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リンパ脈管筋腫症(Lymphangioleiomyomatosis:LAM)は、主に妊娠可能年齢の女性に発症し、肺・腎臓・リンパ系などにLAM細胞という異常な細胞が増殖する稀少な全身性腫瘍性疾患です。病態の中心には、TSC1・TSC2遺伝子の機能喪失とmTORC1経路の異常活性化があります。肺には多数の薄壁嚢胞が形成され、息切れや反復性気胸を起こしますが、現在では血清VEGF-Dを用いた非侵襲的診断と、mTOR阻害薬シロリムスによる分子標的治療が確立しています。この記事では、LAMの分子病態、症状、診断、治療、遺伝、予後、妊娠、出生前診断までを、臨床遺伝学と腫瘍生物学の両面から詳しく解説します。
Q. リンパ脈管筋腫症(LAM)とは何ですか?
A. LAMは、TSC1またはTSC2遺伝子の機能喪失によってmTORC1シグナルが過剰に活性化し、主に女性の肺・腎臓・リンパ系にLAM細胞が増殖する稀少な腫瘍性疾患です。孤発性LAM(S-LAM)と結節性硬化症に伴うTSC-LAMがあり、遺伝形式は両者で異なります。診断ではHRCTと血清VEGF-Dが重要で、治療の中心はmTOR阻害薬シロリムスです。
- ➤2つのタイプ → 孤発性LAM(S-LAM)と結節性硬化症関連LAM(TSC-LAM)
- ➤分子病態 → TSC1/TSC2機能喪失 → Rheb活性化 → mTORC1恒常的活性化
- ➤診断 → 高分解能CT(HRCT)+血清VEGF-Dが重要
- ➤治療 → シロリムスが肺機能低下を抑制
- ➤遺伝 → S-LAMは通常遺伝せず、TSC-LAMは常染色体優性遺伝
- ➤日本 → 指定難病89に指定され、重症度に応じ医療費助成の対象
🧬 LAMの基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | リンパ脈管筋腫症(Lymphangioleiomyomatosis:LAM) |
| 主な発症層 | 主に妊娠可能年齢の女性。男性の孤発性LAMは極めて稀 |
| 主な原因遺伝子 | TSC1、TSC2 |
| 中心的経路 | TSC1/TSC2複合体機能喪失 → Rheb活性化 → mTORC1異常活性化 |
| 主な臓器 | 肺、腎臓、リンパ系 |
| 主な症状 | 労作時息切れ、反復性気胸、乳び胸水、腎血管筋脂肪腫など |
| 診断の鍵 | HRCT、血清VEGF-D、臨床所見、必要に応じ病理 |
| 標準治療 | mTOR阻害薬シロリムス |
| 日本での位置づけ | 指定難病89 |
1. リンパ脈管筋腫症(LAM)とは
LAMは、平滑筋に似た形態をもつLAM細胞が肺・腎臓・リンパ系などに増殖する稀な全身性疾患です[1]。特に肺では、LAM細胞の増殖と周囲組織の破壊によって多数の薄壁嚢胞が形成され、進行すると気流制限やガス交換障害を起こします。
現在の理解では、LAMは単なる「原因不明の嚢胞性肺疾患」ではありません。TSC1/TSC2遺伝子の機能喪失を背景に、細胞増殖・代謝を制御するmTORC1経路が異常に活性化する低悪性度の転移性腫瘍性疾患として位置づけられています[3][6]。
LAMには2つのタイプがある
| 特徴 | 孤発性LAM(S-LAM) | TSC関連LAM(TSC-LAM) |
|---|---|---|
| 背景 | 結節性硬化症を伴わず単独で発症 | 結節性硬化症(TSC)の一部として発症 |
| 変異 | LAM細胞に生じる体細胞変異が中心 | 生殖細胞系列TSC1/TSC2変異+二次的な機能喪失 |
| 遺伝 | 通常は遺伝しない | 常染色体優性遺伝 |
| 全身病変 | 肺・腎AML・リンパ系病変など | 脳、皮膚、腎、肺などTSC特有の全身病変を伴う |
S-LAMでは主にTSC2の体細胞変異がみられ、同一患者の複数病変から同じ遺伝子変化が検出されることがあります。これはLAM細胞がある部位から別の部位へ広がる、すなわち転移性の挙動を示すことの遺伝学的な根拠の一つです[5][6]。
2. TSC1・TSC2とmTORC1 ─ LAMの分子病態
