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Teebi眼間開離症候群1型(TBHS1)とは|原因遺伝子SPECC1L・症状・遺伝と検査を遺伝専門医が解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。国際医療誌『Medical Care Review APAC』『Global Woman Leader』の2誌で表紙を飾り、「Top Prenatal Testing Service in APAC 2025」に選出されるなど、世界基準の遺伝医療を提供。

「両目のあいだが広い」と指摘された、あるいは赤ちゃんにおへそのヘルニアや心臓の異常が見つかった――その背景に、Teebi眼間開離症候群1型(TBHS1)という遺伝子が関わる体質が隠れていることがあります。TBHS1は世界でも報告例の少ない超希少疾患ですが、その原因となるSPECC1L遺伝子は、顔や体の「正中線(体の真ん中の合わせ目)」がつくられる仕組みそのものに関わっています。ですからTBHS1を理解することは、口唇口蓋裂をはじめとする、より身近な先天異常の成り立ちを理解することにもつながります。本記事では、原因・症状・遺伝のしかた・検査までを、遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約16分
🧬 眼間開離・SPECC1L・遺伝形式・出生前診断
臨床遺伝専門医監修

Q. Teebi眼間開離症候群1型とはどんな病気ですか?まず結論だけ知りたいです

A. 両目の間隔が大きく広がる「眼間開離」を中心に、顔と全身にさまざまな生まれつきの形の違いが現れる希少な症候群です。原因は22番染色体にあるSPECC1L遺伝子の変化で、常染色体顕性(優性)遺伝で親から子へ50%の確率で伝わります。臍帯ヘルニアや心臓の異常などを伴うことがありますが、適切な治療が行われれば全体の見通しはおおむね良好とされ、知能は多くの場合正常範囲にとどまります。

  • 中核症状 → 著明な眼間開離(95%以上)。前頭部の突出・富士額・幅広い鼻根部などを伴う
  • 原因遺伝子 → SPECC1L(22q11.23)。細胞骨格を束ね、顔の形づくりを支えるタンパク質の設計図
  • 変異の二面性 → GOFはTBHS1の重要な機序。LOFは斜顔裂などに関連する一方、TBHS1を呈する欠失例も報告
  • 遺伝形式 → 常染色体顕性(優性)。子へ伝わる確率は各妊娠で50%
  • 検査 → SPECC1Lの病的/病的可能性の高いバリアントを確認して分子遺伝学的に診断。出生前診断も可能

🧬 Teebi眼間開離症候群1型の基本情報

項目 内容
疾患名 Teebi眼間開離症候群1型(英:Teebi hypertelorism syndrome 1/略:TBHS1)/別名 SPECC1L関連眼間開離症候群
原因遺伝子 SPECC1L(22番染色体長腕 22q11.23)
遺伝形式 常染色体顕性(優性)遺伝
OMIM表現型番号 145420
頻度・報告例数 100万人に1人未満(超希少)。遺伝子診断が確定した報告は世界でも限られています
主な症状 著明な眼間開離、前頭部の突出、富士額、幅広い鼻根部、臍帯ヘルニア、先天性心疾患、泌尿生殖器の異常 など
診断の決め手 特徴的な顔つき+合併症の組み合わせから疑い、SPECC1Lに病的または病的可能性の高いバリアントを確認して分子遺伝学的に診断
鑑別すべき疾患 Opitz G/BBB症候群、Teebi眼間開離症候群2型(CDH11)、頭蓋前頭鼻異形成症、Aarskog症候群 など
再発率・保因者 罹患した親から子へ伝わる確率は各妊娠で50%

各項目の根拠と詳しい解説は、本文の該当セクションをご覧ください。

1. Teebi眼間開離症候群1型とは ─ 「体の真ん中」がつくられにくい体質です

TBHS1は、両目の間隔が大きく広がる「眼間開離」を中心に、顔と全身のさまざまな部位に生まれつきの形の違いが現れる希少な症候群です。原因は1つの遺伝子(SPECC1L)の変化にあり、常染色体顕性(優性)というかたちで遺伝します[1]。この病気の特徴を一言でいうと、赤ちゃんがおなかの中で育つとき、体のパーツが正しい位置へ動いて、真ん中でぴたりと合わさる(癒合する)プロセスがうまくいきにくい、ということです[2]

