく違う薬です。その個人差に大きく関与するのが、薬の標的であるVKORC1と、薬を分解する酵素CYP2C9などの遺伝子の個人差(多型)です。臨床薬理遺伝学実装コンソーシアム(CPIC)のガイドラインは、遺伝子型情報がすでに得られている場合に、それを初期投与量の決定へどう利用するかを示しています[7]。
とくにVKORC1のプロモーター領域の変化(−1639G>A、rs9923231)は、ワルファリン感受性に大きく影響します。Aを持つ人はVKORC1の発現量が低く、標準量でも効きすぎて出血しやすい傾向があります[7]。このAアレルの頻度は集団差が大きく、東アジア集団では非常に高い一方、ヨーロッパ系集団では相対的に低くなります。その結果、アジア人は欧米人よりワルファリンの維持量が少なくなる傾向があり、集団による違いがはっきり出る代表例になっています[7]。
PIVKA-IIという検査値のもう一つの顔
肝臓でビタミンKが足りない、あるいはワルファリンで代謝が妨げられると、仕上げが不完全な異常なプロトロンビンが血中に出ます。これをPIVKA-II(ぴぶかつー)と呼びます。PIVKA-IIは単なるビタミンK不足の指標にとどまらず、肝細胞がんの腫瘍マーカーとして広く使われています[14]。あるパイロット研究では、設定したカットオフ値によってPIVKA-IIが高い感度を示したと報告されていますが、単一の小規模研究の数値を一般化することはできず、最適なカットオフ値は対象集団や背景の肝疾患によって変わるため、解釈には注意が必要です[14]。AFPと組み合わせることで、診断の精度をさらに高められると考えられています。
ビタミンK3(メナジオン)はなぜ使われないのか
天然型のK1やK2が推奨量では非常に安全なのに対し、人工合成されたビタミンK3(メナジオン)は、酸化ストレスや溶血などの毒性が問題となるため、現在のヒト用ビタミンK補充の標準製剤としては用いられません[1]。メナジオンは細胞内で大量の活性酸素(ROS)を発生させ、抗酸化物質を枯らして細胞死を招きます[15]。メナジオンやその誘導体は、とくに新生児で溶血や高ビリルビン血症を起こす危険が問題となってきました。酸化ストレスに弱いG6PD欠損症(グルコース-6-リン酸脱水素酵素欠損症)では、酸化性薬剤による溶血への注意が必要です。一方、AAPが新生児予防に推奨するのはビタミンK1(フィトナジオン)であり、メナジオンは用いません。日本ではビタミンK2(メナテトレノン)シロップが用いられます[15]。
ビタミンK依存性タンパク質のGas6やプロテインSは、死んだ細胞をきれいに片づける免疫のしくみ(エフェロサイトーシス)に関わり、過剰な炎症の収束を助けます[17]。また、ビタミンK2は核内受容体PXRを介して、炎症性腸疾患(IBD)における腸のバリア機能を支える可能性が研究されています。これらはまだ研究段階の基礎知見ですが、ビタミンKの働きの広がりを示しています。
よくある質問(FAQ)
🏥 遺伝性の出血傾向・血栓症・薬の効きやすさが気になる方へ
繰り返す出血傾向、若くして進む血管や角膜の変化、抗凝固薬の効きにくさ・効きすぎなど、背景に遺伝的な個人差が関わることがあります。臨床遺伝専門医が、臨床所見と必要な検査を整理し、遺伝学的評価が適切かを検討します。
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✓ 生涯にかかわる情報だからこそ、スピードより「正確性」を最優先
遺伝医学的な根拠と正確性を重視して診療しています
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参考文献
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