TSC1遺伝子はハマルチン、TSC2遺伝子はチュベリンというタンパク質をコードします。正常細胞ではハマルチンとチュベリンが複合体を形成し、低分子量GTPアーゼRhebを抑制することでmTORC1を適切に制御しています[3]。
複合体
タンパク質合成
LAM細胞ではTSC1またはTSC2の両アレルの機能が失われるため、Rhebへのブレーキが解除され、mTORC1が恒常的に活性化します。その結果、タンパク質翻訳、リボソーム生合成、脂質合成、細胞成長・増殖が持続的に促進されます[3][6]。
💡 用語解説:ツーヒット説
腫瘍抑制遺伝子では、2つある遺伝子コピーの両方の機能が失われることで細胞増殖の制御が壊れることがあります。TSC-LAMでは生まれつき一方のTSC1/TSC2に病的変異をもつ場合があり、残る正常アレルが後天的に失われることでLAM病変が形成されます。S-LAMではこの2つの変化がLAM細胞内で後天的に生じます。
LOH(ヘテロ接合性の消失)
TSC-LAMでは、生殖細胞系列のTSC1/TSC2変異が第一ヒットとなり、残っていた正常アレルが失われるLOHが第二ヒットとなることがあります。S-LAMでも、体細胞変異とLOHの組み合わせが認められます[5]。
3. エストロゲン・リンパ管新生・「良性転移」
LAMがほぼ女性に限定して発症し、妊娠中に悪化することがあるという特徴は、女性ホルモン、とくにエストロゲンが病態に深く関与することを示しています[13]。
エストロゲンはLAM細胞において、MEK/ERK系、Akt系、mTORC1系など複数のシグナル経路とクロストークし、細胞増殖・生存・移動・代謝を促進すると考えられています。またMMP-2、MMP-9、カテプシンKなどの組織分解酵素の発現を促し、肺の細胞外マトリックスや弾性線維の破壊に関与します[13]。
機能喪失
過剰活性化
シグナル
肺組織破壊
LAM細胞ではVEGF-DやVEGF-Cといったリンパ管新生因子も関与します。リンパ管形成の亢進はLAM細胞の移動・播種に関係すると考えられており、実際、肺移植後のドナー肺にレシピエント由来LAM細胞が再び出現した症例が報告されています[3]。
💡 LAMは「良性」でも単純な良性腫瘍ではない
LAM細胞は組織学的には強い悪性所見を示さない一方、血液やリンパ路を介して別の部位へ広がり、そこで病変を形成する性質があります。そのため現在は、単純な良性疾患ではなく、低悪性度の転移性腫瘍性疾患として理解されています。
🩺 院長コラム【遺伝学と腫瘍学が交わる病気】
LAMを理解するとき、私は「遺伝性疾患」と「腫瘍性疾患」を別々に考えないことが大切だと思っています。TSC1/TSC2という腫瘍抑制遺伝子の異常が、mTORC1の暴走を通じて細胞増殖に結びつき、さらに女性ホルモンやリンパ管新生が病勢を修飾します。
分子機序が明らかになったことで、シロリムスという合理的な治療標的が生まれました。LAMは「分子の仕組みを理解することが、そのまま診断と治療につながった」代表的な疾患の一つです。
4. LAMの主な症状 ─ 肺・リンパ・腎臓
肺症状:息切れと反復性気胸
最も多い症状は労作時の息切れで、進行すると日常生活でも呼吸困難を感じるようになります。肺の薄壁嚢胞が破裂すると自然気胸を起こし、再発を繰り返すことがあります[16]。
- 労作時呼吸困難:肺実質の破壊と気流制限、ガス交換障害によって起こります。
- 気胸:薄壁嚢胞の破裂により発症し、再発しやすいのが特徴です。
- 咳・痰・血痰:非特異的症状で、喘息やCOPDと誤診されることもあります。
リンパ系の症状
リンパ管の閉塞や破綻により、乳び胸水、乳び腹水、リンパ脈管筋腫、リンパ浮腫などが起こります。乳び胸水では脂肪を多く含むリンパ液が胸腔に貯留し、呼吸困難の原因になります。
腎血管筋脂肪腫(AML)
LAMでは腎血管筋脂肪腫(angiomyolipoma:AML)を合併することがあります。特にTSC-LAMで頻度が高く、腫瘍径、増大速度、腫瘍内動脈瘤、症状などを総合して出血リスクを評価します[12]。
💡 血管筋脂肪腫の評価
かつては腫瘍径4cmが治療判断の目安として強調されましたが、実際には大きさだけでなく、増大傾向、腫瘍内血管、動脈瘤、症状、出血歴などを総合して判断します。