顔でいえば左右の組織が真ん中で出会う場所、おなかでいえばへその周り、女性では子宮――こうした「正中線」に症状が集まりやすいのはこのためです。ご本人やご家族にとって大切なのは、これは育て方や妊娠中の過ごし方が原因ではないということです。あくまで遺伝子の設計図の一部が変化したことで起こる体質であり、誰かの責任ではありません。この点を知っておくことは、不必要な自責の念から少し自由になる助けになります。

歴史的には、1987年に臨床遺伝学者のAhmad Teebi医師が、中東(アラブ系)の大家系で初めて報告しました[2]。当時は「短頭前頭鼻異形成症」など複数の名前で呼ばれ、後述するOpitz G/BBB症候群など似た病気と区別がつきにくい時期が長く続きました[3]。近年、次世代シーケンサーという解析技術の進歩によってSPECC1L遺伝子が原因と分かり、いまでは「SPECC1L関連眼間開離症候群」として捉え直されつつあります[4]

💡 用語解説:眼間開離と癒合

眼間開離(がんかんかいり)とは、両方の眼窩(目のくぼみ)そのものの間隔が、骨格レベルで通常より大きく広がっている状態です。「目が離れて見える」だけでなく、骨の位置として離れているのが特徴です。

癒合(ゆごう)とは、発生の途中で別々に伸びてきた組織どうしが出会って一つにつながることです。この合わせ目がうまくいかないと、口唇口蓋裂やおへそのヘルニアといった「割れ・すき間」が残ります。

2. 原因遺伝子SPECC1L ─ 細胞の「骨組み」を束ねる縁の下の力持ち

🔍 関連記事:SPECC1L遺伝子の詳細

TBHS1の原因は、22番染色体にあるSPECC1L遺伝子です。この遺伝子はCytospin-A(シトスピンA)というタンパク質の設計図で、細胞の中で骨組みを束ねる「接着剤兼まとめ役」として働きます[5]。この働きを知ると、なぜ顔やおなかに症状が出るのかが腑に落ちます。

細胞の中には、形を保つための2種類の繊維――アクチン(細い繊維)と微小管(管状の繊維)――があります。Cytospin-Aは、この両方に橋を架けるようにつなぎとめ、細胞どうしをくっつけたり、細胞が目的の場所へ移動したりする動きを支えています[5]。とくに顔をつくる時期には、頭蓋神経堤細胞(とうがいしんけいていさいぼう)という細胞が正しい方向へ引っ越していく必要があり、SPECC1Lはその引っ越しを交通整理しています[6]

ですから、SPECC1Lの働きが乱れると細胞の「引っ越しと合流」が滞り、顔やおなかの正中線が閉じにくくなる――これがTBHS1で起こっていることの本質です。ご家族にとっては、「バラバラの症状に見えても、根っこは1つの仕組みの乱れ」と理解できると、全身をまとめて診てもらう意味が見えやすくなります。

💡 用語解説:頭蓋神経堤細胞

頭蓋神経堤細胞とは、胎児の初期に背中側で生まれ、そこから顔や首のほうへ長い距離を移動して、顔の骨・軟骨・一部の心臓組織などをつくるもとになる特別な細胞です。「顔の材料を運ぶ引っ越し便」とイメージすると分かりやすいです。この引っ越しが乱れると、顔の正中線の形づくりに影響が出ます。

3. 「変異のタイプ」で別の病気になる ─ SPECC1Lの二面性

SPECC1Lで最も興味深いのは、同じ遺伝子でも、バリアントの種類や位置によって現れる症状の幅が大きく変わるという点です。かつては「機能獲得型(GOF)ならTBHS1、機能喪失型(LOF)なら斜顔裂」と比較的単純に整理されることもありましたが、近年の報告からは、遺伝子型と表現型の関係はそれほど単純ではないことが分かってきました。これは遺伝子検査の結果を読み解くうえで重要な考え方です。

TBHS1では、機能獲得型(GOF)として働くミスセンスバリアントが重要な発症機序として知られ、タンパク質の特定の領域(第2コイルドコイルドメインなど)に集まる例が報告されています[3]。こうしたバリアントでは、細胞骨格や細胞接着・移動の調節が乱れ、眼間開離や臍帯ヘルニアなどの正中線形成の異常につながると考えられています[5]

