目次
8q23q24欠失症候群とは?
症状・原因・診断・治療を臨床遺伝専門医が解説
Q. 8q23q24欠失症候群とはどのような病気ですか?
A. 第8染色体長腕の8q23.3〜8q24.11付近が連続して欠失することで、特徴的な顔貌・毛髪や歯などの外胚葉症状・骨格異常に加え、多発性外骨腫(骨軟骨腫)を合併しやすい希少疾患です。ランガー・ギデオン症候群(Langer-Giedion syndrome)またはトリコリノファランジアル症候群II型(TRPS II)として知られ、主にTRPS1・EXT1(症例によりRAD21など)を含む欠失が関与します。
- ➤原因 → 8q23〜8q24の連続遺伝子欠失(TRPS1・EXT1を含むことが多い)
- ➤主要症状 → 特徴的顔貌・疎毛・円錐状骨端・多発性外骨腫、発達遅滞/知的障害(程度は幅あり)
- ➤診断の鍵 → 手足X線で円錐状骨端+外骨腫、遺伝学的検査で欠失を確認
- ➤確定診断 → 染色体マイクロアレイ(CMA)が第一選択
- ➤予後 → 生命予後は概ね良好(ただし骨・関節の合併症や発達支援が重要)
1. 8q23q24欠失症候群とは|基本情報
【結論】 8q23q24欠失症候群は、第8染色体長腕(8q23.3〜8q24.11付近)の連続遺伝子欠失により、TRPS(毛髪・鼻・指骨の特徴)と多発性外骨腫が合わさりやすい症候群です。臨床的にはLanger-Giedion syndrome(TRPS II)として知られます。
「欠失がある=同じ症状が必ず出る」という単純な話ではなく、欠失の大きさや含まれる遺伝子(例:RAD21の有無)により、発達・学習面の影響や合併症の出方が変わります。出生前に予後を確定することはできないため、検査結果の意味づけは遺伝カウンセリングで丁寧に整理します。
💡 用語解説:「連続遺伝子欠失(Contiguous gene deletion)」とは?
染色体の隣り合う複数の遺伝子がまとめて欠けるタイプの異常です。1つの遺伝子異常では説明しにくい「複数臓器にまたがる症状」が出やすく、8q23q24欠失症候群ではTRPS1(外胚葉・骨)とEXT1(外骨腫)の両方が影響する点が特徴です。
8q23q24欠失症候群の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 疾患名 | 8q23q24欠失症候群(Langer-Giedion syndrome / TRPS II) |
| 別名 | トリコリノファランジアル症候群II型(TRPS II) |
| 原因 | 8q23.3〜8q24.11付近の欠失(TRPS1・EXT1を含むことが多い) |
| 遺伝形式 | 常染色体優性(顕性)(多くは孤発の新生突然変異) |
| 代表遺伝子 | TRPS1、EXT1、(欠失範囲によりRAD21など) |
| 診断 | 染色体マイクロアレイ(CMA)、必要に応じてFISH/MLPA、核型分析 |
⚠️ TRPS I(I型)との違い
TRPS IはTRPS1の点変異などで生じ、顔貌・毛髪・指骨の特徴は似ますが、EXT1が欠失しないため多発性外骨腫を伴わないことが重要な鑑別点です。一方、TRPS IIではTRPS1に加えてEXT1が欠失しやすく、外骨腫が前面に出ます。
2. 8q23q24欠失症候群の主な症状
【結論】 本症候群の臨床像は、①特徴的顔貌、②外胚葉(毛髪・歯・爪)、③骨格(円錐状骨端・短指症・股関節形成不全)、そして④多発性外骨腫が柱です。発達や学習面の影響は軽度〜中等度を中心に幅があります。
顔貌・外胚葉の特徴

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鼻:幅広い鼻梁、丸い鼻尖(いわゆる“洋梨型”に表現されることも)
- •
口元:長い人中、薄い上唇、小顎
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毛髪:細くまばら(疎毛)、成長が遅い。男性で思春期以降に目立つことあり
- •
歯・爪:過剰歯/欠如歯、不正咬合、爪の低形成などが報告
💡 用語解説:「外胚葉症状」とは?