5. 診断 ─ HRCT・病理・血清VEGF-D
LAMの診断では、症状、高分解能CT(HRCT)、血清VEGF-D、TSCや腎AMLなどの関連所見、必要に応じ病理を組み合わせます[9][10]。
高分解能CT(HRCT)
典型的には両肺にびまん性に分布する、多数の薄壁で境界明瞭な嚢胞を認めます。ただし、CT所見だけでLAMと確定するのではなく、他の嚢胞性肺疾患との鑑別が重要です。
血清VEGF-D
VEGF-D(vascular endothelial growth factor-D)はリンパ管新生に関与するタンパク質で、LAM患者では血清濃度が上昇することがあります。ATS/JRSガイドラインでは、特徴的なCT所見を有する患者で血清VEGF-D 800 pg/mL以上を用いた非侵襲的診断が推奨されています[9]。
⚠️ VEGF-Dが低くてもLAMは否定できない
VEGF-Dは診断特異度の高い検査ですが、800 pg/mL未満でもLAMを除外することはできません。臨床所見、画像所見、必要に応じ病理診断を組み合わせて判断します。
病理
LAM細胞は平滑筋系マーカーであるα-SMAや、メラノサイト系マーカーHMB-45などを発現します。エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)が陽性となる場合もあります[11]。
日本の指定難病89と重症度分類
日本ではLAMは指定難病89です[1][2]。重症度は呼吸機能、PaO2、気胸、腎AML、乳び胸水・乳び腹水、リンパ系合併症などをもとに総合的に評価されます。
| 重症度 | 呼吸機能の目安 | 臨床的な位置づけ |
|---|---|---|
| I | PaO2 ≥80 かつ FEV1 ≥80% | 比較的軽症 |
| II | PaO2 70〜79 または FEV1 70〜79% | 医療費助成判定上重要な区分 |
| III | PaO2 60〜69 または FEV1 40〜69% | 中等度〜高度障害 |
| IV | PaO2 <60 または FEV1 <40% | 高度呼吸障害 |
※実際の指定難病重症度判定では、呼吸機能だけでなく、気胸、腎血管筋脂肪腫、乳び胸水・乳び腹水、リンパ浮腫、リンパ脈管筋腫などを含めて総合的に判断します。
6. 遺伝のしくみと家族へのリスク
LAMが遺伝するかどうかは、S-LAMとTSC-LAMで明確に異なります。
| 項目 | S-LAM | TSC-LAM |
|---|---|---|
| 病的変異 | LAM細胞に生じた体細胞変異 | TSC1/TSC2の生殖細胞系列変異を有する |
| 子への遺伝 | 通常は遺伝しない | 50%の確率で受け継がれる可能性 |
| 家族歴 | 通常なし | 家族歴がなくてもde novo変異があり得る |
TSC-LAMは常染色体優性遺伝ですが、家族歴がなくても本人で新たに生じたde novo変異の可能性があります。そのため「家族にTSCの人がいない」という理由だけでTSC-LAMを否定することはできません。
必要に応じ、皮膚、脳、腎臓などのTSC関連所見を評価し、十分な遺伝カウンセリングのうえでTSC1/TSC2遺伝学的検査を検討します。
🩺 院長コラム【「遺伝しない」と分かることにも意味がある】
遺伝診療では、「遺伝する病気かどうか」を区別することそのものが重要です。LAMでは、孤発性LAMとTSC-LAMで家族への意味が大きく異なります。
S-LAMであれば通常、TSCのような50%の次世代リスクを想定する必要はありません。一方TSC-LAMでは、ご本人だけでなくご家族の将来の健康管理や家族計画にも情報が関わります。正確に分類することが、不要な不安を減らすことにもつながります。
7. 治療 ─ シロリムスとMILES試験
LAM治療の中心はmTOR阻害薬シロリムスです。異常活性化したmTORC1を抑制することでLAM細胞の増殖シグナルを低下させます。
MILES試験
シロリムスの有効性を確立した代表的研究がMILES試験です[7]。肺機能障害を有するLAM患者を対象とした無作為化比較試験で、シロリムスはプラセボと比較してFEV1低下を有意に抑制しました。
📊 MILES試験におけるFEV1変化