一方、SPECC1Lの機能低下(LOF)は、Tessier IV型斜顔裂(しゃがんれつ)などの重い顔面形成異常と関連することが報告されています[7]。ただし、LOFなら必ず斜顔裂になるわけではありません。2025年には、SPECC1Lのエクソン3を含む遺伝子内欠失によってTBHS1を呈した例も報告され、「GOF=TBHS1、LOF=斜顔裂」と単純に二分できないことが改めて示されました[8]

同じSPECC1Lでも、遺伝子型と表現型は単純ではない

機能獲得型(GOF)

働き方が「過剰・異常」に

細胞接着・移動が乱れる

TBHS1の重要な機序

正常

アクチンと微小管を
ほどよく束ねる

顔がきちんと
つくられる

機能喪失型(LOF)

機能が低下

斜顔裂などに関連

TBHS1を呈する欠失例も報告

GOFはTBHS1の重要な機序として知られ、LOFは斜顔裂などに関連します。ただし2025年にはLOFに相当する遺伝子内欠失でTBHS1を呈した例も報告されており、遺伝子型と表現型は単純な二分では説明できません。

さらに近年(2025年)には、アミノ酸を1つ置き換えるような変異だけでなく、SPECC1L遺伝子の「エクソン3」を含む一部が丸ごと欠ける欠失も、TBHS1の新しい原因として報告されました[8]。エクソン3にはタンパク質をつくり始める合図(翻訳開始部位)が含まれており、そこが失われるとタンパク質の頭の部分が短く切れてしまい、細胞どうしのやりとりに支障が出ると考えられています[8]

💡 用語解説:ミスセンス変異・GOF・LOF

ミスセンス変異とは、設計図の1文字が別の文字に置き換わり、タンパク質のアミノ酸が1つ入れ替わる変化です。TBHS1ではこのタイプが多く見られます。

機能獲得型(GOF)はタンパク質が「余計に働きすぎる・異常な働き方をする」変化、機能喪失型(LOF)は「働きが足りなくなる」変化です。ただしSPECC1Lでは、GOFとLOFだけで臨床像を完全に二分できるわけではなく、バリアントの位置や分子機序によって表現型が重なることがあります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「まれ」だからこそ、名前がつく意味】

「世界で数十例」と聞くと、多くの方が強い孤独を感じられると思います。情報が少なく、周りに同じ経験をした人がいない――それはとてもつらいことです。けれど、SPECC1Lという原因が分かり、TBHS1という名前がついたことには、大きな意味があると私は考えています。名前がつくと、次に何を確認すればよいか(心臓は、腎臓は、子宮は)という道筋ができ、闇雲な不安が「順番に調べていける課題」に変わります。

診断名は、レッテルではなく地図です。あなたにとっての最善を一緒に探すための出発点として、この地図を使っていただければと願っています。医学が進めば分かることも増えていきます。今わかっていることの輪郭を正確にお伝えすることが、長い目で見ていちばん誠実だと考えています。

4. どんな症状が出る? ─ 顔から全身まで、幅広く現れます

TBHS1の症状は顔にとどまらず、心臓・おなか・泌尿生殖器・脳など全身に及びます。ただし同じ家族・同じ変異でも症状の組み合わせや重さは人によって大きく違うのが特徴で、これを「表現型の多様性」と呼びます[3]。つまり「この病気だから必ずこうなる」とは言えず、一人ひとりを丁寧に評価することが欠かせません。ご家族にとっては、これは「きょうだいや親の症状が軽くても、油断せず本人をきちんと調べる必要がある」という意味になります。

主な症状の現れやすさ

欧州の希少疾患データベースなどの情報をもとに、代表的な症状の現れやすさを示します[4]。眼間開離はほぼ全例に見られ、それ以外の合併症は「持つ人と持たない人がいる」ことが読み取れます。ここを知っておくと、「何を重点的に確認すべきか」の見通しが立ちます。

TBHS1における主な症状の現れやすさ

眼間開離

>95%

臍帯ヘルニア

50%

耳前瘻孔

30%

嚥下・食道の症状

30%

双角子宮(女性)

