疾患に関係する遺伝子/染色体領域
疾患概要
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII(CPT2)欠損症の新生児致死型は、染色体1p32に位置するCPT2遺伝子のホモ接合体変異または複合ヘテロ接合体変異によって引き起こされます。このため、この疾患の記述には数字記号(#)が使用されています。CPT2遺伝子は、ミトコンドリアでの長鎖脂肪酸の酸化過程に不可欠な酵素、カルニチンパルミトイル基転移酵素IIのコーディングに関わっています。この酵素の活性不足は、脂肪酸のエネルギー変換過程を妨げ、体内に有害な代謝物質を蓄積させることで、さまざまな重篤な症状を引き起こします。
新生児致死型は、出生直後に重篤な症状を示し、急速に致死的になる可能性があります。具体的には、呼吸困難、痙攣、意識障害、肝腫大、心肥大、不整脈などが発生します。これらの症状は、新生児の生命を脅かす重大な合併症につながるため、迅速な診断と治療が必要とされます。
また、CPT2遺伝子の変異は乳児型(600649)および成人型(255110)のCPT2欠損症にも関与しています。乳児型では、生後数ヶ月から幼少期にかけて症状が発現し、成人型では運動誘発性の筋肉痛や横紋筋融解症が特徴的です。これらの型も同じ遺伝子変異に起因するものの、発現する症状や病態の重症度に違いがあります。
CPT2欠損症の診断には、遺伝子検査が重要な役割を果たし、特定の遺伝子変異を同定することで適切な治療戦略を立案できます。遺伝子検査による確定診断は、患者や家族へのカウンセリングや将来的な治療選択肢の検討にも役立ちます。
臨床的特徴
報告された患者は、生後数日以内に低体温、嗜眠、肝腫大、心肥大、低血糖といった症状を示し、迅速に病状が進行します。これらの症状に加えて、痙攣、筋緊張低下、反射亢進、心不整脈といった神経症状が現れることがあります。臨床検査では、血清と組織中の総カルニチンおよび遊離カルニチンの減少、長鎖アシルカルニチンの増加が認められ、CPT II活性は複数の組織と培養線維芽細胞で著しく低下しています。
死後検査では、肥大した心臓と肝臓、心臓、腎臓への脂質蓄積、脳内出血、脳内嚢胞、多発性嚢胞腎、骨格筋などへのびまん性脂質蓄積が確認されています。これらの所見は、CPT2遺伝子の変異による代謝異常が、さまざまな臓器に影響を及ぼし、致死的な結果を招くことを示しています。
CPT2遺伝子の変異分析は、この疾患の診断と理解に不可欠です。患者やその家族の遺伝子解析により、特定の変異を同定することができ、将来の家族計画や遺伝カウンセリングに有用な情報を提供します。CPT2欠損症の新生児致死型は、遺伝的検査による早期発見と、代謝危機の予防及び管理によって対処する必要がある重篤な疾患です。
頻度
新生児型は最も重症であり、生後数日から数週間で重篤な代謝異常、肝臓の障害、心筋症、多臓器不全などを呈し、しばしば致死的です。この型は少なくとも18家系で報告されています。
小児肝性筋型は、生後早期から幼少期にかけて発症することが多く、繰り返しの低血糖発作、肝不全、筋力低下、筋肉痛などを特徴とします。この型は約30家系で確認されています。
ミオパチー型はCPT II欠損症の中で最も頻度が高く、主に成人期に発症します。運動誘発性の筋肉痛、筋力低下、横紋筋融解症(筋肉組織の崩壊により筋肉成分が血液中に放出される状態)を引き起こすことが特徴で、300例以上が報告されています。
CPT II欠損症の治療は、症状の管理と代謝危機の予防に焦点を当てています。低脂肪高炭水化物食、中鎖脂肪酸(MCT)の補給、長時間の断食の避けることが一般的な管理方法です。特にミオパチー型では、運動前の炭水化物補給や過度の運動を避けることが推奨されます。重篤なケースでは、輸液治療や特定の状況下でのトリヘプタノイン酸などの特別な治療が行われることもあります。
CPT II欠損症の診断は、血液や筋組織中の酵素活性の測定、遺伝子検査によって確定されます。適切な治療と管理により、多くの患者は比較的健康な生活を送ることができます。
分子遺伝学
– Gelleraら(1992年)は、致死的新生児型CPT II欠損症の2兄妹で、CPT2遺伝子にヘテロ接合性の11-bp重複を同定しました。この発見は、罹患した兄妹にはさらに未同定の変異が存在する可能性を示唆しています。
– Elpelegら(2001年)は、胎生期型CPT II欠損症を持つアシュケナージ・ユダヤ人の兄弟において、CPT2遺伝子のエクソン4に2つの変異を同定しました。これらの変異は、疾患の重症度に関わらず、CPT II欠損症を持つすべてのアシュケナージ患者の遺伝子型の特定が重要であることを示しています。
– Vladutiuら(2002年)は、新生児型CPT II欠損症を持つアシュケナージ・ユダヤ系の男児において、CPT2遺伝子に2つの切断型変異を報告しました。この児は生後3日目に死亡し、CPT II活性は極めて低下していました。
これらの研究は、CPT II欠損症の遺伝子変異が多岐にわたること、そして特定の民族集団に特有の変異が存在することを明らかにしています。これらの知見は、CPT II欠損症の診断、治療戦略の策定、およびリスクが高い家族の遺伝カウンセリングにおいて極めて重要です。また、未同定の変異が存在する可能性を考慮に入れ、遺伝子解析を通じて新たな変異を特定することが、この疾患の理解を深め、より効果的な治療法の開発に繋がることを示唆しています。
疾患の別名
CARNITINE PALMITOYLTRANSFERASE II DEFICIENCY, ANTENATAL
CPT II DEFICIENCY, LETHAL NEONATAL
CPT2 DEFICIENCY, LETHAL NEONATAL
新生児カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII欠損症
カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII欠損症、妊産婦
新生児致死性カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼII欠損症
CPT2欠損症、致死性新生児