| 群 | FEV1変化量 | 解釈 |
|---|---|---|
| シロリムス群 | 約 +1 mL/月 | 肺機能が概ね安定 |
| プラセボ群 | 約 −12 mL/月 | 肺機能が継続的に低下 |
MILES試験ではFVCやQOL指標でも改善が認められ、シロリムスがLAMの病勢を抑えることが示されました[7]。日本でもLAM治療薬として使用されています。
💡 シロリムスは「根絶する薬」ではない
シロリムスはLAM細胞を完全に除去する治療ではなく、増殖を抑制するcytostatic(静細胞性)な治療です。投与中止後には再び肺機能低下が進むことがあり、治療継続は効果と有害事象のバランスをみながら判断します。
シロリムスの安全管理
シロリムス治療中は、血中濃度、血算、肝腎機能、脂質、感染症、口内炎、肺障害などの有害事象を定期的に確認します。日本人を含む長期投与研究でも有効性と安全性が検討されています[11]。
合併症への治療
気胸:再発率が高いため、初回発症時から胸膜癒着術などの再発予防を検討することがあります[10]。
乳び胸水・乳び腹水:シロリムスで改善することがあり、侵襲的処置に進む前に治療を検討します。
腎AML:出血リスクや増大傾向に応じて、選択的動脈塞栓術、mTOR阻害薬、腎温存手術などを検討します[12]。
肺移植:進行した呼吸不全では肺移植が検討されます。肺移植後にドナー肺へLAMが再発することがある点は、LAMの転移性を示す重要な観察です。
現在推奨されない治療
⚠️ 原則として推奨されない治療
ドキシサイクリン、卵巣摘出術、プロゲステロン療法、GnRHアゴニストなどは、LAMの標準治療として有効性が確立していません。エストロゲンを含む避妊薬やホルモン補充療法は病勢に影響する可能性があるため、原則として避けることが推奨されます。
8. 長期予後と生活管理
LAMはかつて非常に予後不良の疾患として記載されることがありましたが、現在の長期コホートでは、以前考えられていたよりも長期生存が可能であることが示されています[17]。
📈 LAMの長期生存率の一例
| 経過年数 | 移植なし生存率 |
|---|---|
| 5年 | 約94% |
| 10年 | 約85% |
| 15年 | 約75% |
| 20年 | 約64% |
ただし、LAMは慢性的に進行し得る疾患であり、肺機能低下速度には大きな個人差があります。FEV1、DLCO、酸素化、運動耐容能、気胸の有無、腎AML、リンパ系合併症などを定期的に評価する必要があります。
航空機搭乗
LAM患者すべてに航空機搭乗を禁止するわけではありません。しかし気胸発症直後や未治癒の気胸がある場合には搭乗を避ける必要があります。妊娠中や重度肺機能障害がある場合は個別の評価が重要です。
骨密度
LAMでは骨減少症・骨粗鬆症の頻度が高いことが知られています。過去のホルモン操作療法、低体重、慢性呼吸器疾患、女性ホルモン環境など複数の要因が関与すると考えられます。必要に応じDXAによる骨密度評価、ビタミンD・カルシウム管理などを行います。
9. 妊娠・出生前診断・NIPT・PGT-M
LAMは妊娠可能年齢の女性に多いため、妊娠と出産は非常に重要なテーマです。妊娠中はエストロゲンやプロゲステロンが増加し、LAMの病勢が悪化することがあります[14]。
妊娠中には気胸、乳び胸水、呼吸機能低下、腎AMLの増大・出血などの合併症リスクが高まる可能性があります。一律に妊娠禁忌というわけではありませんが、妊娠前に肺機能や全身状態を評価し、呼吸器内科、産婦人科、遺伝診療が連携して管理することが重要です。
TSC-LAMでは次世代への遺伝リスクがある
TSC-LAMで生殖細胞系列のTSC1またはTSC2病的バリアントが確認されている場合、子どもには性別にかかわらず50%の確率でそのバリアントが受け継がれる可能性があります。
通常のNIPTではTSC1/TSC2は調べられない
一般的なNIPTは21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーなど染色体数の変化を主に対象としており、TSC1/TSC2のような単一遺伝子疾患の病的バリアントを通常のNIPTで直接診断するものではありません。