25%

口唇・口蓋裂

25%

先天性心疾患

20%

学習面の困りごと

20%

横隔膜ヘルニア

約10%

※おおよその目安です。数値は報告によって幅があります。

顔・目の特徴

最も普遍的なのが眼間開離で、95%以上に見られます[4]。加えて、前頭部が前に張り出す、額の生え際がV字に下がる富士額、濃く太い眉、鼻根部が広い、鼻が短い、といった特徴が組み合わさります[1]。まぶたが下がる眼瞼下垂を伴うこともあり、視力の発達を妨げないよう早めの手術が必要になる場合があります[1]。耳の前に小さな穴があく耳前瘻孔は、似た病気との重要な見分けポイントになります[4]

おなか・消化器の症状

おなかの正中線が閉じにくいため、臍帯ヘルニア(おなかの臓器がへその緒の中に飛び出す状態)が約半数に見られます[4]。さらに横隔膜ヘルニアを伴うと、胎児期に肺の育ちが妨げられ、生まれた直後の呼吸に大きく関わるため、周産期の管理でとくに注意が必要です[4]。飲み込みにくさや胃食道逆流といった消化管の症状が見られることもあります[4]

心臓の症状

先天性心疾患は約20%以上に見られ、心房中隔欠損(ASD)・心室中隔欠損(VSD)・動脈管開存(PDA)などが報告されています[4]。大動脈の付け根が広がる大動脈基部拡大を伴うこともあります[9]。見た目の症状が軽くても、診断時には必ず心臓の超音波検査を受けておくことが、思わぬ見落としを防ぐうえで重要です。

泌尿生殖器の症状

女性では、左右の管(ミュラー管)の合わさりが不完全なために双角子宮などが見られることがあります[1]。これはすぐ命に関わるものではありませんが、将来の妊娠・出産に関わることがあるため、思春期以降に専門的な評価を受けておくと安心につながります。男性では停留精巣や、陰嚢が上方に付着する「ショール陰嚢」などが報告されています[3]。腎臓の位置や形の違い(異所性腎・嚢胞腎・水腎症など)を伴うこともあります[9]

脳・発達の特徴

知能は多くの場合、正常範囲にとどまります[3]。脳の画像では脳室が広がる所見(脳室拡大)などが報告されることがあり[10]、学習面の困りごとが約20%、明らかな知的障害と診断されるのは約10%程度とされています[3]。発達がゆっくりな時期があっても、療育などの支援で伸びていくお子さんは多く、「診断=発達に必ず問題が出る」ではないことを知っておいていただきたいと思います。

💡 症状の重さは相関しないことがあります

ある家族の報告では、顔の特徴が軽いお子さんのほうが、心臓やおなかの内臓の症状は重い、という組み合わせが見られました[3]「外見が軽いから中も軽いだろう」とは限らないため、外から見える所見とは切り離して、全身を一通り調べることがすすめられます。

5. どうやって遺伝する? ─ 常染色体顕性(優性)で、子へは50%

TBHS1は常染色体顕性(優性)遺伝で、罹患した親から子へ変異が伝わる確率は、妊娠のたびに独立して50%です[4]。性別による偏りはなく、男女どちらにも同じように伝わります。ここは、これから家族を考えるご本人・ご家族にとって最も知りたい部分だと思います。

遺伝カウンセリングでとくに注意が必要なのが、先ほどの「表現型の多様性」です[3]。SPECC1Lの変異は何らかの症状は出やすい(浸透率が高い)一方で、その強さは家族内でも予測できません。たとえば親が「少し目が離れているかな」「昔おへそのヘルニアの手術をした」程度で一見健康に見えても、50%で変異を受け継いだ子には、より重い内臓の症状が出るリスクがあり得ます[3]。そのため、お子さんが診断されたときには、ご両親も改めて詳しく診てもらうことがすすめられます[3]

💡 用語解説:常染色体顕性遺伝と浸透率

常染色体顕性(優性)遺伝とは、体をつくる2本1組の遺伝子のうち片方が変化するだけで症状が出るタイプの遺伝です。男女どちらにも起こり、親が持っていれば子へ50%の確率で伝わります。

浸透率(しんとうりつ)とは、変異を持つ人のうち、実際に何らかの症状が現れる人の割合のことです。TBHS1では浸透率は高い一方、症状の「強さ」は人によって差があります。

