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PD-1・CTLA-4阻害剤とは|働きの違い・併用効果・副作用までわかりやすく解説

仲田洋美 医師

この記事の監修:仲田洋美(臨床遺伝専門医)

のべ10万人以上の意思決定に伴走。2025年国際誌『Global Woman Leader』表紙抜擢など、世界基準の出生前診断と遺伝カウンセリングを提供。

もともと悪性黒色腫などのがん治療のために開発された「免疫チェックポイント阻害剤」であるPD-1阻害剤・CTLA-4阻害剤は、いまや肺がん・腎臓がん・大腸がん・肝臓がんなど多くのがんで治療の常識を塗り替えています。この記事では、2つの薬の働きがどう違うのか、なぜ併用すると効果が深まるのか、どんながんに効きやすいのか(とくに「MSI-H/dMMR」という目印)、そして避けて通れない副作用(免疫関連有害事象)までを、一般の方にもわかるように臨床遺伝専門医がやさしく解説します。

この記事でわかること
📖 読了時間:約18分
🧬 がん免疫療法・免疫チェックポイント阻害剤
臨床遺伝専門医監修

Q. PD-1阻害剤とCTLA-4阻害剤は何がどう違うのですか?まず結論だけ知りたいです

A. どちらも「免疫のブレーキ」を外す薬ですが、外す場所が違います。CTLA-4阻害剤はリンパ節で“T細胞の準備(活性化)”のブレーキを外し、PD-1阻害剤は腫瘍の中で“T細胞の攻撃”のブレーキを外します。2つを併用するとより深い効果が期待できる一方、副作用も明確に増えます。最も効きやすさを予測できる目印はMSI-H/dMMRです。

  • 2つの薬の違い → CTLA-4はリンパ節での「活性化」、PD-1は腫瘍局所での「攻撃」のブレーキを解除
  • 併用の意味 → より深い奏効と長期生存が狙える一方、重い副作用がはっきり増える
  • 効きやすい目印 → MSI-H/dMMRが最も再現性の高い予測因子。PD-L1は条件つきの目安
  • 主な副作用 → 免疫関連有害事象(皮膚・腸・甲状腺・肺・肝など全身に起こりうる)
  • 遺伝医療との接点 → MSI-H/dMMRの背景に、遺伝性のリンチ症候群が隠れていることがある

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1. PD-1・CTLA-4阻害剤とは:がん治療を変えた「免疫のブレーキ外し」

私たちの体には、がん細胞のような異常な細胞を見つけて攻撃する「免疫」という仕組みが備わっています。その主役となるのがT細胞(ティーさいぼう)という免疫細胞です。ところが、がん細胞は巧妙にもこのT細胞に「ブレーキ」をかけて、自分への攻撃を止めさせてしまうことがあります。このブレーキの役割を担うタンパク質がPD-1(ピーディーワン)CTLA-4(シーティーエルエーフォー)です。

PD-1阻害剤・CTLA-4阻害剤は、この「免疫のブレーキ」を外して、T細胞が再びがんを攻撃できるようにする薬です。まとめて「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれ、いまではがん免疫療法のなかで最も実用化が進んだ薬のグループになっています。悪性黒色腫(メラノーマ)から始まり、肺がん・腎臓がん・大腸がん・頭頸部がん・尿路上皮がん・子宮体がん、そして2025年には肝臓がんの一次治療へと、適応されるがんの種類が次々と広がってきました。

大切なのは、PD-1とCTLA-4は「働く場所」と「働くタイミング」が違うという点です。だからこそ、2つを組み合わせると効果が深まり、その一方で副作用も足し算以上に増えてしまうのです。この記事の核心は、「より強い免疫の力を、誰に、どのくらいまで使うか」という最適化の問題にあります。順番に、わかりやすく見ていきましょう。

2. 免疫チェックポイントとは:T細胞についた「アクセル」と「ブレーキ」

T細胞は強力な武器ですが、暴走すると自分自身の正常な細胞まで攻撃してしまいます(これが自己免疫疾患です)。そこで体は、T細胞に「アクセル」「ブレーキ」の両方を用意して、活動を細かく調節しています。アクセルにあたるのが「共刺激(きょうしげき)」と呼ばれるしくみで、ブレーキにあたるのが「免疫チェックポイント」です。