毛髪・歯・爪・皮膚など、発生学的に外胚葉から作られる組織の特徴です。TRPS1は骨・毛包などの発達に関わるため、本症候群では毛髪や歯の特徴が診断の手がかりになります。
骨格の特徴:円錐状骨端と外骨腫
- •
円錐状骨端:指の骨端がくさび状(cone-shaped epiphyses)になり、短指症や変形の原因に
- •
多発性外骨腫:肩甲骨・肘・膝などに多発し、痛み・可動域制限・神経/血管圧迫の原因に
- •
股関節形成不全:若年期から問題になり、進行すると変形性股関節症につながることがある
- •
成長:低身長になりやすいが個人差が大きい
⚠️ ポイント:外骨腫は思春期頃までに目立ちやすく、部位によっては痛み・神経圧迫・成長障害の原因になります。症状がある外骨腫は整形外科での評価が重要です。
3. 原因と遺伝的背景|TRPS1・EXT1・RAD21
【結論】 8q23q24欠失症候群の本質は、TRPS1(外胚葉・骨)とEXT1(外骨腫)が同時に影響を受ける点にあります。欠失範囲がRAD21を含む場合、発達・学習面や顔貌に追加の特徴が重なりやすいと考えられています。
💡 用語解説:「ハプロ不全」とは?
通常、遺伝子は父母から1本ずつの2コピーを持ちます。欠失で1コピーになると、残り1コピーだけでは量が足りず機能が保てないことがあり、これをハプロ不全と呼びます。
| 遺伝子 | 主な役割 | 欠失で目立ちやすい特徴 |
|---|---|---|
| TRPS1 | 骨・軟骨、毛包などの発達に関わる転写因子 | 特徴的顔貌、疎毛、円錐状骨端 |
| EXT1 | ヘパラン硫酸合成に関わり、骨成長のシグナル環境を調整 | 多発性外骨腫(骨軟骨腫) |
| RAD21 | コヒーシン複合体(染色体構造・遺伝子発現の制御) | 発達・学習面、顔貌の特徴が追加されることがある |
💡 用語解説:「コヒーシン」とは?
コヒーシンは、染色体の構造を保ち、遺伝子のスイッチ(発現)にも関わる重要な仕組みです。RAD21の異常は、コーネリア・ド・ランゲ症候群(CdLS)領域の病態とも関連が知られており、8q23q24欠失でRAD21が含まれる場合に発達・学習面の影響が強まる可能性が議論されています。
🩺 院長コラム【「原因遺伝子=症状の強さ」ではありません】
8q23q24欠失症候群では、TRPS1やEXT1などの“中心遺伝子”が注目されますが、欠失の大きさだけで予後が決まるわけではありません。同じような欠失でも、外骨腫の出方、関節の痛み、学習面の課題などは個人差が大きいのが現実です。
私たちが大切にしているのは、検査結果を「ラベル」ではなく、その方の生活上の課題を整理するための“地図”として扱うことです。何が起こりやすいかを知り、早めに整形外科・歯科・発達支援につなぐことが、長期のQOLに直結します。
4. 8q23q24欠失症候群の診断方法
【結論】 確定診断は染色体マイクロアレイ(CMA)が第一選択です。核型(Gバンド)だけでは見落とされる欠失もあり、欠失範囲(TRPS1・EXT1・RAD21など)を把握することで、合併症の見通しやフォロー計画に役立ちます。
診断のきっかけ
- ①
外骨腫が多発:整形外科で評価され、遺伝学的精査へ
- ②
特徴的顔貌+骨格所見:円錐状骨端、短指症、股関節形成不全
- ③
発達・学習の精査:発達遅滞、学習障害、言語の遅れ
- ④
出生前の精査:NIPTや羊水検査で欠失が疑われる
遺伝学的検査の位置づけ
| 検査方法 | 特徴 | 8q23q24欠失の評価 |
|---|---|---|
| 染色体マイクロアレイ(CMA) | 第一選択。欠失の範囲を高解像度で特定 | ◎ 検出・範囲評価 |
| G分染法(核型分析) | 大きな欠失や転座を把握。解像度に限界 | △ 大きければ |
| FISH法 / MLPA | 特定領域の確認、家族内検査で補助的に使用 | △ 目的を絞って |
💡 用語解説:円錐状骨端(cone-shaped epiphyses)
指の骨の端(骨端)が円錐形に見えるX線所見です。TRPSの診断で重要な手がかりで、短指症や指の変形と関連します。
5. 治療と長期管理
【結論】 根本治療はなく、症状に応じた対症療法が中心です。特に外骨腫(整形外科)、歯科、発達支援を軸に、多職種での長期フォローが重要です。
管理の実際:何をいつフォローする?