6. 診断の進め方 ─ 特徴から疑い、遺伝子検査で確定します

診断は、「著明な眼間開離」+「臍帯ヘルニアや横隔膜ヘルニア・双角子宮・耳前瘻孔などの特徴的な合併症のいずれか」から強く疑い、SPECC1Lに病的または病的可能性の高いバリアントを確認することで分子遺伝学的診断につながります[4]。見た目だけでは似た病気と区別しにくく、VUS(意義不明のバリアント)だけでは確定診断としないため、臨床所見と遺伝学的所見を合わせて判断することが大切です。

遺伝子検査では、まずSPECC1Lのシーケンス解析を行い、必要に応じて前述のエクソン3欠失のような「一部が抜けるタイプ」を見つけるための欠失・重複解析(CNV解析)を組み合わせます[8]。表現型から原因遺伝子を絞り込めない場合には、マルチジーンパネル、全エクソーム解析(WES)、全ゲノム解析(WGS)などが検討されます。「塩基配列の変化」と「エクソン単位を含む欠失・重複」では検出方法が異なるため、両方を意識することが診断のカギになります。

診断のステップ

STEP 1
特徴的な顔つきと合併症から疑う
STEP 2
全身の評価(心臓・腎臓・子宮など)
STEP 3
SPECC1L遺伝子解析で分子遺伝学的に診断

出生前診断でわかること

家系内で特定のSPECC1L変異が分かっている場合、リスクのある妊娠に対しては、妊娠初期の絨毛検査(CVS)や中期の羊水検査を用いた出生前の分子遺伝学的検査が可能です[4]。また胎児の超音波検査も重要な手がかりになり、眼間開離、口唇口蓋裂、おなかの壁の状態(臍帯ヘルニアの有無)、心臓の構造、横隔膜など、出生前に確認可能な構造異常を評価します。こうした検査であらかじめ見通しを持てることは、生まれてくるお子さんを迎える準備という意味で、ご家族の支えになります。ただし検査を受けるかどうかは、あくまでご自身の価値観に沿って選んでいただくものです。

7. 似ている病気との見分け方 ─ Opitz G/BBB症候群など

TBHS1は顔つきが他の多くの症候群とよく似ているため、正確な鑑別が大切です。とくに重要な鑑別対象がMID1関連Opitz G/BBB症候群で、眼間開離や富士額などが著しく重なります[4]。ご家族にとっては「結局どの病気なの?」という疑問に直結する部分ですので、代表的なものを整理します。

病気の名前 原因遺伝子 TBHS1との主な違い
MID1関連Opitz G/BBB症候群 MID1 MID1によるX連鎖型は喉頭・気管・食道の異常や尿道下裂の頻度が高い。TBHS1では尿道下裂はまれで、臍帯ヘルニア・耳前瘻孔・双角子宮がSPECC1Lらしい所見[11]
Teebi眼間開離症候群2型 CDH11 顔・内臓の症状はよく似るが、TBHS1が「広く高い鼻根部」の傾向なのに対し、2型は「陥凹した平坦な鼻根部」の傾向[12]
頭蓋前頭鼻異形成症(CFND) EFNB1 著明な眼間開離と縫合の早期癒合、縦割れの爪など。X連鎖顕性で、女性のほうが重くなる特殊な遺伝様式[3]
Aarskog症候群 FGD1 眼間開離・低身長・短い手足に加え、TBHS1でも見られる「ショール陰嚢」が特徴。X連鎖の家族歴が手がかり[4]
Baraitser-Winter症候群 ACTB/ACTG1 眼間開離や眼瞼下垂を共有するが、より重い知的障害や特徴的な大脳皮質の形成異常が前面に出る[3]

興味深いことに、2型の原因であるCDH11は、片方だけの変異なら2型、両方に機能喪失変異があるとElsahy-Waters症候群という別の病気になります[12]。SPECC1Lの「変異のタイプで病気が変わる」話と同じように、遺伝子の世界では「同じ遺伝子でも変化のしかたで結果が変わる」ことが珍しくありません。この視点は、遺伝子検査の結果を読み解くうえで役立ちます。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「似ている」を放置しない】

TBHS1とOpitz G/BBB症候群のように、見た目がそっくりでも原因遺伝子も遺伝のしかたも違う病気があります。ここを曖昧にしたままだと、「次の子への確率」も「気をつけるべき合併症」も違ってきてしまいます。だからこそ私は、顔つきで分かった気にならず、遺伝子まで確認することを大切にしています。