💡 用語解説:免疫チェックポイント

免疫チェックポイントとは、T細胞が活性化しすぎて自分の体を傷つけないように、活動に「待った」をかける安全装置(ブレーキ)のことです。代表的なものがPD-1とCTLA-4で、いずれもT細胞の表面にあります。健康な体ではこのブレーキが過剰な免疫を防いでくれますが、がん細胞はこのブレーキを悪用して、自分への攻撃を止めさせているのです。免疫チェックポイント阻害剤は、このブレーキの働きを邪魔して、T細胞ががんを攻撃する力を取り戻させます。

がん細胞は、自分の表面にPD-L1(ピーディーエルワン)という分子を出すことがあります。これがT細胞のPD-1とくっつくと、T細胞は「攻撃しなくていいんだ」と勘違いして力を抜いてしまいます。これが、がんが免疫の監視をすり抜ける主要な手口のひとつです。PD-1阻害剤は、このPD-1とPD-L1の握手を物理的に妨げることで、T細胞のやる気を取り戻させるのです。

3. PD-1とCTLA-4の違い:ブレーキが働く「場所」と「タイミング」

PD-1とCTLA-4はどちらもT細胞のブレーキですが、働くステージが違います。CTLA-4はおもにリンパ節で、T細胞が初めて活性化する「準備(プライミング)」の段階でブレーキをかけます。一方PD-1は、すでに活性化したT細胞が腫瘍の中に入ってがんと向き合う「攻撃(エフェクター)」の段階でブレーキをかけます。野球にたとえるなら、CTLA-4は「選手を試合に出すかどうか」の段階、PD-1は「グラウンドに立った選手の動きを鈍らせる」段階の調節役、とイメージするとわかりやすいかもしれません。

CTLA-4とPD-1:ブレーキが働く「場所」と「タイミング」 リンパ節での準備 → 腫瘍の中での攻撃、という一方向の流れ 抗原提示細胞 (APC) リンパ節(準備) CTLA-4 抗CTLA-4で解除 → より多くのT細胞が起動 T細胞 (活性化) 腫瘍の中(攻撃) PD-1 PD-L1 抗PD-1で解除 → 疲れたT細胞が再び攻撃 がん細胞を 攻撃

CTLA-4はリンパ節で「準備」を、PD-1は腫瘍の中で「攻撃」を抑えるブレーキです。抗CTLA-4抗体と抗PD-1抗体はそれぞれ別の段階でブレーキを外すため、組み合わせると効果が補い合います。

💡 用語解説:プライミングとエフェクター

プライミングとは、リンパ節でT細胞が「敵(がん)はこういう顔をしている」と教わって、戦える状態に目覚めることです。CTLA-4はこの段階で働くため、抗CTLA-4抗体を使うとより幅広い種類のT細胞が新しく動員されます。一方エフェクターとは、目覚めたT細胞が実際に腫瘍の中で戦う段階のこと。PD-1はここで働くため、抗PD-1抗体はすでに疲れて動けなくなったT細胞を再び元気にするのが得意です。この役割分担こそ、2剤を併用する根拠になっています。

この機能の違いは、効果だけでなく副作用にも表れます。CTLA-4阻害は免疫を大きく再編成させる力が強い反面、腸・肝臓・下垂体(ホルモンの司令塔)などの自己免疫的な副作用が増えやすい傾向があります。一方、抗PD-1単剤は一般に比較的おだやかですが、免疫の力が弱いがんやT細胞が入り込めないタイプのがんには単独では力が届きにくい、という限界があります。

4. 主な薬剤:商品名と対象になるがん

現在の臨床では、PD-1阻害剤が治療の主軸になり、CTLA-4阻害剤は「PD-1阻害剤と組み合わせる相棒」として使われることが多くなっています。代表的な薬剤を整理すると、次のようになります。なお、ここに挙げる対象がんは代表例であり、すべての適応や承認の経緯を網羅したものではありません。