| 領域 | 主な評価・対応 |
|---|---|
| 整形外科 | 外骨腫の数・部位、痛み、神経/血管圧迫、関節可動域、股関節の評価。症状が強い場合は切除などを検討 |
| リハビリ(PT/OT) | 関節機能の維持、巧緻運動、日常生活動作の工夫 |
| 歯科・矯正 | 過剰歯/欠如歯、不正咬合、う蝕予防、矯正の適応検討 |
| 発達支援 | 言語・学習・行動面の評価、就学支援、必要に応じて療育 |
- •
臨床遺伝:遺伝カウンセリング、家族への説明、再発リスク整理
- •
整形外科:外骨腫・股関節・関節機能の長期フォロー
- •
歯科:過剰歯/欠如歯・咬合管理
- •
発達支援:言語・学習・行動面の評価と支援
6. 遺伝カウンセリングの重要性
【結論】 8q23q24欠失症候群は、欠失範囲により表現型が変わるため、結果の意味づけと長期計画の立案に遺伝カウンセリングが役立ちます。医師は決定者ではなく、情報提供者・意思決定支援者として中立的に伴走します。
遺伝カウンセリングで整理するポイント
- ①
欠失範囲と遺伝子:TRPS1・EXT1・RAD21など、どこまで含まれるか
- ②
起こりやすい合併症:外骨腫、股関節、歯科、発達・学習など
- ③
家族の検査:親が同じ欠失を持つか、均衡型転座などがないか
- ④
今後の支援:「何をいつ」フォローするかの具体化
再発リスクの考え方
| 状況 | 次子への再発リスク |
|---|---|
| 両親とも欠失なし(新生突然変異) | 一般に低い(ただし生殖細胞モザイクの可能性はゼロではない) |
| 片親が欠失を保有 | 50%(常染色体優性(顕性)) |
| 親が均衡型転座などを保有 | 状況により変動(染色体検査で個別評価) |
🩺 院長コラム【“骨の痛み”は本人のせいではない】
外骨腫が多発すると、痛みや可動域制限で「運動が苦手」「姿勢が悪い」と見られてしまうことがあります。しかし本質は、骨の構造と関節の使いにくさです。
痛みは我慢するほど生活の幅を狭めます。整形外科の評価やリハビリで改善できることも多いため、“困りごと”を言語化することがケアの第一歩です。遺伝カウンセリングでは、医学情報だけでなく、生活の工夫や支援先の整理も一緒に行います。
7. 出生前診断について|NIPTと羊水検査+CMA
【結論】 8q23q24欠失は、出生前検査で「疑い」や「検出」に至る場合があります。ただしNIPTはスクリーニング検査であり、確定診断ではありません。確定診断は羊水検査+CMAです。学会指針では、原則として超音波で構造異常がある場合などが対象とされています。
出生前検査での位置づけ
| 検査 | 位置づけ | 備考 |
|---|---|---|
| NIPT | △ スクリーニング | 欠失サイズ・胎児分画などで検出可能性は変動。陽性でも確定はできません |
| 羊水検査+CMA | ◎ 確定診断 | Gバンド法では検出できない微小欠失を確定診断可能。※学会指針では、原則として超音波での構造異常がある場合などが対象とされています |
| 絨毛検査+CMA | ◎ 確定診断 | 妊娠初期に実施可能。胎盤モザイクなどの論点は個別に説明します |
⚠️ 大切な前提:8q23q24欠失は、生命予後に直ちに重大な影響を与えない可能性がある一方、骨・関節や発達面に影響する可能性もあります。出生前に「将来を断定できない」領域であるため、不確実性を正直に共有し、ご家族の知る権利・知らないでいる権利を尊重した支援が必要です。
結果をどう受け止めるか、一緒に整理しましょう
検査は「結論を出す場」ではなく、情報を整理し意思決定を支えるための医療です。
臨床遺伝専門医にご相談ください。
※オンライン診療も対応可能です
よくある質問(FAQ)
🏥 一人で悩まないでください
8q23q24欠失症候群について心配なこと、検査や確定検査について迷っていること、
どんなことでもお気軽にご相談ください。
臨床遺伝専門医があなたとご家族に寄り添います。
参考文献
- [1] GeneReviews®: Trichorhinophalangeal Syndrome. [NCBI Bookshelf]
- [2] MedlinePlus Genetics: Trichorhinophalangeal syndrome type II. [MedlinePlus]
- [3] Orphanet: Trichorhinophalangeal syndrome type 2. [Orphanet]
- [4] An interstitial deletion at 8q23.1-q24.12 associated with Langer-Giedion syndrome. [PMC]
- [5] Phenotypic Spectrum in Three Romanian Patients with 8q23–q24 Deletions. [MDPI]
- [6] A position effect on TRPS1 is associated with Ambras syndrome in humans and the Koala phenotype in mice. [PMC]
- [7] Chromosome Disorder Outreach: 8q24 Langer-Giedion Syndrome (PDF). [PDF]