名前を正確につけることは、その後の何十年もの健康管理の土台になります。遺伝の情報は、時にご家族の関係にも影響します。数字や病名だけをお渡しするのではなく、それをどう受け止め、どう生かすかまで含めてご一緒に考える――それが遺伝を扱う医療の責任だと考えています。

8. 治療とケア ─ 多くの科が連携して、全身を支えます

TBHS1は顔から内臓、神経まで幅広い症状に対応するため、一つの科だけでは完結せず、多職種のチームで支えるのが基本です[4]。小児科、臨床遺伝専門医、頭蓋顔面外科、耳鼻科、小児外科、小児循環器科、発達支援の専門家などが連携します。ご家族にとっては「あちこちの科を回るのは大変」と感じられますが、これは見落としなく全身を守るための仕組みです。

具体的には、口唇口蓋裂があれば哺乳や発音を守るための段階的な形成手術、重い眼瞼下垂には視力発達を妨げない時期の手術[3]、大きな臍帯ヘルニアには段階的な修復、横隔膜ヘルニアには出生直後からの呼吸管理などが検討されます[4]。心臓は診断時に必ず超音波で確認し、必要に応じて治療します[4]。発達面では言語・作業・理学療法や特別支援教育が生活の質を高める助けになり、女性の子宮の形の違いは思春期以降に産婦人科で評価しておくと将来の備えになります[4]

手術・麻酔のときに知っておきたいこと

2026年には、TBHS1のお子さん(4歳)の手術麻酔に関する初めてのケースレポートが報告され、周術期の注意点が具体的に示されました[13]。とくに気道管理の難しさが最大の課題で、平坦な鼻根・短い鼻・小顎症などがマスク換気や気管挿管を難しくすることがあります[13]。さらに心臓の異常や、腎臓の状態による薬の効き方の違いにも配慮が必要です[13]。手術が必要になったときは、この病気であることを麻酔科医にあらかじめ伝えておくことが、安全な麻酔の準備につながります。

9. NIPT(新型出生前診断)でSPECC1Lは調べられる?

SPECC1Lは、単一遺伝子疾患を対象としたNIPTで扱われる遺伝子の一つに含まれています。当院のダイヤモンドプランインペリアルプランで調べる遺伝子群にSPECC1Lが含まれます。

ここで大切なのは、NIPTはあくまで「可能性を調べるスクリーニング検査」であり、確定診断ではないという点です。結果が陽性であっても、それだけで診断は確定せず、羊水検査・絨毛検査といった確定検査で確認する必要があります。逆に、こうした遺伝子を調べておくことで、生まれる前から心構えと医療の準備ができるという意味があります。ただし、どこまで調べるか・調べないかは、ご夫婦の考え方に沿って選んでいただくものです。当院では、検査を受ける前後の相談を臨床遺伝専門医が担い、結果をどう受け止めるかまで一緒に考えます。

🏥 希少疾患・出生前診断のご相談

Teebi眼間開離症候群をはじめとする希少遺伝性疾患や、
SPECC1Lなどの遺伝子に関する出生前診断・遺伝カウンセリングは、
臨床遺伝専門医が終始責任をもって支援するミネルバクリニックにご相談ください。

📖 このページを読んだあなたへ

この記事にたどり着いた方は、たとえば――お子さんが「両目の間隔が広い」と指摘された方、検診でおへそや心臓の所見を告げられた方、あるいはご家族にTBHS1と分かった方がいて、これからのことを考えておられるのだと思います。次に確認しておくとよい観点は、次のようなものです。

  • 遺伝のしかた:親から子へ50%。ご両親の再評価も検討を(本文5章)
  • 全身の合併症:とくに心臓・横隔膜・腎臓・子宮の確認(本文4章)
  • 確定診断の方法:SPECC1Lのシーケンス解析と必要に応じた欠失・重複解析(本文6章)
  • 原因遺伝子の詳細SPECC1L遺伝子ページで、しくみをさらに詳しく

よくある質問(FAQ)

Q1. Teebi眼間開離症候群1型は遺伝しますか?