💡 単一遺伝子NIPTについて
単一遺伝子疾患を対象にしたNIPTもありますが、検査会社・プランによって対象遺伝子や解析仕様が異なります。TSC1/TSC2が現在の報告対象に含まれるか、既知の家族性バリアントを評価できるかは、検査時点で確認する必要があります。NIPTはスクリーニングであり、確定診断ではありません。
確定診断とPGT-M
家族内の病的バリアントが明らかな場合、出生前の確定診断として絨毛検査や羊水検査を用いて胎児の遺伝学的検査を行う選択肢があります。また、体外受精と組み合わせて、胚の段階で既知の家族性バリアントを調べるPGT-M(着床前遺伝学的検査)を検討することもあります。
これらの検査は医学的情報だけでなく、心理的・倫理的・経済的な問題にも関係します。遺伝カウンセリングでは、検査で分かること・分からないこと、検査精度、結果ごとの選択肢を整理し、ご本人・ご家族の価値観を尊重して意思決定を支援します。
10. 次世代治療と研究
シロリムスはLAM治療を大きく変えましたが、LAM細胞を根絶する治療ではありません。そのため、mTORC1以外の経路やシロリムスとの併用療法、新しいバイオマーカーの研究が続けられています。
オートファジー阻害
mTORC1を阻害すると、細胞は代償的にオートファジーを活性化する場合があります。この生存経路を同時に抑える目的で、シロリムスとヒドロキシクロロキンを併用する研究が行われました[18]。
ヒスタミン代謝とロラタジン
LAMでヒスタミン代謝が変化している可能性が報告され、ヒスタミン代謝物をバイオマーカーや治療標的として利用する研究も行われています[19]。
PDGF・Srcなどのシグナル標的
LAM細胞の増殖・生存・移動に関与するPDGF受容体経路、Srcファミリーキナーゼなども研究対象です。ただし、これらは標準治療として確立しているわけではなく、臨床試験や前臨床研究の段階にあるものが含まれます。
早期シロリムス治療
肺機能が比較的保たれた早期LAMに低用量シロリムスを導入することで、将来の肺機能低下を抑えられるかを検討する研究も進められています[15]。
11. よくある誤解
誤解①「LAMは必ず遺伝する」
いいえ。孤発性LAM(S-LAM)は通常は遺伝しません。遺伝性が問題になるのは、結節性硬化症に伴うTSC-LAMです。
誤解②「家族歴がなければTSC-LAMではない」
家族歴がなくても、本人で初めて生じたde novo変異によるTSCがあります。そのため家族歴だけで除外することはできません。
誤解③「診断には必ず肺生検が必要」
必ずしもそうではありません。特徴的なHRCT所見と血清VEGF-D 800 pg/mL以上などの所見を組み合わせることで、外科的肺生検を避けられる場合があります。
誤解④「シロリムスを飲めば治る」
シロリムスは非常に重要な治療薬ですが、LAM細胞を完全に根絶する薬ではありません。病勢を抑え、肺機能低下を遅らせることが治療の目的です。
まとめ ─ LAMは分子病態から治療へつながった代表的疾患
LAMは、TSC1/TSC2遺伝子の機能喪失、Rheb活性化、mTORC1の異常活性化という明確な分子機序をもつ腫瘍性疾患です。さらにエストロゲン、リンパ管新生、細胞外マトリックス分解などが病態を修飾し、肺嚢胞形成、気胸、腎血管筋脂肪腫、リンパ系病変などを引き起こします。
診断面ではHRCTと血清VEGF-Dの導入により、侵襲的な肺生検を回避できる患者が増えました。治療面では、mTORC1を標的とするシロリムスがMILES試験で肺機能低下を抑制することを示し、LAMは「治療法の乏しい進行性肺疾患」から、長期管理を目指せる疾患へ大きく変わりました。
一方、S-LAMとTSC-LAMでは家族への意味が異なります。TSC-LAMではTSC1/TSC2の生殖細胞系列変異が関与するため、本人の全身管理だけでなく、家族の遺伝リスク、妊娠、出生前診断、PGT-Mなども含めて考える必要があります。LAMは呼吸器学、腫瘍学、遺伝学、産婦人科学が交差する疾患であり、多職種による長期的な管理が重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. リンパ脈管筋腫症(LAM)は遺伝しますか?