一般名(商品名) 標的 主な対象がん(代表例)
ニボルマブ(オプジーボ) PD-1 悪性黒色腫・腎細胞がん・肺がん・胸膜中皮腫・大腸がん(MSI-H/dMMR)・肝細胞がん など
ペムブロリズマブ(キイトルーダ) PD-1 肺がん・頭頸部がん・尿路上皮がん・大腸がん(MSI-H/dMMR)など
セミプリマブ(リブタヨ) PD-1 進行皮膚有棘細胞がん・基底細胞がん・一部の肺がん など
ドスタルリマブ(ジェムパリ) PD-1 dMMR/MSI-Hの子宮体がん・dMMR固形がん など
イピリムマブ(ヤーボイ) CTLA-4 併用の中核:黒色腫・腎細胞がん・肺がん・中皮腫・大腸がん・肝細胞がん
トレメリムマブ(イジュド) CTLA-4 主にPD-L1抗体デュルバルマブとの併用(肝細胞がん・肺がん)

ひとつ注意したいのは、トレメリムマブはCTLA-4阻害剤ですが、現在の主な使い方はPD-L1抗体(デュルバルマブ)との併用であるという点です。つまり厳密には「PD-1+CTLA-4」ではなく「PD-L1+CTLA-4」の組み合わせにあたります。PD-1とPD-L1は、同じ握手の「手」と「相手の手」の関係なので、どちらをブロックしても似た効果が得られます。

5. 単剤と併用:深い効果と重い副作用のトレードオフ

PD-1阻害剤を1剤だけ使う「単剤治療」は、適応が広く、比較的おだやかな治療指数(効果と副作用のバランス)を示します。これに対して、PD-1とCTLA-4を組み合わせる「併用治療」は、より深い奏効と長い生存が期待できる反面、副作用がはっきり増えるという特徴があります。たとえば悪性黒色腫の代表的な試験では、併用群と単剤群で重い副作用(グレード3〜4)の頻度に大きな差がみられました。

悪性黒色腫における重い副作用(グレード3〜4)の頻度

PD-1単剤とPD-1+CTLA-4併用の比較(代表的な目安)

約21%
約59%

PD-1単剤

PD-1+CTLA-4併用

併用は深い効果が狙える一方、重い副作用の頻度がおよそ3倍近くになります。効果と副作用のどちらを優先するかは、がんの種類・進行度・全身状態によって慎重に判断されます。

この「効果と毒性のトレードオフ」を上手にあやつるために、実際の治療ではがんの種類ごとにイピリムマブの量や投与間隔が変えられています。たとえば悪性黒色腫では、より高い免疫の立ち上げと深い奏効を狙って「高用量イピリムマブ主導」の組み合わせが用いられます。これに対して腎細胞がん・中皮腫・肺がん・大腸がんなどでは、副作用を抑えつつCTLA-4の補助効果だけを引き出すため「低用量イピリムマブ主導」の設計が選ばれる傾向があります。同じ2剤併用でも、がん種に合わせた“最適点”が異なるのです。

2025年には、切除できない・転移した肝細胞がんの一次治療として、ニボルマブ+イピリムマブの併用が米国・日本で承認されました。歴史的に併用が後退していた領域で、CTLA-4併用が“再び存在感を取り戻した”がん種といえます。さらに最近では、転移したがんの治療だけでなく、手術の前に投与して切除を成功しやすくする「術前治療」や、臓器を温存する治療へと、PD-1/CTLA-4併用の活躍の場が広がりつつあります。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「強い治療」が誰にとっても正解とは限りません】

私はがん薬物療法専門医として、成人のがん治療と遺伝性腫瘍の両方に長く向き合ってきました。免疫チェックポイント阻害剤の登場は、たしかに画期的でした。けれども外来でいつも感じるのは、「より強い治療=より良い治療」では必ずしもない、ということです。併用で深い効果が出る方がいる一方で、重い腸炎や甲状腺の障害、ホルモンの異常に長く付き合うことになる方もいます。

大切なのは、その方のがんの性質・体力・価値観に合わせて、「どこまでの免疫の強さを、どのくらい許容するか」を一緒に決めていくことだと考えています。数字の上での効果の大きさだけでなく、治療と暮らしのバランスまで含めて相談できる関係を、私はいつも大事にしています。

6. どんながんに効くか:効きやすさを予測する「目印(バイオマーカー)」

免疫チェックポイント阻害剤は、すべてのがんに同じように効くわけではありません。そこで重要になるのが、「この患者さんには効きやすそうだ」と予測するための目印(バイオマーカー)です。現時点で最も信頼できる目印がMSI-H/dMMRです。

💡 用語解説:MSI-H/dMMR とミスマッチ修復(MMR)

