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バニシングツインとは|生き残り胎児に障害は?母体への影響は?
バニシングツインとは
「バニシングツイン」とは、双子以上の多胎妊娠の赤ちゃんが非常に早期に失われた結果として生じる単胎妊娠を意味する用語です。超音波上、双子が一人消失するためバニシングツインと言います。バニシングツインは多くの場合、体外受精に関係しておこり、膣からの出血を伴うこともあります。
上の画像はバニシングツイン症候群の超音波画像ですが、片方の胎嚢がかなり小さく、未発達な双子の妊娠を示しています。 左上:3D USの直交平面とイメージレンダリング。 右上:HDLiveで2つの胎嚢の違いがはっきりとわかります。 下図:胎嚢の体積を自動計算し、消失した胎嚢を青色で表示しています。
バニシングツインの原因
失われた(バニッシング)赤ちゃんのダウン症などの染色体異常が原因で発生するケースもありますが、ほとんどのケースでは原因はわかっていません。 バニシングツインの原因となる異常は、突然発生するのではなく、発育の早い段階から存在するようです。
バニシングツインが起きる時期
バニシングツインが起きるのは、妊娠初期の妊娠6~8週目頃がほとんどです。その頃を過ぎるまで周りに報告するのは控えたほうがいいでしょう。ただし、妊娠中期の4か月以降に起こることもあるので油断してはいけません。
もし妊娠後期以降に双子の片方が亡くなってしまった場合、一般的にはバニシングツインとは言いません。また妊娠初期には、双子でなくても流産が起きる確率が高い時期です。
バニシングツインが起こる妊娠初期は単胎妊娠と同じく、心身ともにデリケートな時期なのでもし流産をしてもご自分を責めないでください。
バニシングツインの生き残り胎児への影響は?
生き残った双子の予後は良好ですが、もう一人の双子の死因にもよります。 バニシングツインの生き残りの健康状態については議論がありますが、双子が消滅した後は、妊娠中の問題が発生するリスクが高くなる可能性があるというエビデンスがあります。いくつかの研究では、双子がいない赤ちゃんや健康な双子の赤ちゃんと比較して、双子がいなくなった赤ちゃんを調べています。 いくつかの結果が報告されていますが、一般的には、双子の片割れが1人消えた赤ちゃんの方が、先天性障害や合併症のリスクが高いようです。リスクの増加は、妊娠6週から8週の間に双子を失った場合に最も多く見られるようです。 バニシングツインで生き残った赤ちゃんの合併症には以下のものがあります。
- 脳性麻痺などの先天性異常のリスクが高くなる
- 子宮内発育制限(IUGR):妊娠中に赤ちゃんが思うように成長しない状態
- 超低出生体重児
- 低いアプガースコア(APGARスコア)
※参考文献:NIH (アメリカ国立衛生研究所) |Maternal and perinatal outcomes of dichorionic diamniotic twin pregnancies diagnosed with vanishing twin syndrome: a retrospective analysis from a single clinical center - 周産期死亡(死産、乳児死亡)
これらの理由から、バニシングツインがあった場合、より注意深く妊娠管理をする必要があります。ただし、バニシングツインのほとんどのケースでは、生き残った赤ちゃんには悪影響がないことを知っておくことも重要です。 特に一つの胎盤を共有している一絨毛膜一羊膜と一絨毛膜二羊膜性に関してはバニシングツインによって大きな影響をもたらします。
バニシングツインによる母体への影響
双子を失った場合、膣からの出血などの流産症状を伴うケースがあります。hCG値が正常に発育している双子の妊娠で予想されるよりも低いなどで疑われます。
ごく初期のケース(初期の超音波検査の前に双子が消失した場合)では、妊婦さん、産婦人科医ともにこの症状が発生したことに気が付かない可能性があります。
一般的に、特に妊娠初期にバニシングツインが発生した場合、母体や生き残り胎児への治療や特別な対応は必要ありませんが、妊娠糖尿病の発生が多いという研究報告があります。
バニシングツインの確率は?
近年、バニシングツインが大幅に増加しているように見受けられます。バニシングツインの多くは、早期に超音波検査を行わなければ発見されないため、超音波診断技術の進歩と普及がバニシングツインの増加の理由の一つと考えられます。
また、不妊治療が一般的になってきており、多胎の可能性が高くなってきていることと、不妊治療では特に生殖補助医療(特に体外受精)の場面では早めに妊娠検査薬をチェックしたり、陽性なら血液のhCGを検査したり、早くから胎嚢を確認したりするため、自然妊娠よりもバニッシングする前のツインを発見しやすくなっていて、バニシングツインがより見つかりやすくなっています。
近年の生殖補助医療の普及もバニシングツインの増加の要因の一つと考えられています。
バニシングツインは、妊娠12週目までに、2胎妊娠の約36%、3胎以上の妊娠の50%以上に発生するという研究結果があります。しかし、バニシングツインが見つからずに発生することが多いことから、バニシングツインはさらに多いのではないかと考えられています。
一卵性双生児のバニシングツインの確率は?
妊娠6週から8週の間のバニシングツインの率は、一卵性双生児で50%と非常に高いと報告されています。
二卵性双生児のバニシングツインの確率は?