はい。常染色体顕性(優性)遺伝で、罹患した親から子へ伝わる確率は、妊娠のたびに独立して50%です。男女どちらにも同じように伝わります。両親に症状がなく、お子さんで初めて変異が生じる場合もあります。

Q2. 命に関わる病気ですか?寿命はどうなりますか?

症状の重さは人によって大きく異なります。横隔膜ヘルニアや重い心臓の異常を伴う場合は新生児期に注意が必要ですが、適切な治療が行われれば、全体としての見通しはおおむね良好と報告されています。多くの方が継続的な医療・教育の支援のもとで社会生活を送っています。

Q3. 知的障害は必ずありますか?

いいえ。多くの方は知能が正常範囲にとどまります。学習面の困りごとが約20%、明らかな知的障害と診断されるのは約10%程度とされ、「診断=必ず発達に問題が出る」わけではありません。発達がゆっくりな時期があっても、療育などの支援で伸びていくお子さんは多くいらっしゃいます。

Q4. どんな検査で診断できますか?

特徴的な顔つきと合併症から疑い、SPECC1Lに病的または病的可能性の高いバリアントを確認することで分子遺伝学的に診断します。SPECC1Lのシーケンス解析に加え、必要に応じてエクソン単位の欠失・重複を検出するCNV解析を行います。原因遺伝子を絞り込めない場合には、マルチジーンパネル、WES、WGSなどが検討されます。

Q5. 出生前に調べられますか?

家系内で病的バリアントが分かっている場合、絨毛検査(CVS)や羊水検査を用いた出生前診断が可能です。胎児超音波では、眼間開離、口唇口蓋裂、臍帯ヘルニア、横隔膜ヘルニア、先天性心疾患など、出生前に確認可能な構造異常が手がかりとなることがあります。検査を受けるかどうかはご自身の価値観に沿って選んでいただくものです。

Q6. Opitz G/BBB症候群とどう違いますか?

顔つきはよく似ていますが、MID1関連Opitz G/BBB症候群はX連鎖性で、喉頭・気管・食道の異常や尿道下裂の頻度が高いのが特徴です。TBHS1では尿道下裂はまれで、臍帯ヘルニア・耳前瘻孔・双角子宮がSPECC1Lらしい所見とされます。正確な区別には遺伝子検査が役立ちます。

参考文献

  • [1] Teebi hypertelorism syndrome 1(疾患概要). [UniProt DI-05364]
  • [2] New autosomal dominant syndrome resembling craniofrontonasal dysplasia. Am J Med Genet. 1987. [PubMed 3425628]
  • [3] Phenotypic spectrum associated with SPECC1L pathogenic variants: new families and critical review of the nosology of Teebi, Opitz GBBB, and Baraitser-Winter syndromes. Eur J Med Genet. 2019. [PMC6594898]
  • [4] SPECC1L-related hypertelorism syndrome(疾患概要・疫学). [Orphanet 1519]
  • [5] SPECC1L: a cytoskeletal protein that regulates embryonic tissue dynamics. Biochem Soc Trans. 2023. [PMC10404473]
  • [6] SPECC1L deficiency results in increased adherens junction stability and reduced cranial neural crest cell delamination. Sci Rep. 2016. [PMC4726231]
  • [7] Deficiency of the Cytoskeletal Protein SPECC1L Leads to Oblique Facial Clefting. Am J Hum Genet. 2011. [PMC3135813]
  • [8] Disruption of SPECC1L translation initiation by intragenic deletion: novel pathogenic mechanism in Teebi-hypertelorism syndrome. NPJ Genom Med. 2025. [PMC12541090]
  • [9] Teebi hypertelorism syndrome 1(臨床像・鑑別). [MalaCards]
  • [10] A novel SPECC1L mutation causing Teebi hypertelorism syndrome: Expanding phenotypic and genetic spectrum. Eur J Med Genet. 2020. [PubMed 31953237]
  • [11] MID1-Related Opitz G/BBB Syndrome. GeneReviews®. [NCBI Bookshelf NBK1327]
  • [12] Pathogenic variants in CDH11 impair cell adhesion and cause Teebi hypertelorism syndrome. Hum Genet. 2021. [PMC9245547]
  • [13] Perioperative Care of a Four-Year-Old Child With Teebi Hypertelorism Syndrome: A Rare Craniofacial Disorder. J Med Cases. 2026. [PMC12978399]

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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