私たちの細胞は、DNAをコピーするたびに小さな“写し間違い”をしますが、それを直す校正係がミスマッチ修復(MMR)という仕組みです。この校正係が壊れている状態をdMMR(ディーエムエムアール=ミスマッチ修復欠損)と呼びます。

校正係が働かないと、DNAの中の短い繰り返し配列(マイクロサテライト)の長さがバラバラになります。この“ほつれ”が目立つ状態がMSI-H(マイクロサテライト不安定性が高い)です。dMMRとMSI-Hはほぼ同じことを別の角度から見た言葉だと考えてよいです。

校正係が壊れたがんは変異がたくさん溜まり、その結果「いかにも異物らしい目印」を大量に表面に出すため、免疫がとても見つけやすくなります。だからMSI-H/dMMRのがんは、免疫チェックポイント阻害剤がよく効くのです。

MSI-H/dMMRは、特定のがんの種類に限らず「どの臓器のがんでも」効きやすさを予測できるという点で、際立って再現性の高い目印です。大腸がんでは、MSI-H/dMMRの一次治療としてPD-1阻害剤が標準化学療法を上回る成績を示し、PD-1+CTLA-4併用ではさらに深い効果が報告されています。

💡 用語解説:PD-L1とCPS/TPS

PD-L1は、がん細胞などが表面に出す「攻撃しないで」の合図です。これがどのくらい出ているかを調べると、効きやすさのヒントになります。その量を数値化したものがTPS(がん細胞だけを数える指標)やCPS(がん細胞と周囲の免疫細胞も合わせて数える指標)です。

ただしPD-L1は万能ではありません。どのがんで、どの検査キットで、どの数値を区切りにするかによって意味が変わるため、「PD-L1が高ければ必ず効く」とは言えない、条件つきの目安です。たとえば肺がんではTPS、頭頸部がんではCPSが使い分けられています。

3つめの目印が、がんが持つ変異の総量を表すTMBです。生物学的には理にかなっており、米国では「TMBが高い固形がん」への承認もあります。ただし、測定方法やカットオフ(区切りの値)、がん種ごとの意味のばらつきといった課題があり、TMB単独で治療を決めるには限界がある、というのが現状の理解です。

💡 用語解説:TMB(腫瘍遺伝子変異量)

TMB(Tumor Mutational Burden=腫瘍遺伝子変異量)とは、がん細胞のDNAにどれだけたくさんの変異が溜まっているかを示す数値です。変異が多いほど、がんは免疫から見て“異物らしい”特徴をたくさん持つので、免疫チェックポイント阻害剤が効きやすいと考えられます。ただし、同じ「変異の数」でもがんの種類によって意味が違い、測定する検査パネルによっても数値がぶれます。そのため、MSI-H/dMMRほど臨床判断の決め手にはならない、補助的な目印と位置づけられています。

7. 副作用:免疫関連有害事象(irAE)を正しく知る

免疫チェックポイント阻害剤の副作用は、ふつうの抗がん剤とは性質が違います。免疫のブレーキを外す薬なので、高ぶった免疫が自分の正常な臓器を攻撃してしまうことがあるのです。これを免疫関連有害事象(irAE)と呼びます。

💡 用語解説:免疫関連有害事象(irAE)

免疫関連有害事象(irAE:immune-related Adverse Events)とは、免疫の力が強まりすぎて、自分自身の正常な臓器に「自己免疫」のような炎症が起きてしまう副作用のことです。皮膚・腸・甲状腺・肺・肝臓・ホルモン臓器など、全身のどこにでも起こりえます。多くは早めに気づいてステロイドなどで適切に対応すれば管理できますが、まれに心臓(心筋炎)や神経の重い副作用は命にかかわることもあるため、いつもと違う症状(強い下痢、息切れ、激しい倦怠感など)に早く気づくことが何より大切です。

大まかな傾向として、CTLA-4阻害は下痢・大腸炎・肝障害・下垂体炎が多くPD-1/PD-L1阻害は甲状腺の障害や肺臓炎が比較的目立つとされます。そして併用すると、ほぼすべての臓器で副作用の頻度と重症度が押し上げられます。臓器ごとのおおよその傾向を整理すると、次のようになります。