妊娠6週から8週の間のバニシングツインの率は、二卵性双生児で21%と報告されています。
三つ子のバニシングの確率は?
トリプレットの報告では胎嚢および胚のほぼ90%が妊娠7週目でバニッシングと報告されています。
バニシングツインの予防法
バニシングツインの予防法があるのかどうか知りたいという思いがあるでしょう。もしあるなら2人とも元気に生んであげたいと考えるのがママの気持ちです。しかし残念ながらバニシングツインの発生を防ぐための予防法はありません。主な原因は、胚の発生途上の遺伝子の働きが中断してしまうためであると考えられています。そのため母体やパートナーが何かしてあげられることがないのが現状です。
バニシングツインで1人が消滅しなかった例
実はバニシングツインでも双子が消えなかったケースがあります。2013年にアメリカのロサンゼルスで脳腫瘍の摘出手術を受けた女性の腫瘍から骨、髪、歯がしっかりと確認されました。なんと腫瘍が胎児でバニシングツインで亡くなった双子の一人だったのです。生き残れなかった胚芽や胎児は普通であれば母体の中に自然に吸収されてしまうのでかなりのレアケースと言えます。
ただ妊娠15週から20週の間に双子の片方が消失した場合、胎児が紙様になって残ることがあります。まれに、生き残った双子の胎児に、髪の毛や歯などの胎児組織の残骸がある奇形腫が発生することがあります(これは赤ちゃんにとって危険ではありません)。
妊娠12週以降にバニシングツインが起きたら
バニシングツインとは基本的には12週以前という妊娠初期に発生します。妊娠の後期になって双胎の片方が胎児死亡に陥っても、バニシングツインとは呼びません。心拍が見えた後にバニッシングすることもあります。妊娠17週目でバニシングが起きた症例もありますので珍しくはありません。もし不幸にも12周目以降でバニシングが起きてしまったら12週以前と同じように自然吸収を待つのがいいでしょう。
亡くなった胎児が胎内に残っている間に感染源にはなりません。前期破水の原因になることもありませんので吸収されるのをお待ちください。
生き残った胎児は二重人格になる?
インターネット上でバニシングツインを検索すると「二重人格」という文字が一緒に表示されることがあります。見てみるとバニシングツインで生き残った方の子どもが二重人格になるのでは?という不安があるようです。その理由はバニシングツインで生き残ったほうが主人公で二重人格になった「バニシング・ツイン ~私の中の君~」というタイトルの漫画があります。どうやらその漫画が影響しているようです。
ただ現在までバニシングツインで生き残った胎児が二重人格になるという例はありません。二重人格者になる医学的な根拠はありません。なぜなら生き残れなかった胚芽や胎児は普通であれば母体の中に自然に吸収されてしまいます。その頃の胎児は人格を形成していませんので二重人格になる要素がありません。
バニシングツインを理解するために|双胎(ツイン)の分類
双胎(ツイン・双子・双生児)には一卵性と二卵性とがあります。
双胎妊娠(双子・双生児・ツイン、2人の赤ちゃんを妊娠していること)には一卵性双胎と二卵性双胎とがあり、二卵性双胎は2個の受精卵から発生したものです。胎盤が2個あるため二絨毛膜二羊膜となります。
一卵性双胎は1個の受精卵が分裂することによって発生します。分裂の時期により二絨毛膜二羊膜、一絨毛膜二羊膜、一絨毛膜一羊膜のいずれかとなります。
多胎はそれだけで早産や胎児発育不全などのリスクが高くなるのですが、とりわけ絨毛膜が一つしかないタイプの双胎はリスクが増すとされているためです。妊娠10週を過ぎて赤ちゃんが大きくなると膜がくっついて見えにくくなることから、妊娠のなるだけ早い時期にこの膜性(絨毛膜性、羊膜性、膜が何個あるのか)を診断することは双胎の妊娠管理の上で非常に重要となります。
検査を受けるときには事前に医師に伝える必要があります。もし事前カウンセリングをしていないクリニックだと、判断を誤る可能性があるので医院選びの際は事前カウンセリングをしているところを選ぶようにしましょう。
バニシングツインになってもNIPT(新型出生前診断)は受けられるのか?
バニシングツインを経験した妊婦さんでもNIPTを受けることは可能です。NIPTは、妊婦の血液中にある胎児のDNAにある各染色体の本数を調べる検査です。胎児のDNAが残っていなければ問題ありません。
バニシングツインの場合、片方の胎児がお母さんの体に吸収され、消失するため影響する可能性は低いといえます。一卵性双生児だと同じDNAのためもし残っていても検査に支障が出ないでしょう。ただ、二卵性双生児で胎児のDNAが残っていた場合は偽陽性が出るので注意が必要です。
まとめ
バニシングツインは医学的には決して珍しいものではありませんが、妊婦さんは戸惑うことでしょう。正しく理解して、失った赤ちゃんを悲しむこともその赤ちゃんに思いをはせるということで重要ですが、無事に宿っている生き残った命を楽しみにすることは決して失った赤ちゃんに失礼ではあり>。心配しすぎるとおなかの赤ちゃんに障ります。原因もはっきりしておらず予防法もないので前向きに出産にむかって歩んでください。 また、NIPT(新型出生前診断)の際にはバニシングツインは性別違いの重要な原因となります。