タイプによります。孤発性LAM(S-LAM)は通常、LAM細胞内に後天的に生じたTSC遺伝子の体細胞変異が病態の中心であるため、一般に子どもへ遺伝する病気ではありません。一方、結節性硬化症に伴うTSC-LAMでは、TSC1またはTSC2の生殖細胞系列病的バリアントをもつため、子どもに50%の確率で受け継がれる可能性があります。
Q2. なぜLAMは女性に多いのですか?
LAM細胞がエストロゲン受容体・プロゲステロン受容体を発現し、女性ホルモンが増殖や生存、移動に関与すると考えられているためです。妊娠中に病勢が悪化することがあることも、ホルモン関与を支持しています。ただし、ヒトにおけるLAM細胞の起源やホルモン作用のすべてが確定しているわけではありません。
Q3. 手術をしなくてもLAMと診断できますか?
はい。特徴的なHRCT所見を有する患者で、血清VEGF-Dが800 pg/mL以上の場合など、臨床的な確証が得られれば外科的肺生検を避けられる場合があります。ただしVEGF-Dが低値でもLAMを除外することはできません。
Q4. シロリムスでLAMは治りますか?
シロリムスはLAM細胞を根絶する薬ではありませんが、mTORC1を阻害することで肺機能低下を抑え、病勢を安定化させることが証明されています。投与中止後には再び肺機能低下が進むことがあるため、治療継続は効果と有害事象を確認しながら個別に判断します。
Q5. LAMと診断されました。妊娠できますか?
妊娠は一律の禁忌ではありませんが、妊娠中に気胸、乳び胸水、肺機能低下、腎AMLの増大・出血などのリスクが高まる可能性があります。妊娠前に肺機能や全身状態を評価し、呼吸器内科・産婦人科・遺伝診療の連携のもとで個別に判断することが重要です。
Q6. 家族に結節性硬化症の患者がいなければTSC-LAMではありませんか?
いいえ。TSCでは本人で初めて生じたde novo変異がみられるため、家族歴がないだけではTSC-LAMを否定できません。皮膚、脳、腎臓などの全身評価と、必要に応じTSC1/TSC2遺伝学的検査を検討します。
Q7. TSC-LAMはNIPTで調べられますか?
一般的な染色体数を調べるNIPTでは、TSC1/TSC2のような単一遺伝子の病的バリアントは通常の対象ではありません。単一遺伝子疾患を対象にしたNIPTもありますが、対象遺伝子・解析仕様は検査ごとに異なります。NIPTはスクリーニングであり、確定診断には絨毛検査や羊水検査による遺伝学的検査が必要です。
Q8. LAMは医療費助成の対象ですか?
はい。LAMは日本の指定難病89です。所定の診断基準と重症度基準を満たした場合、指定難病の医療費助成制度の対象となります。実際の判定は呼吸機能、気胸、腎AML、リンパ系合併症などを含めて主治医が行います。
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参考文献
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