臓器 起こりやすい症状・傾向 対応の考え方
皮膚 発疹・かゆみ。比較的早い時期に出やすく、併用で頻度上昇 軽症は保湿・塗り薬。広範囲・重症なら全身ステロイド
消化管 下痢・大腸炎。CTLA-4阻害で多い 感染を除外し、必要に応じ休薬とステロイド。難治例は別の免疫抑制薬
内分泌 甲状腺機能の異常・下垂体炎・副腎不全。下垂体炎はCTLA-4で多い ホルモンを評価し、必要なら補充療法。多くは長期の補充が必要
肝・肺 肝機能の上昇・自己免疫性肝炎、肺臓炎(PD-1/PD-L1で目立つ) 画像・採血で評価。中等症以上は休薬とステロイド
心・神経(まれ) 心筋炎・脳炎・重症筋無力症様症状など。頻度は低いが重篤 早期の専門科連携・入院。高用量ステロイドや追加の免疫抑制を躊躇しない

対応の基本は、症状が軽いうちは慎重に治療を続け、中等症以上では一時的に薬を休んで早めにステロイドで炎症を抑え、重症ならしっかりした入院対応を行う、という流れです。ここで知っておきたいのは、免疫チェックポイント阻害剤は原則として「減量」しないという点です。普通の抗がん剤のように量を減らして調整するのではなく、副作用が強いときは「休薬」または「中止」で対応するのが基本になっています。

8. なぜ効かないことがあるのか:抵抗性のしくみ

免疫チェックポイント阻害剤がよく効く人がいる一方で、最初から効かない人や、いったん効いても後から効かなくなる人もいます。この「効かない(抵抗性)」の背景には、ひとつの理由ではなく、複数の要因が重なっています。

まず重要なのが、抗原提示の破綻です。がんが「自分はこういう異物だ」という目印(抗原)をT細胞に見せられなくなると、いくらブレーキを外しても攻撃が成立しません。研究では、PD-1阻害剤に効かなくなった黒色腫で、免疫シグナルにかかわる遺伝子(JAK1/2)の異常や、抗原を提示する装置の部品であるB2Mの欠失が見つかっています。抗原を見せる仕組みが壊れたがんは、免疫の目から“隠れる”ことができてしまうのです。

💡 用語解説:抗原提示と「変異」

がん細胞が変異によって生み出した“異物の目印”を、細胞の表面に掲げてT細胞に見せることを抗原提示といいます。アミノ酸が1つだけ別のものに置き換わるミスセンス変異などによって、がんは正常細胞にはない“新しい目印(ネオアンチゲン)”を作ります。この目印が多いほど免疫に見つかりやすく、提示する装置が壊れるほど免疫から逃げやすくなります。T細胞がどのように目印を認識するかは、エピトープの解説ページでも詳しく扱っています。

もうひとつ注目されているのが、特定の遺伝子背景による抵抗性です。肺がんでは、STK11やKEAP1という遺伝子に変異があると、PD-1/PD-L1阻害だけでは効きにくいことが知られています。しかし2024年の研究では、こうしたがんに対してCTLA-4阻害を追加すると、抵抗性をやわらげられる可能性が示されました。これは、PD-1+CTLA-4併用が単に「より強い治療」なのではなく、特定の生物学的な抵抗性に合わせた“しくみ適合型”の組み合わせになりうることを意味しています。

このほか、腫瘍の周囲がT細胞を寄せつけない「免疫排除型」の環境になっていること、腸内細菌叢のバランス、そしてがん細胞そのものの性質など、さまざまな要因が抵抗性に関わります。今の研究は「もっと強く効かせる」よりも、「誰に、なぜ効くのか/効かないのか」を細かく分解する方向へと進んでいます。

9. 遺伝医療との接点:効きやすさの背景に「遺伝性のがん」が隠れていることがある

ここがこの記事で最もお伝えしたい点です。免疫チェックポイント阻害剤が効きやすい目印であるMSI-H/dMMRは、遺伝性のがんとつながっていることがあります。ミスマッチ修復(MMR)の校正係が壊れる原因のひとつが、生まれつきMMR遺伝子(MLH1・MSH2・MSH6・PMS2など)に変化を持っているリンチ症候群という遺伝性腫瘍だからです。

つまり、「免疫療法がよく効いた」という臨床上のうれしい出来事の裏に、本人やご家族の将来のがんリスクに関わる遺伝的な背景が隠れていることがあるのです。リンチ症候群は常染色体顕性(優性)遺伝の形をとり、血のつながったご家族にも同じ体質が受け継がれている可能性があります。だからこそ、MSI-H/dMMRのがんが見つかったときには、「治療の選択」だけでなく「遺伝性腫瘍の可能性をどう評価し、ご家族をどう守るか」という視点が大切になります。

こうした判断には、遺伝性腫瘍に関する遺伝子検査と、結果をどう受け止めて生きていくかを一緒に考える遺伝カウンセリングが欠かせません。検査を受けるかどうか、結果を家族にどう伝えるかは、決して「受けるべき」と押しつけられるものではなく、ご本人とご家族が情報を理解したうえで、自分たちで決めていくものです。私たちはその意思決定に、中立的な立場で伴走します。

仲田洋美院長

🩺 院長コラム【「効いた」のその先に、ご家族の物語があります】

成人の遺伝性腫瘍カウンセリングを行う立場として、私はMSI-H/dMMRという言葉を見ると、いつもその先のご家族のことを考えます。免疫療法がよく効いたという事実は、患者さんにとって希望ですが、同時に「リンチ症候群かもしれない」というサインでもあります。原因がわかれば、ご本人の別のがんの早期発見にも、お子さんやごきょうだいの検診計画にもつなげられます。

大切なのは、これを「不安をあおる話」にしないことです。遺伝性とわかることは、決して運命の宣告ではなく、先回りして備えられるという強みになります。臨床遺伝専門医として、検査を受けるかどうかも含めて、その方のペースで一緒に考えていくこと——それが、がん治療と遺伝医療をつなぐ私の役割だと思っています。

10. よくある誤解

誤解①「免疫の薬だから副作用が軽い」

体にやさしいイメージを持たれがちですが、実際は免疫が自分の臓器を攻撃する独特の副作用(irAE)があり、まれに命にかかわることもあります。とくに併用では重い副作用が増えます。「軽い治療」ではありません。

誤解②「どんながんにも効く魔法の薬」

効きやすさはがんの種類や目印(MSI-H/dMMR、PD-L1など)に大きく左右されます。効かない人や、後から効かなくなる人もいます。万能薬ではなく、「合う人に使う」治療です。

誤解③「強い併用ほど必ず良い」

併用は深い効果が狙える反面、副作用も大きく増えます。がんの種類・進行度・体力によっては単剤の方が適していることもあります。強さと安全性のバランスを見て選びます。

誤解④「効いたなら遺伝は関係ない」

MSI-H/dMMRでよく効いた場合、その背景にリンチ症候群という遺伝性のがんが隠れていることがあります。ご家族のためにも、遺伝性腫瘍の評価や遺伝カウンセリングを検討する価値があります。

よくある質問(FAQ)

Q1. PD-1阻害剤とCTLA-4阻害剤は、どちらが優れているのですか?

どちらが上ということではなく、働く段階が違うため役割が異なります。PD-1阻害剤は適応が広く比較的おだやかで、単剤治療の主役です。CTLA-4阻害剤は単独よりも、PD-1阻害剤と組み合わせて「より深い効果」を引き出す相棒として使われます。がんの種類・進行度・全身状態に応じて、単剤か併用かが選ばれます。

Q2. 自分のがんに免疫チェックポイント阻害剤が効くかどうかは、事前にわかりますか?

完全に予測することはできませんが、効きやすさの目印(バイオマーカー)があります。最も信頼性が高いのがMSI-H/dMMRで、これは臓器を問わず効きやすさを予測します。そのほかPD-L1(条件つき)やTMB(補助的)も用いられます。これらは病理検査やがん遺伝子検査で調べられ、治療方針を決める材料になります。

Q3. 副作用が出たら、薬の量を減らして続けるのですか?

いいえ。免疫チェックポイント阻害剤は、ふつうの抗がん剤と違って原則として減量しません。副作用が軽いうちは慎重に継続し、中等症以上では一時的に休薬してステロイドで炎症を抑え、重症なら中止する、という対応が基本です。いつもと違う症状(強い下痢、息切れ、激しい倦怠感など)に早く気づき、すぐ主治医に伝えることが大切です。

Q4. MSI-H/dMMRと言われました。これは遺伝性のがんということですか?

MSI-H/dMMRには、後天的に生じる場合と、生まれつきのリンチ症候群が背景にある場合があります。MSI-H/dMMRと判明したことは「必ず遺伝性」を意味しませんが、遺伝性腫瘍の可能性を一度きちんと評価する価値があるサインです。ご家族のリスク評価にもつながるため、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングや遺伝子検査を検討する意義があります。

Q5. ミネルバクリニックで免疫チェックポイント阻害剤の治療は受けられますか?

免疫チェックポイント阻害剤による抗がん治療そのものは、がん治療を行う病院で実施されます。当院は臨床遺伝専門医・がん薬物療法専門医として、MSI-H/dMMRなどの背景にある遺伝性腫瘍の評価、遺伝子検査、遺伝カウンセリングを担う役割を得意としています。治療と遺伝医療の橋渡しについて知りたい方は、遺伝子検査についてをご覧ください。

Q6. トレメリムマブは「PD-1+CTLA-4」併用ではないのですか?

トレメリムマブはCTLA-4阻害剤ですが、現在の主な使い方はPD-L1抗体であるデュルバルマブとの併用です。そのため厳密には「PD-L1+CTLA-4」の組み合わせにあたります。PD-1とPD-L1は同じ握手の「手」と「相手の手」の関係なので、どちらを止めても似た効果が得られます。

Q7. PD-L1が高ければ、必ず効くのですか?

いいえ。PD-L1は効きやすさの目安にはなりますが、万能ではありません。どのがんで、どの検査キットで、どの数値を区切りにするかによって意味が変わります。たとえば肺がんではTPS、頭頸部がんではCPSという別々の指標が使われます。PD-L1が高くても効かないことも、低くても効くこともあるため、ほかの情報と合わせて総合的に判断されます。

Q8. 肝臓がんでも免疫チェックポイント阻害剤の併用が使えると聞きました。

はい。2025年に、切除できない・転移した肝細胞がんの一次治療として、ニボルマブ+イピリムマブの併用が米国・日本で承認されました。歴史的にCTLA-4併用が後退していた領域で、再び存在感を取り戻したがん種です。なお、デュルバルマブ+トレメリムマブという別の組み合わせも、肝細胞がんの主要な選択肢のひとつになっています。

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参考文献

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仲田洋美 医師(臨床遺伝専門医)

この記事の監修・執筆者:仲田 洋美

(臨床遺伝専門医/がん薬物療法専門医/総合内科専門医)

ミネルバクリニック院長。1995年に医師免許を取得後、 臨床遺伝学・内科学・腫瘍学を軸に診療を続けてきました。 のべ10万人以上のご家族の意思決定と向き合ってきた臨床遺伝専門医です。

出生前診断(NIPT・確定検査・遺伝カウンセリング)においては、 検査結果の数値そのものだけでなく、 「結果をどう受け止め、どう生きるか」までを医療の責任と捉え、 一貫した遺伝カウンセリングと医学的支援を行っています。

ハイティーンの時期にベルギーで過ごし、 日本人として異文化の中で生活した経験があります。 価値観や宗教観、医療への向き合い方が国や文化によって異なることを体感しました。 この経験は現在の診療においても、 「医学的に正しいこと」と「その人にとって受け止められること」の両立を考える姿勢の基盤となっています。

また、初めての妊娠・出産で一卵性双生児を妊娠し、 36週6日で一人を死産した経験があります。 その出来事は、妊娠・出産が女性の心身に与える影響の大きさ、 そして「トラウマ」となり得る体験の重みを深く考える契機となりました。 現在は、女性を妊娠・出産のトラウマから守る医療を使命の一つとし、 出生前診断や遺伝カウンセリングに取り組んでいます。

出生前診断は単なる検査ではなく、 家族の未来に関わる重要な意思決定です。 年齢や統計だけで判断するのではなく、 医学的根拠と心理的支援の両面から、 ご家族が後悔の少ない選択をできるよう伴走することを大切にしています。

日本人類遺伝学会認定 臨床遺伝専門医/日本内科学会認定 総合内科専門医/ 日本臨床腫瘍学会認定 がん薬物療法専門医。 2025年には APAC地域における出生前検査分野のリーダーとして国際的評価を受け、 複数の海外メディア・専門誌で特集掲載されました。

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